特許第5655215号(P5655215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5655215コーティング用組成物、防汚処理方法および防汚性基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5655215
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】コーティング用組成物、防汚処理方法および防汚性基材
(51)【国際特許分類】
   C09D 171/00 20060101AFI20141225BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20141225BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20141225BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   C09D171/00
   C09D183/04
   C09D5/16
   B05D7/24 302L
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-531816(P2010-531816)
(86)(22)【出願日】2009年9月24日
(86)【国際出願番号】JP2009066520
(87)【国際公開番号】WO2010038648
(87)【国際公開日】20100408
【審査請求日】2012年6月20日
(31)【優先権主張番号】特願2008-256178(P2008-256178)
(32)【優先日】2008年10月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597010190
【氏名又は名称】株式会社カツラヤマテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】葛山 徹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】杉山 大樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 剛
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−053919(JP,A)
【文献】 特開平09−061605(JP,A)
【文献】 特開平10−237383(JP,A)
【文献】 特開平11−349888(JP,A)
【文献】 特開2002−053805(JP,A)
【文献】 特開2000−144097(JP,A)
【文献】 特表2008−534696(JP,A)
【文献】 特表2008−537557(JP,A)
【文献】 国際公開第97/007155(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00〜C09D201/10
B05D1/00〜B05D7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルフルオロアルキレンエーテル基を分子主鎖内に含み、シリコン原子を含む加水分解性基を側鎖に含む化合物を溶媒に溶解してなるコーティング用組成物であって、
前記溶媒がフッ素化炭化水素およびフッ素化エーテルの少なくとも1つを含むフッ素系溶媒同士の混合溶媒であり、前記フッ素系溶媒は1気圧下での沸点が40℃以上70℃以下であり、前記混合溶媒中の前記フッ素系溶媒の沸点の最大値と最小値の差が25℃以内であり、前記フッ素系溶媒が1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、ペルフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,5,5,5−ウンデカフルオロ−4−(トリフルオロメチル)ペンタン、または、メチルノナフルオロブチルエーテルであることを特徴とするコーティング用組成物。
【請求項2】
前記ペルフルオロアルキレンエーテル基が下記式(1−1)で表され、前記シリコン原子を含む加水分解性基が下記式(1−2)で表されることを特徴とする請求項1記載のコーティング用組成物。
【化1】
(式中、nは1〜5の整数、mは0〜2の整数、R1は加水分解可能な基を表す。)
【請求項3】
前記化合物が下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項2記載のコーティング用組成物。
【化2】
(式中、Rfは炭素数1〜16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基、Yは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基、R1はハロゲン原子、−OR3基、−OCOR3基、−OC(R3)=C(R42基、−ON=C(R32基、および−ON=C(R52基から選ばれる少なくとも1つの基を表し、R3は脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を表し、R4は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、R5は炭素数3〜6の2価の脂肪族炭化水素基を表し、qは1〜50の整数、mは0〜2の整数、rは1〜10の整数を表す。)
