特許第5655163号(P5655163)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5655163
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20141218BHJP
   C08K 5/3477 20060101ALI20141218BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20141218BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20141218BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   C08L83/04
   C08K5/3477
   C08K5/54
   H01L23/30 R
【請求項の数】13
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2013-550299(P2013-550299)
(86)(22)【出願日】2012年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2012082871
(87)【国際公開番号】WO2013094625
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2014年1月14日
(31)【優先権主張番号】特願2011-282298(P2011-282298)
(32)【優先日】2011年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【復代理人】
【識別番号】100175167
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 裕志
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】禿 恵明
(72)【発明者】
【氏名】中川 泰伸
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/111667(WO,A1)
【文献】 特開2008−222881(JP,A)
【文献】 特開2005−307015(JP,A)
【文献】 特開2005−068268(JP,A)
【文献】 特開2011−168701(JP,A)
【文献】 特開2012−197338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
CA、REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンと、式(8)
【化1】
[式(8)中、Rx、Ry、Rzは、同一又は異なって、式(9)で表される基、又は式(10)で表される基を示す。式(8)におけるRx、Ry、Rzのうち、いずれかひとつ以上が式(10)で表される基である。
【化2】
【化3】
[式(9)及び式(10)中、R8及びR9は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]]
で表されるイソシアヌレート化合物とを含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとして、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの分子鎖末端の一部又は全部に、式(1)
【化4】
[式(1)中、R1は脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基を示す。]
で表される単位構造及び式(2)
【化5】
[式(2)中、R2は炭化水素基を示す。]
で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基を有するラダー型シルセスキオキサン(A)を含む、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとして、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの分子鎖末端の一部又は全部に、式(3)
【化6】
[式(3)中、Xは単結合、二価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、カーボネート基、アミド基、又は、これらが複数個連結した基を示す。複数個のR3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、メルカプト基、又は、下記式(s)
【化7】
[式(s)中の複数個のR′は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、又はメルカプト基を示す。]
で表される基を示す。複数個のR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、メルカプト基、又は、下記式(s)
【化8】
[式(s)中の複数個のR′は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、又はメルカプト基を示す。]
で表される基を示す。nは1〜100の整数を示す。]
で表される単位構造及び式(4)
【化9】
[式(4)中、R5は炭化水素基を示す。]
で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基を有するラダー型シルセスキオキサン(B)を含む、請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンと、式(8)
【化10】
式(8)中、Rx、Ry、Rzは、同一又は異なって、式(9)で表される基、又は式(10)で表される基を示す。
【化11】
【化12】
[式(9)及び式(10)中、R8及びR9は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]]
で表されるイソシアヌレート化合物とを含み、
前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとして、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの分子鎖末端の一部又は全部に、式(1)
【化13】
[式(1)中、R1は脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基を示す。]
で表される単位構造及び式(2)
【化14】
[式(2)中、R2は炭化水素基を示す。]
で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基を有するラダー型シルセスキオキサン(A)を含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとして、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの分子鎖末端の一部又は全部に、式(3)
【化15】
[式(3)中、Xは単結合、二価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、カーボネート基、アミド基、又は、これらが複数個連結した基を示す。複数個のR3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、メルカプト基、又は、下記式(s)
【化16】
[式(s)中の複数個のR′は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、又はメルカプト基を示す。]
で表される基を示す。複数個のR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、メルカプト基、又は、下記式(s)
【化17】
[式(s)中の複数個のR′は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、又はメルカプト基を示す。]
で表される基を示す。nは1〜100の整数を示す。]
で表される単位構造及び式(4)
【化18】
[式(4)中、R5は炭化水素基を示す。]
で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基を有するラダー型シルセスキオキサン(B)を含む、請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンと、式(8)
【化19】
式(8)中、Rx、Ry、Rzは、同一又は異なって、式(9)で表される基、又は式(10)で表される基を示す。
【化20】
【化21】
[式(9)及び式(10)中、R8及びR9は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]]
で表されるイソシアヌレート化合物とを含み、
前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとして、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの分子鎖末端の一部又は全部に、式(3)
【化22】
[式(3)中、Xは単結合、二価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、カーボネート基、アミド基、又は、これらが複数個連結した基を示す。複数個のR3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、メルカプト基、又は、下記式(s)
【化23】
[式(s)中の複数個のR′は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、又はメルカプト基を示す。]
で表される基を示す。複数個のR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、メルカプト基、又は、下記式(s)
【化24】
[式(s)中の複数個のR′は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、又はメルカプト基を示す。]
で表される基を示す。nは1〜100の整数を示す。]
で表される単位構造及び式(4)
【化25】
[式(4)中、R5は炭化水素基を示す。]
で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基を有するラダー型シルセスキオキサン(B)を含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、分子内に2個以上の脂肪族炭素−炭素二重結合を有する環状シロキサン(C)と、分子内に2個以上のヒドロシリル基を有する環状シロキサン(D)とを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンと、式(8)
【化26】
式(8)中、Rx、Ry、Rzは、同一又は異なって、式(9)で表される基、又は式(10)で表される基を示す。
【化27】
【化28】
[式(9)及び式(10)中、R8及びR9は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]]
で表されるイソシアヌレート化合物とを含み、
さらに、分子内に2個以上の脂肪族炭素−炭素二重結合を有する環状シロキサン(C)と、分子内に2個以上のヒドロシリル基を有する環状シロキサン(D)とを含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンの側鎖の一部又は全部が置換若しくは無置換のアリール基である請求項1〜8のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
さらに、シランカップリング剤を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とする封止剤。
【請求項13】
請求項12に記載の封止剤を用いて半導体素子を封止して得られる半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
高耐熱・高耐電圧の半導体装置において半導体素子を被覆する材料として、150℃以上の耐熱性を有する材料が求められている。特に、光半導体素子などの光学材料を被覆する材料(封止材)には、耐熱性に加えて、透明性、柔軟性等の物性に優れることが求められている。現在、例えば、液晶ディスプレイのバックライトユニットにおける封止材としては、フェニルシリコーンが主に使用されている。
【0003】
特許文献1には、透明性、耐UV性、耐熱着色性に優れた光素子封止用樹脂組成物として、脂肪族炭素−炭素不飽和結合を含有しH−Si結合を含有しない籠型構造体の液状のシルセスキオキサン、及び、H−Si結合を含有し脂肪族炭素−炭素不飽和結合を含有しない籠型構造体の液状のシルセスキオキサンからなる群から選択される少なくとも1種のシルセスキオキサンを樹脂成分として含有する光素子封止用樹脂組成物が開示されている。しかしながら、籠型のシルセスキオキサンを含む樹脂組成物の硬化物は比較的硬く、柔軟性に乏しいため、クラックや割れが生じやすいという問題を有していた。
【0004】
また、特許文献2には、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するトリアリルイソシアヌレートなどの有機化合物、1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する、鎖状、及び/又は、環状ポリオルガノシロキサンなどの化合物、ヒドロシリル化触媒を必須成分として含有する硬化性組成物が開示されている。しかしながら、これらの材料の耐クラック性等の物性は、未だ満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−031619号公報
【特許文献2】特開2002−314140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、光半導体素子の封止材には、上述の耐熱性、透明性、柔軟性に加え、光半導体装置の製造時のリフロー工程において高温の熱が加えられた場合にも劣化を生じないこと、具体的には、封止材にクラックが生じにくく、パッケージからの剥離などの不具合を生じない特性(「耐リフロー性」と総称する場合がある)が求められている。なお、本明細書においては、封止材にクラックが生じにくい特性を「耐クラック性」と称する場合がある。
【0007】
さらに、光半導体素子の封止材には、SOxガスなどの腐食性ガスに対して高いバリア性を有することが求められている。これは、光半導体装置における電極等の金属材は、腐食性ガスにより容易に腐食され、このような腐食により経時で通電特性(例えば、高温環境における通電特性)が悪化する不具合が生じるためである。現在、光半導体素子の封止材として広く使用されているフェニルシリコーン系の封止材は、特に、上記腐食性ガスに対するバリア性が不十分であるという問題を有していた。
【0008】
従って、本発明の目的は、優れた耐熱性、透明性、柔軟性を有し、特に、耐リフロー性(リフロー工程における耐クラック性、パッケージに対する密着性等)、腐食性ガスに対するバリア性に優れた硬化物を形成することができる硬化性樹脂組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、優れた耐熱性、透明性、柔軟性を有し、特に、耐リフロー性、腐食性ガスに対するバリア性に優れた硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンと、特定の構造を有するイソシアヌレート化合物との組み合わせを必須成分として含む硬化性樹脂組成物が、優れた耐熱性、透明性、柔軟性を有し、特に、耐リフロー性、腐食性ガスに対するバリア性に優れた硬化物を形成することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンと、式(8)
【化23】
[式(8)中、Rx、Ry、Rzは、同一又は異なって、式(9)で表される基、又は式(10)で表される基を示す。式(8)におけるRx、Ry、Rzのうち、いずれかひとつ以上が式(10)で表される基である。
