特許第5654703号(P5654703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5654703
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】エレクトレットコンデンサマイクロホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 19/04 20060101AFI20141218BHJP
   H04R 19/01 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   H04R19/04
   H04R19/01
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-65780(P2014-65780)
(22)【出願日】2014年3月27日
【審査請求日】2014年5月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 綾子
(72)【発明者】
【氏名】本間 章
【審査官】 千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−015400(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/01
H04R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音により振動する振動膜と、
前記振動膜と対向して配置され、前記振動膜側の空間とその振動膜側とは反対側の空間とを連通する複数の貫通穴を有する背極と、
前記背極の前記振動膜側の表面上に形成されたエレクトレット層と
を備え、
前記背極が有する貫通穴の前記振動膜側には、前記振動膜側の開口に向けて穴を広げた形状を形成する開口部を有し、
前記エレクトレット層、前記背極の表面のうち前記振動膜と平行に対向する面上に形成されると共に、前記貫通穴の前記開口部の面上にも形成されることで、前記背極の表面のうち前記振動膜と平行に対向する面上に形成された前記エレクトレット層の表面電位を、前記背極の表面のうち前記振動膜と平行に対向する面上のみに前記エレクトレット層が形成されている場合と比較して高めることを特徴とするエレクトレットコンデンサマイクロホン。
【請求項2】
請求項1に記載のエレクトレットコンデンサマイクロホンにおいて、
前記開口部の面は、
前記貫通穴の中心軸方向に対して所定の勾配角度で形成されることを特徴とするエレクトレットコンデンサマイクロホン。
【請求項3】
請求項2に記載のエレクトレットコンデンサマイクロホンにおいて、
前記勾配角度が45°であることを特徴とするエレクトレットコンデンサマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SN比を向上するエレクトレットコンデンサマイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音(音圧)によって振動する振動膜と、この振動膜と平行に対向して設けられた背極と、振動膜側の背極の表面にエレクトレット層となる帯電した高分子フィルムを貼り付けた構造のエレクトレットコンデンサマイクロホンが知られている。このエレクトレットコンデンサマイクロホンの性能を向上させるために、例えば、エレクトレットコンデンサマイクロホンの自己雑音を低減してSN比を向上させ、低い音圧レベルまで測定できるようにするために、振動膜と背極の間の空隙であるエアギャップと、背極の裏面側の空間であるバックキャビティとを連通する複数の貫通穴が背極に設けられており、これらの貫通穴の数や穴径により調整することが知られている。ここで、自己雑音とは、エレクトレットコンデンサマイクロホンの構造に起因する雑音(以下、音響機械系雑音とする)や、プリアンプとの接続などに起因する電気系で発生する雑音(電気系雑音)を表している。
【0003】
また、SN比を向上させるために、振動膜と背極の周囲端部間にスペーサを設置し、そのスペーサをエレクトレット層とする技術が知られている(例えば、特許文献1)。また、エレクトレット層となる高分子フィルムのバリによる性能の劣化を防ぐために、背極の表面にFEP(フッ素樹脂)の微粒子が分散されたスプレー液を噴霧した後に焼成してエレクトレット層を形成する技術が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実新H5−4399号公報
