(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5654088
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】導電部材および導電部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20141218BHJP
H01M 2/30 20060101ALI20141218BHJP
H01M 2/20 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
C23C24/04
H01M2/30 B
H01M2/20 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-143031(P2013-143031)
(22)【出願日】2013年7月8日
【審査請求日】2013年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】山内 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】赤林 優
(72)【発明者】
【氏名】宮地 真也
【審査官】
宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/155379(WO,A1)
【文献】
特開2013−026031(JP,A)
【文献】
特開2012−059484(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/105362(WO,A1)
【文献】
特開2010−257695(JP,A)
【文献】
特開2009−004363(JP,A)
【文献】
特開2009−197294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00 − 30/00
H01M 2/20 − 2/34
H01M 4/00 − 4/84
H01M 10/00 − 10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビッカース硬度が100Hv以上の銅または銅合金からなる導電部材本体部と、
前記導電部材本体部の端面に形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる皮膜層と、
を備え、前記皮膜層は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末材料を該粉末材料の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、前記導電部材本体部の端面に固相状態のままで吹き付けて堆積させた導電部材であって、
前記皮膜層を形成した前記導電部材本体部を、孔部を有する固定台に載置し、前記孔部より前記皮膜層を露出させ、前記孔部より露出した前記皮膜層に接着剤によりアルミピンを接着し、前記アルミピンを鉛直方向下方から引っ張る簡易引張試験法により測定した前記導電部材本体部と前記皮膜層との間の密着強度は38MPa以上であることを特徴とする導電部材。
【請求項2】
前記導電部材本体部は矩形柱をなし、前記皮膜層は前記矩形柱の上底面のいずれか一方に形成され、電池用電極端子として用いられることを特徴とする請求項1に記載の導電部材。
【請求項3】
アルミニウム製ブスバーを介し、他の電池の正極端子と接続される電池用負極端子として用いられることを特徴とする請求項1に記載の導電部材。
【請求項4】
ビッカース硬度が100Hv以上の銅または銅合金からなる導電部材本体部の端面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末材料を、該粉末材料の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、前記導電部材本体部の端面に固相状態のままで吹き付けて堆積させて皮膜層を形成する工程を含むことを特徴とする導電部材の製造方法。
【請求項5】
前記皮膜層の形成後、前記導電性部材本体部のビッカース硬度を60〜80Hvとするアニール処理工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の導電部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電部材および導電部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は多様な用途の電源として使用され、自動車や電力貯蔵用電源等の大きな電力を要する用途において、ブスバー(バスバー)と呼ばれる導電部材により複数の電池を接続することにより、大型電源用の電力として使用されている。
【0003】
電気抵抗、および二次電池の電極端子との密着性の向上を目的として、アルミニウムと銅のクラッド材や、アルミニウムと銅の各材料をコールドスプレーにより接続したブスバーが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
複合材ブスバーは、電池の正極(アルミニウム)とアルミニウム端部、負極(銅)と銅端部とを、それぞれレーザー溶接等により接続するため密着性に優れるものであるが、正極と負極の接続条件が異なるため、工程数が多くなるという問題を有していた。
【0005】
かかる問題を解消する技術として、正極(アルミニウム)上に銅板をカシメ処理し、銅製ブスバーの各端部と、正極および負極との接続処理を同時に行なう方法も採用されている。しかしながら、銅板をカシメ処理した電極端子は接触抵抗が大きく、また銅製ブスバーを使用するため軽量化しにくいという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−144759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、アルミニウム製ブスバーにより二次電池を接続する際、正極および負極の接続処理を同時に行なうことが可能であって、電気抵抗および密着性にも優れる導電部材および導電部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる導電部材は、ビッカース硬度が100Hv以上の銅または銅合金からなる導電部材本体部と、前記導電部材本体部の端面に形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる皮膜層と、を備え、前記皮膜層は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末材料を該粉末材料の