【化24】
【化25】
[式(9)及び式(10)中、R8及びR9は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]]
で表されるイソシアヌレート化合物とを含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物を提供する。
【0012】
さらに、前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとして、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの分子鎖末端の一部又は全部に、式(1)
【化4】
[式(1)中、R1は脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基を示す。]
で表される単位構造及び式(2)
【化5】
[式(2)中、R2は炭化水素基を示す。]
で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基を有するラダー型シルセスキオキサン(A)を含む、前記の硬化性樹脂組成物を提供する。
【0013】
さらに、前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとして、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの分子鎖末端の一部又は全部に、式(3)
【化29】
[式(3)中、Xは単結合、二価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、カーボネート基、アミド基、又は、これらが複数個連結した基を示す。複数個のR3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、メルカプト基、又は、下記式(s)
【化30】
[式(s)中の複数個のR′は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、又はメルカプト基を示す。]
で表される基を示す。複数個のR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、メルカプト基、又は、下記式(s)
【化31】
[式(s)中の複数個のR′は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換の炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、スルホ基、アミノ基若しくは置換アミノ基、又はメルカプト基を示す。]
で表される基を示す。nは1〜100の整数を示す。]
で表される単位構造及び式(4)
【化32】
[式(4)中、R5は炭化水素基を示す。]
で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基を有するラダー型シルセスキオキサン(B)を含む、前記の硬化性樹脂組成物を提供する。
また、本発明は、ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンと、前記式(8)[但し、式(8)中、Rx、Ry、Rzは、同一又は異なって、前記式(9)で表される基、又は前記式(10)で表される基を示す。]で表されるイソシアヌレート化合物とを含み、
前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとして、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの分子鎖末端の一部又は全部に、前記式(1)で表される単位構造及び前記式(2)で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基を有するラダー型シルセスキオキサン(A)を含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物を提供する。
さらに、前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとして、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの分子鎖末端の一部又は全部に、前記式(3)で表される単位構造及び前記式(4)で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基を有するラダー型シルセスキオキサン(B)を含む前記の硬化性樹脂組成物を提供する。
また、本発明は、ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンと、前記式(8)[但し、式(8)中、Rx、Ry、Rzは、同一又は異なって、前記式(9)で表される基、又は前記式(10)で表される基を示す。]で表されるイソシアヌレート化合物とを含み、
前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとして、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの分子鎖末端の一部又は全部に、前記式(3)で表される単位構造及び前記式(4)で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基を有するラダー型シルセスキオキサン(B)を含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物を提供する。
さらに、分子内に2個以上の脂肪族炭素−炭素二重結合を有する環状シロキサン(C)と、分子内に2個以上のヒドロシリル基を有する環状シロキサン(D)とを含む前記の硬化性樹脂組成物を提供する。
また、本発明は、ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンと、前記式(8)[但し、式(8)中、Rx、Ry、Rzは、同一又は異なって、前記式(9)で表される基、又は前記式(10)で表される基を示す。]で表されるイソシアヌレート化合物とを含み、
さらに、分子内に2個以上の脂肪族炭素−炭素二重結合を有する環状シロキサン(C)と、分子内に2個以上のヒドロシリル基を有する環状シロキサン(D)とを含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物を提供する。
【0014】
さらに、前記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンの側鎖の一部又は全部が置換若しくは無置換のアリール基である前記の硬化性樹脂組成物を提供する。
【0015】
さらに、シランカップリング剤を含む前記の硬化性樹脂組成物を提供する。
【0017】
また、本発明は、前記の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物を提供する。
【0018】
また、本発明は、前記硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とする封止剤を提供する。
【0019】
また、本発明は、前記の封止剤を用いて半導体素子を封止して得られる半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の硬化性樹脂組成物は上記構成を有するため、優れた耐熱性、透明性、柔軟性を有する硬化物を形成できる。特に、上記硬化物は、耐リフロー性、より詳しくは、リフロー工程における耐クラック性、パッケージに対する密着性等に優れ、さらに、SOXガス等の腐食性ガスに対するバリア性にも優れる。このため、本発明の硬化性樹脂組成物は、光半導体素子(LED素子)の封止剤として好ましく使用することができ、本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物により光半導体素子を封止して得られる光半導体装置は、優れた品質と耐久性を備える。特に、本発明の硬化性樹脂組成物は、これまでにない高温(例えば、180℃以上)に対する耐熱性が要求される次世代の光源用の封止剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】合成例1で得られた末端にビニル基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサンの1H−NMRスペクトルのチャートを示す。
図2】合成例2で得られた末端にSiH含有基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサンの1H−NMRスペクトルのチャートを示す。
図3】実施例1で得られた硬化物1の波長300〜800nmの光に対する光線透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[硬化性樹脂組成物]
本発明の硬化性樹脂組成物は、ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンと、下記式(8)
【化8】
[式(8)中、Rx、Ry、Rzは、同一又は異なって、下記式(9)で表される基、又は下記式(10)で表される基を示す。
【化9】
【化10】
[式(9)及び式(10)中、R8及びR9は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]]
で表されるイソシアヌレート化合物とを必須成分として含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物である。
【0023】
[イソシアヌレート化合物]
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記式(8)で表されるイソシアヌレート化合物を含む。本発明の硬化性樹脂組成物は上記イソシアヌレート化合物を含むことにより、特に、硬化により形成される硬化物の腐食性ガスに対するバリア性が向上し、さらに、被着体に対する密着性が向上する傾向がある。
【0024】
上記式(8)中、Rx、Ry、Rzは、同一又は異なって、上記式(9)で表される基、又は上記式(10)で表される基を示す。中でも、上記式(8)におけるRx、Ry、Rzのうち、いずれかひとつ以上が上記式(10)で表される基であることが好ましい。
【0025】
上記式(9)及び上記式(10)中、R8、R9は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基などが挙げられる。上記アルキル基の中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などの炭素数1〜3の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基が好ましい。上記式(9)及び上記式(10)におけるR8、R9は、それぞれ水素原子であることが特に好ましい。
【0026】
上記イソシアヌレート化合物としては、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート化合物、トリアリルイソシアヌレート化合物などが挙げられる。
【0027】
上記モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物としては、具体的には、例えば、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、1−アリル−3,5−ビス(2−メチルエポキシプロピル)イソシアヌレート、1−(2−メチルプロペニル)−3,5−ジグリシジルイソシアヌレート、1−(2−メチルプロペニル)−3,5−ビス(2−メチルエポキシプロピル)イソシアヌレートなどが挙げられる。上記ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート化合物としては、具体的には、例えば、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、1,3−ジアリル−5−(2−メチルエポキシプロピル)イソシアヌレート、1,3−ビス(2−メチルプロペニル)−5−グリシジルイソシアヌレート、1,3−ビス(2−メチルプロペニル)−5−(2−メチルエポキシプロピル)イソシアヌレートなどが挙げられる。上記トリアリルイソシアヌレート化合物としては、具体的には、例えば、トリアリルイソシアヌレート、トリス(2−メチルプロペニル)イソシアヌレートなどが挙げられる。なお、上記イソシアヌレート化合物は、それぞれ、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
上記モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物、上記ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート化合物は、アルコールや酸無水物などのエポキシ基と反応する化合物と反応させて変性したものを使用することもできる。
【0029】
上記イソシアヌレート化合物は、特に、式(10)で表される基を有する場合、ヒドロシリル基を有する化合物とあらかじめ反応(ヒドロシリル化)させた上で使用することもできる。例えば、上記モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物と後述のラダー型シルセスキオキサン(B)とをヒドロシリル化触媒の存在下で反応させたものを、本発明の硬化性樹脂組成物の構成成分として使用してもよい。また、例えば、上記モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物と後述の環状シロキサン(D)とをヒドロシリル化触媒の存在下で反応させたものを、本発明の硬化性樹脂組成物の構成成分として使用してもよい。上記ヒドロシリル化触媒としては、後述のラダー型シルセスキオキサン(B)の製造方法において例示するものと同様のものが例示される。また、上記ヒドロシリル化反応の条件は、公知乃至慣用のヒドロシリル化反応の条件から適宜選択して適用することができる。
【0030】
上記イソシアヌレート化合物は、他の成分との相溶性を向上させる観点から、後述のように、シランカップリング剤とあらかじめ混合してから他の成分と配合してもよい。
【0031】
上記イソシアヌレート化合物の含有量は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物(100重量%)に対して、0.01〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%である。上記イソシアヌレート化合物の含有量が0.01重量%未満であると、腐食性ガスに対するバリア性、被着体に対する密着性が低下する場合がある。一方、上記イソシアヌレート化合物の含有量が10重量%を超えると、硬化性樹脂組成物において固体が析出したり、硬化物が白濁する場合がある。
【0032】
[ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサン]
本発明の硬化性樹脂組成物は、ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンを含む。上記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンは、実験式(基本構造式)RSiO1.5で表されるポリシロキサンであって、分子内にラダー状のSi−O−Si構造(ラダー構造)を少なくとも含むポリオルガノシルセスキオキサンである。上記ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとしては、上記構造を有する公知乃至慣用のポリオルガノシルセスキオキサンを使用することができ、特に限定されないが、分子内に1以上(特に2以上)の脂肪族炭素−炭素二重結合を有するもの、分子内に1以上(特に2以上)のヒドロシリル基を有するものが好ましく、中でも、以下のラダー型シルセスキオキサン(A)、ラダー型シルセスキオキサン(B)が特に好ましい。
【0033】
(ラダー型シルセスキオキサン(A))
