特許第5654465号(P5654465)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5654465
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】化粧料用油性基剤及びそれを含む化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/37 20060101AFI20141218BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20141218BHJP
   A61Q 1/06 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   A61K8/37
   A61Q1/04
   A61Q1/06
【請求項の数】17
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2011-524546(P2011-524546)
(86)(22)【出願日】2009年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2009003635
(87)【国際公開番号】WO2011013174
(87)【国際公開日】20110203
【審査請求日】2012年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】391066319
【氏名又は名称】高級アルコール工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113033
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 精孝
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直樹
(72)【発明者】
【氏名】苔口 由貴
(72)【発明者】
【氏名】川合 清隆
【審査官】 川島 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−076238(JP,A)
【文献】 特開昭54−106415(JP,A)
【文献】 特表2008−516988(JP,A)
【文献】 特開昭55−085509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコールと脂肪酸とから成るエステル化合物を含む化粧料用油性基剤において、エステル化合物が、ジペンタエリスリトールとイソノナン酸とから成り、かつ該エステル化合物中のジペンタエリスリトール残基とイソノナン酸残基とのモル比が、1.0:3.0〜1.0:6.0であり、かつ該エステル化合物が、ジペンタエリスリトールとイソノナン酸とのモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル及びヘキサエステルより成る群から選ばれる2種類以上を含み、かつ唇化粧料として使用することを特徴とする化粧料用油性基剤。
【請求項2】
ジペンタエリスリトール残基とイソノナン酸残基とのモル比が、1.0:3.5〜1.0:6.0である請求項1記載の化粧料用油性基剤。
【請求項3】
ジペンタエリスリトール残基とイソノナン酸残基とのモル比が、1.0:4.0〜1.0:6.0である請求項1記載の化粧料用油性基剤。
【請求項4】
唇化粧料が、リップグロス又はリップスティックである請求項1〜3のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤。
【請求項5】
水酸基価が0〜340である請求項1〜のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤。
【請求項6】
水酸基価が0.5〜200である請求項1〜のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤。
【請求項7】
水酸基価が0.5〜150である請求項1〜のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤。
【請求項8】
けん化価が170〜450である請求項1〜のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤。
【請求項9】
けん化価が175〜360である請求項1〜のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤。
【請求項10】
けん化価が180〜320である請求項1〜のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤。
【請求項11】
粘度(25℃)が500〜40,000mPa・sである請求項1〜10のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤。
【請求項12】
粘度(25℃)が500〜24,000mPa・sである請求項1〜10のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤。
【請求項13】
粘度(25℃)が500〜20,000mPa・sである請求項1〜10のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤。
【請求項14】
多価アルコールと脂肪酸とを反応せしめて、化粧料用油性基剤用のエステル化合物を製造する方法において、多価アルコールがジペンタエリスリトールであり、脂肪酸がイソノナン酸であり、かつ上記反応におけるジペンタエリスリトールとイソノナン酸とのモル当量比が、1.0:3.0〜1.0:6.0であり、かつ得られたエステル化合物が、ジペンタエリスリトールとイソノナン酸とのモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル及びヘキサエステルより成る群から選ばれる2種類以上を含み、かつ唇化粧料として使用されることを特徴とする方法。
【請求項15】
ジペンタエリスリトールとイソノナン酸とのモル当量比が、1.0:3.5〜1.0:6.0である請求項14記載の方法。
【請求項16】
ジペンタエリスリトールとイソノナン酸とのモル当量比が、1.0:4.0〜1.0:6.0である請求項14記載の方法。
【請求項17】
唇化粧料が、リップグロス又はリップスティックである請求項14〜16のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価アルコールと脂肪酸とから成るエステル化合物を含む化粧料用油性基剤及びそれを含む化粧料に関し、更に詳しくは、ジペンタエリスリトールと炭素数5〜16の脂肪酸とから成るエステル化合物を含む化粧料用油性基剤及びそれを含む化粧料、並びに該エステル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の化粧料に使用される油性基剤として、種々のエステル化合物が知られている。
【0003】
特許文献1には、ジペンタエリスリトールに、化学式R−C(COOH)H−(CHCH)−R(式中、Rは炭素数7の分岐の炭化水素を示す)で示される分岐型イソステアリン酸をエステル化して得られる液状エステル組成物であって、25℃における粘度が10万〜200万mPa・s、水酸基価が10〜160、曇り点が5℃未満であることを特徴とする液状エステル組成物が開示されている。該液状エステル組成物は、ジペンタエリスリトールと、特殊な分岐構造を有する炭素数18のステアリン酸とを反応して得られるものである。該液状エステル組成物は、化粧被膜の持続性に優れ、これまでに化粧料中に通常使用されていたポリブテンに匹敵する化粧被膜のツヤ及び潤い感を有すると共に、ポリブテンが有していない顔料分散性能及び含水性能をも有するものである。また、該液状エステル組成物をメイクアップ化粧料に含めると、メイクアップ化粧料の化粧被膜が持続性を発揮するという効果を発揮する。
【0004】
特許文献2には、(A)一般式R−C(COOH)H−CHCH−R(式中、R及びRは炭素数7の分岐の炭化水素基を示し、同じであっても異なっていてもよい)で示される分岐型イソステアリン酸をエステル化して得られる液状エステル組成物、及び、(B)シリコーン樹脂を含有することを特徴とする油性化粧料が開示されている。ここで、成分(A)としては、ペンタイソステアリン酸ジペンタエリスリトール、テトライソステアリン酸ジペンタエリスリトール、トリイソステアリン酸ジペンタエリスリトール、トリイソステアリン酸グリセリル及びトリイソステアリン酸ジグリセリルが挙げられている。また、成分(B)としては、トリメチルシロキシケイ酸及びパーフルオロアルキル・ポリアルキルシロキシケイ酸が挙げられている。特許文献2記載の発明は、塗布時の感覚や光沢、潤い感の持続性及び化粧効果の持続性に優れた油性化粧料を提供するものである。
【0005】
