(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記されたトラクタでは、外部の塵埃などが基部プレートとキャビンフロアの間隙を介して運転室内に進入することを防止する手段として、基部プレートの外周付近とキャビンフロアの貫通孔の縁部との間に比較的薄い板状のシール部材が介装されているため、パワーステアリングユニットによって生じる騒音や振動が、この板状のシール部材を介して運転室に伝わり易く、運転室内において十分な静寂性が得られ難くなる虞があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上に例示した従来技術によるトラクタが与える課題に鑑み、外部の塵埃などがキャビン内に進入することを抑制しつつ、運転室内の静寂性が得られ易い構成のトラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるトラクタの特徴構成は、
運転室と原動機室とが仕切り部材によって分離され、
前記運転室に設けられた操向ハンドルから延出された操向軸が前記原動機室側に配置されたパワーステアリングユニットに連結されており、
前記パワーステアリングユニットは、前記仕切り部材の一部をなす支持部材
の下面に防振部材
及びユニット取付用のボルトを介して取り付けられており、
前記操向軸を相対回転可能に支持するハンドル支持フレームは、前記支持部材の上面に支持フレーム連結用のボルトによって連結されており、
前記操向軸を挿通させるべく前記支持部材に形成された貫通孔の内周部に弾性シール部材が内嵌されており、
前記弾性シール部材は、前記内周部に支持された被支持部と、前記被支持部の一端から下方に突設されて前記パワーステアリングユニットの上面に弾性圧着される環状リップ部とを有
し、
前記ユニット取付用のボルトと前記支持フレーム連結用のボルトとは、前記支持部材の異なる箇所に装着されている点にある。
【0008】
上記の特徴構成によるトラクタでは、パワーステアリングユニットの上面と貫通孔との間に生じる環状の間隙が弾性シール部材の環状リップ部によって確実に密閉されるため、原動機室から運転室への塵埃の流入が防止され、騒音の進入も効果的に抑制される。
【0009】
尚、パワーステアリングユニットで発生する振動は、パワーステアリングユニットの取り付けに用いられている防振部材によって減衰されるので、支持部材を介して運転室に伝わり難くなっており、弾性シール部材は環状リップ部のみによってパワーステアリングユニットの上面と接しているので、弾性シール部材が防振部材による減衰作用を阻害し、パワーステアリングユニットの振動が弾性シール部材から支持部材を経て運転室に伝わる問題も生じ難く、運転室の静寂性も得られ易くなる。
【0010】
本発明の他の特徴構成は、
前記ハンドル支持フレームには、前記支持部材の上面に連結されるフランジ部が形成され、前記フランジ部には、前記防振部材との干渉を回避する貫通孔が形成されている点にある。
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
(トラクタの概略構成)
図1示すトラクタは、操向操作(操舵)自在な左右一対の前車輪1、1と、左右一対の後車輪2、2とを備え、車体前部にエンジン3を有した原動部Aが形成され、車体後部の左右の後輪フェンダー4、4の間に運転座席5を有した運転室Bが形成され、この運転室Bを取り囲むキャビンCを備えている。
【0014】
エンジン3は車体前部のボンネット6が形成する原動機室Dに収容されており、エンジン3からの駆動力を後車輪2、2に伝えるミッションケース8が車体の前後方向に沿う姿勢で備えられている。
このトラクタは、車体後端にロータリ耕耘装置を連結することで耕耘作業を行え、車体後端にプラウを連結することで鋤起こし作業を行えるように構成されたものである。
【0015】
キャビンCは、左右一対の柱状の前部縦フレーム14と、左右一対の柱状の後部縦フレーム15と、前部縦フレーム14及び後部縦フレーム15の上端どうしを連結し、上面視で矩形となる上部連結フレーム16とを備える。
また、上部連結フレーム16を覆う位置には板状のルーフ18が設けられ、左右一対の前部縦フレーム14と前側の上部連結フレーム16とで取り囲まれる位置にフロントガラス19が備えられ、左右一対の後部縦フレーム15と後側の上部連結フレーム16とで取り囲まれる位置にリアガラス20が備えられ、側部位置に開閉自在なガラス製のドア21が備えられている。
【0016】
