【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、課題解決型医療機器等開発事業「自動化による術中高速組織診断のための新型免疫組織染色装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1及び特許文献2に提案するように、本願の発明者らは、非常に高精度な診断ができるが、一連の作業に時間がかかるという免疫組織染色反応の問題を、電界を印加し、液滴の内部までを非接触にコンタミネーションを抑制する撹拌技術で、該反応を迅速化することにより解決を図ってきた。これにより、例えば、肺がんにおける原発性または転移性などのがんの性状や脳腫瘍における悪性度など病理診断精度の向上が要求されていた術中迅速病理診断に、免疫組織染色反応が利用可能になり、その効果として確定診後に再手術の施工が不要になることが期待され、患者の負担軽減、さらには医療費の縮減に寄与することが期待されるに至っている。
【0003】
上述のような電界撹拌技術で液滴を非接触撹拌するには、液滴に十分な液滴内空間が確保される必要がある。具体的には、スライドガラス上で液滴をドーム形状とする必要がある。しかし、液滴は通常、電界撹拌の場となるスライドガラスとの親和性が良く、スライドガラス上で薄く広がるので、接触角を有するドーム形状を保持することが困難である。このような問題に対して従来、はっ水機能を付与するはっ水ペンで、スライドガラスに円環を描画し、この描画した円環内に電界撹拌しようとする液滴を滴下することで、液滴に一定の高さ(重力方向の厚み)を形成して液滴内空間を確保していた。
【0004】
はっ水ペンでスライドガラス上に円環を描画する際の問題点として、描く円環の直径、真円度等にばらつきが生じるため、形成した液滴のドーム形状の底面の径寸法、z軸方向の頂点位置(厚み)が、ロット毎に異なることが挙げられる。液滴の底面の径寸法や厚みがロット毎に異なると、電界を与える電極までの距離もばらつき、撹拌性がロット毎に異なる原因になる。そして、例えば、免疫組織染色反応に適用すれば、その染色の進行度合いがロット毎に異なるようになるため、診断に疑義が生じてしまう可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、このような問題に対して、液滴に対する撹拌性が均一になるように、液滴撹拌時の波面振動現象のばらつきが生じるとその都度、電圧を与える時の電極間距離の調整又は与える電圧や周波数の調整等を行い、反応系のばらつきを抑制してきたが、反応系の再現性を高めるためには、上述のようなばらつきを根本的に解決する手段の開発が求められる。さらに、電界撹拌ならびに電界洗浄によって液滴が活発に振動運動するため、はっ水ペンで形成した円環を乗り越え液滴が流れ出るのを防止する手段も必要となる。
【0007】
テンププレート等の治具を利用してはっ水ペンにより円環を描くことを試みたものの、ペンとテンププレートとの位置関係によっては、ペン先とスライドガラスとの接触角度にばらつきが生じること、操作者によってペンがスライドガラスに与える筆圧が異なること、さらには、ペン先端部が消耗してくると描かれる円環の形状寸法に変化が生じやすくなること等の問題があった。
【0008】
また、印刷技術を用い、均一なサークルをスライドガラス上に描くことも想定され得るが、免疫組織染色反応に適用することを鑑みれば、試料の固定等の工程でアセトン等の有機溶剤を用いるため、アセトン等の有機溶剤で溶出されない円環を印刷で描画できるか否かを検討する必要がある。なお、電界印加環境に影響を与え難い材質でサークルを均一に形成していく必要もある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑み提案され、電界印加環境に影響を与え難い材質で形成され、滴下形状並びに寸法精度に富んだ液滴に、非接触で均一な撹拌特性を与え、その反応系の再現性を高めることができる場をスライドガラス上に設置して構成される電界撹拌用ならびに電界洗浄用はっ水フレーム及び、これを用いた電界非接触撹拌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る電界撹拌
用はっ水フレームは
、貫通孔を有するフレーム体を形成し、このフレーム体を基板に設けて構成され
、フレーム体
の貫通孔に滴下された液滴
が基板に対して45度以下の接触角を与え
