【課題を解決するための手段】
【0014】
このような事情により、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、感作性物質に対するヒト細胞の反応を詳細に解析し、高い感作性物質の検出感度及び精度を備え、さらに、感作性の強弱についても検出可能な優れた感作性マーカーを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0016】
哺乳動物細胞と被験物質とをインキュベートし、当該細胞の感作性マーカーの発現を測定することを特徴とする、被験物質の感作性を評価する方法であって、該感作性マーカーが、(1)から1種又は2種以上選択されたマーカー、又は(2)から1種又は2種以上選択されたマーカーであることを特徴とする、被験物質の感作性を評価する方法。
(1)感作性マーカー群A:IL−10 受容体(IL−10R)、CD44、NF−κB、IκBα、IκBε、フーリン(furin)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター受容体(uPA−R)、TNFα誘導タンパク質3(A20)、TRAIL受容体2(TRAIL−R2)、インターフェロン制御因子−1(IRF−1)、血小板由来成長因子α(PDGFα)、v−Jun、インシュリン様成長因子結合タンパク質3(IGFBP3)、ヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)、チオレドキシン還元酵素−1(TR−1)、クラスII主要組織適合抗原(MHCII)、CD86、マクロファージ炎症タンパク質1α(MIP−1α)、MIP1β、ケモカイン受容体7(CCR7)。
(2)感作性マーカー群B:IL−4受容体(IL−4R)、単球走化性タンパク質1(MCP−1)、マトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)、メタロチオネイン−1(MT−1)、オステオポンチン(OPN)、シトクロームP450還元酵素(P450)、ケモカインリガンド5(CCL5)、CCL23、ティッシュインヒビターオブMMP−3(TIMP3)、TGF−β タイプII受容体(TGFRII)、インターフェロン誘導タンパク質p78(MxA)、アネキシンA5(AxA5)、GROα、GROβ、FosB、アクチビンA受容体(AAR)、シスタチンB(CTB)、インテグリンβ5(ITβ5)、IL−1α、IL−1β、顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF)、TNF−α、IFN−γ、CD54。
【0017】
哺乳動物細胞と被験物質とをインキュベートし、当該細胞の感作性マーカーの発現を測定することを特徴とする、被験物質の感作性を評価する方法であって、該感作性マーカーが、(1)から1種又は2種以上選択されたマーカー、及び(2)から1種又は2種以上選択されたマーカーであることを特徴とする、被験物質の感作性を評価する方法。
(1)感作性マーカー群A:IL−10 受容体(IL−10R)、CD44、NF−κB、IκBα、IκBε、フーリン(furin)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター受容体(uPA−R)、TNFα誘導タンパク質3(A20)、TRAIL受容体2(TRAIL−R2)、インターフェロン制御因子−1(IRF−1)、血小板由来成長因子α(PDGFα)、v−Jun、インシュリン様成長因子結合タンパク質3(IGFBP3)、ヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)、チオレドキシン還元酵素−1(TR−1)、クラスII主要組織適合抗原(MHCII)、CD86、マクロファージ炎症タンパク質1α(MIP−1α)、MIP1β、ケモカイン受容体7(CCR7)。
(2)感作性マーカー群B:IL−4受容体(IL−4R)、単球走化性タンパク質1(MCP−1)、マトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)、メタロチオネイン−1(MT−1)、オステオポンチン(OPN)、シトクロームP450還元酵素(P450)、ケモカインリガンド5(CCL5)、CCL23、ティッシュインヒビターオブMMP−3(TIMP3)、TGF−β タイプII受容体(TGFRII)、インターフェロン誘導タンパク質p78(MxA)、アネキシンA5(AxA5)、GROα、GROβ、FosB、アクチビンA受容体(AAR)、シスタチンB(CTB)、インテグリンβ5(ITβ5)、IL−1α、IL−1β、顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF)、TNF−α、IFN−γ、CD54。
【0018】
