特許第5654490号(P5654490)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5654490
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】高沸点廃棄物の再生プロセス
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/107 20060101AFI20141218BHJP
   C07F 7/12 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   C01B33/107 Z
   C07F7/12 F
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-547912(P2011-547912)
(86)(22)【出願日】2009年6月30日
(65)【公表番号】特表2012-515704(P2012-515704A)
(43)【公表日】2012年7月12日
(86)【国際出願番号】US2009049190
(87)【国際公開番号】WO2010085274
(87)【国際公開日】20100729
【審査請求日】2012年2月15日
(31)【優先権主張番号】200910126726.9
(32)【優先日】2009年1月22日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ コーニング コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】DOW CORNING CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン アシュリー ブリンソン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム パトリック ブレイディ
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−009655(JP,A)
【文献】 特開2006−169012(JP,A)
【文献】 特開平11−029315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
C07F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)高沸点残渣の重量に対して0.01〜20%の触媒を有し、メチルクロロモノシラン(MCS)プロセス残渣又はアルキルハロモノシランプロセス残渣から選択され、2つ以上のケイ素原子を有する化合物を含む第1プロセス残渣、及び、前記触媒を有しない、シリコンプロセス残渣又はHSiClプロセス残渣から選択され、2つ以上のケイ素原子を有する化合物を含む第2プロセス残渣を混合するステップと、
b)ステップa)の生成物を水素ガスと接触させ、これによりモノシランを含む生成物を生成するステップとを含むプロセス。
【請求項2】
ステップa)の前に前記第2プロセス残渣を前処理するステップをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記生成物から1つ以上のモノシランを回収するステップc)をさらに含み、該モノシランはHSiCl、SiCl、(CHSiCl、CHHSiCl、及び(CHHSiClからなる群から選択される、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
塩素を多く含む種、SiH官能性種、アルキル基を多く含む種、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される反応物質を供給するステップをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