、フレーム体は、基板から着脱可能とするためにその外周端に外向き方向に突出させたヘソ部が設けられ、フレーム体の材質がポリビニル系、ポリ塩化ビニル系、シリコーン系又はフッ素系から選ばれる樹脂であり、フレーム体のフレーム幅が0.5〜5.0mmであって、フレーム体の厚みが0.1〜0.5mmであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る電界撹拌用はっ水フレームは、フレーム体の貫通孔に滴下された液滴が撹拌されたか否かを視認可能として染色工程の正常性を確認可能なセンサー部材が基板上に設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明
に係る電界撹拌用はっ水フレームは、主電源としてプラス側に0.4〜2.0kV/mm、これにオフセット電界強度0.2〜1.0kV/mmを加え、プラス側に偏った繰り返しの方形波を形成した電界を、周波数0.1〜300Hzで
フレーム体の貫通孔に滴下された液滴に与えることにより
、液滴を非接触で撹拌可能とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電界撹拌用ならびに電界洗浄用はっ水フレームは、耐アセトン性を有し、電界印加環境において電界分布に影響を与えない樹脂からなり、貫通孔を有するフレーム体を形成し、このフレーム体を基板に設けて構成され、フレーム体の貫通孔に滴下された液滴が基板に対して45度以下の接触角を与える作用を有する。このとき、貫通孔に滴下された液滴の液量によっては、その厚みがフレーム体の厚みより薄い構成であってもよい。フレーム体の貫通孔に滴下された液滴がこのような範囲であれば、本発明に係る電界撹拌用ならびに電界洗浄用はっ水フレームにより、当該液滴に対し、液滴の底面の径寸法のばらつきを抑制することができ、撹拌される液滴内空間を均一化することができる。
【0014】
これにより、撹拌される液滴内空間が均一化するので、その撹拌特性を均一化することができる。すなわち、主電圧としてプラス側に0.4〜2.0kV/mm、これにオフセット電界強度0.2〜1.0kV/mmを加え、プラス側に偏った繰り返しの方形波を形成した電界を、0.1〜300Hzの周波数で液滴に与えることにより、フレーム体の貫通孔に滴下された液滴の撹拌特性のばらつきを抑制し、反応系のばらつきを抑制して再現性のよい高い品位な電界撹拌を非接触で実現することができる。さらに、液滴の頂点位置と電極間の距離の調整作業並びに調整機構、与える電界強度の調整作業並びに調整機構及び、液滴高さの情報をセンシングする機構等が不要になって、本発明が適用される電界非接触撹拌装置の構成を簡略化することができる。
【0015】
なお、電界撹拌用ならびに電界洗浄用はっ水フレームは、フレーム体を基板に設けて構成されるので、ペンで枠を描く等の人手で作業する煩雑さも解消される。また、フレーム体は耐アセトン性を有し、電界印加環境において電界分布に影響を与えない樹脂から形成されるため、アセトン固定等を行うパラフィン切片を用いる免疫組織染色反応に適用するのに好ましい構成であり、かつ、フレーム体と液滴等との反応について電界付与に際して懸念する必要がない。
【0016】
ここで、電界撹拌用ならびに電界洗浄用はっ水フレームは、フレーム体の材質としての電界印加環境において電界分布に影響を与えない樹脂の例示として、ポリビニル系、ポリ塩化ビニル系、シリコーン系又はフッ素系から1つ選ばれる樹脂を挙げることができる。また、フレーム体の貫通孔に滴下された液滴に対して45度以下の接触角を与える条件の例示として、そのフレーム幅が0.5〜5.0mmであることを挙げることができる。基板上に形成するフレーム体の厚みは、基板に取り付ける樹脂そのものの厚みであって、0.1〜0.5mmであることが好ましい。厚みが0.1mm以下では非接触撹拌時に被撹拌液滴が決壊する虞があるためである。また、貫通孔の面積が19〜600mm
2であること、フレーム体の貫通孔において滴下する液滴は5〜1000μLであることが撹拌の均一性の面から好ましい。
【0017】
さらに、本発明では、液滴が撹拌されたか否かを視認可能として染色工程の正常性を確認可能なセンサー部材が基板上に設けられている構成により、液滴が撹拌されたか否かを視認することができ、免疫組織染色反応の進行度合いを視覚的に確認することができる。例えば、撹拌されると発色するポジティブコントロール、撹拌しても発色しないネガティブコントロールをセンサー部材とすれば、このセンサー部材の存在が染色工程の正常性を確認することができる、すなわち免疫組織染色反応が行われたか否かの指標にすることができるので、免疫組織染色反応を術中迅速病理診断で採用することを促すことができる。また、ポジティブコントロール等が検体組織と反応しないことの確認が得られる場合には、1つのフレーム体の枠に検体試料とセンサー部材とをそれぞれ独立させる構成とすることも可能となる。
