特許第5654998号(P5654998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5654998
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 11/02 20060101AFI20141218BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20141218BHJP
   B01D 46/00 20060101ALI20141218BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   B28B11/02
   B01D39/20 D
   B01D46/00 302
   F01N3/02 301C
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-534138(P2011-534138)
(86)(22)【出願日】2010年8月23日
(86)【国際出願番号】JP2010064151
(87)【国際公開番号】WO2011040145
(87)【国際公開日】20110407
【審査請求日】2013年5月23日
(31)【優先権主張番号】特願2009-224184(P2009-224184)
(32)【優先日】2009年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100089347
【弁理士】
【氏名又は名称】木川 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩二
(72)【発明者】
【氏名】布目 卓也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 修平
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−040046(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/078716(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/20
B01D 46/00
B28B 11/02
C04B 41/85
F01N 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを備えるハニカム成形体の一方の端面にシートを貼り付け、前記シートにおける、目封止部を形成しようとするセルと重なる位置に孔を開けるマスキング工程と、
前記ハニカム成形体の前記シートが貼り付けられた側の端部を目封止材料が貯留された容器内に圧入して、前記ハニカム成形体の前記一方の端面から、前記シートに形成された孔を通じて、目封止材料を前記セル内に圧入する第1圧入工程と、
硬度60〜90度であり、板状であって、厚さ方向に直交する一の辺に沿って面取りされるとともに、前記面取りされた面に隣接する厚さ方向に平行な面である平坦面を有する形状の加圧部材を有する圧入治具を、前記面取りされた面である加圧面と前記シートとの間の角度を15〜50°とした状態で前記シートの表面に沿って移動させて、前記加圧面によって、前記シートと前記加圧面との間に供給された目封止材料を、前記シートに形成された孔を通じて、前記目封止材料が充填されたセル内に、前記目封止材料の上から圧入する第2圧入工程とを有し、
流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを備え、流体の入口側の端面における所定のセルの開口部と、流体の出口側の端面における残余のセルの開口部に目封止部を有し、前記目封止部の、外側を向く端面が平坦であり、前記目封止部が、直径0.3mm以上の気泡を有さず、前記目封止部の目封止深さの標準偏差を、前記目封止部の平均目封止深さで除した値が、0.15以下であるハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記平坦面の、前記加圧部材の厚さ方向における長さが、前記加圧部材の厚さの20〜40%の長さである請求項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記加圧部材の材質がゴム系である請求項又はに記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体及びその製造方法に関し、更に詳しくは、温度変化に起因する変形、割れ等を抑制することができるハニカム構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、ボイラー等の排気ガス中の微粒子や有害物質は、環境への影響を考慮して排気ガス中から除去する必要性が高まっている。特に、ディーゼルエンジンから排出される微粒子(以下、「PM」ということがある。)の除去に関する規制は、欧米、日本国内において強化される方向にある。そして、このようなPMを除去するための捕集フィルタとしてハニカム構造体が用いられている。
【0003】
このような目的で使用されるフィルタとしては、目封止ハニカム構造体を利用したハニカムフィルタを挙げることができる(例えば、特許文献1,2を参照)。ここで、目封止ハニカム構造体とは、流体(排ガス、浄化ガス)の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを備え、流体(排ガス)の入口側の端面における所定のセルの開口部と、流体(浄化ガス)の出口側の端面における残余のセルの開口部に目封止部を有するものである。このようなハニカムフィルタによれば、排ガスの入口側の端面からセル内に排ガスが流入し、セル内に流入した排ガスが隔壁を通過し、隔壁を通過した排ガス(浄化ガス)が排ガスの出口側の端面から排出される。そして、排ガスが隔壁を通過するときに、排ガス中に含有されるPMが隔壁により捕集され、排ガスが浄化ガスとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−40046号公報
【特許文献2】特開2006−231162号公報
【発明の概要】
【0005】
従来のハニカムフィルタには、目封止部の、ハニカムフィルタの外側を向く端面が窪んだものや、目封止部の内部に大きな気泡を不規則に有するものや、目封止部の目封止深さが不均一なものがあり、ハニカムフィルタを昇降温させたときに、熱応力が一部に集中し、ハニカムフィルタに破損等が生じることがあった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、温度変化に起因する割れ、変形等を抑制することができるハニカム構造体及びその製造方法を提供することを特徴とする。
【0007】
本発明によって以下のハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0012】