高沸点シリコン化合物、例えば分子中にSi−Si結合、Si−O−Si結合、又はSi−C−Si結合(下付き文字aは1以上)を有する化合物などは、化学中間産物であるモノシランを生成する産業プロセスの望ましくない副生成物として形成される。本出願の目的のため、「モノシラン」の語は4個の置換基が結合した1個のケイ素原子を有するシラン種を指す。モノシランとしては、トリクロロシラン(HSiCl)、四塩化ケイ素(SiCl)、ジメチルジクロロシラン((CHSiCl)、ジメチル水素クロロシラン((CHHSiCl)、メチル水素ジクロロシラン(CHHSiCl)、及びメチルトリクロロシラン(CHSiCl)が挙げられるが、これらに限定されない。「高沸点ポリマー」の語は2個以上のケイ素原子を有する化合物を指し、それらの例としては上述の高沸点シリコン化合物がある。高沸点ポリマーはクロロモノシランの沸点より高い、例えば70℃以上、あるいは80℃以上の沸点を有する。高沸点ポリマーは、クロロモノシラン及びメチルクロロモノシランを製造する産業プロセス(例えば、直接プロセス)から廃棄物として生成される残渣中に存在する。高沸点ポリマーは、シリコンを製造する産業プロセス(例えば、ソーラーグレードシリコン及び/又は半導体グレード多結晶シリコンの製造プロセス)において生成される残渣中にも存在する。「残渣」の語は高沸点ポリマーを含有するいずれかの廃棄物を指す。
【0002】
クロロモノシランを製造する産業プロセスでは、無触媒反応システムにおいて塩化水素(HCl)を金属グレードシリコン(Si)と反応させ、トリクロロシラン(HSiCl)を生成する。別のプロセスは、銅化合物により触媒反応させ、亜鉛、錫及びリンのような多数の各種金属添加物により反応を促進するシステムにおいて、塩化メチルを金属グレードSiと反応させ、メチルクロロモノシラン(MCS)を形成する。初期反応及び下流プロセスにおけるシリコン及び塩化物(HSiClプロセスからのHCl又はMCSプロセスからのCHCl形態)の一部は、副生成物である高沸点ポリマーの形成において失われる。
【0003】
HSiClプロセス残渣は、下付き文字bが0〜6、あるいは0〜4の範囲の値を有する式HSiCl(6−b)のジシラン、及び下付き文字cが0〜6の範囲の値を有する式HSiOCl(6−c)のジシロキサンを含むことができる。HSiClプロセスにおいて、これらの高沸点ポリマーとしては、テトラクロロジシロキサン(HClSiOSiClH、HSiOCl)、ペンタクロロジシロキサン(HClSiOSiCl、HSiOCl)、ヘキサクロロジシロキサン(ClSiOSiCl、SiOCl)、ヘキサクロロジシラン(SiCl)、ペンタクロロジシラン(HSiCl)、テトラクロロジシラン(HSiCl)、及びトリクロロジシラン(HSiCl)が挙げられる。
【0004】
MCSプロセス残渣は、下付き文字dが0〜6の範囲の値を有する式MeSiCl(6−d)のジシランならびに下付き文字eが0〜6の範囲の値を有し、Xが酸素原子もしくは二価炭化水素基である式MeSiXCl(6−e)のジシロキサン及び/又はシルアルカンジイル化合物を含むことができる。MCSプロセスにおいて、これらの高沸点ポリマーとしては、SiCl、テトラメチルジクロロジシラン(MeSiCl)、トリメチルトリクロロジシラン(MeSiCl)、テトラメチルテトラクロロトリシラン(MeSiCl)、テトラメチルジクロロジシルメチレン(MeClSiCHSiMeCl)、トリメチルトリクロロジシルメチレン(MeClSiCHSiMeCl)、トリメチルトリクロロジシルエチレン(MeClSi(CHSiMeCl)、トリメチルトリクロロジシルプロピレン(MeClSi(CHSiMeCl)、MeClSiCHSi(Me)(Cl)SiMeCl、MeClSiCHSi(Me)(Cl)CHSiMeCl、及びトリメチルトリクロロジシロキサン(MeSiOCl)が挙げられ、式中、Meはメチル基を表す。
【0005】
HSiCl及びMCSプロセスからのジシランのような高沸点ポリマーを再生し、水素化、塩素化又は塩化水素化によって有用なモノシランに変換することができるが、反応を経済的に行うには触媒が必要となる。MCSシステムでは、最も経済的に好ましいシステムとして、高沸点ポリマーを含有するプロセス残渣におけるin−situ触媒を用いるメチルクロロジシランの水素化がある。MCSプロセス残渣は下流処理のため水素化に有用なin−situ触媒を多く含むように調製される。HSiClプロセスでは、高沸点ポリマーを含有するHSiClプロセス残渣は一般的に急冷及び/又は焼却により処理される。
【発明の概要】
【0006】
