(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
横断面においてリブが多角形の頂点に配列され、これらのリブの間に外板を固定して中空の閉鎖断面とした屋根部材ユニットを長手方向に連接し、リブに沿って配設した緊張鋼材に緊張力を導入して両端部に定着して連接した屋根部材ユニットにプレストレスを導入すると共にプレストレス力によって圧着接合して屋根部材ユニットを一体化し、この一体化した屋根架構部材を並べて一体化したことを特徴とする屋根架構。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
広い空間の屋根架構は大スパンとなり、そのスパンは、一般に20m〜60mであり、5万人以上を収容するスタジアムの屋根架構ではスパンが80mに及ぶことがある。そのため、屋根架構材の重量を軽くする必要があり、構造形式として鉄骨トラス架構がよく使われている。なお、ここでいうスパンは、屋根の支柱間の距離または屋根の長さ(張出し長さ)を意味する。
しかし、トラス構造を使用した屋根架構には、以下に挙げる課題がある。
(1)大スパンの屋根架構ではトラス部材の断面を大きくしたり、トラス屋根架構全体の高さを高くする必要がある。そのため、屋根架構の自重が増えるだけでなく施設の内部空間の高さを制限し、また、風荷重を受ける面積が大きくなり、剥き出しのトラスが美観的に好ましくない。
更にトラスを含め、多くの鉄骨屋根架構は、断面剛性が小さいため、大面積の屋根が風荷重を受けると振動しやすく好ましくない。
(2)運送における制約があり、一般には一定長さ以上の部材を道路を利用して運搬できないので、屋根架構部材は、例えば12mまでのものとして工場で製造して搬送し、現場で溶接やボルト等を用いて接合して一体化することが多い。
スタジアムなどの大きな構造物では屋根架構に使用する部材の接合部の数が増大するが、接合具で接合した接合部は地震に対して弱点となるので好ましくなく、接合部が多い屋根架構は好ましくないものである。
(3)接合部が多い屋根架構は、現場での屋根部材の接合具を取り付ける接合作業が多いものとなり、作業に手間がかかり、また、コスト増となる。
【0005】
本発明の課題は、大スパンの屋根架構による大空間を得るために屋根架構を軽量化すると共に屋根架構の剛性を高めて振動の発生を抑制するものである。更に、ボルトなどの接続具を使用する接合部を少なくすることによって充分な強度を有し、かつ、シンプルな構造の屋根架構を提供し、スタジアムや競技施設等の屋根として力学的に合理的で美観的に優れた架構とすると共にコスト低減を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
横断面においてリブが多角形の頂点に配列され、これらのリブの間に外板を固定して中空の閉鎖断面とした屋根部材ユニットを長手方向に連接し、リブに沿って配設した緊張鋼材に緊張力を導入して両端部に定着して連接した屋根部材ユニットにプレストレスを導入するとともにプレストレス力で圧着接合して屋根部材ユニットを一体化し、この一体化した屋根架構部材を並べて一体化したことを特徴とする屋根架構である。
多角形は、三角形、逆三角形、菱形のいずれかであり、リブを中空部材とすると共にリブ断面内に緊張鋼材を配設し、リブの中空部にモルタル等の充填材を充填して屋根架構の剛性を高めたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の効果を以下に列挙する。
(1)複数の薄板からなる鋼板を所定の形状にし、鋼板の両端の間に配置されたリブを連結して閉鎖型断面を形成してあり、屋根断面として中空部を有する閉鎖空間とすることによって座屈強度が大きく、また、大きな曲げ剛性を有しながら、従来の屋根材に比較して軽量な鉄骨屋根部材が得られる。
(2)複数の屋根部材ユニットを連接し、部材断面内に緊張鋼材を配置して通し、両端部材の端部に緊張定着することによって屋根部材ユニット断面にプレストレスが付与されると共に、複数の屋根部材ユニットが圧着接合されて一体化され、この屋根部材ユニットを並設して一体化して所要面積を覆う屋根架構を形成するので、従来のトラス構造等の鉄骨屋根架構に比較して小さい断面で大スパンの屋根架構とすることを可能とした。
(3)複数の屋根部材ユニットをプレストレスを導入して圧着接合で一体化することによって、従来の溶接やボルトによる接合方法に比較して耐震性能を大幅に改善し、地震力による繰り返し荷重によっても破断破壊することのない強固な接合が得られる。
(4)従来の部材毎に接合具を使用する接合方法に比べ、緊張鋼材を緊張定着することによって複数の屋根部材ユニットを圧着接合させて一体化するので、接合作業に要する時間を大幅に短縮でき、省力化と共にコストを削減することができる。
(5)リブ断面内に充填材を充填することによって、剛性を更に高めることができ、風荷重等による振動を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1及び
