(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光増感色素を含む半導体電極と、酸化還元対となる化学種を含む電解質層と、前記電解質層を介して、前記半導体電極と対向配置される対極とを含む色素増感型太陽電池であって、
前記対極は白金族を含む触媒電極であり、
該触媒電極は、
(a)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物、または酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料;または
(c)上記(a)及び(b)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの硫黄材料で表面処理され、
但し、前記硫黄材料(b)については、該硫黄材料(b)で表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有し、
前記硫黄材料が酸化数−1の硫黄原子であるチオール基又はその塩中の硫黄原子を含む有機硫黄化合物である場合、該硫黄材料は、R1SHで表されるチオール(但し、R1は置換基を有していてもよい炭素数1〜40の炭化水素基である)又はその塩である、
ことを特徴とする色素増感太陽電池。
光増感色素を含む半導体電極と、酸化還元対となる化学種を含む電解質層と、前記電解質層を介して、前記半導体電極と対向配置される対極とを含む色素増感型太陽電池であって、
前記対極は白金族を含む触媒電極であり、
前記電解質層が、酸化還元対となる化学種、それらを溶解するための電解液用溶媒及び任意の添加剤を含み、
前記電解質層には、
(a)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料;
または
(c)上記(a)及び(b)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの硫黄材料が電解質層中に、
(A)溶解した状態で添加剤として含まれるか、
または、
(B)上記いずれかの硫黄材料のうち、酸化数+4の硫黄原子を含む硫黄材料、またはイオン性液体である有機硫黄材料から選ばれる、電解液用溶媒に用いることができる材料、について、
酸化還元対となる化学種を溶解させるのに十分な量で存在する電解液用溶媒として、含まれ、
但し、前記硫黄材料(b)は、前記触媒電極を該硫黄材料(b)で表面処理した場合、該表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有するようにする硫黄材料であること、
前記硫黄材料(a)がチオシアン酸グアニジニウムである場合、チオシアン酸グアニジニウムの電解質層中の濃度が0.1M未満であること、及び
前記硫黄材料(a)がチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムである場合、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムの電解液用溶媒中の体積百分率が、35体積%未満であること、
前記硫黄材料(b)が酸化数+4の硫黄原子を含む硫黄材料であるスルホン化合物である場合、該スルホン化合物は電解質層中の電解液用溶媒に溶解した状態で存在させる添加剤として用い、酸化還元対となる化学種を溶解させるのに十分な量で存在する電解液用溶媒としては用いないこと、
という条件を満たし、
但し、前記体積百分率は、電解質層の成分中、常温常圧(25℃、1気圧)で液体状態にある成分のうち、最も多量(単独成分として存在する場合の体積を基準)に存在する液体成分を主溶媒とし、該主溶媒の5分の1以上の体積(単独成分として存在する場合の体積を基準)を有する1以上の液体成分がある場合には該液体成分及びチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(イオン性液体)を共溶媒とした上で、これら主溶媒及び共溶媒の各体積の総和を基準にして、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムの体積百分率を計算する、
ことを特徴とする色素増感太陽電池。
光増感色素を含む半導体電極と、酸化還元対となる化学種を含む電解質層と、前記電解質層を介して、前記半導体電極と対向配置される対極とを含む色素増感型太陽電池であって、
前記対極は白金族を含む触媒電極であり、
該触媒電極は、
(a1)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物、または酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b1)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料;または
(c1)上記(a1)及び(b1)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの第一の硫黄材料で表面処理され、かつ
前記電解質層には、
(a2)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物、または酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b2)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料;
または
(c2)上記(a2)及び(b2)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの第二の硫黄材料が含まれ、
但し、前記第一の硫黄材料のうち、硫黄材料(b1)については、該硫黄材料(b1)で表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有すること、
前記第一の硫黄材料のうち、硫黄材料(a1)が酸化数−1の硫黄原子であるチオール基又はその塩中の硫黄原子を含む有機硫黄化合物である場合、該硫黄材料は、R1SHで表されるチオール(但し、R1は置換基を有していてもよい炭素数1〜40の炭化水素基である)又はその塩であること、
前記第二の硫黄材料のうち、硫黄材料(b2)については、前記触媒電極を該硫黄材料(b2)で表面処理した場合、該表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有するようになるという条件を満たす硫黄材料であることを特徴とする色素増感太陽電池。
前記第二の硫黄材料が電解質層中の添加剤としてのチオシアン酸グアニジニウムである場合、前記第一の硫黄材料としてはチオシアン酸グアニジニウム以外の硫黄材料を用いること、及び前記第二の硫黄材料が電解質層中の電解液用溶媒としてのチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムである場合、前記第一の硫黄材料としてはチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム以外の硫黄材料を用いることを条件とする請求項3に記載の色素増感太陽電池。
光増感色素を含む半導体電極と、酸化還元対となる化学種を含む電解質層と、前記電解質層を介して、前記半導体電極と対向配置される対極とを含む色素増感型太陽電池であって、
前記対極は白金族を含む触媒電極であり、
前記電解質層が、酸化還元対となる化学種、それらを溶解するための電解液用溶媒及び添加剤を含み、
前記添加剤には、
(a)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料
または
(c)上記(a)及び(b)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの硫黄材料が含まれ、該硫黄材料は電解質層中に溶解した状態で含まれ、
但し、前記硫黄材料(b)は、前記触媒電極を該硫黄材料(b)で表面処理した場合、該表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有するようにする硫黄材料であること、