【請求項4】
前記R1が塩素原子、−OCH3基、および−OC25基から選ばれる少なくとも1つの基であることを特徴とする請求項3記載のコーティング用組成物。
【請求項5】
前記混合溶媒が1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、ペルフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,5,5,5−ウンデカフルオロ−4−(トリフルオロメチル)ペンタン、および、メチルノナフルオロブチルエーテルから選ばれた2種類のフッ素系溶媒の混合溶媒であることを特徴とする請求項1記載のコーティング用組成物。
【請求項6】
無機基材の表面、または無機もしくは有機基材に形成された無機表面膜の表面にコーティングを施すことにより、防汚処理を行なう防汚処理方法において、
前記無機基材の表面または無機表面膜の表面へのコーティングが請求項1記載のコーティング用組成物をスプレー法で塗布されたコーティングであることを特徴とする防汚処理方法。
【請求項7】
前記無機表面膜は、ポリシラザン溶液をスプレー法で塗布することにより形成した無機表面膜であることを特徴する請求項記載の防汚処理方法。
【請求項8】
基材の表面、または基材に形成された無機表面膜の表面に防汚層を有する防汚性基材であって、
前記防汚層が請求項記載の防汚処理方法により形成された防汚層であることを特徴とする防汚性基材。
【請求項9】
前記防汚性基材は、画像表示部を有し、該画像表示部の表面に請求項記載の耐防汚層が形成された携帯電話であることを特徴とする防汚性基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング用組成物、防汚処理方法および防汚性基材に関し、特に防汚性を付与できるコーティング用組成物、防汚処理方法および該方法で防汚処理された携帯電話に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の表示面、液晶パネルやタッチパネルの表示面、メガネレンズなどは、人が使用することによって、皮脂、指紋、汗、化粧品などが付着する。そこで、汚れが付着しにくく、かつ汚れを拭き取りやすくするための表面処理として、防汚処理が施される場合がある。
防汚処理は、基材の表面に防汚性を有する物質を薄膜にコーティングするものである。薄膜の原料としては、フルオロアルキル樹脂あるいはシリコーン系樹脂を利用することが多いが、中でもペルフルオロポリエーテル基を含む化合物は、その表面エネルギーが小さく、またエーテル結合を含むために分子構造が柔軟であることから、優れた防汚性を発揮することが知られている。これを薄膜にコーティングする際には、基材と薄膜の密着性を確保するため、同化合物中に加水分解が可能な基を導入したものを原料とするのが一般的である。
【0003】
例えば特許第3449070号には、ペルフルオロポリエーテル変性シランを真空蒸着法により薄膜にコーティングする方法が提案されている。しかしながら、真空蒸着法では、高価な生産設備を必要とし、また生産性が低いため、生産コストが高くなる問題があった。また、真空蒸着法で薄膜化が可能な原料は、その分子量が約5000以下のものに制限されるため、高機能な長鎖型の原料を利用できないという問題があった。
【0004】
そこで、低コストで生産可能な、ディップ法、スプレー法などのウエットコーティング法が注目されている。
しかし、従来のウエットコーティング法では、目的の化合物を可溶溶媒に溶かして溶液化し、基材表面に塗布するが、目的の化合物が加水分解する基を含んでいるため、溶液を大気中に曝すと大気中の水分と化合物が反応して、溶液がゲル化したり、目的の化合物が粒子化したりする問題がある。
また、ディップ法においては、溶液が大気に曝される時間が長いため、溶液の変質が顕著であり、原料の利用効率、被膜の品質上の問題が発生し、結果的に生産コストが高くなってしまうという問題があった。またディップ法では、原理的に形成される被膜が分子1層しか堆積しないため、実用上十分な耐久性を持つ被膜を形成することが困難であった。
【0005】
スプレー法は溶液が大気に曝される時間を短くすることができるので、溶液が変質することは避けられる。また生産性も高く、大面積化も容易であることから、大量生産に向いた工法であると言える。
しかしながら、スプレーノズルから噴射された液滴が基材表面に付着し、濡れ拡がり、溶媒が乾燥して目的の化合物が表面で薄膜化する過程で、原料高分子が粒子化して被膜が白濁する問題があった。
【特許文献1】特許第3449070号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、防汚性に優れ、透明であり、実用上十分な耐久性を持った防汚性被膜を、低コストで形成することができるコーティング用組成物、防汚処理方法および防汚性基材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコーティング用組成物は、ペルフルオロアルキレンエーテル基を分子主鎖内に含み、シリコン原子を含む加水分解性基を側鎖に含む化合物を溶媒に溶解した組成物であることを特徴とする。この組成物において、上記溶媒がフッ素化炭化水素およびフッ素化エーテルの少なくとも1つを含むフッ素系溶媒同士の混合溶媒であり、上記フッ素系溶媒は1気圧下での沸点が40℃以上70℃以下であり、混合されている上記フッ素系溶媒の沸点の最大値と最小値の差が25℃以内であることを特徴とする。
