特許第5654752号(P5654752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5654752
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】銀ナノ粒子を含む抗菌性医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20141218BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20141218BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20141218BHJP
   A61L 2/16 20060101ALN20141218BHJP
【FI】
   G02C7/04
   G02B1/04
   C08F290/06
   !A61L2/16 A
【請求項の数】3
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2009-548382(P2009-548382)
(86)(22)【出願日】2008年1月29日
(65)【公表番号】特表2010-521697(P2010-521697A)
(43)【公表日】2010年6月24日
(86)【国際出願番号】US2008052249
(87)【国際公開番号】WO2008094876
(87)【国際公開日】20080807
【審査請求日】2011年1月27日
(31)【優先権主張番号】60/887,429
(32)【優先日】2007年1月31日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100122736
【弁理士】
【氏名又は名称】小國 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(74)【代理人】
【識別番号】100132540
【弁理士】
【氏名又は名称】生川 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100149412
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】チュ,ユンシン
(72)【発明者】
【氏名】チァン,シンミン
【審査官】 吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/014074(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/086697(WO,A2)
【文献】 特表2005−511144(JP,A)
【文献】 特表2009−500645(JP,A)
【文献】 特表2004−529208(JP,A)
【文献】 特表2008−504912(JP,A)
【文献】 特開2001−209015(JP,A)
【文献】 特表2004−526187(JP,A)
【文献】 特開平06−343690(JP,A)
【文献】 特表2007−526095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサイチュ形成されたAgナノ粒子及びシリコーン含有のモノマー又はマクロマー又はプレポリマーを含む重合性分散体を得る工程;
Agナノ粒子含有重合性分散体を塩化物で処理する工程;
ある量の塩化物で処理した重合性分散体を抗菌性コンタクトレンズ製造用の型に投入する工程;及び
型内の塩化物で処理した重合性分散体を重合させ、銀ナノ粒子を含有する抗菌性コンタクトレンズを形成する工程
を含み、
Agナノ粒子含有重合性分散体を塩化物で処理する工程が、手順Aもしくは手順Bのいずれか、又はそれらの組み合わせに従って行われ、
手順Aが、(1)固体形態の塩化物塩を、直接、重合性分散体に添加する工程と;(2)分散体中のAgナノ粒子の黄色を帯びた色が実質的に削減されるのに十分な時間、得られた混合物を十分に混合する工程と;(3)残存する固体の塩化物塩を除去する工程とを含み、
手順Bが、(1)NaCl又は塩化水素の溶液を重合性分散体に添加する工程と、(2)分散体中のAgナノ粒子の黄色を帯びた色が実質的に削減されるのに十分な時間、得られた混合物を十分に混合する工程とを含む、
抗菌性コンタクトレンズの製造方法。
【請求項2】
Agナノ粒子のインサイチュ形成が、プロセスAもしくはプロセスBのいずれか、又はそれらの組み合わせに従って行われ、
プロセスAが、(1)所望量の可溶性銀塩を、銀カチオンを還元することのできるモノマー及びシリコーン含有のモノマー又はマクロマー又はプレポリマーを含む重合性流体組成物に添加して混合物を形成する工程と、(2)添加した量の銀塩の少なくとも20%を、銀ナノ粒子に還元するのに十分な時間で、混合物を十分に混合させ、重合性分散体を形成する工程とを含み、
プロセスBが、(1)所望量の可溶性銀塩、及び、シリコーン含有のモノマー又はマクロマー又はプレポリマーを含む重合性流体組成物中に、少なくとも1つの生体適合性の還元剤を添加して混合物を形成する工程(ここで混合物に添加される生体適合性還元剤の量は、銀塩の少なくとも20%を、Agナノ粒子に還元するのに十分な量である)と;(2)銀塩の少なくとも20%を、銀ナノ粒子に還元する時間で、混合物を十分に混合させ、重合性分散体を形成する工程とを含む、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
シリコーン含有プレポリマーが、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有するプレポリマー、2つ以上のチオール基を有するプレポリマー、少なくとも1つのエン基を有するプレポリマーからなる群より選択される1つの要素であり;シリコーン含有マクロマーが、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有するマクロマー、2つ以上のチオール基を有するマクロマー、少なくとも1つのエン基を有するマクロマーからなる群より選択される少なくとも1つの要素であり;シリコーン含有モノマーが、1つのエチレン性不飽和基を有するモノマー、2つのチオール基を有するモノマー、1つのエン基を有するモノマーからなる群より選択される少なくとも1つの要素であり;エン基が、式(I)−(III):
【化3】

[式中、Rは、水素、又はC−C10アルキルであり;R及びRは、互いに独立して、水素、C−C10アルケン二価基、C−C10アルキル、又は−(R18−(X−R19(ここで、R18は、C−C10アルケン二価基であり、Xは、エーテル結合(−O−)、ウレタン結合(−N)、ウレア結合、エステル結合、アミド結合、又はカルボニルであり、R19は、水素、単結合、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、カルボニル基、C−C12アミノアルキル基、C−C18アルキルアミノアルキル基、C−C18カルボキシアルキル基、C−C18ヒドロキシアルキル基、C−C18アルキルアルコキシ基、C−C12アミノアルコキシ基、C−C18アルキルアミノアルコキシ基、C−C18カルボキシアルコキシ基、又はC−C18ヒドロキシアルコキシ基であり、a及びbは、互いに独立して、ゼロ又は1である)であるが、但し、R及びRのうちの1つのみが、二価基であり;R−Rは、互いに独立して、水素、C−C10アルケン二価基、C−C10アルキル、又は−(R18−(X−R19であり、場合によっては、R及びRは、アルケン二価基を介して結合し、環状環を形成するが、但し、少なくともR−Rの1つは、二価基であり;n及びmは、互いに独立して、0〜9の整数であるが、但し、nとmの総数は、2〜9の整数であり、;R10−R17は、互いに独立して、水素、C−C10アルケン二価基、C−C10アルキル、又は−(R18−(X−R19であり、pは、1〜3の整数であるが、但し、R10−R17の1つ又は2つのみが、二価基である。]のいずれか1つにより定義される、請求項1又は2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概要として、制御可能な色及び粒径を有する銀ナノ粒子の調製方法、分散させた銀粒子を有する抗菌性医療デバイスの製造方法、及びその方法から製造される抗菌性医療デバイスに関する。
【0002】
背景技術
コンタクトレンズは、装用、保存、取り扱いの間に、しばしば、1種以上の微生物に暴露される。コンタクトレンズは、微生物が付着し、増殖してコロニーを形成することができる表面を提供しうる。コンタクトレンズに微生物が付着し、コロニーを形成すると、微生物が増殖し、長期間眼の表面上に留まることを可能とし、それによってレンズを使用している目に、感染症又はその他の眼球の健康状態への悪影響を引き起こす場合がある。したがって、様々な努力を払い、コンタクトレンズへの微生物の付着及び/又はコロニー形成の可能性を最小限にすることが望ましい。
【0003】
抗菌性コンタクトレンズを開発する様々な試み、例えば、Chalkley et al.'s publication in Am. J. Ophthalmology 1966, 61:866-869(殺菌剤が組み込まれたコンタクトレンズ);米国特許第4,472,327号(重合に先立ちモノマーに添加されてよく、レンズのポリマー構造に閉じ込められている抗菌剤を有するコンタクトレンズ);米国特許第5,358,688号及び5,536,861号及び欧州特許出願第EP0604369号(有機シリコーンポリマー含有第四級アンモニウム基を含有するコンタクトレンズ);欧州特許出願第EP0947856A2号(第四級ホスホニウム基含有ポリマーを含有するコンタクトレンズ);米国特許第5,515,117号(ポリマー材料及び抗菌性化合物を含むコンタクトレンズ);米国特許第5,213,801号(Ag、Cu及びZnから選択される少なくとも1種の金属を含有する抗菌性セラミックを含むコンタクトレンズ);米国特許第5,328、954号(様々な抗菌剤からなるコーティングを有するコンタクトレンズ)等がなされてきた。このような努力にも関わらず、長期間にわたって抗菌活性を示す商業的に実現可能なコンタクトレンズ、特に連続装用コンタクトレンズはない。
【0004】
共有の同時係属米国特許出願公開第2005/0013842A1号は、銀ナノ粒子(Agナノ粒子)を、連続装用コンタクトレンズに組み込んで、コンタクトレンズに長期間にわたり有効な抗菌性能を付与することができることを開示している。Agナノ粒子をコンタクトレンズに組み込んで抗菌性を付与することはできるものの、依然として、銀に関連するいくつかの問題がある。例えば、Agナノ粒子の組み込みにより、コンタクトレンズに望ましくない黄色を帯びた色を付与する場合がある。
【0005】
さらに、銀イオンから銀粒子への不完全な変換又は還元は、いわゆる「段階効果」を引き起こす。残存する銀イオンが、硬化した成形部品(型内の硬化したレンズ)の保存中に徐々に銀粒子に変換されうる。硬化した成形部品は、IPA抽出及び他の工程を経てさらに加工されるまで、様々に異なる期間保存(「段階化」)されうるので、レンズの最終的な銀の濃度が、保存時間によって異なる可能性がある。このため、「段階効果」は、再現性を損なう。
【0006】
したがって、銀粒子を分散させた抗菌性コンタクトレンズの製造方法の開発の必要性が依然として存在する。このような方法は、少なくとも上記のAgナノ粒子に関連する問題を含んでいない必要がある。
【0007】
発明の概要
本発明は、1つの局面において、抗菌性医療デバイス、好ましくは抗菌性眼用デバイス、より好ましくは抗菌性コンタクトレンズ、さらに好ましくは抗菌性の連続装用レンズを製造する方法を提供する。本方法は、インサイチュ形成Agナノ粒子及びシリコーン含有のモノマー又はマクロマー又はプレポリマーを含む重合性分散体を得る工程;Agナノ粒子含有重合性分散体を塩化物で処理する工程;塩化物で処理した重合性分散体のある量を医療デバイス製造用の型に投入する工程;及び、型内の重合性分散体を重合し、銀ナノ粒子含有抗菌性医療デバイスを形成する工程を含む。
【0008】
本発明は、もう1つの局面において、抗菌性医療デバイス、好ましくは抗菌性眼用デバイス、より好ましくは抗菌性コンタクトレンズ、さらに好ましくは抗菌性の連続装用レンズを製造する方法を提供する。本方法は、溶液中、ポリマー材料の存在下で銀イオンを還元し、ポリマー材料により安定化されたAgナノ粒子を得る工程;溶液を塩化物で処理する工程;塩化物で処理した溶液を凍結乾燥し、凍結乾燥したAgナノ粒子を得る工程;所望量の凍結乾燥したAgナノ粒子を、シリコーン含有のモノマー又はマクロマー又はプレポリマーを含む重合性流体組成物中に、直接分散させ、重合性分散体を形成する工程;ある量の重合性分散体を医療デバイス製造用の型に投入する工程;及び、型内の重合性分散体を重合し、銀ナノ粒子含有抗菌性医療デバイスを形成する工程を含む。
【0009】
本発明は、さらなる局面において、本発明の重合性分散体から調製した、抗菌性医療デバイス、好ましくは抗菌性眼用デバイス、より好ましくは抗菌性コンタクトレンズ、さらに好ましくは抗菌性の連続装用コンタクトレンズを提供する。
【0010】
本発明のこれらの及び他の局面は、以下の現在の好ましい実施態様の記載から、明白となるであろう。詳細な説明は、単に本発明を説明するものであり、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって明示される本発明の範囲を限定しない。当業者に明らかであるように、本開示の新規な概念の要旨及び範囲を逸脱することがない限り、本発明の様々な変更及び改変例が成立しうる。