図2に基づいて本発明の基本部材である屋根部材ユニット1について説明する。
本発明の屋根部材は、屋根部材ユニット1を長手方向に連接し、この連接した屋根部材ユニット1にプレストレスを導入して圧着接合によって一体化するものであり、
図1は、屋根部材ユニット1の斜視図である。
【0010】
屋根部材ユニット1は、その骨格となるリブ10が横断面において多角形の頂点に配列するのを基本とするものである。
図1の例は、菱形の頂点にリブ10を配列したものである。
リブ10の間には薄鋼板の側辺部を折り曲げて接続部20とした外板2がボルト、溶接等の固定手段で固定してあり、リブ10を頂点とした菱形空間を有する閉鎖断面の部材である。
【0011】
外板2は、厚さ6〜12mmの薄鋼板であり、リブ10は、
図1(1)に示す角形鋼管、または、
図1(2)〜(5)に示すように、溝形鋼や山形鋼、H形鋼などの各種形鋼を組み合わせて中空部を有する四角形断面としたものであり、屋根部材の中間部となる屋根部材ユニット1の端面には接続用の接続板が、屋根部材の端部となる屋根部材ユニット1の一端部にはプレストレス導入用の緊張鋼材を定着する定着部12が設けてある。接続板及び定着部12には緊張鋼材を通す穴が形成してあり、この穴を通って連接した屋根部材ユニット1の全長に緊張鋼材が配設される。
後述のように屋根部材ユニット1自体にキャンバーを形成する場合は、屋根部材ユニット1の下側のリブ10に上側のリブ10よりも大きな緊張力を導入するので、下側のリブ10の穴の数を多くして緊張鋼材4を多く定着できるようにしてある。
【0012】
屋根部材ユニット1の長さは、リブ10の長さで決まるが、リブ10を構成する形鋼の市場で入手可能な長さ、および、運送における法規制による制限があるので最大で15mであり、通常12mである。
屋根部材ユニット1を構成するリブ10と外板2を工場で組立てて中空部材として現場に搬入するのが作業効率の面からは好ましいが、外板2とリブ10を工場でそれぞれ所定の形状に加工し、現場に個別に搬入して組立て接合して中空断面の屋根部材ユニット1にしてもよい。
【0013】
この屋根部材ユニット1を長手方向に連接して長大スパンの屋根架構部材とするものであるため、屋根部材ユニット1の座屈を防ぐため、屋根部材ユニット1には6m程度の間隔で横梁3を設けるのが好ましい。横梁3の断面形状は、各種の形鋼から適宜選択する。また、リブ10と同様に、形鋼を組み合わせた組立材を横梁3としてもよい。
また、屋根部材ユニット1に局部座屈防止用のスチフナや補強材等を必要に応じて設置する。
【0014】
リブ10の断面内に緊張鋼材4を所定の位置に配設するために、一定間隔でガイド部材13を設ける。ガイド部材13の間には、鋼管等からなる鋼製シースがガイド部材13を貫通させて配置してある。
【0015】
屋根架構の組み立て
次に複数の屋根部材ユニット1によって屋根架構を形成することについて説明する。
複数の屋根部材ユニット1を連接して所要のスパンの長さとし、屋根部材ユニット1のリブ10内に配設されたシース40に緊張鋼材4を挿入し、両端の屋根部材ユニット1の定着部12に緊張定着する。緊張定着によって屋根部材ユニット1の断面にプレストレスが導入され、屋根部材ユニット1のリブ10の接合面は圧着され、複数の屋根部材ユニット1が圧着接合されて一体化された大スパンの屋根架構部材が得られる。
【0016】
端部定着部において緊張鋼材を緊張定着した後は、防錆のために定着具にモルタル等を充填することが好ましい。
また、図示は省略するが従来と同じように、耐火のために緊張鋼材の緊張定着完了後、シース内にグラウトを注入することが好ましい。耐火性を高めるのはグラウト充填に限られるものでなく、耐火被覆を施してもよく、この場合は、緊張鋼材をアンボンドとしてグラウト等の充填材が省略される。
【0017】
本発明に使用する緊張鋼材は、PC鋼より線、または、PC鋼線とするが、耐久性の向上を図るために防錆処理が施されている緊張鋼材、例えば、全素線エポキシ樹脂塗装型PC鋼より線(商品名:SCストランド、登録商標)を用いることが望ましい。
【0018】
屋根架構にキャンバーを設定する場合は、
図3に示すように、屋根部材ユニット1の端部端面を設定するキャンバーに応じて屋根部材ユニット1の軸線に対して角度を付けたものとし、設定するキャンバーに合致する曲面に形成した仮設支持台(図示しない)の上に屋根部材ユニット1を順次載せて連接し、リブ10内に配設した緊張鋼材4を緊張して屋根部材ユニット1同志を圧着接合して一体化すると共に屋根部材ユニット1にプレストレスを導入して所定のキャンバーを付した屋根架構とする。
【0019】
屋根部材ユニット1自体に上向きのキャンバーを形成する場合は、屋根部材ユニット1の全てのリブ10に均一なプレストレスを導入せず、リブ10の屋根部材ユニット1の断面におけるリブ10の位置に応じて導入するプレストレスの大きさを変えることによって屋根部材ユニット1自体にキャンバーを設定すると同時に、屋根部材ユニット1同志を圧着接合する。
