特許第5654462号(P5654462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5654462貧溶媒添加法による2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸の結晶多形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5654462
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】貧溶媒添加法による2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸の結晶多形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 277/20 20060101AFI20141218BHJP
   C07D 277/56 20060101ALI20141218BHJP
   A61P 19/06 20060101ALN20141218BHJP
   A61K 31/426 20060101ALN20141218BHJP
【FI】
   C07D277/56
   !A61P19/06
   !A61K31/426
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-522884(P2011-522884)
(86)(22)【出願日】2010年7月14日
(86)【国際出願番号】JP2010062291
(87)【国際公開番号】WO2011007895
(87)【国際公開日】20110120
【審査請求日】2012年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2009-166755(P2009-166755)
(32)【優先日】2009年7月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】上村 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】野方 倫彰
(72)【発明者】
【氏名】竹安 巧
【審査官】 砂原 一公
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101139325(CN,A)
【文献】 国際公開第1999/065885(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 277/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸(以下、これを「フェブキソスタット」と表記する。)を、1−プロパノールおよび2−プロパノールからなる群から選ばれる一つまたは複数の溶媒を富溶媒として加熱溶解する工程、この溶液を冷却する工程、ならびにこの溶液に貧溶媒としてヘプタンを添加する工程を含む、フェブキソスタットのA晶の製造方法。
ここで、フェブキソスタットのA晶とは、反射角度2θで表わして、ほぼ6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、および36.70°に特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示すフェブキソスタットの結晶をいう。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶の製造方法に関する。該化合物は、生体において尿酸の生合成を調節する作用を有し、例えば高尿酸血症の治療薬として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
医薬品を製造するうえで、その原末である化学物質の結晶多形を制御することは、ICH(International Conference on Harmonisation)のQ6A「新医薬品の規格及び試験方法の設定について」の中にも述べられている通り、その違いが製剤機能、バイオアベイラビリティ、安定性など医薬品としての性質に大きな影響を及ぼすことからも、重要なことと認識されている。
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸の結晶多形に関しては、特許文献1にA晶、B晶、C晶、D晶、およびG晶の5種の結晶多形体および非晶質が存在すること、ならびにそれらの製造方法が開示されている。ここで示されている結晶多形体の製造方法とは、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸に所定量のメタノールまたは2−プロパノールと、水との混合溶媒を加え、加熱攪拌してこれを溶解し、水を加えて冷却することにより所定のメタノール/水組成等ならびに温度に設定し、その後、結晶を濾取・乾燥することにより、各結晶多形体を製造するものである。
しかしながら、特許文献1で言及のある初期濃度の影響は、化学的純度ならびに回収量との関係のみであり、得られる結晶多形体への影響は述べられていない。また、2−プロパノールと水の混合溶媒から晶析させる場合にはG晶が得られるとのみ記載されている。
また、International Symposium on Industrial Crystallization(1998年9月21−25日、Tianjin、中国)において、Mr.M.Kitamura,Mr.M.Hanada,Mr.K.Nakamuraらは「Crystallization and transformation behavior of the polymorphs of thiazole−derivative」(非特許文献1参照)の中で、A晶のみが得られると考えていたメタノール/水組成ならびに温度において、水添加時間を著しく変化させたとき、場合によっては晶析時にG晶、もしくはA晶とG晶の混合物を得られることが示されている。さらに、その後温度を変更して撹拌状態で維持することによりD晶に転移することも示されている。
工業的に有用なA晶を製造する場合において、これら従来の方法においては、G晶が混入することが皆無とは言い切れない。また、G晶の混入を回避するためには水添加時間が限定されることから、工業的な製造に時間がかかってしまうという問題もある。
一方、特許文献2には、メタノールあるいはメタノール/水混合溶媒に溶解した2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸に水を添加して結晶多形体を製造する方法であって、初期濃度および水添加時間を変えることを特徴とする、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶、G晶、またはA晶およびG晶の混合物の製造方法が開示されている。
しかしながら、こうした従来の混合溶媒系での晶析、例えばメタノール/水の比率が7/3の混合溶媒系での晶析では、A晶とは異なる結晶形もしくはA晶とは異なる結晶形とA晶との混合物として得られ、A晶を安定して得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO99/65885号明細書
【特許文献2】特開2003−261548号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】KITAMURA M.,NAKAMURA K.,Crystallization and transformation behaviors of the polymorphs of thiazole−derivative.,化学工学会秋季大会研究発表講演要旨集,Vol.33rd,Page.653(2000.08.12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶を工業化に適した条件で選択的に安定して得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸を、1−プロパノール、2−プロパノール、エタノール、およびアセトンからなる群から選ばれる一つまたは複数の溶媒を富溶媒として加熱溶解する工程、この溶液を冷却する工程、ならびにこの溶液に貧溶媒として炭化水素溶媒を添加する工程を含む、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶の製造方法である。