プロセスは、1)in−situ触媒の触媒量を有する第1プロセス残渣及びin−situ触媒の触媒量を有しない第2プロセス残渣を混合するステップ、ならびに2)ステップ1)の生成物において高沸点ポリマーを反応させるステップを含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本出願の目的のため、本プロセスを、in−situ触媒の触媒量を有するMCSプロセス残渣及びin−situ触媒の触媒量を有しないHSiClプロセス残渣について説明する。しかしながら、本開示は例示的であり、特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定するものではない。当業者であれば、これに限定されないが、in−situ触媒の触媒量を有する第1プロセス残渣及び/又はin−situ触媒の触媒量を有しない第2プロセス残渣に異なる残渣を用いることを含む、本プロセスの変形を実施することができることを認識するであろう。例えば、(例えば、ソーラーグレードシリコン又は半導体グレード多結晶シリコン製造のための化学蒸着プロセスからの)シリコンプロセス残渣がin−situ触媒の触媒量を有しない場合、シリコンプロセス残渣をHSiClプロセス残渣の代わりに第2プロセス残渣として用いることができる。あるいは、アルキルハロモノシランプロセスを用いてin−situ触媒の触媒量を有する第1プロセス残渣を生成することができるが、アルキル基はメチル以外の基、例えばエチルもしくはプロピルであってもよく、及び/又はハロゲン原子は塩素以外、例えば臭素、フッ素、もしくはヨウ素であってもよい。
【0008】
上述の高沸点ポリマーを有用なモノシランに変換するプロセスは、
a)HSiClプロセス残渣及びMCSプロセス残渣を混合して高沸点残渣を形成するステップと、
b)高沸点残渣を水素ガスと接触させるステップとを含む。ステップb)は、反応器において高沸点残渣、水素ガス、及びいずれかの追加の反応物質(添加する場合)を345kPa〜68,900kPaの範囲の圧力で1秒〜5時間の滞留時間、150℃〜1000℃の範囲の温度まで加熱することにより行うことができ、これによりモノシランを含む生成物を生成する。
【0009】
本プロセスは、触媒がMCSプロセス残渣及びHSiClプロセス残渣の両方からモノシランを得るのに有用である場合、触媒がMCSプロセス残渣中にin−situで存在するという利点を提供することができる。理論に縛られることを望むことなしに、触媒はHSiClプロセス残渣よりもMCSプロセス残渣に溶けやすくあり得、従ってHSiClプロセス残渣及びMCSプロセス残渣を混合するとHSiClプロセス残渣についてのより良い触媒作用を得ることができると考えられる。触媒は高沸点残渣における高沸点ポリマーからのモノシランの形成を促進する。触媒はケイ素原子間のアルキル及びハロゲンの再分配(ならびに/又はケイ素原子間の水素及びハロゲンの再分配)を促進することができる。触媒は、水素化、ケイ素−ケイ素結合の切断、ケイ素−炭素結合の切断、及び/又はケイ素−酸素結合の切断を促進することができる。これらの反応を達成するため、上述の作用をもたらす1つ以上の触媒種を触媒に用いることができる。
【0010】
ルイス酸又はその同等物を用い、触媒に再分配作用をもたらすことができる。再分配をもたらすのに有用な触媒種の例としては、三塩化アルミニウム、五塩化アンチモン、四塩化ジルコニウム、四塩化アルミニウムカリウム、ハロゲン化第四級ホスホニウム、ハロゲン化第四級アンモニウム、ハロゲン化アンモニウム、塩化第一銅、ホウ酸、及びハロゲン化ホウ素が挙げられる。適切な再分配触媒は当技術分野において知られ、例えば米国特許第4,393,229号及び第5,175,329号に開示されている。
【0011】
水素化に適した触媒種としては、三塩化アルミニウム;五塩化アンチモン;塩化第一銅、銅(Cu)金属、Cu塩、及びCu塩の有機配位子との錯体のような銅種;ニッケル(Ni)金属、担持Ni、有機金属Ni化合物、Ni錯塩、及び無機Ni化合物のようなニッケル種;パラジウム(Pd)金属、担持Pd、有機金属Pd化合物、Pd錯塩、及び無機Pd化合物のようなパラジウム種;白金(Pt)金属、担持Pt、有機金属Pt化合物、Pt錯塩、及び無機Pt化合物のような白金種;ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。担持Ni、担持Pd、担持Ptは、アルミナ、炭素、シリカ、又はゼオライト上に担持することができる。例えば、炭素上のPd及びアルミナ上のPtは担持触媒の例である。水素化触媒は当技術分野において知られ、例えば、米国特許第5,175,329号、第5,292,909号、第5,292,912号、第5,321,147号、第5,326,896号、及び第5,627,298号に開示されている。理論に縛られることを望むことなしに、MCSプロセス残渣中にin−situで存在する触媒種(例えば、銅種)を用い、HClとHSiClプロセス残渣からの高沸点ポリマー、及びMCSプロセス残渣からの高沸点ポリマーとの塩化水素化反応を触媒することができると考えられる。
