特許第5654615号(P5654615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5654615アクリル酸および/またはそのエステルおよびその重合体の製法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5654615
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】アクリル酸および/またはそのエステルおよびその重合体の製法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/377 20060101AFI20141218BHJP
   C07C 57/04 20060101ALI20141218BHJP
   C08F 20/02 20060101ALI20141218BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20141218BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20141218BHJP
【FI】
   C07C51/377
   C07C57/04
   C08F20/02
   C08F2/00 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-551050(P2012-551050)
(86)(22)【出願日】2011年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2011080461
(87)【国際公開番号】WO2012091114
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2013年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-291957(P2010-291957)
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-160923(P2011-160923)
(32)【優先日】2011年7月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕
(72)【発明者】
【氏名】亀井 寿
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−534695(JP,A)
【文献】 特開平06−122707(JP,A)
【文献】 特開2010−180171(JP,A)
【文献】 特表2010−501526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/00
C07C 57/00
C08F 2/00
C08F 20/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルを含む原料組成物から、アクリル酸および/またはそのエステルを製造する方法であって、
(a)原料組成物を気化させる蒸発工程、および、
(b)該工程(a)で気化した原料組成物を脱水触媒と接触させる脱水工程
を含み、
該製造方法は、工程(a)に供給したヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステル(総量)の工程(a)での転化率を30質量%以下に制御することによって、工程(b)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を工程(a)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量100質量%に対し70質量%以上に制御することを特徴とするアクリル酸および/またはそのエステルの製造方法。
【請求項2】
前記原料組成物中に含まれるヒドロキシプロピオン酸の少なくとも一部または全部が、発酵により得られるヒドロキシプロピオン酸であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記原料組成物中に含まれる無機化合物が、ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量100質量%に対して、1質量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
工程(a)において、原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量に対して、水および/または不活性気体を総量で0.5モル倍以上供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
ヒドロキシプロピオン酸が3−ヒドロキシプロピオン酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルから、アクリル酸および/またはそのエステルを製造する方法、および、親水性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸は吸水性樹脂等の原料として工業的に広く利用されており、通常、アクリル酸の製法としては、固定床多管式連続反応器を用い酸化物触媒の存在下、プロピレンを接触気相酸化によりアクロレインとし、得られたアクロレインの接触気相酸化によりアクリル酸を製造する二段酸化方法が一般的である。プロピレンは化石資源由来の原料であるため、再生可能資源から製造することが望まれている。
またアクリル酸エステルは、アクリル酸のエステル化により製造されており、粘着剤、塗料等各種樹脂の原料として広く用いられている。
【0003】
再生可能な資源であるバイオマス等を利用して、アクリル酸を商業的規模で経済的に製造する試みが行われている。バイオマスからのアクリル酸の生成方法としては、天然物であり容易に入手可能な乳酸(2−ヒドロキシプロピオン酸、2HPとも称す)や、天然物から得られる糖類やセルロース等を分解して得られる糖類をさらに発酵により調製される3−ヒドロキシプロピオン酸(3HPとも称す)等のヒドロキシプロピオン酸(HPとも称す)を、脱水することによりアクリル酸を調製する方法が挙げられる。
【0004】
特許文献1は、発酵等により得られたβ−ヒドロキシカルボン酸又はその塩を含む水溶液または溶液を準備し、その溶液を脱水触媒の存在または非存在の下で加熱することにより脱水を施し、不飽和カルボン酸又はその塩を製造する方法を開示している。
特許文献2は、α−またはβ−ヒドロキシカルボン酸を含む水溶液を、不活性なセラミック等や酸性の固体触媒を保持したところへ導入して加熱することにより、α,β−不飽和カルボン酸を調製する方法を開示している。さらにα−またはβ−ヒドロキシカルボン酸から形成されるポリマー、オリゴマー、ラクチド、ラクトン等を含む水溶液を用いることができるとの記載はあるが、具体的に実施した例の開示はない。
【0005】
ヒドロキシプロピオン酸を含む原料組成物を、蒸発させて触媒と接触させる気相脱水反応によりアクリル酸を製造する場合、蒸発器や反応器内に付着物が生成し、最終的に蒸発器や反応器が閉塞してしまい、長時間安定に製造することが困難であるという問題がある。また付着物が触媒表面を覆うことによって、触媒活性が低下し、ヒドロキシプロピオン酸の転化率が低下する問題もある。またその結果、生成したアクリル酸に未転化のヒドロキシプロピオン酸が混入し、反応後の精製工程において、アクリル酸の純度が低下したり、ヒドロキシプロピオン酸がアクリル酸と反応し、アクリル酸の収量が低下するという問題も生じる。
【0006】
親水性樹脂、特に吸水性樹脂は、その中の残存モノマー含量を低減することが、性能面及び安全面から望まれている。そのため、吸水性樹脂の調製に用いるアクリル酸原料は、吸水性樹脂中の残存モノマー発生の原因となるヒドロキシプロピオン酸やダイマーないしオリゴマー等の不純物が少ないことが強く求められている(特許文献3、特許文献4)。しかし、前記方法では、得られたアクリル酸中に未反応のヒドロキシプロピオン酸モノマーや重質化した副生物が多いことから、煩雑な精製工程の追加が必要であるため、吸水性樹脂の原料となるアクリル酸を得る方法としては不十分な技術であり、工夫の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2005−521718号公報
【特許文献2】国際公開第2005/095320号
【特許文献3】特開平6−122707号公報
【特許文献4】特表2008−534695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、ヒドロキシプロピオン酸を原料とし、気相反応にてアクリル酸を製造する際に、蒸発器や反応器の閉塞や、ヒドロキシプロピオン酸の転化率を低下させることなく、また、副反応で生成する重質化した生成物等の副生物の発生量を減らしつつ、純度の高いアクリル酸を長時間にわたり安定して製造することができるアクリル酸の製造方法を提供することにある。また、不純物の少ないアクリル酸を原料として、性能および安全面に優れる吸水性樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討した結果、ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルを含む原料組成物からアクリル酸および/またはそのエステルを製造するにあたり、原料組成物を気化させる蒸発工程と、気化した原料組成物を脱水触媒と接触させ、脱水反応によりアクリル酸および/またはそのエステルを合成する脱水工程を含み、蒸発工程に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量100質量%に対して、脱水工程に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を70質量%以上に制御した条件で、アクリル酸および/またはそのエステルの製造を実施することにより、蒸発器や反応器の閉塞や触媒活性の低下によるヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの転化率の低下を抑制し、長期間にわたり安定して、高純度のアクリル酸および/またはそのエステルを製造することができることを見出して、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルを含む原料組成物から、アクリル酸および/またはそのエステルを製造する方法であって、
(a)原料組成物を気化させる蒸発工程、および、
(b)気化した原料組成物を脱水触媒と接触させる脱水工程
を含み、工程(a)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量100質量%に対して、工程(b)に供給する該ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を70質量%以上に制御することを特徴とするアクリル酸および/またはそのエステルの製造方法。
【0011】
(2)前記原料組成物中に含まれるヒドロキシプロピオン酸の少なくとも一部または全部が、発酵により得られるヒドロキシプロピオン酸であることを特徴とする(1)記載の製造方法。
(3)前記原料組成物中に含まれる無機化合物が、ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量100質量%に対して、1質量%以下であることを特徴とする(1)または(2)記載の製造方法。
(4)工程(a)において、原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量に対して、水および/または不活性気体を総量で0.5モル倍以上供給することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
(5)ヒドロキシプロピオン酸が3−ヒドロキシプロピオン酸であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の製造方法。
