(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パスツーリア菌胞子がパスツーリア・ペネトランス(Pasteuria penetrans)、パスツーリア・ラモサ(Pasteuria ramose)、パスツーリア・ソルネイ(Pasteuria thornei)、パスツーリア・ニシザワエ(Pasteuria nishizawae)、およびその任意の組み合わせからなる群より選択されるパスツーリア菌種の胞子を含む、請求項1記載の方法。
植物病原性線虫および/または土壌線虫がアレナリアネコブセンチュウ(Meloidogyne arenaria)、ブラキュルスネグサレセンチュウ(Pratylenchus brachyurus)、ニセフクロセンチュウ(Rotylenchulus reniformis)、ベロノライムス・ロンジカウダタス(Belonolaimus longicaudatus)、およびその任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
植物寄生線虫による作物損失は千億ドルを超過すると見積もられている。この被害を予防することは重要な課題となっている。燻蒸剤臭化メチルの使用廃止が差し迫る中、線虫の防除のための新規の合成化合物を開発し登録するには十分な時間がない。したがって、他の選択肢が必要とされている。
【0003】
植物病原性線虫は厚い不浸透性の角皮または外皮に覆われており、非常にわずかな感覚ニューロンしか有さないため、防除するのが特に困難である。多くの害虫防除化合物は神経毒として作用するので、植物病原性線虫に曝露されるニューロン数が少ないことにより殺線虫化合物が有効な標的部位が減少し、結果的に神経毒性の極めて高い殺線虫化合物が開発されてきた。
【0004】
さらに、植物病原性線虫は土壌または植物の根において認められるために、植物病原性線虫の防除剤への曝露は達成し難しく、また地下水面をこれらの毒性化合物による汚染の危険にさらすことになる。神経毒に基づく殺線虫剤の使用によって、地下水および表層水の双方が汚染されることが示されている。したがって、これらの化合物の多くは公衆衛生上の理由により市場から撤廃されつつある。
【0005】
植付けに先立つ土壌の燻蒸は、線虫を防除する一般的な方法である。最も一般的な燻蒸剤の一つ、臭化メチルは、そのオゾン層破壊特性により使用の廃止が予定されている。さらに、本土壌燻蒸の実施によって土壌中の生物が無差別に殺滅され、病原性生物と同様に有益な微生物までも排除してしまう危険が生じるおそれがある。したがって、環境的に無害で効果的な殺線虫剤が切実に必要とされている。
【0006】
パスツーリア菌(Pasteuria)は1888年にMetchnikoffによってミジンコの寄生虫として最初に説明された(Annales de l’Institut Pasteur 2;165-170(非特許文献1))。続いてCobbにより、線虫ドリライムス・ブルビフェロス(Dorylaimus bulbiferous)のパスツーリア菌感染について説明がなされた(2
nd ed. Hawaiian Sugar Planters Assoc., Expt. Sta. Div. Path. Physiol. Bull. 5:163-195, 1906(非特許文献2))。
【0007】
本細菌の生活環は、土壌中の線虫の角皮に内生胞子が付着する段階を伴う。その後パスツーリア・ペネトランス(P.penetrans)が線虫体内にて増殖し、新しい内生胞子の発達の最盛期である菌糸構造および葉状体を含む幾つかの形態学的な相を経る。内生胞子は線虫の虫体溶解の際に放出される。
【0008】
線虫体内における細菌の成長によって、線虫の産卵が減少または排除され、線虫の生殖率が厳しく制限される。宿主作物の経済的被害は、線虫の第一世代の子孫によって通常与えられ、パスツーリア菌によって植物体の根域における線虫の子孫の密度が低下することにより予防される。
【0009】
線虫を防除するためのパスツーリア菌の使用は以前から提唱されてきたが、最適な送達法の選択肢がないことを含む多くの要因によってこの線虫防除戦略法の使用が制限されてきた。パスツーリア菌株を用いた、線虫を防除するための従来法は、フリーの形態で(例えば、Stirling G. R. 1984, “Biological control of Meloidogyne javanica with Bacillus penetrans”, Phytopathology, 74:55-60(非特許文献3))、または固体および液体の製剤において(例えば、米国特許第5,248,500号(特許文献1))、本細菌を植物および土壌に施用する段階を含む。しかし、本細菌は植物病原性線虫に対して高度に選択的な有効性がある一方、殺線虫効果を生むためには線虫と接触させる必要がある。土壌に直接施用する場合には大量の細菌が必要とされ、またそれが土壌とよく混合されなければならず、本細菌の使用にかかる費用が実質的に増大してしまう。