哺乳動物細胞が、血液、骨髄、リンパ節、及び/又は皮膚由来であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の被験物質の感作性を評価する方法。
【0019】
哺乳動物細胞が、培養細胞(THP−1、U−937、KG−1、MUTZ−1、HL−60、Jurkat)から1種以上選択される培養細胞であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の被験物質の感作性を評価する方法。
【0020】
哺乳動物細胞と感作性物質と被験物質とをインキュベートし、当該細胞の感作性マーカーの発現を測定することを特徴とする、感作性物質に対する被験物質の感作性増強作用又は感作性抑制作用を評価する方法であって、該記感作性マーカーが、(1)から1種又は2種以上選択されたマーカー、及び/又は(2)から1種又は2種以上選択されたマーカーであることを特徴とする、感作性物質に対する被験物質の感作性増強作用又は感作性抑制作用を評価する方法。
(1)感作性マーカー群A:IL−10 受容体(IL−10R)、CD44、NF−κB、IκBα、IκBε、フーリン(furin)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター受容体(uPA−R)、TNFα誘導タンパク質3(A20)、TRAIL受容体2(TRAIL−R2)、インターフェロン制御因子−1(IRF−1)、血小板由来成長因子α(PDGFα)、v−Jun、インシュリン様成長因子結合タンパク質3(IGFBP3)、ヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)、チオレドキシン還元酵素−1(TR−1)、クラスII主要組織適合抗原(MHCII)、CD86、マクロファージ炎症タンパク質1α(MIP−1α)、MIP1β、ケモカイン受容体7(CCR7)。
(2)感作性マーカー群B:IL−4受容体(IL−4R)、単球走化性タンパク質1(MCP−1)、マトリックスメタロプロテアーゼ−9(MMP−9)、メタロチオネイン−1(MT−1)、オステオポンチン(OPN)、シトクロームP450還元酵素(P450)、ケモカインリガンド5(CCL5)、CCL23、ティッシュインヒビターオブMMP−3(TIMP3)、TGF−β タイプII受容体(TGFRII)、インターフェロン誘導タンパク質p78(MxA)、アネキシンA5(AxA5)、GROα、GROβ、FosB、アクチビンA受容体(AAR)、シスタチンB(CTB)、インテグリンβ5(ITβ5)、IL−1α、IL−1β、顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF)、TNF−α、IFN−γ、CD54。
【0021】
以下に、本発明において見出された感作性マーカーについて説明する。
【0022】
IL−10R
IL−10をノックアウトしたマウスにおいて、アレルギー性喘息が緩和されることから、そのレセプターであるIL−10Rのアレルギーへの関与が推測される(非特許文献9)。
【0023】
【非特許文献9】Justice J.P.,et al.,Am.J.Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.,2001,280,L363−L368
【0024】
IL−4R
ヒト単球において、IL−4はIL−1、TNF−αの産生を抑制することから、IL−4Rは、マクロファージなどの多くの機能に関わっていると考えられている(非特許文献10)。
【0025】
【非特許文献10】Essner R.,et al.,J.Immunol.,1989,142,3857
【0026】
CD44
CD44は、ランゲルハンス細胞や樹状細胞の遊走に関わっていると考えられている(非特許文献11)。
【0027】
【非特許文献11】Johannes M.,et al.,J.Cell Biol.,1997,5,1137−1147
【0028】
MCP−1
MCP−1は、活性化した抗原提示細胞によって産生され、獲得免疫のエンハンサーとして機能すると推察されている(非特許文献12)。
【0029】
【非特許文献12】Tekstra J.,et al.,Clin.Immunol.,2001,101,77−85
【0030】
MMP−9
MMP−9は、樹状細胞の遊走及びケモカインの産生に関わっていると考えられている(非特許文献13)。
【0031】
【非特許文献13】Karim Y.,et al.,J.Immunol.,2003,171,1016−1022
【0032】
MT−1
MT−1は、感作性物質により、表皮において発現が亢進すると考えられている(非特許文献14)。
【0033】
【非特許文献14】Santussi B.,et al.,Contact Dermatitis,2000,43,103−106
【0034】
NF−κB
NF−κBは、樹状細胞が成熟する際に活性化すると考えられている(非特許文献15)。
【0035】