【特許文献2】特開2000−115895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来構造のエレクトレットコンデンサマイクロホンは、振動膜と対向する背極の面上にほぼ均等な間隔になるように複数の貫通穴が設けられ、これらの貫通穴はストレートの円柱形状をしていた。例えば、SN比を向上しようとして、これら貫通穴の数を減らしたり、その貫通穴の穴径を小さくしたりする場合、高分子フィルムの面積が増すので、エレクトレット化処理して、高分子フィルムであるエレクトレット層の表面電位を上げることができ、その表面電位に伴い感度も上げることができることになる。しかし、背極の貫通穴の数を減らしたり、その貫通穴の穴径を小さくしたりすると、振動膜の動きに対して、エアギャップでの空気抵抗が大きくなってしまい、音響機械系雑音が増加することになり、結果的に、SN比が上がらない又は低下する恐れがあった。
【0006】
また、特許文献1の技術では、エレクトレット層となるスペーサはフッ素系の合成樹脂を用いることになり、そのスペーサが振動膜と背極との間に設けられると、浮遊容量が大きくなり感度が低下すると共に、温度によって振動膜と背極との間隔が変化してしまうため、エレクトレットコンデンサマイクロホンの性能が低下する恐れがあった。
【0007】
また、特許文献2の技術では、大掛かりな装置が必要となり、生産コストが上昇してしまう恐れがあった。
【0008】
そこで本発明は、表面電位を上げつつ、エレクトレットコンデンサマイクロホンの構造に起因する音響機械系雑音の増加を抑制することで、感度を上げてSN比を向上することができると共に、プレス加工による高分子フィルムの抜きバリによる性能への影響を低減する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
すなわち、本発明のエレクトレットコンデンサマイクロホンは、音により振動する振動膜と、前記振動膜と対向して配置され、前記振動膜側の空間とその振動膜側とは反対側の空間とを連通する複数の貫通穴を有する背極と、前記背極の前記振動膜側の表面上に形成されたエレクトレット層とを備え、前記背極が有する貫通穴の前記振動膜側には、前記振動膜側の開口に向けて穴を広げた形状を形成する開口部を有し、前記エレクトレット層、前記背極の表面のうち前記振動膜と平行に対向する面上に形成されると共に、前記貫通穴の前記開口部の面上にも形成されることで、前記背極の表面のうち前記振動膜と平行に対向する面上に形成された前記エレクトレット層の表面電位を、前記背極の表面のうち前記振動膜と平行に対向する面上のみに前記エレクトレット層が形成されている場合と比較して高める
【0010】
例えば、貫通穴の開口部の面は、貫通穴の中心軸方向に対して所定の勾配角度で形成した形状(略漏斗形状)、具体的には、45度の勾配角度で形成した形状にすることができる。
【0011】
上記のように本発明は、背極に形成される複数個の貫通穴について、振動膜側の開口部を開口に向けて広げた形状で形成されており、具体的には、貫通穴の穴径よりも開口径を大きくして形成されている。そして、その貫通穴の開口部の表面上にもエレクトレット層が形成されている。なお、この貫通穴の開口径を大きくすることに伴って増加する開口部内空間は、背極の貫通穴の開口部をテーパ形状にすることで形成することができる。このような構造にすることにより、貫通穴の穴径を小さくしても、振動膜が振動した際の空気抵抗を低減することができ、ノイズ(例えば、音響機械系雑音)の増加を抑制して、エレクトレット層の表面電位を上げることができるので、等価雑音レベルを低減し、SN比を向上することができる。
【0012】
また、貫通穴を有する背極上にエレクトレット層を形成した後に、貫通穴と同位置に同径の穴を開ける際(プレス加工する際)に、抜きバリが発生することがあるが、その抜きバリが発生したとしても開口部内空間から突出することがなく、振動膜が振動して抜きバリに接触することがなくなることから、プレス加工後に手間のかかるバリ除去を行う必要がなくなり、製造工数を低減させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエレクトレットコンデンサマイクロホンによれば、表面電位を上げることで感度を上げつつ、ノイズの増加を抑制し、SN比を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】エレクトレットコンデンサマイクロホンの内部構造を示す概略断面図である。
