特許第5654150号(P5654150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5654150
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】音響機器用機能性材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/32 20060101AFI20141218BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20141218BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20141218BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   C08J9/32CFB
   H04R1/02 101A
   H04R1/00 318A
   F16F15/02 Q
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-34955(P2014-34955)
(22)【出願日】2014年2月26日
【審査請求日】2014年5月27日
(31)【優先権主張番号】61938866
(32)【優先日】2014年2月12日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(74)【代理人】
【識別番号】100188640
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 圭次
(72)【発明者】
【氏名】小林 満
【審査官】 千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−194864(JP,A)
【文献】 特開平10−030288(JP,A)
【文献】 特開2001−098102(JP,A)
【文献】 特開昭60−042430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/32
F16F 15/02
H04R 1/00
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール系樹脂と充填材とからなる樹脂組成物を成型してなる音響機器用機能性材料において、成型された材料の比重が1.5〜5.0、気孔率が2〜20%、平均気孔径が0.1〜3.0μmであることを特徴とする音響機器用機能性材料。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、フェノール系樹脂を樹脂組成物全量に対し5〜25重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の音響機器用機能性材料。
【請求項3】
前記樹脂組成物が充填材の一部に多孔質充填材を樹脂組成物全量に対し10〜35重量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の音響機器用機能性材料。
【請求項4】
前記多孔質充填材がマイクロポーラス構造を有する多孔質充填材であることを特徴とする請求項3に記載の音響機器用機能性材料。
【請求項5】
前記マイクロポーラス構造を有する多孔質充填材がゼオライト、活性炭、ポーラスシリカ、ポーラスアルミナから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項4に記載の音響機器用機能性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響機器に用いられる機能性材料として好適な、樹脂組成物を成型してなる音響機器用機能性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
音響機器用の材料として、外部からの不要な振動を吸収するため木材のように内部損失が大きく、且つ、外部からの振動に対する自身の不要な共振を避け、必要とされる振動を減衰させないようにするため剛性が大きく、比重が大きい材料が理想とされている。
【0003】
このような材料として、熱硬化性樹脂と無機充填材等から成る摩擦材組成物を成型した材料が発明されている。
【0004】
特許文献1には、熱硬化性樹脂、無機質充填材を含有する音響機器用材成型用樹脂組成物において、無機質充填材の全部またはその一部が、沈降法にて測定した粒度が1〜20ミクロンの針状であることを特徴とする音響機器用材成型用樹脂組成物が記載されている。
【0005】
特許文献2には、フェノール系樹脂に、粒度250〜10μmの重質炭酸カルシウム60〜90重量%と粒度8〜0.1μmの無機質粉末10〜40重量%とからなる充填材を、全配合量の35〜80重量%の割合に添加配合し、混合混練粉砕したことを特徴とする音響用熱硬化性樹脂成型材料が記載されている。
【0006】
特許文献3には、熱硬化性樹脂、硬化剤、無機質充填材、繊維質補強材を含む樹脂組成物において、繊維質補強材として芳香族ポリアミド繊維を使用することを特徴とする音響機器用構造材料成型用樹脂組成物が記載されている。
【0007】
特許文献4には、熱硬化性樹脂、無機質充填材を含有する音響機器用材成型用樹脂組成物において、無機質充填材の全部又はその一部が非晶質の無機微小短繊維であることを特徴とする音響機器用材成型用樹脂組成物が記載されている。
【0008】
特許文献5には、熱硬化性樹脂、無機質充填材を含有してなる音響機器用材成型用樹脂組成物において、さらに反応性液状ゴムを配合することを特徴とする音響機器用材成型用樹脂組成物が記載されている。
【0009】
これらの材料は内部損失が木材と同等であり、且つ、剛性と比重が大きいという特性を有し、良好な音響特性を具備することを目的としたものであるが、さらなる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭58−53952号公報