このように、キャビンCは、ルーフ18で天井壁が構成され、フロントガラス19、リアガラス20、ドア21等により運転座席5を取り囲む壁部が構成され、これらにより運転空間を外界と隔絶する構造を有している。このトラクタでは、キャビンCに冷房と暖房とを行う空調システム22を備えており、ボンネット6の後部位置に遮音パネル24A,24B)を配置することで、ボンネット内部のエンジン3で発生したエンジン音等の騒音や、ボンネット内に流入した塵埃等が運転室Bへ進入する不都合を阻止して運転室B内に快適な作業環境を作り出している。
【0017】
(ステアリング装置の構成)
図2に示すように、運転室Bには操向ハンドル10が配置され、操向ハンドル10の前部位置から下方に向けてメータ用のパネル板11が配置され、運転室Bの下側にはフロアー12が形成されている。
このトラクタでは、ステアリング駆動系に全油圧式のパワーステアリングユニットPSを採用している。操向ハンドル10の操作に対応して、前車輪1を操向作動させるためのアクチュエータ(図示せず)に対して、パワーステアリングユニットPSから油圧ホースPHを介して作動油が供給される。
前述したように、運転室Bは遮音パネル24A,24B(仕切り部材の一例)によって原動機室Dと分離されているが、キャビンC内の静寂性を高める目的でパワーステアリングユニットPSは原動機室D側に配置されている。
【0018】
図3及び
図4に示すように、操向ハンドル10に対する回動操作をパワーステアリングユニットPSに伝えるためのステアリング装置STは、操向ハンドル10から下方に延出された上部操向シャフト30A,30B(操向軸の一例)と、下端部がパワーステアリングユニットPSに接続された第1下部操向シャフト33(操向軸の一例)及び第2下部操向シャフト34(操向軸の一例)と、上部操向シャフト30A,30Bと第1下部操向シャフト33との一体回転及び軸心に沿った相対移動を可能にする伸縮機構100とを有する。
【0019】
(伸縮機構の構成)
伸縮機構100は、上部操向シャフト30A,30Bの下半分を構成する筒状の上部操向シャフト30Bと、上部操向シャフト30Bの内部に支持された第2下部操向シャフト34とを備える。上部操向シャフト30Bの内周面と第2下部操向シャフト34の外周面とには、両部材どうしの軸心に沿った滑らかな摺動を許しつつ相対回転を止める一スプライン溝が形成されている。第2下部操向シャフト34の下端はユニバーサルジョイントUJを介して第1下部操向シャフト33の上端に連結されている。
【0020】
伸縮機構100に基づく上部操向シャフト30A,30Bの第1下部操向シャフト33に対する軸心に沿った相対移動を規制する規制機構40として、第2下部操向シャフト34を支持しつつ覆う内筒部材41と、上部操向シャフト30A,30Bを支持しつつ内筒部材41に外嵌される外筒部材42と、内筒部材41と外筒部材42との間の環状間隙に介装された筒状のブッシュ43と、外筒部材42の下端付近の位置で内筒部材41に外嵌配置された楔状筒体44とを備えている。
【0021】
内筒部材41の下端付近は、後述する第2ハンドル支持フレーム46Bに内嵌された状態で固定されており、外筒部材42は上部操向シャフト30Aの一部を回転自在に支持する円板状のカバー部材47によって閉じられている。
また、内筒部材41の下端付近の内部には、第2下部操向シャフト34の一部を回転自在に支持するベアリング41Aが設けられており、外筒部材42の下端付近からは一対の円筒部材42Pが軸心を挟んで互いに対峙するように径方向外側に延出している。
【0022】
楔状筒体44は、軸心に沿って一定の厚さを備えた下方の基端部と、基端部の上端から上方に延びた先端部とを有し、先端部の外周面は下方に向かって次第に厚さを増すテーパ状外周面とされている。
さらに、内筒部材41の外周面に作用する楔状筒体44の円筒状内周面の軸心は、外筒部材42の内周面に作用する楔状筒体44のテーパ状外周面の軸心に対して僅かに前方または後方に偏心した特殊な筒状とされている。
【0023】
楔状筒体44は、楔状筒体44の先端部が内筒部材41と外筒部材42との間に圧入された作用位置(
図3に実線で示す)と、先端部が内筒部材41と外筒部材42との間から抜き出された解除位置との間で移動可能に支持されており、規制機構40は、楔状筒体44を外筒部材42の下端側から内筒部材41と外筒部材42の間に上向きに圧入操作する規制操作具50を含む。
【0024】
規制操作具50は、外筒部材42の外周下端付近に枢支された一対の操作プレート部51と、操作プレート部51の一端から径方向外側に延出された操作ハンドル部52とを有する。