【0010】
パスツーリア菌を用いた様々な生物的防除法が知られているが、線虫を効果的に防除する目的でこれらの細菌を使用するための、より改善されたアプローチがなおも必要とされている。したがって本発明は、植物を攻撃する植物病原性線虫を防除するための新規の方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な開示
本発明は、パスツーリア菌胞子でコーティングした植物の種子の利用による、植物病原性線虫および/または他の土壌線虫の効率よい防除のための材料および方法を提供する。
【0023】
好都合なことに、パスツーリア菌は植物病原性線虫および/または他の土壌線虫に付着し、感染し、その中で成長し、その中で胞子再形成し、線虫の繁殖力を低下させ、および/または線虫を殺滅することができるという、独特のかつ有用な特性を有する内生胞子を産生する。
【0024】
本発明のある局面は、有効な量のパスツーリア菌組成物を、植物の種子のコーティングとして線虫感染の場へ送達することによる、線虫の防除のための方法を提供する。
【0025】
本発明に従って種子のコーティングとして送達されたパスツーリア菌は、植物に感染する線虫の能力を低下させることができる。その結果、好ましい態様においては、本処理法は線虫感染によって生じる害を防除または軽減することができるので、種子の出芽、植物体の生長および/または植物体の健康状態を増強させることができる。
【0026】
本発明のパスツーリア菌胞子は、生きた宿主内においてインビボにて作製することができる(例えば、Verdeho, S., and R. Mankau, 1986, Journal of Nematology, 18:635)、または、生きた宿主の組織を使わずにインビトロにて作製することができる(例えば、米国特許第5,094,954号)。具体的な態様においては、本発明のパスツーリア菌胞子は、例えば米国特許第7,067,299号および第6,919,197号において説明される発酵技術を用いて作製される。
【0027】
様々なパスツーリア菌種(パスツーリア属)が線虫の防除のための使用に適している。ある態様においては、活性成分はネコブセンチュウを防除するために有効な量のパスツーリア・ペネトランス(Pasteuria penetrans)胞子を含む。他の態様においては、活性成分はパスツーリア・ラモサ(Pasteuria ramose)、パスツーリア・ソルネイ(Pasteuria thornea)、パスツーリア・ユーセジ(Pasteuria usage)、パスツーリア・ニシザワエ(Pasteuria nishizawae)、その任意の組み合わせ、および同定されるであろう殺線虫性の新種から選択される、有効な量のパスツーリア菌胞子を含む。
【0028】
殺線虫のために有効なパスツーリア菌胞子の量は、非限定的に植物種、種子の表面積、担体のタイプ、他の活性成分の有無、製剤化の方法、送達経路、パスツーリア菌種、標的線虫種、および線虫感染または植物の被害の重症度を含む要素に依存して変化する。
【0029】
本明細書において使用される「殺線虫のために有効な量」とは、線虫を殺滅、防除し、もしくは感染させ;線虫の成長もしくは生殖を遅らせ;線虫集団を減少させ;および/または線虫によって生じる植物の被害を軽減することができるパスツーリア菌胞子の量を指す。一般に、胞子の有効な量は約1×10
5〜1×10
12(またはそれより多くの)胞子/種子の範囲に渡る。好ましくは、胞子の濃度は約1×10
6〜約1×10
9 胞子/種子である。
【0030】
本明細書において使用される「活性成分」は、線虫もしくは他の害虫を殺滅、防除する、もしくは感染させるために;および/または、線虫もしくは他の害虫の成長もしくは生殖を遅らせるために;線虫もしくは害虫の集団を減少させるために;および/または、線虫もしくは他の害虫によって生じる植物の被害を軽減するために有用な物質を指す。
【0031】
本明細書において使用される「農業的に有益な成分」は、例えば疾病、害虫(例えば昆虫、寄生虫、ウイルス、菌類、細菌を含む)および/または雑草を防除するために有用である;植物体の生長、植物体の健康状態、種子の出芽、植物の生殖および/または果実の成長の量および質を増強させるために有用であるなど、農業的な場面において有用なまたは生産的な物質を指す。農業的に有益な成分は、非限定的に、殺虫剤、除草剤、殺菌剤、肥料、および生物防除剤を含む。
