特許第5654911号(P5654911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5654911リチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5654911
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20141218BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20141218BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20141218BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20141218BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20141218BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20141218BHJP
   C22C 9/05 20060101ALI20141218BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20141218BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20141218BHJP
【FI】
   H01M4/66 A
   C22C9/00
   C22C9/02
   C22C9/04
   C22C9/06
   C22C9/10
   C22C9/05
   C22F1/08 A
   !C22F1/00 622
   !C22F1/00 606
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-58926(P2011-58926)
(22)【出願日】2011年3月17日
(65)【公開番号】特開2012-195192(P2012-195192A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2013年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】513097296
【氏名又は名称】株式会社SHカッパープロダクツ
(72)【発明者】
【氏名】沢井 祥束
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 富生
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−328159(JP,A)
【文献】 特開2004−060018(JP,A)
【文献】 特開平11−339811(JP,A)
【文献】 特開2009−185364(JP,A)
【文献】 特開2008−024995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64− 4/84
C22C 9/00− 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを主成分とし、Cr、Zr、Sn、Mg、Co、Ni、Zn、Ti、Si、B、Bi、Sb、及びMnからなる元素群の中から選択される1種以上の添加元素と不可避不純物とを含有する銅合金組成を有し、
X線回折2θ/θ測定によって得られる銅結晶の{220}Cu方向の回折ピーク強度I{220}と{200}Cu方向の回折ピーク強度I{200}との比がI{220}/I{200}>2であり、
前記添加元素の総量は0.1〜0.5重量%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔。
【請求項2】
200℃以下の温度で1分〜20時間加熱した後に、X線回折2θ/θ測定によって得られる銅結晶の{220}Cu方向の回折ピーク強度I{220}と{200}Cu方向の回折ピーク強度I{200}との比がI{220}/I{200}>2であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔。
【請求項3】
20μm以下の厚さを有することを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の集電体に好適な樹脂密着性を有するリチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高い電圧が得られ、エネルギー密度も高いことから、モバイルパソコンや携帯端末などの電子機器のバッテリーとして利用されている。更にはハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用電池としても、研究開発が活発に行われている。
【0003】