【0012】
上述の触媒種は、ケイ素−ケイ素結合、任意でケイ素−炭素結合、及び任意でケイ素−酸素結合の切断を促進することもできる。従って、高沸点シリコン化合物からのモノシランの形成を促進するのに追加の触媒種を触媒に添加することは不要であり得る。触媒の量は、上述の水素化、再分配、及び切断反応の少なくとも1つを触媒するのに十分である。正確な量は、触媒する理由、高沸点残渣の組成、及び所望のモノシラン生成物を含むさまざまな要因によって決まる。触媒種は、例えばMCSプロセスにおいて、in−situで形成してもよく、触媒種は高沸点残渣に添加してもよく、又は両方でもよい。触媒の量は(in−situ、添加、又はこれらの組み合わせいずれも)高沸点残渣の重量に対して0.01〜20%、あるいは0.5〜5%の範囲とすることができる。本出願中のすべての量、比、及び割合は、とくに指示のない限り、重量による。当業者であれば、三塩化アルミニウムを高沸点残渣に添加してもよく、又は三塩化アルミニウムを形成する物質によりin−situで形成してもよいことを認識するであろう。三塩化アルミニウムの全部又は一部をHSiClプロセス及びMCSプロセス、ならびにそれらからのモノシラン画分の分離中にin−situで形成し、高沸点残渣を形成することができる。三塩化アルミニウムは、水素化、再分配、及び切断反応を触媒するのに有用である。
【0013】
HSiClプロセス残渣はHCl及びSi半金属の反応生成物の揮散又は蒸留から生じ得る。HSiClプロセス残渣はそのままMCSプロセス残渣と混合してもよい。あるいは、ステップa)の前にHSiClプロセス残渣に前処理をしてもよい。前処理はステップa)の前に揮散又は蒸留させ、HSiClプロセス残渣からのHSiCl及び/もしくはSiClの全部又は一部を除去する追加ステップ、ろ過して固体を除去するステップ、又は両方を含むことができる。HSiClプロセス残渣は、下付き文字bが0〜6、あるいは0〜4の範囲の値を有する式HSiCl(6−b)のジシラン、及び下付き文字cが0〜6の範囲の値を有する式HSiOCl(6−c)のジシロキサンを含むことができる。ジシランの例としては、SiCl、HSiCl、HSiCl、及びHSiClがある。ジシロキサンの例としては、HSiOCl、HSiOCl、及びSiOClがある。HSiClプロセス残渣は、HSiClプロセス残渣中のジシラン及びジシロキサンの総合重量に対して、0〜15%のHSiOCl、5%〜35%のHSiOCl、15%〜25%のSiOCl、及び35%〜75%のSiClを含むことができる。HSiClプロセス残渣は、上述の高沸点ポリマーに溶けない固体をさらに含むことができる。例えば、固体は4個以上のケイ素原子を有するポリクロロシロキサン及び高次ポリクロロシランであってもよい。固体はケイ素粒子をさらに含むことができる。あるいは、前処理後、HSiClプロセス残渣は68%のジシラン、31%のジシロキサン、0.5%の他の高沸点シリコン化合物、及び0.5%のケイ素を含有する固体粒子を含むことができる。前処理前、HSiClプロセス残渣は最大75%のHSiCl及びSiClのようなクロロモノシランならびに最大30%のケイ素を含有する固体粒子を含むことができ、残部は上述の高沸点ポリマー及び他の高沸点シリコン化合物である。本明細書に記載するプロセスに用いることができるHSiClプロセス残渣の例は、例えば、米国特許第6,013,235号及び米国仮特許出願第61/119,391号に開示されている。
【0014】