前記硫黄材料(a)がチオシアン酸グアニジニウムである場合、チオシアン酸グアニジニウムの電解質層中の濃度が0.1M未満であること、及び
前記硫黄材料(a)がチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムである場合、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムの電解液用溶媒中の体積百分率が、35体積%未満であること、
という条件を満たし、
但し、前記体積百分率は、電解質層の成分中、常温常圧(25℃、1気圧)で液体状態にある成分のうち、最も多量(単独成分として存在する場合の体積を基準)に存在する液体成分を主溶媒とし、該主溶媒の5分の1以上の体積(単独成分として存在する場合の体積を基準)を有する1以上の液体成分がある場合には該液体成分及びチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(イオン性液体)を共溶媒とした上で、これら主溶媒及び共溶媒の各体積の総和を基準にして、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムの体積百分率を計算する、
ことを特徴とする色素増感太陽電池。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、触媒電極からの触媒の溶出を防止することによって色素増感太陽電池の耐久性・耐熱性を向上させること、及びさらにより一般的に、新たに触媒電極の耐久性・耐熱性を向上させる方法を提供することを課題としている。
【0012】
1.本発明の第1の態様は、光増感色素を含む半導体電極と、酸化還元対となる化学種を含む電解質層と、前記電解質層を介して、前記半導体電極と対向配置される対極とを含む色素増感型太陽電池であって、
前記対極は白金族を含む触媒電極であり、
該触媒電極は、
(a)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物、または酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料;または
(c)上記(a)及び(b)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの硫黄材料で表面処理され、
但し、前記硫黄材料(b)については、該硫黄材料(b)で表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有する、ことを特徴とする色素増感太陽電池である。
【0013】
2.本発明の第2の態様は、光増感色素を含む半導体電極と、酸化還元対となる化学種を含む電解質層と、前記電解質層を介して、前記半導体電極と対向配置される対極とを含む色素増感型太陽電池であって、
前記対極は白金族を含む触媒電極であり、
前記電解質層には、
(a)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料;
または
(c)上記(a)及び(b)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの硫黄材料が含まれ、
但し、前記硫黄材料(b)は、前記触媒電極を該硫黄材料(b)で表面処理した場合、該表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有するようにする硫黄材料であること、
前記硫黄材料(a)がチオシアン酸グアニジニウムである場合、チオシアン酸グアニジニウムの電解質層中の濃度が0.1M未満であること、及び
前記硫黄材料(a)がチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムである場合、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムの電解液用溶媒中の体積百分率が、35体積%未満であること、
という条件を満たし、
但し、前記体積百分率は、電解質層の成分中、常温常圧(25℃、1気圧)で液体状態にある成分のうち、最も多量(単独成分として存在する場合の体積を基準)に存在する液体成分を主溶媒とし、該主溶媒の5分の1以上の体積(単独成分として存在する場合の体積を基準)を有する1以上の液体成分がある場合には該液体成分及びチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(イオン性液体)を共溶媒とした上で、これら主溶媒及び共溶媒の各体積の総和を基準にして、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムの体積百分率を計算する、
ことを特徴とする色素増感太陽電池である。
【0014】
3.本発明の第3の態様は、光増感色素を含む半導体電極と、酸化還元対となる化学種を含む電解質層と、前記電解質層を介して、前記半導体電極と対向配置される対極とを含む色素増感型太陽電池であって、
前記対極は白金族を含む触媒電極であり、
該触媒電極は、
(a1)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物、または酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b1)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料;または
(c1)上記(a1)及び(b1)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの第一の硫黄材料で表面処理され、かつ
前記電解質層には、
(a2)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物、または酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b2)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料;
または
(c2)上記(a2)及び(b2)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの第二の硫黄材料が含まれ、
但し、前記第一の硫黄材料のうち、硫黄材料(b1)については、該硫黄材料(b1)で表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有すること、及び
前記第二の硫黄材料のうち、硫黄材料(b2)については、前記触媒電極を該硫黄材料(b2)で表面処理した場合、該表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有するようになるという条件を満たす硫黄材料である、
ことを特徴とする色素増感太陽電池である。
【0015】
4.本発明の第4の態様は、白金族触媒を有する触媒電極から、該触媒電極と接触する電解質層へ白金族触媒が溶出するのを防止する方法であって、
該電解質層には酸化還元対となる化学種が含まれており、
前記触媒電極を、
(a1)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物若しくは酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b1)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物若しくは酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料; または
(c1)上記(a1)及び(b1)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの第一の硫黄材料で表面処理すること、
及び/または、
電解質層に、