このリチウムイオン二次電池は、電解質中のリチウムイオンがセパレータによって絶縁された正極板と負極板の間を移動することによって充放電を繰り返す仕組みを基本としている。この仕組みを高いサイクル特性で実現できる電解質、セパレータ、正極板、及び負極板の材料を見出すことが重要である。
【0004】
リチウムイオン二次電池に使用する負極板としては、銅箔を材料とする負極集電体と、その集電体上に形成される負極活物質層とによって構成されるのが一般的である。この負極集電体を構成する銅箔には、鋳造で製造した肉厚の素条に圧延加工を施して製造する圧延銅箔や銅イオンを含む電解液から金属銅を電析させて製造する電解銅箔が使用されている。この圧延銅箔には、圧延加工と加熱処理を組み合わせることによって、銅箔や銅合金箔の銅結晶組織を制御できるという特徴がある。
【0005】
銅箔の表面に形成される負極活物質層は、100μm程度の膜厚に形成される。この負極活物質層は、人工黒鉛、天然黒鉛、あるいはコークス等のカーボン粒をポリ弗化ビニリデン(PVdF)等のバインダ及び導電助剤と一緒にN−メチル2−ピロリドン(NMP)等の溶剤に混合してスラリ状にした後、これを銅箔の表面に塗布し、乾燥固化させることによって得られる。
【0006】
リチウムイオン二次電池では、充放電を繰り返すと、リチウムの吸蔵・放出に伴うカーボン粒の膨張・収縮によってカーボンが銅箔から剥離しやすく、電極間の短絡電池容量の低下やサイクル特性の劣化等を招くおそれがある。このため、負極集電体用銅箔としては、負極活物質層を構成するカーボンとの高い密着性が要求されている。カーボンとの密着性は、スラリ中のバインダの割合を多くすれば、ある程度向上できるが、電極の導電性が低下してしまうため、有効な手段ではない。
【0007】
そこで、この問題を解決するため、銅箔表面に凹凸を形成する粗化処理を施すことが行われている。この粗化処理の方法としては、ブラスト処理、粗面ロールによる圧延、機械研磨、電解研磨、化学研磨、及び電着粒のめっき等の方法が知られており、これらの中でも、特に電着粒のめっきが多用されている。
【0008】
しかしながら、不均一で粗度が高い粗化粒子は逆に投錨効果が弱くなり、負極集電体と負極活物質との間に高い密着性が得られなくなる。そこで、低粗度性の粗化粒子で、銅箔表面上に複雑な構造を持たせるため、複数回のめっき処理やリフロー処理を施す手法が取られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】2009−87561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1記載の手法は、高コストであるため、リチウムイオン二次電池の高価格化につながり、電子機器や電気自動車などへのリチウムイオン二次電池の一般普及の妨げになる。
【0011】
本発明の目的は、安定して効率よく、樹脂との密着性を向上させたリチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本件発明者等は上記目的を達成すべく熱意検討を行ったところ、圧延銅箔における圧延面の結晶粒の方位・配向状態と銅箔の樹脂密着性との間に、ある特定の相関関係を利用すれば、例えば銅箔表面に電着粒のめっき等の粗化処理を施すことなく、銅箔の樹脂密着性が高くなることが判明し、予想外の成果を挙げることができ、実用上に問題が生じない優れた製品が形成できることを知った。
【0013】
[1]即ち、本発明は、Cuを主成分とし、Cr、Zr、Sn、Mg、Ag、Fe、Co、Ni、Zn、Ti、Si、B、Bi、Sb、及びMnからなる元素群の中から選択される1種以上の添加元素と不可避不純物とを含有する銅合金組成を有し、X線回折2θ/θ測定によって得られる銅結晶の{220}Cu方向の回折ピーク強度I{220}と{200}Cu方向の回折ピーク強度I{200}との比がI{220}/I{200}>2であることを特徴とするリチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔にある。
【0014】
[2]上記[1]記載の発明にあって、200℃以下の温度で1分〜20時間加熱した後に、X線回折2θ/θ測定によって得られる銅結晶の{220}Cu方向の回折ピーク強度I{220}と{200}Cu方向の回折ピーク強度I{200}との比がI{220}/I{200}>2であることを特徴とする。
【0015】
[3]上記[1]又は[2]記載の発明にあって、前記添加元素の総量が0.5重量%以下であることを特徴とする。
【0016】
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の発明にあって、リチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔が20μm以下の厚さを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂との密着性が良好であり、安定して効率的に実現できるリチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の好適な実施の形態に係るリチウムイオン二次電池集電体用銅合金箔の製造工程の流れを示すフロー図である。