図2】複数の貫通穴を有する背極の平面図である。
図3図2中に示すIII−III線に沿う背極の断面図である。
図4図3中に示すIV領域に相当するエレクトレットコンデンサマイクロホンの内部構造を示す拡大断面図である。
図5】エレクトレットコンデンサマイクロホンの性能の一例を示す図である。
図6】エレクトレット層の帯電状態を示す模式図である。
図7】他の実施形態における、図3中に示すIV領域に相当するエレクトレットコンデンサマイクロホンの内部構造を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、エレクトレットコンデンサマイクロホンの一実施形態の内部構造を示す概略断面図である。
図1に示すように、エレクトレットコンデンサマイクロホン10(以下、ECM10とする)は、表面にエレクトレット層40が形成された背極30と振動膜20とを対向させてコンデンサを形成し、外部からの音(音圧)を電気信号(電圧)に変換して出力するセンサである。具体的には、ECM10の振動膜20に外部からの音声(音圧)が加えられると、振動膜20が振動し、振動膜20と背極30(エレクトレット層40)との間隔に応じて静電容量が変化し、振動板20の変位に比例した電気信号(電圧)として出力されることとなる。ECM10を構成する振動膜20や背極30などは、円筒状のケースであるハウジング90に収納されており、具体的なECM10の構成について説明する。
【0017】
振動膜20は、例えば、チタンやニッケルなどの金属薄膜である。なお、表面に金属を蒸着させた合成樹脂フィルムでもよい。また、振動膜20は、ECM10内の後述する振動膜固定部60において周辺部が固定され、後述するエッジ部材50により所定のテンションを掛けられた状態で設置されている。また、振動膜20は、それら振動膜固定部60とエッジ部材50を介してハウジング90と電気的に導通しており、例えば、GND(グランド)と同電位に接地される。
【0018】
背極30は、例えば、チタン合金やFe−Ni合金などが用いられる。また、背極30は、ハウジング90の中央に設置され、振動膜20と対向する部分は円盤形状をしており、振動膜20とこの円盤形状部の間の空隙(以下、エアギャップ25とする)は、円盤形状部の周囲で、円盤形状部の背面側となる空間(以下、バックキャビティ28とする)と連通するように設けられている。また、背極30の円盤形状部にはバックキャビティ28と連通する複数の貫通穴31〜35が設けられている。これらの貫通穴により、エアギャップ25内の空気抵抗を小さくし、ECD10の構造に起因する音響機械系雑音が低減されている。
【0019】
例えば、背極30の貫通穴31は、他の貫通穴33〜35と比較して穴径が大きく形成されている。これは、振動膜20が振動して変位する際に、振動膜20の中心の変位が最も大きく空気の移動流量が多いことから、背極30の中心に位置する貫通穴31の穴径が大きく形成し、空気抵抗の増大を抑制するためである。また、貫通穴31の下部には軸方向と垂直に貫通穴32が連結して形成されており、エアギャップ25とバックキャビティ28とが貫通穴31と貫通穴32を通じて空間的に連結されている。
なお、貫通穴31、33〜35についての具体的な内容については、別の図(図2図3)を参照しながらさらに後述する。
【0020】
エレクトレット層40は、例えば、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のフッ素系高分子フィルムが用いられる。この高分子フィルムは背極30の円盤形状部の振動膜20側の表面に貼り付けて形成されており、貫通穴31〜35を形成した後の背極30の表面に貼り付けた後で、プレス加工により貫通穴31、33〜35と同じ位置に穴が形成される。また、この高分子フィルムはエレクトレット化処理を行うことで帯電した状態となる。エレクトレット層40の帯電状態の評価はその表面電位を測定して行うこととなる。なお、背極30の貫通穴31、33〜35の開口部に形成されるエレクトレット層40についての具体的な内容については、別の図(図4)を参照しながらさらに後述する。
【0021】
なお、高分子フィルムの材質により帯電される荷電量が異なるためエレクトレット層40の厚さ(T3)も異ならせて形成される。例えば、FEPの場合では0.012mm〜0.025mmの厚さで形成され、PTFEの場合では0.020〜0.025mmで形成される。
【0022】
エッジ部材50は、背極30と同じ材質で筒形状のものであり、振動膜20の位置を調整するために用いられる。また、エッジ部材50は、ハウジング90と電気的に導通している。