すなわち、緊張鋼材の緊張による緊張力の合力が屋根部材ユニット1の断面図心に対して偏心して作用するようにし、屋根部材ユニット1自体にキャンバーが形成されるようにする。
【0020】
具体的には、屋根部材ユニット1の下側のリブ10に上側のリブ10よりも多い緊張鋼材を配置し、各緊張鋼材を同一の緊張力で緊張定着すると、緊張力の合力は断面図心に対して偏心して作用することから、全体として曲線状の屋根部材が形成される。
屋根を60〜80mのロングスパンとする場合には、屋根部材ユニット1自体に上向きキャンバーが付されたものとするのが好ましい。
【0021】
所定の長さに連接した屋根部材ユニット1を並列させ、隣接する屋根部材ユニット1を接合材を介してボルト等の接合具で接合して一体化して所要面積を覆う全体の鉄骨屋根架構を完成させる。
図4は、屋根架構にシート状の屋根材5を設置したものであり、屋根材5は防水性を有し、十分な強度を有するフレキシブルな部材からなるものであり、リブ10に適宜の手段で固定されている。
【0022】
リブ10の内部にモルタル等の充填材を充填することによって屋根架構の剛性を高め、風荷重による振動を抑制して屋根架構に有害な変形を生じさせないようにすることができる。
充填材は、緊張鋼材を緊張する前に充填する場合と、緊張定着完了後に充填する場合の二通りがあり、いずれの充填方法を採用してもよい。充填材としては、モルタル、または、コンクリートを使用する。
【0023】
図5に示す例は、リブ10の断面内部に緊張鋼材4を通さず、リブ10の外面に沿って緊張鋼材4を配設するものであり、緊張鋼材4はシース40内に配設される。屋根部材ユニット1の端部には台形の定着部材12が設けてあり、中間部には、緊張鋼材のガイド部材13が適宜の間隔で設置してある。
緊張鋼材4は、リブ10の外側だけでなく、リブ10の内部にも配設して緊張定着してもよい。下側のリブ10の内部に緊張鋼材4を追加配設して緊張定着すると、屋根部材ユニット1の断面図心に対して緊張力が偏心して作用し、屋根部材ユニットにキャンバーが形成される。
【0024】
以下に示す例は、リブ10を三角形に配置した基本配列の屋根部材ユニット1を組み合わせた屋根架構の例である。
図6の例は、リブ10を逆三角形に配置した逆三角形の中空閉鎖断面を有する屋根部材ユニット1である。
この屋根架構において、屋根部材ユニット1自体に上向きのキャンバーを形成する場合は、下側のリブ10aに上側のリブ10bより大きな緊張力を作用させることになるので、リブの断面は、上側のリブ10bより下側のリブ10aのほうを大きくしてある。
図7の例は、リブ10が正立の三角形に配置されたものであり、
図8に示す屋根架構は、正立の三角形の屋根部材ユニット1Aと逆三角形の屋根部材ユニット1Bを交互に配列したものである。
【0025】
屋根架構の平面形状は、スタジアムや球技施設等の屋根形状の設計に合わせることが可能である。本発明の屋根架構の適用例を示すと、一般的なのは
図9に示す矩形のスタジアムであり、また、
図10の張出屋根にも適用可能であり、各種の屋根形状に適応させることができる。
図11の例は、放射状ドーム屋根の場合であって台形アーチとしたものであり、屋根部材ユニット1を連接した屋根架構部材を間隔をあけて配設してドーム形状を形成している。
【0026】
なお、本発明は、図示の実施例の構成に限定するものではなく、建物の設計条件によって本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、外板は、屋根の意匠設計に応じて概略U字型の湾曲したものとした曲面鋼板とすることも可能である。
【0027】
本発明の中空断面を有する屋根部材は、長手方向にプレストレスが導入されており、また、必要に応じて横梁等の座屈防止部材が設けてあるので座屈に強いものであり、屋根部材ユニット1は、リブ10と外板2からなる中空断面の部材としてあるので大きな曲げ剛性を有し、外板2がトラス材に比較して軽量であることと、屋根部材ユニット1の断面にプレストレストが付与されていることが相まってロングスパンの屋根架構とすることが可能であり、60m〜80mの長大スパンに適用することができる。
【解決手段】スタジアムや球技施設等に用いられる鉄骨屋根架構であって、横断面においてリブ10が多角形の頂点に配列され、これらのリブ10の間に外板2を固定して中空の閉鎖断面とした屋根部材ユニット1を長手方向に連接し、リブ10に沿って配設した緊張鋼材4に緊張力を導入して両端部に定着して連接した屋根部材ユニット1にプレストレスを導入するとともにプレストレス力で圧着接合して屋根部材ユニット1を一体化し、この一体化した屋根架構部材を並べて一体化したことを特徴とする屋根架構である。多角形は、三角形、逆三角形、菱形のいずれかであり、リブ10を中空部材とする共にリブ断面内に緊張鋼材4を配設し、リブの中空部にモルタル等の充填材を充填して屋根架構の剛性を高める。