【実施例】
【0026】
実施例(1)
平均体重2.2kgの雄性日本家兎9羽を用い、それらを3羽づつ3群に分けた。各群の家兎の左側(実験側)上顎第1大臼歯と第2大臼歯の口蓋側歯間歯槽骨の骨膜下に、生理的浸透圧と生理的なpHに調整した0.1、1.0、ないし10 mMのMPMBP溶液50μlを4日おきに6回注射した(いずれもネンブタール麻酔下で実施)。反対側(右側)の同部位には、50μl の生理的食塩水(0.9%NaCl溶液)を同様に注射し、対照とした。最後の注射後4日目に、ネンブタール過剰投与により動物を屠殺し、上顎骨を摘出、10%中性ホルマリン溶液(pH 7.4)で固定した。薬物投与部位附近の歯槽骨および口蓋骨を関心領域として、pQCT(peripheral Quantitative Computerized Tomography;
図2) およびμCT (microfocus Computerized Tomography;
図3) による3次元解析を行った。その結果、10 mM及び1.0 mMのMPMBP投与群の家兎において、
図2に示すような歯槽骨口蓋側への骨添加(「exp」で示した矢印の部分)、また、
図3に示すような歯槽部から口蓋正中部にかけての口蓋骨が厚みを増す像が観察された(「exp」で示した矢印の部分)。これらの変化は、1.0mM投与群に比べて10mM投与群の方が強く、0.1mM投与群での効果は不明であった。MPMBPの生体内におけるこのような骨形成促進効果は、既存のビスホスフォネート化合物においては報告されていない。
【0027】
実施例(2)
マウス頭蓋骨由来の骨芽細胞様株化細胞MC3T3-E1細胞(RIKEN Bio Resource Center, CELL BANK:RCB1126)を用い、骨形成の指標の一つとされ、また骨芽細胞前駆細胞の骨芽細胞への分化の指標とされるアルカリホスファターゼ(ALP)活性に対して、MPMBPがどのような効果を持つかについて検討した。MC3T3-E1細胞をα-MEM(10%牛血清添加)で培養し、コンフルエントに達した後、MPMBPの存在(1,10,および100μM)ないし非存在下で、6、10、ないし20日間、48 well のculture plate 中で培養した。培養終了後、細胞ホモジネートを作製し、Lowry et al の方法(J Biochem 1954;207:19-37)によりALP活性(per well)を測定した。その結果、MPMBPは、用量依存的、かつ経時的にALP活性を上昇させた(
図4、左)。同様な実験を、他のビスホスフォネート化合物(クロドクロネート、パミドロネート、インカドロネート、ゾレドロネート)についても行った結果、クロドロネートは公知の様に(Felix and Fleisch, Biochem J 1979; 183:73-81; Igarashi et al, Prostaglandins, Leukotriens, and Essential Fatty Acids 1997; 56: 121-125)ALP活性を上昇させた(
図4、右)が、パミドロネートには有意な変化は見られず(
図5、左上)、インカドロネートやゾレドロネートは、高濃度でALP活性を著明に低下させた(
図5、左下および右下)。これらの事実は、ALP活性に及ぼすビスホスフォネート化合物の効果は一様ではなく、P-C-P結合の炭素原子にどのような側鎖が付加されるかによって異なることを示すと同時に、MPMBPにおいては、[4-メチルチオ(フェニルチオ)]側鎖が、ALP活性の上昇に重要な役割を果たしていることを示している。
【0028】
実施例(3)
骨器官培養系を用いてMPMBPが、骨基質の産生にどのような効果を及ぼすかについて検討した。生後3-6日後のマウスより、無菌的にカルバリア(頭蓋冠)を採取した。これらをStern and Krieger の方法(Calcif Tissue Int 1983; 35:172-17)によりDMEM(10%牛血清添加、ヘパリン無添加、LPS 10μg/ml 添加あるいは無添加)で48時間培養した。培養終了後、Suzuki, Takeyama et al により記載された方法(J Histochem Cytochem 2005; 53:1525-1537)により、タイプIコラーゲンとアルカリホスファターゼの二重染色(
図6及び8)、タイプIコラーゲンとアリザリンレッドの二重染色(
図7)、あるいはタイプIコラーゲンのみ(
図9)の免疫組織化学染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。
【0029】
図6にマウス骨器官培養系におけるMPMBP(25μM)の骨基質産生促進作用を示す。
上段パネルは骨表面のノマルスキー微分干渉像。中段パネルは、タイプIコラーゲンとアルカリホスファターゼの二重染色を行った後の骨表面像、下段パネルは、タイプIコラーゲンとアルカリホスファターゼの二重染色を行ったあとの骨断面像を夫々示す。タイプIコラーゲンはロダミンにより赤色、アルカリホスファターゼ(骨芽細胞を染色)は脱リン酸化されると蛍光を発する基質(ELF-97)を用いることにより、その酵素活性が緑色に観察できる。培養液中へのMPMBPの添加により、LPS(10μg/ml)(リポポリサッカライド:骨吸収促進因子の一つ)の存在、非存在に関わらず対照骨に比べて著明に骨基質(タイプIコラーゲン:赤色の部分)の産生が増加している。骨芽細胞は、MPMBPの存在下でコラーゲン線維の産生が増すため、自身が産生するコラーゲン線維により被覆され、対照骨のように明瞭に観察できない。また、ノマルスキー微分干渉像の観察から、MPMBPの存在下では、LPSによる骨吸収が抑制され、LPSによって形成される吸収窩の大きさが、対照骨に比べて著しく小さいことが観察できる。