] 流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを備えるハニカム成形体の一方の端面にシートを貼り付け、前記シートにおける、目封止部を形成しようとするセルと重なる位置に孔を開けるマスキング工程と、前記ハニカム成形体の前記シートが貼り付けられた側の端部を目封止材料が貯留された容器内に圧入して、前記ハニカム成形体の前記一方の端面から、前記シートに形成された孔を通じて、目封止材料を前記セル内に圧入する第1圧入工程と、硬度60〜90度であり、板状であって、厚さ方向に直交する一の辺に沿って面取りされるとともに、前記面取りされた面に隣接する厚さ方向に平行な面である平坦面を有する形状の加圧部材を有する圧入治具を、前記面取りされた面である加圧面と前記シートとの間の角度を15〜50°とした状態で前記シートの表面に沿って移動させて、前記加圧面によって、前記シートと前記加圧面との間に供給された目封止材料を、前記シートに形成された孔を通じて、前記目封止材料が充填されたセル内に、前記目封止材料の上から圧入する第2圧入工程とを有し、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを備え、流体の入口側の端面における所定のセルの開口部と、流体の出口側の端面における残余のセルの開口部に目封止部を有し、前記目封止部の、外側を向く端面が平坦であり、前記目封止部が、直径0.3mm以上の気泡を有さず、前記目封止部の目封止深さの標準偏差を、前記目封止部の平均目封止深さで除した値が、0.15以下であるハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法。
【0013】
] 前記平坦面の、前記加圧部材の厚さ方向における長さが、前記加圧部材の厚さの20〜40%の長さである[]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0014】
] 前記加圧部材の材質がゴム系である[]又は[]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0015】
本発明のハニカム構造体によれば、目封止部の、外側(ハニカム構造体の外側)を向く端面が平坦であり、目封止部が、直径0.3mm以上の気泡を有さず、更に、目封止部の目封止深さの標準偏差を、目封止部の平均目封止深さで除した値が、0.15以下であるため、目封止部毎の熱容量、熱膨張(率)、ヤング率等のバラツキを極めて少なくすることができ、温度変化等が生じた時に、応力が集中する部分が生じるのを抑制することができ、温度変化等が生じた時のハニカム構造体の割れ、変形等の発生を抑制することができる。
【0016】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、ハニカム成形体のセル内に目封止材料を充填した後に、加圧面とシートとの間の角度を15〜50°とした状態で、加圧面が形成された加圧部材を有する圧入治具を、シートの表面に沿って移動させることにより、更に目封止材料を充填するため、目封止部の、外側(ハニカム構造体の外側)を向く端面が平坦であり、目封止部が、直径0.3mm以上の気泡を有さず、更に、目封止部の目封止深さの標準偏差を、目封止部の平均目封止深さで除した値が、0.15以下であるハニカム構造体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図1B】本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す平面図である。
図1C図1BのA−A’断面を示す模式図である。
図2A】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。
図2B】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。
図2C】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。
図2D】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。
図2E】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。
図2F】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態において、目封止材料が凹んだ場合のハニカム成形体の状態を示す模式図である。
図2G】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。
図3A】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。
図3B】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態で使用する、圧入治具の断面を示す模式図である。
図3C】本発明のハニカム構造体の製造方法の他の実施形態において、圧入治具をハニカム成形体の端面(シートの表面)に配置した状態を示す模式図である。
図4A】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に使用する製造装置における、第1圧入装置を模式的に示す側面図である。
図4B】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に使用する製造装置における、第1圧入装置を模式的に示す側面図である。
図5】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に使用する製造装置における、ハニカム成形体を反転させる装置(反転装置)を模式的に示す側面図である。
図6】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に使用する製造装置における、第2圧入装置を模式的に示す側面図である。
図7】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に使用する製造装置における、乾燥装置の断面を示す模式図である。
図8A】本発明のハニカム構造体の製造方法の他の実施形態によって製造されたハニカム構造体を模式的に示す平面図である。
図8B】本発明のハニカム構造体の製造方法の他の実施形態によって製造されたハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0019】
(1)ハニカム構造体:
図1A図1Cに示すように、本発明のハニカム構造体の一実施形態は、流体の流路となる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁3と最外周に位置する外周壁4とを備え、流体の入口側の端面11における所定のセル2の開口部と、流体の出口側の端面12における残余のセル2の開口部に目封止部5を有し、目封止部5の、外側を向く端面7が平坦であり、目封止部5が、直径0.3mm以上の気泡を有さず、目封止部5の目封止深さ8の標準偏差を、目封止部5の平均目封止深さで除した値が、0.15以下のものである。