(a2)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物若しくは酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b2)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物若しくは酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料;
または
(c2)上記(a2)及び(b2)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの第二の硫黄材料を含ませること、
但し、前記第一の硫黄材料のうち、硫黄材料(b1)については、該硫黄材料(b1)で表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有すること、
また、前記第二の硫黄材料のうち、硫黄材料(b2)については、前記触媒電極を該硫黄材料(b2)で表面処理した場合、該表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有するようになるという条件を満たす硫黄材料である、
ことにより、白金族触媒の溶出を防止する方法である。
【0016】
本発明の第1の態様では、触媒電極からの触媒の溶出が防止できるため、耐久性・耐熱性の高い太陽電池を得ることができる。また、少なくとも本発明のより好ましい態様においては、触媒電極の触媒活性も高めることができ、これにより耐久性・耐熱性ばかりでなく太陽電池の光電変換効率も向上しうる。
【0017】
また、本発明の第2の態様では、電解液中に特定の硫黄材料を添加するだけの手段であるため、非常に簡便かつ低コストで、触媒電極及びそれを用いた電池の耐久性・耐熱性を向上できる利点がある。また、触媒電極表面上に形成され、耐久性・耐熱性に寄与すると考えられる硫黄被膜の持続性が期待できる。
【0018】
また、本発明の第3の態様では、上記第1の態様と第2の態様の両方のメリットを得ることが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.本発明の第1の態様について
本発明の第1の態様では、色素増感型太陽電池において、触媒電極を特定の硫黄材料で表面処理している点が特徴である。
【0021】
本発明において、触媒の溶出を抑制する効果及び、少なくともより好ましい態様において触媒活性向上効果が発現する。そのメカニズムの詳細は不明であるが、特定の硫黄材料との接触により、触媒金属の表面に低酸化状態(酸化数−2〜0)の硫黄原子を含む単分子若しくは単原子層の被膜が形成され、該硫黄原子が触媒金属表面に還元性の環境を作り出すことによるのではと推察している。すなわち、該還元性の環境が、電解質中の酸化性物質(I
2など)による触媒の酸化溶解を抑制するとともに、少なくともより好ましい態様においては、硫黄原子との結合ないし相互作用により、触媒金属の電子状態が変化し、触媒としての活性も高まるのではないかと考えている。
【0022】
1)硫黄材料について
(1)本態様における硫黄材料は、
(a)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物、または酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000、より好ましくは32〜5,000、更に好ましくは32〜1,000、更に好ましくは32〜500の少なくとも1種の硫黄材料;
(b)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4、より好ましくは酸化数+3若しくは+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物、または酸化数+1〜+4、より好ましくは+3若しくは+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される少なくとも1種の硫黄材料;または
(c)上記(a)及び(b)の硫黄材料の混合物、
のいずれかの硫黄材料をいう。
【0023】
但し、前記硫黄材料(b)については、該硫黄材料(b)で表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有することを条件とする。
【0024】
(2)本態様における前記硫黄材料(a)には、酸化数−2〜0の硫黄原子が少なくとも一つ含まれ、前記硫黄材料(b)には、酸化数−2〜0の硫黄原子は含まれないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子が少なくとも一つ含まれる。
【0025】
酸化数とは、元素の見掛け上の酸化状態であり、(i)共有結合性化合物中の各原子の酸化数は、2原子間に共有されている電子対を電気陰性度の大きい方の原子へ全部割り当てたとき各原子に残る形式電荷の数であり、(ii)イオン性化合物中の単原子イオンの酸化数はそのイオンの荷電数に等しく、(iii)単体中の原子の酸化数は、常に0とする。
【0026】
なお、電気陰性度は、原子が結合を通して電子を引きつけ電気的に陰性になる度合いをいい、たとえばポーリングによる値として、主な元素の値を挙げると以下のようになる。
すなわち、
元素(電気陰性度):
H(2.1)、C(2.5)、N(3.0)、O(3.5)、S(2.5)、
である。
【0027】
(3)前記硫黄材料(a)で表面処理した触媒電極表面上には、低酸化状態(酸化数−2〜0)の硫黄被膜が形成されていると考えられ、このことは該触媒電極表面のX線光電子スペクトルのS2p領域(硫黄原子の2p軌道電子の光電子ピーク領域)に161〜165eVの低酸化状態(酸化数−2〜0)の硫黄に起因すると思われる光電子ピークがあることから確認できる(
図1A、
図1B、
図2A、
図2B、
図3A及び非特許文献4参照)。
【0028】
これに対し、前記硫黄材料(b1)の場合、該硫黄材料で表面処理した触媒電極表面上で一旦、酸化数+1〜+4の硫黄原子が還元され、触媒電極表面上に形成される硫黄被膜中には、前記硫黄材料(a)と同様の低酸化状態(酸化数−2〜0)に変換された硫黄原子が含まれていると考えられる。このことは、酸化数+3の硫黄原子を含むと考えられる亜二チオン酸ナトリウムや酸化数+4の硫黄原子を含むと考えられるスルホランで処理した触媒電極表面のX線光電子分光スペクトルにおいて、S2p領域(硫黄原子の2p軌道電子の光電子ピーク領域)に161〜165eVの低酸化状態(酸化数−2〜0)の硫黄に起因すると思われる光電子ピークが、前記硫黄材料(a)と同様に見られることから推察される(
図4A及び
図4B参照)。
【0029】
前記硫黄材料(b)については、酸化数+1〜+4の硫黄原子が低酸化状態の硫黄原子に還元される過程を経ると考えられることから、該硫黄材料(b)で表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有することを条件とする。
【0030】
(4)硫黄単体とは、自然硫黄等、遊離の状態で存在する硫黄である。なお、単体なので、酸化数は0である。
【0031】
(5)前記硫黄材料(a)の無機硫黄化合物としては、たとえば以下の(i)、(ii)、(iii)が挙げられる。
【0032】
(i)硫化金属塩、硫化水素金属塩、硫化アンモニウム塩、硫化第一〜第四級アンモニウム塩、硫化水素アンモニウム塩、硫化水素第一〜第四級アンモニウム塩、または硫化水素。
【0033】
金属としては好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属である。
【0034】
第一〜第四級アンモニウムとしては、たとえばピリジニウム、グアニジニウム、テトラプロピルアンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム等を例示できる。
【0037】
(ここで、2つのMは同一または異なって、アルカリ金属、アンモニウム、ピリジニウム、グアニジニウムまたは水素である。)
で表される。
【0038】
より具体的には、硫化ナトリウム、硫化水素等を例示できる。
【0039】
なお、本化合物中の硫黄原子の酸化数は−2である。
【0040】
(ii)チオ硫酸又はその塩又はそのエステル