特許文献3には、(A)所定の式で示されるフッ素ポリエーテル共変性シリコーンと、(B)ジペンタエリスリトールに、一般式R−C(COOH)H−CHCH−R(式中、R及びRは炭素数7の分岐の炭化水素基を示し、同じであっても異なっていてもよい)で示される分岐型イソステアリン酸をエステル化して得られる液状エステル組成物であって、25℃における粘度が10万〜200万mPa・s、水酸基価が10〜160、曇り点が5℃未満である液状エステル組成物とを含有することを特徴とする唇化粧料が開示されている。成分(B)のエステル組成物は、特許文献1に記載されたエステル組成物と同じである。特許文献3記載の発明は、該成分(B)を上記の成分(A)と組み合わせて唇化粧料に含めることにより、唇化粧料に、優れた顔料分散性、優れた塗布時の使用感、優れた塗布時の光沢、優れた潤い感の持続性及び優れた化粧効果の持続性を付与するものである。
【0006】
上記の特許文献1〜3に記載された発明は、いずれも、特殊な分岐構造を有する炭素数18のイソステアリン酸をエステル化した組成物を使用するものである。得られた液状エステル組成物の粘度は著しく高く、スキンケア化粧料等に使用すると皮膚に不快なべたつきが生ずるという問題があった。また、このような特殊な物質を使用することから、製造コストがより高くなると言う問題も有していた。
【0007】
特許文献4には、所定の式で表わされる補酵素と、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸と分岐多価アルコールとをエステル化して得られる中鎖脂肪酸エステルとを含有し、水を配合しない油性皮膚用組成物が開示されている。特許文献4記載の発明は、調製時に補酵素が結晶化及び凝集を生じず均一に溶解し得、かつ皮膚に対する安全性及び安定性に問題がなく、皮膚に適用する際の使用感が良好であり、かつ肌のハリ・シワ・たるみの改善に効果の高い油性皮膚用組成物を提供するものである。ここで、分岐多価アルコールとして、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン及びイソペンチリグリコールが挙げられている。特に好ましい分岐多価アルコールが、ネオペンチルグリコールであることが記載されている。一方、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸としては、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、2−エチルヘキサン酸が挙げられている。また、実施例においては、中鎖脂肪酸エステルとして、ジデカン酸ネオペンチルグリコール、ジ2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール及びテトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリチルが使用されているに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/3992号パンフレット
【特許文献2】特開2006−111543号公報
【特許文献3】特開2006−45102号公報
【特許文献4】特開2007−84505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ジペンタエリスリトールと炭素数5〜16の脂肪酸とから成り、かつジペンタジエリスリトール残基と炭素数5〜16の脂肪酸残基とを所定のモル比で有するエステル化合物を含む、新規な化粧料用油性基剤及びそれを含む化粧料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の特許文献1〜3には、ジペンタエリスリトールと特殊な分岐型イソステアリン酸とを反応して得られる液状エステル組成物が開示されている。該エステル組成物は化粧料に使用されて種々の効果を期待できるものの、スキンケア化粧料等として使用すると肌に不快なべたつき感を生じ、また、比較的高い製造コストを要すると言う欠点があった。文献4には、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸と分岐多価アルコールとをエステル化して得られる中鎖脂肪酸エステルを油性皮膚用組成物に含めることが記載されている。分岐多価アルコールとして、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン及びイソペンチリグリコールの6種類のアルコールが挙げられており、その中でネオペンチルグリコールが特に好ましいことが記載されている。また、実施例においても、ネオペンチルグリコールを使用した中鎖脂肪酸エステルを使用した態様が挙げられている。上記のように分岐多価アルコールとして、ジペンタエリスリトールも挙げられてはいるが、それを使用して得られた中鎖脂肪酸エステルの効果は、文献4の記載によれば、ネオペンチルグリコールを使用した中鎖脂肪酸エステルの効果に比べて劣るとされている。加えて、ジペンタエリスリトールを使用して得られた中鎖脂肪酸エステルは実施例において使用されていない。従って、文献4に記載された分岐多価アルコールの中から、より優れた効果を有する化粧料を得ようとして、あえて効果の劣るとされているジペンタエリスリトールを選び出して使用する動機はない。
【0011】
本発明者らは、化粧料用油性基剤として使用し得るより優れたエステル化合物をより容易かつ安価に製造すべく、種々の検討を重ねた。その結果、従来から公知の多数のエステル原料の中から、脂肪酸として、特許文献1〜3に記載されているような特殊な分岐構造を有する炭素数18個のイソステアリン酸に代えて、より汎用的で容易に入手し得る下記所定の炭素数を有する脂肪酸に着目した。一方、多価アルコールとして、特許文献4において中鎖脂肪酸エステルの原料としてあまり好ましいものとはされていなかったジペンタエリスリトールに着目した。そして、この両者を所定のモル当量比で反応せしめてエステル化合物を製造したところ、得られたエステル化合物が、しっとりとした適度な油性感を有し、皮膚に対する不快なべたつきがなく、皮膚に対する安全性及び密着性に優れ、皮膚に塗布した後の光沢性の保持効果に優れ、かつ各種油剤との相溶性に優れることを見出したのである。加えて、該エステル化合物を種々の化粧料に含めると、化粧料に、適度なエモリエント性及び保湿性、並びに不快なべたつきのない適度な油性感を付与し得るばかりではなく、光沢の持続性、滑らかな使用感、皮膚に対する密着性及び安全性、化粧効果の持続性、並びに保存安定性をも付与し得ることを見出した。ジペンタエリスリトールと所定の炭素数を有する脂肪酸とを所定のモル当量比で反応せしめて得られた、1種類以上のエステル化合物を含む化粧料用油性基剤が、上記種々の効果を有することは、今まで知られていない全く新しい知見である。
【0012】
即ち、本発明は、
(1)多価アルコールと脂肪酸とから成るエステル化合物を含む化粧料用油性基剤において、エステル化合物が、ジペンタエリスリトールとイソノナン酸とから成り、かつ該エステル化合物中のジペンタエリスリトール残基とイソノナン酸残基とのモル比が、1.0:3.0〜1.0:6.0であり、かつ該エステル化合物が、ジペンタエリスリトールとイソノナン酸とのモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル及びヘキサエステルより成る群から選ばれる2種類以上を含み、かつ唇化粧料として使用することを特徴とする化粧料用油性基剤である。
【0013】
好ましい態様として、
(2)ジペンタエリスリトール残基とイソノナン酸残基とのモル比が、1.0:3.5〜1.0:6.0である上記(1)記載の化粧料用油性基剤、
(3)ジペンタエリスリトール残基とイソノナン酸残基とのモル比が、1.0:4.0〜1.0:6.0である上記(1)記載の化粧料用油性基剤、
(4)唇化粧料が、リップグロス又はリップスティックである上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤、
)水酸基価が0〜340である上記(1)〜()のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤、
)水酸基価が0.5〜200である上記(1)〜()のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤、
)水酸基価が0.5〜150である上記(1)〜()のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤、
)けん化価が170〜450である上記(1)〜()のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤、
)けん化価が175〜360である上記(1)〜()のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤、
10)けん化価が180〜320である上記(1)〜()のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤、
11)粘度(25℃)が500〜40,000mPa・sである上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤、