特に上記化合物が下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする。
【化3】
式中、Rfは炭素数1〜16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基、Yは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基、R1はハロゲン原子、−OR3基、−OCOR3基、−OC(R3)=C(R42基、−ON=C(R32基、および−ON=C(R52基から選ばれる少なくとも1つの基を表し、R3は脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を表し、R4は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、R5は炭素数3〜6の2価の脂肪族炭化水素基を表し、qは1〜50の整数、mは0〜2の整数、rは1〜10の整数を表す。
また、式(1)で表される化合物を溶解するフッ素系溶媒が1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、ペルフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,5,5,5−ウンデカフルオロ−4−(トリフルオロメチル)ペンタン、または、メチルノナフルオロブチルエーテルであることを特徴とする。
【0008】
本発明の防汚処理方法は、無機基材の表面、または無機もしくは有機基材に形成された無機表面膜の表面にコーティングを施すことにより、防汚処理を行なう防汚処理方法において、上記無機基材の表面または無機表面膜の表面へのコーティングが上記本発明のコーティング用組成物をスプレー法で塗布されたコーティングであることを特徴とする。
特に、上記無機表面膜は、ポリシラザン溶液をスプレー法で塗布することにより形成した無機表面膜であることを特徴する。
【0009】
本発明の防汚性基材は、基材の表面、または基材に形成された無機表面膜の表面に防汚層を有する防汚性基材であって、上記防汚層が本発明の防汚処理方法により形成された防汚層であることを特徴とする。
特に、上記防汚性基材は、画像表示部を有し、該画像表示部の表面に上記防汚層が形成された携帯電話であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコーティング用組成物は、式(1)で表される化合物を特定の構造および沸点を有する複数の混合溶媒を溶媒として用いるので、防汚性に優れ、透明であり、実用上十分な耐久性を持った被膜を、低コストで形成することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の携帯電話の実施形態の一例を示す外観図である。
図2図1の断面AA’を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に使用できるペルフルオロアルキレンエーテル基を分子主鎖内に、シリコン原子を含む加水分解性基を側鎖に、それぞれ含む化合物は、コーティング用組成物の溶質となる化合物である。
上記ペルフルオロアルキレンエーテル基は、下記式(1−1)で表され、上記シリコン原子を含む加水分解性基は下記式(1−2)で表される。
【化4】
式(1−1)において、nは1〜5の整数を、式(1−2)において、mは0〜2の整数、R1は加水分解可能な基をそれぞれ表す。
【0013】
ペルフルオロアルキレンエーテル基内におけるエーテル結合の頻度は特に限定されるものではなく、繰り返し単位として、−(OCF2)−、−(OC24)−、−(OC36)−、−(OC48)−等が単独で、または複数組み合わされて形成されているペルフルオロアルキレンエーテル基が使用できる。また、ペルフルオロアルキレンエーテル基の一方の端部は、nが1以上のCn2n+1−基であることが好ましい。
【0014】
側鎖に有するシリコン原子を含む加水分解性基としては、コーティングにおける塗膜形成時に水の作用により分解する基であればよく、上記式(1−2)で表される。
1としては、例えばハロゲン原子、−OR3基、−OCOR3基、−OC(R3)=C(R42基、−ON=C(R32基、−ON=C(R52基等が挙げられる。ここで、R3は脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を表し、R4は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、R5は炭素数3〜6の2価の脂肪族炭化水素基を表す。
本発明において、好ましいR1としては、式(1)で表される化合物を溶質として用いた場合に、被膜の白濁発生をより抑えることができる塩素原子、−OCH3基、−OC25基である。
【0015】
上記本発明に使用できる化合物の好ましい例としては、式(1)で表される化合物が挙げられる。
Rfとして表される炭素数1〜16の直鎖状または分岐状ペルフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、ペルフルオロブチル基、ペルフルオロペンチル基等が挙げられる。
