特許第5654170号(P5654170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5654170気泡シールド工法用起泡剤並びに気泡シールド工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5654170
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】気泡シールド工法用起泡剤並びに気泡シールド工法
(51)【国際特許分類】
   C09K 8/12 20060101AFI20141218BHJP
   E21D 9/06 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   C09K8/12
   E21D9/06 301L
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-169460(P2014-169460)
(22)【出願日】2014年8月22日
【審査請求日】2014年8月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-177951(P2013-177951)
(32)【優先日】2013年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】大井 隆資
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 智史
(72)【発明者】
【氏名】吉野 広司
(72)【発明者】
【氏名】北山 圭造
(72)【発明者】
【氏名】余宮 正一
(72)【発明者】
【氏名】北島 明
【審査官】 福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−507604(JP,A)
【文献】 特開2007−002168(JP,A)
【文献】 特開2011−241337(JP,A)
【文献】 特開2006−348727(JP,A)
【文献】 特表2013−525499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 8/00−8/94
E21D 1/00−9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、アルファオレフィンスルホン酸塩とポリエチレングリコールとを含有する気泡シールド工法用起泡剤であって、
前記気泡シールド工法用起泡剤は、前記アルファオレフィンスルホン酸塩を水に溶解し、0.025〜1.0w/v%の水溶液とし、前記水溶液に前記ポリエチレングリコールを0.01〜5倍容量の割合で配合して調製され、
前記ポリエチレングリコールの重量平均分子量が100〜600であることを特徴とする気泡シールド工法用起泡剤。
【請求項2】
請求項に記載の気泡シールド工法用起泡剤を用いて地盤を掘削する工程を有する気泡シールド工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡シールド工法用起泡剤並びにこれを用いた気泡シールド工法に関し、詳しくは、十分な低毒性および生分解性を有するとともに、自然消泡性にも優れた気泡シールド工法用起泡剤並びにこれを用いた気泡シールド工法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法の一種である気泡シールド工法は、周知のように、起泡剤を含む液体を発泡させ、シェービングクリーム状の微細な気泡を生じさせ、これを切羽やチャンバーに注入しながら地盤の掘削を行なう工法である。気泡シールド工法は、気泡によるベアリング効果によって掘削土の流動性が高められる;チャンバー内における掘削土の付着を防止できる;土粒子の隙間に存在する水分が気泡に置換され、掘削土の止水性が高められる;等の優れた効果を発揮し、当業界で広く採用されている。
【0003】
なお、気泡が混合された状態の掘削土(気泡土)は流動性の高い泥状であり、このままでは積込みや運搬等に支障をきたす場合がある。また、掘削土の中間処理場等において水洗いを実施すると気泡土から泡沫が発生し処理設備や排水において支障をきたす場合がある。このような場合、必要に応じて消泡剤を散布・混入して気泡を消失させる作業が行なわれる。しかし、このような消泡剤にかかるコストや、消泡剤を気泡土に満遍なく行き渡らせる手間が問題であり、その解決が求められている。すなわち、掘削中は気泡の安定性を確保するとともに、掘削後は消泡剤を使用せずとも自然に消泡する性質(自然消泡性)を有する、気泡シールド工法用起泡剤が求められている。
【0004】