本発明の硬化性樹脂組成物におけるラダー型シルセスキオキサン(A)は、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサン(ポリオルガノシルセスキオキサン骨格)の分子鎖末端の一部又は全部に、後述の式(1)で表される単位構造及び式(2)で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基(「ポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)」と称する場合がある)を有するポリオルガノシルセスキオキサンである。
【0034】
ラダー型シルセスキオキサン(A)におけるポリオルガノシルセスキオキサンは、実験式(基本構造式)RSiO1.5で表されるポリシロキサンである。なお、Rは、水素原子、ハロゲン原子、一価の有機基、一価の酸素原子含有基、一価の窒素原子含有基、又は一価の硫黄原子含有基を示し、R(上記ポリオルガノシルセスキオキサン中のR)の少なくとも一部は、一価の有機基である。上記ポリオルガノシルセスキオキサン中のRは、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
上記Rにおけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。上記Rにおける一価の有機基としては、例えば、置換又は無置換の炭化水素基(一価の炭化水素基)、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアナート基、カルバモイル基、イソチオシアナート基などが挙げられる。
【0036】
上記Rにおける炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらが2以上結合した基が挙げられる。
【0037】
上記Rにおける脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基、ドデシル基などのC1-20アルキル基(好ましくはC1-10アルキル基、さらに好ましくはC1-4アルキル基)などが挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基などのC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10アルケニル基、さらに好ましくはC2-4アルケニル基)などが挙げられる。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基などのC2-20アルキニル基(好ましくはC2-10アルキニル基、さらに好ましくはC2-4アルキニル基)などが挙げられる。
【0038】
上記Rにおける脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基などのC3-12のシクロアルキル基;シクロヘキセニル基などのC3-12のシクロアルケニル基;ビシクロヘプタニル基、ビシクロヘプテニル基などのC4-15の架橋環式炭化水素基などが挙げられる。
【0039】
上記Rにおける芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のC6-14アリール基(特に、C6-10アリール基)などが挙げられる。
【0040】
また、上記Rにおける脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した基としては、例えば、シクロへキシルメチル基、メチルシクロヘキシル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等のC7-18アラルキル基(特に、C7-10アラルキル基)、シンナミル基等のC6-10アリール−C2-6アルケニル基、トリル基等のC1-4アルキル置換アリール基、スチリル基等のC2-4アルケニル置換アリール基などが挙げられる。
【0041】
上記Rにおける炭化水素基は置換基を有していてもよい。上記炭化水素基における置換基の炭素数は0〜20が好ましく、より好ましくは0〜10である。該置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基等のアルコキシ基(好ましくはC1-6アルコキシ基、より好ましくはC1-4アルコキシ基);アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基(好ましくはC2-6アルケニルオキシ基、より好ましくはC2-4アルケニルオキシ基);フェノキシ基、トリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の、芳香環にC1-4アルキル基、C2-4アルケニル基、ハロゲン原子、C1-4アルコキシ基等の置換基を有していてもよいアリールオキシ基(好ましくはC6-14アリールオキシ基);ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等のアラルキルオキシ基(好ましくはC7-18アラルキルオキシ基);アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシルオキシ基(好ましくはC1-12アシルオキシ基);メルカプト基;メチルチオ基、エチルチオ基等のアルキルチオ基(好ましくはC1-6アルキルチオ基、より好ましくはC1-4アルキルチオ基);アリルチオ基等のアルケニルチオ基(好ましくはC2-6アルケニルチオ基、より好ましくはC2-4アルケニルチオ基);フェニルチオ基、トリルチオ基、ナフチルチオ基等の、芳香環にC1-4アルキル基、C2-4アルケニル基、ハロゲン原子、C1-4アルコキシ基等の置換基を有していてもよいアリールチオ基(好ましくはC6-14アリールチオ基);ベンジルチオ基、フェネチルチオ基等のアラルキルチオ基(好ましくはC7-18アラルキルチオ基);カルボキシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基(好ましくはC1-6アルコキシ−カルボニル基);フェノキシカルボニル基、トリルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基(好ましくはC6-14アリールオキシ−カルボニル基);ベンジルオキシカルボニル基等のアラルキルオキシカルボニル基(好ましくはC7-18アラルキルオキシ−カルボニル基);アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のモノ又はジアルキルアミノ基(好ましくはモノ又はジ−C1-6アルキルアミノ基);アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアシルアミノ基(好ましくはC1-11アシルアミノ基);グリシジルオキシ基等のエポキシ基含有基;エチルオキセタニルオキシ基等のオキセタニル基含有基;アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基;オキソ基;これらの2以上が必要に応じてC1-6アルキレン基を介して結合した基などが挙げられる。
【0042】
上記Rにおける一価の酸素原子含有基としては、例えば、ヒドロキシル基、ヒドロパーオキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、イソシアナート基、スルホ基、カルバモイル基などが挙げられる。上記一価の窒素原子含有基としては、例えば、アミノ基又は置換アミノ基(モノ又はジアルキルアミノ基、アシルアミノ基等)、シアノ基、イソシアナート基、イソチオシアナート基、カルバモイル基などが挙げられる。また、上記一価の硫黄原子含有基としては、例えば、メルカプト基(チオール基)、スルホ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、イソチオシアナート基などが挙げられる。なお、上述の一価の有機基、一価の酸素原子含有基、一価の窒素原子含有基、一価の硫黄原子含有基は、相互に重複し得る。
【0043】
さらに、上記Rとしては、下記式(s)で表される基が挙げられる。
【化11】
上記式(s)中の複数個のR′は、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよい。式(s)中のR′は、水素原子、ハロゲン原子、一価の有機基、一価の酸素原子含有基、一価の窒素原子含有基、又は一価の硫黄原子含有基を示し、これらの基としては、上記Rとして例示したものと同様の基が挙げられる。
【0044】
上記式(s)で表される基において、各R′としては、それぞれ、水素原子、C1-10アルキル基(特に、C1-4アルキル基)、C2-10アルケニル基(特に、C2-4アルケニル基)、C3-12シクロアルキル基、C3-12シクロアルケニル基、芳香環にC1-4アルキル基、C2-4アルケニル基、ハロゲン原子、C1-4アルコキシ基等の置換基を有していてもよいC6-14アリール基、C7-18アラルキル基、C6-10アリール−C2-6アルケニル基、ヒドロキシル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子が好ましい。
【0045】
上記の中でも、Rとしては、水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭化水素基が好ましく、より好ましくは置換又は無置換の炭化水素基、さらに好ましくは脂肪族炭化水素基(特に、アルキル基)、芳香族炭化水素基(特に、フェニル基)である。
【0046】
一般に、ポリオルガノシルセスキオキサンの構造としては、ラダー状のSi−O−Si構造(ラダー構造)、カゴ状のSi−O−Si構造(カゴ構造)、ランダム状のSi−O−Si構造(ランダム構造)など挙げられるが、ラダー型シルセスキオキサン(A)におけるポリオルガノシルセスキオキサンは、上記ラダー構造を少なくとも含むポリオルガノシルセスキオキサン(ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサン)である。
【0047】
ラダー型シルセスキオキサン(A)におけるポリオルガノシルセスキオキサンは、例えば、下記式(L)で表される。
【化12】
【0048】
上記式(L)において、pは1以上の整数(例えば、1〜5000)を表し、好ましくは1〜2000の整数、さらに好ましくは1〜1000の整数である。式(L)中のRは、上記Rと同じものを示す。Tは末端基を示す。
【0049】
ラダー型シルセスキオキサン(A)におけるポリオルガノシルセスキオキサン中のケイ素原子に直接結合した基(上記実験式におけるR、例えば、式(L)におけるR(側鎖))は、特に限定されないが、上記基の全量(100モル%)に対する置換又は無置換の炭化水素基の占める割合が50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。特に、上記基の全量(100モル%)に対する、置換又は無置換の炭素数1〜10のアルキル基(特に、メチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基)、置換又は無置換の炭素数6〜10のアリール基(特に、フェニル基)、置換又は無置換の炭素数7〜10のアラルキル基(特に、ベンジル基)の合計量が、50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0050】
特に、硬化物の腐食性ガスに対するバリア性の観点で、ラダー型シルセスキオキサン(A)は、側鎖(主骨格(主鎖)であるラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサン骨格から枝分かれしている部分、例えば、上記式(L)におけるR)の一部又は全部が置換若しくは無置換のアリール基(芳香族炭化水素基)であることが好ましい。
【0051】
ラダー型シルセスキオキサン(A)は、上記ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの分子鎖末端の一部又は全部に、ポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)を有する。上記ポリオルガノシルセスキオキサンが上記式(L)で表される場合、ラダー型シルセスキオキサン(A)は、式(L)中のTの一部又は全部が以下のポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)で置換された構造を有する。
【0052】
上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)は、下記式(1)
【化13】
で表される単位構造及び下記式(2)
【化14】
で表される単位構造を少なくとも含む残基である。
【0053】
上記式(1)におけるR1は、脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基を示す。上記脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基などのC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10アルケニル基、さらに好ましくはC2-4アルケニル基);シクロヘキセニル基などのC3-12のシクロアルケニル基;ビシクロヘプテニル基などのC4-15架橋環式不飽和炭化水素基;スチリル基等のC2-4アルケニル置換アリール基;シンナミル基などが挙げられる。なお、上記脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基には、上記式(s)で表される基において、3つのR′のうち少なくとも1つが上記のC2-20アルケニル基、C3-12のシクロアルケニル基、C4-15の架橋環式不飽和炭化水素基、C2-4アルケニル置換アリール基、シンナミル基等である基も含まれる。中でも、R1としては、アルケニル基が好ましく、より好ましくはC2-20アルケニル基、さらに好ましくはビニル基である。
【0054】
上記式(2)中のR2(3つのR2)は、それぞれ独立に、炭化水素基(一価の炭化水素基)を示す。上記炭化水素基としては、上記Rとして例示したものと同様の炭化水素基が例示される。中でも、R2としては、C1-20アルキル基が好ましく、より好ましくはC1-10アルキル基、さらに好ましくはC1-4アルキル基、特に好ましくはメチル基である。特に、式(2)中のR2がいずれもメチル基であることが好ましい。
【0055】
上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)は、式(1)で表される単位構造と式(2)で表される単位構造以外にも、例えば、下記式(1′)
【化15】
で表される単位構造を有していてもよい。
【0056】
上記式(1′)中のR1′は、脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基を除く一価の基を示す。具体的には、例えば、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基を除く一価の有機基、一価の酸素原子含有基、一価の窒素原子含有基、又は一価の硫黄原子含有基などが挙げられる。
【0057】
上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)における式(1)に表された3つの酸素原子が結合したケイ素原子の量は、特に限定されないが、ポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)を構成するケイ素原子の全量(100モル%)に対して、20〜80モル%が好ましく、より好ましくは25〜60モル%である。含有量が20モル%未満であると、ラダー型シルセスキオキサン(A)が有する脂肪族炭素−炭素二重結合の量が不十分となって、硬化物の硬度が十分得られない場合がある。一方、含有量が80モル%を超えると、ラダー型シルセスキオキサン(A)中にシラノール基や加水分解性シリル基が多く残存するため、ラダー型シルセスキオキサン(A)が液状で得られない場合がある。さらに生成物中で縮合反応が進行して分子量が変化するため、保存安定性が悪化する場合がある。
【0058】