塩の対カチオンとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、第一〜第四級アンモニウム(ピリジニウム、グアニジニウム、テトラプロピルアンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウムなど)を挙げることができ、エステルとしては、有機化合物の範疇に入ってしまうものの、便宜上ここで例示すると、置換基を有していてもよい、総炭素数1〜40、より好ましくは1〜20、更に好ましくは1〜10のアルコールとのエステルを挙げることができる。
【0043】
(ここで、2つのMは同一または異なって、アルカリ金属、アンモニウム、ピリジニウム、グアニジニウムまたは水素イオンである。)
より具体的には、チオ硫酸ナトリウムを例示できる。
【0044】
なお、本化合物中の2つの硫黄原子の酸化数は一方の硫黄原子は+4であるが、もう一方の硫黄原子は0である。
【0045】
(iii)硫化炭素
硫化炭素としては、二硫化炭素、三硫化二炭素、一硫化炭素、亜硫化炭素を例示することができ、硫化窒素としては四硫化四窒素を例示することができる。
【0046】
硫化炭素である二硫化炭素、三硫化二炭素、一硫化炭素、亜硫化炭素中の硫黄原子の酸化数は0である。
【0047】
(6)前記硫黄材料(a)の有機硫黄化合物としては、たとえば以下の(iv)〜(vii)が挙げられる。
【0048】
(iv)チオール基[−SH]及びその塩、ヒドロポリスルフィド基[−(S)
nSH、但し、nは1以上の整数]及びその塩、スルフィド基[−S−]、ポリスルフィド基[−(S)
nS−、但し、nは1以上の整数]、チオカルボニル基[−C(=S)−]、チオアルデヒド基[−C(=S)H]、チオカルボン酸基[−C(=S)OHまたは−C(=O)SH]及びその塩又はそのエステル若しくはそのアミド若しくはそのイミド若しくはその酸無水物若しくはその酸ハロゲン化物、ジチオカルボン酸[−C(=S)SH]及びその塩又はそのエステル、チオアセタール基、チオケタール基、から選ばれる硫黄官能基の1種以上を有する有機硫黄化合物。
【0049】
より具体的には、下式で表されるものが代表的なものである。
【0052】
ここで、
R
1、R
2、R
3、R
4は、同一または異なって、置換基を有していてもよい、総炭素数1〜40、より好ましくは1〜20、更に好ましくは1〜10の炭化水素基である。
【0053】
また、上記式(V)、(VI)、(VII)、(IX−1)、(IX−2)、及び(X)中のR
1とR
2は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0054】
また、上記式(XI)、(XII−2)及び(XII−3)中のR
1、R
2及びR
3は、互いに結合して環を形成していてもよい。たとえばR
1とR
2が互いに結合して環を形成する、あるいはR
1、R
2、R
3の3つが互いに結合して縮合二環式になっていてもよい。
【0055】
また、式(XII)中のR
1、R
2,R
3、R
4は、互いに結合して環を形成していてもよい。たとえば、R
1とR
2が互いに結合して環を形成してもよいし、R
1とR
2とが互いに結合するとともにR
3とR
4とが互いに結合して二環式になっていてもよいし、R
1、R
2、R
3が互いに結合して縮合二環式になっていてもよいし、R
1、R
2、R
3、R
4が互いに結合して縮合三環式になっていてもよい。
【0056】
より具体的には、n−ドデカンカンチオール、メチオニン、下式(XIII)に示すようなトリアジンのトリチオール(2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジン一ナトリウム)などを例示することができる。
【0058】
なお、本化合物中の硫黄原子の酸化数は−1〜0である。
(v)チオシアン酸又はその塩又はそのエステル、又はイソチオシアン酸エステル。
【0059】
より具体的には、下式で表されるものが代表的なものである。
【0061】
ここで、R
5、R
6は、同一または異なって、置換基を有していてもよい、総炭素数1〜40、より好ましくは1〜20、更に好ましくは1〜10の炭化水素基、水素、または対カチオンである。
【0062】
チオシアン酸塩の対カチオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、第一〜第四級アンモニウムイオンなどを挙げることができる。
【0063】
より具体的には、チオシアン酸ナトリウム塩、及び下式で示されるイソチオシアン酸シクロヘキシルエステル等を例示できる。
【0065】
なお、本化合物中の硫黄原子の酸化数は−1〜0である。
なお、上記イソチオシアン酸シクロヘキシルエステルと類似するものの、硫黄原子を含まないイソシアン酸n−ヘキシルエステルでは、本発明の効果は得られなかった。
(vi)チオ尿素、イソチオ尿素、ジチオカルバミン酸又はその塩又はそのエステル。
【0066】
より具体的には、下式で表されるものが代表的なものである。
【0068】
ここで、R
7、R
8、R
9、R
10は、同一または異なって、水素原子、または置換基を有していてもよい、総炭素数1〜40、より好ましくは1〜20、更に好ましくは1〜10の炭化水素基である。
【0069】
また、R
7、R
8、R
9、R
10は互いに結合して単環式または多環式(縮合環を含む)の環を形成してもよい。
【0070】
より具体的には、チオ尿素や、下式に示されるようなジチオカルバミン酸類を例示できる。
【0072】
なお、本化合物中の硫黄原子の酸化数は0である。
(vii)置換若しくは無置換のチオフェン、または置換若しくは無置換のチアゾール。
【0073】
より具体的には、下式で表されるものが代表的なものである。
【0075】
ここで、Aは炭素原子または窒素原子である。
【0076】
また、R
11、R
12、R
13(Aが炭素原子の場合)、R
14は、同一または異なって、水素原子、置換基を有していてもよい、総炭素数1〜40、より好ましくは1〜20、更に好ましくは1〜10の炭化水素基、または置換基を有していてもよい、総炭素数1〜40、より好ましくは1〜20、更に好ましくは1〜10のアルコキシ基である。
【0077】
但し、Aが窒素原子の場合、R
13は窒素原子の非共有電子対であり、Aが炭素原子の場合、R
11とR
13は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0078】
また、R
12とR
14は互いに結合して脂環式の環またはベンゼン環を形成していてもよい。
【0079】
より具体的には、チオフェン、ベンゾチアゾールを例示できる。
【0080】
なお、本化合物中の硫黄原子の酸化数は0である。
【0081】
なお、ベンゾチアゾールの硫黄原子を酸素原子に置き換えた構造をもつベンゾオキサゾールでは、本発明の効果は得られなかった。
【0082】
(7)前記硫黄材料(b)の無機硫黄化合物としては、たとえば亜ジチオン酸(H
2S
2O
4)又はその塩を挙げることができる。
【0083】
塩の対カチオンとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、第一〜第四級アンモニウム(ピリジニウム、グアニジニウム、テトラプロピルアンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム等など)を例示できる。
【0084】
なお、亜ジチオン酸イオンは以下の構造を有するとされていることから、本化合物中の硫黄原子の酸化数は+3である。
【0086】
より具体的には亜ジチオン酸ナトリウムを挙げることができる。
【0087】
この硫黄材料により触媒電極を表面処理した場合に、該表面処理された触媒電極表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有することは
図4Aで示されている。
【0088】
(8)前記硫黄材料(b)の有機硫黄化合物としては、例えば下記一般式(XXIV)のスルホン化合物を例示できる。本化合物における硫黄の酸化数は+4である。
【0090】
ここで、R
15及びR
16はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい、総炭素数1〜40、より好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜4の炭化水素基を表し、R
15及びR
16は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0091】
より具体的には、スルホラン[下記式(XXV)]を挙げることができる。
【0093】
スルホン化合物の代表例として、スルホランにより触媒電極を表面処理した場合に、該表面処理された触媒電極表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有することは
図4bで示されている。
【0094】
(9)なお、酸化数が+2のジメチルスルホキシド、酸化数が+4の亜硫酸ナトリウム(Na
2SO
3)や酸化数が+6の硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)では、これを用いて実施例中の白金溶解試験(1)i.の手順に従い、触媒電極を表面処理しても、表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークはみられず(
図3B、
図5A及び
図5B参照)、また本発明の効果も得られなかった(表1の試験番号16、19及び20参照)。これらの化合物については、触媒電極表面で低酸化状態の硫黄(酸化数−2〜0)にまで還元されておらず、そのために本発明の効果が生じなかったと考えられる。
【0095】
(10)本発明における硫黄材料(a)の分子量は32〜10,000であるが、好ましくは32〜5,000、より好ましくは32〜1,000、更に好ましくは32〜500の低分子である。このため、特許文献1や4に記載されるようなポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン等のπ共役系導電性高分子や導電性バインダーは含まれない。
【0096】
一般的に高分子は、三次元状の膜構造を形成するため、触媒上に高分子膜を形成すると、高活性な触媒金属表面を完全に覆い隠し、触媒と反応基質の接触を妨げてしまい、触媒性能の低下を招くおそれがあると考えられる。他方、低分子量の単分子層若しくは単原子層は非常に薄いため、触媒と基質の接触を妨げず、性能低下を来たさないことが期待できる。
【0097】
また、本発明における硫黄材料(b)の分子量は、特に制限されないが、好ましくは32〜10,000、より好ましくは32〜5,000、更に好ましくは32〜1,000、更に好ましくは32〜500の低分子である。
【0098】
2)触媒電極及び特定の硫黄材料による表面処理について
(1)本発明にいう触媒電極では、電極基材上に白金族元素の触媒層を形成している。
【0099】
白金族元素とは、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、またはPtのことであり、より好ましくはPtである。
【0100】
該電極基材としては、触媒電極と半導体電極との間に封入されるべき電解質層中の腐蝕性成分に対する耐蝕性を有するものであれば特に制限されないが、チタン、ニッケル、タングステン等の金属材料、FTO(フッ素ドープ酸化スズ膜)、ITO(インジウム・酸化スズ膜)及びATO(アンチモン・酸化スズ膜)等の導電性ガラス材料、酸化亜鉛及び酸化チタン等の金属酸化物材料などを挙げることができ、その中でもコストと耐久性の観点からは、金属材料や導電性ガラスを用いるのが好ましく、より好ましくは金属材料ではチタン、導電性ガラス材料ではFTOである。
【0101】
また、該白金族触媒層の形成には、たとえばメッキ法、スパッタ法、塩化白金酸等の溶液の塗布、塩化白金酸等のペーストの印刷法等によって作成したものを挙げることができ、特に試験用の小型セルで用いるのには、均質な膜が得られるスパッタ法で作製したものを用いることが好ましく、サブモジュール等のパターニングが必要な大型モジュールの場合には、スクリーン印刷法での製膜が好ましい。
【0102】
(2)硫黄材料による触媒電極の表面処理としては、たとえば、(i)前記硫黄材料の溶液を作製し、これを触媒電極上に適用(塗布、浸漬、あるいは硫黄材料がガス状である場合の該ガス状硫黄材料への曝露等)したり、(ii)触媒電極上の触媒電極層を作製する際に、触媒電極層中に前記硫黄材料も取り込まれるように、触媒ないし触媒前駆体と同時に、前記硫黄材料を基板上に適用する方法が挙げられる。
【0103】
前者である(i)の方法として、より具体的には、触媒層の形成された電極を、硫黄材料を溶解させた溶液に、一定時間浸漬(適宜、加熱を行ってもよい)させた後、電極を取り出し、溶媒にて洗浄、乾燥を行なうことが例示できる。
【0104】
後者である(ii)の方法として、より具体的には、白金族元素前駆体と硫黄材料を混合した印刷用ペーストを作製しこれを電極基板に印刷・焼成し必要に応じて還元処理を施したり、CVD法によって白金成膜と同時に硫黄材料(たとえば硫化水素ガス)を反応させることで、硫黄材料を含んだ触媒層を形成することが考えられる。
【0105】
なお、このような表面処理の条件については、実施例中の白金溶解試験における手順(i)i.の処理を標準の処理条件とする。ここで用いる溶媒の種類については、以下の基準にしたがって決定する。
【0106】
a)基本的には水を溶媒として用いる。
【0107】
b)水に溶解しにくく所定濃度の溶液を調製することができない場合には、3−メトキシプロピオニトリルを溶媒として用いる。
【0108】
c)さらに、水や3−メトキシプロピオニトリルでも所定濃度の溶液を調製できない硫黄単体や二硫化炭素のような難溶性物質については、ベンゼンを用いる。
【0109】
上記基準からすれば、一般には、無機硫黄材料については水を、有機硫黄材料については3−メトキシプロピオニトリルを溶媒として用いることになると考えられる。
【0110】
もっとも、溶媒の種類の相違による影響はほとんどないと考えられるので、万が一、上記3種類の溶媒でも所定濃度の溶液を調製できない場合でも、入手が容易な溶媒のうち、できるだけ高い溶解性を有し、かつ比較的高い沸点(85℃より大)を有する溶媒を選択して用い方が、取り扱いの容易性の観点から好ましい。
【0111】
3)電解質層について
本発明の電解質層は、酸化還元対となる化学種、それらを溶解するための電解液用溶媒、及び任意成分としての添加剤からなる。
【0112】
酸化還元対となる化学種としては、I
2/I
3-系やBr
2/Br
3-系の酸化還元系などが挙げられるが、I
2/I
3-系が好ましい。その対イオンとして、リチウム塩、イミダゾリウム塩、その他の四級アンモニウム塩等を挙げることができ、その中でも高い性能と優れた耐久性を両立する観点からイミダゾリウム塩またはその他の四級アンモニウム塩を用いるのがより好ましい。
【0113】
電解液用溶媒としては、酸化還元対となる化学種等の電解質を十分に溶解しうるものであれば、非水性有機溶媒、常温溶融塩、水、プロトン性有機溶媒等、いずれも用いることはできるが、好ましくは非水性有機溶媒が挙げられ、この中でも特に3−メトキシプロピオニトリルが高い性能と優れた耐久性を両立する点で好ましい。
【0114】
また、該電解液の粘度は好ましくは0.35mPa・s(20℃)〜695cPa・s(20℃)、より好ましくは0.1cPa・s(20℃)〜10cPa・s(20℃)である。
【0115】
4)光増感色素
(1)光増感色素としては、可視領域および/または赤外光領域に吸収をもつ種々の金属錯体や有機色素を用いることができ、任意の公知の方法、たとえば、二酸化チタン等の酸化物半導体薄膜を色素溶液に所定の温度で浸漬する方法(ディップ法、ローラ法、エヤーナイフ法など)や、色素溶液を酸化物半導体層表面に塗布する方法(ワイヤーバー法、アプリケーション法、スピン法、スプレー法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等により該金属酸化物半導体膜に吸着されている。
【0116】