12)粘度(25℃)が500〜24,000mPa・sである上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤、
13)粘度(25℃)が500〜20,000mPa・sである上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の化粧料用油性基剤、
を挙げることができる。
【0014】
本発明は、また、
14)多価アルコールと脂肪酸とを反応せしめて、化粧料用油性基剤用のエステル化合物を製造する方法において、多価アルコールがジペンタエリスリトールであり、脂肪酸がイソノナン酸であり、かつ上記反応におけるジペンタエリスリトールとイソノナン酸とのモル当量比が、1.0:3.0〜1.0:6.0であり、かつ得られたエステル化合物が、ジペンタエリスリトールとイソノナン酸とのモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル及びヘキサエステルより成る群から選ばれる2種類以上を含み、かつ唇化粧料として使用されることを特徴とする方法である。
【0015】
好ましい態様として、
15)ジペンタエリスリトールとイソノナン酸とのモル当量比が、1.0:3.5〜1.0:6.0である上記(14)記載の方法、
16)ジペンタエリスリトールとイソノナン酸とのモル当量比が、1.0:4.0〜1.0:6.0である上記(14)記載の方法、
(17)唇化粧料が、リップグロス又はリップスティックである上記(14)〜(16)のいずれか一つに記載の方法
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の化粧料用油性基剤は、しっとりとした適度な油性感を有し、不快なべたつきがなく、皮膚に対する安全性及び密着性に優れ、皮膚に塗布した後の光沢性の保持効果に優れ、かつ各種油剤との相溶性に優れる。また、種々の化粧料に含めると、化粧料に、適度なエモリエント性及び保湿性、並びに不快なべたつきのない適度な油性感を付与し得るばかりではなく、光沢の持続性、滑らかな使用感、皮膚に対する密着性及び安全性、化粧効果の持続性、並びに保存安定性をも付与し得る。例えば、スキンケア化粧料として使用すると、しっとりとした適度な油性感を有し、不快なべたつき及び刺激がなく、安全性に優れたものとなる。ヘアケア化粧料として使用すると、スキンケア化粧料と同様の効果を奏するばかりではなく、毛髪へのなじみに優れたものとなる。メーキャップ化粧料として使用すると、適度な油性感を有し、不快なべたつきがなく、潤い感の持続性があり、肌上での伸び及び肌への付きが良好となる。また、顔料分散性に優れており、塗布後長時間経過しても、従来のシリコーン油主体の化粧料に見られる独特のテカリが生じ難く、かつ肌によくなじみ、よれ、くずれが生じ難いものとなる。唇化粧料として使用すると、適度な油性感を有し、不快なべたつきがなく、潤い感の持続性があり、唇上で滑りやすく、上滑りがなく、かつ、唾液により混濁することもなく、ツヤ感の持続性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の化粧料用油性基剤に含まれるエステル化合物は、多価アルコールであるジペンタエリスリトールと、炭素数5〜16、好ましくは炭素数8〜16、より好ましくは炭素数9〜16の脂肪酸より成る群から選ばれる1種以上とから成る。該脂肪酸は直鎖又は分岐のいずれでもよく、また、飽和又は不飽和のいずれでもよい。例えば、n−ペンタン酸、ネオペンタン酸、n−ヘキサン酸、イソヘキサン酸、オクタン酸、イソノナン酸、ノナン酸、2−エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸等を挙げることができる。これらのうち、好ましくはイソノナン酸、ネオペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸が挙げられ、更に好ましくはイソノナン酸が挙げられる。
【0018】
エステル化合物中のジペンタエリスリトール残基と上記脂肪酸残基とのモル比は、1.0:3.0〜1.0:6.0、好ましくは1.0:3.5〜1.0:6.0、より好ましくは1.0:4.0〜1.0:6.0である。脂肪酸残基のモル比が上記下限未満のものを得ようとして、エステル化合物を製造する際に、ジペンタエリスリトールに対する脂肪酸のモル当量比を3.0未満にすると、ジペンタエリスリトールを十分に反応させることができず、不要な未反応のジペンタエリスリトールが、エステル化合物を含む反応生成物中に多く残存する。従って、反応生成物全体を化粧料用油性基剤として使用すると、エステル化合物が本発明の効果を発揮し得ない。この現象は、エステル化合物を製造する際に、ジペンタエリスリトールに対する脂肪酸のモル当量比を減らせば減らすほど顕著となり、脂肪酸のモル当量比が、ジペンタエリスリトールに対して約2.0以下では、過剰なジペンタエリスリトールの存在によりエステル化合物を殆ど得ることができなくなる。
【0019】
ジペンタエリスリトールと上記脂肪酸とから成るエステル化合物は、ジペンタエリスリトールと上記脂肪酸とのモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル及びヘキサエステルである。本発明の化粧料用油性基剤は、ジペンタエリスリトールと炭素数5〜16の脂肪酸とから成る上記エステル化合物を1種類以上、好ましくは2種類以上含む。
【0020】
本発明の化粧料用油性基剤には、上記エステル化合物に加えて、上記エステル化合物を製造する際に副生成物等として生成する物質及び未反応物質を含むことができる。副生成物等として生成する物質は明らかではないが、例えば、原料由来の物質、酸無水物、ジペンタエリスリトールの自己縮合物、エステル重合物等であると推定される。これら物質の含有量は、反応に使用するジペンタエリスリトールと炭素数5〜16の脂肪酸とのモル当量比、該脂肪酸の種類等に依存して変化するが、化粧料用油性基剤中に、好ましくは2.0質量%以下である。本発明の化粧料用油性基剤は、これらの副生成物等を分離せずして使用し得る。従って、分離等の操作を省略できると言う利点がある。もちろん、これらの副生成物を分離除去して使用しても差し支えない。
【0021】
本発明のエステル化合物を含む化粧料用油性基剤の水酸基価の上限は、好ましくは340、より好ましくは200、更に好ましくは150であり、下限は特に制限はないが、好ましくは0.5である。上記上限を超えては、油性基剤との相溶性が悪くなり、上記下限未満では、保湿性又はエモリエント性が乏しくなる。
【0022】
本発明の化粧料用油性基剤のけん化価の上限は、好ましくは450、より好ましくは360、更に好ましくは320であり、下限は、好ましくは170、より好ましくは175、更に好ましくは180である。上記上限を超えては、皮膚に対する密着性が低下し、上記下限未満では、皮膚に適用した際に不快なべたつき感があり、化粧料用として好ましくない。
【0023】
本発明の化粧料用油性基剤の粘度(25℃)の上限は、好ましくは40,000mPa・s、より好ましくは24,000mPa・s、更に好ましくは20,000mPa・sであり、下限は、好ましくは500mPa・sである。上記上限を超えては、粘着性が強く、皮膚に適用した場合に不快なべたつき感があり、上記下限未満では、皮膚に対する密着性が低下し、化粧料用として好ましくない。
【0024】
上記本発明の化粧料用油性基剤は、種々の化粧料、例えば、スキンクリーム、ヘアトリートメント、ファンデーション、マスカラ、アイシャドウ、リップグロス及びリップスティック等に含めて使用することができる。化粧料中の該油性基剤の含有量は、化粧料の種類に依存するが、好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは0.5〜70質量%、更に好ましくは0.5〜60質量%で含まれる。
【0025】
本発明の化粧料用油性基剤に含まれるエステル化合物は、ジペンタエリスリトールと、炭素数5〜16、好ましくは炭素数8〜16、より好ましくは炭素数9〜16の脂肪酸より成る群から選ばれる1種以上とを、ジペンタエリスリトール対該脂肪酸のモル当量比で1.0:3.0〜1.0:6.0、好ましくは1.0:3.5〜1.0:6.0、より好ましくは1.0:4.0〜1.0:6.0で反応させることにより製造することができる。ここで、該脂肪酸は上記と同じものを使用することができる。ジペンタエリスリトールに対する該脂肪酸のモル当量比が、3.0未満では、上記の通り、ジペンタエリスリトールを十分に反応させることができず、不要な未反応のジペンタエリスリトールが、エステル化合物を含む反応物中に多く残存する。従って、反応物全体を化粧料用油性基剤として使用すると、エステル化合物が本発明の効果を発揮し得ない。この現象は、エステル化合物を製造する際に、ジペンタエリスリトールに対する脂肪酸のモル当量比を減らせば減らすほど顕著となり、脂肪酸のモル当量比が、ジペンタエリスリトールに対して約2.0以下では、過剰なジペンタエリスリトールの存在によりエステル化合物を殆ど得ることができなくなる。一方、反応において、ジペンタエリスリトールに対して過剰の脂肪酸を仕込むことは可能である。しかし、生成物中に未反応の脂肪酸が含まれるとエステル化合物の性質を損なうことがある故、通常、反応後に未反応の脂肪酸を除去することが好ましい。ジペンタエリスリトールと上記脂肪酸との反応は、従来公知の方法により実施することができる。
