(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている鉄めっき装置では、高速で鉄めっき皮膜を形成することは難しい。これは、後に詳述するように、特許文献1の鉄めっき装置では、めっき液のpHが制御されていないためである。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルミニウム合金から形成された被めっき物に高速で鉄めっき層を形成し得る鉄めっき装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による鉄めっき装置は、アルミニウム合金から形成された被めっき物の表面に鉄めっき層を形成するめっき処理部と、前記めっき処理部にめっき液を供給する本槽と、前記めっき処理部から排出されためっき液のpHを調整するpH調整部と、前記pH調整部によってpHが調整されためっき液で鉄が溶解される鉄溶解槽と、を備え、前記鉄溶解槽で鉄を溶解しためっき液が前記本槽に供給される。
【0009】
ある実施形態において、前記pH調整部は、前記めっき液のpHを小さくする。
【0010】
ある実施形態において、本発明による鉄めっき装置は、前記本槽、前記めっき処理部および前記鉄溶解槽を相互に連結するパイプをさらに備え、前記本槽、前記めっき処理部、前記鉄溶解槽および前記パイプ内を前記めっき液が循環する。
【0011】
ある実施形態において、前記鉄溶解槽ではスチールウールが溶解される。
【0012】
ある実施形態において、本発明による鉄めっき装置は、前記鉄溶解槽と前記本槽との間に設けられた中間槽をさらに備える。
【0013】
ある実施形態において、前記中間槽は、前記鉄溶解槽からめっき液を供給される第1槽と、前記第1槽に供給されためっき液の上澄み部分が流入するように設けられた第2槽とを有する。
【0014】
ある実施形態において、前記pH調整部は、前記第2槽内のめっき液のpH値に基づいて前記めっき処理部から排出されためっき液のpHを調整する。
【0015】
ある実施形態において、前記めっき処理部に供給されるめっき液のpH値は、1.25以上1.40以下である。
【0016】
ある実施形態において、前記鉄めっき層は、鉄−リン合金膜である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、アルミニウム合金から形成された被めっき物に高速で鉄めっき層を形成し得る鉄めっき装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、以下では、被めっき物の表面に鉄めっき層として鉄−リン(Fe−P)合金膜を形成する鉄めっき装置を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
図1に、本実施形態における鉄めっき装置100を示す。鉄めっき装置100は、
図1に示すように、めっき処理部10と、本槽20と、pH調整部30と、鉄溶解槽40とを備える。
図1には示されていないが、本槽20、めっき処理部10および鉄溶解槽40は、パイプによって相互に連結されており、本槽20、めっき処理部10、鉄溶解槽40およびパイプ内をめっき液が循環する。
【0021】
めっき処理部10は、被めっき物の表面に鉄めっき層を形成する。具体的には、めっき処理部10の内部に配置された被めっき物の表面にめっき液が接触するように供給され、その状態で被めっき物を陰極とした電気めっきを行うことにより、鉄めっき層が形成される。ここでは、鉄めっき層として、鉄−リン合金膜が形成されるが、鉄めっき層は、鉄−リン合金膜に限定されるものではない。例えば、鉄めっき層として、Fe−N合金膜やFe−TiO
2−P複合膜、Fe−SiC−P複合膜を形成してもよい。鉄−リン合金膜は、潤滑油が保持されやすいので、摺動面における磨耗や焼き付きを防止する効果が高い点において優れている。被めっき物は、アルミニウム合金から形成されている。アルミニウム合金としては、公知の種々の組成のアルミニウム合金を用いることができる。例えば、Al−Si系の過共晶合金を好適に用いることができる。被めっき物は、例えば、内燃機関用のシリンダブロックやピストンである。被めっき物がシリンダブロックである場合、鉄めっき層は、シリンダボアの内周面に形成される。