【0020】
ここで、目封止部5の「外側を向く端面7」とは、図1Cに示すように、目封止部5の端面のうち、ハニカム構造体100の外側を向いている(外側に露出している)端面であり、外部空間に面している端面である。尚、目封止部5の端面のうち、「外側を向く端面7」とは反対側の端面は、図1Cに示す「内側を向く端面7a」である。また、「目封止部5の、外側を向く端面7が平坦」であるとは、目封止部5の外側を向く端面7に0.3mmより深い凹みが形成されておらず、且つ、0.3mm以上の突起も形成されていない状態を意味する。また、「気泡」とは、目封止部5内に形成された、直径0.3mm以上の空間を意味する。そして、気泡の有無は、目封止部5の、中心軸を含む平面で切断した断面を、顕微鏡で2倍に拡大して観察し、直径0.3mm以上の空間が形成されているか否かで判断する。気泡の直径は、「目封止部5の、目封止部5の中心軸を含む平面で切断した断面」における気泡の直径である。気泡の直径は、光学顕微鏡で2倍に拡大した状態で測定した値とする。「目封止部5の、目封止部5の中心軸を含む平面で切断した断面、における気泡の直径」とは、当該断面における気泡の面積から算出した相当径である。「気泡の面積から算出した相当径」とは、当該断面における気泡の面積と、同じ面積の「円形」の直径を意味する。また、「目封止部5の目封止深さ8の標準偏差」は、任意の20個の目封止部を選択したときの、当該20個の目封止部の目封止深さ8の標準偏差を意味する。また、「目封止部5の平均目封止深さ」は、上記「目封止部5の目封止深さ8の標準偏差」を算出した20個の目封止部についての、目封止深さの平均値を意味する。また、「目封止部5の深さ」とは、目封止部5の、セル2の延びる方向における長さを意味する。
【0021】
図1Aは、本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図1Bは、本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す平面図である。図1Cは、図1BのA−A’断面を示す模式図である。
【0022】
このように、本実施形態のハニカム構造体100は、目封止部5の、外側(ハニカム構造体の外側)を向く端面7が平坦であり、目封止部5が、直径0.3mm以上の気泡を有さず、更に、目封止部5の目封止深さ8の標準偏差を、目封止部5の平均目封止深さで除した値が、0.15以下であるため、目封止部毎の熱容量、熱膨張(率)、ヤング率等のバラツキを少なくすることができ、温度変化等が生じた時に、応力が集中する部分が生じるのを抑制することができ、温度変化等が生じた時の割れ、変形等の発生を抑制することができる。
【0023】
本実施形態のハニカム構造体においては、目封止部5の、外側を向く端面7が平坦である。これにより、ハニカム構造体の再生時等において、ハニカム構造体の端面における、「目封止部の端面の凹凸に基づく熱の分布(バラツキ)」が小さくなり、耐熱衝撃性が向上する。ハニカム構造体の目封止部5の、外側を向く端面7が平坦であるか否か(平坦性)の測定は、レーザー顕微鏡によって行う。
【0024】
本実施形態のハニカム構造体においては、目封止部5が、直径0.3mm以上の気泡を有さない。これにより、目封止部がほぼ中実構造になり、ハニカム構造体の再生時等において、ハニカム構造体の端面における、目封止部の熱の分布(バラツキ)が小さくなり、耐熱衝撃性が向上する。
【0025】
本実施形態のハニカム構造体においては、「目封止部5の目封止深さ8の標準偏差」を、「目封止部5の平均目封止深さ」で除した値が、0.15以下であり、0.03〜0.1であることが好ましい。これにより、ハニカム構造体の再生時等において、ハニカム構造体の端面における、目封止部の熱の分布(バラツキ)が小さくなり、耐熱衝撃性が向上する。また、目封止部の深さが全体的に均一になるため、隔壁のPM捕集面積を容易に制御することができ、ハニカム構造体のPM捕集性能の製品毎のバラツキを少なくすることができる。「目封止部5の目封止深さ8の標準偏差」を、「目封止部5の平均目封止深さ」で除した値が0.15より大きいと、ハニカム構造体の再生時等において、ハニカム構造体の端面における、目封止部の熱の分布(バラツキ)が大きくなり、耐熱衝撃性が低下する。また、目封止部の深さが全体的に不均一になるため、隔壁のPM捕集面積を容易に制御することができず、ハニカム構造体のPM捕集性能の製品毎のバラツキが大きくなる。
【0026】
本実施形態のハニカム構造体においては、目封止部5の深さ8が3〜12mmであることが好ましく、5〜10mmであることが更に好ましい。3mmより浅いと、目封止部5の強度が低下することがある。12mmより深いと、隔壁3の、PMを捕集する面積が小さくなることがある。
【0027】
本実施形態のハニカム構造体100は、流体の入口側の端面11における所定のセル2の開口部と、流体の出口側の端面12における残余のセルの開口部に目封止部5を有するものである。そして、上記所定のセルと上記残余のセルとが交互に配置され(交互に並び)、入口側の端面11及び出口側の端面12において、目封止部と「セルの開口部」とにより市松模様が形成されていることが好ましい。
【0028】
本実施形態のハニカム構造体においては、隔壁3及び目封止部5の材質が、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましい。また、隔壁3及び目封止部5の材質が、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましく、隔壁3及び目封止部5の材質が、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択される1種であることが特に好ましい。また、目封止部5の材質は隔壁3の材質と同じであることが好ましい。
【0029】
本実施形態のハニカム構造体100においては、隔壁3の平均細孔径は、10〜40μmであることが好ましく、10〜30μmであることが更に好ましい。10μmより小さいと、粒子状物質の堆積が少ない場合でも圧力損失が増大することがあり、40μmより大きいとハニカム構造体100が脆くなり欠落し易くなることがある。隔壁3の平均細孔径は、水銀ポロシメータで測定した値である。
【0030】
本実施形態のハニカム構造体100においては、隔壁3の気孔率は、30〜70%であることが好ましく、35〜60%であることが更に好ましい。30%より小さいと、圧力損失が増大することがあり、70%より大きいとハニカム構造体100が脆くなり欠落し易くなることがある。隔壁3の気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0031】
本実施形態のハニカム構造体100においては、隔壁3の厚さは、200〜300μmであることが好ましく、250〜300μmであることが更に好ましい。200μmより薄いと、ハニカム構造体100の強度が低下することがあり、300μmより厚いと、排ガスがセル内を通過するときの圧力損失が大きくなることがある。
