(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5655130
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】チャック装置
(51)【国際特許分類】
B23B 31/20 20060101AFI20141218BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20141218BHJP
B23B 31/00 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
B23B31/20 F
B23Q11/10 A
B23B31/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-262804(P2013-262804)
(22)【出願日】2013年12月19日
(62)【分割の表示】特願2009-163590(P2009-163590)の分割
【原出願日】2009年7月10日
(65)【公開番号】特開2014-76537(P2014-76537A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2014年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000205834
【氏名又は名称】大昭和精機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390016344
【氏名又は名称】ビッグアルファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】小峰 毅
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−179632(JP,A)
【文献】
特開2000−015539(JP,A)
【文献】
実開平06−027046(JP,U)
【文献】
特開2004−330384(JP,A)
【文献】
特開2002−154032(JP,A)
【文献】
特開2009−061583(JP,A)
【文献】
実開平06−063207(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0047079(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/20
B23B 31/00
B23Q 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工作機械の主軸に固定され、工具を把持するチャック装置であって、
前記工具に対して作業液を吐出する通液路を当該チャック装置に設けると共に、前記通液路からの前記作業液の吐出方向を回転方向とは反対向きに設定してあるチャック装置。
【請求項2】
前記吐出方向が前記工具の軸芯にも向かうように設定してある請求項1に記載のチャック装置。
【請求項3】
回転工作機械の主軸に固定されるチャック本体と、
前記チャック本体に挿嵌され、工具を把持するよう縮径可能なコレットと、
前記チャック本体に螺着可能で、前記コレットを締め付けるナットとを備え、
前記通液路を前記工具の外周面と前記ナットの内周面との間に亘って設けてある請求項1又は2に記載のチャック装置。
【請求項4】
前記通液路として前記ナットの内周面に溝部を形成してある請求項3に記載のチャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具の先端部に、作業液を効率的に供給可能なチャック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転工作機械の主軸に工具を固定するためのチャック装置において、切削加工中に必要な作業液を供給するための通液路が設けられることがある。ここでいう作業液としては、被加工材との摩擦により高温となる工具先端部を冷却するためのクーラントや、切り粉を洗い流すことを目的として供給される洗浄液等がある。これらの作業液を切削加工中に工具の先端部にまで供給できるよう、様々な改良を施したチャック装置が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載のチャック装置においては、ノズル孔19から作業液を工具先端部に向けて吐出すべく、ノズル孔19が回転軸に対して斜めに構成されている。切削加工中の工作機械から吐出された作業液は回転による遠心力を受けるが、ノズル孔19を斜めにして作業液を軸芯に向かって吐出することにより、遠心力の影響を抑制することができると考えられる。
【0004】
また、特許文献2には、締付け具2に設けた工具挿入孔23と工具3との間の隙間24から作業液を吐出するよう構成されたチャック装置が開示されている。工具に沿わせて作業液を吐出することにより、工具自体に作業液の通液路がなくても、簡単な構成で作業液を工具の先端部まで供給することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4177079号公報
【特許文献2】特開平8−112731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のチャック装置においては、前述のように遠心力の影響を抑制できるが、ノズル孔17が工具から離れた位置に設けられているため、工具に作業液が達する前に離散するおそれがある。この問題を解決するため、作業液の吐出圧力を大きくすることが考えられるが、そうするとチャック装置全体の耐圧性能を向上させる必要があり、製造コストの上昇が避け難いものとなる。また、作業液が工具に達する際に衝撃で作業液が飛散し、工具の先端部に十分な作業液が行き渡らないおそれもある。
【0007】
また、特許文献2に記載のチャック装置においては、工具に沿わせて作業液を吐出するため、特許文献1に記載のチャック装置におけるような問題は見当たらない。しかし、作業液が回転軸に平行に吐出されるため、工具がテーパ面を有している場合には、工具に沿わせて作業液を供給することができず、作業液が工具の先端部に供給されないおそれがある。
【0008】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたもので、工具の先端部に、作業液を効率的に供給可能なチャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るチャック装置の特徴構成は、回転工作機械の主軸に固定され
、工具を把持するチャック
装置であって、前記工具に対して作業液を吐出する通液路を
当該チャック
装置に設けると共に、前記通液路からの前記作業液の吐出方向