【0022】
本槽20は、めっき処理部10にめっき液を供給する。本槽20とめっき処理部10とを連結するパイプには、ポンプ61が設けられている。また、
図1に例示している構成では、本槽20内のめっき液のpH値を検出するpHセンサ62が設けられている。なお、めっき処理後にめっき処理部10から排出されためっき液は、その一部が本槽20に戻され、残りが鉄溶解槽40に流入する。
【0023】
pH調整部30は、めっき処理部10から排出されためっき液(鉄溶解槽40に流入するめっき液)のpH(水素イオン指数)を調整する。典型的には、pH調整部30は、めっき液のpHを小さくする。本実施形態におけるpH調整部30は、ポンプ31と、pH調整液としての塩酸が貯蔵されたpH調整液貯蔵槽32とを有し、pHセンサ62によって検出されたpH値に基づいて、pH調整液貯蔵槽32内の塩酸をポンプ31を用いてめっき液に加えることにより、めっき液のpHの調整を行う。なお、
図1に例示している構成では、めっき処理部10と鉄溶解槽40とを連結するパイプからpH調整部30にめっき液が流入することを防止するための逆止弁63が設けられている。
【0024】
鉄溶解槽40では、pH調整部30によってpHが調整されためっき液で鉄が溶解される。そして、鉄溶解槽40で鉄を溶解しためっき液が、本槽20に供給される。
図1に例示している構成では、めっき液は、鉄溶解槽40と本槽20との間に設けられたカートリッジフィルタ64により、不純物を除去される。
【0025】
なお、
図1には、めっき処理部10と鉄溶解槽40とを連結するパイプに設けられたバルブ65や、鉄溶解槽40と本槽20とを連結するパイプに設けられたバルブ66を図示しているが、バルブの個数や配置は、
図1に例示しているものに限定されない。
【0026】
上述したように、本実施形態における鉄めっき装置100は、めっき処理部10から排出されためっき液のpHを調整するpH調整部30を備えており、鉄溶解槽40において、pH調整部30によってpHが調整されためっき液で鉄が溶解される。このことにより、高速で鉄めっき層を形成することが可能になる。以下、この理由をより詳細に説明する。
【0027】
高速・高電流密度で鉄めっき層として鉄−リン合金膜を形成する場合、不溶性陽極が用いられる。不溶性陽極は、例えば、チタン(Ti)から形成された基体が白金(Pt)やイリジウム酸化物(IrO
2)で被覆されたものである。不溶性陽極を用いる場合、陽極では、下記式(1)で表されるFe
2+イオンの陽極酸化反応によりFe
3+イオンが生成されるとともに、下記式(2)で表される水の電気分解反応によりH
+イオンが生成される。
Fe
2+→Fe
3++e
- ・・・(1)
2H
2O→O
2+4H
++4e
- ・・・(2)
【0028】
めっき液中のFe
3+イオンの増加およびpHの減少(H
+イオンの生成に起因)は、めっき皮膜の表面粗さの低下(粒状析出)や、めっき皮膜と被めっき物との密着性の低下といった、めっき皮膜(鉄めっき層)の品質の低下を引き起こす。また、陰極電流効率の低下も引き起こされ、それにともなってめっき速度も低下する。
【0029】
従って、品質の高いめっき皮膜を高速で形成するためには、めっき処理部10に供給されるめっき液におけるFe
2+イオンを増加させるとともにFe
3+イオンを減少させることが好ましい。本実施形態の鉄めっき装置100では、めっき処理後のめっき液を鉄溶解槽40に流入させることにより、鉄を溶解させてFe
2+イオンを補充するとともに、Fe
3+イオンをFe
2+イオンに還元する。
【0030】
鉄溶解槽40における鉄の溶解反応は、下記式(3)および(4)で表される。
Fe+2H
+→Fe
2++H
2 ・・・(3)
Fe+2Fe
3+→3Fe
2+ ・・・(4)
【0031】
式(3)で表される反応により、H
+イオンが還元されるとともにFe
2+イオンが生成される(この反応に伴ってpHは大きくなる)。また、式(4)で表される反応により、Fe
3+イオンがFe
2+イオンに還元される。
【0032】