図2】X線回折における入射X線、検出器、試料、及び走査軸の関係を示す概略図である。
図3】{200}Cu面配向時の圧延面の原子配列を模式的に示す図である。
図4】{220}Cu面配向時の圧延面の原子配列を模式的に示す図である。
図5】ピール試験片の作製手順の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0020】
(圧延銅箔の成分)
この実施の形態における圧延銅箔は、リチウムイオン二次電池集電体用の材料として好適に用いられる。この圧延銅箔は、Cu(銅)を母相として、Cr(クロム)、Zr(ジルコニウム)、Sn(スズ)、Mg(マグネシウム)、Ag(銀)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Zn(亜鉛)、Ti(チタン)、Si(ケイ素)、B(ホウ素)、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)、及びMn(マンガン)からなる元素群の中から選択される1種以上の添加元素を含有し、残部が不可避的不純物からなる構成を基本組成成分としている。Cuとしては、タフピッチ銅や無酸素銅を用いることができる。
【0021】
(添加元素のより好ましい上限値について)
Cr、Zr、Sn、Mg、Ag、Fe、Co、Ni、Zn、Ti、Si、B、Bi、Sb、及びMnからなる元素群の中から選択される1種以上の添加元素の総量は0.5重量%以下であることが好適である。この添加元素の総量を0.5重量%よりも多く添加しても、それ以上耐熱性を向上させる効果がない。
【0022】
さらに、0.5重量%より多く添加した場合、抵抗は上昇するため、この銅箔を用いて製造されたリチウムイオン二次電池の放電レート特性などのリチウムイオン二次電池の特性の劣化を招くおそれがある。
【0023】
(添加元素のより好ましい下限値について)
これらの添加元素のうち、Cr、Zr、Sn、Ag、Ti、及びSbの含有量を0.02重量%以上に設定することが望ましい。これらの添加元素の含有量が0.02重量%よりも少なくなると、十分な耐熱性が得られなくなる。
【0024】
一方、Mg、Fe、Co、Ni、Zn、Si、B、Bi、及びMnの含有量にあっては、0.1重量%以上に設定することが更に望ましい。これらの添加元素が、0.1重量%より少ない場合は、耐熱性が低下するおそれがあるためである。
【0025】
圧延銅箔の厚さは20μm以下であることが好ましい。この圧延銅箔の厚さが20μmを超える圧延銅箔を用いて製造されたリチウムイオン二次電池は、圧延銅箔の占める体積率が大きくなり、負極活物質を十分に充填できない。そのため、体積エネルギー密度の低下を招くおそれがあり、好ましくない。
【0026】
(圧延銅箔の製造方法)
図1を参照すると、図1には、この実施の形態に係る圧延銅箔を製造するための典型的な製造工程が示されている。この圧延銅箔を製造する工程は、溶製工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、中間焼鈍工程、生地焼鈍工程、最終冷間圧延工程(仕上げ圧延工程)、及び負極板製造工程の一連の工程(ステップ100〜106、以下、ステップを「S」と称する。)を有する。これらの工程で順番に処理を行うことで初期の目的とする圧延銅箔が効果的に得られる。
【0027】
(溶製工程)
この溶製工程では、Cuと、0.5重量%以下のCr、Zr、Sn、Mg、Ag、Fe、Co、Ni、Zn、Ti、Si、B、Bi、Sb、及びMnからなる元素群の中から選択される1種以上の添加元素とを溶解炉を用いて溶製し、銅合金素材となるインゴット(鋳塊)を製造する(図1のS100)。
【0028】
(熱間圧延工程)
この熱間圧延工程においては、インゴットを所定の温度で熱間圧延を施して板材を形成する(図1のS101)。
【0029】
(冷間圧延工程、中間焼鈍工程、及び生地焼鈍工程)
この冷間圧延工程、及び中間焼鈍工程においては、熱間圧延後の板材に、冷間圧延と、冷間圧延による加工硬化を緩和する中間焼鈍とを適宜繰り返し行う(図1のS102〜S104)。これにより、「生地」と呼ばれる銅条を製造する。この生地焼鈍工程においては、生地焼鈍工程以前の加工ひずみが充分に緩和されることが望ましい。
【0030】
(最終冷間圧延工程)
この最終冷間圧延工程では、焼鈍した生地に対して仕上げ圧延工程を施す(図1のS105)。これにより、所定厚さの圧延銅箔(仕上げ銅箔)が製造される。総加工度としては85%以上95%未満とすることが好ましい。これにより、従来の高加工度圧延銅箔に対して圧延工程の総パス数を低減できる。これに加えて、過度の加工硬化による圧延加工制御の困難性を回避できるとともに、製造設備への負荷低減と製造の低コスト化とに寄与できる。圧延銅箔における高い樹脂密着性と低コスト化とを両立することができる。