【0023】
振動膜固定部60は、背極30と同じ材質で、振動膜20のテンションを調整するために用いられる。なお、振動膜固定部60において、振動膜20は接着又はレーザー溶接などで固定されることとなる。また、振動膜固定部60は、振動膜20及びハウジング90と電気的に導通している。
【0024】
グリッド70は、ニッケルメッキ加工した黄銅などを用い、振動膜20への外部からの接触、例えば、作業者の指による振動膜20への接触を保護するためにハウジング90に取り付けられる。また、グリッド70には、集音に影響しないように複数の貫通穴75が設けられている。
【0025】
絶縁部材80は、セラミックなどの絶縁部材で、ハウジング90やエッジ部材50などと背極30とを電気的に絶縁させるために用いられ、さらに、背極30の位置調整にも用いられる。
【0026】
ハウジング90は、背極30と同じ材質で、ECM10の外形形状を成し、振動膜20と電気的に導通している。例えば、ハウジング90は円筒形状をしている。
【0027】
そして、外部からの音(音圧)により振動膜20が振動し、振動膜20と背極30間隔に応じて静電容量が変化し、振動膜20の変位に比例した電気信号(電圧)がプリアンプ(不図示)に入力される。
【0028】
図2は、複数の貫通穴を有する背極の平面図である。また、図3は、図2中に示すIII−III線に沿う背極の断面図である。
なお、図2図3に示す背極30の円盤形状部に形成される貫通穴の位置や大きさ(穴径)など後述する実施形態に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0029】
図2に示すように、背極30の円盤形状部(直径D1)には、中心位置に直径D2の貫通穴31と、その周囲に直径D3の複数個の貫通穴33〜35がほぼ均等になるように所定の間隔に形成されている。ここでは、1インチのECM10の場合とし、円盤形状部の直径D1が約13mmであり、中心位置の貫通穴31の直径D2が3mmであり、その周囲に形成する貫通穴33〜35の直径D3が0.8mmである。
【0030】
次に、本発明の実施形態の主構造について説明する。図3に示すように、各貫通穴31、33〜35は、振動膜20側の開口部がテーパ形状(略漏斗形状)に形成されている。具体的には、各貫通穴33〜35の穴径(直径D3)を0.8mmとし、開口径(直径D4)が1.2mmとなるように全周に面取りC0.2mm(勾配角度=45°)が形成されている。なお、中央に位置する貫通穴31の開口部についても、同様に面取りC0.2mmが形成されている。
【0031】
図4は、図3中に示すIV領域に相当するECM10の背極30の円盤形状部の一部を示す拡大断面図である。具体的には、貫通穴35(貫通穴31、33、34についても共通)の開口部周辺の振動膜20、背極30、及び、エレクトレット層40の構造を示す拡大断面図である。
【0032】
図4に示すように、エレクトレット層40が表面に形成された背極30の円盤形状部と振動膜20とが対向して配置され、エアギャップ25を形成している。具体的には、1インチのECM10は、厚さT2が0.005mmの振動膜20と、厚さT4が0.025mmのエレクトレット層40とを有し、その振動膜20はエレクトレット層40から距離H2(エアギャップ25)として0.03mm離隔して配置されている。また、上記したように、背極30の円盤形状部に設けた貫通穴33〜35には、開口部として、面取りC0.2mm(以下、テーパ領域30t)が形成されている。そして、エレクトレット層40は振動膜20に平行な背極30yの表面上のエレクトレット層40yと、テーパ領域30tの表面上にも形成されるエレクトレット層40tからなる。そして、貫通穴35の開口部は、テーパ領域30tを形成したことによる空間として開口部内空間45を有することとなる。
【0033】
次に、上記したテーパ領域30tを有する開口部を設けた構造のエレクトレットコンデンサマイクロホンの性能について説明する。
図5は、エレクトレットコンデンサマイクロホンの性能の一例を示す図である。テーパ領域30tを有するエレクトレットコンデンサマイクロホン(ECM10とする)と、テーパ領域の無いエレクトレットコンデンサマイクロホン(ECM11とする)との性能を比較して示す図である。
【0034】