各操作プレート部51の上端付近には、外筒部材42の外周から径方向外向きに延出された円筒部材42Pを受け入れる挿通孔が形成されており、この挿通孔の下方には楔状筒体44の外周から径方向外向きに延出された被操作軸部44Pを受け入れる円弧状のカム面を備えた長孔が形成されている。
【0025】
長孔は、長孔の後端が前端に比べて、規制操作具50の枢支点から離間するように傾斜配置されることで、規制操作具50の揺動操作に基づいて楔状筒体44の被操作軸部44Pを操向ハンドル10の軸心に沿って移動操作するカム面を形成している。
【0026】
操作ハンドル部52で規制操作具50を上方のロック位置に移動させた状態では、楔状筒体44の被操作軸部44Pは長孔の前端に当接した状態となり、楔状筒体44の先端部が内筒部材41と外筒部材42との間に上向きに圧入された作用位置となる。
【0027】
前述したように、楔状筒体44の円筒状内周面の軸心はテーパ状外周面の軸心に対して偏心しているので、この作用位置では、外筒部材42の軸心を内筒部材41の軸心に対して前後方向に傾斜させる作用が生じ、筒状のブッシュ43が内筒部材41の外面と外筒部材42の内面との間で強く圧着される結果、内筒部材41と外筒部材42の間の相対移動、及び、操向ハンドル10の伸縮操作が不能となる。
【0028】
他方、規制操作具50を下方のロック解除位置に揺動操作すると、楔状筒体44の被操作軸部44Pは長孔の後端に当接した状態となり、楔状筒体44は先端部が内筒部材41と外筒部材42との間から抜き出された解除位置となるので、内筒部材41と外筒部材42の間の自由な相対移動がブッシュ43によって規制されない。したがって、操向ハンドル10を引き上げたり、押し下げたりすることで、操向ハンドル10の伸縮操作を行うことが可能となる。
【0029】
図4に示すように、内筒部材41の下端付近を支持している第2ハンドル支持フレーム46Bは、パワーステアリングユニットPSの上端と対向配置された第1ハンドル支持フレーム46Aの上端付近に、ユニバーサルジョイントUJの回動軸心と一致する横軸X3回りで回転自在に支持されている。
【0030】
(チルト機構の構成)
図3に示すように、第1ハンドル支持フレーム46Aと第2ハンドル支持フレーム46Bの間には、上部操向シャフト30A,30Bの第1下部操向シャフト33に対する角度を調整するためのチルト機構200が設けられている。
チルト機構200は、下方の第1ハンドル支持フレーム46Aから後下向きに延出されたチルトステー部45Bに下端を枢支させたオイルシリンダ25を有し、オイルシリンダ25の上端から延出された伸縮操作筒26の先端は、第2ハンドル支持フレーム46Bの後面に枢支されたチルト制御体27に固定されている。
【0031】
伸縮操作筒26の先端開口部からは、オイルシリンダ25の内部に配置された制御ピストンのオイルポート(不図示)を開閉操作する制御ロッド28が延出されており、チルト制御体27に枢支されたチルト制御ハンドル29によって制御ロッド28を押し下げると、オイルポートが開放されて、上部操向シャフト30A,30Bの第1下部操向シャフト33に対する角度、すなわち操向ハンドル10の軸心の角度を変更することが可能となる。
【0032】
(ステアリング装置とパワーステアリングユニットの取り付け構造)
図2及び
図4に示すように、操向ハンドル10の前方に配置された遮音パネル24Aと操向ハンドル10の下方に配置された遮音パネル24Bとの間には、原動機室D側に位置するパワーステアリングユニットPSへの入力手段としての第1下部操向シャフト33を挿通させるための開口部が形成されている。
【0033】
図4及び
図5に示すように、ステアリング装置STの第1ハンドル支持フレーム46Aは、同開口部を閉じるように配置されたベースプレート23の上面にボルト53で連結されており、パワーステアリングユニットPSは、ベースプレート23の下面に防振ゴムなどを介してボルトで連結されている。
【0034】
より具体的には、
図5に示すように、ベースプレート23の左右中央付近に、第1下部操向シャフト33を挿通させるための第1貫通孔23Aが形成されている。また、パワーステアリングユニットPSの上端から上方に延設された4本の取り付けボルト38を挿通させるための4つの第2貫通孔23Bが、第1貫通孔23Aを取り囲むように形成されている。さらに、ベースプレート23には、第1ハンドル支持フレーム46Aを取り付けるための4つの雌ネジ孔23Cが各第2貫通孔23Bの後寄りに形成されている。
【0035】
第1貫通孔23Aの内周部には環状シール部材39(弾性シール部材の一例)が内嵌され、4つの第2貫通孔23Bには上下にフランジを備えたゴム製のグロメット35(防振部材の一例)が内嵌されている。