【0031】
(負極板製造工程)
最終冷間圧延工程後の圧延銅箔は、電着粒のめっき等の粗化処理を施すことなく、次の負極板の製造を行う。この負極板製造工程においては、例えば負極活物質塗布後の乾燥工程やリチウムイオン二次電池組み込み後の乾燥工程において、100〜200℃の熱処理が行われる(図1のS106)。
【0032】
上記圧延銅箔の製造方法においては、最終冷間圧延工程の直後、あるいはその後に200℃以下の温度で1分〜20時間加熱された状態において、X線回折2θ/θ測定によって得られる銅結晶の{220}Cu方向の回折ピーク強度I{220}と{200}Cu方向の回折ピーク強度I{200}との比(以下、「回折強度比」という。)がI{220}/I{200}>2の関係を有するように制御することが肝要である。ここで、I{220}及びI{200}は、圧延銅箔の圧延面における{220}結晶面及び{200}結晶面のX線回折強度である。
【0033】
上記最終冷間圧延工程において、85%以上95%未満の高加工度での冷間圧延を施すことで、最終冷間圧延工程直後の状態において、銅箔の圧延面で{220}Cu面の配向が強く、{200}Cu面の配向が弱くなり、回折強度比の上限は特に制限はないが、回折強度比I{220}/I{200}>2の関係が満たされる。更に好ましくは、回折強度比I{220}/I{200}>5の関係を満たすことが望ましい。この配向性は、θ−2θ法等のX線回折法等で求めることができる。
【0034】
図2を参照すると、図2にはX線回折における入射X線、検出器、試料、及び走査軸の関係が示されている。X線回折装置において、θ軸は一般的に試料軸と呼ばれている。入射X線に対して、試料1と検出器2とをθ軸で走査し、試料1の走査角をθ、検出器2の走査角を2θで走査する測定を2θ/θ測定という。この2θ/θ測定による回折ピークの強度によって、多結晶体である圧延銅箔の試料面(圧延面)において、どの結晶面が優勢であるのかを評価することができる。なお、銅の結晶構造は立方晶であることから、{200}Cu面と{220}Cu面とのなす角度は45°である。また、「{ }」は等価な面を表す。
【0035】
この圧延銅箔は、上述したように、Cr、Zr、Sn、Mg、Ag、Fe、Co、Ni、Zn、Ti、Si、B、Bi、Sb、及びMnからなる元素群の中から選択される1種以上の添加元素の総量を0.5重量%以下で添加することで耐熱性の向上が得られる。そのため、最終冷間圧延工程後に200℃以下の温度で1分〜20時間加熱された後の状態においても、{200}Cu方向への配向が起こりにくく、回折強度比I{220}/I{200}>2の関係が満たされる。
【0036】
最終冷間圧延工程において、圧延集合組織{220}Cu方向へのより強い配向を得ることにより、最終冷間圧延工程の直後、あるいはその後に200℃以下の温度で1分〜20時間加熱された状態においても、圧延面に{200}Cu方向への配向が起こりにくく、良好な樹脂密着性特性を有する圧延銅箔が安定して得られる。
【0037】
(高い樹脂密着性のメカニズムに関する考察)
圧延銅箔における圧延面の結晶粒の方位・配向状態によって、銅箔表面で見られる原子配列の状態が異なり、銅箔表面の原子間距離が変化する。{220}Cu面では、図3に示すように、ある方向とそれに垂直な方向に対して最近接間の距離で原子が配列することになる。一方、{200}Cu面では、図4に示すように、ある方向に対しては最近接間の距離、それに垂直な方向に対しては次近接間の距離で原子が配列することになる。
【0038】
銅箔表面に塗布された樹脂は、銅箔表面の原子と樹脂を構成する原子との問の原子間力、及び樹脂同士の分子間力によって決定される安定状態で銅箔表面上に固化されると考えられる。
【0039】
そこで、有機化合物である樹脂が有しているある特定の周期的な分子構造と銅箔表面の原子間距離とのマッチングを良くすることで、銅箔表面上に固化される樹脂の安定状態の安定性を更に向上させることができるようになり、銅箔の樹脂密着性を向上させることにつながったと考えられる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の更に具体的な実施の形態として、実施例及び比較例を挙げて詳細に説明する。なお、この実施例では、上記実施の形態である圧延銅箔の典型的な一例を挙げており、本発明は、これらの実施例及び比較例に限定されるものではないことは勿論である。
【0041】
実施例1〜15の圧延銅箔、及び比較例1〜4の圧延銅箔を電着粒のめっき等の粗化処理を行うことなく製造し、得られた圧延銅箔について比較と評価を行った。実施例1〜15、及び比較例1〜4における圧延銅箔の組成と、最終冷間圧延後の熱処理条件、X線回折強度比I{220}/I{200}、ピール強度、及び碁盤目試験の結果とを下記の表1にまとめて示す。
【0042】
密着性の評価方法としては、実施例1〜15の圧延銅箔、及び比較例1〜4の圧延銅箔に対して、バインダの樹脂溶媒として代表的なポリ弗化ビニリデン(PVdF)を塗布した後に乾燥させ、銅箔表面上にバインダを乾燥固化させたもの(以下、「バインダ塗布銅箔」と称する。)に対して、ピール試験と碁盤目試験とを行った。