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、前記導電部材本体部の端面に固相状態のままで吹き付けて堆積させたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の導電部材は、上記発明において、電池用の負極端子として用いられることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の導電部材は、上記発明において、アルミニウム製ブスバーを介し、他の電池の正極端子と接続される電池用の負極端子として用いられることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の導電部材の製造方法は、ビッカース硬度が100Hv以上の銅からなる導電部材本体部の端面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末材料を、該粉末材料の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、前記導電部材本体部の端面に固相状態のままで吹き付けて堆積させて皮膜層を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の導電部材の製造方法は、上記発明において、前記皮膜層の形成後、前記導電部材本体部のビッカース硬度を60〜80Hvとするアニール処理工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる導電部材および導電部材の製造方法は、導電部材本体と皮膜層との間の密着強度を向上でき、また、電池の電極として使用した際、ブスバーとの密着性や電気抵抗に優れると共に、電池製造の際の工程を簡易化でき、また、電池の軽量化を図ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態にかかる導電部材の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態にかかる導電部材を使用した二次電池の概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態にかかる導電部材を使用した二次電池のアルミニウムブスバーを介した接続を説明する上面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態にかかる導電部材の製造に使用されるコールドスプレー装置の概要を示す模式図である。
【
図5】
図5は、簡易引張試験法による試験の模式図を示す。
【
図6】
図6は、簡易引張試験法による、銅板の硬度とアルミニウム皮膜層の密着強度との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0016】
まず、本発明の実施の形態にかかる導電部材の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる導電部材の構成を示す模式図である。
図2は、本発明の実施の形態にかかる導電部材を使用した二次電池の概略図である。
図3は、本発明の実施の形態にかかる導電部材を使用した二次電池のアルミニウムブスバーを介した接続を説明する上面図である。
【0017】
導電部材1は、ビッカース硬度が100(Hv)以上の銅または銅合金からなる導電部材本体部2と、導電部材本体部2の端面に後述するコールドスプレー法によって積層された、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる皮膜層3とからなる。
【0018】
導電部材本体部2は、導電部材1の電気抵抗を低くするために、純銅であることが好ましい。また、導電部材本体部2を形成する材料である銅または銅合金は、ビッカース硬度が100(Hv)以上である。ビッカース硬度が100(Hv)以上の銅または銅合金を使用することにより、導電部材本体部2と皮膜層3との密着性を向上することができる。
【0019】
導電部材本体部2で使用する材料としては、ビッカース硬度が100(Hv)以上となる銅または銅合金であればよく、例えば、調質記号が3/4H、Hの銅を使用することができる。また、導電部材本体部2の銅または銅合金の硬度が100より低い場合、銅メッキ処理やコールドスプレー法により銅皮膜を形成することにより、表面の銅の硬度を上げることも可能である。本実施の形態では、導電部材1は矩形柱状をなしているが、これに限定するものではない。
【0020】
皮膜層3は、矩形柱状の導電部材本体部2の端面(上底面のいずれか一方)に形成される、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる皮膜である。皮膜層3は、後述するコールドスプレー法により形成される。一般に、金属または合金から形成された基材上(本実施の形態では導電部材本体部)にコールドスプレー法により皮膜層3を形成する場合、基材に皮膜となる材料粉末が高速で衝突することで、材料粉末と基材との間に塑性変形が生じ、アンカー効果と金属結合によって、皮膜と基材との結合が得られるとされる。したがって、基材の硬度が小さい材料のほうが硬い材料より塑性変形が生じやすいため、基材と皮膜との界面の密着強度を向上することが、本発明者らにより確認されている(特開2012−219304号公報)。しかしながら、本発明者らは、コールドプスレー材料の材料としてアルミニウムまたはアルミニウム合金等を使用し、銅または銅合金からなる基材にコールドスプレーした場合、基材である銅または銅合金の硬度が大きいほうが基材(銅)と皮膜(アルミニウム)との界面の密着強度が向上することを見出した。これは、硬度が大きい材料を基材に使用した場合、アルミニウムまたはアルミニウム合金表面に形成される酸化膜が、噴射衝突時に除去され、基材の材料である銅または銅合金と金属結合を生じやすいためと推測される。
【0021】
本実施の形態にかかる導電部材1は、
図2に示すように、二次電池10の負極端子として使用することができる。
図2に示す二次電池10は、外装容器6内に非水電解水が液密に充填され、正極板および負極板の間にセパレータを介在させた状態で捲回構造をなす。
【0022】
負極端子として使用する導電部材1は、皮膜層3側が外装容器6の外部に突出するように取り付けられ、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる正極端子4も、導電部材1と同様に、一端部が外装容器6の外部に突出するように取り付けられる。導電部材1および正極端子4と、外装容器6との間には、それぞれ絶縁体5が配設される。導電部材1は負極板と、正極端子4は正極板とそれぞれ接続される。各端子と電極板との接続は、かしめ、または溶接等により行なわれるが、かしめにより接続する場合は、導電部材1をアニール処理することが好ましい。本実施の形態にかかる導電部材本体部2は、硬度が大きい銅材料(100Hv以上)を使用するため、200〜400℃、真空条件下でアニール処理し、硬度を60〜80Hv程度まで低くすることにより、かしめ処理を容易に行なうことができる。