【0032】
本実施形態のハニカム構造体100においては、セルの延びる方向に直交する断面のセル密度は、46.5〜62.0セル/cmであることが好ましい。46.5セル/cmより小さいと、ハニカム構造体100の強度が低下することがあり、62.0セル/cmより大きいと、圧力損失が高くなることがある。
【0033】
本実施形態のハニカム構造体100においては、セル形状は特に限定されないが、セルの延びる方向に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形、円形、又は楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。また、これらの組合せであってもよい。更に、ハニカム構造体100は、セルの延びる方向に直交する断面において、セルの断面積が全て同じであることが好ましいが、流入側の端面11側に目封止部5を有する所定のセル2の断面積(セルの延びる方向に直交する断面における断面積)が、流出側の端面12側に目封止部5を有する残余のセル2の断面積(セルの延びる方向に直交する断面における断面積)より小さいことも好ましい態様である。
【0034】
本実施形態のハニカム構造体100の外形は、特に限定されないが、円筒形、楕円筒形、「四角筒形等の底面多角形の筒形状」、底面不定形の筒形状等を挙げることができる。また、ハニカム構造体100の大きさは、特に限定されないが、ハニカム成形体の外径に対する、ハニカム成形体の軸方向における長さの割合(長さ/外径)が、0.1〜0.8となるように成形することが好ましく、0.1〜0.6となるように成形することが更に好ましい。また、ハニカム構造体100の形状が他の形状である場合、その底面の面積が、上記円筒形の場合の底面の面積と同じ範囲であることが好ましい。加えて、図1では全てのセルが正方形状で、かつ同サイズであるが、図8A図8Bに示すハニカム構造体200のように、PMの捕集容量を上げるため、隣り合うセルの大きさを変えた形状のハニカム構造体であってもよい。図8A図8Bに示すハニカム構造体200は、セルの延びる方向に直交する断面において、断面積の大きなセルと、断面積の小さなセルとが、交互に並ぶような構造である。図8Aは、本発明のハニカム構造体の他の実施形態を模式的に示す平面図である。図8Bは、本発明のハニカム構造体の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【0035】
本実施形態のハニカム構造体100においては、最外周に位置する外周壁は、成形時にハニカム成形体と一体的に形成させる成形一体壁であってもよいし、成形後に、ハニカム成形体の外周を研削して所定形状とし、セメント等で外周壁を形成するセメントコート壁であってもよい。外周壁が一体成形壁の場合、外周壁の厚さは、0.5〜1.5mmが好ましい。また、外周壁がセメントコート壁の場合も同様である。また、外周壁がセメントコート壁の場合、セメントコート壁の材質としては、共素地にガラス等のフラックス成分を加えた材料等を挙げることができる。
【0036】
本実施形態のハニカム構造体100は、用途に合わせて、隔壁3の表面に、粒子状物質を燃焼除去するための触媒、排ガス中のNO等の有害物質を除去するための触媒等が担持されていてもよい。
【0037】
(2)ハニカム構造体の製造方法:
次に、本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態について説明する。本発明のハニカム構造体の製造方法は、上記本発明のハニカム構造体を製造する方法であり、本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態によって、上記本発明のハニカム構造体の一実施形態を製造することができる。
【0038】
まず、セラミック原料を含有するセラミック成形原料を成形して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁と最外周に位置する外周壁とを備える筒状のハニカム成形体を成形する。
【0039】
セラミック成形原料に含有されるセラミック原料としては、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種を含むものであることが好ましく、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが更に好ましく、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択された1種であることが特に好ましい。尚、コージェライト化原料とは、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミックス原料であって、焼成されてコージェライトになるものである。
【0040】
また、このセラミック成形原料は、上記セラミック原料に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、造孔材、界面活性剤等を混合して調製することが好ましい。
【0041】
セラミック成形原料を成形する際には、まず成形原料を混練して坏土とし、得られた坏土をハニカム形状に成形することが好ましい。成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては特に制限はなく、押出成形、射出成形等の従来公知の成形方法を用いることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0042】
また、上記成形後に、得られたハニカム成形体を乾燥してもよい。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができ、なかでも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組合せて行うことが好ましい。また、乾燥条件としては、乾燥温度80〜150℃、乾燥時間5分〜2時間とすることが好ましい。
【0043】
次に、得られたハニカム成形体を焼成することが好ましい。尚、焼成は、ハニカム成形体に目封止部を形成した後に行ってもよい。
【0044】
また、ハニカム成形体を焼成(本焼成)する前には、そのハニカム成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、ハニカム成形体中の有機物(有機バインダ、分散剤、造孔材等)を除去することができればよい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0045】
ハニカム成形体の焼成(本焼成)は、仮焼した成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するために行われる。焼成条件(温度、時間、雰囲気)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1410〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、4〜6時間が好ましい。