【非特許文献15】Sandip B.,et al.,BLOOD,2004,104,1100−1109
【0036】
furin
furinは、抗原提示細胞がウィルススーパー抗原をT細胞に提示する際に必要であると考えられている(非特許文献16)。
【0037】
【非特許文献16】Wadsworth C.,et al.,J.Virol.,2000,74,8262−8267
【0038】
OPN
OPNは、CD44のリガンドの1つであり、細胞の遊走に関わっていると考えられている(非特許文献17)。
【0039】
【非特許文献17】Goodison S.,et al.,J.Clin.Pahol.:Mol.Pathol.,1999,52,189−196
【0040】
P450
P450は、炎症により、発現が亢進すると考えられている(非特許文献18)。
【0041】
【非特許文献18】Lim H.B.,et al.,Free Radical Biol. Med.,1998,25,635−644
【0042】
uPA−R
uPA−Rは、細胞外マトリックスの分解や細胞の接着に関与し、細胞の遊走に必要であると考えられている(非特許文献19)。
【0043】
【非特許文献19】Jan B.,et al.,J.Exp.Med.,1995,181,1381−1390
【0044】
CCL5
CCL5は、炎症により、細胞外マトリックスの分解を促進し、細胞の遊走に関わると考えられている(非特許文献20)。
【0045】
【非特許文献20】Chabot V.,et al.,J.Leukoc.Biol.,2006,79,767−778
【0046】
CCL23
CCL23は、ケモカイン受容体1のリガンドであると考えられる。(非特許文献21)
【0047】
【非特許文献21】Robert D.B.,et al.,J.Immunol.,2005,174,7341−7351
【0048】
TIMP3
TIMP3は、細胞の遊走に関わっており、ヒト成熟樹状細胞において発現していると考えられている(非特許文献22)。
【0049】
【非特許文献22】Osman M.,et al.,Immunology,2002,105,73−82
【0050】
TGFRII
TGFRIIは、TGF−βのシグナルを細胞内に伝達し、細胞の遊走に関わると考えられている(非特許文献23)。
【0051】
【非特許文献23】Heinfried H.R.,et al.,J.Immunol.,2005,174,2778−2786
【0052】
A20
A20は、NF−κBの活性に伴い発現が亢進し、樹状細胞の成熟に関わると考えられる(非特許文献24)。
【0053】
【非特許文献24】Ming−Qing X.,World J.Gastroenterol.,2003,9,1296−1301
【0054】
TRAIL−R2
TRAIL−R2は、アポトーシスに関わるレセプターであり、樹状細胞に発現していると考えられている(非特許文献25)。
【0055】
【非特許文献25】Martin L.,et al.,BLOOD,2000,96,2628−2631
【0056】
MxA
MxAは、即時性喘息患者におけるウィルスの感染時に発現が亢進すると考えられている(非特許文献26)。
【0057】
【非特許文献26】Imamura H.,Allergy,2001,56,895−898
【0058】
AxA5
AxA5は、INF−γによるシグナル伝達を介した細胞の応答を調節すると考えられている(非特許文献27)。
【0059】
【非特許文献27】Leon C.,et al.,J.Immunol.,2006,176,5934−5942
【0060】
IRF−1
IRF−1は、MHCIIの発現に関わると考えられている(非特許文献28)。
【0061】
【非特許文献28】Barbaro A.L.,Eur.J.Imuunol.,2002,32,1309−1318
【0062】
PDGFα
PDGFαは、IFN−γによって活性化された細胞を遊走させると考えられている(非特許文献29)。
【0063】
【非特許文献29】Morelli P.I.,et al.,Atherosclerosis,2006,184,39−47
【0064】
GROα
GROαは、ヒト単球において、LPSによって誘導されると考えられている(非特許文献30)。
【0065】
【非特許文献30】Innocenti M.,et al.,Infect.Immun.,2001,69,3800−3801
【0066】
GROβ
GROβは、炎症部位における活性化した単球及び好中球において産生されると考えられている(非特許文献31)。
【0067】
【非特許文献31】Naoko I.,et al.,Mol.Cell.Biol.,1990,10,5596−5599
【0068】
FosB、v−Jun
FosやJunは、転写因子Activating Protein−1の構成因子であり、MMPの発現を制御していると考えられている(非特許文献32)。
【0069】
