(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5654089
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20141218BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20141218BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20141218BHJP
H01M 2/20 20060101ALI20141218BHJP
H01M 2/30 20060101ALI20141218BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20141218BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
C23C24/04
B32B15/01 G
B32B9/00 A
H01M2/20 A
H01M2/30 B
H01B5/02 A
H01B13/00 501Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-143032(P2013-143032)
(22)【出願日】2013年7月8日
【審査請求日】2013年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】山内 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】赤林 優
(72)【発明者】
【氏名】宮地 真也
【審査官】
宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−004363(JP,A)
【文献】
特開2013−026031(JP,A)
【文献】
特開2012−059484(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/105362(WO,A1)
【文献】
特開2010−257695(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/155379(WO,A1)
【文献】
特開2009−197294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00 − 30/00
B32B 1/00 − 43/00
H01B 5/00 − 5/16
H01B 13/00
H01M 2/20 − 2/34
H01M 4/00 − 4/84
H01M 10/00 − 10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属または合金からなる基材と、
前記基材表面に形成されたニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層と、
前記中間層の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末材料を、該粉末材料の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、前記中間層に固相状態のままで吹き付けて堆積させた金属皮膜と、
を備え、前記中間層および前記金属皮膜を形成した前記基材を、孔部を有する固定台に載置し、前記孔部より前記金属皮膜を露出させ、前記孔部より露出した前記金属皮膜に接着剤によりアルミピンを接着し、前記アルミピンを鉛直方向下方から引っ張る簡易引張試験法により測定した前記中間層と前記金属皮膜との間の密着強度は20MPa以上であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記中間層は、ビッカース硬度が100Hv以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記中間層は、無電解ニッケルメッキ層であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一つに記載の積層体。
【請求項4】
前記基材は銅からなる柱状をなし、前記金属皮膜は前記柱の端部に形成され、電池用負極端子として用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の積層体。
【請求項5】
アルミニウム製ブスバーを介し他の電池の正極端子と接続される電池用負極端子として用いられることを特徴とする請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
金属または合金からなる基材の端面にニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末材料を、該粉末材料の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、前記中間層を介して前記基材に固相状態のままで吹き付けて堆積させて金属皮膜を形成する金属皮膜形成工程と、
を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体および積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、溶射法の1種として、材料粉末を高温、高速にして基材に吹き付けることにより、該材料粉末を基材に堆積・コーティングするコールドスプレー方法が注目されている。コールドスプレー方法では、材料粉末の融点または軟化点以下に加熱した不活性ガスとともに先細末広(ラバル)ノズルから噴射して、皮膜となる材料を固相状態のまま基材に衝突させることによって基材の表面に皮膜を形成させるため、相変態がなく酸化も抑制された金属皮膜を得ることができる。
【0003】
コールドスプレー方法に関する技術として、基材の温度を所定温度に温度制御した後、材料粉末を噴射する技術や(例えば、特許文献1参照)、基材および/または不活性ガスの温度を制御して金属皮膜を形成する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、ステンレスを基材とし、該ステンレス基材を所定の温度範囲に制御した後、コールドスプレー法により金属皮膜を形成することにより、ステンレス基材と皮膜との密着強度が向上することが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