また、従来の起泡剤として、アルファオレフィンスルホン酸塩が使用されている(例えば特許文献1を参照)。しかしアルファオレフィンスルホン酸塩は、魚毒性が強いとともに、自然消泡性に改善の余地があると指摘されている(例えば特許文献2を参照)。魚毒性は、掘削土を埋立土として再利用したり海中投棄する場合、問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−2168号公報
【特許文献2】特開2012−197630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、十分な低毒性および生分解性を有するとともに自然消泡性にも優れた気泡シールド工法用起泡剤並びにこれを用いた気泡シールド工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者の検討によれば、アルファオレフィンスルホン酸塩とポリエチレングリコールとを併用することにより、上記課題を解決し得る起泡剤を提供できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0008】
すなわち本発明は以下の通りである。
1.少なくとも、アルファオレフィンスルホン酸塩とポリエチレングリコールとを含有する気泡シールド工法用起泡剤であって、
前記気泡シールド工法用起泡剤は、前記アルファオレフィンスルホン酸塩を水に溶解し、0.025〜1.0w/v%の水溶液とし、前記水溶液に前記ポリエチレングリコールを0.01〜5倍容量の割合で配合して調製され、
前記ポリエチレングリコールの重量平均分子量が100〜600であることを特徴とする気泡シールド工法用起泡剤。
.前記に記載の気泡シールド工法用起泡剤を用いて地盤を掘削する工程を有する気泡シールド工法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の気泡シールド工法用起泡剤は、アルファオレフィンスルホン酸塩とポリエチレングリコールとを併用することを必須要件にしている。ポリエチレングリコールを併用することで、起泡能力を減じることなく、アルファオレフィンスルホン酸塩の使用量を減少させることができ、魚毒性の問題を解決することができる。これにより、掘削土を埋立土として再利用したり海中投棄することが可能になる。
また、ポリエチレングリコールを併用することにより、掘削中は気泡の安定性を確保することができ、かつ気泡土の自然消泡性も向上する。これにより、気泡土の積込みや運搬等が容易になり、気泡土からの泡沫の発生による不具合が解消し、さらに消泡剤にかかるコストや手間の問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】表2の各例の空気間隙率vaを掘削後の経過時間毎にプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の気泡シールド工法用起泡剤をさらに詳細に説明する。
【0012】
(アルファオレフィンスルホン酸塩)
本発明で使用するアルファオレフィンスルホン酸塩は、下記一般式(1)で表すことができる。
RCH=CH(CH2nSO3Z ・・・(1)
(式中、Rは炭素数8〜30の脂肪族炭化水素基、nは0〜5、Zはアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属である。)
【0013】
一般式(1)中におけるRで表わされる炭素数8〜30の脂肪族炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれでもよく、また、直鎖または分岐のいずれでもよい。例えば、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、オレイル基、リノレイル基、リノレニル基などが挙げられる。これらのうち、炭素数8〜20のものが起泡力の観点から好ましく、特に好ましいのはテトラデシル基である。
【0014】
一般式(1)中におけるnはメチル基の平均モル数を示し、0〜5の範囲である。付加モル数が5を超えると起泡力が悪くなる。
【0015】
また、一般式(1)中のZはアルカリ金属、アルカリ土類金属または両者の混合物を示し、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、およびこれらの2種類以上の混合物が挙げられる。これらのうち、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムが好ましく、特に好ましいものはナトリウムである。
【0016】
(ポリエチレングリコール)
本発明に使用されるポリエチレングリコールは、アルファオレフィンスルホン酸塩の起泡能力を向上させ、その使用量を減少させることができる効果を有する。また、アルファオレフィンスルホン酸塩の自然消泡性を向上させる効果も有する。