上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)における式(2)に表された1つの酸素原子が結合したケイ素原子の量は、特に限定されないが、ポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)を構成するケイ素原子の全量(100モル%)に対して、20〜85モル%が好ましく、より好ましくは30〜75モル%である。含有量が20モル%未満であると、ラダー型シルセスキオキサン(A)中にシラノール基や加水分解性シリル基が残存しやすく、ラダー型シルセスキオキサン(A)が液状で得られない場合がある。さらに生成物中で縮合反応が進行して分子量が変化するため、保存安定性が悪化する場合がある。一方、含有量が85モル%を超えると、ラダー型シルセスキオキサン(A)が有する脂肪族炭素−炭素二重結合の量が不十分となって、硬化物の硬度が十分得られない場合がある。
【0059】
上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)が有するSi−O−Si構造(骨格)としては、特に限定されず、例えば、ラダー構造、カゴ構造、ランダム構造などが挙げられる。
【0060】
ポリオルガノシルセスキオキサン(A)は、例えば、下記式(La)で表すことができる。式(La)中のp、Rとしては、上記式(L)と同様のものが例示される。式(La)中のRaは、ポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)、又は、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、若しくはアシルオキシ基を示し、Raの一部又は全部はポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)である。なお、式(La)中の複数(2〜4個)のRaがポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)である場合、それぞれのRaは互いに1以上のSi−O−Si結合を介して結合していてもよい。
【化16】
【0061】
なお、ラダー型シルセスキオキサン(A)におけるポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)は、さらに、後述のラダー型シルセスキオキサン(B)における式(3)で表される単位構造を有するものであってもよい。この場合、ラダー型シルセスキオキサン(A)は、ラダー型シルセスキオキサン(B)として使用することも可能な場合がある。
【0062】
ラダー型シルセスキオキサン(A)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ラダー構造を有し、分子鎖末端にシラノール基及び/又は加水分解性シリル基(シラノール基及び加水分解性シリル基のいずれか一方又は両方)を有するポリオルガノシルセスキオキサン(「原料ラダーポリマー」と称する場合がある)の分子鎖末端に対して、上記シルセスキオキサン残基(a)を形成する方法が挙げられる。
【0063】
上記原料ラダーポリマーにおける加水分解性シリル基としては、例えば、ハロゲン化シリル基、アルコキシシリル基、アシルオキシシリル基などが挙げられる。上記ハロゲン化シリル基におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。上記アルコキシシリル基におけるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基などのC1-10アルコキシ基が挙げられる。上記アシルオキシシリル基におけるアシルオキシ基としては、例えば、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのC1-10アシルオキシ基が挙げられる。
【0064】
上記原料ラダーポリマーとしては、例えば、上記式(L)における末端基Tの一部又は全部が、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、又はアシルオキシ基であるポリオルガノシルセスキオキサンが挙げられる。
【0065】
上記原料ラダーポリマーが有するシラノール基及び加水分解性シリル基の数(総数)は、特に限定されないが、1分子中に1個以上(例えば、1〜10個)が好ましく、より好ましくは2〜6個である。なお、上記原料ラダーポリマーが有するシラノール基及び加水分解性シリル基の数(総数)は、例えば、1H−NMRスペクトル測定により求めることができる。
【0066】
上記原料ラダーポリマーの分子量は、特に限定されないが、100〜80万が好ましく、より好ましくは200〜10万、さらに好ましくは300〜3万、特に好ましくは1000〜20000である。分子量が100未満であると、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。一方、分子量が80万を超えると、ラダー型シルセスキオキサン(A)(又は(B))の他の成分に対する相溶性が低下する場合がある。なお、上記原料ラダーポリマーは、上記範囲の種々の分子量を有するものの混合物であってもよい。なお、上記分子量は、例えば、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の分子量として算出することができる。
【0067】
上記原料ラダーポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、100〜80万が好ましく、より好ましくは200〜10万、さらに好ましくは300〜3万、特に好ましくは1000〜20000である。分子量が100未満であると、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。一方、分子量が80万を超えると、ラダー型シルセスキオキサン(A)(又は(B))の他の成分に対する相溶性が低下する場合がある。なお、上記重量平均分子量は、例えば、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の分子量より算出することができる。
【0068】
上記原料ラダーポリマーは、公知乃至慣用のラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンの製造方法により製造することができ、その製造方法は特に限定されない。具体的には、上記原料ラダーポリマーは、例えば、3官能シラン化合物の加水分解・縮合反応(ゾルゲル反応)により製造することができる。
【0069】
上記3官能シラン化合物の加水分解・縮合反応による原料ラダーポリマーの製造方法としては、例えば、下記式(i)
【化17】
[式(i)中、Rは前記に同じ。3つのYは、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、又はアシルオキシ基を示す。]
で表される3官能シラン化合物の1種又は2種以上を、加水分解・縮合反応(ゾルゲル反応)に付す方法が挙げられる。
【0070】
上記加水分解・縮合反応は、例えば、シラノール縮合触媒の存在下、水又は水と有機溶媒との混合溶媒中で、上記式(i)で表される3官能シラン化合物の1種又は2種以上をシラノール縮合させ、反応中又は反応後に、溶媒及び/又は副生物(アルコールなど)を留去することにより実施することができる。反応温度は、特に限定されないが、−78〜150℃が好ましく、より好ましくは−20〜100℃である。水の使用量は、特に限定されないが、式(i)で表される3官能シラン化合物の合計量1モルに対して、1モル以上(例えば、1〜20モル)が好ましく、より好ましくは1〜10モルである。
【0071】
上記有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどのエステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール;これらの混合溶媒などが挙げられる。有機溶媒の使用量は、特に限定されないが、原料の3官能シラン化合物の合計1容量部に対して、例えば、0.5〜30容量部である。
【0072】
上記シラノール縮合触媒としては、例えば、酸触媒、塩基触媒を用いることができる。上記酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸;リン酸エステル;酢酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸;活性白土等の固体酸;塩化鉄等のルイス酸などが挙げられる。上記塩基触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;バリウムメトキシド等のアルカリ土類金属アルコキシド;ナトリウムフェノキシド等のアルカリ金属フェノキシド;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のテトラアルキルアンモニウムヒドロキシドなどの第4級アンモニウムヒドロキシド;テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド等のテトラアルキルホスホニウムヒドロキシドなどの第4級ホスホニウムヒドロキシド;トリエチルアミン、N−メチルピペリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)等の第3級アミンなどのアミン;ピリジン等の含窒素芳香族複素環化合物などが挙げられる。また、シラノール縮合触媒として、テトラブチルアンモニウムフルオライド、フッ化カリウム、フッ化ナトリウムなどのフッ素化合物を用いることもできる。
【0073】
得られた原料ラダーポリマーは、例えば、水洗、酸洗浄、アルカリ洗浄、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0074】
次に、上記原料ラダーポリマーの分子鎖末端に対して上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(a)を形成し、ラダー型シルセスキオキサン(A)を生成させる方法としては、特に限定されないが、例えば、上記原料ラダーポリマーに、下記式(I)
【化18】
[式(I)中、R1は、前記に同じ。Yは、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、又はアシルオキシ基を示す。]
で表される3官能シラン化合物を反応(縮合、又は、加水分解及び縮合)させ、その後、下記式(II)
【化19】
[式(II)中、R2は、前記に同じ。Yはヒドロキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、又はアシルオキシ基を示す。]
で表される1官能シラン化合物を反応(縮合、又は、加水分解及び縮合)させる方法が挙げられる。
【0075】
上記原料ラダーポリマーに式(I)で表される3官能シラン化合物を反応させる際の該3官能シラン化合物の使用量は、特に限定されないが、原料ラダーポリマーが有するシラノール基及び加水分解性シリル基の総量1モルに対して、0.2〜50モルが好ましく、より好ましくは0.25〜10モル、さらに好ましくは1〜5モルである。使用量が0.2モル未満であると、原料ラダーポリマーに対して十分な量の脂肪族炭素−炭素二重結合を導入できない場合がある。一方、使用量が50モルを超えると、上記3官能シラン化合物同士の縮合物が出来やすくなり、低分子量の縮合物が増加する場合がある。
【0076】
なお、上記反応においては、上記式(I)で表される3官能シラン化合物以外の3官能シラン化合物(「その他の3官能シラン化合物」と称する場合がある)を併用してもよい。即ち、上記原料ラダーポリマーに対して、式(I)で表される3官能シラン化合物及びその他の3官能シラン化合物を反応(共縮合反応)させてもよい。上記その他の3官能シラン化合物としては、例えば、式(I)におけるR1が、脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基以外の一価の有機基(例えば、飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等)である3官能シラン化合物などが挙げられる。上記その他の3官能シラン化合物を併用する場合、その使用量は、特に限定されないが、例えば、式(I)で表される3官能シラン化合物100重量部に対して、0.2〜50重量部が好ましく、より好ましくは0.25〜10重量部である。
【0077】
上記原料ラダーポリマーと3官能シラン化合物(式(I)で表される3官能シラン化合物単独、又は、式(I)で表される3官能シラン化合物及びその他の3官能シラン化合物)の反応(縮合、又は、加水分解及び縮合)は、有機溶媒中で進行させることが好ましい。上記有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどのエステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコールなどが挙げられる。なお、有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、メチルイソブチルケトンが好ましい。
【0078】
上記原料ラダーポリマーと上記3官能シラン化合物の反応は、水の存在下で進行させることができる。水の使用量は、特に限定されないが、系中に存在する加水分解性シリル基の総量1モルに対して、1〜10モルが好ましく、より好ましくは1.5〜6モル、さらに好ましくは2〜4モルである。使用量が1モル未満であると、加水分解が進行しにくいため、縮合反応の進行が不十分となる場合がある。一方、使用量が10モルを超えると、シラン化合物の濃度が低下する為に反応速度が遅くなり、十分に反応が進行しない場合がある。
【0079】
上記原料ラダーポリマーと上記3官能シラン化合物の反応は、さらに、シラノール縮合触媒(特に、酸触媒)の存在下で進行させることが好ましい。シラノール縮合触媒としては、原料ラダーポリマーの製造において使用されるシラノール縮合触媒と同様のものが例示される。シラノール縮合触媒の使用量は、特に限定されないが、系中に存在するシラノール基及び加水分解性シリル基の総量1モルに対して、0.001〜0.5モルが好ましく、より好ましくは0.005〜0.3モル、さらに好ましくは0.01〜0.1モルである。使用量が0.001モル未満であると、縮合反応の進行が不十分となる場合がある。一方、使用量が0.5モルを超えると、副反応や分解反応が併発し、収率が低下する場合がある。
【0080】
上記原料ラダーポリマーと上記3官能シラン化合物の反応を実施する温度(反応温度)は、特に限定されないが、50〜100℃が好ましく、より好ましくは60〜90℃、さらに好ましくは70〜80℃である。反応温度が50℃未満であると、縮合反応の進行が不十分となる場合がある。一方、反応温度が100℃を超えると、副反応や分解反応が併発し、収率が低下する場合がある。
【0081】
上記原料ラダーポリマーと上記3官能シラン化合物の反応を実施する時間(反応時間)は、特に限定されないが、15〜720分が好ましく、より好ましくは30〜360分、さらに好ましくは60〜240分である。反応時間が15分未満であると、縮合反応の進行が不十分となる場合がある。一方、反応時間が720分を超えると、副反応や分解反応が併発し、収率が低下する場合がある。
【0082】
上記原料ラダーポリマーと上記3官能シラン化合物の反応により、原料ラダーポリマーと上記3官能シラン化合物の縮合物(単に「縮合物」と称する場合がある)が得られる。このようにして得られた縮合物は、精製することなくそのまま次の反応(式(II)で表される1官能シラン化合物との反応)に付してもよいし、精製した後に次の反応に付してもよい。精製の際には、例えば、水洗、酸洗浄、アルカリ洗浄、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段などの、公知乃至慣用の方法を利用することができる。
【0083】
次に、上記原料ラダーポリマーと上記3官能シラン化合物の縮合物に、上記式(II)で表される1官能シラン化合物(単官能シラン化合物)を反応させる。より詳しくは、原料ラダーポリマーと上記3官能シラン化合物の縮合物が有するシラノール基及び加水分解性シリル基を、式(II)で表される1官能シラン化合物により封止して、ラダー型シルセスキオキサン(A)を生成させる。即ち、ラダー型シルセスキオキサン(A)は、上記縮合物におけるシラノール基及び加水分解性シリル基が式(II)で表される1官能シラン化合物により封止された構造を有する。
【0084】