さらに、基材表面に、基材より軟らかい金属または合金からなる中間層を形成し、前記中間層の表面に、コールドスプレー方法により金属皮膜を形成する技術も開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−302317号公報
【特許文献2】特開2008−127676号公報
【特許文献3】特開2012−187481号公報
【特許文献4】特開2012−219304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2では、材料粉末としてアルミニウムが例示されるものの、実際にアルミニウムを使用して皮膜を形成した例や中間層についての記載はなく、アルミニウム皮膜を形成する際の基材(中間層)の種類や硬度と、基材と皮膜と密着性の関係については記載も示唆もされていない。
【0008】
また、特許文献3では、中間層についての記載はなく、アルミニウム皮膜を形成する際の基材(中間層)の種類や硬度と、基材と皮膜と密着性の関係については記載も示唆もされていない。
【0009】
さらに、特許文献4によれば、コールドスプレー法により皮膜を形成する際、基材が軟らかい方がアンカー効果により基材と皮膜との密着性が向上するとされるが、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末を使用して金属皮膜を形成する際、基材の硬度が小さい場合であっても十分な密着性を有する皮膜が得られないことがあった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、基材に対し、コールドスプレー方法によりアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる皮膜を形成する際に、基材と皮膜との密着性が高い積層体および該積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる積層体は、金属または合金からなる基材と、前記基材表面に形成されたニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層と、前記中間層の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末材料を、該粉末材料の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、前記中間層に固相状態のままで吹き付けて堆積させた金属皮膜と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の積層体は、上記発明において、前記中間層は、ビッカース硬度が100Hv以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の積層体は、上記発明において、前記中間層は、無電解ニッケルメッキ層であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の積層体は、上記発明において、前記基材は銅からなり、電池用負極端子として用いられることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の積層体は、上記発明において、アルミニウム製ブスバーを介し他の電池の正極端子と接続される電池用負極端子として用いられることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の積層体の製造方法は、金属または合金からなる基材の端面にニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末材料を、該粉末材料の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、前記中間層を介した前記基材に固相状態のままで吹き付けて堆積させて金属皮膜を形成する金属皮膜形成工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる積層体および積層体の製造方法は、金属または合金からなる基材上にニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層を備えるため、該中間層を介し基材上にコールドスプレー法により積層されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる皮膜と基材との界面の密着強度が高い積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態にかかる積層体の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態にかかる積層体を使用した二次電池の概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態にかかる積層体を使用した二次電池のアルミニウムブスバーを介した接続を説明する上面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態にかかる積層体の製造に使用されるコールドスプレー装置の概要を示す模式図である。
【
図5】
図5は、簡易引張試験法による試験の模式図を示す。
【
図6】
図6は、簡易引張試験法による、基材または中間層としてのニッケルの硬度とアルミニウム皮膜層の密着強度との関係を表す図である。
【
図7】
図7は、簡易引張試験法による、種々の基材に無電解(または電解)ニッケルメッキを中間層として形成したテストピースにおけるアルミニウム皮膜層の密着強度を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0020】
まず、本発明の実施の形態にかかる積層体の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる積層体の構成を示概略図である。