【0032】
本明細書において使用される「不活性または非活性な成分」は、農業的製剤または農業的組成物の作用を補助する、または有効性を改善する物質を指す。不活性または非活性な成分は、非限定的に、担体、接着剤、分散剤、界面活性剤、液体賦形剤、結合剤、充填剤、溶剤、湿潤剤、展着剤、乳化剤、栄養剤、界面活性剤、浸透剤、発泡剤、可溶化剤、拡展剤および緩衝剤を含む。
【0033】
ある態様においては、パスツーリア菌組成物を種子にコーティング、噴霧、付着、接触させることによって、または種子をパスツーリア菌組成物と混合することによってパスツーリア菌組成物が種子に施される。ある態様においては、パスツーリア菌組成物は、少なくとも種子の表面積の一部をパスツーリア菌組成物でコーティングすることによって種子に付着される。
【0034】
具体的な態様においては、a)固体の担体にパスツーリア菌組成物を含浸させ、パスツーリア菌-担体混合物を得る段階;およびb)パスツーリア菌-担体混合物と種子を接触させる段階によって、パスツーリア菌組成物が種子に施される。
【0035】
本発明のその他の局面は、本パスツーリア菌組成物によって処理された種子を提供する。ある態様は、表面積の少なくとも一部をパスツーリア菌組成物でコーティングされた種子を提供する。具体的な態様においては、パスツーリア菌処理された種子は約10
6〜約10
9胞子/種子の胞子濃度を有する。種子はまた、例えば1×10
10、1×10
11、または1×10
12胞子/種子のように、種子当たりにより多くの胞子を有することも可能である。
【0036】
パスツーリア菌組成物の製剤化
本発明のパスツーリア菌は、製剤化されていない胞子として、または、製剤化された液体あるいは固体の組成物、粒子のスラリー、もしくは乳濁液として種子に送達することができる。
【0037】
ある態様においては、パスツーリア菌胞子は液体組成物に製剤化される。望ましいpHを維持するように緩衝化された培地に内生胞子を懸濁する。好ましくはpHは約6.0未満、より好ましくはpHは約5.5未満、最も好ましくはpHは約3.0から約5.0の間である。使用できる緩衝系は非限定的にフタル酸水素カリウム、酢酸、コハク酸およびクエン酸を含む。培養培地を酸性化するために使用できる薬剤は、非限定的に塩酸、硫酸、酢酸、および他の有機酸を含む。
【0038】
別の態様においては、パスツーリア菌組成物は1つまたはそれ以上のアミノ酸、塩類、炭水化物、ビタミン、および他の支持栄養物質を任意で含み得る。具体的な態様においては、パスツーリア菌懸濁液は、以下の成分の1つまたはそれ以上を含み得る:グルコース、NaCl、酵母抽出物、NH
4H
2PO
4、(NH
4)
2SO
4、グリセロール、バリン、L-ロイシン、L-グルタミン、L-アラニン、L-バリン、L-チロシン、L-トリプトファン、乳酸、プロピオン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸水素カリウム、ビタミン溶液、ミネラル溶液、キシロース、リキソースおよびレシチン。その他の具体的な態様においては、懸濁液は以下の成分の1つまたはそれ以上を含み得る:乳酸、プロピオン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、および酵母抽出物。
【0039】
ある態様においては、パスツーリア菌胞子は固体組成物に製剤化される。固体懸濁液は、パスツーリア菌胞子または液体パスツーリア菌懸濁液を固体の担体と混合することによって調製することができる。ある態様においては、固体組成物は固体の担体に胞子懸濁液を含浸させ、続いて該固体組成物を乾燥させることによって得られる。
【0040】
好適な固体の担体は、非限定的に、固体の高分子マトリクス、粒子、顆粒および粉末を含む。ある態様においては、固体の担体は顆粒からなる。ある態様においては、本組成物は乳濁液;水性媒体(例えば水)中の粒子のスラリー;水和性粉末;水和性顆粒(乾燥流動性);または乾燥顆粒として製剤化される。具体的な態様においては、固体の担体はAXIS(登録商標)の珪藻土顆粒および/またはPROFILE(登録商標)のgreensgrade粘土顆粒である。
【0041】
本パスツーリア菌組成物は、例えば、液体懸濁液、固体組成物、または水性スラリーとして製剤化することができる。活性成分の濃度は重量パーセント(w/w)で約0.5〜約99%、約5〜約80%、約10〜約75%、約15〜約70%、約20〜約65%、約25〜約60%、約30〜約55%、約35〜約50%の範囲に渡ることが可能である。