【0011】
好ましい実施態様の詳細な説明
他に定義されない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、この発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で用いる命名法及び実験方法は、当技術分野において周知であり、通常使用されている。これらの手順には、当技術分野において及び様々な一般文献に記載されるような従来の手順が使用される。用語が単数で記載されている場合、発明者らは、その用語の複数も想定している。本明細書で用いる命名法及び後述する実験方法は、当分野で周知であり、通常使用されているものである。本開示の全体にわたる使用において、次の用語は、特に明記しない限り、以下の意味を有すると理解されるものとする。
【0012】
本明細書で用いる「医療デバイス」は、それらの操作又は利用の過程で、患者の組織、血液又はその他の体液と接触する1つ以上の面を有するデバイス又はその一部を意味する。医療デバイスの例は、(1)血液酸素付加装置、血液ポンプ、血液センサー、血液の輸送に使用される管類等のような、その後患者に戻される血液に接触する、手術に使用される体外器具;(2)血管又は心臓に植設される代用血管、ステント、ペースメーカーリード、心臓弁等のような、ヒト又は動物の体内に植設される人工装具;(3)モニタリング又は修復の目的で、血管内又は心臓に設置される、カテーテル、ガイドワイヤ等のような一時的な血管内の用途のための器具;(4)火傷患者のための人工皮膚のような、人工組織;(5)歯磨き剤、歯の成形品;(6)眼用デバイス;及び(7)眼用デバイス又は眼科用液剤を保存するためのケースまたは容器を含む。
【0013】
本明細書で用いる「眼用デバイス」は、眼の上もしくは眼の回り又は眼の付近で使用されるコンタクトレンズ(ハード又はソフト)、眼内レンズ、角膜アンレー、その他の眼用デバイス(例:ステント、緑内障シャント等)を意味する。
【0014】
「コンタクトレンズ」は、装着者の眼の上又は眼内に置くことができる構造物を意味する。コンタクトレンズは、使用者の視力を矯正、改善、又は変えることができるが、そうである必要はない。コンタクトレンズは、当分野に公知の又は今後開発される任意の適切な材料のものであることができ、ソフトレンズでも、ハードレンズでも、又はハイブリッドレンズでもよい。「シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ」は、シリコーンヒドロゲル材料を含むコンタクトレンズを意味する。
【0015】
本明細書において、コンタクトレンズの「前面又は前側の面」は、装着時に眼から離れた方を向くレンズの面を意味する。前面は、通常実質的に凸面であるが、レンズのフロント曲線とも称する場合がある。
【0016】
本明細書において、コンタクトレンズの「後面又は後側の面」は、装着時に目の方向に面するレンズの表面を意味する。後面は、通常、実質的に凹面であるが、レンズのベース曲線とも称する場合がある。
【0017】
本明細書で用いる「生体適合性」は、眼の環境に著しい損害を与えることなく、また使用者に著しい不快感を与えることなく、長期間、患者の組織、血液又はその他の体液と密接に接触する材料又は材料の表面を意味する。
【0018】
本明細書で用いる「眼用適合性」は、眼の環境に著しい損害を与えることなく、また使用者に著しい不快感を与えることなく、長期間、眼の環境と密接に接触する材料又は材料の表面を意味する。このように、眼用適合性コンタクトレンズは、著しい角膜膨張を生じさせず、目まばたきにより目の上で適切に動いて適切な涙の交換を促し、著しい量のタンパク質または脂質の吸着を有さず、及び所定の装用期間、使用者に著しい不快感を与えることがない。
【0019】
本明細書で用いる「眼の環境」は、視力矯正、ドラッグデリバリー、創傷治癒、眼の色の変更、又は他の眼用用途に使用されるコンタクトレンズと密接に接触することになる眼の流体(例えば、涙液)及び眼の組織(例えば、角膜)を意味する。
【0020】
「ヒドロゲル」又は「ヒドロゲル材料」は、十分水和させた場合、少なくとも10重量パーセントの水を吸収することができるポリマー材料を意味する。
【0021】
「シリコーンヒドロゲル」又は「シリコーンヒドロゲル材料」は、少なくとも1つのシリコーン含有ビニルモノマー又は少なくとも1つのシリコーン含有マクロマー又は少なくとも1つの架橋性のシリコーン含有プレポリマーを含む重合性組成物を共重合することによって得られるシリコーン含有ヒドロゲルを意味する。
【0022】
本明細書で用いる「親水性」とは、脂質とよりも水と容易に会合する材料又はその一部を表す。
【0023】
「モノマー」は、化学線照射又は熱により重合されることができる低分子量化合物を意味する。低分子量とは、通常、700ダルトン未満の平均分子量を意味する。本発明によれば、モノマーは、ビニルモノマー又は2つのチオール基を含む化合物であることができる。2つのチオール基を有する化合物は、ビニル基を有するモノマーとのチオール−エン逐次ラジカル重合に関わり、ポリマーを形成することができる。参照により全文が本明細書に組み込まれる、2006年12月13日出願の、共有の同時係属米国特許出願第60/869,812号(発明の名称「光誘起逐次重合に基づく眼用デバイスの製造」)に記載のとおり、逐次ラジカル重合をコンタクトレンズの製造に使用することができる。
【0024】
本明細書で用いる「ビニルモノマー」は、エチレン性不飽和基を有し、化学線照射又は熱により重合されることができる低分子量の化合物を意味する。低分子量とは、通常、700ダルトン未満の平均分子量を意味する。
【0025】
用語「オレフィン性不飽和基」又は「エチレン性不飽和基」は、本明細書で広義に使用し、少なくとも1つの>C=C<基を含有するあらゆる基を包含することを意図している。エチレン性不飽和基の例は、アクリロイル、メタクリロイル、アリル、ビニル、スチレニル、又は他のC=C含有基を含むが、これらに限定されない。
【0026】
重合性組成物もしくは材料の硬化又は重合することに関して、本明細書で用いる「化学線照射により」とは、硬化(例:架橋及び/又は重合)を、例えば、UV照射、電離放射線(例:ガンマ線又はX線照射)、マイクロ波照射等のような化学線照射によって行うことを意味する。熱硬化又は化学線硬化の方法は、当業者に周知である。
【0027】
本明細書において、用語「流体」とは、材料が、液体のように流れることができることを示す。
【0028】
本明細書で用いる「親水性モノマー」は、化学線照射又は熱により重合して、水溶性であるか又は少なくとも10重量パーセントの水を吸収することができるポリマーを形成することができるモノマーを意味する。
【0029】
本明細書で用いる「疎水性モノマー」は、化学線照射又は熱により重合化されて、水に不溶性であり、10重量パーセント未満の水を吸収することができるポリマーを形成するビニルモノマーを意味する。
【0030】
「マクロマー」は、化学線照射もしくは熱により重合及び/又は架橋することができる、中分子量及び高分子量の化合物を意味する。中分子量及び高分子量は、通常、700ダルトンより大きい平均分子量を意味する。本発明によれば、マクロマーは、ラジカル連鎖成長重合又はチオール−エン逐次ラジカル重合に関与することができる1つ以上のエチレン性不飽和基及び/又は1つ以上のチオール基を含む。好ましくは、マクロマーは、エチレン性不飽和基を含有し、化学線照射又は熱により重合することができる。
【0031】
「プレポリマー」は、架橋性の基を含有し、化学線で又は熱的に又は化学的に硬化(例:架橋及び/又は重合)して、出発ポリマーよりもはるかに大きい分子量を有する架橋及び/又は重合したポリマーを得ることができる出発ポリマーを意味する。本発明によれば、プレポリマーは、フリーラジカル連鎖成長重合又はチオール−エン逐次ラジカル重合に関与することができる1つ以上のエチレン性不飽和基及び/又は1つ以上のチオール基を含む。
【0032】
「シリコーン含有プレポリマー」は、シリコーンを含有し、化学線又は熱により架橋して、出発ポリマーよりもはるかに大きい分子量を有する架橋されたポリマーを得ることができるプレポリマーを意味する。
【0033】
本明細書で用いる、ポリマー材料(モノマー又はマクロマーの材料を含む)の「分子量」は、他に具体的な記載がなければ、又は試験条件がそうでないことを示していなければ、数平均分子量を意味する。
【0034】
「ポリマー」は、1つ以上のモノマーを重合することにより形成される材料を意味する。
【0035】
「光開始剤」は、光の使用により、ラジカル架橋/重合反応を開始する化学物質を意味する。適切な光開始剤には、ベンゾインメチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンゾイルホスフィンオキシド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、Darocure(登録商標)タイプ、及びIrgacure(登録商標)タイプ、好ましくはDarocure(登録商標)1173、及びIrgacure(登録商標)2959が含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
「熱開始剤」は、熱エネルギーの使用により、ラジカル架橋/重合反応を開始する化学物質を意味する。適切な熱開始剤の例は、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパンニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンニトリル)、ベンゾイルペルオキシドのような過酸化物等を含むが、これらに限定されない。好ましくは、熱開始剤は、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)である。
【0037】
本明細書で用いる「相互貫入高分子網目構造(IPN)」は、広義に、他のポリマー(単/複)の存在下で、少なくとも1つが合成及び/又は架橋される2つ以上のポリマーの密な網目構造を意味する。IPNの調製技術は、当業者に知られている。一般的な手順に関しては、それらの内容がすべて参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,536,554号、4,983,702号、5,087,392号、及び5,656,210号を参照されたい。重合は、一般にほぼ室温〜約145℃の範囲の温度で行う。
【0038】
「化学線照射の空間的制限」は、明確な周辺境界線を有する領域に、空間的に制限された方法で、光線の形態でのエネルギー放射が、例えば、マスク又はスクリーン又はそれらの組み合わせの手段によって導かれて作用する動き又はプロセスを意味する。例えば、紫外線照射の空間的制限は、(全文が参照により本明細書に組み込まれる)米国特許第6,627,124号の図1−9に概略的に示されるように、紫外線不透過領域(マスクされた領域)に囲まれた、透明又は開口された領域(マスクされていない領域)を有するマスク又はスクリーンを使用することにより達成することができる。マスクされていない領域は、マスクされている領域と明確な周辺境界線を有する。架橋に使用されるエネルギーは、放射線エネルギー、特に紫外線放射、ガンマ線放射、電子線放射又は熱放射であり、好ましくは、一方では良好な制限及び他方ではエネルギーの効率的利用を達成するために、実質的に平行な光線の形態である放射線エネルギーである。
【0039】
レンズに関する「視認性のためのティント」は、使用者が、レンズ保管、殺菌又は洗浄用の容器内の透明な溶液中のレンズの在り処を容易に確認できるようにするための、レンズの染色(又は着色)を意味する。レンズの視認性のためのティントに、染料及び/又は顔料を使用することができることは、当分野において周知である。
【0040】
「染料」とは、溶媒に可溶性であり、色を付与するのに使用される物質を意味する。染料は、通常半透明であり、光を吸収するが散乱させない。本発明において、任意の適切な生体適合性の染料を使用することができる。
【0041】
「顔料」とは、それが不溶である液体に懸濁された粉末物質を意味する。顔料は、蛍光顔料、リン光性顔料、真珠光沢顔料、又は従来の顔料であることができる。任意の適切な顔料を使用してよいが、顔料が、耐熱性、無毒性及び水溶液に不溶性であることが現在のところ好ましい。
【0042】
本明細書で用いる「表面変性」とは、物品が、表面処理プロセス(又は表面変性プロセス)において処理されたことを意味し、その処理において、蒸気もしくは液体、及び/又はエネルギー源の適用によって、(1)物品の表面にコーティングが適用される、(2)物品の表面に化学種が吸着される、(3)物品の表面の化学基の化学的性質(例:帯電性)が変更される、又は(4)物品の表面特性がその他の方法により変性されることを意味する。表面処理プロセスの例は、エネルギー(例:プラズマ、静電気、放射線照射、又はその他のエネルギー源)による表面処理、化学処理、親水性モノマー又はマクロマーの物品表面へのグラフト、及びポリマー材料のLbL蒸着を含むが、これらに限定されない。表面処理プロセスの好ましい種類は、イオン化したガスを物品表面に当てるプラズマプロセスである。プラズマガス及び処理条件は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,312,575号及び第4,632,844号においてより十分に記載されている。プラズマガスは、好ましくは、低級アルカンと、窒素、酸素又は不活性ガスとの混合物である。