【0012】
(6)工程(b)で生成した脱水触媒上の炭素状物質に、酸化剤を接触させて該炭素状物質を除去することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の製造方法。
(7)前記酸化剤がガス状酸化剤であることを特徴とする(6)記載の製造方法。
(8)工程(b)で用いる脱水触媒が充填された反応器内にガス状酸化剤を流通させて、前記炭素状物質を除去することを特徴とする(7)に記載の製造方法。
【0013】
(9)工程(a)と工程(b)とからなる第一のヒドロキシプロピオン酸反応工程と、脱水触媒上の炭素状物質を除去する触媒再生工程と、工程(a)と触媒再生工程で得られた脱水触媒を用いる工程(b)とからなる第二のヒドロキシプロピオン酸反応工程とを有することを特徴とする(6)〜(8)のいずれか1項に記載の製造方法。
(10)複数の反応器を用いてアクリル酸および/またはそのエステルを製造する方法であって、一の反応器で前記触媒再生工程を行う間、他の反応器で前記第一または第二のヒドロキシプロピオン酸反応工程を行う(9)に記載の製造方法。
【0014】
(11)工程(a)の蒸発器中で生成した炭素状物質に、酸化剤を接触させて前記炭素状物質を除去する工程を含むことを特徴とする(9)または(10)に記載の製造方法。
(12)晶析によりアクリル酸および/またはそのエステルを精製する工程を含むことを特徴とする(1)〜(11)のいずれか1項に記載の製造方法。
(13)(1)〜(12)のいずれか1項に記載の製造方法により得られたアクリル酸および/またはそのエステルを含む単量体成分を重合することを特徴とする親水性樹脂の製造方法。
(14)前記親水性樹脂が吸水性樹脂である(13)に記載の親水性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蒸発器や反応器の閉塞や触媒活性の低下を抑制し、ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルを効率良く転化することができ、アクリル酸および/またはそのエステルを長期間にわたり安定して製造することができる、アクリル酸および/またはそのエステルの製造方法を提供することができる。この製造方法を使用すれば、アクリル酸および/またはそのエステルを高収率で安定的かつ連続的に製造することができる。また、本製法で得られたアクリル酸および/またはそのエステルを使用して、親水性樹脂を製造することにより、親水性樹脂中の残存モノマー含有量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】蒸発工程及び脱水工程の好ましい形態の一例を示す概念図である。
図2】固定床連続反応器内において炭素状物質を触媒上から酸化分解除去するときの、触媒の温度変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0018】
<アクリル酸および/またはそのエステルの製造方法>
本発明は、ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルを含む原料組成物(原料組成物とも称す)から、アクリル酸および/またはそのエステルを製造する方法であって、(a)原料組成物を気化させる蒸発工程、および、(b)気化した原料組成物を脱水触媒と接触させる脱水工程を含み、工程(a)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量100質量%に対して、工程(b)に供給する該ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を70質量%以上に制御することを特徴とするアクリル酸および/またはそのエステルの製造方法である。
【0019】
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルについては、ヒドロキシプロピオン酸をこれらの代表として記載し、また、アクリル酸および/またはそのエステルについては、アクリル酸をこれらの代表として記載する。なお、ヒドロキシプロピオン酸エステルおよびアクリル酸エステルは、それぞれ対応する酸を、後述の方法によりエステル化して得ることができる。
【0020】
本発明におけるヒドロキシプロピオン酸は、2−ヒドロキシプロピオン酸および3−ヒドロキシプロピオン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物である。また、ヒドロキシプロピオン酸としては、3−ヒドロキシプロピオン酸が好ましい。
ヒドロキシプロピオン酸を含む原料組成物は、該ヒドロキシプロピオン酸を含んでいれば良く、ヒドロキシプロピオン酸のエステルダイマーやエーテルダイマー等を含んでいても良い。また、溶媒や、ヒドロキシプロピオン酸の調製において生成する副生物等を含んでいてもよい。
原料組成物に含まれるヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量の濃度は、好ましくは5〜95質量%、より好ましくは7〜90質量%、更に好ましくは10〜90質量%である。
【0021】
ヒドロキシプロピオン酸を含む原料組成物には溶媒が含まれていてもよい。溶媒としては、ヒドロキシプロピオン酸を溶解できるものであれば、特に限定されないが、例えば、水、アルコール、炭化水素、エーテル、ケトン、エステル、アミン、アミド等が挙げられる。これらは、1種でも2種以上でも用いることができる。溶媒の沸点は、気化が容易になるためヒドロキシプロピオン酸よりも低い方が好ましい。好適には水である。
本発明において、原料組成物中に溶媒を含有させる場合、原料組成物100質量%における溶媒の濃度は、好ましくは5〜95質量%であり、より好ましくは10〜93質量%、更に好ましくは10〜90質量%である。溶媒の濃度が5質量%以上であれば、粘度の低下により原料組成物の取り扱いが容易になり、また、ヒドロキシプロピオン酸の蒸発が促進される効果が期待できる。一方、95質量%以下とすることにより、蒸発にかかる熱量を抑制し、用役費の低減に寄与できる。
【0022】
ヒドロキシプロピオン酸を含む原料組成物には、ヒドロキシプロピオン酸以外の成分、例えば、ヒドロキシプロピオン酸を発酵等により合成する際の副生物等が含まれていても良い。当該副生物としては、具体的には、発酵においてヒドロキシプロピオン酸と共に副生される可能性のある、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸、フマル酸、ピルビン酸、グリコール酸、エタノール、アミノ酸類、1,3−プロパンジオール、グリセリン、ヒドロキシプロピオンアルデヒド、アラニン等が例示される。
【0023】
本発明で用いられるヒドロキシプロピオン酸は、種々の源から得ることができ、地球温暖化及び環境保護の観点から、炭素源としてリサイクル可能な生物由来資源を用いることが好ましい。また、ヒドロキシプロピオン酸は、ヒドロキシプロピオニトリルの加水分解や、プロピオラクトンの加水分解によっても合成できる。更に、ヒドロキシプロピオン酸エステルは、酸化エチレン、アルコールと一酸化炭素から合成できることも知られている。
ヒドロキシプロピオン酸としては、具体的には、セルロース等の炭水化物を触媒により分解して調製された2−ヒドロキシプロピオン酸;農作物等から得られる糖類やセルロース等を分解して得られる糖類から、さらに発酵により調製された2−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸;等を用いることができる。
本発明においては、原料組成物中に含まれるヒドロキシプロピオン酸の少なくとも一部または全部が、発酵により得られるヒドロキシプロピオン酸であることが好ましい。
またヒドロキシプロピオン酸の原料として、バイオマス等の生物由来資源であることが好ましい。
本発明における発酵とは、有機物が微生物の作用によって変換され、原料有機物とは異なる化合物が生産されることを指す。
【0024】
2−ヒドロキシプロピオン酸は、公知の方法により入手可能であり、例えば、特開2008−120796号公報記載のセルロース系バイオマス原料等の炭水化物含有原料を、ルイス酸触媒を含む溶媒中で加熱処理することにより、得ることができる。また、Advances in Applied Microbiology、42巻、45−95頁、1996年記載の乳酸菌を用いた発酵や、Enzyme and Microbial Technology、26巻、87−107頁、2000年に記載されているカビ(Rhizopus oryzae)を用いた発酵により、得ることが可能である。
【0025】
3−ヒドロキシプロピオン酸もまた、公知の方法で入手可能であり、例えば、国際公開第2008/027742号に記載されている、Streptomyces griseus ATCC21897由来beta−alanine aminotransferase遺伝子導入大腸菌を用いた、グルコースを炭素源とした発酵により得ることができる。また、国際公開第2001/016346号に記載されている、Klebsiella pneumoniae由来グリセリン脱水酵素および大腸菌由来アルデヒド酸化酵素導入大腸菌を用いた、グリセリンを炭素源とした発酵によっても得ることができる。
【0026】
ヒドロキシプロピオン酸の入手方法の例として上記公知文献を記載したが、発酵に用いる細菌または組換え細菌は特に限定されず、ヒドロキシプロピオン酸生成能を有する生物を用いた発酵により入手したヒドロキシプロピオン酸であれば、本発明の製法で利用可能である。また、発酵以外にも、原料とする糖類と生物とを接触させることにより生成したヒドロキシプロピオン酸でも、本発明の製法でアクリル酸へ変換することができる。
糖類と生物を接触させるとは、原料として利用する糖類の存在下で、微生物又はその処理物を用いて反応を行うことをも包含する。該処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、菌死体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、これらから酵素を抽出した粗酵素液、精製酵素等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いて反応を行うことにより入手したヒドロキシプロピオン酸も、用いることができる。
【0027】
本発明では、生物由来資源を用いて発酵によりヒドロキシプロピオン酸を得る具体的実施形態に係る方法において、固体(特に微細な植物の部分又は細胞及び/又は細胞断片)、発酵の後に得られるヒドロキシプロピオン酸及び微生物等を含む水性組成物から、微生物や生物的材料等を分離するのが良い。当該分離は、固体を液状組成物から分離するための、当業者に公知の全ての方法により実施することができるが、好ましくは沈殿法、遠心分離法又は濾過法により、最も好ましくは濾過法により、分離するのがよい。
【0028】
ヒドロキシプロピオン酸及び微生物等を含む水性組成物から微生物等を分離する処理においては、そこに含まれる微生物に処理を施すことなく行っても良いが、そこに含まれる微生物を殺菌する処理工程を含んでも良い。前記水性組成物から微生物等を殺菌する処理は、微生物を分離する前、その間又は後に行うことができる。上記殺菌処理としては、加熱処理(加熱による微生物の殺菌)、高エネルギー照射処理(例えば紫外線照射による微生物の殺菌)等が挙げられ、好ましくは加熱処理である。
上記加熱処理としては、ヒドロキシプロピオン酸及び微生物等を含む水性組成物を、好ましくは少なくとも60秒間、より好ましくは少なくとも10分間、更に好ましくは少なくとも30分間の処理時間で、好ましくは少なくとも100℃、より好ましくは少なくとも110℃、更に好ましくは少なくとも120℃の温度で、加熱することによって実施するのが好ましい。当該加熱処理は、当業者に公知の装置(例えばオートクレーブ等)において実施するのが好ましい。
【0029】
本発明に用いるヒドロキシプロピオン酸を含む原料組成物としては、より不純物が少ない原料組成物を用いることが好ましい。