上記式(II)で表される1官能シラン化合物の使用量は、特に限定されないが、上記縮合物が有するシラノール基及び加水分解性シリル基の総量1モルに対して、1〜10モルが好ましく、より好ましくは1〜5モル、さらに好ましくは1〜3モルである。使用量が1モル未満であると、ラダー型シルセスキオキサン(A)や硬化物中にシラノール基及び/又は加水分解性シリル基が多く残存しやすく、保存安定性が悪くなる場合がある。一方、使用量が10モルを超えると、コスト面で不利となる場合がある。
【0085】
上記縮合物と上記式(II)で表される1官能シラン化合物との反応は、有機溶媒中で進行させることが好ましい。上記有機溶媒としては、上記原料ラダーポリマーと上記3官能シラン化合物の縮合反応におけるものと同様の有機溶媒が例示される。
【0086】
上記縮合物と上記式(II)で表される1官能シラン化合物の反応は、水の存在下で進行させることができる。水の使用量は、特に限定されないが、系中に存在する加水分解性シリル基の総量1モルに対して、1〜10モルが好ましく、より好ましくは1〜5モル、さらに好ましくは1〜3モルである。使用量が1モル未満であると、加水分解が十分進行しないため、縮合反応の進行が不十分となる場合がある。一方、使用量が10モルを超えると、基質濃度が下がり、反応速度が低下する場合がある。
【0087】
上記縮合物と上記式(II)で表される1官能シラン化合物の反応は、シラノール縮合触媒(特に、酸触媒)を共存させて進行させることが好ましい。上記シラノール縮合触媒の使用量は、特に限定されないが、系中に存在するシラノール基及び加水分解性シリル基の総量1モルに対して、0.0001〜1.0モルが好ましく、より好ましくは0.001〜0.1モル、さらに好ましくは0.005〜0.03モルである。使用量が0.0001モル未満であると、反応速度が遅く、縮合反応の進行が不十分となる場合がある。一方、使用量が1.0モルを超えると、副反応が進行しやすくなる場合がある。
【0088】
上記縮合物と上記式(II)で表される1官能シラン化合物の反応を実施する温度(反応温度)は、特に限定されないが、50〜100℃が好ましく、より好ましくは60〜80℃、さらに好ましくは65〜75℃である。反応温度が50℃未満であると、縮合反応の進行が不十分となる場合がある。一方、反応温度が100℃を超えると、副反応や分解反応が併発し、収率が低下する場合がある。
【0089】
上記縮合物と上記式(II)で表される1官能シラン化合物の反応を実施する時間(反応時間)は、特に限定されないが、60〜600分が好ましく、より好ましくは90〜360分、さらに好ましくは120〜240分である。反応時間が60分未満であると、縮合反応の進行が不十分となる場合がある。一方、反応時間が600分を超えると、副反応や分解反応が併発し、分子量が低下する場合がある。
【0090】
得られたラダー型シルセスキオキサン(A)は、例えば、水洗、酸洗浄、アルカリ洗浄、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段などの、公知乃至慣用の方法を利用することにより精製することができる。
【0091】
ラダー型シルセスキオキサン(A)における、分子内(一分子中)の脂肪族炭素−炭素二重結合の数は、特に限定されないが、2個以上(例えば、2〜50個)が好ましく、より好ましくは2〜30個である。上述の範囲で脂肪族炭素−炭素二重結合を有することにより、耐熱性等の各種物性、耐クラック性、腐食性ガスに対するバリア性に優れた硬化物が得られやすい傾向がある。
【0092】
ラダー型シルセスキオキサン(A)中の脂肪族炭素−炭素二重結合の含有量は、特に限定されないが、0.7〜5.5mmol/gが好ましく、より好ましくは1.1〜4.4mmol/gである。また、ラダー型シルセスキオキサン(A)に含まれる脂肪族炭素−炭素二重結合の割合(重量基準)は、特に限定されないが、ビニル基換算で、2.0〜15.0重量%が好ましく、より好ましくは3.0〜12.0重量%である。
【0093】
ラダー型シルセスキオキサン(A)の分子量は、特に限定されないが、100〜80万が好ましく、より好ましくは200〜10万、さらに好ましくは300〜1万、特に好ましくは500〜8000である。ラダー型シルセスキオキサン(A)の分子量がこの範囲にあると、室温で液体となりやすく、なおかつその粘度が比較的低くなりやすいため、取り扱いが容易となる場合がある。なお、ラダー型シルセスキオキサン(A)は、上記範囲の種々の分子量を有するものの混合物であってもよい。なお、上記分子量は、例えば、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の分子量として測定することができる。
【0094】
ラダー型シルセスキオキサン(A)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、100〜80万が好ましく、より好ましくは200〜10万、さらに好ましくは300〜1万、特に好ましくは500〜8000である。重量平均分子量が100未満であると、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。一方、分子量が80万を超えると、他の成分との相溶性が低下する場合がある。なお、上記重量平均分子量は、例えば、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の分子量より算出することができる。
【0095】
ラダー型シルセスキオキサン(A)は、特に限定されないが、常温(約25℃)で液体であることが好ましい。より具体的には、ラダー型シルセスキオキサン(A)の23℃における粘度は、100〜100000mPa・sが好ましく、より好ましくは500〜10000mPa・s、さらに好ましくは1000〜8000mPa・sである。粘度が100mPa・s未満であると、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。一方、粘度が100000mPa・sを超えると、硬化性樹脂組成物の調製や取り扱いが困難となる場合がある。なお、23℃における粘度は、例えば、レオーメーター(商品名「PhysicaUDS−200」、AntonPaar社製)とコーンプレート(円錐直径:16mm、テーパ角度=0°)を用いて、温度:23℃、回転数:20rpmの条件で測定することができる。
【0096】
本発明の硬化性樹脂組成物においてラダー型シルセスキオキサン(A)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0097】
本発明の硬化性樹脂組成物におけるラダー型シルセスキオキサン(A)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物の全量(100重量%)に対して、10〜90重量%が好ましく、より好ましくは15〜80重量%、さらに好ましくは20〜70重量%である。含有量が10重量%未満であると、硬化物の硬度が十分得られない場合がある。一方、含有量が90重量%を超えると、硬化物の硬度が十分得られない場合がある。
【0098】
(ラダー型シルセスキオキサン(B))
本発明の硬化性樹脂組成物におけるラダー型シルセスキオキサン(B)は、ラダー構造を有するポリオルガノシルセスキオキサン(ポリオルガノシルセスキオキサン骨格)の分子鎖末端の一部又は全部に、後述の式(3)で表される単位構造及び式(4)で表される単位構造を含むポリオルガノシルセスキオキサン残基(「ポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)」と称する場合がある)を有するポリオルガノシルセスキオキサンである。
【0099】
ラダー型シルセスキオキサン(B)におけるポリオルガノシルセスキオキサンは、実験式(基本構造式)RSiO1.5で表されるポリシロキサンである。ラダー型シルセスキオキサン(B)におけるポリオルガノシルセスキオキサンとしては、ラダー型シルセスキオキサン(A)におけるポリオルガノシルセスキオキサン(例えば、上記式(L)で表されるポリオルガノシルセスキオキサン)と同様のものが例示される。
【0100】
ラダー型シルセスキオキサン(B)は、ラダー型シルセスキオキサン(A)と同様に、特に、硬化物の腐食性ガスに対するバリア性の観点で、側鎖の一部又は全部が置換若しくは無置換のアリール基であることが好ましい。
【0101】
即ち、上記ポリオルガノシルセスキオキサンが上記式(L)で表される場合、ラダー型シルセスキオキサン(B)は、式(L)中のTの一部又は全部が以下のポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)で置換された構造を有する。
【0102】
上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)は、下記式(3)
【化20】
で表される単位構造及び下記式(4)
【化21】
で表される単位構造を少なくとも含む残基である。なお、上記式(3)で表される単位構造中の有機基(−X−CHR3−CR32−[SiR42−O−]n−SiHR42)を、「SiH含有基」と称する場合がある。
【0103】
上記式(3)中、Xは、単結合又は連結基(1以上の原子を有する二価の基)を示す。上記二価の連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル基(エーテル結合)、チオエーテル基(チオエーテル結合)、エステル基(エステル結合)、カーボネート基(カーボネート結合)、アミド基(アミド結合)、これらが複数個連結した基等が挙げられる。
【0104】
上記二価の炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜18の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基、二価の脂環式炭化水素基などが挙げられる。炭素数が1〜18の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基などが挙げられる。二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2−シクロペンチレン基、1,3−シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等の二価のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)などが挙げられる。
【0105】
上記式(3)における複数個のR3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、一価の有機基、一価の酸素原子含有基、一価の窒素原子含有基、又は一価の硫黄原子含有基を示す。即ち、複数個のR3は、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよい。R3としては、上記Rと同様の基が例示される。中でも、R3としては、それぞれ、水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭化水素基が好ましく、より好ましくは水素原子である。
【0106】
上記式(3)における複数個のR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、一価の有機基、一価の酸素原子含有基、一価の窒素原子含有基、又は一価の硫黄原子含有基を示す。即ち、複数個のR4は、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよい。上記ハロゲン原子、一価の有機基、一価の酸素原子含有基、一価の窒素原子含有基、一価の硫黄原子含有基としては、上記Rと同様の基が例示される。なお、式(3)中のnが2以上の整数の場合、nが付された各括弧内におけるR4は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0107】
上記の中でも、R4としては、それぞれ、水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭化水素基が好ましく、より好ましくは置換又は無置換の炭化水素基、さらに好ましくは脂肪族炭化水素基(特に、メチル基)、芳香族炭化水素基(特に、フェニル基)である。
【0108】
上記式(3)におけるnは、1〜100の整数を示し、好ましくは1〜30の整数、より好ましくは1〜10の整数、さらに好ましくは1〜5の整数である。nが大きすぎる場合、硬化物のガス(特に、腐食性ガス)に対するバリア性が低下する傾向があるため、例えば、光半導体素子の封止剤としては適さない場合がある。
【0109】
上記式(4)におけるR5(3つのR5)は、それぞれ独立に、炭化水素基(一価の炭化水素基)を示す。上記炭化水素基としては、上記Rにおいて例示したものと同様の炭化水素基が例示される。中でも、R5としては、C1-20アルキル基が好ましく、より好ましくはC1-10アルキル基、さらに好ましくはC1-4アルキル基、特に好ましくはメチル基である。特に、式(4)中のR5がいずれもメチル基であることが好ましい。
【0110】
上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)は、式(3)で表される単位構造と式(4)で表される単位構造以外にも、例えば、上記式(1′)で表される単位構造を有していてもよい。
【0111】
上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)における式(3)中の3つの酸素原子が結合したケイ素原子(SiH含有基中のケイ素原子は含まない)の量は、特に限定されないが、ポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)を構成するケイ素原子の全量(100モル%)に対して、20〜80モル%が好ましく、より好ましくは25〜60モル%である。含有量が20モル%未満であると、ラダー型シルセスキオキサン(B)が有するヒドロシリル基の量が不十分となって、硬化物の十分な硬度が得られない場合がある。一方、含有量が80モル%を超えると、ラダー型シルセスキオキサン(B)中にシラノール基や加水分解性シリル基が多く残存するため、ラダー型シルセスキオキサンが液状で得られない場合がある。さらに生成物中で縮合反応が進行して分子量が変化するため、保存安定性が悪化する場合がある。
【0112】
上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)における式(4)中の1つの酸素原子が結合したケイ素原子の量は、特に限定されないが、ポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)を構成するケイ素原子の全量(100モル%)に対して、20〜85モル%が好ましく、より好ましくは30〜75モル%である。含有量が20モル%未満であると、ラダー型シルセスキオキサン(B)中にシラノール基や加水分解性シリル基が残存しやすく、ラダー型シルセスキオキサンが液状で得られない場合がある。さらに生成物中で縮合反応が進行して分子量が変化するため、保存安定性が悪化する場合がある。一方、含有量が85モル%を超えると、ラダー型シルセスキオキサン(B)が有するヒドロシリル基の量が不十分となって、硬化物の硬度が十分得られない場合がある。
【0113】
上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)が有するSi−O−Si構造(骨格)としては、特に限定されず、例えば、ラダー構造、カゴ構造、ランダム構造などが挙げられる。
【0114】
ポリオルガノシルセスキオキサン(B)は、例えば、下記式(Lb)で表すことができる。式(Lb)中のp、Rとしては、上記式(L)と同様のものが例示される。式(Lb)中のRbは、ポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)、又は、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、若しくはアシルオキシ基を示し、式(Lb)中のRbの一部又は全部はポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)である。なお、式(Lb)中の複数(2〜4個)のRbがポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)である場合、それぞれのRbは互いに1以上のSi−O−Si結合を介して結合していてもよい。