【0043】
本明細書で用いる「LbLコーティング」は、コンタクトレンズ又は型半に共有結合せず、レンズ又は型半上にポリイオン性(又は帯電した)及び/又は非帯電材料を一層ずつ(「LbL」)堆積することにより得られるコーティングを意味する。LbLコーティングは、1つ以上の層で、好ましくは、1つ以上の二重層で構成することができる。
【0044】
本明細書で用いる「ポリイオン性材料」は、高分子電解質のような、複数の荷電基又はイオン性基を有するポリマー材料を意味する。ポリイオン性材料は、ポリカチオン性(正電荷を有する)及びポリアニオン性(負電荷を有する)材料の両方を含む。
【0045】
本明細書で用いる「二重層」は広義に使用され、以下を包含することを意図する:第1のポリイオン性材料(又は帯電材料)1層、続いて、第1のポリイオン性材料(又は帯電材料)の電荷と反対の電荷を有する、第2のポリイオン性材料(又は帯電材料)1層を、特に順序を定めず、二者択一で積層することにより、コンタクトレンズ又は型半上に形成されるコーティング構造物;又は、第1の帯電ポリマー材料1層及び非帯電ポリマー材料もしくは第2の帯電ポリマー材料の1層を、特に順序を定めず、二者択一で積層することにより、コンタクトレンズ又は型半上に形成されるコーティング構造物。第1及び第2コーティング材料(上記)の層が、二重層の中で互いに絡み合ってよいことが理解されよう。
【0046】
コンタクトレンズ又は型半上のLbLコーティングの形成は、例えば、(参照によりそれら全文が本明細書に組み込まれる)米国特許第6,451,871号、第6,719,929号、第6,793,973号、第6,811,805号、第6,896,926号に記載されるような様々な方法で行ってよい。
【0047】
本明細書で用いる「最内層」は、コンタクトレンズ又は型半の表面に適用される、LbLコーティングの第1層を意味する。
【0048】
本明細書で用いる「キャッピング層」又は「最外層」は、コンタクトレンズ又は型半に適用されるLbLコーティングの最後の層又は単独層を意味する。
【0049】
「平均接触角」は、少なくとも3個のコンタクトレンズの測定値を平均することにより得られる水接触角(Wilhelmy Plate法で測定した前進角)を意味する。
【0050】
コーティングされたコンタクトレンズに関して本明細書で用いる「増大した表面親水性」又は「増大した親水性」とは、コーティングされたコンタクトレンズが、コーティングされていないコンタクトレンズ(ここで、コーティングされたコンタクトレンズとコーティングされていないコンタクトレンズとは、同じコア材料で作成されている)と比べて、小さくなった平均接触角を有することを意味する。
【0051】
本明細書で用いる「抗菌性医療デバイス」は、生存微生物の少なくとも5倍削減(80%抑制)、好ましくは、少なくとも1−logの削減(90%抑制)、より好ましくは、少なくとも2−logの削減(99%抑制)を示す医療デバイスを意味する。
【0052】
本明細書で用いる「抗菌剤」は、当分野で公知のように、微生物の増殖を低減するか除去する又は抑制することができる化学物質を意味する。
【0053】
「Agナノ粒子」は、主として銀金属からなり、粒径約1ミクロメーター以下の粒子を意味する。ナノ粒子中の銀は、Ag、Ag1+及びAg2+のように、その1つ以上の酸化状態において、存在することができる。Agナノ粒子は、流体組成物中で凝集し、粒径分析器(例えば、Horiba LA-920粒径分析器)の超音波処理機能を作動させずに、粒径分析器で分析した場合Agナノ粒子の見掛けの大きさが、数ミクロメーターであろうことがと理解される。
【0054】
Agナノ粒子の「インサイチュ」形成は、Agナノ粒子が、眼用デバイス、特にコンタクトレンズ製造用の重合性流体組成物中で直接形成されるプロセスを意味する。Agナノ粒子の形成は、吸収ピークがAgナノ粒子の特徴である、波長約460nm以下での紫外分光法によって確認することができる。
【0055】
「塩化物で処理したAgナノ粒子」は、Agナノ粒子が分散体中で形成された後で、その形成されたAgナノ粒子を含有する分散体に塩化物を加え、未処理のAgナノ粒子の特徴的な黄色を帯びた色を実質的に削減するプロセスに従って得られたAgナノ粒子を意味する。
【0056】
「凍結乾燥」は、溶媒が、実質的に除去される凍結乾燥プロセスを意味する。
【0057】
Agナノ粒子に関して「段階効果」とは、Agナノ粒子インサイチュ調製中の銀イオンの銀粒子への不完全な変換又は還元により、残存する銀イオンが、硬化した成形部品(型内の硬化したレンズ)の保存中及びレンズ加工(抽出、水和、その他の工程)中に徐々に銀粒子に変換されうるので、レンズの最終的な銀の濃度(すなわち、再現性)が、保存期間及びレンズの加工条件によってばらつきを生じることを表すことを意図する。
【0058】
「安定化Agナノ粒子」は、安定剤の存在下で形成され、安定剤により安定化されたAgナノ粒子を意味する。安定化Agナノ粒子は、Agナノ粒子を調製するための溶液に存在し、得られたAgナノ粒子を安定化させることができる材料(又はいわゆる安定剤)に大きく依存し、正荷電又は負荷電のいずれか又は電気的に中性であることができる。安定剤は、任意の公知の適切な材料であることができる。安定剤の例は、正荷電ポリイオン性材料、負荷電ポリイオン性材料、ポリマー、界面活性剤、サリチル酸、アルコール等を含むが、これらに限定されない。
【0059】
本明細書で用いる、レンズの「酸素伝達率」は、酸素が特定の眼用レンズを通過する率である。酸素伝達率、Dk/tは、従来、単位barrer/mmで表され、ここでtは、測定面積に対する材料の平均厚さ[単位mm]であり、「barrer/mm」は次のように定義される:
[(cm3酸素)/(cm2)(秒)(mm2Hg)]×10−9
【0060】
レンズ材料固有の「酸素透過率」、Dkは、レンズ厚に依存しない。固有の酸素透過性は、酸素が材料を通過する率である。酸素透過性は、従来より、barrerの単位で表わされている。ここで、「barrer」は、以下のように定義される:
[(cm3酸素)(mm)/(cm2)(sec)(mm2Hg)]×10−10
【0061】
これらは、当分野で一般的に使用される単位である。そのため、当分野における使用との一貫性をもたせるため、単位「barrer」は、上記の定義のとおりの意味をもつ。例えば、90barrerのDk(「酸素透過性barrer」)及び90ミクロン(0.090mm)の厚さを有するレンズは、100barrer/mmのDk/t(酸素透過性barrer/mm)を有するであろう。本発明によれば、材料又はコンタクトレンズに関して、高い酸素透過性とは、実施例に記載の電量分析法(coulometric method)に従って、100ミクロン厚のサンプル(フィルム又はレンズ)を用いて測定された、少なくとも40barrer以上の見掛けの酸素透過率を特徴とする。
【0062】
レンズを通過する「イオン透過性」は、イオノフラックス拡散係数及びイオノトン(Ionoton)イオン透過性係数の両者と、相互に関連する。
【0063】
イオノフラックス拡散係数、Dは、Fickの法則を適用することにより、次のように求められる:
D=−n’/(A×dc/dx)
式中、 n’ = イオン輸送率[mol/min]
A = 露出レンズ面積[mm
D = イオノフラックス拡散係数[mm/min]
dc = 濃度差[mol/L]
dx = レンズ厚[mm]
【0064】
イオノトンイオン透過性係数、Pは、よって、次式により求められる:
ln(1−2C(t)/C(0))=−2APt/Vd
式中: C(t)= 受け入れセル内の時間tでのナトリウムイオン濃度
C(0)= 供給セル内の初期濃度
A = 膜面積、すなわち、セルに暴露したレンズ面積
V = セルコンパートメント容量(3.0ml)
d = 露出領域における平均レンズ厚
P = 透過係数
【0065】
イオノフラックス拡散係数、Dは、約0.2×10-3mm/minより大きいことが好ましく、約0.64×10−3mm/minより大きいことがより好ましく、約1.0×10−3mm/minより大きいことが最も好ましい。
【0066】
涙の良好な交換を確保し、最終的に、角膜の健康を確保するためには、レンズが眼球上で動くことが必要であることは公知である。イオン透過性は、水の透過性に正比例すると考えられるため、イオン透過性は、レンズの眼球上での動きの予測子の1つである。
【0067】
レンズの含水量は、参照により全文が本明細書に組み込まれる米国特許第5,760,100号に開示されているBulk Techniqueに従って測定することができる。好ましくは、レンズは、全レンズ重量に基づき、十分に水和された場合、少なくとも15重量%の含水量を有する。
【0068】
本発明は、一般に、均等に分散させた銀粒子を有する抗菌性医療デバイスの製造方法及びその方法から製造された抗菌性医療デバイスに関する。本発明は、一部には、インサイチュ調製した銀ナノ粒子を含有するレンズ配合物を、単に塩化物で処理することにより、遊離銀イオンを銀塩化物に変換し、そして予想外に、配合物の色も、黄色を帯びたものから青に変化させることができるという発見に基づいている。本発明は、また一部には、塩化物添加というプロセス条件が、銀粒子の凝集を防止するために非常に重要であるという発見に基づいている。塩化物処理という工程を有することにより、Agナノ粒子の段階効果が最小限になり、レンズ中の銀の最終濃度の再現性が制御可能となる。塩化物は、塩化水素又は塩化ナトリウム(NaCl)を介して添加することができる。塩化物添加のタイミング、その濃度、溶解したNaClを加えるのか、又はNaClの固体を加えるのか等の特定のプロセス条件が、重要である。さらに、安定剤の銀に対する相対濃度も、色及び許容されうる粒径のような、所望の特性を達成する上で重要である。本発明は、さらに、一部には、均等に分散させた銀ナノ粒子を有する抗菌性医療デバイスが、本明細書において開発された、費用効果的で効率的なプロセスの1つに従って製造することができるという発見に基づいている。銀ナノ粒子が、銀イオンを極めて遅い速度で放出することができ、次に銀イオンが、医療デバイスから徐々に浸出することができるので、微生物の増殖を低減、除去又は抑制することができると考えられる。また、塩化物処理により、1つ以上の銀の源(銀ナノ粒子及び銀塩化物)が提供されうるので、銀の放出が増えると考えられる。
【0069】
本発明のプロセスを用いることにより、眼用デバイスのポリマーマトリックス中に、銀粒子を均等に組み込んで、眼用デバイスの所望のバルク特性(酸素透過性、イオン又は水の透過性)に著しい悪影響なく、抗菌性能を付与することができる。
【0070】
本発明は、1つの局面において、抗菌性医療デバイス、好ましくは、抗菌性眼用デバイス、より好ましくは、抗菌性コンタクトレンズ、さらに好ましくは、抗菌性の連続装用レンズの製造方法を提供する。本方法は、インサイチュ形成されたAgナノ粒子及びシリコーン含有のモノマー又はマクロマー又はプレポリマーを含む重合性分散体を得る工程;Agナノ粒子含有重合性分散体を塩化物で処理する工程;ある量の塩化物で処理した重合性分散体を医療デバイス製造用の型に投入する工程;及び型内の重合性分散体を重合させ、銀ナノ粒子含有抗菌性医療デバイスを形成する工程を含む。
【0071】
1つの実施態様において、Agナノ粒子のインサイチュ形成は、所望量の可溶性銀塩を、銀カチオンを還元することのできるモノマー及びシリコーン含有のモノマー又はマクロマー又はプレポリマーを含む重合性流体組成物に加えて混合物を形成し、添加した量の銀塩の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも95%を、銀ナノ粒子に還元するのに十分な時間で、混合物を十分に混合させ、重合性分散体を形成することにより行う。
【0072】
もう1つの実施態様において、Agナノ粒子のインサイチュ形成は、シリコーン含有のモノマー又はマクロマー又はプレポリマーを含む重合性流体組成物中に、少なくとも1つの生体適合性の還元剤を加えて混合物を形成(ここで混合物に加える生体適合性還元剤の量は、銀塩の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも95%を、Agナノ粒子に還元するのに十分な量である)し;添加した量の銀塩の少なくとも20%、好ましくは、少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも80%、さらに好ましくは、少なくとも95%を、銀ナノ粒子に還元するのに十分な時間で、混合物を十分に混合させ、重合性分散体を形成することにより行う。
【0073】
本発明によれば、重合性流体組成物は、溶液又は溶媒を含まない液体又は60℃未満の温度での溶融物であることができる。
【0074】
重合性流体組成物が溶液である場合、少なくとも1つのシリコーン含有のモノマー、マクロマー又はプレポリマー及び当業者に他のすべての所望の成分を公知の任意の適切な溶媒に溶解することにより調製することができる。適切な溶媒の例は、水、アルコール類、例えば低級アルカノール、例えばエタノール又はメタノール、さらには、カルボン酸アミド類、例えばジメチルホルムアミド、極性非プロトン性溶媒類、例えばジメチルスルホキシド又はメチルエチルケトン、ケトン類、例えばアセトン又はシクロヘキサノン、炭化水素、例えばトルエン、エーテル類、例えばTHF、ジメトキシエタン又はジオキサン、及びハロゲン化炭化水素類、例えばトリクロロエタン、並びに適切な溶媒の混合物、例えば水とアルコールとの混合物類、例えば水/エタノール又は水/メタノールの混合物である。