【特許文献2】特開昭58−89644号公報
【特許文献3】特開昭58−104949号公報
【特許文献4】特開昭58−215433号公報
【特許文献5】特開昭59−30858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
熱硬化性樹脂と充填材とからなる樹脂組成物を成型し硬化してなる音響機器用機能性材料において、不快な低周波振動がなく、心地よい自然な響き、低音及び高音域の伸び、音の奥行感といった好ましい音響性能が、従来の材料よりもさらに優れた音響機器用機能性材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
熱硬化性樹脂と無機充填材等から成る樹脂組成物を成型した材料の内部には、連通した微細な気孔が無数に存在する。
【0013】
発明者等は、この気孔に包含される空気の粘性抵抗により、必要とされる振動まで減衰されてしまっているものと推定し鋭意検討を行ったところ、成型した材料の気孔率と平均気孔径を特定の範囲にすることで、従来の材料よりもさらに優れた音響性能を具備する音響機器用機能性材料を得られることを知見し、発明の完成に至った。
【0014】
本発明は、音響機器に用いられる機能性材料として好適な樹脂組成物を成型してなる音響機器用機能性材料であって、以下の技術を基礎とするものである。
【0015】
(1)熱硬化性樹脂と充填材とからなる樹脂組成物を成型してなる音響機器用機能性材料において、成型された材料の比重が1.5〜5.0、気孔率が2〜20%、平均気孔径が0.1〜3.0μmであることを特徴とする音響機器用機能性材料。
【0016】
(2)前記樹脂組成物が、熱硬化性樹脂を樹脂組成物全量に対し5〜25重量%含有することを特徴とする(1)に記載の音響機器用機能性材料。
【0017】
(3)前記樹脂組成物が充填材の一部に多孔質充填材を樹脂組成物全量に対し10〜35重量%含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の音響機器用機能性材料。
【0018】
(4)前記多孔質充填材がマイクロポーラス構造を有する多孔質充填材であることを特徴とする(3)に記載の音響機器用機能性材料。
【0019】
(5)前記マイクロポーラス構造を有する多孔質充填材がゼオライト、活性炭、ポーラスシリカ、ポーラスアルミナから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする(4)に記載の音響機器用機能性材料。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱硬化性樹脂と充填材とからなる樹脂組成物を成型し硬化してなる音響機器用機能性材料において、良好な成形性を確保しつつ、不快な低周波振動がなく、心地よい自然な響き、低音及び高音域の伸び、音の奥行感といった好ましい音響性能が、従来の材料よりもさらに優れた音響機器用機能性材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の音響機器用機能性材料は、熱硬化性樹脂と充填材とからなる樹脂組成物を成型したものであり、成型された材料の比重が1.5〜5.0、気孔率が2〜20%、平均気孔径が0.1〜3.0μmであることを特徴とする。
【0022】
成型された材料の比重を1.5〜5.0、気孔率を2〜20%、平均気孔径を0.1〜3.0μmとすることにより、必要とされる振動を減衰させることがない、優れた音響性能を具備する音響機器用機能性材料を提供できる。
【0023】
材料の比重は、樹脂組成物に添加する充填材の種類を適宜選択することにより調整することができる。
【0024】
気孔率および平均気孔径は、成型温度、成型圧力、成型時間等の成型条件を変更することにより調整できるが、所望の気孔率、平均気孔径を有する成型品が得られるまで成型条件の過度の検討が必要となる。
【0025】
そこで、本発明では、樹脂組成物に充填材の一部として多孔質充填材を樹脂組成物全量に対し10〜35重量%添加することにより解決した。
【0026】
無数の微細な気孔を有する多孔質充填材を添加することにより、成型圧力の過度の検討を要することなく、成型温度130〜170℃、成型圧力20〜40MPa、成型時間2〜15分の範囲であれば、所望の気孔率、平均気孔径を有する成型品を得ることが可能となる。
【0027】
多孔質充填材としては、平均細孔直径が2nm以下のマイクロポーラス構造を有する多孔質充填材、平均細孔直径が2nmを超え50nm未満のメソポーラス構造を有する多孔質充填材、平均細孔直径が50nm以上のマクロポーラス構造を有する多孔質充填材を使用することができる。
【0028】
この中でもマイクロポーラス構造を有する多孔質充填材を使用することで多孔質充填材の添加量を抑えることができ、他の充填材の添加量の調整の自由度が増し、比重を調整しやすくなるので好ましい。
【0029】
マイクロポーラスを有する多孔質充填材としては、ゼオライト、活性炭、ポーラスシリカ、ポーラスアルミナが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0030】
なお、本発明において比重は水中置換法により測定した数値を用い、気孔率と平均気孔径は音響機器用機能性材料からテストピースを切り出し、水銀ポロシメーターにより測定した数値を用いた。
【0031】
熱硬化性樹脂としては、ストレートフェノール樹脂や、フェノール樹脂をカシューオイルやシリコーンオイル、アクリルゴム等の各種エラストマーで変性した樹脂、フェノール類とアラルキルエーテル類とアルデヒド類とを反応させて得られるアラルキル変性フェノール樹脂、フェノール樹脂に各種エラストマー、フッ素ポリマー等を分散させた熱硬化性樹脂等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