【0018】
本発明に係る電界撹拌用ならびに電界洗浄用はっ水フレームにより、基板として例示されるガラスプレート上に耐アセトン性を有し、ポリビニル系、ポリ塩化ビニル系、シリコーン系又はフッ素系から1つ選ばれる樹脂からなる電界撹拌の良好な撹拌動作を生む反応場液滴形状並びに領域を確保する領域を形成し、ばらつきの少ない一定の量の液滴を滴下可能にすることによって、液滴反応場の高さのばらつきが抑制され、電極間と液滴頭頂部との距離長ばらつきが抑制されて、電界撹拌性のばらつきが抑制され、極めて簡易でありながら優れた液滴の反応場を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る電界撹拌用ならびに電界洗浄用はっ水フレームについての一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。具体的には、
図1〜
図2に示すような円環形状の電界撹拌用はっ水リング1について取り上げる。なお、本実施形態は、本発明の構成を具現化した例示に過ぎず、本発明は、特許請求の範囲に記載した事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことができる。例えば、電界撹拌用ならびに電界洗浄用はっ水フレームにおけるフレーム体は、円環形状のリングのほか、ロット毎に同じ形状であって、滴下される液滴に対して均一な撹拌性が確保される限り、正方形、長方形の矩形状等の各種形状のフレーム体でよい。
【0021】
電界撹拌用はっ水リング1は、
図1に示すように、耐アセトン性を有し、電界印加環境において電界分布に影響を与えない樹脂からなり、円環状の貫通孔を有するフレーム体(以下、「リング体」と称する。)10が形成され、このリング体10が基板としての、スライドガラス状のプラスチック基板2(
図2参照)に設けられて構成されている。そして、リング体10の貫通孔部分であるリング内部11に滴下された液滴に対して撹拌可能となるように、例えば、電界撹拌用はっ水リング1は、リング体10のリング内部11に滴下された液滴Lに対して45度以下の接触角を与える構成である。また、
図7に示すように、リング内部11に滴下された液滴の厚みがリング体10の厚みと同じ又は薄い構成としてもよい。
【0022】
そして、所定の接触角を満たすために、リング体10は、リング幅Wが0.5〜5.0mm、内部面積Sが19〜600mm
2とされる。リング体10の厚みは、プラスチック基板2に取り付ける樹脂そのものの厚みであって、0.1〜0.5mmである。この構成のリング体10において、リング内部11に滴下される液滴Lの容量は、5〜1000μLである。リング幅Wが0.5mm未満、或いは内部面積Sが19mm
2未満となると、撹拌時に液滴Lがリング体10の枠外に溢れる恐れがある。内部面積Sが600mm
2超となると、均一な撹拌が行われなくなる恐れがある。リング幅Wの上限は実施可能な範囲として特に制限されるものではないが、適用される電界非接触撹拌装置の電圧印加の場となる試料室の大きさ、基板の大きさ、材料の経済性等から合理的なリング幅(例えば、5mm程度まで)とすればよい。
【0023】
リング体10は、電界印加環境において電界分布に影響を与えない樹脂、例えば、ポリビニル系、ポリ塩化ビニル系、シリコーン系又はフッ素系から1つ選ばれる樹脂から形成されている。「電界印加環境において電界分布に影響を与えない」とは、電界撹拌用はっ水リング1が電界印加環境下で、その他の物質(少なくとも、リング内部11に滴下された液滴Lに含まれる物質等:披験物質)と一切、反応しないことをいう。また、プラスチック基板2から指等で着脱可能とするためのヘソ部10aをリング体10に設けることが操作性の観点から好ましい構成である。
【0024】
本実施形態では、フッ素系のニトフロンテープ(登録商標、日東電工No.903−T)又はポリ塩化ビニル系のPVCテープ(日東電工SPV−202)を材質として形成したリング体10を例示している。下記[表1]に本実施形態で採用したリング体10の一覧(実施例1〜8)を示す。なお、比較例は、従来のはっ水ペンでサークルを描いた例である。
【0026】