【0075】
任意の公知の適切なシリコーン含有モノマーを本発明において使用することができる。本発明によれば、モノマーは、シリコーン含有ビニルモノマー又は2つのチオール基を有するモノマーであることができる。シリコーン含有モノマーの例は、メタクリロキシアルキルシロキサン、3−メタクリロキシプロピルペンタメチルジシロキサン、ビス(メタクリロキシプロピル)テトラメチル−ジシロキサン、モノメタクリラート化ポリジメチルシロキサン、メルカプト末端ポリジメチルシロキサン、N−[トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]アクリルアミド、N−[トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]メタクリルアミド、トリス(ペンタメチルジシロキサニル)−3−メタクリラートプロピルシラン(T2)、及びトリストリメチルシリロキシシリルプロピルメタクリラート(TRIS)を含むが、これらに限定されない。好ましいシロキサン含有モノマーは、TRISであり、これは、3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを意味し、CAS No.17096−07−0で表される。本明細書において、用語「TRIS」は、3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランのダイマーも含む。シリコーン含有モノマーは、また、1つ以上のヒドロキシル及び/又はアミノ基も含むことができる。
【0076】
重合性分散体の重合を、チオール−エン逐次ラジカル重合に基づいて行う場合、シリコーン含有モノマーは、好ましくは、2つのチオール基又は式(I)−(III):
【化1】

[式中、Rは、水素、又はC−C10アルキルであり;R及びRは、互いに独立して、水素、C−C10アルケン二価基、C−C10アルキル、又は−(R18)−(X−R19(ここで、R18は、C−C10アルケン二価基であり、Xは、エーテル結合(−O−)、ウレタン結合(−N)、ウレア結合、エステル結合、アミド結合、又はカルボニルであり、R19は、水素、単結合、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、カルボニル基、C−C12アミノアルキル基、C−C18アルキルアミノアルキル基、C−C18カルボキシアルキル基、C−C18ヒドロキシアルキル基、C−C18アルキルアルコキシ基、C−C12アミノアルコキシ基、C−C18アルキルアミノアルコキシ基、C−C18カルボキシアルコキシ基、又はC−C18ヒドロキシアルコキシ基であり、a及びbは、互いに独立して、ゼロ又は1である)であるが、但し、R及びRのうちの1つのみが、二価基であり;R−Rは、互いに独立して、水素、C−C10アルケン二価基、C−C10アルキル、又は−(R18−(X−R19であり、場合によっては、R及びRは、アルケン二価基を介して結合し、環状環を形成するが、但し、少なくともR−Rの1つは、二価基であり;n及びmは、互いに独立して、0〜9の整数であるが、但し、nとmの総数は、2〜9の整数であり、;R10−R17は、互いに独立して、水素、C−C10アルケン二価基、C−C10アルキル、又は−(R18−(X−R19であり、pは、1〜3の整数であるが、但し、R10−R17の1つ又は2つのみが、二価基である]のいずれか1つにより定義される1個のエン含有基を含む。
【0077】
任意の公知の適切なシリコーン含有マクロマーを、本発明に使用することができる。本発明によれば、マクロマーは、ラジカル連鎖成長重合又はチオール−エン逐次ラジカル重合に関与することができる、1つ以上のエチレン性不飽和基及び/又は少なくとも2つのチオール基を含む。好ましくは、シリコーン含有マクロマーは、シロキサン含有マクロマーである。エチレン性不飽和基(単数/複数)を有する、任意の適切なシロキサン含有マクロマーを使用して、シリコーンヒドロゲル材料を製造することができる。特に好ましいシロキサン含有マクロマーは、参照により全文が本明細書に組み込まれる米国特許第5,760,100号に記載のマクロマーA、マクロマーB、マクロマーC、及びマクロマーDからなる群より選択される。2つ以上の重合性基(ビニル基)を有するマクロマーは、架橋基としても機能することができる。ポリジメチルシロキサン及びポリアキレンオキシドからなるジ−及びトリブロックマクロマーも有用である。このようなマクロマーは、アクリラート、メタクリラート又はビニル基でモノ又はジ官能化されているものである場合がある。例えば、メタクリラートでエンドキャップしたポリエチレンオキシド−ブロック−ポリジメチルシロキサン−ブロック−ポリエチレンオキシドを用いて、酸素透過性を高めることもできよう。
【0078】
重合性分散体の重合を、チオール−エン逐次ラジカル重合に基づいて行う場合、シリコーン含有マクロマーは、好ましくは、少なくとも2つのチオール基又は、上記の式(I)−(III)のいずれか1つによって定義される1つ以上のエン含有基を含む。
【0079】
本発明によれば、プレポリマーは、ラジカル連鎖成長重合又はチオール−エン逐次ラジカル重合に関与することができる、1つ以上のエチレン性不飽和基及び/又は少なくとも2つのチオール基を含む。シリコーン含有プレポリマーの例は、参照によりそれらの全文が本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第US2001−0037001A1号、米国特許第6,039,913号、及び2006年12月13日出願の同時係属米国特許出願第60/869,812号(発明の名称「光誘起逐次重合に基づく眼用デバイスの製造」)に開示されているものを含むが、これらに限定されない。好ましくは、本発明で使用するプレポリマーは、それ自体公知の方法、例えば、有機溶媒、例えば、アセトンによる沈殿、ろ過及び洗浄、適切な溶媒での抽出、透析または限外ろ過(限外ろ過が特に公的である)で、事前に精製される。この精製プロセスにより、プレポリマーは、極めて純粋な形態、例えば、反応生成物(例えば塩類)及び、出発原料(例えば非ポリマー構成要素)を含まないか、又は少なくとも実質的に含まない濃縮水溶液の形態で得ることができる。本発明によるプロセスに使用するプレポリマーの好適な精製プロセスである限外ろ過は、それ自体公知の方法で行うことができる。限外ろ過は、繰り返し(例えば2〜10回)行うことができる。あるいは、限外ろ過は、選択した純度が達成されるまで、連続して行うことができる。選択純度は、原理上、所望するだけ高くすることができる。純度の適切な尺度は、例えば、副産物として得られる溶解した塩の濃度であり、これは、公知の方法で容易に測定可能である。
【0080】
重合性分散体の重合を、チオール−エン逐次ラジカル重合に基づいて行う場合、シリコーン含有プレポリマーは、好ましくは、少なくとも2つのチオール基又は、上記の式(I)−(III)のいずれか1つによって定義される1つ以上のエン含有基を含む。
【0081】
本発明によれば、重合性流体組成物は、また、親水性のモノマーをも含むことができる。本発明の流体組成物においては、可塑剤として作用することができる親水性モノマーのほぼすべてが使用可能である。好ましい親水性のビニルモノマーには、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)、2−ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)、ヒドロキシアクリラート、ヒドロキシプロピルアクリラート、ヒドロキシプロピルメタクリラート(HPMA)、トリメチルアンモニウム2−ヒドロキシプロピルメタクリラート塩化水素、ジメチルアミノエチルメタクリラート(DMAEMA)、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、アリルアルコール、ビニルピリジン、グリセリンメタクリラート、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン(NVP)、アクリル酸、メタクリル酸、及びN,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)が含まれる。
【0082】
重合性流体組成物は、疎水性モノマーも含むことができる。一定量の疎水性モノマーを重合性流体組成物中に組み込むことにより、得られるポリマーの機械的性質(例えば弾性係数)が改善される。
【0083】
好ましい実施態様において、眼用デバイスの製造に適切な重合性流体組成物は、(a)シロキサン含有マクロマー約20〜40重量パーセント、(b)シロキサン含有モノマー約5〜30重量パーセント、及び(c)親水性モノマー約10〜35重量パーセントを含む。より好ましくは、シロキサン含有モノマーは、TRISである。
【0084】
本発明によれば、重合性流体組成物は、さらに、当業者に公知の様々な成分、例えば、架橋剤、連鎖移動剤、開始剤、UV吸収剤、阻害剤、充填剤、視認性のためのティント剤(例えば、染料、顔料、又はそれらの混合物)、浸出可能な湿潤剤等のような非架橋性の親水性ポリマー等を含むことができる。
【0085】
架橋剤は、構造保全及び機械的強度を改善するために使用してもよい。架橋剤の例は、アリル(メタ)アクリラート、低級アルキレングリコールジ(メタ)アクリラート、ポリ低級アルキレングリコールジ(メタ)アクリラート、低級アルキレンジ(メタ)アクリラート、ジビニルエーテル、ジビニルスルホン、ジ−又はトリビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリラート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリラート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリラート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルフタラート又はジアリルフタラートを含むが、これらに限定されない。好ましい架橋剤は、エチレングリコールジメタクリラート(EGDMA)である。
【0086】
使用する架橋剤の量は、総ポリマーに対する重量含有量で表され、0.05〜20%の範囲、特に0.1〜10%の範囲、及び好ましくは0.1〜2%の範囲である。
【0087】
例えば、重合の分野におけるこのような用途に周知の材料から選択された開始剤を、重合反応を促進するため及び/又は速度を高めるために、重合性流体組成物中に含んでよい。開始剤は、重合反応を開始させることのできる化学物質である。開始剤は、光開始剤又は熱開始剤であることができる。
【0088】
光開始剤は、ラジカル重合及び/又は架橋を、光を使用することにより開始することができる。適切な光開始剤は、ベンゾインメチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンゾイルホスフィンオキシド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及びDarocur及びIrgacurタイプ、好ましくはDarocur 1173(登録商標)及びDarocur 2959(登録商標)である。ベンゾイルホスフィン開始剤の例は、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド;ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−N−プロピルフェニルホスフィンオキシド;及びビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−N−ブチルフェニルホスフィンオキシドを含む。例えば、マクロマーに組み込むことができるか、又は特定のモノマーとして使用できる反応性光開始剤も適切である。反応性光開始剤の例は、全文が参照により本明細書に組み込まれるEP632329に開示されているそれらである。そして重合は、化学線、例えば光、特に適切な波長の紫外線により誘発することができる。スペクトル要件は、状況に応じて、適宜、適切な光開始剤を加えることにより、制御することができる。
【0089】
適切な熱開始剤の例は、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパンニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンニトリル)、過酸化物、例えば、ベンゾイルペルオキシド等を含むが、これらに限定されない。好ましくは、熱開始剤は、アゾビスイソブチロナイト(AIBN)である。
【0090】
好ましい顔料の例は、D&CブルーNo.6、D&CグリーンNo.6、D&CバイオレットNo.2、カルバゾールバイオレット、特定の銅複合体、特定の酸化クロム、種々の酸化鉄、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、二酸化チタン等のような、医療デバイスにおいて許容され、FDAで認可されているあらゆる着色剤を含む。本発明に使用してよい着色剤の一覧に関しては、Marmiom DM Handbook of U.S. Colorantsを参照されたい。より好ましい顔料の具体例(C.I.は、カラーインデックス番号である)は、青色に関しては、フタロシアニンブルー(ピグメントブルー15:3、C.I.74160)、コバルトブルー(ピグメントブルー36、C.I.77343)、トナーシアンBG(Clariant)、パーマジェットブルーB2G(Clariant);緑色に関しては、フタロシアニングリーン(ピグメントグリーン7、C.I.74260)及び三酸化二クロム;黄色、赤、褐色及び黒色に関しては、様々な酸化鉄;PR122、PY154、紫色に関しては、カルバゾールバイオレット;黒色に関しては、モノリスブラックC−K(CIBA Specialty Chemicals)を含むが、これらに限定されない。