図2は、本発明の実施の形態にかかる積層体を使用した二次電池の概略図である。
図3は、本発明の実施の形態にかかる積層体を使用した二次電池のアルミニウムブスバーを介した接続を説明する上面図である。
【0021】
積層体1は、金属または合金からなる基材2と、基材2の表面に形成したニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層3と、中間層3を介して後述するコールドスプレー法によって積層されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属皮膜4とからなる。積層体1は、
図2に示す二次電池の電極端子として使用する場合、
図1のような矩形柱状をなすことが好ましいが、これに限定されるものではなく、円柱状、多角柱状等、であってもよい。
【0022】
本実施の形態において、中間層3は、ニッケルまたはニッケルを含む合金である。中間層3として使用できるニッケル合金としては、モネル、ハステロイ、ニクロム、インコネル(600、625、718、X750等)、コンスタンタン、ジュラニッケル、パーマロイ、コバール、アルメル、クロメル、インバー、エリンバー等のほか、ニッケルを含有するステンレス(301、303、304、305、309S、310S、312L、315J1、316、317、321、329J、630、836L、890L等)が例示される。
【0023】
一般に、コールドスプレー法により皮膜を形成する際、基材が軟らかい方がアンカー効果により基材と皮膜との密着性が向上することが知られているが、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末を使用して金属皮膜を形成する際、基材の硬度が小さい場合であっても十分な密着性を有する皮膜が得られないことがあった。
【0024】
アンカー効果が得られるにもかかわらず、基材とアルミニウム皮膜との密着性が低い原因としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金粉末の表面の酸化被膜の存在により、基材と金属皮膜との金属結合が阻害されるためと考えられる。
【0025】
本発明者らは、基材2の表面に、硬度が大きく、かつ、ニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層3を形成することにより、中間層3を介して基材2と金属皮膜4との界面の密着強度を向上できることを見出した。基材2表面への中間層3の形成による、金属皮膜4の密着性向上のメカニズムであるが、ニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層3の表面に、コールドスプレー法によりアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる粉末材料を噴射した場合、硬度の大きい中間層3への衝突により、アルミニウムまたはアルミニウム合金粉末表面の酸化被膜が剥離され、新生面が生じやすくなるとともに、ニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層3の存在により、酸化被膜が除去されたアルミニウム等との金属結合が形成しやすくなるためと推測される。
【0026】
基材2と金属皮膜4との界面の密着強度を向上するためには、中間層3として使用するニッケルまたはニッケルを含む合金のビッカース硬度は、100Hv以上であることがさらに好ましい。中間層3として使用するニッケルまたはニッケルを含む合金のビッカース硬度が100Hv以上である場合、アルミニウムまたはアルミニウム合金粉末が中間層3に衝突した際に、酸化被膜の剥離の割合がさらに大きくなるためと推測される。
【0027】
基材2表面に中間層3を形成する方法としては、メッキ、スパッター、真空蒸着、コールドスプレー法等が例示されるが、低コスト、かつ高硬度の中間層3を形成できる、無電解ニッケルメッキにより中間層3を形成することが好ましい。
【0028】
中間層3の厚さは、1μm以上であることが好ましい。1μm未満では、アルミニウムまたはアルミニウム合金粉末の表面の酸化被膜の除去が十分でなく、金属結合の形成も期待できないためである。また、中間層3の厚みの上限は特に制限されるものではないが、生産性等の観点から、中間層3を形成する方法等に応じて適宜選択すればよい。例えば、メッキ、スパッター、真空蒸着等により中間層3を形成する場合は、100μm以下とすることが好ましく、コールドスプレー法により行なう場合は、装置の機能により異なるものであるが、5mm以下とすることが好ましい。
【0029】
本実施の形態において、基材2は、金属又は合金からなり、材料は限定されるものではない。基材2の材質が、ビッカース硬度が100Hv未満である金属または合金である場合、ニッケルまたはニッケル合金からなる中間層3を形成することにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属皮膜4の密着性を向上できるので好ましい。
【0030】
また、基材2の材質が空気中で酸化被膜が形成される金属またはその合金である場合、ニッケルまたはニッケル合金からなる中間層3を形成することにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属皮膜4の密着性を向上することができる。空気中で酸化被膜が形成される金属としては、例えば、チタン、タングステン、クロム等が挙げられる。
【0031】
また、基材2の材料として銅または銅合金を選択した場合、本実施の形態にかかる積層体1は、イオン化傾向が、金属皮膜4の材料であるアルミニウムと、基材2の材料である銅との間の値であるニッケルまたはニッケルを含む合金を中間層3として使用するため、標準電極電位差を小さくして、電気化学的反応の発生を抑制することができるという効果も奏する。
【0032】
本実施の形態にかかる積層体1は、基材2の材料として銅を使用した場合、
図2に示す、二次電池10の負極端子として使用することができる。
図2に示す二次電池10は、外装容器7内に非水電解水が液密に充填され、正極板および負極板の間にセパレータを介在させた状態で捲回構造をなす。
【0033】