【化22】
【0115】
なお、ラダー型シルセスキオキサン(B)におけるポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)は、さらに、上述のラダー型シルセスキオキサン(A)における式(1)で表される単位構造を有するものであってもよい。この場合、ラダー型シルセスキオキサン(B)は、ラダー型シルセスキオキサン(A)として使用することも可能な場合がある。
【0116】
ラダー型シルセスキオキサン(B)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ラダー構造を有し、分子鎖末端にシラノール基及び/又は加水分解性シリル基を有するポリオルガノシルセスキオキサン(原料ラダーポリマー)の分子鎖末端に対して、上記シルセスキオキサン残基(b)を形成する方法が挙げられる。
【0117】
ラダー型シルセスキオキサン(B)における原料ラダーポリマーとしては、ラダー型シルセスキオキサン(A)における原料ラダーポリマーと同様のものが使用できる。
【0118】
上記原料ラダーポリマーの分子鎖末端に対して上記ポリオルガノシルセスキオキサン残基(b)を形成し、ラダー型シルセスキオキサン(B)を生成させる方法としては、特に限定されないが、例えば、上記原料ラダーポリマーよりラダー型シルセスキオキサン(A)を形成し、該ラダー型シルセスキオキサン(A)と下記式(5)
【化23】
[式(5)中、R4、nは前記に同じ。]
で表される化合物とをヒドロシリル化触媒の存在下で反応させる方法などが挙げられる。但し、当該方法に限定されるものではない。
【0119】
上記式(5)で表される化合物としては、具体的には、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサンなどの両末端にヒドロシリル基を有する(Si−O)単位を1〜10個(好ましくは2〜5個)有する直鎖状ポリジメチルシロキサン、両末端にSiH基を有する直鎖状ポリジアルキルシロキサン(好ましくは直鎖状ポリジC1-10アルキルシロキサン)などが挙げられる。
【0120】
ラダー型シルセスキオキサン(A)と上記式(5)で表される化合物とを反応させる際の、式(5)で表される化合物の使用量は、特に限定されないが、ラダー型シルセスキオキサン(A)が有する脂肪族炭素−炭素二重結合の総量1モルに対して、上記(5)で表される化合物が有するヒドロシリル基(Si−H)が、3モル以上(例えば、3〜500モル)となるような使用量とすることが好ましく、より好ましくは5〜300モル、さらに好ましくは8〜100モル、特に好ましくは8〜20モルである。ヒドロシリル基の量が3モル未満となるような使用量であると、ラダー型シルセスキオキサン(A)と式(5)で表される化合物の硬化反応が進行し、ゲル化する場合がある。一方、ヒドロシリル基の量が500モルを超えるような使用量であると、コスト面で不利となる場合がある。
【0121】
上記ヒドロシリル化触媒としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒等の周知のヒドロシリル化反応用触媒が例示され、具体的には、白金微粉末、白金黒、白金担持シリカ微粉末、白金担持活性炭、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との錯体、白金のオレフィン錯体、白金−カルボニルビニルメチル錯体などの白金のカルボニル錯体、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体や白金−シクロビニルメチルシロキサン錯体などの白金ビニルメチルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、白金−ホスファイト錯体等の白金系触媒、ならびに上記白金系触媒において白金原子の代わりにパラジウム原子又はロジウム原子を含有するパラジウム系触媒又はロジウム系触媒が挙げられる。上記ヒドロシリル化触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、白金ビニルメチルシロキサン錯体や白金−カルボニルビニルメチル錯体や塩化白金酸とアルコール、アルデヒドとの錯体は反応速度が良好であるため好ましい。
【0122】
上記ヒドロシリル化触媒の使用量は、特に限定されないが、ラダー型シルセスキオキサン(A)が有する脂肪族炭素−炭素二重結合の全量1モルに対して、1×10-8〜1×10-2モルが好ましく、より好ましくは1.0×10-6〜1.0×10-3モルである。使用量が1×10-8モル未満であると、反応が十分に進行しない場合がある。一方、使用量が1×10-2モルを超えると、硬化物の着色が生じやすくなる場合がある。
【0123】
ラダー型シルセスキオキサン(B)を製造するにあたり、上記ヒドロシリル化反応(ラダー型シルセスキオキサン(A)と式(5)で表される化合物との反応)においては、必要に応じて、その他の添加剤を反応系中に添加してもよい。また、上記ヒドロシリル化反応は、必要に応じて、溶媒(例えば、上記で例示した有機溶媒など)中で実施してもよい。また、上記ヒドロシリル化反応を実施する雰囲気は、反応を阻害しないものであればよく、特に限定されないが、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などのいずれであってもよい。また、上記ヒドロシリル化反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などいずれの方法で行うこともできる。
【0124】
上記ヒドロシリル化反応の温度(反応温度)は、特に限定されないが、0〜200℃が好ましく、より好ましくは20〜150℃、さらに好ましくは30〜100℃である。反応温度が0℃未満であると、反応の進行が遅く、生産性が低下する場合がある。一方、反応温度が200℃を超えると、反応物の分解や副反応が併発し、収率が低下する場合がある。なお、反応温度は、反応の間一定に制御してもよいし、逐次的又は連続的に変化させてもよい。
【0125】
また、上記ヒドロシリル化反応の時間(反応時間)は、特に限定されないが、10〜1400分が好ましく、より好ましくは60〜720分である。反応時間が10分未満であると、十分に反応を進行させることができず、収率が低下する場合がある。一方、反応時間が1400分を超えると、反応物の分解や副反応が併発し、収率が低下したり、濃く着色する場合がある。
【0126】
上記ヒドロシリル化反応における圧力(反応圧力)は、特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下などいずれにおいても反応を実施することができる。
【0127】
上記で得られたラダー型シルセスキオキサン(B)は、例えば、水洗、酸洗浄、アルカリ洗浄、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段などの、公知乃至慣用の方法を利用して精製してもよい。
【0128】
ラダー型シルセスキオキサン(B)における、分子内(一分子中)の上記SiH含有基の数は、特に限定されないが、2個以上(例えば、2〜50個)が好ましく、より好ましくは2〜30個である。上述の範囲で上記SiH含有基を有することにより、硬化性樹脂組成物の硬化物の耐熱性が向上する傾向がある。
【0129】
ラダー型シルセスキオキサン(B)が有するヒドロシリル基(SiH基)の含有量は、特に限定されないが、0.01〜0.5mmol/gが好ましく、より好ましくは0.08〜0.28mmol/gである。また、ラダー型シルセスキオキサン(B)が有するヒドロシリル基(SiH基)の重量基準の含有量は、特に限定されないが、SiH基におけるH(ヒドリド)の重量換算(H換算)で、0.01〜0.50重量%が好ましく、より好ましくは0.08〜0.28重量%である。ヒドロシリル基の含有量が少なすぎると(例えば、0.01mmol/g未満、H換算で0.01重量%未満の場合)、硬化性樹脂組成物の硬化が進行しない場合がある。一方、ヒドロシリル基の含有量が多すぎると(例えば、0.50mmol/gを超える、H換算で0.50重量%を超える場合)、硬化物の硬度が高くなり、割れやすくなる場合がある。なお、ラダー型シルセスキオキサン(B)におけるヒドロシリル基の含有量は、例えば、1H−NMRなどによって測定することができる。
【0130】
なお、ラダー型シルセスキオキサン(B)が有するヒドロシリル基の全量(100モル%)に対するSiH含有基の含有量は、特に限定されないが、硬化度の観点で、50〜100モル%が好ましく、より好ましくは80〜100モル%である。
【0131】
ラダー型シルセスキオキサン(B)の分子量は、特に限定されないが、100〜80万が好ましく、より好ましくは200〜10万、さらに好ましくは300〜1万、特に好ましくは500〜9000である。ラダー型シルセスキオキサン(B)の分子量がこの範囲にあると、室温で液体となりやすく、なおかつその粘度が比較的低くなりやすいため、取り扱いが容易となる場合がある。なお、ラダー型シルセスキオキサン(B)は、上記範囲の種々の分子量を有するものの混合物であってもよい。なお、上記分子量は、例えば、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の分子量として測定することができる。
【0132】
ラダー型シルセスキオキサン(B)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、100〜80万が好ましく、より好ましくは200〜10万、さらに好ましくは300〜1万、特に好ましくは500〜9000である。重量平均分子量が100未満であると、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。一方、分子量が80万を超えると、他の成分との相溶性が低下する場合がある。なお、上記重量平均分子量は、例えば、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の分子量より算出することができる。
【0133】
ラダー型シルセスキオキサン(B)は、特に限定されないが、常温(約25℃)で液体であることが好ましい。より具体的には、ラダー型シルセスキオキサン(B)の23℃における粘度は、100〜100000mPa・sが好ましく、より好ましくは500〜10000mPa・s、さらに好ましくは1000〜8000mPa・sである。粘度が100mPa・s未満であると、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。一方、粘度が100000mPa・sを超えると、硬化性樹脂組成物の調製や取り扱いが困難となる場合がある。なお、23℃における粘度は、例えば、ラダー型シルセスキオキサン(A)の粘度と同様の方法により測定することができる。
【0134】
なお、本発明の硬化性樹脂組成物においてラダー型シルセスキオキサン(B)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0135】
本発明の硬化性樹脂組成物におけるラダー型シルセスキオキサン(B)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物(100重量%)に対して、10〜90重量%が好ましく、より好ましくは15〜75重量%、さらに好ましくは20〜60重量%である。含有量が10重量%未満であると、SiH含有量が低い為、未硬化になり硬化物の硬度が低下する場合がある。一方、含有量が90重量%を超えると、炭素−炭素結合の含有量が少なくなるため未硬化になる場合がある。
【0136】
(その他のラダー型シルセスキオキサン)
本発明の硬化性樹脂組成物におけるラダー型ポリオルガノシルセスキオキサンとしては、ラダー型シルセスキオキサン(A)、ラダー型シルセスキオキサン(B)以外のラダー型シルセスキオキサン(「その他のラダー型シルセスキオキサン」と称する場合がある)を使用することもできる。特に、上記その他のラダー型シルセスキオキサンは、ラダー型シルセスキオキサン(A)やラダー型シルセスキオキサン(B)と併用することが好ましい。上記その他のラダー型シルセスキオキサンとしては、特に、25℃において固体であり、なおかつ脂肪族炭素−炭素二重結合を有するラダー型シルセスキオキサン(「ラダー型シルセスキオキサン(S1)」と称する場合がある)、25℃において固体であり、なおかつヒドロシリル基を有するラダー型シルセスキオキサン(「ラダー型シルセスキオキサン(S2)」と称する場合がある)が好ましい。本発明の硬化性樹脂組成物がラダー型シルセスキオキサン(S1)及び/又は(S2)を含む場合には、特に、硬化により形成される硬化物の腐食性ガスに対するバリア性が向上し、さらに、強靭性(特に、耐クラック性)が向上する傾向がある。
【0137】
上記ラダー型シルセスキオキサン(S1)における、分子内(一分子中)の脂肪族炭素−炭素二重結合の数は、特に限定されないが、2個以上(例えば、2〜50個)が好ましく、より好ましくは2〜30個である。また、上記ラダー型シルセスキオキサン(S1)における脂肪族炭素−炭素二重結合の位置は、特に限定されず、側鎖であってもよいし、末端であってもよい。
【0138】
上記ラダー型シルセスキオキサン(S2)における、分子内(一分子中)のヒドロシリル基の数は、特に限定されないが、2個以上(例えば、2〜50個)が好ましく、より好ましくは2〜30個である。また、上記ラダー型シルセスキオキサン(S2)におけるヒドロシリル基の位置は、特に限定されず、側鎖であってもよいし、末端であってもよい。
【0139】
ラダー型シルセスキオキサン(S1)、(S2)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、2000〜80万が好ましく、より好ましくは6000〜10万である。重量平均分子量が2000未満であると、硬化物の腐食性ガスに対するバリア性が低下する場合がある。一方、分子量が80万を超えると、他の成分との相溶性が低下する場合がある。なお、上記重量平均分子量は、例えば、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の分子量より算出することができる。
【0140】
ラダー型シルセスキオキサン(S1)、(S2)は、公知乃至慣用のラダー型シルセスキオキサンの製造方法(例えば、3官能シラン化合物を原料としたゾルゲル法)により製造することができる。
【0141】
ラダー型シルセスキオキサン(S1)の含有量は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物(100重量%)に対して、0.1〜80重量%が好ましく、より好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは1〜40重量%である。ラダー型シルセスキオキサン(S1)の含有量が0.1重量%未満であると、硬化物の耐クラック性や腐食性ガスに対するバリア性が改善しない場合がある。一方、ラダー型シルセスキオキサン(S1)の含有量が80重量%を超えると、他の成分との相溶性が低下する場合があり、硬化性樹脂組成物を調製する際に不均一になる場合がある。また硬化性組成物が高粘度になって取り扱いが困難になる場合がある。なお、ラダー型シルセスキオキサン(S2)の含有量についても、上記範囲に制御することが好ましい。
【0142】
[環状シロキサン(C)]
本発明の硬化性樹脂組成物は、分子内(一分子中)に2個以上の脂肪族炭素−炭素二重結合を有する環状シロキサン(「環状シロキサン(C)」と称する)を含んでいてもよい。環状シロキサン(C)は、分子内に2個以上の脂肪族炭素−炭素二重結合を有し、なおかつ、Si−O結合により構成された環状構造を有するシロキサン化合物であればよく、特に限定されないが、例えば、下記式(6)で表される脂肪族炭素−炭素二重結合を含む基を有する化合物などが挙げられる。但し、環状シロキサン(C)には、ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサン(ラダー型シルセスキオキサン(A)、ラダー型シルセスキオキサン(B)など)は含まれないものとする。
【化24】
【0143】