MCSプロセス残渣は、下付き文字dが0〜6の範囲の値を有する式MeSiCl(6−d)のジシランならびに下付き文字eが0〜6の範囲の値を有し、Xが酸素原子又は二価炭化水素基である式MeSiXCl(6−e)のジシロキサン及び/又はシルアルカンジイルを含むことができる。MCSプロセス残渣は、SiCl、MeSiCl、MeSiCl、MeSiCl、MeClSiCHSiMeCl、MeClSiCHSiMeCl、MeClSi(CHSiMeCl、MeClSi(CHSiMeCl、MeClSiCHSi(Me)(Cl)SiMeCl、MeClSiCHSi(Me)(Cl)CHSiMeCl、及びMeSiOClを含むことができる。MCSプロセス残渣中に存在する各種の正確な量はMCSプロセス条件によって変わり得るが、MCSプロセス残渣は50%〜60%のジシラン及び15%〜25%のシルアルキレンのほか、in−situ触媒、ケイ素を含有する固体、及び他の金属を含むことができる。MCSプロセス残渣の一例は、0〜4%のMeSiCl、0〜2%のMeHSiCl、0〜5%のEtMeSiCl、0〜5%のPrMeSiCl、0〜9%のMeSiCl、5〜40%のMeSiCl、15〜54%のMeClSiMeCl、0〜9%MeClSiCHSiClMe、0〜15%のMeClSiCHSiClMe、0〜20%のMeClSiCHSiClMe、0〜5%のMeClSiOSiClMe、9〜26%の他の高沸点種及び0〜40%の固体を含むことができるが、ただし合計100%であり、式中、Etはエチル基を表し、Prはプロピル基を表す。本明細書に記載するプロセスに用いることができるMCSプロセス残渣の例は、例えば、米国特許第5,175,329号、第5,430,168号、第5,606,090号、第5,627,298号,第5,629,438号、第5,907,050号、第5,922,894号、及び第6,013,824号に開示されている。
【0015】
MCSプロセス残渣と混合して上述のプロセスに用いる高沸点残渣を生成するHSiClプロセス残渣の量は0より大きく、正確な量は両プロセス残渣の組成、残渣を前処理するかどうか、MCSプロセス残渣中に存在するin−situ触媒、及びいずれかの追加の触媒を添加するかどうかを含むさまざまな要因によって決まるであろう。しかしながら、HSiClプロセス残渣の量は、MCSプロセス残渣100重量部当たり0より大きく100重量部まで、あるいはMCSプロセス残渣100重量部当たり5重量部〜50重量部、及びあるいは5重量部〜10重量部の範囲とすることができる。本プロセスに用いる高沸点残渣は70℃以上、あるいは80℃以上の沸点を有することができる。
【0016】
本プロセスはクロロシランとの接触に適した従来の加圧可能な反応器において行うことができる。本プロセスはバッチプロセスとして又は連続プロセスとして行うことができる。本プロセスは、例えば、連続撹拌槽型反応器、気泡塔反応器、トリクルベッド反応器、又は栓流反応器において行うことができる。
【0017】
プロセス条件は、高沸点残渣の組成及び生成を所望するモノシランを含むさまざまな要因によって決まるであろう。しかしながら、反応器内の圧力は345kPa〜68,900kPa、あるいは689〜34,475kPa、あるいは1,000kPa〜15,000kPa、あるいは2,000kPa〜10,500kPa、及びあるいは4,000〜8,000kPaの範囲とすることができる。反応器内の温度は150℃〜1000℃、あるいは150℃〜400℃、あるいは200℃〜500℃、あるいは200℃〜250℃、あるいは215℃〜280℃、あるいは235℃〜245℃、あるいは275℃〜500℃、及びあるいは300℃〜350℃の範囲とすることができる。理論に縛られることを望むことなしに、圧力及び温度を変え、形成されるモノシランに影響を及ぼすことができると考えられる。例えば、下限が250psig(1725kPa)より大きい圧力ならびに150℃〜500℃ あるいは250℃〜400℃、及びあるいは320℃〜380℃の温度を用いる場合、反応はメチルトリクロロシランではなくジメチルジクロロシランに有利に働き得る。これらの温度及び圧力での滞留時間は、選択する反応器の種類、その中の正確な温度及び圧力、ならびに存在する触媒種の量及び種類を含むさまざまな要因によって決まるが、滞留時間は1秒〜5時間の範囲とすることができる。
【0018】