不純物が少ない原料組成物を得る方法としては、公知の方法が利用可能である。具体的には、発酵により得られた粗製ヒドロキシプロピオン酸を、カルシウム塩を用いて沈殿させて、ヒドロキシプロピオン酸のカルシウム塩として回収した後、硫酸等の酸と反応させて、ヒドロキシプロピオン酸を精製する方法;発酵により得たアンモニウム型のヒドロキシプロピオン酸を、電気透析または陽イオン交換法によってヒドロキシプロピオン酸に化学変換させて精製する方法;等が利用できる。
また、発酵により得られたアンモニウム塩型のヒドロキシプロピオン酸水溶液に、水に不混和性のアミン溶媒を添加し加熱することにより、アンモニアを除去してヒドロキシプロピオン酸のアミン溶液を得ることができる。そこに水を加えて加熱することにより、ヒドロキシプロピオン酸の水溶液を得ることができる。
また、ヒドロキシプロピオン酸の蒸気圧を利用して、蒸発にて精製することもできる。しかし、ヒドロキシプロピオン酸の蒸気圧は小さく、かつ加熱によりオリゴマー化等の副反応が進行しやすいため、減圧下での薄層蒸発のような熱履歴の小さな蒸発方法が好ましい。
さらに、ヒドロキシプロピオン酸をアルコールによってエステル化し、得られたヒドロキシプロピオン酸エステルを蒸留にて精製した後、ヒドロキシプロピオン酸エステルを加水分解することで、精製したヒドロキシプロピオン酸を得ることもできる。
【0030】
なお、本発明で用いる原料組成物には、発酵工程で用いる培地成分である無機化合物が存在することがある。無機化合物としては、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸鉄、硫酸銅、酢酸アンモニウム等が挙げられる。
原料組成物中に無機化合物が存在すると、蒸発器中で無機化合物が析出して、閉塞や蒸発効率の低下が生じることがあり、また、無機化合物の作用によって、ヒドロキシプロピオン酸が蒸発器中で変性し、オリゴマーや他の副生物となり、アクリル酸収率の低下を招くおそれがある。また、無機化合物が触媒に吸着すると、触媒活性の低下やアクリル酸選択率の低下を招く場合もある。
無機化合物の量は、原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量100質量%に対して、総量で1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。無機化合物の量が1質量%以下であれば、蒸発器での析出による閉塞やヒドロキシプロピオン酸の過大な転化が抑えられ、また、脱水工程においても触媒の活性低下を抑制できるため、長期間の安定運転が可能となる。
【0031】
本発明のヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの製造方法は、(a)原料組成物を気化させる蒸発工程、および、(b)気化した原料組成物を脱水触媒と接触させる脱水工程を含み、工程(a)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量100質量%に対して、工程(b)に供給する該ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を70質量%以上に制御するものである。
【0032】
本発明においては、蒸発工程(a)で、ヒドロキシプロピオン酸およびそのエステルの転化を抑制し、脱水工程(b)に原料組成物を供給する段階で、原料のヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を、工程(a)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量100質量%に対して、70質量%以上に制御した条件で反応させることにより、脱水反応を長期間安定に実施することができる。
つまり、工程(b)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を70質量%以上に制御することは、工程(a)に供給したヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステル(総量)の工程(a)での転化率を30質量%以下に制御することを意味する。
脱水工程(b)に原料組成物を供給する段階(脱水工程入口等)でのヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量は、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上である。
【0033】
なお、蒸発器の種類や形状、蒸発器内の温度、原料組成物の組成、共存させる不活性ガス量、後述のSV(空間速度)等を調整することにより、工程(b)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を70質量%以上に制御することができる。
また、蒸発工程(a)を出て脱水工程(b)に入る際の気体を採取して冷却し、得られた液体を液体クロマトグラフィー等で分析することにより、工程(b)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を測定することができる。
【0034】
ヒドロキシプロピオン酸は、分子内に水酸基とカルボキシル基を有し、加熱することにより比較的容易に分子間脱水縮合を起こし、オリゴマーを形成する。一旦生成したオリゴマーは、更なる加熱により変質し、付着物となり反応管の閉塞の原因となる。また、触媒上で生成したオリゴマーは、触媒表面を覆って、反応成績の低下を引き起こしたり、更なる加熱による変質により最終的に炭素状物質となり、触媒活性の低下を引き起こすことがある。
ヒドロキシプロピオン酸は、沸点が高く、気化させるには高温にまで加熱する必要がある。その際、蒸発速度が遅く、液体の状態である程度の時間加熱されると容易に反応を起こし、オリゴマー等の重質な化合物へ転化してしまう。オリゴマー化は平衡反応であり、同時に生成する水は低沸点のため、すぐに気化してしまうため、さらにオリゴマー化が促進されることになる。
【0035】
蒸発工程では、原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸の一部が転化し、その一部はアクリル酸になるが、一部はオリゴマー等の重質生成物となる。蒸発工程でヒドロキシプロピオン酸の転化が多いと、生成した重質な化合物により蒸発器が閉塞したり、蒸発器に重質な化合物が付着することによって、熱伝導性が悪くなり、蒸発能力が低下する可能性がある。また、生成した重質な化合物が触媒層と接触することで、触媒のコーキングが進行し、触媒活性が大きく低下したり、重質化の進行が早くなって、触媒層の閉塞が起こる。
しかし、蒸発工程でのヒドロキシプロピオン酸の転化を小さくし、脱水工程入口で、原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を、蒸発工程入口でのヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量に対して、70質量%以上に制御すると、重質化の進行は緩やかで、閉塞やコーキング等により反応を停止することなく、長期間安定に反応を継続することができる。
さらに、蒸発器内でヒドロキシプロピオン酸が転化した場合、一部はアクリル酸が生成するが、重質分等の不必要な成分が生成する割合も多く、アクリル酸の選択率は、触媒上でヒドロキシプロピオン酸が転化した場合に比べ、低いことが判明した。従って、蒸発器内でヒドロキシプロピオン酸が過大に転化することは、反応器出口でのアクリル酸生成量の低下につながり、生産性の低下を招くことになる。よって、蒸発器内でのヒドロキシプロピオン酸の転化を抑制することは、高収率でアクリル酸を製造する上でも重要なことである。
【0036】
ヒドロキシプロピオン酸を含む原料組成物の気化(蒸発)は、該組成物を加熱することにより実施することができる。蒸発器内の温度は、150℃〜500℃が好ましく、170℃〜450℃がより好ましく、200℃〜400℃が更に好ましく、220℃〜370℃が特に好ましく、220℃〜320℃が最も好ましい。当該温度が150℃〜500℃の範囲であれば、原料組成物が速やかに気化し、副反応による蒸発器や反応器の閉塞が生じない。また、500℃より高いと、ヒドロキシプロピオン酸の転化が大きくなったり、加熱に必要なエネルギーが過大になるばかりか、該組成物がコーキングを起こし、炭素質の析出物が蒸発器や反応器内に付着して閉塞を起こす可能性がある。
【0037】
蒸発器内の圧力は、低いほど原料組成物の蒸発が起こりやすくなるため有利であるが、引き続く反応器の適正な圧力や設備等のコストも合わせて選択する必要がある。蒸発器内の圧力としては、好ましくは10kPa〜1000kPaであり、より好ましくは30kPa〜300kPaであり、更に好ましくは50kPa〜250kPaである。
【0038】
蒸発器内への原料組成物の供給速度は、反応抑制等の観点から、蒸発器に供給する原料組成物が全量蒸発した気体およびガス(後述の水や不活性気体等)の総量のSV(空間速度)が、100〜100000/時が好ましく、200〜50000/時がより好ましく、600〜30000/時がさらに好ましい。SVは、原料組成物およびガスの組成から計算される気体体積流量(0℃、101kPa換算)を、蒸発器内の体積で除した値として定義される。当該SVは、原料組成物の供給速度を変更すること等により調節することができる。
【0039】
蒸発器は、液体で供給する原料組成物に効率的に熱を伝える構造が好ましい。例えば、水平管型や垂直管型の自然循環式蒸発器、強制循環式蒸発器等が挙げられる。
また、蒸発器内の原料組成物の流路に、ラシヒリング、ベルルサドル、球状成型物、金網の成型物(ディクソンパッキン、マクマホンパッキン等)、メラパック(スルザーケムテック社製)といった不規則充填物や規則充填物等の、単位充填容積当たりの表面積が大きな充填物を充填し、そこに原料組成物を供給することで、原料組成物(液体)が接する表面積を大きくして蒸発させる方法も挙げられる。こうすることにより、供給した原料組成物が、表面積の大きな充填物と接触することになり、伝熱面積が増え、効率的に熱が伝わり、短時間で蒸発が進み、そのため、蒸発器内での原料組成物の転化率が低くなる。
上記充填物の材料としては、鉄やステンレス等の金属材料や、シリカ、セラミック等の無機材料等が使用できる。
充填物の表面積は、蒸発器に充填した際に、5cm/cm以上が好ましく、10cm/cm以上がより好ましく、20cm/cm以上がさらに好ましく、30cm/cm以上が特に好ましい。また、上限は特に限定されないが、1000cm/cm以下が好ましく、800cm/cm以下がより好ましい。
【0040】
また、上昇液膜型、流下液膜型、撹拌液膜型等の薄膜式熱交換器を用いて、液体の表面積を大きくして、短時間で蒸発させる方法も挙げられる。さらに、スプレーやアトマイザー等を用いて、該組成物を細かい液滴にして分散させて蒸発させる方法も例示できる。液滴の径は、1mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。
その他、加熱した原料組成物を蒸発室に供給し、気化させるフラッシュ蒸発器を用いても良い。フラッシュ蒸発器においては、原料組成物を、常圧または加圧下で加熱し、減圧又は常圧下の蒸発室に液を供給して、原料組成物を気化させることができる。
また、原料組成物を流動床式の蒸発器に供給して、気化させても良い。例えば、粒状の不活性固体を不活性ガスで流動化させ、加熱された流動床式蒸発器に原料組成物を供給し、気化させても良い。
また、原料組成物の気化は、上記方法を多段階で行っても良い。例えば、フラッシュ蒸発器の後に充填物を充填した蒸発器を設置し、フラッシュ蒸発器で、原料組成物の一部を蒸発させた後、充填物を充填した蒸発器で、残りの原料組成物を蒸発させても良い。
また、原料組成物の気化には、上記方法を併用してもよい。例えば、スプレーで原料組成物を噴霧し、充填物を充填した蒸発器で原料組成物を気化させることもできる。
【0041】