(2)なお、本発明では、特に、光増感色素として金属錯体でない色素を用いる場合、あるいは光増感色素として金属錯体色素を用いるものの、それは酸化数−2〜0の硫黄原子を含む配位子(チオシアン酸配位子など)を含まない金属錯体色素を用いると、特に本発明の効果が大きく現われる。
【0117】
光増感色素として金属錯体色素を用いる場合、電解液中にヨウ素アニオンやtert−ブチルピリジン等が含まれていると、前記金属錯体の配位子と交換反応を起こし、前記金属錯体の配位子が電解液中に遊離してくる可能性がある。このため、かかる配位子としてチオシアン酸配位子などの酸化数−2〜0の硫黄原子を含む配位子を用いていると、後記する本発明の第二の態様で述べたような態様で、触媒電極上への硫黄被膜の形成に多少、寄与する可能性があるためである。
【0118】
5)本態様の色素増感太陽電池の他の部分については通常用いられるものを好適に用いることができる。
(1)半導体電極
本発明の半導体電極は好ましくは透光性電極であり、透明導電基板上に形成された酸
物半導体膜からなり、該酸化物半導体層には分光増感色素が担持されている。
【0119】
該酸化物半導体としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、スズをドープした酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等の公知の多孔質材料を用いることができ、スピンコート法、スプレー法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、インクジェット法等により前記透明導電基板上に形成できるが、操作の簡便さの観点からはスピンコート法、スプレー法、ディッピング法が、量産化の観点からはスクリーン印刷法によるのが好ましい。
【0120】
(2)透明導電基板
透明導電基板としては、透明ガラスあるいは透明樹脂フィルム等の透明基板上に、透明導電膜として酸化チタン、酸化亜鉛(アンチモンまたはアルミニウムをドープしたものでもよい)、酸化インジウム(スズまたは亜鉛をドープしたものでもよい)、酸化スズ[アンチモンをドープしたもの(ATO)、またはフッ素をドープしたもの(FTO)でもよい]等の膜を形成したものが好ましく用いられる。
【0121】
(3)色素増感型太陽電池の作製方法
前記半導体電極と前記触媒電極とを、封止材を介して貼り合わされることによって、色素増感型太陽電池を作製する。
【0122】
たとえば、前記半導体電極を形成した透明導電基板上に封止材の隔壁を形成する。スクリーン印刷等の印刷技術を用いることで簡便に形成できる。封止材としては、電解質中の腐蝕性成分に対する耐腐蝕性を有するものであれば特に制限されないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂、金属、ゴム等を例示することができるが、少なくとも表面は電気絶縁性であることを要し、封止材が導電性の場合には表面を、各種樹脂やゴム等の電気絶縁性材料で被覆する。
【0123】
次いで前記封止材を介して前記半導体電極と前記触媒電極とを貼り合わせる。この際、均一に圧力をかけて両電極が平行に配置されるように注意すべきである。
【0124】
さらに、封止材の隔壁を介して半導体電極と触媒極との間に一定の間隔が維持されるが、ここに前記電解質が封入され、色素増感太陽電池が作製される。
【0125】
なお、光増感色素は、前記貼り合わせ工程の前、あるいは後に、半導体電極を色素溶液に浸漬等することによって、半導体電極上に固定できる。
【0126】
2.本発明の第2の態様について
本発明の第2の態様では、色素増感型太陽電池において、電解質層に下記の特定の硫黄材料、すなわち、
(a)硫黄単体、酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物、または酸化数−2〜0の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、分子量32〜10,000の少なくとも1種の硫黄材料;
(b)酸化数−2〜0の硫黄原子を含まないが、酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む無機硫黄化合物または酸化数+1〜+4の硫黄原子を少なくとも一つ含む有機硫黄化合物から選択される、少なくとも1種の硫黄材料;
または
(c)上記(a)及び(b)の硫黄材料の混合物、
が含まれていることが特徴である。
【0127】
但し、前記硫黄材料(b)は、前記触媒電極を該硫黄材料(b)で表面処理した場合、該表面処理された触媒電極の表面のX線光電子スペクトルにおいて、161〜165eVの結合エネルギーの領域に光電子ピークを有するようにする硫黄材料であること、
前記硫黄材料(a)がチオシアン酸グアニジニウムである場合、チオシアン酸グアニジニウムの電解質層中の濃度が0.1M未満であること、及び
前記硫黄材料(a)がチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムである場合、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムが電解液用溶媒中、35体積%未満であること、を条件とする。
【0128】
本態様においても、前記本発明の第1の態様と同様、触媒溶解抑制効果及び、少なくともより好ましい態様において触媒活性向上効果を得ることができ、これらの効果は、電解質層中に添加された硫黄材料に由来して、触媒層上に硫黄被膜が形成されることによって生じるものと考えられる。すなわち、前記本発明の第1の態様のように、事前に触媒対極を硫黄材料と接触させることによって直接に触媒層上に硫黄被膜を形成することができるが、本態様のように電解質層中に硫黄材料を含有させることによっても、経時的に触媒層上に硫黄被膜を形成することができると考えられる。
【0129】
さらに本態様の場合、電解質中の硫黄材料はセル内において常に触媒表面と接触し続けるため、硫黄被膜の持続性が期待できる。
【0130】
なお、電解質層中に硫黄材料が含まれる態様については、該硫黄材料が電解液用溶媒に溶解した状態で存在させる添加剤としての態様が典型的ではあるが、本発明の効果を損なわない範囲では、必ずしもこれに限られるものではない。たとえば、スルホラン等の酸化数+4の硫黄原子を含む硫黄材料は電解液用溶媒として用いることが考えられるし、
有機硫黄材料のいくつかはイオン性液体として電解液用溶媒に用いることが考えられる。
【0131】
1)本態様の色素増感太陽電池については、前記本発明の第1の態様において、触媒電極は必ずしも特定の硫黄材料による表面処理をしたものである必要はないが、電解質層においては、特定の硫黄材料を必ず含む点で相違する。また、特定の硫黄材料として、非特許文献2、3及び5を考慮して、前記硫黄材料(a)がチオシアン酸グアニジニウムである場合、チオシアン酸グアニジニウムの電解質層中の濃度が0.1M未満であること、及び前記硫黄材料(a)がチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムである場合、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムが電解質層中、35体積%未満である点でも異なる。
【0132】
もっとも、かかる相違点以外の点では、基本的に本態様の色素増感型太陽電池にも、前記本発明の第1の態様の記載が妥当する。
【0133】
2)電解質層中の特定の硫黄材料について
(1)本態様の特定の硫黄材料は、前記本発明の第1の態様で用いられる特定の硫黄材料と基本的には同じである。
【0134】