【0036】
環状シール部材39は、円筒状の被支持部39Aと、被支持部39Aの上端から径方向外向きに延出された第1フランジ部39Bと、被支持部39Aの下端から径方向外向きに延出された第2フランジ部39Cと、第2フランジ部39Cの径方向外側端部から下方に突設された環状リップ部39Dとを備えている。
環状シール部材39を第1貫通孔23Aに内嵌すると、被支持部39Aの外周面が第1貫通孔23Aの内周部に支持され、第1フランジ部39Bの下面がベースプレート23の上面に当接し、第2フランジ部39Cの上面がベースプレート23の下面に当接した状態が得られる。
【0037】
グロメット35は円筒状の被支持部35Aと、被支持部35Aの上端から径方向外向きに延出された第1フランジ部35Bと、被支持部35Aの下端から径方向外向きに延出された第2フランジ部35Cとを備えている。
グロメット35を第2貫通孔23Bに内嵌すると、被支持部35Aの外周面が第2貫通孔23Bの内周部に支持され、第1フランジ部35Bの下面がベースプレート23の上面に当接し、第2フランジ部35Cの上面がベースプレート23の下面に当接した状態が得られる。
【0038】
パワーステアリングユニットPSの取り付けボルト38は、第2貫通孔23Bに内嵌されたグロメット35の挿通孔に下方から挿通され、グロメット35の第2フランジ部35CがパワーステアリングユニットPSの上面PSAとベースプレート23の下面とで圧着されるように、ワッシャ36とナット37によって締め付け固定されている。この締め付けは、グロメット35の挿通孔に係入されているカラー35Kの上下の端面がワッシャ36の下面とベースプレート23の上面に接する状態を基準として行われる。
【0039】
上記の締め付け固定が完了すると、グロメット35の第2フランジ部35Cが所定の厚さに縮められ、且つ、
図4に示すように、環状シール部材39の環状リップ部39Dの下端部の局部のみが全周に亘ってパワーステアリングユニットPSの上面PSAに弾性圧着される。環状リップ部39Dの下端部は、鋭角状の断面形状を備えることで、パワーステアリングユニットPSの上面PSAへの押付けに基づいて容易に弾性変形する変形容易部とされている。
【0040】
その結果、パワーステアリングユニットPSの上面PSAと第1貫通孔23Aとの間に形成される環状の間隙が、環状シール部材39の環状リップ部39Dによって確実に密閉されるため、原動機室Dから運転室Bへの塵埃の流入が防止され、騒音の進入も効果的に抑制される。
【0041】
また、パワーステアリングユニットPSの内部で発生する振動は、パワーステアリングユニットPSの取り付けに用いられているグロメット35によって減衰されることで、ベースプレート23を介して運転室Bに伝わり難くなっている。ここで、環状シール部材39は容易に弾性変形する状態の環状リップ部39Dの先端のみによってパワーステアリングユニットPSの上面PSAと接しているので、環状シール部材39がグロメット35による減衰作用を阻害し、振動が環状シール部材39からベースプレート23を経てキャビンCや運転室Bに伝わる虞はない。
【0042】
さらに、
図3、4に示すように、パワーステアリングユニットPSの振動の如何に関わらず、環状シール部材39は第1下部操向シャフト33と離間した状態が維持されるように、環状シール部材39の内周部と第1下部操向シャフト33との間には十分な径方向幅を備えた環状空間Sが形成されている。したがって、パワーステアリングユニットPSの振動が、第1下部操向シャフト33から環状シール部材39を介してベースプレート23、キャビンC、運転室Bなどに伝わる虞もない。
【0043】
尚、パワーステアリングユニットPSの上面PSAへの押付けに基づいて、環状リップ部39Dの下端部の先端付近が全周に亘って確実に一定の向きに変形するように、
図6に例示するように、環状リップ部39Dが、第2フランジ部39Cの径方向外側端部から真下向きではなく、例えば下方に向かって径方向内向きに延出する形状を備えた形態で実施することができる。尚、環状リップ部39Dは、その先端部がグロメット35などと干渉しない前提で、下方に向かって径方向外向きに延出する形状を備えてもよい。
【0044】
第1ハンドル支持フレーム46Aはその下方に形成された矩形のフランジ部45Aを介してベースプレート23の上面に連結されている。フランジ部45Aには、第1下部操向シャフト33を挿通させ、環状シール部材39及び4つのグロメット35との干渉を回避するための貫通孔45Hが形成されている。