を回転方向とは反対向きに設定した点にある。
【0010】
本特徴構成のごとく、工具に対して作業液を吐出する通液路をチャック本体に設けると共に、通液路からの作業液の吐出方向
を回転方向とは反対向きに設定してあると、作業液に作用する遠心力を緩和することができる。その結果、作業液の飛散量を減少させ、より多くの作業液を工具の先端部まで供給することができる。
本発明に係るチャック装置は、前記吐出方向が前記工具の軸芯にも向かうように設定してもよい。
本発明に係るチャック装置は、回転工作機械の主軸に固定されるチャック本体と、前記チャック本体に挿嵌され、工具を把持するよう縮径可能なコレットと、前記チャック本体に螺着可能で、前記コレットを締め付けるナットとを備え、前記通液路を前記工具の外周面と前記ナットの内周面との間に亘って設けてもよい。
本発明に係るチャック装置は、前記通液路として前記ナットの内周面に溝部を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るチャック装置の縦断面図である。
【
図2】
図1におけるII−II断面の断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係るチャック装置の縦断面図である。
【
図4】
図3におけるIV−IV断面の断面図である。
【
図5】本発明の第3実施形態に係るチャック装置の縦断面図である。
【
図6】
図5におけるVI−VI断面の断面図である。
【0012】
[第1実施形態]
図1及び
図2に基づいて、本発明に係るチャック装置1の第1実施形態について説明する。チャック本体2の先端部にはテーパ穴11が形成されている。このテーパ穴11にコレット3が挿嵌され、チャック本体2に固定される。コレット3には図示しない縦方向の割り溝が形成されており、縮径可能な構造となっている。
【0013】
ナット4は外リング5と内リング6からなっており、外リング5の内周面にはチャック本体2のねじ部12と螺着可能なねじ部13が形成されている。外リング5と内リング6は複数のボール7を介して回転自在に構成されている。また、内リング6の内周面には、工具20の工具テーパ面21と対応すべく、ナットテーパ面14が形成されている。なお、ナット4は外リング5と内リング6が一体となっているものでも構わない。
【0014】
次に工具20の装着方法について説明する。まず、ナット4にコレット3を装着し、コレット3のテーパ面からチャック本体2のテーパ穴11に挿入して、チャック本体2のねじ部12とナット4のねじ部13を螺着する。コレット3に工具20を挿入し、外リング5を締付け方向に回転させると、ボール7を介して内リング6に軸方向の力が伝達される。内リング6はテーパ面にてコレット3と当接するので、軸方向の力によりコレット3がテーパ穴11の基端側に押圧されるとともに、径方向の力によりコレット3が縮径して工具20を把持する。ナットテーパ面14の最小内径が工具20のシャンク径より小さい場合は、ナット4にコレット3を装着した後にコレット3の後部から工具20を挿入する。
【0015】
本実施形態の場合、工具20を装着すると、ナットテーパ面14と工具テーパ面21との間に円周方向全周に亘って通液路16が形成される。図示しない供給路からコレット3の基端側に供給された作業液は、コレット3の割り溝を通って通液路16に至る。この作業液は通液路16の先端である吐出口17から吐出される。
【0016】
上記構成によれば、通液路16は工具テーパ面21と沿うように、工具テーパ面21と隣接する位置にあるため、作業液は吐出口17から工具テーパ面21に沿うように吐出される。すると、吐出方向が軸芯に向かう成分を有するので、作業液に対する遠心力の影響が抑制され、作業液を工具20の先端部まで効率的に供給することができる。また、当該構成を実現するに際して新たな部材は必要なく、内リング6の内周面にナットテーパ面14を形成するだけでよいので、製造コストを抑えることができる。
【0017】
[第2実施形態]
図3及び
図4に基づいて、本発明に係るチャック装置の第2実施形態について説明する。通液路16に係る部分以外の構成は、第1実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0018】
本実施形態は、ナットテーパ面14に螺旋状の溝18を形成し、工具20の回転方向とは反対向きに作業液を吐出するよう構成したものである。
図3における点線は、内リング6の内周面の紙面向こう側に形成した溝18を示す。作業液の吐出方向が工具20の回転方向と反対向きになるため、作業液に作用する遠心力を緩和することができる。その結果、作業液の飛散量を減少させ、より多くの作業液を工具の先端部まで供給することができる。
【0019】
このほか、工具20の表面に溝18と対応する位置に、工具20の先端部まで至る溝を設けるといった改良も考えられる。このように構成すれば、作業液が工具20の表面を伝うよりも飛散量を減少させることができ、より効率的に作業液を工具20の先端部まで供給することも可能である。
【0020】
[第3実施形態]
図5及び
図6に基づいて、本発明に係るチャック装置の第3実施形態について説明する。通液路16に係る部分以外の構成は、第1実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0021】
これまでの実施形態は、内リング6の内周面にテーパ面を形成するものだったが、本実施形態はテーパ状の内周面(リング部材テーパ面15)を有するリング部材8を別途設ける構成とした。この構成によっても、作業液は工具テーパ面21に沿うように通液路16の吐出口17から吐出されるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0022】
リング部材8で通液路16を構成することにより、工具テーパ面21に適切なリング部材8を装着するのみで通液路16の吐出口17を最適化できる。また、リング部材8に損傷が生じて適切なテーパ面を形成しなくなった場合にも、リング部材8を交換するだけでよいのでメンテナンス性が向上する。なお、リング部材8の形状や配置は本実施形態に限定されるものでなく、作業液を工具テーパ面21に沿わせて吐出できるものであれば、他の形状や配置であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
テーパ面を有する工具の先端部に、作業液を効率的に供給可能なチャック装置及びチャック装置のナットを提供する。
【符号の説明】
【0024】
1 チャック装置
2 チャック本体
3 コレット
4 ナット
5 外リング
6 内リング
7 ボール
8 リング部材
14 ナットテーパ面
15 リング部材テーパ面
16 通液路
17 吐出口
18 溝
20 工具
21 工具テーパ面