もっとも、非特許文献2及び3において、色素増感太陽電池の電解液中にチオシアン酸グアニジニウムを最少でも0.1M、用いた例が開示され、非特許文献5において、色素増感太陽電池の電解液中にチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムをヨウ化1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムとの共溶媒である電解液用溶媒として体積比7:13(チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム:ヨウ化1−プロピル−3−メチルイミダゾリウム)で用いている例が開示されている。このため、前記本発明の第1の態様とは異なり、本態様の特定の硫黄材料としては、該硫黄材料としてチオシアン酸グアニジニウムを用いる場合、チオシアン酸グアニジニウムの電解質層中のモル濃度が0.1M未満、好ましくは0.05M以下であること、および該硫黄材料としてチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムを用いる場合、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムの電解液用溶媒中の体積百分率が、35体積%未満、好ましくは20体積%以下、より好ましくは10体積%以下、更に好ましくは5体積%以下である。
【0135】
なお、上記にいうチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムの電解液用溶媒中の「体積百分率」は、次のようにして計算する。すなわち、電解質層の成分中、常温常圧(25℃、1気圧)で液体状態にある成分のうち、最も多量(単独成分として存在する場合の体積を基準)に存在する液体成分を主溶媒とし、該主溶媒の5分の1以上の体積(単独成分として存在する場合の体積を基準)を有する1以上の液体成分がある場合には該液体成分及びチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(イオン性液体)を共溶媒とした上で、これら主溶媒及び共溶媒の各体積の総和を基準にして、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムの体積百分率を計算する。
【0136】
もっとも、非特許文献2においては、電解液中に添加されたグアニジニウムカチオンにより電荷再結合が抑制されると共にチタニアバンド端がシフトすることで開放電圧Vocが向上することに言及するのみであり、チオシアン酸アニオンの効果については触れていない。また、非特許文献3においても、チオシアン酸グアニジニウムがチタニアのフラットバンドポテンシャルを正にシフトさせることにより、電子注入効率が上がり、短絡電流密度Jscが向上する、またチタニア上へのグアニジニウムカチオンの化学吸着によりチタニア上の再結合サイトを不活性化するといった報告をしているものの、チオシアン酸アニオンそのものの効果については触れていない。さらに、非特許文献5においても、特にチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムによる触媒電極からの触媒溶出防止効果につき記載されているわけではない。
【0137】
また、本態様の硫黄材料は、電解質層中で単に静的に均一に分布しているだけでなく、動的に拡散しやすい硫黄材料が好ましい。より具体的には、電解質中において硫黄材料が分散していることが好ましく、溶解していることがさらに好ましい。
【0138】
(2)電解質層中の硫黄材料の濃度としては、本発明の効果を得るためには、少なくとも0.001Mを超える濃度が好ましく、0.01M以上あればより好ましい十分な効果を得ることができる。また、濃度の好ましい上限としては本発明の効果を損なわない範囲で、溶解度以下の濃度が好ましい。
【0139】
3.本発明の第3の態様について
(1)本態様は、基本的には前記本発明の第1の態様及び第2の態様を併用した態様の色素増感太陽電池に対応している。したがって、基本的には、上記1.及び2.の本発明の第1の態様及び第2の態様の記載を準用できる。
【0140】
(2)しかし、前記第2の態様とは異なり、本態様の第二の硫黄材料(a2)がチオシアン酸グアニジニウムである場合、チオシアン酸グアニジニウムの電解質層中の濃度が0.1M未満であることは必ずしも必要ではなく、及び本態様の第二の硫黄材料(a2)がチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムである場合、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムが電解質層中、35体積%未満であることは必ずしも必要ではない。非特許文献2,3及び5には特に本発明の第1の態様と第二の態様の併用形である本態様につき明示の記載はないからである。
【0141】
(3)また、本態様において、電解質層中に含まれる特定の硫黄材料である第二の硫黄材料と、触媒電極の表面処理に用いる特定の硫黄材料である第1の硫黄材料とは、必ずしも同じものを用いる必要はない。
【0142】
また、第二の硫黄材料として、電解質層中の添加剤としてのチオシアン酸グアニジニウムを用いる場合において、第一の硫黄材料としてチオシアン酸グアニジニウム以外の第一の硫黄材料を併用することができ、かかる態様については、非特許文献2,3及び5には全く記載も示唆もない。
【0143】
さらに、第二の硫黄材料として、電解質層中の電解液用溶媒としてのチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムを用いる場合において、第一の硫黄材料としてチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム以外の第一の硫黄材料を併用することができ、かかる態様についても、非特許文献2,3及び5には全く記載も示唆もない。
【0144】
(4)本態様では、本発明の他の態様である第1及び第2の態様と比較して、本発明の効果をより有効に発揮できる点で好ましい。
【0145】
すなわち、本発明の第2の態様のみの場合、触媒層上に硫黄被膜が形成されるまでに多少の時間を要すると考えられるところ、前記本発明の第1の態様と併用することにより、セル作製直後から触媒溶解抑制効果及び、少なくともより好ましい態様における触媒活性向上効果を得ることができる。
【0146】
また、本発明の第1の態様と比較しても、本態様の利点である硫黄被膜の持続性向上による溶解抑制効果及び、少なくともより好ましい態様における触媒活性向上効果の持続性の効果を補完することができる。
【0147】
さらに、本態様においては、本発明の第1の態様や第2の態様よりもより多くの硫黄材料を存在(触媒電極の表面上、及び電解質層中の総計)させることができる利点もある。
【0148】
4.本発明の第4の態様について
(1)本態様は、前記本発明の第1〜第3の態様の色素増感太陽電池を、白金族触媒の溶出を防止する方法として一般化したものである。
【0149】
したがって、基本的には、上記1.、2.及び3.の本発明の第1〜第3の態様の記載を準用できる。
【0150】
(2)もっとも、白金族触媒の溶出を防止する方法を規定する本態様においては、電解質層中に前記特定の硫黄材料を含ませる場合には、前記本発明の第2の態様とは異なり、本態様の第二の硫黄材料(a2)がチオシアン酸グアニジニウムである場合、チオシアン酸グアニジニウムの電解質層中の濃度が0.1M未満であることは必ずしも必要ではなく、及び本態様の第二の硫黄材料(a2)がチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムである場合、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムが電解質層中、35体積%未満であることは必ずしも必要ではない。前記非特許文献2、3及び5には、チオシアン酸グアニジニウムや、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムを電解質層中に用いて、白金族触媒の溶出を防止するという効果については何ら記載も示唆もされていないからである。
【0151】
(3)本態様において、第一の硫黄材料と第二の硫黄材料とを併用する場合、電解質層中に含まれる特定の硫黄材料である第二の硫黄材料と、触媒電極の表面処理に用いる特定の硫黄材料である第1の硫黄材料とは、必ずしも同じものを用いる必要はない。
【実施例】
【0152】
[白金溶解試験]