【0026】
本発明のエステル化合物を含む化粧料用油性基材は、種々の化粧料、例えば、スキンクリームのようなスキンケア化粧料、ヘアトリートメントのようなヘアケア化粧料、ファンデーション、マスカラ、アイシャドウのようなメーキャップ化粧料、リップグロス、リップスティックのような唇化粧料に含めて使用することができる。通常、上記のようにして製造された1種類以上のエステル化合物を含む反応生成物をそのまま油性基剤として使用するが、所望により該反応生成物中に含まれる不純物等を除去して使用することもできる。上記の各化粧料は、従来公知の方法により調製することができる。
【0027】
以下の実施例において、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
合成実施例及び合成比較例
合成実施例及び合成比較例において使用した物質は、特に記載のない限り下記の通りである。
ジペンタエリスリトール:広栄化学工業株式会社製ジ・ペンタリット(商標)
イソノナン酸[C(CH)CHCH(CH)CHCOOH]:協和発酵ケミカル株式会社製キョーワノイック−N(商標)
ネオペンタン酸[(CHCCOOH]:エクソンモービル有限会社製ネオペンタン酸(商標)
2−エチルヘキサン酸[CH(CHCH(CHCH)COOH]:協和発酵ケミカル株式会社製オクチル酸(商標)
ネオデカン酸[C19COOH、構造異性体の混合物]:エクソンモービル有限会社製ネオデカン酸(商標)
イソミリスチン酸[CHCH(CH)(CHCH[CH3CH(CH3)CH2CH2]COOHとCH3(CH22CH(CH3)(CH22CH[CH3(CH22CH(CH3)]COOHとの混合物]:日産化学工業株式会社製イソミリスチン酸(商標)
イソパルミチン酸[CH(CHCH(C13)COOH]:日産化学工業株式会社製イソパルミチン酸(商標)
イソブタン酸(イソ酪酸)[(CHCHCOOH]:東洋合成工業株式会社製2−メチル酪酸(商標)
イソステアリン酸[C1735COOH、構造異性体の混合物]:高級アルコール工業株式会社製イソステアリン酸EX(商標)
【0029】
合成実施例及び合成比較例において得られたジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの酸価、水酸基価、けん化価、粘度、密着性及び光沢性は、以下のようにして測定した。
【0030】
<酸価>
化粧品原料基準18.酸価測定法に準拠して測定したものである。
【0031】
<水酸基価>
化粧品原料基準24.水酸基価測定法に準拠して測定したものである。
【0032】
<けん化価>
化粧品原料基準16.けん化価測定法に準拠して測定したものである。
【0033】
<粘度>
ブルックフィールド粘度計 DV‐II+(スピンドルNo.3、12rpm、25℃)により測定したものである。
【0034】
<密着性>
合成実施例及び合成比較例で得られたジペンタエリスリトール脂肪酸エステル0.1グラムを上腕部内側に塗布し、塗布後の「密着性」について、パネラー20名で評価を行った。評価結果は、20人中15人以上が「密着性良好」と回答した場合を「G」で示し、20人中6〜9人が「密着性良好」と回答した場合を「M」で示し、20人中5人以下が「密着性良好」と回答した場合を「B」で示した。
【0035】
<ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルのみの光沢性>
パラフィン紙上に、約1グラムのジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを、縦:約20mm、横:約40mm、厚さ:約200μmで塗布する。グロスチェッカーIG−330(商標、株式会社堀場製作所製)を使用して、入射角60度、反射角60度にて3回光沢を測定し、平均値を光沢性とした。
【0036】
<水と接触した時の光沢性>
ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルと唾液が接触すると白濁して、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの光沢性が低下して見た目のツヤに大きな影響を及ぼす。これを評価するために、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルが水と接触した時のジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの透過率を光沢性の目安とした。石英板上に、約1グラムのジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを、縦:約10mm、横:約20mm、厚さ:約200μmで塗布した後、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル上に精製水を0.1ミリリットル滴下する。指でジペンタエリスリトール脂肪酸エステルと水とを5往復軽く練る。次いで、ヘラを用いて塗布面を平滑にした後、紫外可視分光光度計[島津製作所製UV−160A(商標)]を使用し透過率(T%)を測定する。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル単独の透過率を100%として水と接触時の透過率を求めた。光沢性はジペンタエリスリトール脂肪酸エステル単独の透過率との差により評価した。ここで、透過率は波長400〜800nmでスキャンして求めた平均透過率を意味する。
【0037】
[合成実施例1]
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入管、ディーンスターク水分計及びコンデンサーを取り付けた3,000ミリリットルの4つ口フラスコに、ジペンタエリスリトール381.5グラム(1.5mol)、イソノナン酸(炭素数9)948グラム(6.0mol)、溶媒としてのトルエン150
ミリリットル、触媒としてのパラトルエンスルホン酸4.0グラムを仕込んだ。次いで、窒素を20ミリリットル/minで流しながら200℃に加熱した。該温度で、生成水を溶媒と共沸させながら留去しつつ反応させた。生成水の留出が少なくなったところで温度を220℃に上げて更に反応を続け、生成水の留出が無くなったところで反応を停止した。ここまで、反応開始から約20時間であった。次いで、温度を180℃に下げた後に減圧(約20mmHg)にして、溶媒(トルエン)を完全に除去した。得られた反応生成物に対して、常法により脱色・脱臭の精製処理を施した。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル(淡黄色粘性油状物)952.3グラム(酸価:0.65、水酸基価:125、けん化価:277.7)が得られた。
【0038】
反応に使用したジペンタエリスリトール及びイソノナン酸のモル当量比は1.0:4.0であった。
【0039】
得られたジペンタエリスリトール脂肪酸エステルに水酸化カリウム・エタノール溶液を加えて、加水分解した。次いで、得られた加水分解生成物をろ過して、不けん化物を分離した。次いで、ろ液からエタノールを除去し、ろ液を塩酸酸性にした後、けん化物をヘキサンで抽出した。これら不けん化物及びけん化物を、夫々、常法によりシリル化及びメチル化した後、ガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジー株式会社製6890N)により分析して、同定及び定量した。その結果、得られたジペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、ジペンタエリスリトールとイソノナン酸とから成り、かつジペンタエリスリトール残基とイソノナン酸残基とのモル比が、1.0:4.0であることが分かった。
【0040】
[合成実施例2]
イソノナン酸の仕込み量を1422グラム(9.0mol)に変えた以外は、合成実施例1と同一にして実施した。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル(淡黄色高粘性油状物)1392グラム(酸価:0.02、水酸基価:1.1、けん化価:303.5)が得られた。
【0041】
反応に使用したジペンタエリスリトール及びイソノナン酸のモル当量比は1.0:6.0であった。
【0042】
[合成実施例3]
イソノナン酸の仕込み量を711グラム(4.5mol)に変えた以外は、合成実施例1と同一にして実施した。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル(淡黄色高粘性油状物)802グラム(酸価:0.43、水酸基価:226.1、けん化価:256.4)が得られた。
【0043】
反応に使用したジペンタエリスリトール及びイソノナン酸のモル当量比は1.0:3.0であった。