【0046】
次に、ハニカム成形体の、流体の入口側の端面における所定のセル(第1のセル)の開口部と、流体の出口側の端面における残余のセル(第2のセル)の開口部に目封止材料を充填して、流体の入口側の端面における所定のセル(第1のセル)の開口部と、流体の出口側の端面における残余のセル(第2のセル)の開口部に目封止部を有する、上記本発明のハニカム構造体の一実施形態を得ることが好ましい。
【0047】
ハニカム成形体に目封止材料を充填する方法としては、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを備えるハニカム成形体の一方の端面にシートを貼り付け、シートにおける、目封止部を形成しようとするセルと重なる位置に孔を開けるマスキング工程と、ハニカム成形体のシートが貼り付けられた側の端部を目封止材料が貯留された容器内に圧入して、ハニカム成形体の一方の端面から、シートに形成された孔を通じて、目封止材料をセル内に圧入する第1圧入工程と、「板状であって、厚さ方向に直交する一の辺に沿って面取りされるとともに、面取りされた面に隣接する厚さ方向に平行な面である平坦面を有する形状の、加圧部材」を有する圧入治具を、シートの表面に沿って移動させて、面取りされた面である加圧面によって、シートと加圧面との間に供給された目封止材料を、シートに形成された孔を通じて、目封止材料が充填されたセル内に、目封止材料の上から圧入する第2圧入工程とを有する方法を挙げることができる。そして、一方の端面に目封止部を形成した後に、同様の方法で他方の端面にも目封止部を形成して、本発明のハニカム構造体を得る。
【0048】
以下に、ハニカム成形体に目封止材料を充填する方法を、更に詳細に説明する。
【0049】
まず、図2A図2Bに示すように、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを備えるハニカム成形体22の一方の端面にシート21を貼り付け、シート21における、目封止部を形成しようとするセルと重なる位置に孔28を開ける(マスキング工程)。図2Aは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。図2Bは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。
【0050】
シート21の材質としては、ポリエステル系樹脂が好ましく、PET(ポリエチレンテレフタレート)が更に好ましい。シート21の厚さは30〜70μmが好ましい。
【0051】
シート21に孔28を形成する際には、あらかじめ、ハニカム成形体22の端面を撮像装置により撮像して、目封止部を形成すべきセルと目封止部を形成すべきでないセルの、形状及び位置を特定し得る画像データを取得しておくことが好ましい。そして、取得しておいた画像データに基づき、レーザーによって、シートの「目封止部を形成すべきセルに重なる部分」に孔を開けることが好ましい。撮像装置としては、特に限定されないが、例えば、CCD(charge−coupled device)カメラ、CMOS(complementary metal oxide semiconductor)センサ等を挙げることができる。
【0052】
次に、図2Cに示すように、ハニカム成形体22の、シートが貼り付けられた側の端部を、目封止材料24が貯留された容器(目封止用容器)23内に圧入して、ハニカム成形体22の一方の端面から、シートに形成された孔を通じて、目封止材料24をセル25内に圧入する(第1圧入工程)。そして、目封止材料24をセル25内に圧入した後には、図2Dに示すように、ハニカム成形体を目封止用容器23から引き抜く。ハニカム成形体22の端部を目封止用容器23内に圧入する際には、ハニカム成形体22の端部を鉛直方向下向きにして、ハニカム成形体22を鉛直方向下向きに移動させることが好ましい。図2Cは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。図2Dは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。
【0053】
目封止材料としては、隔壁の材料として用いた材料を用いることが好ましいが、25℃における粘度が100〜300dPa・sとなるように分散媒の量を調整することが好ましい。
【0054】
第1圧入工程においては、図4A図4Bに示すような、目封止材料が貯留される目封止用容器23と、目封止材料が貯留された目封止用容器23内に、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを備えるハニカム成形体22の端部を圧入して、ハニカム成形体22の端面からセル内に目封止材料を充填する圧入手段26と、を備える第1圧入装置31を用いることが好ましい。図4Aは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に使用する製造装置における、第1圧入装置を模式的に示す側面図である。図4Bは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に使用する製造装置における、第1圧入装置を模式的に示す側面図である。
【0055】
目封止材料を貯留する目封止用容器23は、特に限定されず、ハニカム成形体の一方の端部を挿入し、目封止用容器23内に貯留された目封止材料をセル内に充填できる容器であればよい。目封止用容器23の材質は、特に限定されず、ステンレス鋼等を用いることができる。また、目封止用容器23の深さは、20〜40mmが好ましく、目封止用容器23の内径は、ハニカム成形体の端面の直径の101〜105%が好ましい。
【0056】
圧入手段26は、ハニカム成形体を把持する把持部と、ハニカム成形体を把持した状態で鉛直方向(上下方向)に移動する加圧機構とを有していることが好ましい。そして、加圧機構を用いて、ハニカム成形体を目封止用容器23内に圧入することが好ましい。把持部としては、特に限定されないが、例えば、対向する面にゴム等の弾性体を配設した2枚の板を有し、当該弾性体がハニカム成形体に接触するようにして当該2枚の板でハニカム成形体を挟むことができるように形成されたものを挙げることができる。また、加圧機構としては、モーター等により、上記把持部を鉛直方向(上下方向)に移動させる機構を挙げることができる。
【0057】
また、第1圧入装置31としては、圧入手段26でハニカム成形体を固定し、目封止用容器23を鉛直方向(上下方向)に移動させるように形成されたものでもよい。この場合、目封止用容器23がテーブルに載せられ、当該テーブルが、モーターにより鉛直方向(上下方向)に移動するように形成されていることが好ましい。
【0058】