【0091】
任意の非架橋性の親水性のポリマーを、浸出可能な湿潤剤として本発明で使用することができる。非架橋性の親水性ポリマーの例は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド、ポリエチレン−ポリプロピレンブロックコポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリラクトン、ビニルラクタムのホモポリマー、1つ以上の親水性のビニルコモノマーの存在下又は非存在下の、少なくとも1つのビニルラクタムのコポリマー、アクリルアミド又はメタアクリルアミドのホモポリマー、アクリルアミド又はメタクリルアミドと1つ以上の親水性のビニルモノマーとのコポリマー、それらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0092】
本発明によれば、ビニルラクタムは、式(IV):
【化2】

(式中、Rは、炭素原子2〜8個を有するアルキレン二価基であり;Rは、水素、アルキル、アリール、アラルキル又はアルカリール、好ましくは、水素又は炭素原子を最大7個、より好ましくは炭素原子を最大4個有する、低級アルキル、例えば、メチル、エチル又はプロピル;炭素原子を最大10個有するアリール、そして、炭素原子を最大14個有するアラルキル又はアルカリールであり;Rは、水素又は炭素原子を最大7個、より好ましくは炭素原子を最大4個有する、低級アルキル、例えば、メチル、エチル又はプロピルである)の構造を有する。
【0093】
非架橋性の親水性ポリマーは、形成されたシリコーンヒドロゲルレンズに、湿潤性及び耐久性のコーティングを形成するのに十分な量、例えば、それぞれ組成物の総重量に基づき、約0.5%〜約10重量%、好ましくは、約1%〜約8.0重量%、及びより好ましくは、約3%〜約6重量%の量で、重合性流体組成物中に存在する。
【0094】
非架橋性の親水性ポリマーの数平均分子量Mは、少なくとも40000ダルトン、好ましくは、少なくとも80000ダルトン、より好ましくは、少なくとも100000ダルトン、さらに好ましくは、少なくとも250000ダルトンである。
【0095】
親水性ポリマーの例は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))、プロビドン、ビニルピロリドン/ジメチルアミノエチルメタクリラートのコポリマー、ビニルピロリドン/ビニルアセタートのコポリマー、アルキル化ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン/ジメチルアミノエチルメタクリラートのコポリマー、ビニルピロリドン/アクリル酸のコポリマー、ポリ−N−ビニル−2−ピペリドン、ポリ−N−ビニル−2−カプロラクタム、ポリ−N−ビニル−3−メチル−2−カプロラクタム、ポリ−N−ビニル−3−メチル−2−ピペリドン、ポリ−N−ビニル−4−メチル−2−ピペリドン、ポリ−N−ビニル−4−メチル−2−カプロラクタム、ポリ−N−ビニル−3−エチル−2−ピロリドン、及びポリ−N−ビニル−4,5−ジメチル−2−ピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリ2−エチルオキサゾリン、ヘパリンポリサッカライド、ポリサッカライド、ポリオキシエチレン誘導体、それらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0096】
適切なポリオキシエチレン誘導体は、例えば、n−アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル、n−アルキルポリオキシエチレンエーテル(例えば、TRITON(登録商標))、ポリグリコールエーテル界面活性剤(TERGITOL(登録商標))、ポリオキシエチレンソルビタン(例えば、TWEEN(登録商標))、ポリオキシエチラート化グリコールモノエーテル(例えば、BRIJ(登録商標)、ポリオキシルエチレン9ラウリルエーテル、ポリオキシルエチレン10エーテル、ポリオキシルエチレン10トリデシルエーテル)、又はエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマー(例えばポロキサマー又はポロキサミン)である。
【0097】
本発明で使用する好ましいポリオキシエチレン誘導体のクラスは、ポリエチレン−ポリプロピレンブロックコポリマー、特にポロキサマー又はポロキサミンであり、これらは、例えば、PLURONIC(登録商標)、PLURONIC-R(登録商標)、TETRONIC(登録商標)、TETRONIC-R(登録商標)又はPLURADOT(登録商標)の商品名で入手可能である。
【0098】
ポロキサマーは、PEO−PPO−PEO(「PEO」は、ポリ(エチレンオキシド)であり、「PPO」は、ポリ(プロピレンオキシド)である)構造を有するトリブロックコポリマーである。分子量とPEO/PPOの比だけが異なる数多くのポロキサマーが公知であり、その例は、ポロキサマー101、105、108、122、123、124、181、182、183、184、185、188、212、215、217、231、234、235、237、238、282、284、288、331、333、334、335、338、401、402、403及び407である。これらのポロキサマーは、そのPEO/PPO比に関わらず、本発明のプロセスで使用できる。例えば、PEO/PPO重量比が約10/90のポロキサマー101とPEO/PPO重量比が約80/20のポロキサマー108とが両方とも、工程a)による水溶液中の非架橋性のポリマーとして有益であることが見出されている。
【0099】
ポリオキシエチレン及びポリオキシプロピレンブロックの順序を逆にして、PPO−PEO−PPO構造のブロックコポリマーを作成することができるが、これは、PLURONIC-R(登録商標)ポリマーとして公知である。
【0100】
ポロキサミンは、(PEO−PPO)−N−(CH−N−(PPO−PEO)構造を有するポリマーであり、様々な分子量とPEO/PPO比で入手することができる。ここでも、ポリオキシエチレン及びポリオキシプロピレンブロックの順序を逆にして、(PPO−PEO)−N−(CH−N−(PEO−PPO)構造のブロックコポリマーを作成することができるが、これは、TETRONIC-R(登録商標)ポリマーとして公知である。
【0101】
ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックコポリマーは、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの繰返し単位のランダムな混合を含む親水性のブロックで設計することもできる。ブロックの親水性の性質を維持するためには、エチレンオキシドが、優勢となる。同様に、疎水性のブロックも、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの繰返し単位の混合物とすることができる。このようなブロックコポリマーは、商品名PLURADOT(登録商標)で入手可能である。
【0102】
PVAは、生体適合性の高い材料であり、眼科用品、特に、眼の快適さのための湿潤用目薬又は人工涙液(例えば、HypoTears(商標)等)に広く使用されている。あらゆる種類の非架橋性PVA、例えば、低、中、又は高含有量のポリビニルアセタートを有するそれらを使用してよい。本発明で使用される非架橋性のポリビニルアルコール類は、公知であり、例えばMowiol(登録商標)のブランド名でKSE(Kuraray Specialties Europe)から市販されている。
【0103】
好ましくは、重合性流体組成物は、Mが、約50000〜100000、好ましくは、約50000〜75000である、少なくとも1つの高分子量の非架橋性のPVAと、Mが25000〜50000、好ましくは、30000〜50000である、少なくとも1つの低分子量の非架橋性のPVAとを含む。
【0104】
2つ以上の異なる非架橋性のPVAの場合、組成物中のそれらの総量は、優先度を含み前述のとおりである。非架橋性のPVAの低分子量と高分子量との重量比は、広範囲で変動してよいが、例えば、1:1〜5:1、好ましくは、1:1〜4:1、及び特に1:1〜3:1である。
【0105】
非架橋性のPVAとポリエチレングリコール(PEG)との混合物を本発明で使用することができる。PVA及びPEGは、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面湿潤性を高めるための相乗効果を有する場合がある。
【0106】
あるクラスのモノマーが、銀イオンを銀ナノ粒子に還元することができることが見出された。このようなモノマーの例は、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジ(低級アルキル)アクリルアミド、ジ(低級アルキル)メタクリルアミド、(低級アリル)アクリルアミド、(低級アリル)メタクリルアミド、ヒドロキシル−置換(低級アルキル)アクリルアミド、ヒドロキシル−置換(低級アルキル)メタクリルアミド、及びN−ビニルラクタムを含むが、これらに限定されない。
【0107】
N−ビニルラクタムの例は、N−ビニル−2−ピロリドン(NVP)、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−3−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−3−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−3−メチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−4−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−メチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−5−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−5−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−5,5−ジメチル−2−ピロリドン、N−ビニル−3,3,5−トリメチル−2−ピロリドン、N−ビニル−5−メチル−5−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−3,4,5−トリメチル−3−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−6−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−6−エチル−2−ピペリドン、N−ビニル−3,5−ジメチル−2−ピペリドン、N−ビニル−4,4−ジメチル−2−ピペリドン、N−ビニル−7−メチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−7−エチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−3,5−ジメチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−4,6−ジメチル−2−カプロラクタム及びN−ビニル−3,5,7−トリメチル−2−カプロラクタムを含むが、これらに限定されない。
【0108】
当業者は、どのモノマーが銀イオンを銀ナノ粒子に還元することができるかをどう判断するべきかが分かるであろう。好ましい実施態様においては、銀イオンをナノ粒子に還元することができるモノマーは、N−ジメチルアクリルアミド(DMA)又はN−ビニル−2−ピロリドン(NVP)である。
【0109】
任意の適切な生体適合性還元剤を本発明で使用することができる。生体適合性還元剤の例は、アスコルビン酸酸及びそれらの生体適合性の塩、及びシトラートの生体適合性の塩を含むが、これらに限定されない。
【0110】
任意の公知の適切な可溶性銀塩を、本発明で使用することができる。好ましくは、硝酸銀を使用する。
【0111】
親水性の単位を有するシロキサン含有マクロマーが、銀ナノ粒子を安定させることができることが見出された。Agナノ粒子及び親水性の単位を有するシロキサン含有マクロマーを含有する重合性分散体が、比較的長期間、例えば、少なくとも2時間安定であることができる。安定な重合性分散体は、Agナノ粒子が均等に分散している抗菌性眼用デバイスの製造において、より柔軟性を提供することができる。親水性及び/又は疎水性のモノマーを添加することも、おそらくは、それらの相乗効果により、Agナノ粒子を有する重合性分散体の安定性を改善することが理解されるであろう。例えば、レンズ配合物から調製した重合性分散体は、レンズ配合物の各成分から調製した分散体より安定である。
【0112】