【0044】
[合成実施例4]
イソノナン酸に変えてネオペンタン酸(炭素数5)を612.8グラム(6.0mol)仕込んだ以外は、合成実施例1と同一にして実施した。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル(淡黄色高粘性油状物)815グラム(酸価:0.26、水酸基価:171.3、けん化価:376.2)が得られた。
【0045】
反応に使用したジペンタエリスリトール及びネオペンタン酸のモル当量比は1.0:4.0であった。
【0046】
[合成実施例5]
イソノナン酸に変えて2−エチルヘキサン酸(炭素数8)を865.3グラム(6.0mol)仕込んだ以外は、合成実施例1と同一にして実施した。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル(淡黄色高粘性油状物)1034グラム(酸価:0.48、水酸基価:133.8、けん化価:298.3)が得られた。
【0047】
反応に使用したジペンタエリスリトール及び2−エチルヘキサン酸のモル当量比は1.0:4.0であった。
【0048】
[合成実施例6]
イソノナン酸に変えてネオデカン酸(炭素数10)を1033.6グラム(6.0mol)仕込んだ以外は、合成実施例1と同一にして実施した。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル(淡黄色高粘性油状物)1032.5グラム(酸価:0.39、水酸基価:116.6、けん化価:259.8)が得られた。
【0049】
反応に使用したジペンタエリスリトール及びネオデカン酸のモル当量比は1.0:4.0であった。
【0050】
[合成実施例7]
イソノナン酸に変えてイソミリスチン酸(炭素数14)を1370グラム(6.0mol)仕込んだ以外は、合成実施例1と同一にして実施した。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル(淡黄色高粘性油状物)1347.9グラム(酸価:0.67、水酸基価:93.1、けん化価:204.2)が得られた。
【0051】
反応に使用したジペンタエリスリトール及びイソミリスチン酸のモル当量比は1.0:4.0であった。
【0052】
[合成実施例8]
イソノナン酸に変えてイソパルミチン酸(炭素数16)を1539グラム(6.0mol)仕込んだ以外は、合成実施例1と同一にして実施した。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル(淡黄色高粘性油状物)1431.9グラム(酸価:0.92、水酸基価:79.0、けん化価:182.4)が得られた。
【0053】
反応に使用したジペンタエリスリトール及びイソパルミチン酸のモル当量比は1.0:4.0であった。
【0054】
[合成比較例1]
イソノナン酸の仕込み量を474グラム(3.0mol)に変えた以外は、合成実施例1と同一にして実施した。しかし、未反応のジペンタエリスリトールが大量に残存し、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを得ることが出来なかった。
【0055】
反応に使用したジペンタエリスリトール及びイソノナン酸のモル当量比は1.0:2.0であった。
【0056】
[合成比較例2]
イソノナン酸に変えてイソブタン酸(イソ酪酸)(炭素数4)を528.7グラム(6.0mol)仕込んだ以外は、合成実施例1と同一にして実施した。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル(淡黄色高粘性油状物)665.8グラム(酸価:0.15、水酸基価:189.1、けん化価:420.3)が得られた。
【0057】
反応に使用したジペンタエリスリトール及びイソブタン酸(イソ酪酸)のモル当量比は1.0:4.0であった。
【0058】
[合成比較例3]
イソノナン酸に変えてイソステアリン酸(炭素数18)を1740グラム(6.0mol)仕込んだ以外は、合成実施例1と同一にして実施した。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル(淡黄色高粘性油状物)1671.2グラム(酸価:0.05、水酸基価:74.5、けん化価:169.7)が得られた。
【0059】
反応に使用したジペンタエリスリトール及びイソステアリン酸のモル当量比は1.0:4.0であった。
【0060】
表1に合成実施例及び合成比較例により得られた各物質の性状を示す。
【0061】
【表1】
表中、*1は、未反応のジペンタエリスリトールが大量に残存し、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルが得られなかったものである。
【0062】
合成実施例1〜3は、本発明の範囲内でイソノナン酸(炭素数9)のモル当量比を変化させたものである。得られたジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの光沢性は良好であり、加えて、水と接触した時の光沢性の低下は著しく小さかった。また、密着性も良好であった。粘度は、合成実施例2のものが著しく低くなった。合成実施例4、5、6、7及び8は、合成実施例1のイソノナン酸に代えて、夫々、炭素数5のネオペンタン酸、炭素数8の2−エチルヘキサン酸、炭素数10のネオデカン酸、炭素数14のイソミリスチン酸及び炭素数16のイソパルミチン酸を使用したものである。いずれの実施例においても、得られたジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの光沢性は、イソノナン酸を使用した合成実施例1に比べて多少低下するが、本発明の効果を十分に発揮するものであり、水と接触した時の光沢性の低下も小さかった。また、密着性も良好であった。また、ネオペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、イソミリスチン酸及びイソパルミチン酸については、イソノナン酸と同様に、反応におけるモル当量比が1.0:3.0及び1.0:6.0であるときに、密着性の低下はなくいずれも良好であり、かつ光沢性も大きな低下は認められず良好であった。
【0063】
一方、合成比較例1は、合成実施例1においてイソノナン酸のモル当量比を本発明の範囲未満にしたものである。未反応のジペンタエリスリトールが大量に残存して、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルが得られなかった。合成比較例2及び3は、合成実施例1のイソノナン酸に代えて、いずれも本発明の範囲外の炭素数を有する脂肪酸、夫々、炭素数4のイソブタン酸(イソ酪酸)及び炭素数18のイソステアリン酸を使用したものである。合成比較例2で得られたジペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、密着性が著しく悪く、かつ臭い及び皮膚安全性に劣るものであった。ここで、臭いは人間の五感により判断したものであり、皮膚安全性は、下記の実施例及び比較例における方法に準拠し、得られたジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを0.05グラム使用して実施した。また、合成比較例3で得られたジペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、水分接触時の光沢性に著しく劣るものであった。加えて、密着性も良好とは言えなかった。
【0064】
実施例及び比較例
実施例及び比較例で使用した物質は、特に記載のない限り下記の通りである。
【0065】
スクワラン:高級アルコール工業株式会社製オリーブスクワラン
(イソステアリン酸ポリグリセリル−2/ダイマージリノール酸)コポリマー:高級アルコール工業株式会社製ハイルーセント ISDA(商標)
ステアリン酸ポリグリセリル‐10:日光ケミカルズ株式会社製NIKKOL Decaglyn 1−SV(商標)
ポリソルベート−80:花王株式会社製レオドール TW−0120V(商標)
水添レシチン:日光ケミカルズ株式会社製NIKKOL レシノール S−10EX(商標)
ベヘニルアルコール:高級アルコール工業株式会社製ベヘニルアルコール 65(商標)
水添ナタネ油アルコール:高級アルコール工業株式会社製アルコールNo.20−B(商標)
セトステアリルアルコール:高級アルコール工業株式会社製セトステアリルアルコール(商標)
ペンチレングリコール:高級アルコール工業株式会社製ジオール PD(商標)
パラフィン:株式会社伊那貿易商会製PARAFFIN WAX SP(商標)
ジプロピレングリコール(DPG):株式会社クラレ製DPG−RF(商標)
1,3−ブチレングリコール(1,3−BG):高級アルコール工業株式会社製ハイシュガーケインBG(実施例2、13及び14において使用)
1,3−ブチレングリコール(1,3−BG):ダイセル化学工業製1,3−ブチレングリコール(実施例6及び7並びに比較例2において使用)
シア脂:高級アルコール工業株式会社製シアバターRF(商標)