具体的には、ECM10の性能の評価には、貫通穴31の穴径D2が3mm、貫通穴33〜35の穴径D3が0.8mm、各貫通穴にテーパC0.2mmを形成したものを使用した。一方、ECM11の性能の評価には、貫通穴31の穴径D2が3mm、貫通穴33〜35の穴径D3が1.2mmであるものを使用した。なお、その他のECM10やECM11の構成については同様とした。
【0035】
また、性能を表す評価項目として、表面電位〔V〕、感度〔dB〕、等価雑音レベル〔dBSPL〕、SN比〔dB〕、ノイズ電圧〔dBV〕を挙げている。ここで、等価雑音レベルとは、エレクトレットコンデンサマイクロホンに音が入力されない状態(無音状態)において、出力される雑音となる信号(自己雑音による信号)の大きさであり、この雑音となる信号が音としてエレクトレットマイクロホンに加わっているとして音圧に換算した値〔dBSPL〕で表される。このとき、等価雑音レベル=94−SN比〔dBSPL〕の関係となる。なお、94〔dBSPL〕はエレクトレットコンデンサマイクロホンの感度表示の基準音圧(1パスカル相当)である。
【0036】
図5に示すように、表面電位の結果は、ECM10(テーパあり)の方がECM11(テーパなし)よりも大きい。具体的には、ECM10の方が約2.5倍程度大きかった。
【0037】
また、感度の結果は、ECM10(テーパあり)の方がECM11(テーパなし)よりも大きい。具体的には、ECM10の方が4〔dB〕程度大きかった。
【0038】
また、等価雑音レベルの結果は、ECM10(テーパあり)の方がECM11(テーパなし)よりも小さい。具体的には、ECM10の方が3〔dBSPL〕程度小さいかった。
【0039】
また、SN比の結果は、ECM10(テーパあり)の方がECM11(テーパなし)よりも大きくなる。具体的には、ECM10の方が3〔dB〕程度向上した。
【0040】
なお、ノイズ電圧の結果は、ECM10(テーパあり)とECM11(テーパなし)とでは同程度であった。
【0041】
このように、振動膜20と平行するエレクトレット層40yに加えて、貫通穴の開口部にテーパ領域30tを形成し、そのテーパ領域30t上にもエレクトレット層40tを形成することにより、エレクトレット層40yの表面電位を上げることができ、感度が上がると共に、ノイズ電圧の増大を抑制することができるので、等価雑音レベルを低減でき、SN比も上がり、ECMの性能を大幅に向上させることができた。
【0042】
ECM10(テーパあり)とECM11(テーパなし)の結果のように、背極30の貫通穴31、33〜35の開口部にテーパ領域30tを形成し、このテーパ領域30tの表面上にもエレクトレット層40tを形成することにより、表面電位を上げることができる。具体的には、図6に示すように、穴径が1.2mmの貫通穴を形成したECM11では、振動膜20に平行なエレクトレット層40yのみで構成されており、夫々の貫通穴の間隔が広くなり、十分な面積を確保することがでないので、エレクトレット化処理をしても帯電には限界があり、エレクトレット層40yの表面電位を上げることができない。それに対して、ECM10では、振動膜20に平行なエレクトレット層40yとテーパ領域30tのエレクトレット層40tで構成されている。このような構成にすることで、エレクトレット層40yの帯電量を大きくすることができ、表面電位を上げることができる。
【0043】
例えば、ECM11の構成において、貫通穴33〜35の穴径を1.2mmから0.8mmに縮小した場合、表面電位を上げることができると想定できるが、振動膜20と背極30(エレクトレット層40)間となるエアギャップ25の空気の流れは悪くなり、空気抵抗は明らかに大きくなってしまう。結果として、表面電位は上がり、感度を上げることはできるが、音響機械系雑音が大きくなってしまうことにより、等価雑音レベルを低減しつつSN比を十分に向上させることができない。これに対して、ECM10のように、貫通穴31、33〜35の開口部にテーパ領域30tを形成した場合、そのテーパ領域30t上に開口部内空間45が設けられ、エアギャップ25に比べ十分に振動膜20とエレクトレット層40の間隔が広くなるため、ECM11の構成で穴径0.8mmの場合より振動膜20と背極30(エレクトレット層40)間の空気の流れが良くなり、空気抵抗を小さくすることができる。したがって、テーパ領域30tを形成し、開口部内空間45をテーパ領域30t上に設けることで、貫通穴の穴径を拡大させた場合と同様に、空気抵抗を下げることができ、音響機械系雑音の増加を抑制させることができる。結果として、表面電位を上げて、感度を上げることができると共に、音響機械系雑音は上がらないので、等価雑音レベルを低減し、SN比を向上することができる。