次に、図2Eに示すように、目封止材料24が充填された端面が鉛直方向上向きとなるように、ハニカム成形体22を反転させることが好ましい。ハニカム成形体22を反転させる方法は、特に限定されず、反転装置を用いてもよいし、手動(人力)で行ってもよいが、反転装置を用いることが好ましい。図2Eは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。
【0059】
ハニカム成形体を反転させる際には、例えば、図5に示すような反転装置32を用いることが好ましい。反転装置32は、ハニカム成形体22を把持して、反転させる反転機構32bと、ハニカム成形体32を把持した反転機構32bを昇降させる昇降機構32aを備えることが好ましい。昇降機構32a及び反転機構32bは、モーター等により駆動するものであることが好ましい。図5は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に使用する製造装置における、ハニカム成形体を反転させる装置(反転装置)を模式的に示す側面図である。
【0060】
尚、ハニカム成形体を反転させて、目封止材料が鉛直方向の上側を向けた端面に配設された状態になると、図2Fに示すように、目封止材料の端面(鉛直方向の上側を向く端面)が凹み、凹部27が形成されることがある。しかし、本実施形態のハニカム構造体の製造方法においては、次の、第2圧入工程において、この凹みを無くすことができる。図2Fは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態において、目封止材料が凹んだ場合のハニカム成形体の状態を示す模式図である。
【0061】
次に、図2G図3Aに示すように、「硬度60〜90度であり、板状であって、厚さ方向に直交する一の辺に沿って面取りされるとともに、面取りされた面に隣接する厚さ方向に平行な面である平坦面45を有する形状の加圧部材41」、を有する圧入治具43を、上記面取りされた面である加圧面42とシート21との間の角度θ1(以後、「アタック角θ1」ということがある。)を15〜50°とした状態でシート21の表面に沿って移動させて、加圧面42によって、シートと加圧面との間に供給された目封止材料を、シート21に形成された孔を通じて、目封止材料が充填されたセル内に、目封止材料の上から圧入する(第2圧入工程)。このように、加圧部材41の加圧面42とシートとの間の角度θ1を15〜50°とした状態で、加圧面42によって目封止材料を充填するため、目封止部に気泡が形成されたり、目封止部の端面に凹みが形成されたりすることを防止することができる。図2Gは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。図3Aは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程の一部を示す模式図である。
【0062】
アタック角θ1は、15〜50°であり、30〜45°であることが好ましい。15°より小さいと、目封止部内に気泡が形成されるため好ましくない。50°より大きいと、目封止部内に気泡が形成されたり、目封止部の端面に凹みが形成されたりするため好ましくない。
【0063】
図3Bに示すように、本実施形態のハニカム構造体の製造方法においては、圧入治具43は、「硬度60〜90度であり、板状であって、厚さ方向に直交する一の辺(稜線)に沿って面取りされるとともに、面取りされた面(加圧面42)に隣接する厚さ方向に平行な面である平坦面45を有する形状の加圧部材41」を有し、更に、当該加圧部材41の、上記平坦面45に対して反対側の端面側の端部を支持する支持部44を有するものである。支持部44の材質は、アルミニウムないしステンレス鋼が好ましい。ここで、「厚さ方向に直交する一の辺に沿って面取りされる」とは、当該一の辺、及びその一の辺を挟む2つの面の一部が、取り除かれた状態が形成されていることを意味する。従って、「一の辺に沿って面取りされる」の「一の辺」は、既に取り除かれた後であるため、加圧部材には存在しない。そして、加圧部材には、「一の辺、及びその一の辺を挟む2つの面の一部が、取り除かれる」ことにより、「面取りされた面(加圧面42)」が形成される。従って、加圧部材は、「一の辺、及びその一の辺を挟む2つの面の一部が、取り除かれる」ことにより形成された、「面取りされた面(加圧面42)」を有する。なお、加圧部材は、「厚さ方向に直交する一の辺に沿って面取りされた」ものであるが、これは、面取りされる位置を特定するための表現であって、加圧部材を製造するときに「厚さ方向に直交する一の辺に沿って面取りする」という工程を必ず経由するということを意味するものではない。加圧部材41は、図3Bに示すように、加圧面42と平坦面45とに直交する面で切断した断面形状が、五角形である。図3Bは、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態で使用する、圧入治具の断面を示す模式図である。
【0064】
加圧部材41の硬度は、60〜90度であり、60〜80度であることが好ましい。60度より低いと、加圧部材が軟らかくなり、目封止部に気泡が形成されたり、目封止部の端面に凹みが形成されたりするため好ましくない。90度より高いと、加圧部材が硬くなり、目封止部の内部に気泡が形成されたり、目封止部の端面に凹みが形成されたりするため好ましくない。加圧部材の硬度は、JIS K6253に準拠する方法で測定した値である。
【0065】
また、図3A図3Bに示す、圧入治具43の加圧部材41は、加圧面42と平坦面45との両方に直交する面で切断した断面において、加圧面42の平坦部45に対する傾斜角(小さい側の角度)(加圧面傾斜角)θ2が、15〜80°であることが好ましく、30〜75°であることが更に好ましい。加圧面傾斜角θ2は、平坦部45を加圧面42側に延長した面と、加圧面42とにより形成される角度(小さい側の角度)である。
【0066】
また、加圧部材41は、平坦面45の「加圧部材41の厚さ方向における長さB」が、加圧部材41の厚さの20〜40%の長さであることが好ましい。20%より短いと加圧部材の剛性が低下し、凹部に目封止材を供給し難くなることがある。40%より長いと、剛性が上昇し気泡を残したまま目封止が完了してしまうことがある。
【0067】
本発明のハニカム構造体の製造方法においては、図3Cに示すように、ハニカム成形体の端面に貼り付けられたシート21の表面に沿って、圧入治具を移動させるときに、加圧部材とシートの法線Nとにより形成される角度(小さい側の角度)(加圧部材傾斜角)θ3が、0〜30°であることが好ましい。そして、加圧部材傾斜角θ3と上記加圧面傾斜角θ2とを、上記の範囲内で調整することにより、アタック角θ1を15〜50°とすることが好ましい。ここで、加圧部材傾斜角θ3は、加圧面と平坦面との両方に直交する断面における、厚さ方向に直交する方向に延びる線(加圧部材基準線C)と、シートの法線Nとにより形成される角度であって、小さい側の角度のことである。そして、加圧部材傾斜角θ3は、図3Cに示すように、加圧部材を、進行方向(圧入面が形成された方向)に向かって倒れるように傾けたときの角度である。加圧部材傾斜角θ3が0°の場合は、平坦面45をシート21に接触させた状態で、圧入治具をシート21の表面に沿って移動させることになる。また、加圧部材傾斜角θ3が0°より大きい場合には、平端面45と加圧面42とが接する稜線を、シート21に接触させた状態で、圧入治具をシート21の表面に沿って移動させることになる。図3Cは、本発明のハニカム構造体の製造方法の他の実施形態において、圧入治具をハニカム成形体の端面(シートの表面)に配置した状態を示す模式図である。