すなわち、本発明は富溶媒としてメタノールを除く低級アルコール溶媒もしくはアセトンを用い、貧溶媒として炭化水素溶媒を用いることで安定的にA晶が得られることを見出したことに基づくものである。
ここで、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶とは、反射角度2θで表わして、ほぼ6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、および36.70°に特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す結晶多形体をいう。かかる粉末X線回折パターンの一例を図1に示す(用いたX線回折装置は特許文献1のものとは異なる。)あるいは、赤外分光分析において、1678cm−1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する結晶多形体と表現することもできる(特許文献1参照)。
【発明の効果】
【0007】
従来技術たる貧溶媒として水を用いた晶析では、一定の条件により溶媒和物や水和物あるいはそれらとの混合物で得られるところ、本発明の製造方法によれば、炭化水素溶媒を貧溶媒に用いることで、A晶を選択的に安定して取得できる効果がある。
すなわち、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶を、他晶形混在の可能性を低下させながら、工業化に適した条件で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1は、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶の粉末X線回折パターンおよびピークリストを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸を、1−プロパノール、2−プロパノール、エタノール、およびアセトンからなる群から選ばれる一つまたは複数の溶媒を富溶媒として加熱溶解する工程、この溶液を冷却する工程、ならびにこの溶液に貧溶媒として炭化水素溶媒を添加する工程を含む、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶の製造方法である。
複数の溶媒を富溶媒として用いる場合には、それらを予め混合して混合溶媒として用いても、各溶媒を順次加えてもよい。
ここで、富溶媒への溶解時の溶質/溶媒の比であるが、エタノール、1−プロパノール、または2−プロパノールの場合は、0.05−0.5g/mLの範囲であることが好ましく、さらには0.08−0.25g/mLであることがより好ましく、アセトンの場合は、0.05−0.1g/mLの範囲が好ましく、さらには0.08−0.09g/mLであることがより好ましい。
本発明の製造方法における冷却操作の条件は、晶析としての効果を発現する限り、特に限定はない。
かかる条件としては、冷却前後の温度や冷却時間(さらには液温の時間曲線)、冷却装置等の冷却手段、攪拌の有無、攪拌をする場合の攪拌装置や攪拌速度、用いる容器などが考えられる。
これらについては、当業者であれば、結晶の必要量、時間、コスト、現有設備等も考慮しつつ、後述する実施例を参考に、与えられた前提に対して適切な条件を見出すことができよう。
必要があれば予備実験により条件を定めることもできる。なお、冷却前の温度は用いる溶媒の沸点が考慮されるべきである。また、冷却後の温度が低いと、用いる溶媒によっては溶媒和物を生じることもあるので、予め条件を確認しておくことが望ましい。さらに、富溶媒としてアセトンを用いる場合には、急冷しないと他の結晶形が混入することがあるので注意を要する。この点からも予め条件を確認しておくことが望ましい。
冷却時間の一例は15分程度である(溶媒がアセトンの場合を除く)。
貧溶媒としての炭化水素溶媒としては、ヘプタンおよび/またはヘキサンが好ましく、特にヘプタンが好ましい。
また、かかる貧溶媒の量は、溶質量/添加貧溶媒の比が0.05−0.5g/mLの範囲であることが好ましく、さらには0.06−0.4g/mLであることがより好ましい。
本発明の製造方法においては、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸の溶液を冷却する工程と、この溶液に貧溶媒を添加する工程の順序は問わない。いずれかの工程を先に実施しても、これらの工程の全部または一部を同時に実施してもよい。
溶媒として水を用いる従来の製造方法においては、晶出後の乾燥の方法等によっては水和物への転移が起こる可能性が考えられるが、本発明の製造方法においては、溶媒として水を用いないため、水和物へ転移する可能性はなく、晶出後の乾燥方法として多様な方法を用いることができる。
本発明の製造方法においては、貧溶媒として炭化水素溶媒を用いるが、炭化水素溶媒の場合は、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸と和物を形成しないため、目的とするA晶を得るための晶析条件の安定領域が広い。また、本発明の製造方法において、富溶媒として1−プロパノールまたは2−プロパノールを用いた場合には、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸と和物を形成しないため、目的とするA晶を得るための晶析条件の安定領域が広い。これらのことより、溶媒として1−プロパノールまたは2−プロパノールと炭化水素溶媒、特にヘプタンとの組み合わせを用いた場合、従来技術より広範な溶媒比率、広い温度範囲においても安定してA晶を得ることができる。
また、本発明の製造方法において用いる溶媒は有機溶媒のみで水を使わないため、疎水性の不純物に対する精製効果が高い点でも優位性がある。
【実施例】
【0010】
[実施例1]
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸10gにエタノール57mLを加え、加熱して完全に溶解させた。40℃以上に保ちながらヘプタンを133mL添加した。この溶液を40℃まで冷却し、析出した結晶をろ取したのちに乾燥した。得られた結晶の粉末X線回折を行ったところ、A晶であった。
[実施例2]
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸10gに2−プロパノール115mLを加え、加熱して完全に溶解させた。室温以上に保ちながらヘプタンを67mL添加した。この溶液を室温まで冷却し、析出した結晶をろ取したのちに乾燥した。得られた結晶の粉末X線回折を行ったところ、A晶であった。
[実施例3]
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸10gに1−プロパノール40mLを加え、加熱して完全に溶解させた。室温以上に保ちながらヘプタンを80mL添加した。この溶液を0℃まで冷却し、析出した結晶をろ取したのちに乾燥した。得られた結晶の粉末X線回折を行ったところ、A晶であった。
[実施例4]
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸10gにアセトン115mLを加え、加熱して完全に溶解させた。15℃まで氷冷バスで急冷し、ヘプタンを67mL添加した。析出した結晶をろ取したのちに乾燥した。得られた結晶の粉末X線回折を行ったところ、A晶であった。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の製造方法によって得られる2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶は、医薬品として用いられる。
図1