【0042】
別の態様においては、本組成物はパスツーリア菌-顆粒混合物として製剤化される。顆粒に対するパスツーリア菌胞子の量は、約1×10
6〜約7×10
8 胞子/g顆粒、約5×10
6〜約5×10
8 胞子/g顆粒、約1×10
7〜約1×10
8 胞子/g顆粒、または約3×10
7〜約5×10
7 胞子/g顆粒の範囲に渡ることが可能である。
【0043】
具体的な態様においては、顆粒組成物は、2×10
7胞子/mlのパスツーリア菌胞子懸濁液の約3〜5 mlを約2 gの顆粒と混合することによって得られる。さらに具体的な態様においては、顆粒組成物は胞子懸濁液の約5 mlを約2 gのAXIS(登録商標)顆粒と混合することによって得られる。その他のさらに具体的な態様においては、顆粒組成物は、胞子懸濁液の約3 mlを約2 gのPROFILE(登録商標)顆粒と混合することによって得られる。
【0044】
固体組成物の粒子は、パスツーリア菌胞子を植物の種子に付着できる任意のサイズのものでよい。
【0045】
さらなる態様においては、パスツーリア菌組成物は例えば接着剤、分散剤、界面活性剤、液体賦形剤、結合剤、充填剤、溶剤、湿潤剤、展着剤、乳化剤、栄養剤および緩衝剤を含む、1つまたはそれ以上の従来的な非活性成分または不活性成分をさらに含む。
【0046】
従来的な非活性成分または不活性成分は、非限定的に以下を含む:従来的な粘着剤;メチルセルロース(例えば、METHOCEL(商標) A15LVまたはMETHOCEL(商標) A15C、種子処理における使用のための分散剤/粘着剤を合わせたものとして働く)のような分散化剤;ポリビニルアルコール(例えばELVANOL(商標)51-05);レシチン(例えばYELKINOL(商標)P)、高分子分散剤(例えばポリビニルピロリドン/酢酸ビニル PVPIVA S-630);増粘剤(例えば粘度を向上させて粒子懸濁液の沈降を低減するVan Gel Bのような粘土増粘剤);乳化安定剤;界面活性剤;凍結防止化合物(例えば尿素)、染料、着色料など。本発明において有用なさらなる不活性成分は、McCutcheon’s, vol.1 “Emulsifiers and Detergents”MC Publishing Company, Glen Rock, N.J., U.S.A., 1996において見出すことができる。本発明において有用なさらなる不活性成分は、McCutcheon’s, vol.2, “Functional Materials”, MC Publishing Company, Glen Rock, N.J., U.S.A., 1996において見出すことができる。
【0047】
ある態様においては、胞子の種子への付着を容易にするために接着剤が使用される。接着剤は胞子またはパスツーリア菌含有組成物を種子の表面に付着させることにより、不要な胞子の剥離を予防する、または少なくとも減少させる。好ましくは、接着剤は非毒性、生分解性、および粘着性である。好適な接着剤は非限定的に、糊;ポリ酢酸ビニル;ポリ酢酸ビニルコポリマー;ポリビニルアルコール;ポリビニルアルコールコポリマー;メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、およびヒドロキシメチルプロピルセルロースのようなセルロース;デキストリン;アルジネート;糖類;糖蜜;ポリビニルピロリドン;多糖;タンパク質;脂肪;油;アラビアガム;ゼラチン;シロップ;およびデンプンを含む。さらなる好適な接着剤は、例えば米国特許第7.213,367号において説明されている。具体的な態様においては、接着剤はポリ酢酸ビニルである。
【0048】
別の態様においては、本組成物は活性成分を固体の担体に混合または付着することができる1つまたはそれ以上のポリマーをさらに含む。好適なポリマーは天然または合成のものが可能であり、好ましくはコーティングされる種子に対する植物毒性効果がない、またはほとんどない。ポリマーは例えば、ポリ酢酸ビニル;ポリ酢酸ビニルコポリマー;エチレン酢酸ビニル(EVA)コポリマー;ポリビニルアルコール;ポリビニルアルコールコポリマー;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースを含むセルロース;ポリビニルピロリドン;デンプン、修飾デンプン、デキストリン、マルトデキストリン、アルジネートおよびキトサンを含む多糖;脂肪;油;ゼラチンおよびゼインを含むタンパク質;アラビアガム;シェラック;塩化ビニリデンおよび塩化ビニリデンコポリマー;リグノスルホン酸カルシウム;アクリルコポリマー;ポリアクリル酸ビニル;ポリエチレンオキシド;アクリルアミドポリマーおよびコポリマー;ポリヒドロキシエチルアクリレート、メチルアクリルアミドモノマー;ならびにポリクロロプレンから選択されることが可能である。