グリセリン:高級アルコール工業株式会社製トリオール VE(商標)
(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマー:クラリアント社製Aristoflex AVC(商標)
キサンタンガム:三晶株式会社製KELTROL T(商標)
カルボマー:日光ケミカルズ株式会社製カーボポールETD2050(商標)
ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル:高級アルコール工業株式会社製ハイルーセント 138DP(商標)
コハク酸ビスエトキシジグリコール:高級アルコール工業株式会社製ハイアクオスターDCS(商標)
ホホバ油:高級アルコール工業株式会社製エコオイル RS(商標)
マカデミアナッツ油:日光ケミカルズ株式会社製NIKKOL マカデミアンナッツ油(商標)
ステアリルアルコール:高級アルコール工業株式会社製ステアリルアルコール NX(商標)
ステアリルトリモニウムクロリド:Clariant社製Genamin STAC(商標)
ジステアリルジモニウムクロリド:Clariant社製Genamin DSAC(商標)
ベヘントリモニウムクロリド:Clariant社製Genamin KDM−P(商標)
ジココジモニウムクロリド:竹本油脂株式会社製パイオニンB−2211(商標)
アモジメチコン:東レ・ダウコーニング株式会社製SF 8452 C(商標)
シクロメチコン:東レ・ダウコーニング株式会社製SH245 Fluid(商標)
ジメチコン:GE東芝シリコーン株式会社製TSF451−100A(商標)(実施例3〜5で使用)
ジメチコン:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製TSF451−10A(商標)(実施例6、7、9及び比較例2において使用)
フェノキシエタノール:東邦化学工業株式会社製ハイソルブ EPH(商標)
ヒドロキシエチルセルロース:住友精化株式会社製HEC(商標)
ヒドロキシプロピルメチルセルロース:信越化学工業株式会社製メトローズ 60SH−4000(商標)
ポリクオタニウム-7:ライオン株式会社製リポフローMN(商標)
加水分解シルク:株式会社成和化成製プロモイスシルク‐1000Q(商標)
高重合メチルポリシロキサン(1):東レ・ダウコーニング株式会社製BY 22−029(商標)
マイカ:Merck社製Timiron Star Luster MP−1001(商標)
酸化チタン被覆雲母:Merck社製Timiron Star Luster MP−115(商標)
シリコーン処理硫酸バリウム:堺化学工業株式会社製板状硫酸バリウムHシリーズ(商標)
窒化ホウ素:水島合金鉄株式会社製ボロンナイトライドSHP−6(商標)
球状PMMA粉体:積水化成品工業株式会社製MBX−8C(商標)
タルク:US Cosmetic Corporation製Soft Talc(商標)
ナイロンパウダー:東レ株式会社製ナイロンパウダーTR−1(商標)
シリコーン処理微粒子酸化チタン:テイカ株式会社製SMT−100SAS(商標)
シリコーン処理微粒子酸化亜鉛:テイカ株式会社製MZ−505S(商標)
シリコーン処理酸化チタン:US Cosmetic Corporation製DHL−TRI−77891(商標)
シリコーン処理黄酸化鉄:US Cosmetic Corporation製DHL−Y−77492(商標)
シリコーン処理赤酸化鉄:US Cosmetic Corporation製DHL−R−77491(商標)
シリコーン処理黒酸化鉄:US Cosmetic Corporation製DHL−B−77499(商標)
トリエチルヘキサノイン:高級アルコール工業株式会社製TOG
ジイソノナン酸ネオペンチルグリコール:高級アルコール工業株式会社製NPDIN
メトキシケイ皮酸エチルヘキシル:ISP社製ESCALOL 557(商標)
トコフェロール:エーザイ株式会社製イーミックスD(商標)
イソステアリン酸ヘキシルデシル:高級アルコール工業株式会社製ICIS
ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール:高級アルコール工業株式会社製KAK NDO(商標)
(ジグリセリン/ジリノール酸/ヒドロキシステアリン酸)コポリマー:高級アルコール工業株式会社製リソカスタ HSDA(商標)
モノイソステアリン酸ソルビタン:日本エマルジョン株式会社製エマレックス SPIS−100(商標)
ジメチコンコポリオール:Evonik Goldschmidt GmbH製ABIL EM90(商標)
エタノール:甘糟化学産業株式会社製エタノール(商標)
パルミチン酸デキストリン:千葉製粉株式会社製レオパール KL2(商標)
マイクロクリスタリンワックス:日興リカ株式会社製精製マイクロクリスタリンワックス
疎水化処理酸化チタン:US Cosmetic Corporation製NHS−TRI−77891(商標)
疎水化処理黄酸化鉄:US Cosmetic Corporation製NHS−Y−77492(商標)
疎水化処理赤酸化鉄:US Cosmetic Corporation製NHS−R−77491(商標)
疎水化処理黒酸化鉄:US Cosmetic Corporation製NHS−B−77499(商標)
ナイロン‐6:宇部興産株式会社製POMP605(商標)
架橋型シリコーン末:東レ・ダウコーニング株式会社製トレフィル E506C(商標)
ミネラルオイル:カネダ株式会社製ハイコール K230(商標)
イソステアリン酸イソステアリル:高級アルコール工業株式会社製ISIS
ミリスチン酸イソセチル:高級アルコール工業株式会社製ICM−R(商標)
ネオデカン酸オクチルドデシル:高級アルコール工業株式会社製ネオライト2000(商標)
デカメチルシクロペンタシロキサン:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製TSF405(商標)
ダイマージリノール酸水添ヒマシ油:高級アルコール工業株式会社製リソカスタ DA−L(商標)
(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン:千葉製粉株式会社製レオパール TT2(商標)
キャンデリラワックス:STRAHL & PITSCH社製CANDELILLA WAX 75(商標)
カルナウバロウ:STRAHL & PITSCH社製CARNAUBA WAX 142(商標)
ミツロウ:三木化学工業株式会社製精製ミツロウ
ポリエチレン:Baker Petrolite社製ポリワックス 500(商標)
青色1号:癸巳化成株式会社製青色1号
リンゴ酸ジイソステアリル:高級アルコール工業株式会社製ハイマレート DIS(商標)
ステアリン酸グリセリル(SE):日本エマルジョン株式会社製EMALEX GMS−195(商標)
疎水化処理群青:Whittaker Clark & Daniels製7104 Ultramarine Blue(商標)
雲母チタン:Merck社製Timiron Star Luster MP−115
(商標)
水添ポリイソブテン:日油株式会社製パールリーム18(商標)
ジイソステアリン酸ポリグリセリル‐2:高級アルコール工業株式会社製リソレックス PGIS22(商標)
トリイソステアリン酸ポリグリセリル‐2:高級アルコール工業株式会社製リソレックス PGIS23(商標)
テトライソステアリン酸ペンタエリスリチル:高級アルコール工業株式会社製KAK PTI(商標)
ヒドロキシステアリン酸エチルヘキシル:高級アルコール工業株式会社製リソカスタ IOHS(商標)
ステアロイルオキシステアリン酸オクチルドデシル:高級アルコール工業株式会社製リソカスタ ODSHS(商標)
オクチルドデカノール:高級アルコール工業株式会社製リソノール 20SP(商標)
ステアリン酸イヌリン:千葉製粉株式会社製レオパール ISL2(商標)
(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル:日清オイリオグループ株式会社製ノムコート HK−G(商標)
ダイマージリノール酸ジ(C20−40)アルキル:Koster Keunen社製Kester Wax K82−D(商標)
ジブチルラウロイルグルタミド:味の素株式会社製GP−1(商標)
ステアリルジメチコン:クラリアント社製Silcare Silicone 41M65(商標)
アミド末端ポリアミド樹脂:Arizona Chemical社製Sylvaclear 200V(商標)
エステル末端ポリアミド樹脂:Arizona Chemical社製Uniclear 100VG(商標)
赤色218号:癸巳化成株式会社製赤色218号
赤色226号:癸巳化成株式会社製赤色226号
赤色201号:癸巳化成株式会社製赤色201号
赤色202号:癸巳化成株式会社製赤色202号
カルミン:Merck 社製COLORONA CARMINE RED(商標)
酸化チタン:石原産業株式会社製タイペークCR−30(商標)
合成金雲母、酸化チタン、酸化鉄[ラメ剤]:トピー工業株式会社製プロミネンス RYH(商標)