上記式(6)中のR6は、同一又は異なって、一価の有機基を示し、上記Rにおける一価の有機基と同様のものが例示される。但し、式(6)で表される化合物のR6のうち、2個以上は脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基である。上記脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基としては、上記式(1)におけるR1と同様の基が挙げられる。上記脂肪族炭素−炭素二重結合を有する基としては、中でも、アルケニル基(特に、ビニル基)が好ましい。式(6)中のqは、3以上の整数(例えば、3〜10の整数)を表し、好ましくは3〜7の整数、より好ましくは4である。
【0144】
環状シロキサン(C)としては、具体的には、例えば、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン、1−プロピル−3,5,7−トリビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5−ジビニル−3,7−ジヘキシル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5−トリビニル−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタビニル−1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、1,3,5,7,9,11−ヘキサビニル−1,3,5,7,9,11−ヘキサメチルシクロヘキサシロキサンなどが挙げられる。なお、環状シロキサン(C)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、環状シロキサン(C)としては、特に、硬化性樹脂組成物の初期粘度の低下や硬化物の腐食性ガスに対するバリア性向上の効果を得られやすい点で、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサンが好ましい。
【0145】
なお、環状シロキサン(C)は、さらに、分子内に2個以上のヒドロシリル基を有するものであってもよい。この場合、環状シロキサン(C)は、後述の環状シロキサン(D)として使用することも可能な場合がある。
【0146】
本発明の硬化性樹脂組成物における環状シロキサン(C)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物(100重量%)に対して、0.01〜20重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。含有量が0.01重量%未満であると、硬化物の腐食性ガスに対するバリア性が低下したり、硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎる場合がある。一方、含有量が20重量%を超えると、硬度が高くなり過ぎて硬化物にクラックが生じやすくなったり、被着体からの剥離が生じやすくなる場合がある。
【0147】
[環状シロキサン(D)]
本発明の硬化性樹脂組成物は、分子内(一分子中)に2個以上のヒドロシリル基を有する環状シロキサン(「環状シロキサン(D)」と称する)を含んでいてもよい。環状シロキサン(D)は、分子内に2個以上のヒドロシリル基を有し、なおかつ、Si−O結合により構成された環状構造を有するシロキサン化合物であればよく、特に限定されないが、例えば、下記式(7)で表される化合物などが挙げられる。但し、環状シロキサン(D)には、ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサン(ラダー型シルセスキオキサン(A)、ラダー型シルセスキオキサン(B)など)は含まれないものとする。
【化25】
【0148】
上記式(7)中のR7は、同一又は異なって、水素原子又は一価の有機基を示し、上記一価の有機基としては、上記Rにおける一価の有機基と同様のものが例示される。但し、式(7)で表される化合物のR7のうち、2個以上は水素原子である。式(7)中のrは、3以上の整数(例えば、3〜10の整数)を表し、好ましくは3〜7の整数、より好ましくは4である。
【0149】
環状シロキサン(D)としては、具体的には、例えば、シクロトリシロキサン、ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン(例えば、1,3,5,7,9,11−ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン)などの分子内に6つのヒドロシリル基を有する環状シロキサン;ペンタメチルシクロペンタシロキサン(例えば、1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロペンタシロキサン)などの分子内に5つのヒドロシリル基を有する環状シロキサン;テトラメチルシクロテトラシロキサン(例えば、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン)などの分子内に4つのヒドロシリル基を有する環状シロキサン;1−プロピル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリメチルシクロトリシロキサン(1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン)、ペンタメチルシクロテトラシロキサン(例えば、1,1,3,5,7−ペンタメチルシクロテトラシロキサン)、へプタメチルシクロペンタシロキサン(例えば、1,1,3,5,5,7,9−へプタメチルシクロペンタシロキサン)等の分子内に3つのヒドロシリル基を有する環状シロキサン;ジヘキシルテトラメチルシクロテトラシロキサン(例えば、3,7−ジヘキシル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン)、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン(例えば、1,1,3,5,5,7−ヘキサメチルシクロテトラシロキサン)等の分子内に2つのヒドロシリル基を有する環状シロキサンなどが挙げられる。なお、環状シロキサン(D)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、特に、硬化性樹脂組成物の初期粘度の低下や硬化物の腐食性ガスに対するバリア性向上の効果を得られやすい点で、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンが好ましい。
【0150】
なお、環状シロキサン(D)は、さらに、分子内に2個以上の脂肪族炭素−炭素二重結合を有するものであってもよい。この場合、環状シロキサン(D)は、環状シロキサン(C)として使用することも可能な場合がある。
【0151】
本発明の硬化性樹脂組成物における環状シロキサン(D)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物(100重量%)に対して、0.01〜30重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜20重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%である。含有量が0.01重量%未満であると、硬化物の腐食性ガスに対するバリア性が低下する場合がある。一方、含有量が30重量%を超えると、硬化物の硬度が高くなり過ぎ、クラックが生じやすくなる場合がある。
【0152】
[ヒドロシリル化触媒]
本発明の硬化性樹脂組成物は、さらに、ヒドロシリル化触媒を含んでいてもよい。本発明の硬化性樹脂組成物は、ヒドロシリル化触媒を含むことにより、加熱によって各成分のヒドロシリル化反応を効率的に進行させることができる。上記ヒドロシリル化触媒としては、例えば、ラダー型シルセスキオキサン(B)の製造方法において例示したものと同様のものが例示される。なお、ヒドロシリル化触媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0153】
本発明の硬化性樹脂組成物におけるヒドロシリル化触媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、ヒドロシリル化触媒中の白金、パラジウム、又はロジウムが重量単位で、0.01〜1,000ppmの範囲内となる量が好ましく、0.1〜500ppmの範囲内となる量がさらに好ましい。ヒドロシリル化触媒の含有量がこのような範囲にあると、架橋速度が著しく遅くなることがなく、硬化物に着色等の問題を生じるおそれが少ないため好ましい。
【0154】
[シランカップリング剤]
本発明の硬化性樹脂組成物は、さらに、シランカップリング剤を含んでいてもよい。本発明の硬化性樹脂組成物がシランカップリング剤を含む場合には、特に、被着体に対する密着性が向上する傾向がある。さらに、シランカップリング剤は、上記モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物などのイソシアヌレート化合物やラダー型シルセスキオキサン(A)などとの相溶性が良好であるため、特に、上記モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物などのイソシアヌレート化合物のその他成分に対する相溶性を向上させることができる。具体的には、例えば、イソシヌレート化合物として上記モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物を使用する場合には、あらかじめモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物とシランカップリング剤の組成物を形成した上で、その他の成分と配合すると、均一な樹脂組成物が得られやすい。
【0155】
上記シランカップリング剤としては、公知乃至慣用のシランカップリング剤を使用することができ、特に限定されない。上記シランカップリング剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシ基含有シランカップリング剤;N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシシラン)、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メルカプトプロピレントリメトキシシラン、メルカプトプロピレントリエトキシシランなどが挙げられる。中でも、エポキシ基含有シランカップリング剤(特に、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を好ましく使用できる。なお、上記シランカップリング剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0156】
上記シランカップリング剤の含有量は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物(100重量%)に対して、0.01〜15重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。上記シランカップリング剤の含有量が0.01重量%未満であると、被着体に対する密着性が低下する。またモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物などのイソシアヌレート化合物などを相溶させて使用する際に、十分な効果が得られない場合がある。一方、上記シランカップリング剤の含有量が15重量%を超えると、硬化が不十分になり、硬化物の靭性、耐熱性、バリア性が低下する場合がある。
【0157】
[ヒドロシリル化反応抑制剤]
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化反応(ヒドロシリル化反応)の速度を調整するために、ヒドロシリル化反応抑制剤を含んでいてもよい。上記ヒドロシリル化反応抑制剤としては、例えば、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、フェニルブチノール等のアルキンアルコール;3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のエンイン化合物;チアゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。上記ヒドロシリル化反応抑制剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記ヒドロシリル化反応抑制剤の含有量としては、硬化性樹脂組成物の架橋条件により異なるが、実用上、硬化性樹脂組成物中の含有量として、0.00001〜5重量%の範囲内が好ましい。
【0158】
[その他のシラン化合物]
本発明の硬化性樹脂組成物は、その他のシラン化合物(例えば、ヒドロシリル基を有する化合物)を含んでいてもよい。上記その他のシラン化合物としては、例えば、メチル(トリスジメチルシロキシ)シラン、テトラキス(ジメチルシロキシ)シラン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,1,3,5,5,5−へプタメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン、1,1,1,3,5,5,7,7,7−ノナメチルテトラシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサン、1,1,1,3,5,5,7,7,9,9,9−ウンデカメチルペンタシロキサンなどのSiH基を有する直鎖又は分岐鎖状シロキサンなどが挙げられる。中でも、上記シラン化合物としては、分子内に2個以上のSiH基を有するものが好ましい。なお、上記シラン化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記シラン化合物の含有量は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物100重量%に対して、5重量%以下(例えば、0〜5重量%)が好ましく、より好ましくは1.5重量%以下である。
【0159】
[溶媒]
本発明の硬化性樹脂組成物は、溶媒を含んでいてもよい。上記溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン、イソプロパノール、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の従来公知の溶媒が挙げられる。溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0160】
[添加剤]
本発明の硬化性樹脂組成物は、その他任意の成分として、沈降シリカ、湿式シリカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、酸化チタン、アルミナ、ガラス、石英、アルミノケイ酸、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カーボンブラック、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の無機質充填剤、これらの充填剤をオルガノハロシラン、オルガノアルコキシシラン、オルガノシラザン等の有機ケイ素化合物により処理した無機質充填剤;シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等の有機樹脂微粉末;銀、銅等の導電性金属粉末等の充填剤、溶剤、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、補強材(他の充填剤など)、核剤、カップリング剤、滑剤、ワックス、可塑剤、離型剤、耐衝撃改良剤、色相改良剤、流動性改良剤、着色剤(染料、顔料など)、分散剤、消泡剤、脱泡剤、抗菌剤、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤などの慣用の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0161】
上記シリコーン樹脂としては、例えば、分子内(一分子中)にヒドロシリル基又は脂肪族炭素−炭素二重結合を2つ以上有するシリコーン(例えば、分子内にヒドロシリル基及び/又は脂肪族炭素−炭素二重結合を有するフェニルシリコーン(ポリジフェニルシロキサン)、フェニルメチルシリコーン(ポリメチルフェニルシロキサン)、ジメチルシリコーン(ポリジメチルシロキサン)など)などが挙げられる。