蒸発工程において好ましい形態は、加熱する際にガス(水や不活性気体等)を導入しながら蒸発させる形態が好ましい。原料組成物と共に、水や不活性気体等のガスを導入すると、ヒドロキシプロピオン酸の蒸発が促進され、安定な反応を継続できるため、好ましい形態である。
ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、水が蒸発した水蒸気等が挙げられ、これらは1種でも2種以上でも用いることができる。好適には、窒素、水蒸気である。この水蒸気には、原料組成物中に溶媒として含まれる水が気化した水蒸気も含まれる。
ガスの供給量としては、原料組成物中のヒドロキシカルボン酸および/またはそのエステルの総量に対して、水および/または不活性気体の総量として0.5モル倍〜100モル倍が好ましく、1モル倍〜50モル倍がより好ましい。
【0042】
熱の供給方法は、蒸気、熱媒、溶融塩、ヒーター等の熱源を用いて、ジャケット式のように蒸発器の外側から加熱する方法;コイルのように蒸発器の内側に加熱源を有する方法により加熱する方法等が挙げられる。また、加熱した水蒸気や、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等の不活性ガスを蒸発器に供給し、原料組成物に接触させて熱を与える方法等も挙げられる。また、これらを併用しても良い。
例えば、加熱した充填物の上に、原料組成物を噴霧して蒸発させる方法や、さらに加熱した窒素や水蒸気を同時に供給する方法等が好適である。
【0043】
次に、脱水工程で使用する反応器としては、中に固体触媒を保持し、加熱することができればよく、例えば、固定床連続反応器、流動床連続反応器等が使用でき、固定床連続反応器が好ましい。
上記固定床連続反応器を用いる場合は、反応器内に触媒を充填して加熱しておき、そこに原料組成物の蒸気を供給すればよい。原料組成物の蒸気は、上昇流、下降流、水平流、いずれも好適に使用できる。また、熱交換の容易さから、固定床多管式連続反応器が好適に使用できる。
上記流動床連続反応器を用いる場合は、反応器の中に粒状の触媒を入れ、原料組成物の蒸気や、別途供給する不活性ガス等で触媒を流動させながら、反応させることができる。触媒が流動しているため、重質分による閉塞が起こりにくい。また、触媒の一部を連続的に抜き出して、新しい触媒や再生した触媒を連続的に供給することもできる。
【0044】
脱水工程は蒸発工程の後にあれば良く、その間に別の工程があっても良い。例えば、蒸発器で気化させた原料組成物の蒸気を、所定の温度に加熱/冷却する温度調整工程を経て、反応器で脱水工程を実施しても良い。
蒸発工程および脱水工程の好ましい形態として、例えば、蒸発器で気化させた原料組成物の蒸気を、導管を通して連結した反応器へ供給する形態等が挙げられる。この形態の一例の概念図を図1に示す。ここでは、原料組成物の供給速度を計量器1で測定しながら、ポンプ2で原料組成物を蒸発器3に供給し、原料組成物を気化する。気化された原料組成物を、連結管4を通して、反応器5に供給し、脱水触媒と接触させて反応させ、アクリル酸および/またはそのエステルを製造する。
また、蒸発器と反応器を一体化しても良い。例えば、反応管に、蒸発層として表面積の大きい充填物を充填し、当該蒸発層の下に触媒を充填することにより、蒸発層を蒸発工程、触媒層を脱水工程として連続した運転も、好ましい形態の1つである。
また、1つ乃至は複数の蒸発層と、触媒を充填した多管式の反応器を連結して運転することも、好ましい形態である。
【0045】
上記いずれの場合も、工程(b)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量は、工程(b)入口における量を示す。
なお、蒸発器を、導管を通して反応器と連結した場合、例えば上記図1の場合、連結管4にサンプリング口を設けておき、蒸発器を出たガスをサンプリングし、分析することにより、脱水工程入口のヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を決定することができる。
また、蒸発層と触媒層を積層した(一体化した)場合、蒸発層と触媒層の間にサンプリング口を設けておき、蒸発層を出たガスをサンプリングし、分析することにより、脱水工程入口のヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を決定することができる。また、蒸発層のみで運転を行い、得られたガス中のヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量が、供給したヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量の70質量%以上になるように条件を調整した後、触媒を充填し、反応を実施することもできる。
さらに、1つ乃至は複数の蒸発層と、触媒を充填した多管式の反応器を連結した場合は、最後尾の蒸発層と最初の反応器の間にサンプリング口を設けておき、最後尾の蒸発層を出たガスをサンプリングし、分析することにより、脱水工程入口のヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を決定することができる。
【0046】
脱水反応の触媒、つまり脱水触媒は、ヒドロキシプロピオン酸をアクリル酸に転化する触媒作用を有するものであれば特に限定されない。
上記触媒としては、ゼオライト等の結晶性メタロシリケート;結晶性メタロシリケートに、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等を、イオン交換等の方法によって担持したもの;カオリナイト、ベントナイト、モンモリロナイト等の天然または合成粘土化合物;硫酸、ヘテロポリ酸、リン酸またはリン酸塩(リン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、リン酸マンガン、リン酸ジルコニウム等)、アルカリ金属、アルカリ土類金属を、アルミナやシリカ等の担体に担持させた触媒;Al、SiO、TiO、ZrO、SnO、V、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−ZrO、TiO−WO、TiO−ZrO等の無機酸化物または無機複合酸化物;MgSO、Al(SO、KSO、AlPO、Zr(SO等の金属の硫酸塩、リン酸塩等の固体酸性物質;酸化カルシウム、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト等の固体塩基性物質;等が挙げられる。好適には、Al、SiO、SiO−Al、TiO、ゼオライト、ゼオライトにアルカリ金属やアルカリ土類金属を担持したもの、リン酸やリン酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属を担体に担持した触媒である。
【0047】
上記触媒は、触媒成形体であっても良い。その成形体形状としては、限定されるものではなく、球状、シリンダー型、リング型、ハニカム型等が挙げられる。
上記触媒の物性としては、触媒活性等の点から、BET法による比表面積は、0.01〜500m/gが好ましく、0.1〜400m/gがより好ましい。触媒活性、生成物のアクリル酸の選択率、触媒寿命等の点から、ハメットの酸度関数Hは、+4〜−10が好ましく、+2〜−8がより好ましい。また、触媒活性や反応器の圧力損失の点から、触媒の大きさは、長径が0.1mm〜50mmが好ましく、0.5mm〜40mmがより好ましい。
【0048】
触媒層の温度は、150℃〜500℃に保持することが好ましい。より好ましくは200℃〜450℃、更に好ましくは220℃〜430℃、特に好ましくは250℃〜400℃である。この温度範囲(150℃〜500℃)であると、反応速度が速く、副反応も生じにくく、アクリル酸の収率が高くなる。
反応圧力は、特に限定されないが、原料組成物の蒸発方法、脱水反応の生産性、脱水反応後の捕集効率等を勘案して決定することができる。反応圧力としては、10kPa〜1000kPaが好ましく、より好ましくは30kPa〜300kPa、更に好ましくは50kPa〜250kPaである。
【0049】
上記の蒸発工程や脱水工程によって、ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応を安定に維持することができるが、それでもなお、蒸発器内、反応器内や触媒上に炭素状物質が徐々に付着する場合がある。その場合、蒸発器、反応器、配管等の閉塞、蒸発器の熱伝導効率の低下による蒸発効率の低下、触媒活性の低下による生産性の低下や選択率の低下等の問題が生じる恐れがある。その場合、生成した炭素状物質を除去することによって、正常な状態に戻すことができる。
【0050】
脱水触媒上の炭素状物質を除去するには、脱水触媒に酸化剤を接触させて、前記炭素状物質を除去して、触媒を再生することができる。
ここで本発明における「酸化剤」とは、炭素状物質を、酸化剤の作用によって二酸化炭素、一酸化炭素、その他の炭素含有化合物に酸化分解するものをいう。
【0051】
上記の再生方法は、(a)原料組成物を気化させる蒸発工程と(b)気化した原料組成物を脱水触媒と接触させる脱水工程からなる第一のヒドロキシプロピオン酸反応工程と、脱水触媒上の炭素状物質を除去する触媒再生工程と、工程(a)と触媒再生工程で得られた脱水触媒を用いる工程(b)とからなる第二のヒドロキシプロピオン酸反応工程とを有する方法における、触媒再生工程に使用される方法である。
【0052】
本発明で再生対象となる触媒は、ヒドロキシプロピオン酸の脱水用触媒である。そして、この触媒上には、ヒドロキシプロピオン酸との気相接触反応過程で生じた炭素状物質が堆積している。この炭素状物質は、触媒の表面や細孔内等、触媒のあらゆる部分に付着しうる。
【0053】
上記の酸化剤としては、過酸化水素水、有機過酸化物、硝酸、亜硝酸等が溶解した液状の酸化剤を使用しても良いし、ガス状の酸化剤を使用しても良い。好ましくは、ガス状の酸化剤である。
ガス状の酸化剤は、炭素状物質の酸化分解のために該炭素状物質に酸素元素を供給することが可能な気体分子であり、例えば、酸素(空気中の酸素も酸化剤に該当する)、オゾン、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素等を挙げることができる。これらの酸化剤のうち、一種以上のガス状酸化剤が含まれていれば良く、例えば、空気と酸素との混合ガス、一酸化窒素と酸素との混合ガス等を使用しても良く、また、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウムおよび水蒸気等の不活性ガスから任意に選択した一種以上のガスと酸化剤との混合ガスを使用しても良い。
【0054】
触媒再生において、第一のヒドロキシプロピオン酸反応工程で使用された反応器内から取り出した触媒を、酸化剤ガスに曝しても良いが、本発明では、簡便に触媒を再生するため、工程(b)で用いる脱水触媒が充填された反応器内にガス状酸化剤を流通させて、前記炭素状物質を除去することが好ましい。
【0055】
触媒再生において触媒の加熱温度は、高温であるほど触媒再生時間を短縮できるが、あまり高すぎると触媒の構造変化等によって、触媒の活性や選択率が低下する恐れがある。通常好ましい範囲は300〜800℃であり、より好ましくは320〜700℃であり、更に好ましくは350〜600℃である。800℃を超えると、例えばシンタリングによる触媒表面積の低下や、相転移による触媒の結晶構造変化等の、触媒における物理的構造および化学的性質が変わることになって、触媒活性や選択率が低下する恐れがある。温度は、触媒種によっても上限は異なるが、触媒調製の際に触媒を焼成する場合、焼成温度を超えない温度で加熱することが好ましい。
【0056】
上記加熱温度を制御するには、該触媒を加熱するための加熱器の設定温度、酸化剤濃度、およびガス流量等を調整すると良い。この場合、加熱器の設定温度および/または酸化剤の濃度が高いほど、触媒を加熱する温度が高くなる。そして、触媒加熱温度を連続的に測定しつつ、加熱器の設定温度および/または酸化剤の濃度を調整して触媒加熱温度を制御することも可能である。また、特開平5−192590号公報に開示されている触媒加熱温度の制御方法も挙げられる。
酸化剤濃度としては、温度制御や生産コスト等の点から、好ましくは1〜21体積%である。