【0023】
本実施の形態にかかる二次電池を接続して大電源用の電力として使用する場合、
図3に示すように、負極端子として使用する導電部材1は、アルミニウム製ブスバー11を介して、他の二次電池10の正極端子4と接続される。アルミニウム製ブスバー11の端部と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる皮膜層3を有する導電部材1の接続と、アルミニウム製ブスバー11の他端と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる正極端子4との接続は、同一条件、例えば、同一のアルミニウム接続用のレーザー溶接等により接続することができる。したがって、同一の接続材料を使用し、同時に接続することが可能となる。また、アルミニウム製ブスバー11を使用するため、銅製ブスバーを使用する場合より大幅に電池の総重量を低減することができる。更に、本実施の形態にかかる導電部材1は、コールドスプレーにより皮膜層3を形成するため、アルミニウム製の導電部材に銅板をカシメ処理した正極端子に比べ、導電部材本体部2と皮膜層3との界面抵抗を大幅に低減することができるという効果も有する。
【0024】
つづいて、導電部材本体部2の端面への皮膜層3の形成について、
図4を参照して説明する。
図4は、皮膜層3の形成に使用されるコールドスプレー装置20の概要を示す模式図である。
【0025】
コールドスプレー装置20は、圧縮ガスを加熱するガス加熱器21と、基材である導電部材本体部2に噴射する粉末材料を収容し、スプレーガン22に供給する粉末供給装置23と、スプレーガン22で加熱された圧縮ガスと混合された材料粉末を基材に噴射するガスノズル24とを備えている。
【0026】
圧縮ガスとしては、ヘリウム、窒素、空気などが使用される。供給された圧縮ガスは、バルブ25および26により、ガス加熱器21と粉末供給装置23にそれぞれ供給される。ガス加熱器21に供給された圧縮ガスは、例えば50℃以上であって、皮膜層3の材料粉末であるアルミニウムまたはアルミニウム合金の融点以下の温度に加熱された後、スプレーガン22に供給される。圧縮ガスの加熱温度は、好ましくは150〜350℃である。
【0027】
粉末供給装置23に供給された圧縮ガスは、粉末供給装置23内の、例えば、粒径が10〜100μm程度の、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる材料粉末をスプレーガン22に所定の吐出量となるように供給する。加熱された圧縮ガスは先細末広形状をなすガスノズル24により超音速流(約340m/s以上)にされる。また、圧縮ガスのガス圧力は、1〜5MPa程度とすることが好ましい。圧縮ガスの圧力を1〜5MPa程度とすることにより、導電部材本体部2と皮膜層3との間の密着強度の向上を図ることができる。2〜4MPa程度の圧力で処理することが好ましい。スプレーガン22に供給された粉末材料は、この圧縮ガスの超音速流の中への投入により加速され、固相状態のまま基材に高速で衝突して皮膜を形成する。なお、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる材料粉末を導電部材本体部2に固相状態で衝突させて皮膜層3を形成できる装置であれば、
図4のコールドスプレー装置20に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
硬さの異なる銅板7(C1020、50×50×3mm)に、コールドスプレー装置20により、圧縮ガス:窒素、圧縮ガス温度:250℃、ガス圧力:5MPaで、アルミニウム粒子(A1050、粒径30μm)を吹付けて、アルミニウム皮膜8を700μmの厚さで積層してテストピース9を作製した。
【0029】
上記のようにして作製したテストピース9について、銅板7とアルミニウム皮膜8との間の密着強度を引張強度試験法により評価した。
図5は、本実施例で適用した簡易引張試験法による試験の模式図を示す。この方法では、銅板7上に形成したアルミニウム皮膜8に接着剤33を介してアルミピン32を接着し、固定台31の孔部31aに、接着剤33を介してアルミニウム皮膜8に接着したアルミピン32を上方から挿通した後、アルミピン32を下方に引っ張ることにより、銅板7とアルミニウム皮膜8との間の密着強度を評価した。評価は、接着が剥離した時点での引張応力と剥離状態により行なった。下表1に、銅板7の調質の相違によるビッカース硬度(Hv)と引張試験の評価結果を示す。また、
図6に、銅板の硬度とアルミニウム皮膜の密着強度との関係を示す。なお、銅板7のビッカース硬度は、フューチャーテック社製、FM−ARS6000により測定した。
【0030】
【表1】
【0031】
表1および
図6に示すように、基材である銅板7の硬度が高いほど、銅板7とアルミニウム皮膜8との界面の密着強度が高くなることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明にかかる導電部材、および導電部材の製造方法は、大電源用の電池の端子として有用である。
【符号の説明】
【0033】
1 導電部材
2 導電部材本体部
3 皮膜層
4 正極端子
5 絶縁体
6 外装容器
7 銅板
8 アルミニウム皮膜
9 テストピース
10 二次電池
11 アルミニウムブスバー
20 コールドスプレー装置
21 ガス加熱器
22 スプレーガン
23 粉末供給装置
24 ガスノズル
30 引張試験装置
31 固定台
31a 孔部
32 アルミピン
33 接着剤
【要約】
【課題】電気抵抗および密着性に優れる導電部材および導電部材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の導電部材1は、ビッカース硬度が100以上の銅または銅合金からなる導電部材本体部2と、導電部材本体部2の端面に形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる皮膜層3と、を備え、皮膜層3は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末材料を該粉末材料の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、導電部材本体部2の端面に固相状態のままで吹き付けて堆積させたことを特徴とする。
【選択図】
図1