なお、本発明を構成するプラスチック基板2は公知のものでよく、プラスチックに限らず、ガラス製のものでも構わない。本発明を構成するフレーム体は、上述したリング体10の形状のほか、ロット毎に同じ形状であって、滴下される液滴に対して均一な撹拌性が確保される限り、矩形状等の各種の形状を採用することができる。
【0027】
本発明に係る電界撹拌用はっ水リング1は、
図2(a),(b)に示すように、電界非接触撹拌装置Eの電圧印加の場となる試料室E1に設置されて使用される。電界非接触撹拌装置Eは、試料室E1の電極E2において、主電圧としてプラス側に0.4〜2.0kV/mm、これにオフセット電界強度0.2〜1.0kV/mmを加え、プラス側に偏った繰り返しの方形波の電界を形成することができる。また、その電界を0.1〜300Hzの範囲で液滴Lが特異的に振動する周波数により、試料室E1に設置される電界撹拌用はっ水リング1に含まれる液滴Lに与えることができる。電界を与えられた液滴Lはリング体10のリング内部11にて非接触で撹拌される。なお、2〜40本の束としたバースト電界として、液滴に与えることもできる。
【0028】
以下、電界撹拌用はっ水リング(実施例1〜8)の性能について評価したので、これを説明していく。
【0029】
まず、実施例1〜8の電界撹拌用はっ水リング及び比較例について、1%BSA(仔牛血清アルブミン)溶液を150μL滴下したときに形成される接触角を調べた。その結果を、
図3に示す。
【0030】
図3に示すように、実施例1〜8の電界撹拌用はっ水リング1はすべて、滴下した液滴Lに対して45度以下の接触角を与えた。特に、実施例1及び実施例8以外の例では、はっ水ペンでサークルを描いた比較例と比べ同等又はそれ以上の接触角を与えた。これにより、実施例1〜8の電界撹拌用はっ水リング1は、液滴Lに対して45度以下の接触角をロット毎にばらつくことなく与えることができ、均一な撹拌特性を与えられることが分かった。
【0031】
また、実施例1〜8の電界撹拌用はっ水リング1を使って、一連の迅速診断プロトコルを、上述した電界非接触撹拌装置Eの試料室E1内で実施した。すなわち、リング体10のリング内部11に滴下した一次抗体を含む溶液、二次抗体を含む溶液のそれぞれの液滴Lに対し、試料室E1の電極E2において、主電圧としてプラス側に0.4〜2.0kV/mm、これにオフセット電界強度0.2〜1.0kV/mmを加え、プラス側に偏った繰り返しの方形波の電界を形成し、この電界を0.1〜300Hzの液滴Lが特異的に振動する周波数で与えて撹拌した。そして、滴下した試料(液滴)が、リング体10の外に漏れないで保持されているかどうかを調べた。その結果を、
図4に示す。
【0032】
上記迅速診断プロトコルとは、抗原抗体反応法の工程をいい、コンパウンド除去(30秒)、アセトン固定(2分)、PBS洗浄(30秒)、内因性POD除去(15秒)、PBS洗浄(30秒)、ブロッキング(5分)、一次抗体(5分)、PBS洗浄(30秒)、二次抗体(5分)の順に進める工程である。この試験では、一次抗体、二次抗体の代わりに、1%BSA溶液を150μL、電界撹拌用はっ水リング1のリング内部11に滴下して電界撹拌を行った。
【0033】
図4に示すように、ニトフロン(登録商標)を材質とした実施例1〜4の電界撹拌用はっ水リング1では、リング幅Wが1mmであるもの以外で、液滴Lがリング体10の外に漏れないで保持されていた。一方、PVCを材質とした実施例5〜8の電界撹拌用はっ水リング1では、リング幅Wが1mmであるもので、液滴Lがリング体10の外に漏れないで保持されていた。したがって、所定の材質のリング体10により本発明を構成すれば、免疫組織染色反応で一般的な5〜1000μLの容量の範囲において、そのリング体10のリング幅Wを0.5〜5.0mm、特に、1.0〜4.0mmとすることで、滴下した液滴Lを電界印加環境下であっても、リング体10の外に漏らさないで保持できることが分かった。
【0034】
なお、リング幅Wが0.5〜5.0mm程度であれば、リング体10の材質は、実施例に用いたポリ塩化ビニル系、フッ素系の樹脂のほか、ポリビニル系又はシリコーン系等の電界印加環境において電界分布に影響を与えない樹脂であるかぎり、採用することができる。すなわち、そのような電界撹拌用はっ水リング1において、液滴Lをリング体10の外に漏らさず、かつ、均一な非接触撹拌を行うことができる。
【0035】
ここで、本発明に係る電界撹拌用はっ水フレームは、貫通孔部分であるリング内部にセンサー部材を同梱して構成することができる。なお、センサー部材を基板上に設けるのであれば、リング外部に設けても構わない。
【0036】
本発明に係る電界撹拌用はっ水リング100は、