本発明に使用されるポリエチレングリコールは、上記効果を高めるという観点から、重量平均分子量が例えば62〜1000(エチレングリコールを含む)、好ましくは100〜600、さらに好ましくは200〜400である。なお本発明では、エチレングリコール(EG)を含むことができ、これにより、温度低下に起因する起泡剤の白濁ゼリー状への変化を防止することができる。EGを使用する場合は、アルファオレフィンスルホン酸塩の水溶液とポリエチレングリコールの混合物に対して10〜100質量%配合するのが好ましく、20〜50質量%配合するのがさらに好ましい。また、本発明で言う重量平均分子量は、ポリスチレン換算におけるGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値を意味する。
【0017】
本発明の起泡剤は、前記アルファオレフィンスルホン酸塩を水に溶解して水溶液とし、この水溶液に前記ポリエチレングリコールを配合して得ることができる。なお、以下の説明において、本発明の起泡剤を水で希釈したものを「起泡材」と呼ぶことがある。
前記水溶液におけるアルファオレフィンスルホン酸塩の濃度は、例えば0.025〜1.0w/v%であり、0.08〜0.5w/v%が好ましい。
このアルファオレフィンスルホン酸塩の濃度は、従来技術の起泡剤の1/5以下である。それにもかかわらず本発明の起泡剤は、ポリエチレングリコールを併用することで、起泡能力を減じることなく、また、自然消泡性も向上する。さらに、アルファオレフィンスルホン酸塩の濃度を低減化させることにより、魚毒性の低下をもたらすことができる。
【0018】
本発明の起泡剤において、アルファオレフィンスルホン酸塩とポリエチレングリコールの配合割合は、前記水溶液中のアルファオレフィンスルホン酸塩の濃度が0.025〜1.0w/v%である場合、ポリエチレングリコールは例えば前記アルファオレフィンスルホン酸塩水溶液の例えば0.01〜5倍容量であり、好ましくは0.02〜3倍容量である。
ポリエチレングリコールの前記配合割合が0.01倍容量未満であると、配合量が少な過ぎて起泡効果が減じられる恐れがある。逆に5倍容量を超えると、自然消泡効果が減じるという欠点がある。
【0019】
一方、上記のようにアルファオレフィンスルホン酸塩は、魚毒性が強いという問題点がある。このため、掘削土を海中投棄したり埋立土として再利用するためには、掘削土を3日間程度仮置きし、アルファオレフィンスルホン酸塩の含量を低減させる必要がある。しかし、掘削場所によっては、大量に発生した掘削土を仮置きするスペースを確保することが極めて困難な場合がある。このような場合、アルファオレフィンスルホン酸塩とポリエチレングリコールの配合量をさらに適切に設定するのが好ましい。具体的には、前記水溶液中のアルファオレフィンスルホン酸塩の濃度を、例えば0.092〜0.165w/v%とし、ポリエチレングリコールの配合量を該アルファオレフィンスルホン酸塩水溶液に対し3.0〜1.2倍容量に設定するのがよい。さらに好ましくは、前記水溶液中のアルファオレフィンスルホン酸塩の濃度を、例えば0.110〜0.147w/v%とし、ポリエチレングリコールの配合量を該アルファオレフィンスルホン酸塩水溶液に対し2.3〜1.5倍容量に設定するのがよい。当該形態によれば、海洋投棄する際に当業界で通常求められるアルファオレフィンスルホン酸塩濃度を大幅に下回ることになり、掘削土を仮置きせずにそのまま廃棄することが可能となる。
【0020】
本発明における気泡シールド工法は、前記起泡剤を用いて地盤を掘削する工程を有する。
本発明の起泡剤を気泡シールド工法に使用するに際しては、本発明の起泡剤を水で希釈した起泡材を発泡装置により発泡させ、生じた気泡(気泡量=起泡材量×発泡倍率)を連続的に掘削面に送り掘削土と混合(気泡混合率=気泡量÷掘削土量)して使用する方法等が挙げられ、該方法は当業界で周知である。
本発明の起泡剤の使用に際し、使用量、発泡倍率、気泡混合率シールドマシンの運転条件等は、地盤の種類、性質に応じて適宜決定することができ、例えば、気泡シールド工法技術資料(平成23年8月、シールド工法技術協会発行)等の文献を参考にすることができるが、前記使用量は例えば、土砂1mに対し気泡を5〜100容量%、好ましくは20〜80容量%使用するのがよく、発泡倍率は例えば2〜15倍程度である。
【0021】
また、本発明の起泡剤には、その起泡効果を阻害させない範囲で、必要に応じて従来から慣用されている各種混和剤を併用することも可能である。これらの混和剤としては、公知の水溶性高分子(メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなど)、増粘剤(キサンタンガム、グアーガム、アルギン酸ナトリウムなど)、粘土鉱物(ベントナイトなど)、高吸水性樹脂などを挙げることができる。
【0022】