【0068】
加圧部材41を構成する加圧面42の形状としては、特に限定されないが、長方形が好ましい。加圧部材41の厚さは、6〜10mmであることが好ましい。また、加圧部材41の、加圧面と平坦面との両方に直交する断面における、厚さ方向に対して直交する方向(基準線方向)における長さ(支持部44によって支持されていない部分の長さ)は、15〜25mmであることが好ましい。また、加圧部材41の、厚さ方向と上記基準線方向の両方に直交する方向における長さは、目封止材料を充填する対象となるハニカム成形体の直径をD(mm)とした時に、(D+10)〜(D+20)mmであることが好ましい。加圧面42の大きさは、ハニカム成形体の端面に沿って移動させたときに、ハニカム成形体の端面全体の上(鉛直方向における上)を通って移動する大きさであることが好ましい。
【0069】
加圧部材41の材質は、ゴム系であることが好ましく、具体的にはウレタンゴム、シリコーンゴムが好ましい。
【0070】
圧入治具43によって目封止材料を充填するときには、圧入治具43によってハニカム成形体の端面を押圧しながら、圧入治具43をシート21の表面に沿って移動させることが好ましい。そのときの、圧入治具43がハニカム成形体の端面を押圧する(鉛直方向下向きの)圧力は、0.2〜0.5MPaが好ましく、0.3〜0.5MPaが更に好ましい。0.2MPaより小さいと目封止材料を充填し難くなることがある。0.5MPaより大きいと、ハニカム成形体の端部を破損し易くなることがある。
【0071】
圧入治具43をハニカム成形体22の端面(シートの表面)に沿って移動させるときの移動速度は、100〜400mm/秒が好ましい。100mm/秒より遅いと、目封止材料の供給が少なくなり、表面に凹形状を残しやすく、ハニカム構造体の生産効率が低下することがある。400mm/秒より速いと、目封止材料をハニカム構造体の各セル内に均一に充填し難くなることがある。
【0072】
第2圧入工程において使用する目封止材料は、第1圧入工程において使用する目封止材料と同じであることが好ましい。
【0073】
第2圧入工程においては、図6に示すような、加圧面が形成された加圧部材を有する圧入治具43を備え、加圧部材によって、ハニカム成形体22のセル内に充填された目封止材料の上から、セル内に更に目封止材料を圧入する第2圧入装置34を用いることが好ましい。尚、第2圧入装置34を用いずに、手動で、第2圧入工程を実施してもよい。図6は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に使用する製造装置における、第2圧入装置を模式的に示す側面図である。
【0074】
第2圧入装置34は、図6に示すように、ハニカム成形体22を固定する固定用テーブル37を備えていることが好ましい。図6に示す固定用テーブル37は、テーブル部37aと脚部37bとを有している。テーブル部37aには、ハニカム成形体の端部を挿入できる孔が形成されていることが好ましい。そして、ハニカム成形体を、当該孔に挿入し、ハニカム成形体の端面が、テーブル部37aの上面(鉛直方向上側を向く面)と同じ面上に位置する状態で固定し、その状態で目封止材料をセル内に充填することが好ましい。
【0075】
第2圧入工程を、第2圧入装置34を用いて実施する際には、一方の端面側に目封止材料を充填したハニカム成形体を、当該一方の端面側をテーブル部37aに固定するようにして、固定用テーブル37に固定し、その後、「板状であって、厚さ方向に直交する一の辺に沿って面取りされるとともに、面取りされた面に隣接する厚さ方向に平行な面である平坦面を有する形状の加圧部材」を有する圧入治具を、アタック角θ1を15〜50°とした状態でシートの表面に沿って移動させて、加圧面によって、シートと加圧面との間に供給された目封止材料を、シートに形成された孔を通じて、目封止材料が充填されたセル内に、目封止材料の上から圧入することが好ましい。
【0076】
また、圧入治具43は、ハニカム成形体の端面に対して垂直方向(鉛直方向上下)に移動させる加圧機構と、ハニカム成形体の端面(シートの表面)に沿って移動させる駆動機構とにより、移動させることが好ましい。加圧機構は、空気圧、油圧等により加圧部材を鉛直方向における上下移動させる機構であることが好ましい。駆動機構は、モーター等により加圧部材を水平方向に移動させる機構であることが好ましい。
【0077】
次に、ハニカム成形体に充填された目封止材料を乾燥させて、目封止部を形成することが好ましい(乾燥工程)。乾燥工程には、図7に示すような、乾燥装置38を用いることが好ましい。図7は、本発明のハニカム構造体の製造装置の一の実施形態における、乾燥装置38を模式的に示す側面図である。
【0078】
乾燥装置としては、熱風乾燥装置、ホットプレート、遠赤外線乾燥機等を挙げることができる。乾燥温度は、150〜200℃が好ましい。乾燥時間は、1〜3分が好ましい。
【0079】
本発明のハニカム構造体の製造方法においては、ハニカム成形体の一方の端面において所定のセルに目封止部を形成した後に、他方の端面において、同じ方法で、残余のセルに目封止部を形成し、本発明のハニカム構造体を得ることが好ましい。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
タルク、カオリン、仮焼カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びシリカのうちから複数を組み合わせて、その化学組成が、SiO42〜56質量%、Al30〜45質量%、及びMgO12〜16質量%となるように所定の割合で調合されたコージェライト化原料100質量部に対して、造孔材としてグラファイトを10〜20質量部添加した。更に、メチルセルロース、及び界面活性剤をそれぞれ適当量添加して調製した杯土を、真空脱気した後、押出成形することにより、複数のセルを区画形成する隔壁と、外周壁とを備えるハニカム成形体を得た。
【0082】
次に、得られたハニカム成形体を、180℃で3分間乾燥させ、その後、1420℃で5時間焼成した。得られたハニカム成形体は、隔壁厚さが0.3mmであり、セル密度が46.5セル/cmであり、気孔率(隔壁の気効率)が45%であり、平均細孔径(隔壁の平均細孔径)が25μmであった。気孔率及び平均細孔径は、水銀ポロシメータによって測定した。
【0083】