【0043】
(圧延銅箔の製作)
無酸素銅を母材にして、下記の表1に示す合金成分の銅合金を溶製し、インゴットに鋳造した。このインゴットに熱間圧延を施した板材に対して、冷間圧延、及び生地焼鈍を順に施した後、85%以上95%未満の高加工度で最終冷間圧延を施した。これにより、厚さ10μmの圧延銅箔である実施例1〜15、及び比較例1〜4を得た。
【0044】
(圧延銅箔に対するX線回折)
圧延銅箔の圧延面に対するX線回折2θ/θ測定には、X線回折装置(Rigaku製、型式Ultima IV)を用いた。その測定結果を下記の表1にまとめて示す。
【0045】
(ピール試験)
図5にピール試験片の作製手順の一例を模式的に示す。バインダ膜3を塗布した銅箔(バインダ塗布銅箔)4を幅12.5mm×長さ80mmの短冊矩形状に切り、補強板5に短冊状のバインダ塗布銅箔4を接着した。強粘着力テープ6をバインダ塗布銅箔4の短冊の長さの半分に貼り付ける。強粘着力テープ6を引っ張ることで、バインダ塗布銅箔4からバインダ膜3の一部を引き剥がし、ピール試験片を得た。そして、引き剥がした部分のバインダ膜3を強粘着力テープ6と一緒にピール試験機のチャックに掴み、垂直方向に引き上げるときの速度を5mm/分としてピール強度を測定した。その測定結果を下記の表1にまとめて示す。
【0046】
(碁盤目試験)
実施例1〜15の圧延銅箔、及び比較例1〜4の圧延銅箔を試験片として、100個ずつ作製した。各試験片を100個ずつ使用して、JIS H 8602に準拠して、カッターでバインダ塗布銅箔4のバインダ膜3に25個(1mm角)のマス目を作り、そのバインダ膜3にセロハンテープを貼着して密着させた後、バインダ膜3を剥がし、剥がれなかった碁盤目の個数により接着性を評価した。ここでは、1マスも剥離しなかったものを○印とし、1〜5マスだけ剥離したものを△印とし、6マス以上剥離したものを×印として評価した。その評価結果を下記の表1にまとめて示す。
【0047】
下記の表1に示す結果から、実施例1〜15は、Cr、Zr、Sn、Mg、Ag、Fe、Co、Ni、Zn、Ti、Si、B、Bi、Sb、及びMnからなる元素群の中から選択される1種以上の添加元素を0.5重量%以下に設定し、最終冷間圧延工程の直後、あるいはその後に200℃以下の温度で1分〜20時間加熱された状態における回折強度比がI{220}/I{200}>2の関係を有するように制御することで、初期の目的とする圧延銅箔が安定して得られ、良好な樹脂密着性を実現できるということが分かった。
【0048】
一方、比較例1及び2のように、上記Crなどの添加元素を含有しない場合は、最終冷間圧延工程後に200℃以下の温度で1分〜20時間加熱された後の状態においても、{200}Cu方向への配向が起こり、回折強度比がI{220}/I{200}>2の関係を満たすことはできない。その結果、比較例1及び2においては、実施例1〜15に比べてピール強度が低下し、良好な樹脂密着性を実現することは困難であるということが理解できる。
【0049】
また、比較例3及び4のように、上記Crなどの添加元素を規定範囲内に含有させても、最終冷間圧延工程後における熱処理条件が初期の目的とする規定から外れると、回折強度比がI{220}/I{200}>2の関係を満たすことはできない。その結果、比較例3及び4では、実施例1〜15に比べてピール強度が低下し、良好な樹脂密着性を実現することは困難であるということが理解できる。
【0050】
従って、比較例1〜4のように、上記添加元素の含有量が規定範囲内にあっても、最終冷間圧延工程後における熱処理温度・時間の条件が初期の目的とする規定から外れると、樹脂との密着性が良好な圧延銅箔が安定して得られないということが分かった。
【0051】
以上より、本発明のリチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔は、樹脂との密着性が良好な銅箔であり、リチウムイオン電池の長寿命化と安全性に寄与し得るなどの産業上極めて有効な効果を有するということが実証された。
【0052】

以上の説明からも明らかなように、本発明のリチウムイオン二次電池集電体用圧延銅箔の代表的な構成例を上記実施の形態、実施例、及び図示例を挙げて説明したが、上記実施の形態、実施例、及び図示例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。上記実施の形態、実施例、及び図示例の中で説明した特徴の組合せの全てが本発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきであり、本発明の技術思想の範囲内において種々の構成が可能であることは勿論である。
【0053】
【表1】
【符号の説明】
【0054】
1…試料、2…検出器、3…バインダ膜、4…銅箔、5…補強板、6…強粘着力テープ
図1
図2
図3
図4
図5