【0049】
別の態様においては、本組成物はさらに、ストレス条件下において種子を保護するための充填剤を含み得る。加えて、本組成物は、液体もしくは半流動体の組成物の流動性、混合物もしくは高分子組成物の柔軟性、および/または組成物の種子への粘着性を改善するための可塑剤をさらに含み得る。さらに、炭酸カルシウム、カオリンもしくはベントナイト粘土、パーライト、珪藻土または例えば米国特許第5,876,739号において説明される他の任意の吸着性材質のような乾燥剤を製剤に加えることが望ましい可能性がある。本開示によって利益がある当業者は、本製剤において使用するのに望ましい成分を容易に選択できる。
【0050】
なおもさらなる態様においては、本パスツーリア菌組成物は第二の農業的に有益な成分を含む。第二の農業的に有益な成分は、例えば、キャプタン、チラム、メタラキシル、フルジオキソニル、オキサジキシルならびにそれらの材料の各々の異性体等のような殺虫剤ならびに殺菌剤;カルバメート、チオカルバメート、アセトアミド; トリアジン、ジニトロアニリン、グリセロールエーテル、ピリダジノン、ウラシル、フェノキシ、尿素、ならびに安息香酸のような化合物を含む除草剤;ベンゾオキサジン、ベンズヒドリル誘導体、N,N-ジアリルジクロロアセトアミド、様々なジハロアシル、オキサゾリジニルおよびチアゾリジニル化合物、エタノン、ナフタル酸無水化合物、ならびにオキシム誘導体のような除草剤毒性緩和剤から選択されることができる。
【0051】
第二の農業的に有益な成分は、肥料、ならびに/または、種子の発芽および/もしくは植物体の生長かつ/あるいは健康状態を増強させる成分をさらに含み得る。さらに、根粒菌(Rhizobium)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、トリコデナ(Trichodenna)属、グロムス(Glomus)属、グリオクラジウム(Gliocladium)属および菌根菌(mycorrhizal fungi)属の、天然に生じるまたは組み換えの他の微生物および菌類のような様々な生物防除剤を含み得る。これらの化学的製剤または生物学的製剤は、線虫および/または他の害虫を防除するために有益となり得る。
【0052】
上記の開示に照らして、当業者は不活性もしくは非活性の成分、殺虫剤、または肥料のような様々な成分を本組成物および/または処理法に含むであろう。さらに当業者は、典型的に、パスツーリア菌胞子の生存、成長、および/もしくは繁殖に有意に害を与えるような成分、線虫に付着し、感染させ、その中で成長し、および/もしくは線虫を殺滅するパスツーリア菌胞子の能力を低下させるような成分、ならびに/または、種子の発芽、植物体の生長、果実の成長および/もしくは植物の生殖を阻害するような成分は含まないであろう。
【0053】
植物種
本発明の材料および方法は、非限定的にサヤマメ、芝草、トマト、綿、トウモロコシ、ダイズ、野菜、コムギ、オオムギ、イネおよびキャノーラを含む植物種の被害を軽減するために使用できる。
【0054】
線虫種
本発明の材料および方法は、線虫を殺滅、防除、および/もしくは感染させるために;線虫の成長もしくは生殖を遅らせるために;線虫集団を減少させるために;ならびに/または、非限定的にアレナリアネコブセンチュウ(Meloidogyne arenaria)、ブラキュルスネグサレセンチュウ(Pratylenchus brachyurus)、ニセフクロセンチュウ(Rotylenchulus reniformis)、およびベロノライムス・ロンジカウダタス(Belonolaimus longicaudatus)、ダイズシストセンチュウ(Heterodera glycines)およびホプロライムス・ガレアツス(Hoplolaimus galeatus)を含む、植物病原性線虫、植物寄生線虫、および他の土壌線虫によって生じる植物の被害を軽減する、もしくは遅延させるために有用である。
【0055】
付着および送達の方法
本発明は、パスツーリア菌組成物を植物の種子に付着させ、該種子を線虫感染の場に送達する方法をも提供する。
【0056】
付着法はパスツーリア菌胞子の生存、成長、および/または繁殖に有意に害を与えず、パスツーリア菌胞子が線虫に付着し、感染し、その中で成長し、および/または線虫を殺滅する能力を低下させないことが好ましい。好ましくは、付着および送達の方法は、種子の発芽、植物の維管束形成、植物体の高さ、植物の生殖および/または果実の成長に影響を与えるような植物毒性をほとんど生じないものとなる。