反応器に添加する水素ガスの量は重要ではなく、所望のレベルの水素化をもたらすのに十分ないずれかの量とすることができる。しかしながら、水素ガスの量は、高沸点残渣の重量に対して0.05〜10%、あるいは1〜5%の範囲とすることができる。任意で、反応器に追加の反応物質を供給することができる。追加の反応物質は、塩素を多く含む種、例えばHCl、HSiCl、SiCl、CHSiCl、CHCl、もしくはこれらの組み合わせ(あるいは、HSiCl、SiCl、SiCl、もしくはこれらの組み合わせ);HSiClもしくはCHHSiClのようなSiH官能性種;テトラメチルシラン(SiMe)、トリメチルクロロシラン(MeSiCl)、ジメチルジクロロシラン(MeSiCl)、もしくはこれらの組み合わせのようなアルキルを多く含む種;又は異なる塩素を多く含む種、SiH官能性種、及び/もしくはアルキルを多く含む種の組み合わせであってもよい。選択する追加の反応性物質は、もしあれば、例えば切断及び/又は再分配及び/又は水素化反応の後、生成を所望するモノシランを含むさまざまな要因によって決まるであろう。理論に縛られることを望むことなしに、塩素を多く含む種を供給することで、より多くのClをジシラン及びポリシラン上に再分配し、生成物におけるモノシランの切断及び/又は分配の制御をより容易にし、商業的により有用な種を有利に生成することができると考えられる。当業者であれば、例えば、米国特許第5,175,329号、第5,292,912号、第5,321,147号、第5,606,090号、及び第5,907,050号に記載される適当な反応物質及びプロセス条件を選択ならびに/又は記載のプロセスを用いてモノシランの分配を制御することができるであろう。あるいは、アルキルを多く含む種を供給することで、例えば、米国特許第4,962,219号及び第6,013,824号に記載される反応物質及びプロセス条件を用い、メチルのようなアルキル基を多く含むモノシランを生成することができる。当業者であれば、必要以上の実験なしに、適当な温度及び圧力条件ならびにいずれかの追加の反応物質を選択し、生成物において所望のモノシラン種を得ることができるであろう。
【0019】
当業者であれば、塩素を多く含む種、SiH官能性種、及びアルキルを多く含む種の材料を選択する際、例えば、塩素原子、水素原子、及びケイ素原子に結合したアルキル基の2つ以上を有するモノシランを用いる場合、それらは重複し得ることを認識するであろう。当業者であれば、生成を所望するモノシランを含むさまざまな要因に基づき、反応物質を補うのに適当な種を識別及び選択することができるであろう。
【0020】
上述のプロセスは、ステップb)の生成物から1つ以上のモノシラン種を回収するステップc)をさらに含むことができる。ステップc)は、従来の液体混合物の分離法を用いる分離、例えば蒸留により行うことができる。モノシラン種としては、HSiCl、SiCl、(CHSiCl、CHHSiCl、及び(CHHSiClを挙げることができる。
【実施例】
【0021】
以下の実施例は本発明を示すために含める。しかしながら、当業者であれば、本開示を踏まえて、特許請求の範囲に記載する本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、開示する具体的な実施形態において多くの変更を行うことができ、さらに同様又は類似の結果を得ることができることを理解すべきである。
【0022】
HSiClプロセス残渣の廃棄物は、30体積%の固体とともに13.6%のHSiCl、73.9%のSiCl、0.3%のHClSiOSiClH、6.9%のHClSiOSiCl、3.6%のClSiOSiCl、1.5%のSiCl、及び0.2%の他の未同定高沸点種で構成される液体である残部を含有していた。
【0023】
合計5重量部のHSiClプロセス残渣を60重量部のMCSプロセス残渣と混合し、高沸点残渣を形成した。残渣を混合し、ろ過して固体含量を5%以下まで低減し、15日の期間をかけて1時間当たり0.4重量部の供給速度で水素化反応器に供給した。反応器温度は200℃〜250℃の範囲とし、反応器圧力は56〜58barg(5,600〜5,800kPa)の範囲とした。高沸点残渣の反応器における滞留時間は2〜5時間だった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本明細書に記載するプロセスは、HSiClプロセス及びMCSプロセスからの廃棄物を単一の一段階法で混合する。本プロセスは、2つの別々のHSiCl及びMCS再生プロセスに必要な資本コストを低減するという利点を提供することができ、MCSシステムのin−situ触媒(例えば上述の銅種など)を用いてHSiClからの高沸点ポリマーの反応を触媒し、有用なHSiCl及び/又はSiCl、ならびに有用なメチルクロロモノシランを生成するという利点を有する。