処理時間としては、アクリル酸の生産性等の点から、好ましくは1〜100時間、より好ましくは2〜50時間である。
【0057】
ここで、固定床連続反応器内の温度変化を、図2をもって説明する。図2は、炭素状物質を触媒上から酸化分解除去するときの触媒の温度変化を説明するための概略温度グラフであり、縦軸が触媒層温度、横軸が触媒再生時間および固定床連続反応器内における触媒層長、矢印が固定床連続反応器内におけるガス流通方向を表している。図示の通り、固定床連続反応器内における最高の触媒加熱温度(ピーク温度)は、時間の経過と共に固定床連続反応器の入口から出口(ガス流通方向)に向かって移動する。すなわち、炭素状物質の酸化分解除去当初では、固定床連続反応器入口付近における炭素状物質の酸化分解のために酸化剤の大部分が消費され、この消費位置は、再生時間の経過と共に出口側に移動するのである。なお、図2に示すように、固定床連続反応器内のピーク温度位置を当該反応器のガス流通方向に向けて連続的に移動させ、触媒を当該触媒調製における焼成温度以下にて加熱することは、本実施形態の好ましい態様である。
【0058】
炭素状物質を酸化分解除去する本実施形態に係る方法では、触媒の種類によっては、炭素状物質の酸化分解過程で触媒活性成分が飛散する場合がある。このような場合には、必要とする触媒活性に応じて、触媒活性成分の補充処理が行われる。当該補充処理を行うことが好ましい触媒としては、リン化合物担持触媒が例示される。シリカやアルミナ等の担体にリン化合物が担持されたリン担持触媒は、ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応過程や炭素状物質の酸化分解除去過程で飛散した触媒活性成分(リン)が補充されると、活性が回復する。
【0059】
触媒活性成分の補充処理を行うためには、触媒調製の際における活性成分を担持させる方法を再実行すると良い。この方法としては、例えば、(1)含浸等の方法により、反応管から抜き出した触媒に、所定量の触媒活性成分を補充する方法、(2)特開平2−290255号公報に開示されている方法等により、反応管に充填されている状態の触媒に揮発性化合物(リン酸エステル等のリン元素を含有する化合物)を接触させる処理により、触媒活性成分を補充する方法、等が挙げられる。
【0060】
上記再生方法により、触媒の再生が行われる。当該再生の間にヒドロキシプロピオン酸の脱水反応を中断させないためには、複数の反応器を並列配置して、ある反応器内の触媒再生の間には、他の反応器をヒドロキシプロピオン酸の脱水反応に使用すると良い。つまり、一の反応器で前記触媒再生工程を行う間、他の反応器で前記第一または第二のヒドロキシプロピオン酸反応工程を行い、複数の反応器を用いることが好ましい。
【0061】
複数の反応器を使用する場合、ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応によりアクリル酸を製造する時間(反応時間)と、触媒上に蓄積した炭素状物質を除去して触媒を再生する時間(再生時間)に応じた数の反応器が必要である。例えば、再生時間が反応時間よりも短ければ、ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応に使用されている反応器1基に対して、触媒再生に使用される反応器1基が必要であり、再生時間が反応時間の2倍以下であれば、ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応に使用されている反応器1基に対して、触媒再生に使用される反応器2基があれば足りる。そのため、触媒再生に使用される反応器の数を減らせば、経済的にヒドロキシプロピオン酸の脱水反応を行えることになり、反応器数を減らすためには、再生時間をできるだけ短時間にすることが好ましいといえる。触媒再生温度や、反応器の設計温度の上限を超えない範囲で、なるべく高い温度で再生することにより、再生時間を短時間にすることができる。そのために、酸化剤の濃度や、酸化剤と共に流通させる気体成分の流量等を制御することができる。
【0062】
本発明においては、ヒドロキシプロピオン酸の脱水触媒上の炭素状物質に、酸化剤を接触させて前記炭素状物質を除去する。しかし、前述したように、ヒドロキシプロピオン酸は、ダイマー、トリマーといったオリゴマー化が進行しやすい。特に反応器へ原料を気体で供給するための蒸発器においては、原料のヒドロキシプロピオン酸が液体で加熱されるため、オリゴマー化が非常に進行しやすく、一部のオリゴマーが蒸発されず、蒸発器内に残存し、長時間の加熱によって炭素質へと変化する場合がある。その場合、ラインの閉塞や、炭素状物質の析出により、伝熱係数が低下する。
【0063】
このような場合、蒸発器や配管を定期的に清掃、交換しても良いが、蒸発器や配管中に残存する炭素状物質にも酸化剤を接触させて除去することができる。除去方法は、触媒再生の方法と同様である。蒸発器中の炭素状物質の除去と、触媒再生は、別々に実施しても良いし、同時に実施しても良い。蒸発器は反応器と連結されているため、蒸発器中の炭素状物質の除去と触媒再生は同時に実施すると効率がよい。酸化剤を蒸発器の上流側から供給すると、まず蒸発器中の炭素状物質が除去され、引き続き反応器中の触媒が再生されることになる。また酸化剤を、蒸発器と反応器のそれぞれの入口から、別々に供給することもできる。
この結果、蒸発器、反応器とも定期的に炭素状物質を除去できるため、長期間に渡って、安定にアクリル酸の製造を実施することができる。
なお、本発明においては、工程(b)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を70質量%以上に制御しているので、当該制御をしていないものに比べて、長時間反応では触媒活性の低下度合いがより小さくなり、また、その触媒を再生した場合に活性の回復がより良いものとなる。
【0064】
本発明において、反応器出口から得られる反応生成物を冷却してアクリル酸を含む組成物を得る方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、反応生成ガスを熱交換器に導入し、反応生成ガスの露点以下の温度で凝縮して得る方法や、反応生成ガスを溶剤等の捕集剤に接触させて吸収する方法等により冷却して、アクリル酸を含む組成物を得ることができる。
該組成物中のアクリル酸濃度は、好ましくは5質量%〜95質量%、より好ましくは10〜95質量%、更に好ましくは20〜95質量%である。
【0065】
このようにして得られた反応生成物の組成物中には、主な反応生成物である水、アクリル酸が含まれており、その他に副生物や原料組成物中の溶媒や不純物が含まれる場合がある。溶媒が水の場合は、アクリル酸の水溶液の状態で重合物製造の原料とすることができる。また、精製工程を加えることにより、高純度のアクリル酸にすることができる。
精製工程は、蒸留、抽出、膜分離、晶析等の公知の技術により実施でき、それらを組み合わせて実施しても良い。
【0066】
このように、本発明で得られたアクリル酸の組成物を精製することにより、高純度のアクリル酸を得ることができる。したがって、本発明の方法は、高純度のアクリル酸の製造方法をも提供する。
当該方法としては、具体的には、晶析によりアクリル酸および/またはそのエステルを精製する工程を含む。
【0067】
上記のガス状の反応生成物を、冷却凝縮や溶剤捕集等により液化し、必要に応じて、この液化物に含まれる水や捕集溶剤を従来公知の方法(例えば、蒸留)により除去したものを、晶析方法によって高純度のアクリル酸を得る方法を以下に示す。
ここで、粗アクリル酸とは、冷却工程で得られたアクリル酸を含む組成物を指し、特にアクリル酸の水溶液が好適に用いられる。
晶析工程は、粗アクリル酸からプロピオン酸を分離することができる従来公知の方法、例えば、特開平9−227445号公報や特表2002−519402号公報に記載された方法等を用いて行うことができる。
【0068】
晶析工程は、粗アクリル酸を晶析装置に供給して結晶化させることにより、精製アクリル酸を得る工程である。なお、結晶化の方法としては、従来公知の結晶化方法を採用すればよく、特に限定されるものではない。結晶化は、例えば、連続式または回分式の晶析装置を用いて、1段または2段以上で実施することができる。得られたアクリル酸の結晶は、必要に応じて、さらに洗浄や発汗等の精製を行うことにより、さらに純度の高い精製アクリル酸を得ることができる。
【0069】
上記連続式の晶析装置としては、例えば、結晶化部、固液分離部および結晶精製部が一体になった晶析装置(例えば、新日鐵化学社製のBMC(Backmixing Column Crystallizer)装置、月島機械社製の連続溶融精製システム)や、結晶化部(例えば、GMF GOUDA社製のCDC(Cooling Disk Crystallizer)装置)、固液分離部(例えば、遠心分離器、ベルトフィルター)および結晶精製部(例えば、呉羽テクノエンジ社製のKCP(Kureha Crystal Purifier)精製装置)を組み合わせた晶析装置等を使用することができる。
上記回分式の晶析装置としては、例えば、Sulzer Chemtech社製の層結晶化装置(動的結晶化装置)、BEFS PROKEM社製の静的結晶化装置等を使用することができる。
【0070】
動的結晶化とは、例えば、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器と、発汗後の母液を回収するタンクと、結晶器に粗アクリル酸を供給する循環ポンプとを備え、結晶器の下部に設けた貯蔵器から循環ポンプにより粗アクリル酸を結晶器の管内上部に移送できる動的結晶化装置を使用して晶析を行う方法である。
また、静的結晶化とは、例えば、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器であり、下部に抜き出し弁を有する結晶器と、発汗後の母液を回収するタンクとを備えた静的結晶化装置を使用して晶析を行う方法である。
【0071】
具体的には、粗アクリル酸を液相として結晶器に導入し、液相中のアクリル酸を冷却面(管壁面)に凝固させる。冷却面に生成した固相の質量が、結晶器に導入した粗アクリル酸に対して、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%になったら、直ちに、液相を結晶器から排出し、固相と液相とを分離する。液相の排出は、ポンプで汲み出す方式(動的結晶化)、結晶器から流出させる方式(静的結晶化)のいずれであってもよい。他方、固相は、結晶器から取り出した後、さらに純度を向上させるために、洗浄や発汗等の精製を行ってもよい。
【0072】
動的結晶化や静的結晶化を多段で行う場合、向流の原理を採用すれば、有利に実施することができる。このとき、各段階で結晶化されたアクリル酸は、残留母液から分離され、より高い純度を有するアクリル酸が生成する段階に供給される。他方、残留母液は、より低い純度を有するアクリル酸が生成する段階に供給される。
なお、動的結晶化では、アクリル酸の純度が低くなると、結晶化が困難になるが、静的結晶化では、動的結晶化に比べて、残留母液が冷却面に接触する時間が長く、また、温度の影響が伝わり易いので、アクリル酸の純度が低下しても、結晶化が容易である。それゆえ、アクリル酸の回収率を向上させるために、動的結晶化における最終的な残留母液を静的結晶化に付して、さらに結晶化を行ってもよい。
【0073】
必要となる結晶化段数は、どの程度の純度が要求されるかに依存する。高純度のアクリル酸を得るために必要な段数は、精製段階(動的結晶化)が、通常1〜6回、好ましくは2〜5回、より好ましくは2〜4回であり、ストリッピング段階(動的結晶化および/または静的結晶化)が、通常0〜5回、好ましくは0〜3回である。通常、供給される粗アクリル酸より高い純度を有するアクリル酸が得られる段階は、すべて精製段階であり、それ以外の段階は、すべてストリッピング段階である。ストリッピング段階は、精製段階から残留母液に含まれるアクリル酸を回収するために実施される。なお、ストリッピング段階は、必ずしも設ける必要はなく、例えば、蒸留塔を用いて、晶析装置の残留母液から低沸点成分を分離する場合には、ストリッピング段階は省略してもよい。