【0057】
ある態様においては、種子にパスツーリア菌組成物をコーティング、噴霧、接触、または混合することによってパスツーリア菌組成物が付着される。ある態様においては、種子の表面積の少なくとも一部をパスツーリア菌組成物でコーティングすることによってパスツーリア菌組成物が付着される。
【0058】
本組成物は、例えば流動床法、ローラーミル法、および噴流床法のような様々な技術のうち任意のものを用いて種子に付着させることができる。さらに、本組成物はロトスタティック・シード・トリーター(rotostatic seed traeter)またはドラムコーターのような機械を用いて種子に付着させることができる。種子はコーティング以前に予めサイジングすることができる。コーティング後、当技術分野において知られているように、種子は通常乾燥され、その後サイジングのためにサイジング機に移送される。
【0059】
ある態様においては、本パスツーリア菌組成物は最初に、殺虫剤、除草剤、殺菌剤、肥料および/または様々な生物防除剤のような農業的に有益な様々な成分と混合される;そしてその後、該混合物が種子に送達される。別の態様においては、本パスツーリア菌組成物は、農業的に有益な様々な成分と連続的に種子に送達される。別の態様においては、本パスツーリア菌組成物は、農業的に有益な様々な成分と同時に、しかし種子表面の異なる部位に送達される。
【0060】
本明細書において使用されるように、種子のコーティングには非限定的に、フィルムコーティング、単層または複数層の材料を種子の表面積の全体または一部に沈着させる工程、連続した層の材料を種子の表面積の全体または一部に施す工程、種子の表面積の全体または一部を覆うために材料を種子に同時にまたは連続的に施す工程を含む、材料を種子に添加する任意の工程が含まれる。
【0061】
具体的な態様においては、非限定的にフィルムコーティング、容器(例えばボトルまたは袋)内で本製剤と種子を混合する工程、機械的な塗布、タンブリング、噴霧、および浸漬を含む様々な方法を用いて、本製剤で種子をコーティングすることができる。コーティングには例えば、非限定にSEPIRET(Seppic, Inc., Fairfield, N.J.)およびOpacoat(Berwind Pharm. Services, Westpoint, Pa.)などの水ベースのフィルムコーティング材を含む従来的なフィルムコーティング材のような、様々な活性または不活性の材料を使用できる。
【0062】
コーティングされた種子を作製する様々な方法は、例えば米国特許第5,918,413号;第5,891,246号;第5,554,445号;第5,389,399号;第5,107,787号;第5,080,925号;第4,759,945号;第4,465,017号;第5,939,356号;第5,882,713号;第5,876,739号;第5,849,320号;第5,834,447号;第5,791,084号;第5,661,103号;第5,622,003号;第5,580,544号;第5,328,942号;第5,300,127号;第4,735,015号;第4,634,587号;第4,383,391号;第4,372,080号;第4,339,456号;第4,272,417号;および第4,245,432号において説明されるものをさらに含む。
【0063】
別の具体的な態様においては、パスツーリア菌組成物は、固体マトリクスプライミングによって種子に送達される。簡単に説明すると、固体マトリクス中に均一に分散させたパスツーリア菌胞子を、種子の表面積の全体がパスツーリア菌胞子で覆われるまで十分な時間種子と接触させて置く。処理した種子はさらなる保存または使用のために固体マトリクスから離すことができる;または、処理した種子を固体マトリクスと共に保存もしくは植付けることができる。
【0064】
固体マトリクスとしての使用に適した材料は、ポリアクリルアミド、デンプン、粘土、シリカ、アルミナ、土、砂、ポリ尿素、ポリアクリレート、または制御された方法で本組成物を吸収および種子に放出できる任意の材料を含む。好ましくは、固体マトリクスは本組成物を制御された方法で放出できる。望ましい放出速度は植物種、パスツーリア菌種、線虫種および他の要素に依存して変化し得る。好ましくは、マトリクスを通した周囲の培地または土壌への拡散または移行によるもののように、処理した種子から遅い速度で本組成物を放出させることができる。
【0065】