図5に示すように、センサー部材として、電界が付与されて撹拌されることにより、免疫組織染色反応を通じて発色するポジティブコントロール部101と、電界が付与されて撹拌されることにより、免疫組織染色反応を通じて非発色となるネガティブコントロール部102とがリング内部11に同梱されて構成されている。
【0037】
具体的には、リング内部11にニトロセルロースを粘着テープで固定し、このニトロセルロース上に、撹拌により発色するタンパク質(例えば、CK19とその抗体の組み合わせであれば、CK19)を所定量滴下してポジティブコントロール部101を形成する。同様に、ニトロセルロース上に、撹拌により非発色となるタンパク質(例えば、HER2とその抗体の組み合わせであれば、HER2)を滴下し、ネガティブコントロール部102を形成して構成する。リング内部に粘着テープで固定する部材としては、ニトロセルロースのほか、アガロースゲル、ゼラチン等を採用することができる。
【0038】
なお、
図5において、電界撹拌用はっ水リング100は、ポジティブコントロール部101及びネガティブコントロール部102の両方がリング内部11にそれぞれ独立して固定されているが、いずれか一方がリング内部11に固定される構成でもよい。また、リング内部11で固定するニトロセルロースの大きさは特に限定されないが、それぞれ1〜2×1〜2mm程度が視認性の観点から好ましい。
【0039】
粘着テープの材質についても特に限定されないが、アセトンとの反応し難い材質として、アクリルベースの両面テープ(例えば、デクセリアルズ社製G9951W−100)等を用いることが好ましい。電界撹拌用はっ水リング100を用いて、免疫組織染色反応においてアセトン固定処理を行う際には、タンパク質の溶出の懸念を回避するために静置状態で行うことが好ましい。
【0040】
本発明では、センサー部材と検体試料とがコンタミネーションを生じないことを確認した上でリング内部11にセンサー部材として同梱することや、本発明を構成するリング体10を2枚用い、そのうち一方を検体試料用に、他方をセンサー部材用に用いることで、一枚のプラスチック基板2に検体試料とセンサー部材とを同梱させ、コンタミネーションを生じない構成とすることができる。そして、例えば、一連の迅速診断プロトコルが上述した電界非接触撹拌装置Eで実施された際に、リング内部11に滴下された液滴Lが正常に撹拌されているか否かを、試料室E1内で知ることができる。例えば、何らかの原因によって停電が生じて電界撹拌が正常に動作しなかったことを、術中迅速病理診断の途中で知ることができる。すなわち、異常をいち早く察知し、迅速診断に支障をきたさないようにすることができることとなる。
【0041】
図6に、CK19とその抗体の組み合わせで構成されるポジティブコントロール部101、HER2で構成されるネガティブコントロール部102を同封した本発明に係る電界撹拌用はっ水リング100に、電界付与して免疫組織染色反応を進めた結果を示す。
【0042】
図6から、電界撹拌用はっ水リング100のリング内部11に滴下した液滴が電界撹拌され、ポジティブコントロール部101で発色され、ネガティブコントロール部102で発色していない様子が把握される。したがって、リング内部11のセンサー部材の存在が、免疫組織染色反応が行われたか否かの指標となるので、本発明を用いた免疫組織染色反応を、術中迅速病理診断で活用することを促すことができる。
【0043】
なお、電界撹拌用はっ水リング100では、上述した実施例1の電界撹拌用はっ水リングにポジティブコントロール部101やネガティブコントロール部102をそれぞれ独立して固定されるようにして同梱した構成とした。本発明を構成するリング体10を2枚用い、そのうち一方を検体試料用に、他方をセンサー部材用に採用することで、一枚のプラスチック基板2に検体試料とセンサー部材とを同梱させた構成を提供することもできる。電界付与の方法は上記実施例1〜8の電界撹拌用はっ水リング1を使って実施した一連の迅速診断プロトコルと同様である。ただし、この試験では、一次抗体の溶液(150μL)に、CK19に結合する抗体が含まれている。二次抗体の溶液(150μL)には、一次抗体に結合する抗体が含まれている。ポジティブコントロール部101の発色には、発色剤として3,3’ジアミノベンジジンを用いた。このような一次抗体は、ネガティブコントロール部102のHER2に対して結合しないので、二次抗体とも反応せず、したがって発色しない。
【0044】