【0074】
動的結晶化および静的結晶化のいずれを採用する場合であっても、晶析工程で得られるアクリル酸の結晶は、そのまま製品としてもよいし、必要に応じて、さらに洗浄や発汗等の精製を行ってから製品としてもよい。他方、晶析工程で排出される残留母液は、系外に取り出してもよい。
【0075】
以上の方法により、アクリル酸を製造することができる。かくして製造されたアクリル酸は、すでに公知となっているように、アクリル酸エステル等のアクリル酸誘導体;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム等の親水性樹脂;等の合成原料として有用である。従って、本発明によるアクリル酸の製造方法は、アクリル酸誘導体や親水性樹脂の製造方法に取り入れることが当然可能である。
【0076】
本発明の方法にて、ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応によるアクリル酸の製造と同様に、ヒドロキシプロピオン酸エステルの脱水反応によるアクリル酸エステルの製造も効率よく実施することができる。
【0077】
ヒドロキシプロピオン酸エステルは、ヒドロキシプロピオン酸をアルコールにてエステル化を行い、合成することができる。
使用するアルコールとしては、特に限定されず、用途に応じて選択すればよいが、炭素数が1〜20のアルコールが好ましく、炭素数が1〜10のアルコールがより好ましく、炭素数1〜5のアルコールが更に好ましい。
【0078】
エステル化反応は、ヒドロキシプロピオン酸とアルコールを、エステル化触媒の存在下または非存在下、加熱することによって達成できる。ヒドロキシプロピオン酸はカルボン酸のため、触媒の非存在下でもエステル化反応は進行する。しかし、生産効率の点から、エステル化触媒を用いることが好ましい。
エステル化触媒としては、公知のものが使用できるが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸類;ゼオライトやイオン交換樹脂等の固体酸類;ヘテロポリ酸等の無機酸類;p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類;ジブチルスズジラウレート、酸化スズ、ジブチルスズオキサイド、酢酸亜鉛、テトラアルコキシチタン等の金属化合物類;等が挙げられる。
反応温度は、50℃〜300℃が好ましく、80℃〜250℃がより好ましい。
エステル化反応は平衡反応のため、収率向上のために、反応蒸留や、生成物を抽出しながらの反応も効果的である。
また、微生物を使用して、ヒドロキシプロピオン酸とアルコールから、ヒドロキシプロピオン酸エステルを合成することもできる。
【0079】
ヒドロキシプロピオン酸エステルから、上述の工程を経て、アクリル酸エステルを得ることができる。
このようにして得られた反応生成物中には、主な反応生成物であるアクリル酸エステルおよび水が含まれており、その他アクリル酸、副生物や原料組成物中の溶媒や不純物が含まれる場合がある。その場合は、精製工程を加えることにより、高純度のアクリル酸エステルにすることができる。精製工程は、蒸留、抽出、膜分離、晶析等の公知の技術により実施でき、それらを組み合わせて実施しても良い。
【0080】
<親水性樹脂の製造方法>
本発明による親水性樹脂の製造方法は、上記のようなアクリル酸および/またはそのエステルの製造方法により得られる、アクリル酸および/またはそのエステルを含む単量体成分を重合することを特徴とする。すなわち、本発明の製造方法により得られたアクリル酸および/またはそのエステルは、吸水性樹脂や水溶性樹脂等の親水性樹脂の原料として用いることができる。
【0081】
本発明の製造方法により得られたアクリル酸を、吸水性樹脂や水溶性樹脂等の親水性樹脂を製造するための原料として用いた場合、重合反応を制御しやすく、得られた親水性樹脂の品質が安定し、吸水性能、無機材料の分散性能等の各種性能が改善される。
親水性樹脂としては、吸水性樹脂であることが好ましい。
【0082】
吸水性樹脂を製造する場合には、例えば、本発明の製造方法により得られたアクリル酸、および/またはその塩(アクリル酸を部分中和して得た塩)を単量体成分の主成分(好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上)とし、さらに0.001〜5モル%(アクリル酸に対する値)程度の架橋剤、0.001〜2モル%(単量体成分に対する値)程度のラジカル重合開始剤を用いて、架橋重合させた後、乾燥・粉砕することにより、吸水性樹脂を得ることができる。
【0083】
ここで、吸水性樹脂とは、架橋構造を有する水膨潤性水不溶性のポリアクリル酸であって、自重の3倍以上、好ましくは10〜1,000倍の純水または生理食塩水を吸水することにより、水溶性成分(水可溶分)が好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下である水不溶性ヒドロゲルを生成するポリアクリル酸を意味する。
このような吸水性樹脂の具体例や物性測定法は、例えば、米国特許第6,107,358号、米国特許第6,174,978号、米国特許第6,241,928号等に記載されている。
また、生産性向上の観点から好ましい製造方法は、例えば、米国特許第6,867,269号、米国特許第6,906,159号、米国特許第7,091,253号、国際公開第2001/038402号、国際公開第2006/034806号等に記載されている。
【0084】
アクリル酸を出発原料として、中和、重合、乾燥等により、吸水性樹脂を製造する一連の工程は、例えば以下の通りである。
本発明の製造方法により得られるアクリル酸の一部は、ラインを介して、吸水性樹脂の製造プロセスに供給される。吸収性樹脂の製造プロセスにおいては、アクリル酸を中和工程、重合工程、乾燥工程に導入して、所望の処理を施すことにより、吸水性樹脂を製造する。各種物性の改善を目的として所望の処理を施してもよく、例えば、重合中または重合後に架橋工程を介在させてもよい。
【0085】
中和工程は、任意の工程であり、例えば、所定量の塩基性物質の粉末または水溶液と、アクリル酸やポリアクリル酸(塩)とを混合する方法が例示されるが、従来公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではない。なお、中和工程は、重合前または重合後のいずれで行なってもよく、また、重合前後の両方で行なってもよい。
アクリル酸やポリアクリル酸(塩)の中和に用いられる塩基性物質としては、例えば、炭酸(水素)塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミン等、従来公知の塩基性物質を適宜用いればよい。
また、ポリアクリル酸の中和率は、特に限定されるものではなく、任意の中和率(例えば、30〜100モル%の範囲内における任意の値)となるように調整すればよい。
【0086】
重合工程における重合方法は、特に限定されるものではなく、ラジカル重合開始剤による重合、放射線重合、電子線や活性エネルギー線の照射による重合、光増感剤による紫外線重合等、従来公知の重合方法を用いればよい。また、重合開始剤、重合条件等の各種条件については、任意に選択することができる。もちろん、必要に応じて、架橋剤や他の単量体、さらには水溶性連鎖移動剤や親水性高分子等、従来公知の添加剤を添加してもよい。
【0087】
重合後のアクリル酸塩系ポリマー(すなわち、吸水性樹脂)は、乾燥工程に付される。乾燥方法としては、特に限定されるものではなく、熱風乾燥機、流動層乾燥機、ナウター式乾燥機等、従来公知の乾燥手段を用いて、所望の乾燥温度、好ましくは70〜230℃で、適宜乾燥させればよい。乾燥工程を経て得られた吸水性樹脂は、そのまま用いてもよく、さらに所望の形状に造粒・粉砕、表面架橋をしてから用いてもよく、還元剤、香料、バインダー等の従来公知の添加剤を添加する等、用途に応じた後処理を施してから用いてもよい。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
なお、以下ことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0089】
(調製例1)3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)を含む組成物の取得方法
Klebsiella pneumoniae ATCC25955株のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてグリセロールデヒドラターゼ遺伝子(GD遺伝子)およびグリセロールデヒドラターゼ再活性化因子(GDR遺伝子)を含む領域を、下記の2つのプライマーを用いてPCRで増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。なお、GD遺伝子およびGDR遺伝子配列を増幅する以下のプライマーはGenBank Accession number:NC_009648記載のDNA配列を元に設計した。
フォワードプライマー:
5’−GCGCGCCATATGTTAATTCGCCTGACCGGCC−3’
リバースプライマー:
5’−GCGCGCAGATCTTCAGTTTCTCTCACTTAACG−3’
【0090】
pACYCDuet−1プラスミド(タカラバイオ社製)をテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pACYCDuet−1プラスミドのT7プロモーターの後ろにNdeIサイトおよびBglIIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5’−GAAGGAGATATACATATGGCGCGC−3’
リバースプライマー:
5’−CCGATATCCAATTGAGATCTGCGCGC−3’
【0091】
増幅断片を制限酵素BglIIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセル(インビトロジェン社製)に導入し、クロラムフェニコール含有プレートに広げて培養しところ、クロラムフェニコール耐性大腸菌を得ることができた。クロラムフェニコール耐性大腸菌からプラスミドDNAを抽出し、制限酵素により分子量の確認を行ったところ、目的とするGD遺伝子およびGDR遺伝子がpACYCDuet−1プラスミドに挿入されていることが確認できた。構築した組換えプラスミドをGD−GDR/pACYCDuet−1と命名し、以降の実験に用いた。
【0092】
大腸菌K−12 W3110株のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてγ−glutamyl−γ−aminobutyraldehyde dehydrogenase遺伝子(aldH遺伝子)を下記の2つのプライマーを用いてPCR法で増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。なお、以下プライマーはGenBank Accession number:AB200319記載のDNA配列を元に設計した。
フォワードプライマー:
5’−GGGGGGCCATATGAATTTTCATCATCTGGCTTACTG−3’
リバースプライマー:
5’−CCCCAGATCTTCAGGCCTCCAGGCTTATCCAGATG−3’
【0093】
pUC18プラスミドをテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pUC18プラスミドのlacプロモーターの後ろにNdeIサイトを持ち、lacZ遺伝子の終始コドンの位置にBamHIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5’−CCCCCCCATATGTGTTTCCTGTGTGAAATTGTTATCCGCTCACAATTCCACACAATATACGAGCC−3’
リバースプライマー:
5’−CCCCGGATCCTTAGTTAAGCCAGCCCCGACACCCGCCAACACC−3’
【0094】