【0030】
図7にマウス骨器官培養系におけるMPMBPの骨基質産生促進作用と骨量増加作用を示す。上段パネルは骨表面のノマルスキー微分干渉像。中段パネルは、タイプIコラーゲン染色を行ったあとの骨表面像で、この図では、コラーゲン線維はアレキサフロー−488により緑色に観察される。下段パネルは、タイプIコラーゲンとアリザリンレッドの二重染色を行ったあとの骨断面像で、コラーゲン線維はアレキサフロー−488により緑色に、骨ミネラルはアリザリンレッドにより赤色に観察できる。MPMBP存在下で48時間培養した結果、LPSの存在、非存在に関わらず、対照骨に比べて著明に骨基質(緑色の部分)の産生が増加している像が観察された。また、骨ミネラル(赤色の部分)の厚みも対照骨に比べて厚い。さらに、ノマルスキー微分干渉像の観察から、MPMBPの存在下では、LPSによる骨吸収が抑制され、LPSによって形成される吸収窩の大きさが、対照骨に比べて著しく小さい。
【0031】
図8には、同じ骨器官培養系において、MPMBPとゾレドロネート(2.5μM)の効果を比較した結果が示してある。タイプIコラーゲンとアルカリホスファターゼの免疫二重染色を行ったあと、
図6と同様、タイプIコラーゲンはアレキサフルオー594により赤色に、アルカリホスファターゼ(骨芽細胞)は脱リン酸化されると蛍光を発する基質(ELF-97)を用いることにより、その酵素活性が緑色に染色されている。上段パネルは骨表面の観察像、下段パネルは、骨断面像。ゾレドロネートはLPSの存在、非存在のいずれにおいても、タイプIコラーゲンの産生を抑制したのに対して、MPMBPは著明に骨基質の産生を増加させた。MPMBP添加群では、骨芽細胞によって分泌された多量のコラーゲン繊維によって骨芽細胞自身が覆われ、観察し難いのに対して、ゾレドロネート添加群では、コラーゲンの産生が抑制されているため、骨芽細胞(緑色)が容易に観察できる。
【0032】
図9には、MPMBPの骨基質産生促進作用を、ビスホスフォネート化合物の中で唯一骨形成促進作用が報告されているアレンドロネートの効果(特許第3566984 骨形成促進剤; Tsuchimoto, Azuma et al, Jpn J Pharmacol 1994; 66:25-33; Duque and Rivas, J Bone Miner Res 2007; 22:1603-1611)と比較した結果を示す。骨器官培養系において同程度の骨吸収抑制作用を示す濃度(MPMBP:100μM;アレンドロネート:2.0μM)を用い48時間培養したあと(ヘパリン無添加)、タイプIコラーゲンを免疫染色し、アレキサフロー-488により緑色に染色した結果を示す。アレンドロネート存在下でもMPMBPと同様、対照骨に比べてコラーゲンの産生が増加している像が観察されるが、その程度は、MPMBPに比べてはるかに少ない。MPMBPの存在下では、太いコラーゲン線維が束状に大量に産生され、骨表面が密に覆われているのに対して、アレンドロネート存在下で産生されるコラーゲン線維は細く、針状のものが多い。アレンドロネートでは、産生されるコラーゲン線維の量がMPMBP程多くないため、骨芽細胞を容易に観察することができる。
【0033】
以上の様に、ゾレドロネートは骨基質の産生を抑制する方向に働くのに対して、MPMBPは、骨基質の産生を高める方向に作用することが明らかとなった。またその程度は、骨形成促進作用が唯一報告されているアレンドロネートの効果と比べてもはるかに高いものと考えられる。
【0034】
実施例(4)
MPMBPの骨形成促進作用のメカニズムを解明するための実験として、骨芽細胞様株化細胞MC3T3-E1細胞を用い、骨形成関連遺伝子の発現に及ぼす効果を、リアルタイムRT-PCR法により検討した。また、その効果をゾレドロネートの作用と比較した。
実験には、α-MEM(10%牛血清添加)で培養後、コンフルエントに達した骨芽細胞様株化細胞MC3T3-E1細胞を用いた。3日間MPMBP(1, 10, ないし100μM)ないしはゾレドロネート(0.1, 0.5 ないしは 2.0μM)の存在下で培養した(60mm径dishを使用)。培養終了後、細胞をscrapeし, トリゾール によりRNA を抽出した。5μgのRNAからcDNAを合成し、アルカリホスファターゼ、タイプI−αコラーゲン、オステオカルシン、骨シアロタンパク遺伝子に対する特異的プライマーを設定し、サーマルサイクラー中でPCR増幅を行い、上記遺伝子の発現量を測定した。
その結果、MPMBPは100μMの濃度において、骨形成促進の指標とされる上記遺伝子の発現をいずれも有意に上昇させた(
図10)。これに対してゾレドロネートは、用いた濃度範囲(細胞増殖が抑制されない濃度範囲)では、これら遺伝子の発現量に有意の変化を及ぼさなかった。(
図11)。
以上、上記4つの実施例のいずれにおいてもMPMBPは、骨形成に対して促進的な効果をもつことが新たに確認された。