本実施形態の鉄めっき装置100では、pH調整部30により、めっき処理部10から排出されためっき液のpHを調整することができる。そのため、鉄溶解槽40に流入するめっき液のpHを、鉄の溶解に適した値に制御することができる。典型的には、めっき処理後のめっき液のpHをさらに小さくすることにより、pH値が鉄の溶解に適したものとなる。従って、単位時間当たりの鉄の溶解量を増加させ、より多くのFe
3+イオンをFe
2+イオンに還元することができる。そのため、本実施形態の鉄めっき装置100によれば、被めっき物に高速で鉄めっき層を形成することができる。
【0033】
これに対し、特許文献1に開示されている鉄めっき装置では、めっき液の成分濃度の調整は行われるものの、めっき液のpHが制御されていないため、高速で鉄めっき層を形成することは難しい。
【0034】
なお、pH調整部30の具体的な構成は、
図1に例示したものに限定されない。また、pH調整液は、塩酸に限定されるものではなく、例えば、硫酸や塩酸と硫酸の混合液であってもよい。良好なめっき皮膜(鉄めっき層)を形成するためには、めっき液が塩化浴の場合には、pH調整液は塩酸であることが好ましい。同様に、めっき液が硫酸浴の場合には、pH調整液は硫酸であることが好ましい。
【0035】
また、
図1には、pHセンサ62によって本槽20内のめっき液のpH値が検出される例を示したが、
図2に示す鉄めっき装置100Aのように、pHセンサ62によって、鉄溶解槽40から流出した後で本槽20に流入する前のめっき液のpH値を検出してもよい。この場合、pH調整部30は、本槽20に流入する前のめっき液のpH(検出されるpH値)が、本槽20内のめっき液のpH(つまりめっき処理部10に供給されるめっき液のpH)よりも若干大きくなるようにpHの調整を行う(具体的には塩酸の供給量を調整する)。めっき処理部10から排出されて本槽20に戻されるめっき液のpHは、本槽20からめっき処理部10に供給されるめっき液のpHよりも小さいので、めっき処理部10から直接本槽20に戻されるめっき液と、鉄溶解槽40から流入するめっき液とが本槽20内で混合されることにより、本槽20内のめっき液のpHが一定範囲内に調整される。
【0036】
鉄溶解槽40の小型化の観点からは、鉄溶解槽40においてスチールウールを溶解することが好ましい。鉄粉を用いる(つまり鉄溶解槽40で鉄粉を溶解する)場合、鉄粉の凝集を防止して還元効率を高くするためには、鉄溶解槽40内に攪拌機を設けることが好ましく、その場合、鉄溶解槽40が大型化してしまう。これに対し、スチールウールを用いると、攪拌機を設けなくても溶解液(めっき液)との接触面積を十分に大きく確保することができるので、鉄溶解槽40を小型化することができる。
【0037】
また、鉄溶解槽40は、
図2に示しているように、内槽41および外槽42(例えばそれぞれが円筒状である)を含む二重構造を有することが好ましい。二重構造の鉄溶解槽40は、外槽42の下部にめっき液の流入部を有し、内槽41の下部にめっき液の流出部を有する。また、二重構造の鉄溶解槽40は、内槽41内に着脱可能なカートリッジを有し、このカートリッジ内にスチールウールが充填される。めっき液は、外槽42下部の流入部から鉄溶解槽40に流入し、外槽42の内側(および内槽41の外側)を通って、内槽41の上部からカートリッジの上端部に流れ込む。めっき液は、カートリッジの上から下に向かって流れる間にスチールウールを通り抜けながらスチールウールを溶解し、内槽41下部の流出部から鉄溶解槽40の外に流出する。その際に、内槽41内は、カートリッジ全体がめっき液に浸漬されるように、めっき液で満たされている。このような構造にすることにより、スチールウールの溶解をいっそう促進することができる。さらに、内槽41の上部にカートリッジを着脱できる開口部を設けることにより、スチールウールを入れたカートリッジを簡単に交換することができる。そのため、作業効率が向上し、また、連続しためっき処理を容易に行うことができる。
【0038】
さらに、
図3に示す鉄めっき装置100Bのように、鉄溶解槽40と本槽20との間に中間槽50を設けることも、以下の理由から好ましい。
【0039】
鉄溶解槽40から本槽20に流入するめっき液には、完全に溶解しきれずに細かくなったスチールウール(スチールウールの小片)が含まれていることがある。これは、鉄溶解槽40で溶解しきれなかったスチールウールの小片が、カートリッジフィルタ64で除去しきれずに、本槽20に流れ込むことがあるためである。このようなスチールウールの小片を含むめっき液が本槽20からめっき処理部10に供給されると、鉄めっき層に付着して欠陥となってしまう可能性がある。スチールウールの小片が付着した鉄めっき層の断面写真を、