増幅断片を制限酵素BamHIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセルに導入し、アンピシリン含有プレートに広げて培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素処理により分子量の確認をしたところ、目的どおり、aldHがpUC18プラスミドに挿入されていることを確認した。構築した組換えプラスミドをaldH/pUC18と命名し、以降の実験で使用した。
【0095】
構築したGD−GDR/pACYCDuet−1およびaldH/pUC18をEscherichia coli BL21(DE3) competent cell(Merck社製)のプロトコールに従って、ヒートショック法により導入し、E.coli(GD−GDR/pACYCDuet−1、aldH/pUC18)を作出した。
E.coli(GD−GDR/pACYCDuet−1、aldH/pUC18)を、アンピシリン100ppm、クロラムフェニコール50ppm添加LB液体培地5mL(LB培地1Lあたりの組成:トリプトン10g、酵母エキス5g、NaCl10g)で37℃、16時間、振盪培養し、前培養液を得た。次に前培養液5mLを、アンピシリン100ppm、クロラムフェニコール50ppm、添加NS液体培地1Lに植菌し、37℃、攪拌速度725rpm、通気量1L/min、で通気攪拌培養を行った。なお、NS液体培地の組成は、グリセリン40g/L、硫酸アンモニウム10g/L、リン酸二水素カリウム2g/L、リン酸水素二カリウム6g/L、硫酸マグネシウム7水和物1g/L、酵母エキス40g/Lである。また、培養には、バイオット社製ジャーファーメンター:BMJ−02NP2を使用し、培養中はアンモニア水を用いて培養液中のpHを7にコントロールした。培養8時間後に1M IPTG溶液を1mL、8mMアデノシルコバラミン溶液を1mL添加し、培養途中にグリセリンが枯渇しないように適時グリセリンを添加しながら100時間培養を行った。得られた培養液を遠心分離にかけ、培養液上清を回収した。
【0096】
以下記載の高速液体クロマトグラフィーを用いた分析方法で培養液上清中の生成物の確認を行ったところ、生成物である3−ヒドロキシプロピオン酸のピークを7.9分の位置に確認することができ、培養液中の3−ヒドロキシプロピオン酸の濃度は2質量%であった。
高速液体クロマトグラフィーでの分析条件:
使用カラム:YMC−pACK FA
流量:1mL/min
インジェクション量:10mL
溶離液:メタノール/アセトニトリル/HO=40/5/55(V/V/V)
内部標準:2−Hydroxy−2−methyl−n−butyricAcid
検出:UV400nm
【0097】
培養上清100μLに内部標準液200μLを加えた。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社製)の試薬A液200μL、試薬B液200μLを加え、よく混合した後、60℃、20分間処理した。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社製)の試薬C液200μLを添加し、よく混合した。60℃、15分間処理後、室温まで冷えたら0.45mmフィルターに通し、LC分析サンプルとして供した。
菌体を除去した2wt%3−ヒドロキシプロピオン酸含有培養液30g、トリデシルアミン180g、ドデカノール20gを500mL三つ首フラスコに加え、これを次に油浴に沈め、真空ポンプに接続した。溶液を攪拌しながらフラスコを加熱した。溶液の温度が85℃に達した段階で真空ポンプのスイッチを入れた。反応の間、3−ヒドロキシプロピオン酸アンモニウムの分解によりアンモニアと水が放出され、これらは減圧下に低温トラップへと除去された。これと同時に3−ヒドロキシプロピオン酸アンモニウムの分解により生成した3−ヒドロキシプロピオン酸は、トリデシルアミンとドデカノールから形成された有機相中に抽出された。3−ヒドロキシプロピオン酸を含むトリデシルアミンとドデカノールから形成された有機相に、1/5容量の水を加えて混合、140℃まで加熱することで、3−ヒドロキシプロピオン酸を含む水溶液を得た。
【0098】
(実施例1)
原料組成物として、上記で得た3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)を12質量%水溶液に調整した。
内径10mmのステンレス製反応管に、蒸発層として、ステンレス製の1.5mmディクソンパッキンを充填した(表面積37cm/cm)。反応管を電気炉にて300℃に加熱し、上記原料組成物を毎時16.8gの速度で反応管の上部に供給した。同時に、毎時3Lの速度で窒素ガスを流し、蒸発層部分のSVを10000となるように制御した。反応管の下部から抜き出した反応ガスを、冷却し捕集液を得た。得られた捕集液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は19%(3HP残存率は81%)であった。
引き続き、蒸発層の下に固体触媒として市販のγ−アルミナペレット(サンゴバン社製)を充填し、蒸発層と触媒層を積層した。反応管を電気炉にて300℃に加熱し、上記原料を毎時16.8gの速度で反応管の上部に供給した。同時に、毎時3Lの速度で窒素ガスを流した。8時間継続して反応を実施した。
反応管の下部から抜き出した反応ガスを、冷却捕集し、反応液を得た。反応中は反応管の入口圧力は一定であった。得られた反応液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は95%、アクリル酸の収率は93モル%(転化率及び収率は、工程(a)の添加原料量基準、以下同様)であった。反応後、抜き出した充填物と触媒には、付着物は観察されなかった。
【0099】
(実施例2)
蒸発層としての充填物を石英グラスウールに変更し(表面積537cm/cm)、原料の供給速度を毎時34.4g、窒素ガスの流量を毎時6Lに変更し、蒸発層部分のSVを20000となるように制御した以外は、実施例1と同様に反応を実施した。
反応中は反応管の入口圧力は一定であった。充填物のみで反応した場合の、3HPの転化率は4%(3HP残存率は96%)であった。充填物と触媒を積層して反応した場合の、3HPの転化率は92%、アクリル酸の収率は91モル%であった。反応後、抜き出した充填物と触媒には、付着物は観察されなかった。
【0100】
(比較例1)
蒸発層としての充填物を直径2mmのガラス製ビーズに変更した(表面積19cm/cm)以外は、実施例1と同様に反応を実施した。蒸発層部分のSVは10000であった。
充填物のみで反応した場合の、3HPの転化率は51%(3HP残存率は49%)であった。充填物と触媒を積層して反応した場合、反応開始から3時間で反応管入口の圧力が上昇し、反応管が閉塞したため反応を停止した。反応後に抜き出した充填物および触媒には褐色の付着物が大量に観察された。
【0101】
(比較例2)
蒸発層としての充填物を直径3mmのステンレス製ボールに変更した(表面積11cm/cm)以外は、実施例1と同様に反応を実施した。蒸発層部分のSVは10000であった。
充填物のみで反応した場合の、3HPの転化率は35%(3HP残存率は65%)であった。充填物と触媒を積層して反応した場合、反応開始から5時間で反応管入口の圧力が上昇し、反応管が閉塞したため反応を停止した。反応後に抜き出した充填物は黒色の炭素状物質に覆われており、また触媒上には褐色の付着物が観察された。
【0102】
(比較例3)
実施例1の蒸発層としての充填物を抜き取り、触媒上に直接原料組成物を液状で供給して反応を実施した。反応開始から1時間で反応管入口の圧力が上昇し、反応管が閉塞したため反応を停止した。反応後に抜き出した触媒には褐色の付着物が大量に観察された。
【0103】
(実施例3)
内径10mmのステンレス管に、蒸発層としてステンレス製の1.5mmディクソンパッキンを充填し、電気炉内に設置し蒸発器とした。また内径10mmのステンレス管に、触媒としてシリカアルミナ(日揮化成品)を充填し、電気炉内に設置し反応器とした。蒸発器の出口と反応器の入口をステンレス管で連結し、周囲を電気ヒーターで加熱できるようにした。
蒸発器内の温度を275℃とし、実施例1と同じ原料組成物を毎時33.5gの速度で蒸発器の上部に供給した。同時に、毎時6Lの速度で窒素ガスを流し、蒸発器内のSVを2000となるように制御した。蒸発器の出口ガスを冷却捕集し、得られた液を分析した。結果を表1に示す。
また、蒸発器内の温度を275℃とし、反応器内の温度を300℃とし、実施例1と同じ原料組成物を毎時33.5gの速度で蒸発器の上部に供給した。同時に、毎時6Lの速度で窒素ガスを流した。蒸発器の出口ガスはそのまま反応器へ供給し、8時間継続して反応を実施した。反応器の出口ガスを冷却捕集し、得られた液を分析した。結果を表1に示す。
【0104】
なお、蒸発器の出口ガスはそのまま反応器へ供給するため、蒸発器の出口ガスから分析した3HP転化率は、反応器入口に供給される3HP転化率と同じである。
下記表1〜2において、3HP転化率、AA収率、AA選択率は、反応時間8時間における反応成績(反応液をサンプリングして求めた平均)である。
また、下記表1〜2において、反応器入口に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量は、[100−(蒸発器出口の3HP転化率)](%)により求めることができる。
さらに、以下の各表中において、3HPは3−ヒドロキシプロピオン酸を、AAはアクリル酸を示す。
【0105】
(実施例4)
原料組成物の供給速度を毎時16.7g、窒素ガスの供給速度を毎時3Lと変更し、蒸発器内のSVを1000となるように制御した以外は、実施例3と同様にして実験を行った。結果を表1に示す。
【0106】
(比較例4)
原料組成物の供給速度を毎時7.8g、窒素ガスの供給速度を毎時1.5Lとした以外は、実施例3と同様にして実験を行った。蒸発器内のSVは500であった。結果を表1に示す。
【0107】
(実施例5)
蒸発器の温度を330℃とした以外は、実施例3と同様にして実験を行った。結果を表1に示す。
【0108】
(実施例6)
蒸発器の温度を330℃とした以外は、実施例4と同様にして同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0109】
(比較例5)
蒸発器の温度を330℃とした以外は、比較例4と同様にして実験を行った。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
(実施例7)
原料組成物の供給ラインに、背圧弁とヒーターを設置し、原料組成物を液体のまま200℃まで加熱後、蒸発器へ供給した。原料組成物の供給ラインの出口を、内径1mmとし、気液混合状態の原料組成物が、噴霧される形で蒸発器に供給されるようにした。上記変更以外は、実施例4と同様に実施した。
蒸発器出口で捕集された液を分析したところ、蒸発器での3HPの転化率は17%(3HP残存率は83%)であった。
反応器出口で捕集された液を分析したところ、3HPの転化率は100%、アクリル酸の収率は95モル%であった。
【0112】
(実施例8)
実施例4と同じ条件で、反応を50時間連続して実施した。50時間の平均の3HP転化率は95%、アクリル酸の収率は91%と良好な結果であり、蒸発器や反応器の閉塞等は起こらず、安定して反応を継続することができた。
【0113】
(実施例9)
特開2009−190915号公報の方法に従い、球状のZSM−5型ゼオライト(プロトン型)を合成した。
蒸発器の内温を250℃、供給する窒素ガスを予め350℃に加熱し、触媒を上記のZSM−5に変更した以外は、実施例4と同様にして実験を行った。蒸発器の出口のガスを冷却捕集し、得られた液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は15%(3HP残存率は85%)であった。
引き続き、蒸発器出口のガスをそのまま反応器へ供給し、8時間継続して反応を実施した。反応器の出口ガスを冷却捕集し、得られた液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は100%、アクリル酸の収率は97モル%であった。反応後、抜き出した充填物と触媒には、付着物は観察されなかった。