本発明の好ましい実施態様において、重合性流体組成物は、Agナノ粒子を安定化させる安定剤を含む。「安定剤」は、ナノ粒子の調製用溶液中に存在し、得られたナノ粒子を安定化させることができる材料を意味する。重合性分散体に存在する少量の安定剤が、重合性分散体の安定性を大幅に改善することができる。本発明によれば、安定剤は、ポリアニオン性材料、ポリカチオン性材料、又はポリビニルピロリドン(PVP)又はn−ビニルピロリドンと1つ以上のビニルモノマーとのコポリマーであることができる。
【0113】
本発明で使用されるポリカチオン性材料は、通常、ポリマー鎖に沿って複数の正荷電基を有するように当分野で公知の任意の材料を含むことができる。例えば、このようなポリカチオン性材料の適切な例は、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(ビニルベンジルトリメチルアミン)(PVBT)、ポリアニリン(PAN又はPANI)(p型ドープされた)[又はスルホン化ポリアニリン]、ポリピロール(PPY)(p型ドープされた)、及びポリ(ピリジニウムアセチレン)を含むことができるが、これらに限定されない。
【0114】
本発明で使用されるポリアニオン性材料は、通常、ポリマー鎖に沿って複数の負荷電基を有するように当分野で公知の任意の材料を含むことができる。例えば、適切なポリアニオン性材料は、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(チオフェン−3−酢酸)(PTAA)、ポリ(4−スチレンスルホン酸)(PSS)、ナトリウムポリ(スチレンスルホナート)(SPS)及びポリ(ナトリウムスチレンスルホナート)(PSSS)を含むことができるが、これらに限定されない。
【0115】
前述のリストは、代表的なものであり、明らかに網羅的なものではない。当業者は、本明細書の開示及び教示に鑑み、合成ポリマー、バイオポリマーまたは変性バイオポリマーを含む多くの他の有用なポリイオン材料を選択することが可能であろう。
【0116】
好ましい安定剤は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリビニルピロリドン(分子量最大1,500,000)、ビニルピロリドンと、1つ以上のビニルモノマーとのコポリマー(分子量最大1,500,000)、アミノ基及び/又は硫黄含有基又はそれらの混合物を有するポリイオン材料である。
【0117】
硫黄含有基の例は、チオール、スルホニル、スルホン酸、アルキルスルフィド、アルキルジスルフィド、置換又は非置換フェニルジスルフィド、チオフェニル、チオ尿素、チオエーテル、チアゾリル、チアゾリニル等を含むがそれらに限定されない。
【0118】
重合性流体組成物中の安定剤の量は、1重量%未満、好ましくは、0.5重量%未満、より好ましくは、0.1重量%未満である。
【0119】
あるいは、安定剤は、可溶性銀塩(例えば、AgNO及びPAAの溶液)と一緒に重合性流体組成物に添加することもできる。安定剤と銀ナノ粒子との濃度比は、好ましくは、0.1対10、より好ましくは、0.5対5である。
【0120】
安定剤が、−COOH含有ポリマー(例えば、PAA)、アミノ含有ポリカチオン性ポリマー、又は硫黄含有ポリイオン性ポリマーである場合、安定剤の濃度は、そのレベルの下で、銀イオンがAgナノ粒子に還元されうるレベルに設定すべきであることを指摘する必要がある。安定剤の濃度が高すぎると、銀イオンのAgナノ粒子への還元が極めて遅くなるか、又はほぼ抑制されてしまう。
【0121】
本発明によれば、「Agナノ粒子含有重合性分散体を塩化物で処理すること」は、塩化物イオンを重合性分散体に導入することを意味する。
【0122】
1つの実施態様においては、Agナノ粒子含有重合性分散体を塩化物で処理することは、(1)固体形態のNaClのような塩化物塩を、直接分散体に添加する工程;(2)分散体中のAgナノ粒子の黄色を帯びた色が実質的に削減されるのに十分な時間、混合物を十分に混合する工程;及び(3)残存する固体の塩化物塩を除去する工程によって行われる。このような方法(固体の塩化物塩を分散体に直接添加することによる)は、その溶媒が、有機溶媒、有機溶媒の混合物、又は水と有機溶媒との混合物である分散体に特に適切である。このような塩化物処理は、分散体中の成分濃度を著しく変化させない点で有利である。固体塩化物塩の除去は、ろ過、又は任意の公知の方法で行うことができる。
【0123】
他の実施態様において、塩化物の処理は、(1)濃NaCl溶液又は濃塩化水素を分散体に添加する工程、及び(2)分散体中のAgナノ粒子の黄色を帯びた色が実質的に削減されるのに十分な時間、混合物を十分に混合する工程によって行うことができる。
【0124】
本発明の医療デバイスは、重合性流体分散体から、専門家が熟知している医療デバイス製造用の型における重合反応によりそれ自体公知の方法で製造することができる。例えば、眼用レンズは、一般に、本発明のポリマー組成物を十分に混合し、適切な量の混合物をレンズ型キャビティに適用し、そして重合を開始させることにより製造されうる。市販の光開始剤、例えば、DAROCUR(登録商標)1173(チバ・ガイギー社から入手可能な光開始剤)のような光開始剤は、ポリマー組成物に、重合の開始を補助する目的で添加されてよい。重合は、化学線照射又は熱により開始されてよい。重合開始の好ましい方法は、化学線照射の適用である。
【0125】
コンタクトレンズのキャスト成形のための型セクション形成の方法は、一般に当業者に周知である。本発明のプロセスは、如何なる特定の型成形法にも限定されない。実際、本発明においては、任意の型成形法を、本発明で使用することができる。しかし、説明の便宜上、以下の説明は、コンタクトレンズの型成形の1つの具体例として提供される。
【0126】
コンタクトレンズ製造用のレンズ型は、当業者に周知であり、例えば、キャスト成形又はスピンキャスティングにおいて使用される。例えば、型(キャスト成形用)は、一般に、少なくとも2つの型セクション(又は部分)又は型半、すなわち第1及び第2の型半を含む。第1の型半は、第1の成形(又は、光学)面を画定し、第2の型半は、第2の成形(又は、光学)面を画定する。第1及び第2の型半は、レンズ形成キャビティが、第1の成形面及び第2の成形面の間に形成されるように互いを受けるように構成される。型半の成形面は、型のキャビティ形成面であり、レンズ形成材料と直接接触する。
【0127】
コンタクトレンズをキャスト成形するための型セクションの製造方法は、一般に当分野の通常の知識を有する者に周知である。本発明のプロセスは、如何なる特定の型成形法にも限定されない。実際、本発明においては、任意の型成形法を使用することができる。第1及び第2の型半は、射出成形又は旋盤加工のような様々な技術で形成することができる。型半の適切な成形プロセスは、米国特許第4,444,711号(Schad);第4,460,534号(Boehm et al);第5,843,346号(Morrill);及び第5,894,002号(Boneberger et al)(これらも参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0128】
型製造用として当分野で公知の材料はほぼすべて、眼用レンズ調製用の型製造用に使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、PMMA、環状オレフィンコポリマー(例:Ticona GmbH of Frankfurt, Germany and Summit, New JerseyのTopas(登録商標)COC;Zeon Chemicals LP, Louisville, KY のZeonex(登録商標)及びZeonor(登録商標))のようなポリマー材料等を使用することができる。石英ガラス及びサファイアのような紫外線を透過させる他の材料を使用することができる。
【0129】
好ましい実施態様において、流体分散体中の重合性成分が、主としてプレポリマーからなる場合、再使用可能な型を使用することができる。石英又はガラス製の再使用可能な型の例は、全文が参照により組み込まれる米国特許第6,627,124号に開示されているそれらである。この局面においては、流体分散体が、2つの型半からなる型に注入されるが、2つの型半は、互いに接触せず、それらの間に配された環状構造の細い隙間を有する。隙間は、型キャビティに繋がっているので、過剰のプレポリマー組成物は、隙間に流れ込むことができる。再使用可能な石英、ガラス、サファイア型は、レンズの製造後、水又は適切な溶媒を用いて、素早く効果的に洗浄し、未反応材料及び他の残留物を取り除き、そして風乾させることができるので、1回のみ使用可能なポリプロピレン型に代えて、これらの型を使用することができる。再使用可能な型もまた、例えば、Ticona GmbH of Frankfurt, Germany and Summit, New JerseyのTopas(登録商標)COC grade 8007-S10(エチレン及びノルボルネンの清澄な非晶質コポリマー)、Zeon Chemicals LP, Louisville, KYのZeonex(登録商標)及びZeonor(登録商標)のような、環状オレフィンコポリマー製とすることもできる。型半が再使用可能であるため、極めて高い精度及び再現性を有する型を得るための製造時において、比較的高い費用を支出することができる。型半は、レンズが製造される領域、すなわちキャビティ又は実際の型面において互いに接触しないので、接触による損傷がない。これが、型の高い耐用性を保証し、それが、特に、製造されるコンタクトレンズの高い再現性及びレンズ設計の高い正確さを保証する。
【0130】
流体が型に分配されると、それが重合され、コンタクトレンズが製造される。架橋及び/又は重合は、UV照射、電離放射(例:ガンマ又はX線照射)のような化学線によって、型内で開始されてよい。本発明のプレポリマーが、流体組成物中の重合性成分である場合、流体組成物を含有する型を、空間的に制限された化学線に暴露し、プレポリマーを架橋することができる。
【0131】
本発明は、他の局面において、抗菌性医療デバイス、好ましくは、抗菌性眼用デバイス、より好ましくは、抗菌性コンタクトレンズ、さらに好ましくは、抗菌性連続装用レンズの製造方法を提供する。本方法は、ポリマー材料の存在下で溶液中の銀イオンを還元し、ポリマー材料により安定化されたAgナノ粒子を得る工程;Agナノ粒子を含有する溶液を塩化物で処理する工程;塩化物で処理した溶液を凍結乾燥して、凍結乾燥したAgナノ粒子を得る工程;所望量の凍結乾燥したAgナノ粒子を、シリコーン含有のモノマー又はマクロマー又はプレポリマーを含む重合性流体組成物中に直接分散させ、重合性分散体を形成する工程;ある量の重合性分散体を医療デバイス製造用の型に投入する工程;及び重合性分散体を型内で重合させ、銀ナノ粒子含有抗菌性医療デバイスを形成する工程を含む。
【0132】
任意の公知の適切な方法を、Agナノ粒子の調製に使用することができる。例えば、銀イオン又は銀塩を、安定剤の存在下で、溶液中で、還元剤(例えば、NaBH、アスコルビン酸、クエン酸塩等)により又は加熱もしくはUV照射により還元して、Agナノ粒子を形成することができる。当業者は、Agナノ粒子を調製するための適切な公知の方法をどのように選択すべきかが分かるであろう。溶液を次に、上記の方法に従い塩化物で処理する。その後、安定化したAgナノ粒子を含有する調製分散体を凍結乾燥(フリーズドライ)させることができる。
【0133】
本発明のこの局面によれば、重合性流体組成物は、溶液又は溶媒を含まない液体又は60℃未満の溶融物であることができる。
【0134】
本発明のこの局面において、上記のシロキサン含有マクロマー、シロキサン含有モノマー、親水性モノマー、疎水性モノマー、溶媒、Agナノ粒子を安定化させるための安定剤、可溶性銀塩、架橋剤、開始剤、UV吸収剤、阻害剤、充填剤、及び視認性のためのティント剤を、シロキサン含有マクロマー及び可溶性銀塩を含む重合性流体組成物の調製に使用することができる。ソフトコンタクトレンズの配合物(lotrafilcon A, lotrafilcon B, etafilcon A, genfilcon A, lenefilcon A, polymacon, acquafilcon A, and balafilcon等)も使用できる。
【0135】
本発明の上記の方法の任意の1つを使用して、抗菌性医療デバイス、特に(本発明の他の局面である)抗菌性眼用デバイスを調製することができる。
【0136】
成形したコンタクトレンズは、さらに1つ以上の追加のプロセス、例えば、水和、抽出、表面処理等に付し、その後、パッケージ溶液を各々含有するレンズパッケージに入れ、レンズ1枚をその中に有する密閉したレンズパッケージを殺菌する。パッケージ溶液は、潤滑剤及び/又は粘度調整剤、例えば、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン(最大分子量1,500,000)、ビニルピロリドンと他のビニルモノマーとのコポリマー(最大分子量1,500,000)等を含むことができる。
【0137】
本発明は、さらなる局面において、抗菌性眼用デバイス、好ましくは、抗菌性コンタクトレンズ、さらに好ましくは、抗菌性の連続装用コンタクトレンズを提供する。本発明の抗菌性医療デバイスは、ポリマーマトリックスを含み、ポリマーマトリックスは、ポリシロキサン単位と、そこに分散された塩化物で処理したAgナノ粒子と、そこに分散された染料又は顔料とを含むが、医療デバイスは、実質的にAgナノ粒子の黄色を帯びた色がなく、眼用デバイスは、酸素透過性(Dk)が、約40barrerよりも大きく、イオン透過性が、イオノフラックス拡散係数が、約1.0×10−4mm2/minよりも大きいことを特徴とし、十分に水和された場合、含水量が少なくとも15重量パーセントであり、抗菌性医療デバイスが、生存微生物の少なくとも5倍削減(80%抑制)、好ましくは、少なくとも1−logの削減(90%抑制)、より好ましくは、少なくとも2−logの削減(99%抑制)を示す。