図4に示す。
図4に示す例では、被めっき物70の表面に形成された鉄めっき層71に、約300μmの大きさを有するスチールウールの小片72が付着している様子がわかる。
【0040】
鉄溶解槽40と本槽20との間に中間槽50を設けると、スチールウールの小片は中間槽50内で溶解されるか、または、沈殿するので、本槽20には流入しない。そのため、上述したような欠陥の発生が防止される。
【0041】
図3に示す構成では、中間槽50は、鉄溶解槽40からめっき液を供給される第1槽51と、第1槽51に供給されためっき液の上澄み部分が流入するように設けられた第2槽52とを有する。めっき液は、第2槽52から本槽20に供給される。中間槽50がこのような2槽構造を有することにより、スチールウールの小片の本槽20への流入がより確実に防止される。さらに、中間槽50が大気に開放されていると(つまり大気開放の中間槽50を設けると)、鉄溶解時に発生する水素ガスをめっき液中から除去することができる。
【0042】
また、
図3に示す構成では、pHセンサ62は、第2槽52内のめっき液のpH値を検出する。pH調整部30が、第2槽52内のめっき液のpH値に基づいてめっき処理部10から排出されためっき液のpHを調整すると、本槽20内のめっき液のpHの変動が少なくなるので、鉄めっき層(ここでは鉄−リン合金膜)の品質がより安定する。
【0043】
図5に、
図1に示した鉄めっき装置100における、pHセンサ62による検出pH値(つまり本槽20内のめっき液のpH値)の推移および鉄溶解槽40から流出した後で本槽20に流入する前のめっき液のpH値の推移を示す。また、
図6に、
図3に示した鉄めっき装置100Bにおける、pHセンサ62による検出pH値(つまり第2槽52内のめっき液のpH値)の推移および本槽20内のめっき液のpH値の推移を示す。
図5および
図6に示すいずれの場合についても、検出pH値が1.4になると、ポンプ31による塩酸の供給を開始し、検出pH値が1.36になると、ポンプ31による塩酸の供給を停止する。
【0044】
図1に示した鉄めっき装置100のように、pHセンサ62によって、本槽20内のめっき液のpH値を検出し、その検出pH値に基づいてpH調整部30がpH調整を行うと、
図5に示すように、本槽20内のめっき液のpH値は、1.27〜1.43の範囲で変動する。
【0045】
これに対し、
図3に示した鉄めっき装置100Bのように、pHセンサ62によって、中間槽50の第2槽52内のめっき液のpH値を検出し、その検出pH値に基づいてpH調整部30がpH調整を行うと、
図6に示すように、本槽20内のめっき液のpH値は、めっき開始後緩やかに変動し、1.36を下回ることがほとんどない。
【0046】
このように、pH調整部30が、第2槽52内のめっき液のpH値に基づいてめっき処理部10から排出されためっき液のpHを調整すると、本槽20内のめっき液のpHの変動を少なくすることができる。
【0047】
ここで、鉄−リン合金膜の品質の観点から、めっき液の好ましい組成を説明する。鉄−リン合金の電気めっき用のめっき液(めっき槽内に入れられた状態ではめっき浴とも呼ばれる)としては、Fe
2+イオンの供給源として硫酸第一鉄を主成分とするめっき液(硫酸浴)、硫酸第一鉄および塩化第一鉄を主成分とするめっき液、および、塩化第一鉄を主成分とするめっき液(塩化浴)が挙げられる。
【0048】
しかしながら、前二者のめっき液、つまり、硫酸第一鉄を含むめっき液を用いて高電流密度で厚い鉄−リン合金膜を形成すると、鉄−リン合金膜に被めっき物にまで達するようなマクロクラックが発生することがある。
【0049】
これに対し、塩化第一鉄を主成分とするめっき液を用い、且つ、次亜リン酸(H
3PO
2)濃度を比較的低くすると、高電流密度で厚い(例えば100μm〜150μm)鉄−リン合金膜を形成しても、マクロクラックの発生を抑制することができる。マクロクラックの発生が抑制された鉄−リン合金膜の断面写真を
図7に示す。