【0114】
(実施例10)
実施例1で調製した3HP溶液を、薄膜蒸発器にて濃縮を行った。圧力20mmHg(=2.66kPa)、ジャケット温度を50℃として、軽沸分を留去し、得られたボトム液に水を添加して、3HPの濃度を80質量%になるように調製した。
3HP濃度80質量%の原料組成物を毎時2.5g、窒素を毎時22.2L供給し、蒸発器内のSVを11000となるように制御した以外は、実施例1と同様にして反応を実施した。蒸発層のみを通した捕集液の分析結果は、3HPの転化率は20%(3HP残存率は80%)であった。蒸発層と触媒層を通した捕集液の分析結果は、3HPの転化率は93%、アクリル酸の収率は90モル%であった。
【0115】
(実施例11)
調製例1において、培養液のpH調整を、アンモニア水の代わりに水酸化カルシウムを用いて実施した。培養終了後、培養液に、使用した水酸化カルシウムに対して98モル%相当の硫酸水溶液を滴下し、30℃で2時間撹拌した。得られた液から濾過により、菌体と生成した硫酸カルシウムを除去した。濾液を100℃で2時間加熱することにより、タンパク質の変性物を析出させ、これを濾過により除去した。得られた濾液を、薄膜蒸発器にて濃縮した。圧力を20mmHg(=2.66kPa)、ジャケット温度を50℃として、軽沸分を留去した(薄膜蒸発1回目)。得られたボトム液をさらに薄膜蒸発器にかけ、圧力2mmHg(=0.266kPa)、ジャケット温度を100℃として、3HPを含む留分を得た(薄膜蒸発2回目)。得られた留分に水を添加し、3HPが12質量%になるように調製し、3HP溶液とした。この溶液中のリン酸イオン、硫酸イオン、アンモニウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオンをイオンクロマトグラフィーにて分析した。それらの合計は、3HPに対して150質量ppm(=0.015質量%)であった。
この3HP溶液を原料組成物として用い、実施例4と同じ条件で、脱水反応を実施した。結果を表2に示す。
【0116】
(比較例6)
実施例11において、薄膜蒸発1回目で得られたボトム液に水を添加した後、陽イオン交換樹脂アンバーリスト15(オルガノ社製)を添加し、30℃で2時間撹拌し、液中のイオン成分を吸着させた。陽イオン交換樹脂および析出物を除去後、3HPが12質量%になるように調製し、3HP溶液とした。この溶液中のリン酸イオン、硫酸イオン、アンモニウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオンをイオンクロマトグラフィーにて分析した。それらの合計は、3HPに対して1.1質量%であった。
この3HP溶液を原料組成物として用い、実施例4と同じ条件で、脱水反応を実施した。結果を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
(実施例12)
(第一の3HPの反応工程)
実施例9で合成した球状のZSM−5型ゼオライト(プロトン型)を実施例1の反応器に触媒として充填し、同様に反応を実施した。反応器出口の捕集液は、1時間毎に分取し、反応結果の経時変化を追跡した。反応後1時間目から2時間目の間の反応成績は、3HPの転化率は100%、アクリル酸の収率は95モル%であった。反応後7時間目から8時間目の間の反応成績は、3HPの転化率は95%、アクリル酸の収率は91モル%であり、経時的な触媒活性低下が観察された。反応後、ディクソンパッキンおよび触媒を抜き出してみると、褐色の着色が見られた。
【0119】
(触媒の再生工程)
反応器から抜き出したディクソンパッキンおよび触媒を、磁性皿に薄く広げ、焼成炉内に設置した。その後、焼成炉内に、0.5L/分の流量で空気を流通させ、1時間かけて500℃まで昇温し1時間保持して、触媒上の炭素状物質を酸化分解して、再生を行った。冷却後、取り出したディクソンパッキンは元の銀色に、触媒は元の白色に変化していた。
【0120】
(第二の3HPの反応工程)
触媒再生工程で得られた触媒を、再度反応器に充填し、第一の反応工程と同様の条件で、3HPの脱水反応を実施した。反応後1時間目から2時間目の間の反応成績は、3HPの転化率は100%、アクリル酸の収率は94モル%であった。反応後7時間目から8時間目の間の反応成績は、3HPの転化率は96%、アクリル酸の収率は92モル%であった。触媒を再生することによって、第一の反応工程とほぼ同様の反応結果を第二の反応工程でも得ることができた。
上記第一の反応工程後の触媒(サンプル1−1)、触媒再生後の触媒(サンプル1−2)、第二の反応工程後の触媒(サンプル1−3)を、示差熱−熱重量測定装置にて分析を行った。分析条件は、試料30mgを10℃/分で800℃まで昇温し、流通空気量は50mL/分とした。その結果、重量減少率は、サンプル1−1で5.0%、サンプル1−2で0.5%、サンプル1−3で5.1%であった。触媒再生工程によって、炭素状物質が減少し、触媒活性が回復したことが示唆される。
【0121】
(実施例13)
脱水触媒をγ−アルミナペレットに変えた以外は、実施例11と同様にして反応を行った。
(第一の3HPの反応工程)
反応後1時間目から2時間目の間の反応成績は、3HPの転化率は100%、アクリル酸の収率は97モル%であった。反応後7時間目から8時間目の間の反応成績は、3HPの転化率は89%、アクリル酸の収率は86モル%であり、経時的な触媒活性低下が観察された。
(触媒の再生工程)
触媒の再生を、触媒を反応器に充填したままで実施した。第一の反応工程終了後、反応器の温度を450℃に上げ、窒素を5L/時間の流量で1時間流通した。その後、1.5L/時間の流量で酸化剤含有ガス(酸素2容量%、残部は窒素)を流通させたところ、触媒層の温度の上昇が観察された。次に、酸化剤の含有量を多くしたガス(酸素5容量%、残部は窒素)を流通させ、最後に更に酸化剤の含有量を多くしたガス(酸素8容量%、残部は窒素)を、炭素状物質の酸化分解による発熱が収まるまでの約24時間流通させた。
(第二の3HPの反応工程)
触媒の再生工程終了後、引き続き、第一の反応工程と同様の条件で、3HPの脱水反応を実施した。反応後1時間目から2時間目の間の反応成績は、3HPの転化率は100%、アクリル酸の収率は97モル%であった。反応後7時間目から8時間目の間の反応成績は、3HPの転化率は88%、アクリル酸の収率は86モル%であった。触媒を再生することによって、第一の反応工程とほぼ同様の反応結果を第二の反応工程でも得ることができた。
【0122】
(実施例14)
実施例4の反応条件で、反応時間を50時間に延ばして第一の3HPの反応工程を行った。反応後、触媒の再生を、実施例13の触媒の再生工程と同様に実施した。その後第二の3HPの反応工程を50時間実施した。結果を表3に示す。
第一の反応工程において、3HPの転化率は経時的に低下していくが、触媒を再生することで、第二の反応工程でも、第一の反応工程と同様の反応結果を得ることができた。
【0123】
(比較例7)
比較例5の反応条件で、反応時間を50時間に延ばして第一の3HPの反応工程を行った。反応後、触媒の再生を、実施例13の触媒の再生工程と同様に実施した。その後第二の3HPの反応工程を50時間実施した。結果を表3に示す。
第一の反応工程において、3HPの転化率は経時的に低下していき、その低下速度は実施例14より大きかった。また触媒を再生した後の第二の反応工程では、3HP転化率は、第一の反応工程よりも小さく、触媒が完全に再生されていないことが示唆された。
【0124】
【表3】
【0125】
表3において、3HP転化率とAA収率は、反応器出口の値である。表3での経時変化は、1hrは0−1hr、25hrは24−25hr、50hrは49−50hr、の各1時間における反応成績である。
【0126】
(実施例15)アクリル酸の晶析精製
実施例1で得られたアクリル酸の水溶液を蒸留し、塔底よりアクリル酸86.5質量%を含む粗製アクリル酸を得た。この粗製アクリル酸を、母液として、室温(約15℃)〜−5.8℃の温度範囲まで冷却して結晶を析出させ、同温度で保持した後、吸引濾過により結晶を液体から分離する晶析操作を行った。分離した結晶を融解させてから、一部をサンプリングして分析し、残りを母液として室温(約15℃)〜4.8℃の温度範囲まで冷却して結晶を析出させ、同温度で保持した後、吸引濾過により結晶を液体から分離する晶析操作を行った。合計2回の晶析操作により、精製アクリル酸を得た。アクリル酸純度は99.9質量%以上であった。
【0127】
(実施例16)吸水性樹脂の製造例
実施例15で得られた精製アクリル酸に重合禁止剤を60質量ppm添加した。別途、鉄を0.2質量ppm含有する苛性ソーダから得られたNaOH水溶液に対して、上記の重合禁止剤添加アクリル酸を冷却下(液温35℃)で添加することにより、75モル%中和を行った。得られた、中和率75モル%、濃度35質量%のアクリル酸ナトリウム水溶液に、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート0.05モル%(アクリル酸ナトリウム水溶液に対する値)を溶解させることにより、単量体成分を得た。この単量体成分350gを容積1Lの円筒容器に入れ、2L/minの割合で窒素を吹き込んで、20分間脱気した。次いで、過硫酸ナトリウム0.12g/モル(単量体成分に対する値)およびL−アスコルビン酸0.005g/モル(単量体成分に対する値)の水溶液をスターラー攪拌下で添加して、重合を開始させた。重合開始後に攪拌を停止し、静置水溶液重合を行った。単量体成分の温度が約15分(重合ピーク時間)後にピーク重合温度108℃を示した後、30分間重合を進行させた。その後、重合物を円筒容器から取り出し、含水ゲル状架橋重合体を得た。
得られた含水ゲル状架橋重合体は、45℃でミートチョッパー(孔径:8mm)により細分化した後、170℃の熱風乾燥機で、20分間加熱乾燥させた。さらに、乾燥重合体(固形分:約95%)をロールミルで粉砕し、JIS標準篩で粒径600〜300μmに分級することにより、ポリアクリル酸系吸水性樹脂(中和率:75%)を得た。
本発明によるアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸の重合性は、プロピレンを原料とするアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸の重合性と同等であり、得られた吸水性樹脂は、臭気がなく、物性も同等であった。
【0128】
このように、(a)原料組成物を気化させる蒸発工程、および、(b)気化した原料組成物を脱水触媒と接触させる脱水工程を含み、工程(a)に供給するヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量100質量%に対して、工程(b)に供給する該ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの総量を70質量%以上に制御する、本発明のアクリル酸および/またはそのエステルの製造方法を用いることによって、反応管の閉塞や触媒活性の低下を抑制し、ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルを効率良く転化することができ、アクリル酸および/またはそのエステルを高収率で、長期間にわたり安定的かつ連続的に製造することができるという作用機序は、すべて同様であるものと考えられる。
したがって、上記実施例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、ヒドロキシプロピオン酸および/またはそのエステルを原料として、高品質のアクリル酸および/またはそのエステルを高収率で安定的かつ連続的に製造することを可能にするものである。さらに、リサイクル可能な生物由来資源(例えばバイオマス)から入手または調製された原料を使用した場合、地球温暖化対策に多大の貢献をなすものである。
【符号の説明】
【0130】
1:計量器
2:ポンプ
3:蒸発器
4:連結管
5:反応器
6:温度計
図1
図2