熱硬化性樹脂は樹脂組成物全量に対し5〜25重量%添加する。熱硬化性樹脂の添加量が5重量%未満であると成型品にクラックが発生しやすくなり、25重量%を超えると成型品の内部にフクレが発生しやすくなる。
【0033】
前記多孔質充填材以外の充填材としては、アラミド繊維,PAN繊維,セルロース繊維等の有機繊維、ガラス繊維、ロックウール等の無機繊維、炭酸カルシウム,硫酸バリウム,マイカ,タルク,ウォラストナイト,バーミキュライト、アルミナ、シリカ、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム等の無機粒子、コークス,グラファイト等の炭素質粒子、NBR粒子、SBR粒子等のゴム粒子、銅,真鍮,青銅,アルミニウム,ステンレス,スチール,鋳鉄等の金属からなる粒子や短繊維が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
本発明の音響機器用機能性材料は、熱硬化性樹脂と充填材を所定量配合した樹脂組成物を混合機で均一に混合する混合工程、所定の形状の熱成型金型へ投入し、130〜170℃の温度、20〜40MPaの圧力で2〜15分間成型する成型工程、表面を所定の面粗さに研磨する研磨工程を経て製造される。また、必要に応じて、音響機材とネジ接合するための孔を空ける加工工程が実施される。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0036】
[実施例1〜6・比較例1〜5の音響機器用機能性材料の製造方法]
表1に示す組成の樹脂組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、得られた混合物を熱成型型内に投入し、表1に示す条件下で成型した後、100mm×55mm×5mmの寸法に加工し、実施例1〜6、比較例1〜5の音響機器用機能性材料を得た。
【0037】
実施例1〜6、比較例1〜5の音響機器用機能性材料について、物性、成型性、音響性能の評価を以下のとおり実施した。評価結果を表1に併せて示す。
【0038】
[物性評価]
比重は水中置換法、気孔率と平均気孔径は水銀ポロシメーター(ユアサアイオニクス社製)により測定した。
【0039】
[成型性評価]
成型性評価基準は次のとおりである。
○:クラック、フクレ無し
×:クラック、フクレ有り
【0040】
[音響性能評価]
評価は、音響用に設計されたオーディオルームを用いた。
音響設備はパワーアンプ(ESOTERIC A−03)、D/Aコンバーター、プリアンプ、CDプレーヤー(ESOTERIC K−05)、大型スピーカー(B&W 801D)を用いた。パワーアンプ、音質変化のわかりやすいアナログ信号を出力するD/Aコンバーターとスピーカーの下に実施例1〜6、比較例1〜5の音響機器用機能性材料を3点支持で敷いた (前左右2ケ所、後ろ中心1ケ所)。なお、パワーアンプ、D/Aコンバーターとスピーカーの下へは別々に敷いて評価した。
【0041】
評価項目は、(1)材質の気孔が影響する「不快な低周波振動」、(2)音源の周波数共振に対して材質の比重が影響する「心地よい自然な響き」とし、(2)についてはさらに「低音の伸び」と「音の奥行感」と「高音域の伸び」とした。
【0042】
評価曲は、使用楽器の強調される周波数の異なる音源を用意し、総合評価とした。
・ニューミュージック(声、ギター、ベース、ドラム:30Hz〜18kHz:中心400Hz〜3kHz)
・ジャズ(ピアノ:30Hz〜5kHz:中心200Hz〜1kHz)
・クラシック(管弦楽:100Hz〜4kHz:中心300Hz〜2kHz)
・ロック(ギター、ベース、ドラム、キーボード:40Hz〜18kHz:中心100Hz〜1kHz)
【0043】
評価者は、嗜好、性別、年齢(22〜62才)の異なる20名を社員から選出し、結果の平均を取った。音響性能の評価基準は次のとおりである。
◎:15人〜20人が良いと評価
○:10人〜14人が良いと評価
△:5人〜9人が良いと評価
×:0人〜4人が良いと評価
【0044】
【表1】
【0045】
表1の結果から、気孔率、比重を所定の範囲にすることによって、不快な低周波振動が抑えられ、心地よい自然な響き、低温の伸び、音の奥行感、高温域の伸びといった好ましい音響性能に優れた音響機器用機能性材料が得られていることがうかがえる。
また、成型性にも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の熱硬化性樹脂と充填材とからなる樹脂組成物を成型し硬化してなる音響機器用機能性材料は、従来の材料よりもさらに優れた音響性能を具備するものであり、オーディオボード、インシュレータ(音響機器フット,トランス用振動減衰板,スピーカーユニット用減衰板)、調音パネル、音響機器ボックス、オーディオラック、スピーカーボックス材等の用途に有用である。
【要約】      (修正有)
【課題】熱硬化性樹脂と充填材とからなる樹脂組成物を成型し硬化してなる音響機器用機能性材料において、従来の材料よりもさらに優れた音響性能を具備する音響機器用機能性材料の提供。
【解決手段】熱硬化性樹脂と充填材とからなる樹脂組成物を成型してなる音響機器用機能性材料において、成型された材料の比重を1.5〜5.0、気孔率を2〜20%、平均気孔径を0.1〜3.0μmとする。樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を樹脂組成物全量に対し5〜25重量%含有し、充填材の一部に多孔質充填材(マイクロポーラス構造を有するものが好ましい。)を樹脂組成物全量に対し10〜35重量%含有する。前記マイクロポーラス構造を有する多孔質充填材がゼオライト、活性炭、ポーラスシリカ、ポーラスアルミナから選ばれる1種又は2種以上である音響機器用機能性材料。
【選択図】なし