図7から、鉄−リン合金膜71には、被めっき物70にまで達するようなマクロクラックが発生していないことがわかる。
【0050】
また、めっき液の次亜リン酸含有量を0.01g/L以上1.0g/L以下にすると、表面が滑らかで密着性に優れた鉄−リン合金膜を形成することができる。そのため、そのような鉄−リン合金膜を、アルミニウム合金製シリンダブロックのシリンダボア内周面に形成すると、研磨工程やホーニング工程を省略することができる。さらに、
図7に示すように、この鉄−リン合金膜の表面は、細かいクラック(被めっき物にまで達するマクロクラックではない)を有しているので、クラックに潤滑油が保持され、ピストン等の相手材との摺動性が向上する。これらの効果をより確実に得る観点からは、めっき液の次亜リン酸含有量は、0.1g/L以上0.5g/L以下であることがより好ましい。
【0051】
めっき液の、Fe
2+イオンの供給源としての塩化第一鉄の含有量は、350g/L以上450g/L以下であることが好ましい。また、めっき速度の向上等の観点から、めっき処理部10に供給されるめっき液のpH値(つまり本槽20内のめっき液のpH値)は、1.0以上1.5以下であることが好ましく、1.25以上1.40以下であることがより好ましい。さらに、このようなめっき液を用いて高電流密度でめっき処理を行う場合、めっき液の温度は50℃以上70℃以下であることが好ましく、60℃以上70℃以下であることがより好ましい。また、陰極電流密度は、100A/dm
2以上200A/dm
2以下であることが好ましく、100A/dm
2以上150A/dm
2以下であることがより好ましい。
【0052】
既に説明したように、本実施形態の鉄めっき装置100、100Aおよび100Bでは、鉄溶解槽40に流入する前のめっき液に対してpHの調整が行われる。ここで、鉄溶解槽40に流入する前のめっき液に対して塩酸を加えた場合(実施例1)と、鉄溶解槽40から流出した後で本槽20に流入する前のめっき液に対して塩酸を加えた場合(比較例1)とで、スチールウールの溶解量を比較した結果を説明する。溶解量を測定した条件(めっき液の組成、めっき液の温度、本槽20内のめっき液のpH値、鉄溶解槽40の容量、鉄溶解槽40へのめっき液の流入速度、めっき液の総量)は、実施例1および比較例1のいずれについても、表1に示す通りである。また、実施例1および比較例1のそれぞれについて、本槽20への流入前のめっき液のpH値の変動およびその周期、塩酸の供給時間は、表2に示す通りである。
【0055】
表1および表2に示した条件でスチールウールの溶解量を測定したところ、比較例1ではスチールウールの溶解量が132g/Hrであったのに対し、実施例1ではスチールウールの溶解量は198g/Hrであった。このように、鉄溶解槽40に流入する前のめっき液に対してpHの調整を行うことにより、単位時間当たりの鉄の溶解量を大きく増加させ得ることが確認された。
【0056】
また、既に説明したように、鉄溶解槽40では、スチールウールを溶解することが好ましい。ここで、鉄溶解槽40でスチールウールを溶解した場合(実施例2)と、鉄粉を溶解した場合(実施例3)とで、溶解量を比較した結果を説明する。溶解量を測定した条件(めっき液の組成、めっき液の温度、本槽20内のめっき液のpH値、鉄溶解槽40の容量、めっき液の総量、鉄溶解槽40へのめっき液の流入速度、溶解時間)は、実施例2および3のいずれについても、表3に示す通りである。また、実施例2で用いたスチールウールの繊維中心径および実施例3で用いた鉄粉の粒度分布は、表4に示す通りである。
【0059】
表3および表4に示した条件で、スチールウールおよび鉄粉の溶解量を測定したところ、実施例2におけるスチールウールの溶解量および実施例3における鉄粉の溶解量は、表5および
図8に示す通りであった。
【0061】
表5および
図8からわかるように、スチールウールを用いた実施例2では、鉄粉を用いた実施例3よりも、溶解量が著しく多かった。これは、鉄溶解槽40で鉄粉を溶解させる場合、鉄溶解槽40の底部に鉄粉が固着・凝集して浮遊している鉄粉が少なくなることがあり、そのことによって鉄溶解速度が低下するためであると考えられる。鉄粉の凝集は、鉄溶解槽40に攪拌機を設けることにより防止することができるが、その場合、鉄溶解槽40が大型化してしまう。