負極端子として使用する積層体1は、金属皮膜4側が外装容器7の外部に突出するように取り付けられる。正極端子5は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、積層体1と同様に、一端部が外装容器7の外部に突出するように取り付けられる。積層体1および正極端子5と、外装容器7との間には、それぞれ絶縁体6が配設される。積層体1は負極板と、正極端子5は正極板と、それぞれ、かしめ、または溶接等により接続される。
【0034】
二次電池10が、自動車や電力貯蔵用電源等の大きな電力を要する用途において使用される場合、ブスバー(バスバー)と呼ばれる導電部材により複数の二次電池10を接続して使用される。二次電池10を接続して大電源用の電力として使用する場合、
図3に示すように、負極端子として使用する積層体1は、アルミニウム製ブスバー11を介して、他の二次電池10の正極端子5と接続される。アルミニウム製ブスバー11の端部と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属皮膜4を有する積層体1の接続と、アルミニウムブスバー11の他端と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる正極端子5との接続は、同一条件、例えば、アルミニウム接続用のハンダ等により接続することが可能となる。したがって、本実施の形態に係る積層体1を負極端子として使用した場合、同一の接続材料を使用し、同時に接続することができる。また、複数の二次電池10をアルミニウム製ブスバー11で接続してなる大電源用の電池は、電池の総重量を大幅に低減することができる。さらに、本実施の形態にかかる積層体1は、コールドスプレーにより金属皮膜4を形成するため、基材2と金属皮膜4との界面抵抗を大幅に低減することができる。
【0035】
つづいて、本実施の形態にかかる積層体1の製造について説明する。積層体1は、金属または合金からなる基材2の端面に、ニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層3を形成した後、中間層3の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末材料を、該粉末材料の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、中間層3を介して基材2に固相状態のままで吹き付けて堆積させて金属皮膜4を形成することにより製造することができる。
【0036】
中間層3は、基材2の表面に、ニッケルまたはニッケル合金を、メッキ、スパッター、真空蒸着、コールドスプレー法等により積層させて形成する。無電解ニッケルメッキにより、低コスト、かつ高硬度の中間層3を形成できる。
【0037】
中間層3が積層された基材2の端面への金属皮膜4の形成は、コールドスプレー法により行なう。金属皮膜4に形成について、
図4を参照して説明する。
図4は、金属皮膜4の形成に使用されるコールドスプレー装置20の概要を示す模式図である。
【0038】
コールドスプレー装置20は、圧縮ガスを加熱するガス加熱器21と、基材2に噴射する材料粉末を収容し、スプレーガン22に供給する粉末供給装置23と、スプレーガン22で加熱された圧縮ガスと混合された材料分圧を基材2に噴射するガスノズル24とを備えている。
【0039】
圧縮ガスとしては、ヘリウム、窒素、空気などが使用される。供給された圧縮ガスは、バルブ25および26により、ガス加熱器21と粉末供給装置23にそれぞれ供給される。ガス加熱器21に供給された圧縮ガスは、例えば50℃以上であって、金属皮膜層4の材料粉末であるアルミニウムまたはアルミニウム合金の融点以下の温度に加熱された後、スプレーガン22に供給される。圧縮ガスの加熱温度は、好ましくは150〜350℃である。
【0040】
粉末供給装置23に供給された圧縮ガスは、粉末供給装置23内の、例えば、粒径が10〜100μm程度の、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる材料粉末をスプレーガン22に所定の吐出量となるように供給する。加熱された圧縮ガスは先細末広形状をなすガスノズル24により超音速流(約340m/s以上)にされる。また、圧縮ガスのガス圧力は、1〜5MPa程度とすることが好ましい。圧縮ガスの圧力を1〜5MPa程度とすることにより、基材2と金属皮膜4との間の密着強度の向上を図ることができる。2〜4MPa程度の圧力で処理することが好ましい。スプレーガン22に供給された材料粉末は、この圧縮ガスの超音速流の中への投入により加速され、固相状態のまま中間層3を有する基材2に高速で衝突して金属皮膜を形成する。なお、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる材料粉末を基材2に固相状態で衝突させて金属皮膜4を形成できる装置であれば、
図4のコールドスプレー装置20に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(実験例1)
種々の材料からなる基材12(50×50×3mm、基材種類:Inconel600、SUS430、SUS304、タングステン、チタン、ニッケルバルク、C1020)に、コールドスプレー装置20により、圧縮ガス:窒素、圧縮ガス温度:250℃、ガス圧力:5MPaで、アルミニウム粒子(A1050、粒径30μm)を吹付けて、アルミニウム皮膜13を700μmの厚さで積層してテストピース14を作製した。
【0042】
上記のようにして作製したテストピース14について、基材12とアルミニウム皮膜13との間の密着強度を引張強度試験法により評価した。