なお本発明の起泡剤には、必要に応じて消泡剤も併用することができる。この場合、消泡剤の使用量は、起泡剤に対し0.1〜0.5容量%程度であり、この量は従来技術の使用量に対し10〜50%である。消泡剤の種類にはとくに限定されず、当業界で使用されているものを適宜選択できる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが本発明は下記例に制限されるものではない。
【0024】
実施例1〜2
起泡材の調製と気泡量
アルファオレフィンスルホン酸塩として、ライオン(株)製の商品名「リポランLB−440」を使用した。リポランLB−440は、RCH=CH(CH2nSO3NaとRCH2CH(OH)(CH2mSO3Naとの混合物(Rの炭素数14)である。
また、ポリエチレングリコールとして、日油(株)製の商品名「PEG#300」を使用した。PEG#300の重量平均分子量は300である。
前記アルファオレフィンスルホン酸塩を水に溶解し、水溶液を調製した。水溶液中のアルファオレフィンスルホン酸塩の濃度は、0.4w/v%であった。この水溶液に、前記ポリエチレングルコールを、前記水溶液に対し、1.00倍容量添加した。
この起泡材を九州北部の気泡シールド工事現場で使用した。
なお、掘削始点から土砂を12m掘削した掘削長を1リングとし、さらに土砂を12m掘削した掘削長を2リング、さらに次の土砂を12m掘削した掘削長を3リング、同様に土砂を12n(m)掘削した掘削長をnリングとしたとき、253リング(実施例1)および254リング(実施例2)のトンネル掘削現場に前記起泡材を使用した。
この現場において、まず、シールドマシン内の発泡装置を用い、前記起泡材を発泡倍率4倍で発泡させ、気泡が掘削土(掘削された土砂)の35〜40容量%の範囲となるように、シールドチャンバー内の掘削土に混合した。その結果、土砂12mに対し、気泡量は4760、4810リットルとなった。
次に、シールドマシンに対する負荷状況を、切羽土圧、カッタ圧、平均推力として調べた。その結果を下記の表1に示す。なお、シールドマシンの掘削速度は25〜30mm/分、実掘削時間は40〜45分/リングであった。
【0025】
比較例1〜3
起泡材の調製と気泡量
実施例1〜2で使用したアルファオレフィンスルホン酸塩を用い、このアルファオレフィンスルホン酸塩を水に溶解し、水溶液を調製した。水溶液中のアルファオレフィンスルホン酸塩の濃度は、2.0w/v%であり、これを比較例の起泡材として用いた。
この比較例の起泡材を、実施例1〜2と同じ気泡シールド工事現場で使用した。
使用場所は、259〜261リングである。
この現場において、まず、シールドマシン内の発泡装置を用い、比較例の起泡材を発泡倍率4倍で発泡させ、気泡が掘削土(掘削された土砂)の35〜40容量%の範囲となるように、シールドチャンバー内の掘削土に混合した。その結果、土砂12mに対し、気泡量は4150〜4790リットルとなった。
次に、シールドマシンに対する負荷状況を、実施例1〜2と同様に調べた。その結果を下記の表1に示す。なお、シールドマシンの掘削速度は実施例1〜2と同じである。
【0026】
【表1】
【0027】
表1の結果から、本発明の起泡剤を使用した実施例1〜2は、従来の起泡剤を使用した比較例1〜3と比べて、同等の気泡注入状況で、同等のマシン負荷状況を呈し、掘削性能に何ら遜色がないことが分かった。
【0028】
実施例3
実施例1および2で生じた気泡土の気泡の自然消泡性を調べた。
すなわち、掘削した気泡土を立坑上に搬出し、一定量サンプリングし、質量および含水比を測定した後、下記の式により空気間隙率vaを求めた。
【0029】
空気間隙率Va(%)の概算値は水の密度ρwを1.0とすれば以下の式で求められる。
va (%) = 100−ρd×(100/ρs+w)
上記式中、ρsは土粒子の密度(g/cm)を、ρdは現場で測定した乾燥密度(g/cm)を、wは含水比(%)を意味する。
【0030】
その結果を表2に示す。なお、空気間隙率vaは、掘削して0.5時間、1.5時間、2.5時間、3.5時間経過後にそれぞれ測定した。
【0031】
比較例4
前記比較例1〜2で生じた気泡土の気泡の自然消泡性を、実施例3と同様に調べた。結果を表2に示す。
【0032】
比較例5
前記比較例3で生じた気泡土の気泡の自然消泡性を、実施例3と同様に調べた。結果を表2に示す。なお、この比較例5では、261リング掘削直後の気泡土12mに消泡剤(京浜ソイル社製FT−01、主成分名=ジメチルポリシロキサン)を、起泡剤の1.0容量%(21リットル)の割合で添加し、消泡性を調べたものである。
【0033】
【表2】
【0034】
図1は、表2の各例の空気間隙率vaを掘削後の経過時間毎にプロットしたグラフである。
表2および図1の結果から、以下の事項が導き出される。