パスツーリア菌組成物でコーティングされた種子は、パスツーリア菌コーティングを保護するために、付加的なオーバーコーティング用薄層フィルムでさらに覆うことができる。例証されるオーバーコーティングのための技術は非限定的に、流動床法およびドラムフィルムコーティング法を含む。
【0066】
さらなる態様においては、送達法は付加的な熱処理工程を含む。熱処理工程はパスツーリア菌組成物の殺線虫効果を増強させる。ある態様においては、顆粒のような固体の担体と混合する前にパスツーリア菌胞子懸濁液を加熱する。別の態様においては、パスツーリア菌-顆粒混合物を加熱する。
【0067】
さらに、本方法は、パスツーリア菌処理の前にまたは同時に接着剤を種子に施す工程を含み得る。ある態様においては、種子は最初に単層の接着剤によってコーティングされ、その後パスツーリア菌組成物によって処理される。好適な接着剤は、非限定的にポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールコポリマー、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、デキストリン、アルジネート、糖蜜、ポリビニルピロリドン、多糖、タンパク質、脂肪、油、多糖、アラビアガム、ゼラチン、シロップ、およびその組み合わせの任意のものを含む。
【0068】
具体的な態様においては、本方法はa)パスツーリア菌胞子懸濁液を微粒子担体と混合し、胞子/顆粒粒子が形成されるまで十分な時間混合物を乾燥させる工程;b)接着剤で種子をコーティングする工程;およびc)殺線虫のために有効な量のパスツーリア菌胞子によって種子がコーティングされるまで胞子/顆粒粒子と種子を接触させる工程を含む。
【0069】
なおもさらなる態様においては、本パスツーリア菌組成物で処理した種子は、乾燥のような付加的な加工工程を経ることができる。好都合なことに、パスツーリア菌胞子は乾燥によって損傷を受けない。したがって、本組成物で処理した種子は長期間室温にて保存することができる。処理した種子の長い貯蔵期限によって植栽計画の多様化も可能になる。好都合なことに、輸送、播種の間、または種子と共に一旦土壌に配置された場合、パスツーリア菌胞子の生存率は本細菌の栄養型の生存率より著しく高い。
【0070】
種子の処理はいかなる生理学的状態にある種子に対しても施すことができるが、処理の工程が種子に対してほとんどまたは全く損傷を与えないように、種子が十分に耐久性の状態にあることが好ましい。典型的に、植物は圃場から収穫され;種子は植物体から取り除かれ;そして種子ではないあらゆる植物材料から分別される。種子は好ましくは、処理が種子に対して損傷を起こさない限り生物学的に安定である。ある態様においては、例えば、収穫され、洗浄され、含水率約15重量%未満にまで乾燥された種トウモロコシに対して処理を施すことができる。
【0071】
代替の態様においては、種子は乾燥されたものであり、その後水および/または他の材料によってプライミングされ、その後パスツーリア菌組成物による処理の前または処理の間に再乾燥されてもよい。収穫から播種の間の任意の時期に種子に対して処理を施すことができる。本明細書において使用される「非播種の種子」という用語は、収穫から播種の間の任意の期間にあるいかなる種子をも含む。
【実施例】
【0072】
以下は、本発明を実施する手順を例証する実施例である。これらの実施例は限定するものと解釈されるべきではない。特に断りのない限り、全てのパーセンテージは重量パーセントであり、全ての溶剤の混合比率は容量比である。
【0073】
実施例1−パスツーリア菌種子コーティングの調製
本実施例は、パスツーリア・ペネトランス胞子で種子をコーティングする方法を例証する。パスツーリア菌胞子を10 mmol/Lのリン酸緩衝液に懸濁し、約2×10
7 胞子/mlに調整する。5 mlの胞子懸濁液を2 gのAXIS(登録商標)珪藻土顆粒とペトリ皿にて混合することによって;または、3 mlの胞子懸濁液を2 gのPROFILE(登録商標)greens grade粘土顆粒とペトリ皿にて混合することによってパスツーリア菌-顆粒状混合物を得る。
【0074】
混合物をランプ下において乾燥させる。その後、サヤマメの種子をポリ酢酸ビニルで処理し、平皿にて5分間乾燥させる。種子をパスツーリア菌-顆粒状混合物で完全にコーティングする。
【0075】
パスツーリア菌コーティングされた種子は、即時の使用または長期の保存に適している。
【0076】
実施例2−種子のパスツーリア菌コーティングの、線虫の防除に対する有効性
パスツーリア菌コーティングされた種子の線虫に対する効果を評価するために、温室ポット試験を行う。
【0077】
各々2.2 gのAxis turf supplementおよびProfile turf supplementを別々のペトリ皿に置いた。1.8×10