【0044】
以上のように、背極30の貫通穴31、33〜35の開口部にテーパ領域30tを形成し、そのテーパ領域30tの面上にもエレクトレット層40を形成することで、所定の表面電位を得ることができ、さらに、テーパ領域30t上に開口部内空間45を設けることで、音響機械系雑音の増加を抑制させることができる。したがって、ECM10の感度を向上させ、SN比も向上させることができ、より小さな音を計測することができる。
【0045】
また、貫通穴31、33〜35を有する背極30の面上に高分子フィルムを張った後、背極30の貫通穴31、33〜35と同一箇所に同一穴径の穴を形成するプレス加工などの処理を行う必要がある。そのプレス加工において、数十ミクロンの抜きバリ40bが発生した場合を想定する。例えば、図4に示すように、プレス加工により貫通穴35に接する形態で高分子フィルムから抜きバリ40bが開口部内空間45に向けて発生した場合を想定する。なお、抜きバリの方向は一定ではないが、ここではもっとも悪影響が生じる方向に抜きバリが生じた場合について説明する。テーパ領域30tが無い場合、抜きバリ40bは振動膜20に当接する場合があるため、手作業でバリを除去する必要があった。
【0046】
図4に示すように、テーパ領域30tを設けると、抜きバリ40bはテーパ領域30t面上に形成されたエレクトレット層40上の開口部内空間45から突出することがなく、距離H2のエアギャップ25に進入することがないため、ECM10としての性能に影響しない。具体的には、振動膜20が振動した際に抜きバリ40bに接触することがないので、音響機械系雑音の増加に影響しない。したがって、プレス加工後に手間のかかるバリ除去を行う必要がなくなり、ECM10の製造工数を低減させることができる。
【0047】
本発明は、上述した一実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することができる。例えば、背極30に形成する貫通穴にテーパ領域30tを形成せずに、他の形態で開口部内空間45を設けてもよい。
図7は、他の実施形態における、図3中に示すIV領域に相当するエレクトレットコンデンサマイクロホンの内部構造を示す拡大断面図である。
【0048】
他の実施形態は、図7に示すように、例えば、背極30を円弧状の円弧状領域30rを形成してもよい。具体的には、直径D3(例えば、0.8mm)の貫通穴35に対して、円弧状領域30r(例えば、半径R1が0.2mm)とした略釣鐘形状に形成してもよい。また、円弧状領域30rが膨らみをもたせた略ラッパ形状(不図示)に形成することもできる。このように、所定の曲率を有する円弧状領域30rを背極30に設けることで、テーパ領域30tを設けた場合と同様に開口部内空間45を形成することができる。また、円弧状領域30r上にもエレクトレット層40rを形成することで、振動膜20と平行するエレクトレット層40yの表面電位を上げることができるので、感度を上げることができると共に、開口部内空間45により空気抵抗を下げることにより、等価雑音レベルを低減し、SN比を向上させ、性能を大幅に向上させることができる。さらに、プレス加工による高分子フィルムの抜きバリに起因する性能への影響を防止することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 ECM(エレクトレットコンデンサマイクロホン)
20 振動膜
25 エアギャップ
28 バックキャビティ
30 背極
31〜35 貫通穴
30t テーパ領域
40 エレクトレット層
40b 抜きバリ
45 開口部内空間
50 エッジ部材
60 振動膜固定部
70 グリッド
80 絶縁部材
90 ハウジング
【要約】      (修正有)
【課題】表面電位を上げることで感度を上げつつ、ノイズの増加を抑制し、SN比を向上することができる技術を提供する。
【解決手段】音により振動する振動膜20と、前記振動膜20と対向して配置され、前記振動膜側の空間とその振動膜側とは反対側の空間とを連通する複数の貫通穴35を有する背極30と、前記背極30の前記振動膜側の表面上に形成されたエレクトレット層40とを備え、前記背極30が有する貫通穴35の前記振動膜側には前記振動膜側の開口に向けて穴を広げた形状を形成する開口部を有し、前記エレクトレット層40は、前記背極30の表面のうち前記振動膜20と平行に対向する面上、及び、前記貫通穴35の前記開口部の面上に形成される。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7