ホウケイ酸(Ca/Al)、シリカ、酸化チタン、酸化スズ[ラメ剤]:Merck社製Ronastar Silver(商標)
(PET/ポリメタクリル酸メチル)ラミネート[ラメ剤]:株式会社ダイヤケムコ製イリデッセントグリッターIF8101(商標)
トリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパン:高級アルコール工業株式会社製KAK TTO(商標)
イソノナン酸イソトリデシル:高級アルコール工業株式会社製KAK 139(商標)
イソステアリン酸水添ヒマシ油:高級アルコール工業株式会社製リソカスタ MIS(商標)
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル:高級アルコール工業株式会社製TCG−M(商標)
ネオペンタン酸イソステアリル:高級アルコール工業株式会社製ネオライト 180P(商標)
ジカプリン酸ネオペンチルグリコール:高級アルコール工業株式会社製NPDC(商標)
セレシン:STRAHL & PITSCH社製セレシン SP1020(商標)
合成ワックス、(エチレン/プロピレン)コポリマー:日本ナチュラルプロダクツ社製LIP WAX PZ80−20(商標)
黄色4号アルミニウムレーキ:癸巳化成株式会社製黄色4号アルミニウムレーキ
ベンガラ:US Cosmetic Corporation社製NHS−R−77491(商標)
青色1号アルミニウムレーキ:癸巳化成株式会社製青色1号アルミニウムレーキ
ジメチルシリル化シリカ:日本アエロジル株式会社製アエロジルR972(商標)
【0066】
実施例及び比較例において製造した各化粧料の保存安定性、塗りやすさ(伸びやすさ、空すべり感のなさ)、油性感・保湿性、肌、毛髪、まつ毛、瞼、唇へのなじみ良さ・付きの良さ、皮膚安全性及び光沢性の保持効果は、以下のようにして測定した。
【0067】
<保存安定性>
実施例及び比較例の各化粧料(スキンクリーム、ヘアトリートメント、ファンデーション、マスカラ、アイシャドウ、リップグロス及びリップスティック)を下記所定の方法により、夫々、3個ずつ調製した。次いで、25℃及び45℃の恒温槽内で、夫々、1個ずつ、いずれも1ヶ月間保存した。残りの1個を、夫々、恒温室内で−10℃、25℃、45℃の3つの温度で8時間ずつ保持して、1往復48時間かけて5往復させた。このようにして得たサンプルについて、外観の劣化(粒子の粗大化)の有無、着色着臭の有無、分離の有無について人間の五感により観察した。その結果、外観の劣化及び着色着臭については、いずれのサンプルについても変化が認められなかった。従って、評価は分離の有無のみについて判断した。評価結果は、各サンプルを目視確認し、全てのサンプルで分離がない場合を「G」で示し、一つの温度条件のサンプルに僅かにでも分離がある場合を「M」で示し、二つ以上の温度条件のサンプルに僅かにでも分離がある場合を「B」で示した。
【0068】
<塗りやすさ(伸びやすさ、空すべり感のなさ)>
実施例及び比較例の各化粧料(スキンクリーム、ヘアトリートメント、ファンデーション、マスカラ、アイシャドウ、リップグロス及びリップスティック)の塗布時の「塗り易さ」について、パネラー20名で評価を行った。スキンクリームに関しては、0.5グラムを顔面に塗布した。ヘアトリートメントに関しては、2.0グラムを毛髪に塗布した。ファンデーションに関しては、1.0グラムを顔面に塗布した。マスカラに関しては、0.1グラムをまつ毛に塗布した。アイシャドウに関しては、0.1グラムを瞼に塗布した。リップグロス及びリップスティックに関しては、0.2グラムを唇に塗布した。評価結果は、20人中15人以上が「塗りやすさ良好」と回答した場合を「G」で示し、20人中6〜9人が「塗りやすさ良好」と回答した場合を「M」で示し、20人中5人以下が「塗りやすさ良好」と回答した場合を「B」で示した。
【0069】
<油性感・保湿性>
実施例及び比較例の各化粧料(スキンクリーム、ヘアトリートメント、ファンデーション、マスカラ、アイシャドウ、リップグロス及びリップスティック)の塗布後の「油性感・保湿性」については、上記の「塗りやすさ」の評価方法と同一にして、パネラー20名を使用し、同一箇所に同一量を塗布することにより評価した。評価結果は、20人中15人以上が「適度な油性感・保湿性あり」と回答した場合を「G」で示し、20人中6〜9人が「適度な油性感・保湿性あり」と回答した場合を「M」で示し、20人中5人以下が「適度な油性感・保湿性あり」と回答した場合を「B」で示した。
【0070】
<肌、毛髪、まつ毛、瞼、唇へのなじみ良さ・付きの良さ>
実施例及び比較例の各化粧料(スキンクリーム、ヘアトリートメント、ファンデーション、マスカラ、アイシャドウ、リップグロス及びリップスティック)の肌等へのなじみ良さ、付きの良さについて、パネラー20名で評価を行った。スキンクリームに関しては、0.5グラムを顔面に塗布した。ヘアトリートメントに関しては、2.0グラムを毛髪に塗布した。ファンデーションに関しては、1.0グラムを顔面に塗布した。マスカラに関しては、0.1グラムをまつ毛に塗布した。アイシャドウに関しては、0.1グラムを瞼に塗布した。リップグロス及びリップスティックに関しては、0.2グラムを唇に塗布した。評価結果は、20人中15人以上が「各化粧料塗布後の肌等へのなじみが良好、付きが良好」と回答した場合を「G」で示し、20人中6〜9人が「各化粧料塗布後の肌等へのなじみが良好、付きが良好」」と回答した場合を「M」で示し、20人中5人以下が「各化粧料塗布後の肌等へのなじみが良好、付きが良好」」と回答した場合を「B」で示した。
【0071】
<皮膚安全性>
被試験者は男子10名及び女子10名の合計20名である。前腕屈側部皮膚に、実施例及び比較例において得られた各化粧料の0.05グラムを、直径1.0cmのリント布の付いた円型パッチテスト用絆創膏を用いて24時間閉塞貼布する。絆創膏を除去した後の1時間及び24時間における被試験者20名の皮膚状態を、下記の評価基準に従い評価した。評価には、絆創膏除去後1時間後及び24時間後のうち、反応の強いほうを採用した。(−)が20名のときを「G」、(±)が1〜2名であり他の被験者が(−)のときを「M」、(±)が3名以上であり他の被験者が(−)のとき、又は(+)〜(+++)が1名以上のときを「B」で示した。評価に際し、ヘアトリートメントは0.5%の水溶液を使用した。
【0072】
(評価基準)
(皮膚状態) (評価)
紅斑、浮腫、水疱
: (+++)
紅斑、浮腫 : (++)
紅斑
: (+)
軽微な紅斑 : (±)
無紅斑、無浮腫
: (−)
【0073】
<光沢性の保持効果>
実施例及び比較例の各化粧料(リップグロス及びリップスティック)の塗布後の「光沢性の保持効果」については、パネラー20名を使用して、0.2グラムを唇に塗布し唾液と接触させたときの白濁の程度を目視により観察して評価した。評価結果は、20人中15人以上が「光沢性の保持効果あり」と回答した場合を「G」で示し、20人中6〜9人が「光沢性の保持効果あり」と回答した場合を「M」で示し、20人中5人以下が「光沢性の保持効果あり」と回答した場合を「B」で示した。
【0074】
[実施例1及び2]
スキンクリーム
表2に示した(A)及び(B)の各成分を、夫々別個に75〜80℃において均一に溶解した。次いで、組成物(B)を組成物(A)に攪拌しながら加え、ホモミキサーにより乳化した。次いで、該混合物を攪拌しながら30℃まで冷却してスキンクリームを調製した。
【0075】
[比較例1]
スキンクリーム
合成実施例2のエステル化合物に代えて、合成比較例3のエステル化合物を使用したこと以外は、実施例1と同一にして実施した。
【0076】
実施例1、2及び比較例1の結果を表2に示した。表2及び、以下の表3〜10に示した数値の単位は全て質量%である。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例1及び2は、夫々、合成実施例2及び4のエステル化合物を使用してスキンクリームを製造したものである。エステル化合物の製造に使用した脂肪酸の種類に関係なく、いずれも良好な性状を示した。一方、比較例1は、実施例1において、合成実施例2のエステル化合物を、合成比較例3のエステル化合物、即ち、脂肪酸として炭素数18のイソステアリン酸を使用して得たエステル化合物に代えたものである。エステル化合物を構成する脂肪酸の炭素数が本発明の範囲を超えると、塗りやすさ及び油性感・保湿性が幾分低下し、かつ肌等へのなじみ良さ・付きの良さは悪いものとなった。
【0079】
[実施例3〜6]
ヘアトリートメント
表3に示した(A)及び(B)の各成分を、夫々別個に75〜80℃において均一に溶解した。次いで、組成物(B)を組成物(A)に攪拌しながら加え、ホモミキサーにより乳化した。次いで、攪拌しながら該乳化物に(C)成分を添加し、更に該混合物を攪拌しながら30℃まで冷却してヘアトリートメントを調製した。表3に評価結果を示した。
【0080】
【表3】
【0081】