(1)本発明の起泡剤を使用した実施例3の空気間隙率vaは、掘削後0.5時間経過した時点で20.8%であるが、3.5時間経過後は8.5%まで低下している(約12%の低下)。
(2)これに対し、比較例4の空気間隙率vaは、掘削後0.5時間経過した時点で24.6%であり、3.5時間経過しても21.2%までしか低下しない(約3%の低下)。
(3)比較例5の気泡土には消泡剤を添加しているが、空気間隙率vaは、掘削後0.5時間経過した時点で15.9%であり、3.5時間経過後は10.9%であり、本発明の起泡剤よりも自然消泡性に劣る結果となっている。
【0035】
実施例4
陰イオン界面活性剤濃度と海面埋立て
国民の地球環境への関心が高まる中、化学物質への監視・規制が厳しくなってきている。そのような中、都市部での大規模工事では掘削土を海面埋立てに利用する必要性が発生している。気泡シールド工法でも長距離・大断面トンネルから発生する掘削土を海面埋立てする事例があり、起泡剤のアルファオレフィンスルホン酸塩による水生生物への影響が懸念され、掘削土の陰イオン界面活性剤濃度が受入基準値を満足するまで、掘削土を仮置きして微生物による生分解によって陰イオン界面活性剤濃度を低下させる対策が講じられている。
【0036】
陰イオン界面活性剤濃度の受入基準値
一例として次のような陰イオン界面活性剤濃度の受入基準値がある。
気泡シールド工法の起泡剤は従来の特殊起泡剤(成分:アルファオレフィンスルホン酸塩)を用いたものである。
受入基準値=(特殊起泡剤の急性毒基準値LC50)×(気泡混合率)×(特殊起泡剤原液濃度)×(安全率)
・特殊起泡剤の96時間半数致死濃度LC50:6,600ppm
・気泡混合率 :35%
・特殊起泡剤原液濃度 :3%
・安全率 :0.01
上式から受入基準値は、0.693mg/リットルとなる。
【0037】
起泡材の調整
アルファオレフィンスルホン酸塩として、実施例1で使用したライオン(株)製の商品名「リポランLB−440」を用い、ポリエチレングリコールとして、日油(株)製の商品名「PEG#300」を用いた。
前記アルファオレフィンスルホン酸塩を水に溶解し、水溶液を調製した。水溶液中のアルファオレフィンスルホン酸塩の濃度は、0.147w/v%であった。この水溶液に、前記ポリエチレングルコールを、前記水溶液に対し、1.5倍容量添加し、起泡材を調製した。この起泡材を発泡倍率8倍で発泡させ、気泡が模擬土の35容量%となるように混合し供試体とした。
【0038】
陰イオン界面活性剤濃度試験
供試体の陰イオン界面活性剤濃度試験は、メチレンブルー吸光光度法(JIS K0102 30.1.1)により行った。
この測定法は、陰イオン界面活性剤が陽イオン性の色素とイオン会合体を生成してクロロホルムなどの有機溶媒に抽出される性質を利用して、陽イオン性色素であるメチレンブルーを用い、クロロホルムで抽出定量するものである。
【0039】
試験内容
海水10リットルに対して、供試体10リットルを投下させ、所定時間毎に溶出した上澄み液を250ml採取して、溶出時間毎の陰イオン界面活性剤濃度を測定した。なお、海水に投下させる前の供試体としては、下記表3に示すような各種時間で仮置きを行った各種供試体を用いた。
【0040】
試験結果を表3に示す。
仮置き時間0日、溶出時間0日の陰イオン界面活性剤濃度は0.48mg/リットルである。これは前記の受入基準値以下であり、掘削土の仮置き無しで海面埋立てが可能であることが分かった。
【0041】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の気泡シールド工法用起泡剤は、起泡能力を減じることなく、アルファオレフィンスルホン酸塩の使用量を減少させることができ、魚毒性の問題を解決することができ、掘削土を埋立土として再利用したり海中投棄することが可能になる。また、優れた自然消泡性を有するので、気泡土の積込みや運搬等が容易になり、気泡土からの泡沫の発生による不具合が解消し、さらに消泡剤にかかるコストや手間の問題を解決することができる。なお本発明の起泡剤は、標準活性汚泥に含まれる微生物による優れた生分解性を有することが確認されているので、環境上何ら問題なく使用することができる。
【要約】
【課題】従来の気泡シールド工法の起泡剤としては、アルファオレフィンスルホン酸塩が使用されている。しかしアルファオレフィンスルホン酸塩は、自然消泡性に改善の余地があるとともに、魚毒性が指摘されている。本発明の課題は、十分な低毒性および生分解性を有するとともに、自然消泡性にも優れた気泡シールド工法用起泡剤並びにこれを用いた気泡シールド工法を提供することである。
【解決手段】少なくとも、アルファオレフィンスルホン酸塩とポリエチレングリコールとを含有することを特徴とする気泡シールド工法用起泡剤と、該起泡剤を用いて地盤を掘削する工程を有する気泡シールド工法により、上記課題を解決した。
【選択図】図1
図1