【0162】
本発明の硬化性樹脂組成物は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物中に存在するヒドロシリル基1モルに対して、脂肪族炭素−炭素二重結合が0.2〜4モルとなるような組成(配合組成)であることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5モル、さらに好ましくは0.8〜1.2モルである。ヒドロシリル基と脂肪族炭素−炭素二重結合との割合を上記範囲に制御することにより、硬化物の耐熱性、透明性、柔軟性、耐リフロー性、及び腐食性ガスに対するバリア性がより向上する傾向がある。
【0163】
本発明の硬化性樹脂組成物は、特に限定されないが、上記の各成分を室温で攪拌・混合することにより調製することができる。なお、本発明の硬化性樹脂組成物は、各成分があらかじめ混合されたものをそのまま使用する1液系の組成物として使用することもできるし、例えば、別々に保管しておいた2以上の成分を使用前に所定の割合で混合して使用する多液系(例えば、2液系)の組成物として使用することもできる。
【0164】
本発明の硬化性樹脂組成物は、特に限定されないが、常温(約25℃)で液体であることが好ましい。より具体的には、本発明の硬化性樹脂組成物は、23℃における粘度として、300〜20000mPa・sが好ましく、より好ましくは500〜10000mPa・s、さらに好ましくは1000〜8000mPa・sである。粘度が300mPa・s未満であると、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。一方、粘度が20000mPa・sを超えると、硬化性樹脂組成物の調製や取り扱いが困難となり、硬化物に気泡が残存しやすくなる場合がある。なお、硬化性樹脂組成物の粘度は、例えば、上述のラダー型シルセスキオキサン(A)の粘度と同様の方法で測定できる。
【0165】
[硬化物]
本発明の硬化性樹脂組成物をヒドロシリル化反応により硬化させることにより、硬化物(「本発明の硬化物」と称する場合がある)を得ることができる。硬化(ヒドロシリル化)の際の条件は、特に限定されず、従来公知の条件より適宜選択することができるが、例えば、反応速度の点から、温度(硬化温度)は25〜180℃(より好ましくは60℃〜150℃)が好ましく、時間(硬化時間)は5〜720分が好ましい。本発明の硬化物は、耐熱性、透明性、柔軟性等の各種物性に優れ、さらに、リフロー工程における耐クラック性、パッケージに対する密着性等の耐リフロー性に優れ、SOXガス等の腐食性ガスに対するバリア性にも優れる。
【0166】
[封止剤]
本発明の封止剤は、本発明の硬化性樹脂組成物を必須成分として含む封止剤である。本発明の封止剤を硬化させることにより得られる封止材(硬化物)は、耐熱性、透明性、柔軟性等の各種物性に優れ、さらに、耐リフロー性、腐食性ガスに対するバリア性に優れる。このため、本発明の封止剤は、半導体装置における半導体素子の封止剤、特に、光半導体装置における光半導体素子(特に、高輝度、短波長の光半導体素子)の封止剤等として好ましく使用できる。本発明の封止剤を用いて半導体素子(特に、光半導体素子)を封止することによって、耐久性及び品質に優れた半導体装置(特に、光半導体装置)が得られる。
【実施例】
【0167】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0168】
反応生成物及び製品の1H−NMR分析は、JEOL ECA500(500MHz)により行った。また、反応生成物及び製品の数平均分子量及び重量平均分子量の測定は、Alliance HPLCシステム 2695(Waters製)、Refractive Index Detector 2414(Waters製)、カラム:Tskgel GMHHR−M×2(東ソー(株)製)、ガードカラム:Tskgel guard column HHRL(東ソー(株)製)、カラムオーブン:COLUMN HEATER U−620(Sugai製)、溶媒:THF、測定条件:40℃、により行った。
【0169】
合成例1
[末端にビニル基とトリメチルシリル基(TMS基)とを有するラダー型シルセスキオキサン(プレポリマー;上述のラダー型シルセスキオキサン(A)にあたる)の合成]
200ml四つ口フラスコに、メチルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製))34.07g、フェニルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製)11.49g、及びメチルイソブチルケトン(MIBK)17.69gを仕込み、これらの混合物を10℃まで冷却した。上記混合物に水240ミリモル(4.33g)及び5Nの塩酸0.48g(塩化水素として2.4ミリモル)を1時間かけて同時滴下した。滴下後、これらの混合物を10℃で1時間保持した。その後、MIBKを80.0g添加して、反応溶媒を希釈した。
次に、反応容器の温度を70℃まで昇温し、70℃になった時点で水606ミリモル(10.91g)を添加し、重縮合反応を窒素下で9時間行った。さらに、ビニルトリエトキシシラン6.25gを添加し、3時間反応(熟成)を行った。
続いて、上記反応溶液にヘキサメチルジシロキサン15.0gを添加して、シリル化反応を70℃で3時間行った。その後、反応溶液を冷却し、下層液が中性になるまで水洗を行い、その後、上層液を分取した。次に、当該上層液から、1mmHg、60℃の条件で溶媒を留去し、末端にビニル基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサンを無色透明の液状の生成物として21.0g得た。
上記末端にビニル基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサンの重量平均分子量(Mw)は3400、1分子当たりのビニル基の含有量(平均含有量)は3.96重量%であり、フェニル基/メチル基/ビニル基(モル比)は17/68/15であった。
(末端にビニル基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサンの1H−NMRスペクトル)
1H−NMR(JEOL ECA500(500MHz、CDCl3))δ:−0.3−0.3ppm(br)、5.7−6.2ppm(br)、7.1−7.7ppm(br)
図1には、上記で得られた末端にビニル基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサンの1H−NMRスペクトルのチャートを示す。
【0170】
合成例2
[末端にSiH含有基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサン(プレポリマー;上述のラダー型シルセスキオキサン(B)にあたる)の合成]
50ml四つ口フラスコに、合成例1で得られた末端にビニル基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサン12gと、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(東京化成工業(株)製)24gと、2.0%白金−シクロビニルシロキサン錯体ビニルシクロシロキサン溶液(和光純薬工業(株)製)10μlとを仕込んだ。次いで、70℃で8時間加熱して、反応終了とした。続いて、エバポレータで濃縮した後、真空ポンプを用いて0.2Torrで3時間減圧し、末端にSiH含有基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサンを液状の生成物として14.4g得た。上記末端にSiH含有基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサンの重量平均分子量(Mw)は3700、1分子当たりのSiH基の含有量(平均含有量)は、SiH基におけるH(ヒドリド)の重量換算で0.11重量%であった。
(末端にSiH含有基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサンの1H−NMRスペクトル)
1H−NMR(JEOL ECA500(500MHz、CDCl3))δ:−0.3−0.3ppm(br)、4.7ppm(s)、7.1−7.7ppm(br)
図2には、上記で得られた末端にSiH含有基を有するラダー型シルセスキオキサンの1H−NMRスペクトルのチャートを示す。
【0171】
前記合成例1及び合成例2の他、ポリオルガノシロキサンとして、次の製品を使用した。
OE−6665A:東レ・ダウコーニング(株)製、ビニル基含有量11.97重量%、フェニル基含有量21.39重量%、数平均分子量831、重量平均分子量1455
OE−6665B:東レ・ダウコーニング(株)製、ビニル基含有量3.76重量%、フェニル基含有量48.58重量%、SiH基含有量(ヒドリド換算)0.16重量%、数平均分子量744、重量平均分子量1274
KER−2500A:信越化学工業(株)製、ビニル基含有量1.53重量%、フェニル基含有量0重量%、SiH基含有量(ヒドリド換算)0.03重量%、数平均分子量4453、重量平均分子量19355
KER−2500B:信越化学工業(株)製、ビニル基含有量1.08重量%、フェニル基含有量0重量%、SiH基含有量(ヒドリド換算)0.13重量%、数平均分子量4636、重量平均分子量18814
GD−1130A:長興化学工業(株)製、ビニル基含有量4.32重量%、フェニル基含有量44.18重量%、数平均分子量1107、重量平均分子量6099
GD−1130B:長興化学工業(株)製、ビニル基含有量3.45重量%、フェニル基含有量50.96重量%、SiH基含有量(ヒドリド換算)0.17重量%、数平均分子量631、重量平均分子量1305
【0172】
実施例1
[硬化性樹脂組成物1及びその硬化物1の製造]
合成例2で得られた末端にSiH含有基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサン0.644gと、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン0.049gと、合成例1で得られた末端にビニル基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサン0.500gと、粉末状のラダー型フェニルメチルビニルシルセスキオキサン[重量平均分子量Mw7000、フェニル/メチル/ビニル(モル比)=17/68/15]0.500gと、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン0.050gとアリルジグリシジルイソシアヌル酸0.017gを予め3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン0.067gに溶解させたものとを混合し、室温で2時間攪拌したところ、各成分の相溶性は良好であり、透明で均一な溶液が得られた。この溶液に、2.0%白金−シクロビニルシロキサン錯体ビニルシクロシロキサン溶液(和光純薬工業(株)製)1.3μlを仕込み、さらに30分間攪拌して、硬化性樹脂組成物(「硬化性樹脂組成物1」と称する)を得た。
上記で得た硬化性樹脂組成物1をガラスプレートに塗布し、90℃で1時間、続いて、150℃で5時間加熱したところ、無色透明な硬化物(「硬化物1」と称する)が得られた。
【0173】
比較例1
[硬化性樹脂組成物2及びその硬化物2の製造]
合成例2で得られた末端にSiH含有基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサン0.644gと、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン0.049gと、合成例1で得られた末端にビニル基とTMS基とを有するラダー型シルセスキオキサン0.500gと、粉末状のラダー型フェニルメチルビニルシルセスキオキサン[重量平均分子量Mw7000、フェニル/メチル/ビニル(モル比)=17/68/15]0.500gと、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン0.050gと、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン0.067gとを混合し、室温で2時間攪拌したところ、各成分の相溶性は良好であり、透明で均一な溶液が得られた。この溶液に、2.0%白金−シクロビニルシロキサン錯体ビニルシクロシロキサン溶液(和光純薬工業(株)製)1.3μlを仕込み、さらに30分間攪拌して、硬化性樹脂組成物(「硬化性樹脂組成物2」と称する)を得た。
上記で得た硬化性樹脂組成物2をガラスプレートに塗布し、90℃で1時間、続いて、150℃で5時間加熱したところ、無色透明な硬化物(「硬化物2」と称する)が得られた。
【0174】
比較例2
OE−6665A 0.100gと、OE−6665B 2.000gとを混合し、30分間攪拌して、硬化性樹脂組成物を得た。得られた硬化性樹脂組成物をガラスプレート上に塗布し、150℃で2時間加熱すると無色透明な硬化物が得られた。
【0175】
比較例3
KER−2500A 1.000gと、KER−2500B 1.000gとを混合し、30分間攪拌して、硬化性樹脂組成物を得た。得られた硬化性樹脂組成物をガラスプレート上に塗布し、100℃で1時間、続いて、150℃で4時間加熱すると無色透明な硬化物が得られた。
【0176】
比較例4
GD−1130A 0.250gと、GD−1130B 1.000gと、メチルジアリルイソシアヌル酸0.003gを予め3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン0.010gに溶解させたものとを混合し、30分間攪拌して、硬化性樹脂組成物を得た。得られた硬化性樹脂組成物をガラスプレート上に塗布し、80℃で1時間、続いて、150℃で4時間加熱すると無色透明な硬化物が得られた。
【0177】
(評価)
[硬化物の各種物性評価]
実施例1で得られた硬化物1について、表1に記載の物性を表1に示す試験方法により評価した。評価結果を表1に示す。また、図3には、硬化物1の波長300〜800nmの光に対する光線透過率の測定結果を示す。
【表1】
【0178】
[リフロー試験]
LEDパッケージ(TOP LED OP−3、35mm×28mm、素子なし)に、実施例1、比較例1、2で得られた硬化性樹脂組成物を注入し、表2に示す条件で熱硬化させて、各水準(各硬化性樹脂組成物)について2個ずつ試料を作製した。上記試料を、リフロー試験機に260℃×2回の熱履歴が加わるようにして通した後、CCDカメラで100倍の拡大写真を撮影し、クラック(硬化物に生じたクラック)、剥離(硬化物の剥離)の有無を確認した。各水準の2個の試料のうち、クラック、剥離が生じた試料の個数を表2に示す。
【0179】
【表2】
【0180】
[硫黄腐食性試験]
LEDパッケージ(TOP LED OP−3、35mm×28mm、素子なし)に、実施例1、比較例1〜4で得られた硬化性樹脂組成物を注入し、表3に示す条件で熱硬化させて、各水準(各硬化性樹脂組成物)について試料を作製した。
上記試料と硫黄粉末(キシダ化学(株)製)0.3gとを450mlのガラス瓶に入れ、さらに上記ガラス瓶をアルミ製の箱の中に入れた。続いて、上記アルミ製の箱をオーブン(ヤマト科学(株)製、型番「DN−64」)に入れ、24時間後、48時間後、72時間後に、LEDパッケージにおける銀製電極の腐食状況を目視で観察した。そして、電極の腐食度を○、△、×の3段階[○:電極の色は試験前と同等であり、腐食は見られなかった。△:電極の色が茶褐色となり、腐食が確認された。×:電極の色が完全に黒色となり、電極が完全に腐食した。]で評価した。結果を表3に示す。
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明の硬化性樹脂組成物及び硬化物は、耐熱性、透明性、柔軟性、腐食性ガスに対するバリア性が求められる接着剤、コーティング剤、封止剤などの用途に有用である。特に、本発明の硬化性樹脂組成物及び硬化物は、光半導体素子(LED素子)の封止剤として好適である。
図1
図2
図3