実施例3及び4は、夫々、合成実施例1及び2のエステル化合物を使用してヘアトリートメントを製造したものである。エステル化合物を構成するイソノナン酸残基のモル比に関係なく、いずれも良好な性状を示した。また、実施例5は、合成実施例1のエステル化合物と合成実施例6のエステル化合物とを使用してヘアトリートメントを製造したものであり、実施例6は、合成実施例1のエステル化合物と合成実施例8のエステル化合物とを使用してヘアトリートメントを製造したものである。脂肪酸の種類が異なるエステル化合物を混合しても、得られたヘアトリートメントは良好な性状を示すことが分かった。
【0082】
[実施例7及び8]
固形粉末ファンデーション
表4に示した(A)の各成分をヘンシェルミキサーにより均一分散させた。別途、(B)の各成分を60℃に加熱して、均一に混合して溶解させる。次いで、ヘンシェルミキサーにより攪拌しながら、組成物(B)を組成物(A)に加え均一分散した。得られた混合物を30℃まで冷却して粉砕した後、金皿に充填し、次いで、圧縮成形して固形粉末ファンデーションを調製した。
【0083】
[比較例2]
固形粉末ファンデーション
合成実施例3のエステル化合物に代えて、合成比較例2のエステル化合物を使用したこと以外は、実施例8と同一にして実施した。
【0084】
実施例7及び8並びに比較例2の結果を表4に示した。
【0085】
【表4】
【0086】
実施例7及び8は、夫々、合成実施例1及び3のエステル化合物を使用して固形粉末ファンデーションを製造したものである。エステル化合物を構成するイソノナン酸残基のモル比に関係なく、いずれも良好な性状を示した。一方、比較例2は、実施例8において、合成実施例3のエステル化合物を、合成比較例2のエステル化合物、即ち、脂肪酸として炭素数4のイソブタン酸(イソ酪酸)を使用して得たエステル化合物に代えたものである。エステル化合物を構成する脂肪酸の炭素数が本発明の範囲未満では、保存安定性、塗りやすさ及び油性感・保湿性が幾分低下し、かつ肌等へのなじみ良さ・付きの良さ及び皮膚安全性は悪いものとなった。
【0087】
[実施例9〜11]
クリーム状ファンデーション(W/O型)
表5に示した(A)及び(B)の各成分を、夫々別個に75〜80℃において均一に溶解した。次いで、組成物(B)を組成物(A)に攪拌しながら加え、ホモミキサーにより乳化した。次いで、該混合物を攪拌しながら30℃まで冷却してクリーム状ファンデーションを調製した。
【0088】
[比較例3]
クリーム状ファンデーション(W/O型)
合成実施例5のエステル化合物に代えて、合成比較例3のエステル化合物を使用したこと以外は、実施例11と同一にして実施した。
【0089】
実施例9〜11及び比較例3の結果を表5に示した。
【0090】
【表5】
【0091】
実施例9、10及び11は、夫々、合成実施例2、4及び5のエステル化合物を使用してクリーム状ファンデーションを製造したものである。エステル化合物の製造に使用した脂肪酸の種類に関係なく、いずれも良好な性状を示した。一方、比較例3は、実施例11において、合成実施例5のエステル化合物を、合成比較例3のエステル化合物、即ち、脂肪酸として炭素数18のイソステアリン酸を使用して得たエステル化合物に代えたものである。クリーム状ファンデーションにおいても、エステル化合物を構成する脂肪酸の炭素数が本発明の範囲を超えると、塗りやすさ及び油性感・保湿性が幾分低下し、かつ肌等へのなじみ良さ・付きの良さは悪いものとなった。
【0092】
[実施例12〜14]
マスカラ
表6に示した各成分中の粉体状成分を除く全ての成分を100℃において均一溶解した後、上記の粉体状成分を加えディスパー分散を行なった。次いで、室温まで攪拌冷却してマスカラを調製した。
【0093】
実施例12〜14の結果を表6に示した。
【0094】
【表6】
【0095】
実施例12、13及び14は、夫々、合成実施例1、6及び8のエステル化合物を使用してマスカラを製造したものである。エステル化合物の製造に使用した脂肪酸の種類に関係なく、いずれも良好な性状を示した。
【0096】
[実施例15〜17]
アイシャドウ
表7に示した(A)及び(B)の各成分を、夫々別個に75〜80℃において均一に溶解した。次いで、組成物(B)を組成物(A)に攪拌しながら加え、ホモミキサーにより乳化した。次いで、該混合物を攪拌しながら30℃まで冷却してアイシャドウを調製した。
【0097】
実施例15〜17の結果を表7に示した。
【0098】
【表7】
【0099】
実施例15、16及び17は、夫々、合成実施例3、5及び7のエステル化合物を使用してアイシャドウを製造したものである。エステル化合物の製造に使用した脂肪酸の種類に関係なく、いずれも良好な性状を示した。
【0100】
[実施例18〜21]
ペースト状リップグロス
表8に示した各成分を110℃において均一に溶解した後、脱泡した。次いで、該混合物を30℃まで冷却してリップグロスを調製した。
【0101】
[比較例4]
ペースト状リップグロス
合成実施例2のエステル化合物に代えて、合成比較例3のエステル化合物を使用したこと以外は、実施例19と同一にして実施した。
【0102】
実施例18〜21及び比較例4の結果を表8に示した。
【0103】
【表8】
【0104】
実施例18〜20は、いずれも合成実施例2のエステル化合物を使用してペースト状リップグロスを製造したものである。エステル化合物の配合量及び配合成分の種類にかかわらず、いずれも良好な性状を示した。また、実施例21は、合成実施例8のエステル化合物を使用してペースト状リップグロスを製造したものである。良好な性状を示した。一方、比較例4は、実施例19において、合成実施例2のエステル化合物を、合成比較例3のエステル化合物、即ち、脂肪酸として炭素数18のイソステアリン酸を使用して得たエステル化合物に代えたものである。塗りやすさが幾分低下し、かつ肌等へのなじみ良さ・付きの良さは悪いものであった。また、表1において示したように、合成比較例3のイソステアリン酸から得られたエステル化合物の、水と接触した時の光沢性の悪さを反映して、該エステル化合物を使用したペースト状リップグロスも、光沢性の保持効果は悪いものとなった。
【0105】
[実施例22及び23]
パレット型リップグロス
表9に示した各成分を110℃において均一に溶解した後、脱泡した。次いで、該混合物を適当な金型に流し込み、30℃まで冷却してリップグロスを調製した。
【0106】
[比較例5]
パレット型リップグロス
合成実施例2のエステル化合物に代えて、合成比較例3のエステル化合物を使用したこと以外は、実施例22と同一にして実施した。
【0107】
実施例22、23及び比較例5の結果を表9に示した。
【0108】
【表9】
【0109】
実施例22及び23は、夫々、合成実施例2及び1のエステル化合物を使用してパレット型リップグロスを製造したものである。これらのエステル化合物自体には光沢性に若干の相違があるが、リップグロスにしたときには、いずれも差なく良好な性状を示した。一方、比較例5は、実施例22において、合成実施例2のエステル化合物を、合成比較例3のエステル化合物、即ち、脂肪酸として炭素数18のイソステアリン酸を使用して得たエステル化合物に代えたものである。塗りやすさが幾分低下し、かつ肌等へのなじみ良さ・付きの良さは悪いものとなった。また、光沢性の保持効果は、比較例4と同様にイソステアリン酸から得られたエステル化合物の性質を反映して悪いものとなった。
【0110】
[実施例24〜27]
リップスティック
表10に示した各成分を110℃において均一に溶解した後、脱泡した。次いで、該混合物を適当な金型に流し込み、10℃で20分間冷却してリップスティックを調製した。
【0111】
[比較例6]
リップスティック
合成実施例5のエステル化合物に代えて、合成比較例3のエステル化合物を使用したこと以外は、実施例27と同一にして実施した。
【0112】
実施例24〜27及び比較例6の結果を表10に示した。
【0113】
【表10】
【0114】
実施例24及び26は、いずれも合成実施例2のエステル化合物を使用してリップスティックを製造したものである。また、実施例25及び27は、いずれも合成実施例5のエステル化合物を使用してリップスティックを製造したものである。いずれも、その配合量及び配合成分の種類にかかわらず良好な性状を示した。一方、比較例6は、実施例27において、合成実施例5のエステル化合物を、合成比較例3のエステル化合物、即ち、脂肪酸として炭素数18のイソステアリン酸を使用して得たエステル化合物に代えたものである。塗りやすさが幾分低下し、かつ肌等へのなじみ良さ・付きの良さは悪いものとなった。光沢性の保持効果は、リップスティックにおいても、イソステアリン酸から得られたエステル化合物の性質を反映して悪いものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の化粧料用油性基剤に含まれるエステル化合物は、従来のエステル化合物では得られなかった化粧料としての効果、例えば、化粧料に、適度なエモリエント性及び保湿性、並びに不快なべたつきのない適度な油性感を付与し得るばかりではなく、光沢の持続性、滑らかな使用感、皮膚に対する密着性及び安全性、化粧効果の持続性、並びに保存安定性をも付与し得ると言う効果を有する。従って、スキンクリーム、ヘアトリートメント、ファンデーション、マスカラ、アイシャドウ、リップグロス、リップスティック等の種々の化粧料において有用である。