【非特許文献32】Marina R.,et al.,Biochem.J.,2003.369,485−496
【0070】
AAR
TGF−βスーパーファミリーに属するActivin Aのレセプターであり、アレルギーにおける炎症過程に関与していると考えられている(非特許文献33)。
【0071】
【非特許文献33】Seong H.C.,et al.,J.Immunol.,2003,170,4045−4052
【0072】
CTB
シスタチンは、IFN−γによって活性化されたマクロファージにおいて、NOの産生を促進すると考えられている(非特許文献34)。
【0073】
【非特許文献34】Ludovic V.,et al.,J.Biol.Chem.,1996,271,28077−28081
【0074】
IGFBP3
IGFBP3は、アレルギー患者において発現が亢進すると考えられている(非特許文献35)。
【0075】
【非特許文献35】Hauache A.G.,J.Investig.Allergol.Clin.Immunol.,2003,13,266−271
【0076】
ITβ5
ITβ5は、細胞の移動や接着に関与すると考えられている(非特許文献36)。
【0077】
【非特許文献36】Mark O.N.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1993,90,2517−2521
【0078】
HO−1、TR−1
HO−1は、マクロファージにおいて、チオレドキシンによって誘導されると考えられている。また、TR−1が阻害されると、このHO−1の誘導が抑制されると考えられている(非特許文献37)。
【0079】
【非特許文献37】Philippe W.,et al.,J.Biol.Chem.,2000,275,24840−24846
【0080】
したがって、本発明は、ヒト又は哺乳動物細胞において、感作性マーカー群A、Bから選抜された、1種又は2種以上の感作性マーカーの発現を検出することを特徴とする、感作性物質の評価方法、及び感作性物質に対する活性化剤又は抑制剤の評価方法を提供する。
<感作性マーカー群A>
IL−10R、CD44、NF−κB、IκBα、IκBε、furin、uPA−R、A20、TRAIL−R2、IRF−1、PDGFα、v−Jun、IGFBP3、HO−1、TR−1、MHCII、CD86、MIP−1α、MIP1β、CCR7。
<感作性マーカー群B>
IL−4R、MCP−1、MMP−9、MT−1、OPN、P450、CCL5、CCL23、TIMP3、TGFRII、MxA、AxA5、GROα、GROβ、FosB、AAR、CTB、ITβ5、IL−1α、IL−1β、GM−CSF、TNF−α、IFN−γ、CD54。
【0081】
本発明で用いる哺乳動物細胞は、本発明の目的に沿うものであれば、哺乳動物から採取した血液、骨髄、リンパ節、及び/又は皮膚組織の細胞を用いることができる。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物から得られた血液、骨髄、リンパ節、及び/又は皮膚組織の細胞を用いることができる。
この場合、上記哺乳動物細胞の中でも、血液、骨髄細胞を用いることが好ましい。
【0082】
また、本発明で用いる哺乳動物細胞が、培養細胞である場合、本発明の目的に沿うものであれば、細胞バンクから入手可能な培養細胞や市販されている培養細胞を入手して用いることができる。例えば、THP−1、U−937、KG−1、MUTZ−1、HL−60、Jurkat等の培養細胞から1種以上選択し、用いることができる。
この場合、上記培養細胞の中でも、THP−1及び/又はU−937を用いることが好ましい。
【0083】
これらの哺乳動物細胞を用いて、以下の培養方法及び解析方法により、被験物質の感作性を評価、又は、感作性物質に対する被験物質の感作性増強作用又は感作性抑制作用を評価することができる。
【0084】
本発明の哺乳動物細胞を培養するための培地としてはこれらの細胞を培養することができる常用の任意の培地を用いることができるが、RPMI1640、DMEM、MEM等が挙げられる。これらの培地には、5〜20%のウシ胎児血清(FBS)を添加することが好ましい。
【0085】
感作性物質の評価においては、培地中の哺乳動物細胞に被験物質を添加し、37℃、5%CO
2下にて、0.5〜72時間、好ましくは2〜24時間培養する。また、感作性物質を活性化又は抑制する物質の評価においては、培地中の哺乳動物細胞に既知の感作性物質と被験物質を添加し、37℃、5%CO
2下にて、0.5〜72時間、好ましくは2〜24時間培養する。
【0086】
培養終了後、感作性マーカー遺伝子の発現量を測定する方法として、マイクロアレイ法、セルアレイ法、組織アレイ法、定量的又は定性的RT−PCR法、ノーザンブロッティング法等を用いることができる。また、感作性マーカータンパク質の発現量を測定する方法としては、ウェスタンブロッティング法、ELISA法、セルアレイ法、組織アレイ法等が挙げられる。