ポジティブコントロール部101やネガティブコントロール部102に用いるタンパク質は、上述したCK19やHER2に限定されず、ほとんどすべてのタンパク質を用いることができる。現状、ほとんどすべてのタンパク質において、そのアミノ酸配列の情報は明らかにされているので、この情報に基づいて様々なタンパク質を合成し、また、その抗体を製造することができるからである。例えば、がん関連の迅速診断において、本発明を構成するポジティブコントロール部101やネガティブコントロール部102を活用する際には、Ki67、P53、EGFR、CD56、CK20、CA125等のタンパク質を利用することができる。
【0045】
ここで、本発明は、
図7に示すように、リング体10xの貫通孔部分であるリング内部11xに滴下された液滴Lの厚みが、リング体10xの厚みと同じ又は薄くなる構成を含む。例えば、リング体10xの厚みが0.2mmで内径φ20mm(内部面積Sは314mm
2)の電界撹拌用はっ水リング1xの場合、滴下された液滴Lの容量が100μL以下であるときにその厚みが、リング体10xの厚みと同じになり、又はリング体10xの厚みよりも薄くなる。また、図示を省略するが、リング体の厚みが0.2mmで内部面積Sが19mm
2の電界撹拌用はっ水リングの場合、ポジティブコントロール部101やネガティブコントロール部102用で、滴下された液滴Lの容量が5μLであるときにその厚みが、リング体の厚みと同じになる。そして、このような形態において、上述した一連の迅速診断プロトコルを、電界非接触撹拌装置Eの試料室E1内で、電極E2に主電圧としてプラス側に0.4〜2.0kV/mm、これにオフセット電界強度0.2〜1.0kV/mmを加え、プラス側に偏った繰り返しの方形波の電界を形成し、この電界を0.1〜300Hzの液滴Lが特異的に振動する周波数で与えて撹拌して実施した。その結果、滴下した液滴Lが電界印加環境下であっても、リング体10xの外に漏れさないで保持できることが分かり、すなわち、フレーム体の枠内部に滴下された液滴の撹拌特性のばらつきを抑制し、反応系のばらつきを抑制して再現性のよい高い品位な電界撹拌を非接触で実現することができた。これにより、非常に高価な抗体試薬の節約を図ることが理解される。
【0046】
以上、本発明について出願人が最良であると信じる実施形態を詳述したが、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、上記実施形態に限定されることなく、種々の設計変更を行うことが可能である。上記実施形態では、電界撹拌用はっ水リングのリング内径について12mmのものを使用して説明したが、19〜600mm
2のパラメータを満たせばよく、例えば、リング内径が5〜20mmのもので本発明を構成することができる。例えば、リング内径が20mmのものでは、本発明に係る電界撹拌用ならびに電界洗浄用はっ水フレームとして、ポジティブコントロール部やネガティブコントロール部を同梱させるほか、本発明を構成するフレーム体を2枚用い、そのうち一方を検体資料用に、他方をセンサー部材用に用いることで、一枚の基板に検体試料とセンサー部材とを同梱させた構成を提供することができる。すなわち迅速診断の対象である被診断試料を含めて同梱することが可能となる。
【0047】
また、基板上に形成するリング体の上下方向の厚みは、基板に取り付ける樹脂そのものの厚みであり、0.1〜0.5mmの範囲のうち、およそ0.2mm程度であることが好ましい。ちなみに本発明は、ポジティブコントロール部やネガティブコントロール部等のセンサー部材を同梱することを必須の構成要件とするものではない点に留意されたい。また、
図2等に示すような基板に対する液滴の接触角が正の値であって45度以下であるような場合は、免疫組織染色工程における洗浄時に適用することで洗浄効果を上げることができる。
図7に示すような基板に対する液滴の接触角がゼロ又は負の値(リング内部に滴下された液滴の厚みが、リング体の厚みと同じ又は薄くなる構成)であるような場合は、免疫組織染色工程における抗原抗体反応時又は染色時に適用することで抗体試薬の節約、抗原抗体反応の効果を上げることができる。
【0048】
このほか、本発明に係る電界撹拌用ならびに電界洗浄用はっ水フレームは、上述した実施形態のような免疫組織染色とともに、核酸におけるハイブリダイゼーション工程、並びに一般的な抗原抗体反応等に適用可能である。また、組織切片等を試料とし、これに試薬等を含んだ液滴を滴下し、その反応から病理診断する等の手段としても有効である。電界撹拌用ならびに電界洗浄用はっ水フレームであるから、電界撹拌、電界洗浄のいずれの用途にも活用することができる。