【0138】
上記の重合性流体組成物を、本発明の任意の方法による抗菌性眼用デバイスの調製に使用することができる。本発明の眼用レンズは、好ましくは、所望の長期の接触期間、眼球組織及び眼液と生体適合性である表面を有する。
【0139】
1つの好ましい実施態様において、本発明の眼用レンズは、上記に定義したように、少なくとも部分的に、コア材料よりも親水性及び撥油性である表面で囲まれている。親水性の表面は、レンズと眼球組織及び涙液との適合性を高める上で望ましい。表面親水性が増加するにつれて、脂質およびタンパク性物質の望ましくない吸引および付着は概して減少する。表面親水性以外の要因(例えば、免疫学的応答)が存在し、レンズ上の堆積物の蓄積に寄与する場合がある。脂質及びタンパク性物質の堆積は、レンズの曇りを生じさせ、それによって視覚の明瞭さが減じる。タンパク性の堆積物も、他の問題、例えば、目への刺激を起こす。長期の連続又は断続的な装用後、レンズは、洗浄、すなわち、堆積物の除去のために、目から外す必要がある。したがって、表面親水性の増大と、付随する生体物質の堆積の減少は、装用時間の延長を可能にする。
【0140】
材料の表面に親水性を付与するための、当該技術で開示されている種々の方法がある。例えば、レンズは、親水性ポリマー材料の層でコーティングされてよい。あるいは、親水性の基をレンズ表面にグラフトして、それにより親水性の材料の単層を製造してよい。コーティング又はグラフトプロセスは、レンズをプラズマガスに暴露する又はレンズを適切な条件下、モノマー溶液に浸漬することを非制限的に含む数多くのプロセスで実行することができる。
【0141】
他の一連のレンズの表面特性の改質の方法は、レンズを形成するための重合に先立つ処理を含む。例えば、型を、プラズマ(すなわち、イオン化したガス)、静電荷、放射線照射その他のエネルギー源で処理し、それによって、型表面に直接隣接したプレポリマー化混合物が、プレポリマー化混合物のコアと組成において異なるようにしてよい。
【0142】
好適な表面処理プロセスの種類は、イオン化したガスを、物品の表面に適用するプラズマプロセスである。プラズマガス及び加工条件は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,312,575号及び第4,632,844号に、より詳細に記載されている。プラズマガスは、好ましくは、低級アルカン及び窒素、酸素又は不活性ガスの混合物である。
【0143】
好ましい実施態様において、眼用レンズは、(a)C1−6アルカンと(b)窒素、アルゴン、酸素、及びそれらの混合物からなる群より選択されるガスとの混合物の存在下で、プラズマ処理に付される。より好ましい実施態様においては、レンズは、メタンと空気との混合物の存在下で、プラズマ処理される。
【0144】
他の好ましい実施態様において、眼用レンズは、レンズ上にLbLコーティングを有する。眼用デバイス上のLbLコーティングの形成は、例えば、(参照により全文が本明細書に組み込まれる)米国特許連番第6,451,871号及び(参照により全文が本明細書に組み込まれる)係属中の米国特許出願(出願番号09/774942、09/775104、60/409、950)に記載されているように、数多くの方法で実施されうる。あるコーティングプロセスの具体例は、単なる浸漬コーティング及び浸漬すすぎ工程を含む。別のコーティングプロセスの具体例は、単なる噴霧コーティング及び噴霧すすぎ工程を含む。しかし、数多くの代替方法は、噴霧及び浸漬による、コーティング及びすすぎ工程の様々な組み合わせを含んでおり、これは当業者の設計事項であってよい。
【0145】
前述の開示は、当業者に本発明の実施を可能とするであろう。具体的実施態様及びそれらの利点を読者がよりよく理解するために、以下の実施例を参照することを推奨する。
【0146】
実施例1
特記しない限り、全ての化学物質は、入手したままで用いた。酸素及びイオン透過性の測定は、抽出及びプラズマコーティング後のレンズで行った。プラズマコーティングしていないレンズを、引張試験及び含水量測定に使用した。
【0147】
酸素透過性の測定
レンズの酸素透過性及びレンズ材料の酸素伝達性は、共に参照により全文が本明細書に組み込まれる米国特許第5,760,100号及びan article by Winterton et al., (The Cornea: Transactions of the World Congress on the Cornea 111 , H. D. Cavanagh Ed., Raven Press: New York 1988, pp273-280)に記載のものと同様の方法により決定される。Dk1000装置(Applied Design and Development Co., Norcross, GAから入手可)、又は類似の分析機器を用いて、酸素フラックス(J)を、ウェットセル(すなわち、ガス流を約100%の相対湿度に維持)中、34℃で測定した。既知の酸素百分率(例えば、21%)を有する空気流を、レンズの片面に約10〜20cm3/minの速度で通し、一方、窒素流をレンズの反対側に約10〜20cm3/minの速度で通した。サンプルを、試験媒体(すなわち、生理食塩水又は蒸留水)中、測定前に、所定の試験温度で、少なくとも30分、しかし45分を超えない時間で平衡化させた。オーバーレイヤーとして用いる任意の試験媒体を、測定前に、所定の試験温度で、少なくとも30分、しかし45分を超えない時間で平衡化させた。攪拌モーター速度は1200±50rpmに設定し、ステッピングモーターコントローラで表示された設定400±15に対応させた。系を囲む大気圧Pmeasuredを測定した。試験用に暴露された領域のレンズの厚さ(t)は、MitotoyaマイクロメータVL−50又は類似の機器で約10箇所測定し、測定値を平均することにより決定した。窒素流中の酸素濃度(すなわち、レンズを通って拡散する酸素)を、DK1000装置を用いて測定した。レンズ材料の見掛けの酸素透過度Dkappを、次の式から求めた。
Dkapp=Jt/(Poxygen
(式中、J=酸素フラックス[マイクロリットルO2/cm2−分]
oxygen=(Pmeasured−Pwater蒸気)=(空気流中の%O2)[mmHg]=空気流中の酸素分圧
measured=大気圧(mmHg)
water蒸気=34℃で0mmHg(ドライセル中)(mmHg)
water蒸気=34℃で40mmHg(ウェットセル中)(mmHg)
t=試験を受けた範囲のレンズの平均厚さ(mm)
ここでDkappは、barrer単位で表される)
【0148】
材料の酸素伝達率(Dk/t)は、酸素透過度(Dkapp)をレンズの平均厚さ(t)で割ることにより計算することができる。
【0149】
イオン透過率の測定
レンズのイオン透過率は、(全文が参照により本明細書に組み込まれる)米国特許第5,760,100号に記載されている手順に従って測定した。次の実施例で報告されるイオン透過率の値は、対照材料としてのレンズ材料、Alsaconに関する相対イオノフラックス拡散係数(D/Dref)である。Alsaconのイオノフラックス拡散係数は、0.314×10-3mm2/分である。
【0150】
抗菌活性アッセイ
本発明のレンズにおける銀ナノ粒子を有する又は有しない幾つかのコンタクトレンズの抗菌活性も、Staphylococcus aureus AlCC #6538に対しアッセイした。S. aureus #6538のバクテリア細胞を凍結乾燥させた状態で保管した。バクテリアは、Tryptic Soy agar slant上で、37℃で18時間増殖させた。細胞を遠心分離により収集し、無菌のDelbecoリン酸緩衝食塩水で2回洗浄した。バクテリア細胞を1/20強度 Tryptic Soy Broth (TSB)に懸濁させ、10cfuのOptical Densityに調整した。細胞懸濁液は、1/20強度TSB中10cfu/mlまで順次希釈した。
【0151】
銀をその中に有するレンズを、対照レンズ(例えば、銀を含まないレンズ)に対して再び試験した。約5×10〜1×10cfu/mlのS. aureus #6538 200μlを、各レンズ表面に置いた。25℃で24時間インキュベートした。レンズから50μlを吸引し、順次希釈し、寒天板にプレートアウトし、各レンズの微生物負荷を測定した。24時、コロニー数を数えた。
【0152】
実施例2
マクロマーの合成
平均分子量1030g/mol、末端基滴定によるヒドロキシル基1.96meq/gを有するペルフルオロポリエーテルFomblin(登録商標)ZDOL(Ausimont S.p.A, Milan製)51.5g(50mmol)を、ジブチルスズジラウラート50mgと共に、3つ口フラスコに投入した。フラスコ内容物を攪拌しながら約20mbarまで排気し、続いてアルゴンで減圧を解除した。この操作を2回繰り返した。続いて、アルゴン下に保った蒸留したてのイソホロンジイソシアナート22.2g(0.1mol)を、アルゴンの向流中に加えた。水浴で冷却することにより、フラスコ内の温度を30℃未満に維持した。室温で一晩攪拌後、反応は完結した。イソシアナート滴定により、NCO含量1.40meq/g(理論値:1.35meq/g)を得た。
【0153】
平均分子量2000g/mol、滴定によるヒドロキシル基1.00meq/gを有するα,ω−ヒドロキシプロピル末端ポリジメチルシロキサンKF−6001(Shin-Etsu製)202gを、フラスコに投入した。フラスコ内容物を約0.1mbarまで排気し、減圧を解除した。この操作を2回繰り返した。アルゴン下に保った蒸留したてのトルエン202mlに脱気したシロキサンを溶解し、ジブチルスズジラウラート(DBTDL)100mgを加えた。溶液を完全にホモジナイズした後、イソホロンジイソシアナート(IPDI)と反応したペルフルオロポリエーテルの全てをアルゴン下で加えた。室温で一晩攪拌後、反応は完結した。溶剤を、高真空下、室温で除去した。ミクロ滴定は、ヒドロキシル基0.36meq/g(理論値0.37meq/g)を示した。2−イソシアナトエチルメタクリラート(IEM)13.78g(88.9mmol)を、アルゴン下、α,σ−ヒドロキシプロピル末端ポリシロキサン−ペルフルオロポリエーテル−ポリシロキサン3ブロックコポリマー(化学量論平均で3−ブロックコポリマー、しかし他のブロック長も存在する)247gに加えた。混合物を室温で3日間攪拌した。その結果、ミクロ滴定では、もはやイソシアナト基を全く示さなかった(検出限界0.01meq/g)。メタクリル基0.34meq/gが見出された(理論値0.34meq/g)。
【0154】
このようにして製造したマクロマーは、完全に無色透明であった。これは、遮光して、空気中、室温で、数ヶ月間、分子量に全く変化なく保管することができる。
【0155】
実施例3
Agナノ粒子及び銅フタロシアニン(CuP)粒子含有レンズ形成配合物(重合性分散体)を、以下の成分を適量混合することにより調製した:実施例2で調製したマクロマー約37.5重量%、CuP(銅フタロシアニン)約60ppm、TRIS約15重量%、DMA約22.5重量%、エタノール約24.8重量%及びDarocure(登録商標)1173約0.2重量%。TRIS中のCuP顔料ストック分散体(より濃度の高いCuP−TRIS懸濁液を、TRISを用いてより低濃度のCuPに希釈することにより調製した)を適量加えることにより、CuP粒子を配合物に加えた。
【0156】
共有の同時係属米国特許出願公開第2005/0013842A1号に記載されているように、適切な銀源又は銀塩及び安定剤を使用することにより、銀粒子を配合物中で形成した。例えば、銀塩(例えば硝酸銀)、安定剤(例えば、アクリル酸)をDMA中に適量加えることにより、銀原液(SSS)を調製した。次いで、適量のSSSを次に、青色顔料を有し、好ましくは、最終AgNO濃度が少なくとも0.003%、又はさらに好ましくは、少なくとも0.01%である配合物に加えた。配合物を、撹拌又はローリングにより十分に混合し、室温で一晩保管し、青から緑がかった青への色変化により示されたように、銀ナノ粒子を形成させた。すべての銀塩が使用可能ではないことに留意されたい。例えば、酢酸銀は、安定剤を含有するDMA溶液における溶解度が低く、したがって、好適な銀源ではない。
【0157】
実施例4
塩化物処理
A.塩化ナトリウム(NaCl)の固体0.068gを、実施例3で調製した配合物100gに加えた。白色の塩化ナトリウムの固体が、バイアルの底に認められた。配合物のカラー・アピアランスを、経時観察した。色の変化は、固体NaClの添加後少なくとも1時間は、観察されなかった。一晩(〜18時間以上)経過後、配合物の色は、緑がかった青から青に変化した。配合物を次に濾過し、NaClの固体を回収した。回収されたNaClの固体を、次に水10mlに溶解し、原子吸着(AA)により銀の濃度を分析した。銀約2.2ppmが検出された。実施例3で調製した配合物を基準として使用して、X-Rite SP64 Spectrophotometerを用いて、CMC公差によっても、色の変化を観察した。CMC公差は、the Society of Dyers and Colorists in Great Britainのthe Color Measurement Committee(色測定委員会)により開発され、1988年に公有財産となった。測定値は、測定試料と任意に選ばれた基準試料とのCMCの差である。CMCの差が小さければ、測定試料の色は比較対象の基準試料により近い。