(1)以下の手順i.〜vi.にしたがって、白金を蒸着したチタン板を各種硫黄材料で処理した後、その白金保持率を測定した。結果は表1に示す。
【0153】
i. スパッタリングにより10nmの白金を蒸着したチタン板を、硫黄材料を溶媒に溶解させた溶液(濃度0.1M)に浸漬、85℃(但し、溶媒としてベンゼンを用いる場合は70℃)で1時間加熱した後、硫黄材料を含まない溶媒にて洗浄して試験片とした。
【0154】
ii. 上記試験片について、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(島津製作所EDX900)にて白金の定量を行なった。この時の白金のL
α線強度(9.44keV)をI
Pt0とした。
【0155】
iii. 試験片を電解液(0.1M ヨウ素、0.8M 1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨウ化物、0.3M tert−ブチルピリジンを3−メトキシプロピオニトリルに溶解して調製)に浸漬、85℃の乾燥機に入れ、16時間保持した。
【0156】
iv. 乾燥機から浸漬した試験片を取り出し、エタノールを用いて、試験片を洗浄、乾燥させた。
【0157】
v. 再度、蛍光X線分析による白金定量を行い、この時の白金のL
α線強度(9.44keV)をI
Pt1とした。
【0158】
vi. 以下の式にて白金保持率を算出し、該白金保持率が90%以上のものを「A」、90%未満20%以上のものを「B」、20%未満のものを「C」と評価した。もっとも、表1で掲載される試験番号1〜23のうちで「B」評価のものはなかった。
【0159】
白金保持率(%)=(I
Pt1/I
Pt0)×100
【0160】
【表1】
【0161】
なお、上記手順ii.の段階で、すなわち、硫黄材料で前処理した直後の段階で、試験片に対してX線光電子分光分析(S2p領域、KRATOS ANALYTICAL製AXIS−His)を行った。
【0162】
この結果、試験番号1,5,9,13,15,17,18においては、結合エネルギー161〜165eVの領域に光電子ピークが認められ、これは白金上に硫黄被膜が形成されていることを示している。他方、試験番号16、19及び20の試験片においては、この161〜165eVの領域に光電子ピークが認められなかった。もっとも、試験番号16、19においては165〜169eVの領域に光電子ピークが認められた。
【0163】
通常、X線光電子分光分析においては、原子の酸化状態が高いほど、結合エネルギーが高エネルギー側にシフトすることを考慮すると、161〜165eVのピークは低い酸化状態(酸化数−2〜0のチオレート種、チオール種あるいはスルフィド種)の硫黄を、165〜169eVのピークはより高い酸化状態の硫黄を示していると考えられる。
【0164】
試験番号1、5、9、13、15、17及び18が高い白金保持率を示していることは、白金上に低い酸化状態(酸化数−2〜0のチオレート種、チオール種あるいはスルフィド種)で吸着している硫黄が、電解液中での白金触媒の溶出を抑制していることを示していると考えられる。
【0165】
[色素増感太陽電池セル実験]
(1)以下の手順により、色素増感太陽電池を作製した。
【0166】
i. 基板(フッ素ドープ酸化スズ膜付ガラス板、30mm×25mm)上の1辺1cmの正方形面積部分にスクリーン印刷により酸化チタンペースト[触媒化成製PST−21NR]を膜厚8μmにスクリーン印刷し、乾燥後、その上にさらに酸化チタンペースト[触媒化成製PST−400C]を膜厚4μmにスクリーン印刷した。これを500℃で焼成することで、発電層を形成した。
【0167】
ii. 前記発電層を形成した電極を色素溶液[色素:綜研化学株式会社製MK−2、濃度:0.45M、溶媒:トルエン]に40℃で3時間、浸漬することで、色素を前記発電層の酸化チタン上に担持させアノード電極を得た。
【0168】
なお、色素MK−2は以下の構造を有する、金属錯体ではない色素である。
【0169】
【化13】
【0170】
なお、本色素中にも酸化数0の硫黄原子が含まれているが、該色素は非錯体色素であり、金属錯体色素のように配位子交換が容易に生じる系とは異なり、本願発明の効果にはほとんど影響しない。
【0171】
iii. 上記アノード電極の発電層の周囲にホットメルト接着剤を施し、このアノード電極と、別途用意した電解液注入孔を有する10nm白金スパッタチタン板(カソード電極)とを、該接着剤により接着し、両電極が50μm程度の一定間隔を置いて平行に配置されるようにした。
【0172】
ここで、実施例で用いる前記10nm白金スパッタチタン板は、0.1Mの硫黄材料を含む水溶液に浸漬し、85℃で1時間加熱後、水洗、乾燥したものを用い、比較例で用いる前記10nm白金スパッタチタン板は、かかる硫黄材料による処理は行なわなかった。
【0173】
iv. 次いで、電解液注入口より電解液を注入した。ここで、用いた電解液は、下記の電解液Aまたは電解液Bであった。
【0174】
電解液A:ヨウ素0.1M、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨウ化物0.8M、1−メチルベンゾイミダゾール0.5M、3−メトキシプロピオニトリルを溶媒とする溶液。
【0175】
電解液B:ヨウ素0.1M、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨウ化物0.8M、1−メチルベンゾイミダゾール0.5M、シクロヘキシルイソチオシアネート0.01M、3−メトキシプロピオニトリルを溶媒とする溶液。
【0176】
v. 接着剤を用いて電解液注入孔を封止し、アノード電極上に端子取り出しのためのハンダを塗布して実験用セルを完成させた。
【0177】
(2)上記のようにして得られた色素増感太陽電池につき、その光電変換効率及び直列抵抗をソーラーシュミレーター(山下電装製YSS−200、AM1.5,1SUN(100mW/cm
2)を用いてその性能を評価し、下記の表のような結果を得た。
【0178】
【表2】
【0179】
*1:各前処理用硫黄材料の処理条件は表1参照。
*2:実験用セル完成直後に測定した性能が初期光電変換効率及び初期直列抵抗であり、これらを測定後、実験用セルをさらに85℃の乾燥機中、4日間保存後、該セルを取り出し、室温まで冷却した後、測定した性能が4日後の光電変換効率及び4日後の直列抵抗である。
*3:表2中の変換効率維持率は以下の式により計算して得られたものである。
【0180】
変換効率維持率(%)=
100×[(4日後の光電変換効率)/(初期光電変換効率)]
また、光電変換効率は下記式により計算した。
光電変換効率(%)=
100×[(短絡電流密度×開放電圧×曲線因子)/(照射太陽光エネルギー)]
*4:ここでいう直列抵抗は、以下の式により算出される。
【0181】
直列抵抗(Ω)=(−1)/K
ここで、式中のKは、太陽電池の電流−電圧曲線の電圧軸交点(開放電圧点)における接線の傾きを表す。
【0182】
こうして求められる直列抵抗は色素増感太陽電池セルの内部抵抗のうちの直列成分を現している。この直列抵抗は、触媒上での反応抵抗を含んでいるため、触媒性能が高い場合、直列抵抗は相対的に低い値を示す。
【0183】
上記表2からも明らかなように、実施例1、2、3及び5のように硫黄材料で前処理した触媒電極を用いた場合、触媒活性が向上し、初期直列抵抗が低減された結果、高い初期変換効率が得られた。さらに、85℃で4日経過後も、直列抵抗に大きな上昇はみられず、触媒白金の溶解が抑制されていることがわかる。
【0184】
また、実施例4のように、硫黄材料による前処理が行なわれていない場合は、実施例1、2、3及び5と比較すると、初期に高抵抗を与えているものの、4日経過すると、この抵抗値は減少していた。この抵抗値の減少は、触媒白金が溶解していないことを示しているのみならず、電解液B中に添加した硫黄材料(シクロヘキシルイソチオシアネート)が触媒白金上に低酸化状態(酸化数−2〜0)の硫黄被膜を形成し、触媒活性を向上させたものと考えられる。
【0185】
以上のように、本技術は、色素増感太陽電池において、実用的な耐久性を得る上で必要不可欠なものであることは明白である。