図5は、本実施例で適用した簡易引張試験法による試験の模式図を示す。この方法では、基材12上に形成したアルミニウム皮膜13に接着剤33を介してアルミピン32を接着し、固定台31の孔部31aに、接着剤33を介してアルミニウム皮膜13に接着したアルミピン32を上方から挿通した後、アルミピン32を下方に引っ張ることにより、基材12とアルミニウム皮膜13との間の密着強度を評価した。評価は、接着が剥離した時点での引張応力と剥離状態により行なった。下表1に、基材12の相違によるビッカース硬度(Hv)と引張試験の評価結果を示す。なお、基材12のビッカース硬度は、フューチャーテック社製、FM−ARS6000により測定した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、基材12として、ニッケルまたはニッケルを含む合金である、ニッケルバルク、Inconel600、およびSUS304を選択した場合、アルミニウム皮膜13との界面の密着強度が高いことが確認された。SUS430は、Inconel600と同程度の硬度を有するが、密着強度が低いことがわかった。これは、SUS430がニッケルを含有しないためと推測される。この結果により、ニッケルまたはニッケルを含む合金と、アルミニウムとが、良好な密着強度が得られやすいことがわかる。また、タングステンおよびチタンは、硬度が大きいにもかかわらず、基材12とアルミニウム皮膜13との界面の密着強度が小さいことが確認された。これは、タングステンおよびチタン表面の酸化被膜により、アルミニウムとの金属結合が形成されにくいためと考えられる。
【0045】
(実験例2)
C1020(硬度:70Hv)からなる基材12(50×50×3mm)の表面に、2μmの厚さの電解ニッケルメッキまたは無電解ニッケルメッキの中間層を形成し、中間層の表面に、コールドスプレー装置20により、圧縮ガス:窒素、圧縮ガス温度:250℃、ガス圧力:5MPaで、アルミニウム粒子(A1050、粒径30μm)を吹付けて、アルミニウム皮膜13を700μmの厚さで積層してテストピースを作製した。
【0046】
上記のようにして作製したテストピースについて、実験例1と同様にして、
図5に示す簡易引張試験法により、中間層を形成した場合の基材12とアルミニウム皮膜13との界面の密着強度を評価した。下表2に、基材12または中間層としてのニッケルの硬度の相違による引張試験の評価結果を示す。また、
図6に、基材または中間層としてのニッケルの硬度とアルミニウム皮膜層の密着強度との関係を示す。
図6では、▲がニッケルバルク、●が電解ニッケルメッキ、◆が無電解ニッケルメッキのテストピースである。なお、中間層のビッカース硬度は、基材12表面に5μmの厚さの中間層を形成した場合の硬度であり、フューチャーテック社製、FM-ARS6000により測定した。
【0047】
【表2】
【0048】
表2および
図6に示すように、基材12または中間層の硬度が高いほど、基材12とアルミニウム皮膜13との界面の密着強度を向上できることが確認された。
【0049】
(実験例3)
基材12(50×50×3mm)として、C1020(硬度:74.7Hv)、SUS430(硬度:145.5Hv)、Inconel600(硬度:144.3Hv)を選択し、各種基材12の表面に、2μmの厚さの電解ニッケルメッキまたは無電解ニッケルメッキの中間層を形成し、中間層の表面に、コールドスプレー装置20により、圧縮ガス:窒素、圧縮ガス温度:250℃、ガス圧力:5MPaで、アルミニウム粒子(A1050、粒径30μm)を吹付けて、アルミニウム皮膜13を700μmの厚さで積層してテストピースを作製した。
【0050】
上記のようにして作製したテストピースについて、実験例1と同様にして、
図5に示す簡易引張試験法により、基材12とアルミニウム皮膜13との界面の密着強度を評価した。
図7は、種々の基材に無電解(または電解)ニッケルメッキを中間層として形成したテストピースにおけるアルミニウム皮膜層の密着強度を表す図である。なお、中間層のビッカース硬度は、基材12表面に5μmの厚さの中間層を形成した場合の硬度であり、フューチャーテック社製、FM-ARS6000により測定した。
【0051】
図7に示すように、C1020(硬度:74.7Hv)、SUS430(硬度:145.5Hv)、Inconel600(硬度:144.3Hv)からなる基材12に、2μmの無電解ニッケルメッキの中間層を形成して、コールドスプレー法によりアルミニウム皮膜13を積層した各テストピースにおいて、基材12の硬度にかかわらず、基材12とアルミニウム皮膜13との界面の密着強度は同程度になることが確認された。SUS430は、コールドスプレー法により直接アルミニウム皮膜13を形成した場合の密着強度が非常に小さいが(実験例1参照)、無電解ニッケルメッキの中間層を形成するだけで、密着強度を大幅に向上することができる。また、酸化被膜を有するためアルミニウム皮膜の密着強度が小さいチタンやタングステン等の基材表面に、無電解ニッケルメッキ等により硬度の高いニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層を形成し、さらに中間層を介してコールドスプレー法によりアルミニウム皮膜を積層した場合にも、密着強度を大幅に向上することができるものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明にかかる積層体、および該積層体の製造方法は、金属または合金からなる基材に、コールドスプレー方法によりアルミニウム皮膜を積層する場合に有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 積層体
2、12 基材
3 中間層
4、13 金属皮膜
5 正極端子
6 絶縁体
7 外装容器
10 二次電池
11 アルミニウムブスバー
14 テストピース
20 コールドスプレー装置
21 ガス加熱器
22 スプレーガン
23 粉末供給装置
24 ガスノズル
30 引張試験装置
31 固定台
31a 孔部
32 アルミピン
33 接着剤
【要約】
【課題】コールドスプレー法を用いて基材にアルミニウムからなる金属皮膜を形成させた積層体を製造する場合に、基材と金属皮膜との間の密着強度が高い積層体および積層体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の積層体1は、金属または合金からなる基材2と、基材2表面に形成されたニッケルまたはニッケルを含む合金からなる中間層3と、中間層3の表面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉末材料を、該粉末材料の融点より低い温度に加熱されたガスと共に加速し、中間層3に固相状態のままで吹き付けて堆積させた金属皮膜4と、を備える。
【選択図】
図1