7 sp/mlの濃度のパスツーリア・ペネトランス胞子を各皿に、材料が飽和するまでピペットで注入した。Axis supplementは5 mLで飽和し、Profileは4 mLで飽和した。皿をハロゲンランプ下に置き、乾燥させた。サヤマメの種子 (Ferry-Morse Blue Lake 274)の重さを量り、平均重量を413.3 mgと決定した。Elmer’s Clear School Glue(糊)をビーカーに注ぎ、個々の種子を糊の中にピンセットを用いて手作業で浸すことによって種子をポリ酢酸ビニル展着剤でコーティングした。種子をペトリ皿にて5分間乾燥させ、その後胞子処理したAxis顆粒およびProfile顆粒中において完全にコーティングがなされるまで転がした。対照種子は非処理のAxis顆粒およびProfile顆粒によって上記のようにコーティングした。
【0078】
以下のように、コーティングした種子を圃場から採取されたネコブセンチュウに21日間曝露する。対照においては同じ条件下で、非処理のサヤマメ種子を線虫に曝露する。
【0079】
スタイロフォームカップを1 kgの土で満たした。線虫の懸濁液を土の表面から2インチの深さにピペットで注入することにより、各ポットに1,500〜2,000頭のネコブセンチュウ(アレナリアネコブセンチュウ)の幼虫を接種した。その結果生じた穴を埋め、その後ポット当たり1個のサヤマメ種子を、表面から0.5インチの深さに植付けた。5個の試験種子(胞子処理したもの)および5個の対照種子を植付けた。ポットには50 mlの水道水で毎日水やりをし、温度測定値によって線虫の積算温度が500に達したと示されるまで温室内で維持した。
【0080】
その後線虫の計数のために土壌からサンプル採取し、植物体および根系を土壌から取り除いた。植物体の健康状態および活力を、1を最低とし10を最も健康とする1〜10のスケールで評価した。1つまたはそれ以上のパスツーリア菌胞子が付着した、土壌サンプル中の線虫の幼虫の数を記録し、パーセンテージを計算することにより付着率を評価した。根系から卵塊を収集し、顕微鏡下で計数することにより線虫の卵を計数した。
【0081】
図1〜3において示される結果は、種子のパスツーリア菌コーティングが対照処理と比較して、種子の出芽、植物体の高さ、および植物体の生長を増強させることを示す。
【0082】
本明細書において参照または引用される特許、特許出願、仮出願、および刊行物を含む全ての参照は、それらが本明細書の明示的な開示に矛盾しない限り、全ての図および表を含むその全体を参照により本明細書に組み入れられる。
【0083】
本発明を説明する文脈において使用される「a」および「an」および「the」という用語ならびに同様の指示物は、本明細書において特に指示されない限り、または文脈によって明らかに言明されない限り、単数形および複数形の双方を包含するものと解釈される。
【0084】
本明細書における数値の範囲の詳細説明は、該範囲内に入る個別の数値について各々言及することを簡略化する方法としての役割を果たすことを単に意図しており、本明細書において特に指示されない限り、個別の数値は、本明細書において個々に列挙されたが如くに本明細書に組み入れられる。
【0085】
本明細書において提供される、任意のおよび全ての実施例、または例示的表現(例えば「のような」)の使用は、本発明をより明確にすることを単に意図しており、特に指示されない限り本発明の範囲を限定するものではない。本明細書における表現は、それが明示的に記述されない限り、どのような要素も本発明の実施に必須であることを示していると解釈されるべきではない。
【0086】
本明細書における、ある要素に関して「〜を含む」「〜を有する」「〜を包含する」または「〜を含有する」のような用語を用いた、本発明の任意の局面または態様についての説明は、特に記述されない限り、または文脈によって明らかに言明されない限り、その特定の要素について「〜からなる」「本質的に〜からなる」または「実質的に〜を含む」本発明の類似の局面または態様について支持を与えることを意図する(例えば、本明細書においてある特定の要素を含むと説明される組成物は、特に記述されない限り、または文脈によって明らかに言明されない限り、その要素からなる組成物をも説明していると理解されるべきである)。
【0087】
本明細書において説明される実施例および態様は、あくまで例示を目的としたものであり、当技術分野における当業者にはそれに照らした様々な改変または変化が提案されるであろうし、それらは本出願の趣旨および範囲内に包含されると理解されるべきである。