【0158】
NaClの添加後約1時間まで、配合物のx-rite測定値(CMC公差)は、8.5であった。一晩後、測定値は、最大14まで増加した。2日後、測定値は、最大約13.8であった。さらに11日後は、13.4であり、31日目に再度測定すると、13.6であった。x-rite測定値の変化は、NaCl添加後の色の変化と一致した。
【0159】
B.塩化ナトリウム(NaCl)固体0.34gを、実施例3で調製した配合物100gに加えた。白色の塩化ナトリウムの固体が、バイアルの底に認められた。配合物のカラー・アピアランスを、経時観察した。色の変化は、NaClの添加後少なくとも1時間は観察されなかった。一晩(〜18時間以上)後、配合物の色は、緑がかった青から青に変化した。配合物を次に濾過し、NaClの固体を回収した。固体を次に水10mlに溶解し、原子吸着(AA)により銀濃度を分析した。銀約3.9ppmが検出された。色の変化は、また、実施例3で調製した配合物を基準として用い、x-rite測定によっても観察した。NaClの添加後約1時間まで、配合物のx-rite測定値(CMC公差)は、8.3であった。一晩経過後、測定値は、最大14まで増加した。2日後は、最大約13.1であった。さらに11日後は、13.6であり、31日目に再度測定すると、13.1であった。x-rite測定値の変化は、NaCl添加後の色の変化と一致した。
【0160】
C.塩化水素(HCl)含有エタノール溶液を調製するために、濃塩酸(水中の36.4%のHCl)0.76gを、エタノール9.24gに加えた。HCl含有エタノール0.5gを、実施例3で調製した配合物100gに加えた。配合物のカラー・アピアランスを、経時観察した。緑がかった青から青への色の変化が、HClエタノール溶液添加後〜1時間に観察された。色の変化は、また、実施例3で調製した配合物を基準として用い、x-rite測定によっても観察した。HCl添加後、約1時間までに、配合物のx-rite測定値は、15.2であった。一晩後は、最大16と測定された。2日後は、最大約15.4であった。さらに11日後は、15.7であった。31日目に再度測定すると、最大15であった。x-rite測定値の変化は、NaCl添加後の色の変化と一致した。
【0161】
実施例5
レンズ調製
A.実施例4Aにおける配合物のある量を、各ポリプロピレン型に投入し、UV光下で6分間硬化して、コンタクトレンズを形成した。レンズを次に、イソプロピルアルコール(IPA)中に抽出し、次に容器に詰め、リン酸緩衝食塩水中でオートクレーブした。機器中性子放射化分析(INAA)による測定でのレンズの銀濃度は、約135ppmであった。
B.実施例4Bにおける配合物のある量を、各ポリプロピレン型に投入し、UV光下で6分間硬化して、コンタクトレンズを形成した。レンズを次に、イソプロピルアルコール(IPA)中に抽出し、次に容器に詰め、リン酸緩衝食塩水中でオートクレーブした。機器中性子放射化分析(INAA)による測定でのレンズの銀濃度は、約133ppmであった。
C.実施例4Cにおける配合物のある量を、各ポリプロピレン型に投入し、UV光下で6分間硬化して、コンタクトレンズを形成した。レンズを次に、イソプロピルアルコール(IPA)中に抽出し、次に容器に詰め、リン酸緩衝食塩水中でオートクレーブした。機器中性子放射化分析(INAA)による測定でのレンズの銀濃度は、約121ppmであった。
D.実施例4Cにおける配合物を脱気し、配合物から酸素を除去した。脱気した配合物のある量を、窒素グローブボックスの各ポリプロピレン型に投入し、UV光下で6分間硬化して、コンタクトレンズを形成した。レンズを次に、イソプロピルアルコール(IPA)中に抽出し、次に容器に詰め、リン酸緩衝食塩水中でオートクレーブした。機器中性子放射化分析(INAA)による測定でのレンズの平均銀濃度は、約80ppmであった。
【0162】
実施例5Cにおけるレンズは、脱気していない配合物から製造され、イオン透過性(IP)1.0未満を有した。実施例5Dにおけるレンズは、脱気した配合物から製造され、1.0を超えるイオン透過性(IP)を有した。実施例10のレンズにおけるより低い銀濃度は、IPがより高いレンズほど、IPAでの抽出及び水和の工程における銀の損失がより大きいことを示した。
【0163】
実施例6
抗菌活性アッセイ
実施例5A、5B、及び5Cで調製した銀ナノ粒子を有するコンタクトレンズの、S. aureus #6538に対する抗菌活性を、実施例1記載の手順に従ってアッセイした。すべてのレンズが、実施例5A、5B、及び5Cそれぞれの3ロットに関し、対照レンズに比較して、生菌数の少なくとも98.0%、98.1%及び98.9%の抑制によって特徴づけられる抗菌活性を示した。
【0164】
実施例7
配合物における銀濃度及びろ過の影響
実施例4Cに記載のとおり、配合物を調製した。次に、配合物を、5マイクロ薄膜フィルターを用いて濾過した。機器中性子放射化分析(INAA)による測定では、濾過しなかった配合物の銀濃度は、約154ppmであった。ろ過後、配合物の銀濃度は、約104ppmであった。配合物中の銀濃度を維持することに関して、ろ過は好適ではない。ろ過後、配合物を脱気して、配合物から酸素を除去した。脱気銀配合物の銀濃度は、約108ppmと測定された。
【0165】
実施例8
異なる配合物の粒径及び銀濃度
実施例4Cに記載のものと類似の一連の配合物を、以下の2通り:
(1)銀対塩化物(Ag/CI)比を変化させることによって
(2)(実施例4Cにおけるように、濃縮された水性の塩化水素をエタノールに添加する代わりに)塩化水素を含有するが水を含有しないエタノールを使用することによって調製した。
【0166】
これらの配合物の一滴をカバーガラス・スライド上に載せ、高倍率光学顕微鏡を用いて配合物の粒子を調べた。すべての配合物に関して、ある程度の粒子凝集が観察された。表1に記載のとおり、1000x未満で観察した場合、個々の粒子2〜7個の粒子の凝集が観察された。30データポイントまでの平均の見掛け粒径も、表示した。好適なAg/CI比は、1:1〜1:6である。
【0167】
【表1】
【0168】
実施例9
エタノール中の塩化水素の代わりに、他の化合物、例えば、ヨウ化水素酸(HI)、リン酸(HPO)、シュウ酸(HOOCCOOH)を試験した。前述のように、配合物の色は、HCIの添加後、青みがかった緑から青に変化した。しかし、リン酸及びシュウ酸の添加後、配合物は、最小限の色の変化を有したように見えた。HIの添加後、配合物の色は、青に変化した。しかし、より長い効果時間(例えば60分)では、HI含有配合物配合物を硬化してレンズにすることができたものの、他の配合物に対してと同様の通常の硬化時間(6分間)では、HI含有配合物は、硬化せず、レンズを形成しなかった。
【0169】
実施例10
実施例4Cに記載のようにエタノール中の塩化水素を使用する代わりに、塩化水素をまず、少量のDMAに溶解した。2つの配合物を、次に、塩化水素/DMA溶液を、SSSの前又は後のいずれかで加えた以外、実施例4Cに記載の手順に従って調製した。粒径分析器の超音波処理機能を作動させずに、粒径分析器Horiba LA-920で測定したところ、平均粒径は、HC1/DMAをSSSの後に加えた場合(配合物10b)は、約2ミクロンであったのに対して、HCI/DMAをSSSの前に加えた場合(配合物10a)は、〜3ミクロンであった。
【0170】
配合物中の酸素を真空脱気によって除去した。配合物のある量を、各ポリプロピレン型に投入し、UV光下で6分間硬化し、コンタクトレンズを形成した。レンズを次にイソプロピルアルコール(IPA)中で抽出し、次に容器に詰め、リン酸緩衝食塩水中でオートクレーブした。レンズにおける粒径を、高倍率光学顕微鏡(例えばX500又はX1000)を用いて測定した。配合物10aから製造されたレンズに関しては、測定平均粒径は約4ミクロンであった。そして配合物10bから製造されたレンズに関しては、約2.5ミクロンであった。機器中性子放射化分析(INAA)で測定したところ、配合物10bからのレンズの銀濃度が44ppmであったのに対して、配合物10aからのレンズの銀濃度は、約173ppmであった。明らかに、手順又はHCI/DMA添加の順序が、最終的なレンズ特性に影響した。
【0171】
実施例11
この実施例では、実施例4Cに記載のように塩化水素を使用する代わりに、還元剤を使用した。実験で使用した還元剤は、ボラン−ジメチルアミン錯体(BDC)であった。実施例10同様、BDCをSSSの前(配合物11a)又は後(配合物11b)のいずれかで加えた以外、2つの配合物を次に実施例4Cに記載の手順に従って調製した。粒径分析器の超音波処理機能を作動させずに、粒径分析器Horiba LA-920で測定したところ、平均粒径は、BDCをSSSの後に加えた場合(配合物11b)は、約2ミクロンであったのに対して、BDCをSSSの前に加えた場合(配合物11a)は、〜1.8ミクロンであった。
【0172】
配合物中の酸素を真空脱気によって除去した。配合物のある量を、各ポリプロピレン型に投入し、UV光下で6分間硬化し、コンタクトレンズを形成した。レンズを次にイソプロピルアルコール(IPA)中で抽出し、次に容器に詰め、リン酸緩衝食塩水中でオートクレーブした。レンズにおける粒径を、高倍率光学顕微鏡(例えばX500又はX1000)を用いて測定した。配合物11aから製造されたレンズに関しては、測定平均粒径は約1.6ミクロンであった。そして配合物11bから製造されたレンズに関しては、約2.2ミクロンであった。機器中性子放射化分析(INAA)で測定したところ、配合物11bからのレンズの銀濃度が132ppmであったのに対して、配合物11aからのレンズの銀濃度は、約134ppmであった。BDC添加の順序は、最終的なレンズ特性にほとんど影響しなかった。
【0173】
BDCの他に、使用できる他の還元剤の例は、アスコルビン酸(又はビタミンC)である。しかし、還元剤のすべてが配合物中で使用できるわけではないことを指摘することが重要である。例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)は、銀イオンを銀ナノ粒子に還元する還元剤として、公開されている文献で広く使用されている、有名な還元剤であるが、DMAの激しい重合を引き起こすため、この場合は使用できない。
【0174】
実施例12
BDC及びHCIの両方を、同一の配合物に加えることができる。一例として、配合物を、SSSを加える前にBDCを加えて調製した。次にDMA中のHCIを、SSS加えた後で加えた。実施例10及び11と同様の手順及び試験方法を用いて、配合物中の平均粒径は、約5.7ミクロンと測定された。レンズの平均粒径は、約4.3ミクロン(粒径分析器の超音波処理機能を作動させず)と測定された。レンズ中の銀濃度は、85ppmと測定された。この実験では、実施例10及び11でのデータに比べ、粒径が増しているが、BDC及びHCIの手順及び添加順序を制御すること、及び/又は、銀対BDC、もしくは銀対HCIの相対比を制御することによって、粒径及び銀濃度は、操作が可能である。
【0175】
実施例13
実施例10、11及び12のレンズのインビトロ抗菌活性
銀ナノ粒子を有するコンタクトレンズのS. aureus #6538に対する抗菌活性を、実施例6に記載の手順に従ってアッセイした。すべてのレンズが、対照レンズと比較して、生菌数の少なくとも99.8%〜99.9%の抑制によって特徴づけられる抗菌活性を示した。
【0176】
実施例14
レンズからのリン酸緩衝食塩水(PBS)への銀の放出。レンズをPBS中で一定の時間インキュベートした後、PBS中の銀濃度を測定することによって、レンズからの銀の放出を調べた。
詳細な手順は、以下のとおりである:レンズを容器から取り出し、パッケージの食塩水をAg分析用に取り置いた。レンズを、無菌性ブランク食塩水溶液ですすぎ、Kim Wipesで拭って乾かした。レンズを1枚ずつプラスチックバイアルに入れ、1.5ml無菌食塩水溶液を加えた。バイアルを回転させ、凹面側が確実に上に開いているようにした。レンズが入ったバイアルを35±2℃のオーブンに24時間入れた。24時間の最後に、食塩水をバイアルから除去し、Ag分析用に取り置いた。1.5mlの新しい食塩水をレンズに加え、バイアルをオーブンに戻した。食塩水の交換工程を所望の日数繰り返した。銀のPBSへの放出又はPBS中の銀濃度を、次にグラファイト炉原子吸光分析(GFAA)で分析した。
【0177】
BDC又はHCIを加えない配合物から製造した対照の銀レンズと共に、実施例10、11及び12のレンズの銀の放出について調べた。最長4日間の放出調査に関する表2に示すとおり、HCIを、特にSSSの前に加えると、レンズからの銀の放出は、著しく増大した。増大した銀の放出は、より優れた抗菌活性につながるであろうが、その一方で、レンズ製造時の湿潤プロセス工程中の銀の損失の制御も重要となる。
【0178】
【表2】
【0179】
特定の用語、デバイス、及び方法を用いて本発明の種々の実施態様を記載したが、このような記載は例示のためだけにすぎない。用いた用語は、限定の用語ではなく説明の用語である。請求項に記載する本発明の要旨又は範囲から逸脱することなく、当業者によって変更及び改変がなされうることが理解されよう。さらに、種々の実施態様の局面は、全体的又は部分的に置き換えることができることが理解されるべきである。したがって、添付の請求項の要旨及び範囲は、本明細書に含まれる好ましいバージョンの記載に限定されるべきではない。