次に、得られたハニカム成形体に、両端面に市松模様が形成されるように目封止部を形成して、ハニカム構造体を得た。目封止部の形成には、適宜、図4A図7に示す各装置(第1圧入装置31、第2圧入装置34、反転装置32、乾燥装置38)を用いた。第1圧入装置31については、ハニカム成形体を保持、移送可能な保持部と目封止材供給機構と加圧機構を有しており、圧入面を下側にした状態でハニカム成形体を保持し、所望の量の目封止材を容器23に供給した後、圧入面と反対側の端面を加圧してハニカム成形体に目封止材を圧入する装置である。反転装置32は、ハニカム成形体を保持、移送可能な保持部と回転機構と駆動機構を有しており、第2圧入装置では圧入面を鉛直方向上側にする必要があるのでハニカム成形体を容器23から取出し、ハニカム成形体を回転させて圧入面を鉛直方向上側に向ける装置である。また、駆動機構により、第2圧入装置の搬送機構にハニカム成形体を設置することが可能である。第2圧入装置34については、ハニカム成形体を所望の位置に位置決め、保持する位置決め機構と、所望の量の目封止材を供給する供給機構と加圧部材と加圧部材の駆動機構と搬送機構を有しており、圧入治具43にて目封止材をハニカム成形体に圧入して目封止部を形成する装置である。乾燥装置38は、搬送機構とチャンバー部とを有しており、ハニカム成形体の少なくとも目封止部がチャンバー内に入った状態で乾燥を行う装置である。図7に示す乾燥装置は、チャンバー部のみを示している。チャンバー部は複数あっても構わない。
【0084】
目封止部の形成に際しては、まず、ハニカム成形体の一方の端面にシートを貼り付け、シートにおける、目封止部を形成しようとするセルと重なる位置に孔を開けた(マスキング工程)。シートの材質は、PET(ポリエチレンテレフタレート)とし、厚さは25μmとした。シートにはレーザーで孔を開けた。
【0085】
次に、ハニカム成形体のシートが貼り付けられた側の端部を目封止材料が貯留された目封止用容器内に圧入して、ハニカム成形体の一方の端面から、シートに形成された孔を通じて、目封止材料をセル内に圧入した(第1圧入工程)。目封止材料としては、平均粒径5μmのカオリン40質量%、平均粒径40μmのタルク40質量%、平均粒径10μmの酸化アルミニウム15質量%、平均粒径5μmのシリカ5質量%を主たる無機成分として用いた。目封止材料の粘度は、25℃で250dPa・sであった。
【0086】
次に、目封止材料が充填されたセル内に、目封止材料の上から目封止材料を更に圧入した(第2圧入工程)。第2圧入工程は、図6に示すような、第2圧入装置34を用いて実施した。一方の端面側に目封止材料を充填したハニカム成形体を、当該一方の端面側をテーブル部37aに固定するようにして、固定用テーブル37に固定し、その後、「板状であって、厚さ方向に直交する一の辺に沿って面取りされるとともに、面取りされた面に隣接する厚さ方向に平行な面である平坦面を有する形状の加圧部材」を有する圧入治具を、アタック角θ1を15〜50°とした状態でシートの表面に沿って移動させて、加圧面によって、シートと加圧面との間に供給された目封止材料を、シートに形成された孔を通じて、目封止材料が充填されたセル内に、目封止材料の上から圧入した。また、圧入治具を、シートの表面に沿って移動させるときには、圧入治具によってハニカム成形体の端面を押圧しながら移動させた。このときの圧力(圧力)は0.4MPaとした。また、圧入治具の材質は、ウレタンゴムとした。また、加圧部材の硬度は70度とし、加圧面傾斜角θ2を45°とした。そして、加圧部材傾斜角θ3は5°として、アタック角θ1を40°とした。また、加圧部材の平坦面の「加圧部材の厚さ方向における長さ」の、加圧部材の厚さに対する比率(平端面比率)は30%とした。加圧部材の硬度は、JIS K6253に準拠する方法で測定した値である。
【0087】
次に、乾燥装置を用いて、目封止部を乾燥させて、ハニカム構造体を得た。乾燥装置としては、熱風乾燥機を用いた。乾燥温度は180℃とし、乾燥時間は3分間とした。
【0088】
得られたハニカム構造体について、以下の方法で「目封止部の気泡(直径0.3mm以上のもの)の有無」、「目封止部の表面(端面)の凹み(深さ0.3mm以上のもの)の有無」を評価した。結果を表1に示す。表1において、「硬度」は、加圧部材の硬度を示す。「気泡」は、目封止部の気泡の有無を示す。「凹み」は、目封止部の表面(端面)の凹みの有無を示す。
【0089】
(目封止部の気泡の有無)
目封止部を、「目封止部の中心軸を含む平面」で切断し、断面を顕微鏡で2倍に拡大し、直径0.3mm以上の気泡が存在するか否かを観察する。
【0090】
(目封止部の表面(端面)の凹みの有無)
目封止部を、「目封止部の中心軸を含む平面」で切断し、断面を顕微鏡で2倍に拡大し、目封止部の「ハニカム構造体の外側を向く端面(表面)」に、深さ0.3mm以上の凹みが存在するか否かを観察する。
【0091】
【表1】
【0092】
(実施例2〜5、比較例1〜4)
アタック角θ1、加圧面傾斜角θ2、加圧部材傾斜角θ3、加圧部材の硬度及び平端面比率を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、ハニカム構造体を作製した。実施例1の場合と同様にして、「目封止部の気泡の有無」及び「目封止部の表面(端面)の凹みの有無」を評価した。結果を表1に示す。
【0093】
表1の実施例1〜3及び比較例1,2より、アタック角が15°より小さくなると、目封止部の表面に凹みが形成されることがわかる。そして、アタック角が50°を超えると、目封止部に気泡が形成され、目封止部の表面に凹みが形成されることがわかる。また、実施例4,5及び比較例3,4より、加圧部材の硬度が60度より小さくなると目封止部に気泡が形成され、目封止部の表面に凹みが形成されることがわかる。そして、加圧部材の硬度が90度より大きくなると目封止部の表面に凹みが形成されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のハニカム構造体は、内燃機関、ボイラー等の排気ガス中の微粒子や有害物質の処理に好適に利用することができる。その他、多量の煤煙を排出する装置の除害装置への適用も可能である。
【符号の説明】
【0095】
2:セル、3:隔壁、4:外周壁、5:目封止部、7:外側を向く端面、7a:内側を向く端面、8:目封止深さ、11:入口側の端面、12:出口側の端面、21:シート、22:ハニカム成形体、23:容器(目封止用容器)、24:目封止材料、25:セル、26:圧入手段、27:凹部、28:孔、31:第1圧入装置、32:反転装置、32a:昇降機構、32b:反転機構、33:充填前の目封止材料、34:第2圧入装置、37:固定用テーブル、37a:テーブル部、37b:脚部、38:乾燥装置、41:加圧部材、42:加圧面、43:圧入治具、44:支持部、45:平坦面、46:稜線、θ1:アタック角、θ2:加圧面傾斜角、θ3:加圧部材傾斜角、B:平坦面の加圧部材の厚さ方向における長さ、D:加圧部材の厚さ方向、N:法線、C:加圧部材基準線、100、200:ハニカム構造体。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B