Yとして表される炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。
qは1〜50、好ましくは18〜30、より好ましくは22〜26の整数、mは0〜2、好ましくは0の整数、rは1〜10、好ましくは1〜5の整数を表す。
式(1)で表されるフッ素化合物は市販のパーフルオロポリエーテルをシラン処理することによって得ることができる。その方法は、例えば、特開平1−294709号公報に開示されている。
【0016】
本発明で使用できる混合溶媒の成分を構成する、フッ素化炭化水素およびフッ素化エーテルの少なくとも1つを含むフッ素系溶媒は、1気圧下での沸点が40℃以上70℃以下である。また、混合溶媒中のフッ素系溶媒の沸点の最大値と最小値の差が25℃以内、好ましくは20℃以内である。
好ましい混合溶媒の構成は、1気圧下での沸点が40℃以上70℃以下のフッ素系溶媒1と、該溶媒1の沸点に対して20℃以内の沸点差を有するフッ素系溶媒2との混合溶媒である。
上述の沸点条件を満たす2種類以上の溶媒を混合したコーティング剤をスプレーコーティングした場合には、膜厚のムラが抑制され、また透明な被膜が得られることが分かった。
【0017】
混合溶媒ではなく、1種類の溶媒を使用したコーティング剤をスプレー法でコーティングすると、被膜が白濁しやすく、透明な薄膜を得る条件範囲(例えば、コーティング時の雰囲気の湿度と温度等)が著しく狭くなり、結果的に高コストなプロセスになってしまう。また、沸点の差が25℃をこえる溶媒の組み合わせでは、被膜の膜厚均一性が損なわれ、目視で認識できるムラが発生してしまう。沸点が70℃より高い溶媒を使用すると乾燥するまでの時間がかかり、逆に沸点が40℃未満の低い溶媒を使用するとスプレーガンから噴射されたコーティング組成物の液滴が基材に到着する前にパウダー化し、透明な薄膜を得ることができない。そのメカニズムは明確ではないが、上記溶媒組成にすることで膜厚のムラを抑制して透明な被膜が得られる。
【0018】
本発明で使用できる溶媒としては、環境破壊への影響、生産時の安全性、入手性などを考慮すると、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(沸点40℃)、ペルフルオロヘキサン(沸点56℃)、1,1,1,2,2,3,3,4,5,5,5−ウンデカフルオロ−4−(トリフルオロメチル)ペンタン(沸点56℃)、メチルノナフルオロブチルエーテル(沸点61℃)の中から2種類以上の溶剤を選んで混合したものが好適である。特に沸点の差が20℃以内の2種類以上の溶剤を選んで混合したものが好適である。
また、混合溶媒の混合割合は、混合溶媒全体に対して、少なくとも1つの成分が1重量%以上、好ましくは2重量%以上混合されていることが好ましい。
なお、上記溶媒には濡れ性などの諸特性を調整する助剤を混合することができる。
【0019】
本発明のコーティング用組成物は、基材をコーティング用組成物に浸漬するディップ法、基材にコーティング用組成物を噴霧状に塗布するスプレー法、基材を回転させながらコーティング用組成物を滴下するスピンコート法などのウェットプロセス、コーティング用組成物の溶質を用いる真空蒸着法などのドライプロセスなど、公知の方法でコーティングすることで表面に防汚層を形成できる。
これらの中で、スプレー法で形成した防汚層は、他の方法よりも耐磨耗性に優れることが分かった。また、材料の利用効率、生産性の観点からも、スプレー法は他の方法よりも有利である。したがって、コーティング方法としてはスプレー法が最も好ましい。
【0020】
上記防汚層が形成される基材は、無機基材または有機基材を挙げることができる。
無機基材としては、ガラス、金属、セラミックスなどが挙げられる。これらの中で、透明もしくは半透明のガラス、セラミックスなどが好ましい。
有機基材としては、プラスチックス、ゴム、エラストマーなどが挙げられる。これらの中で、透明もしくは半透明のプラスチックスが好ましく、特にアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂などが好ましい。
透明もしくは半透明の基材は、携帯電話、各種表示器などの表示部に用いられる場合が多く、防汚層の形成を特に必要とされる基材のためである。
【0021】
基材の形状としてはフィルムまたはシートが好ましいが、特に限定されるものではなく、コーティング面が平面または滑らかな曲面であれば防汚層を形成する基材として使用できる。また、基材上にハードコーティング、反射防止コーティング、アンチグレアコーティングなど、他の表面処理があらかじめ施されていてもよい。
【0022】
無機基材または有機基材の表面に無機表面膜を設けることが好ましい。特に有機基材の表面には無機表面膜を設けることが好ましい。無機表面膜を設けることにより、防汚層の密着力が向上する。
無機表面膜としては、金属膜、半導体膜、酸化膜、窒化膜、酸窒化膜などから、製品の要求仕様に応じて選択することができる。無機表面膜の厚さは、防汚コーティング層の密着性が確保される必要最小限の厚さにすべきであり、0.01〜1μmの範囲、より好ましくは0.05〜0.2μmの範囲で形成するのが好ましい。ただし、防汚性以外の製品の要求仕様からこの範囲外の無機膜が必要な場合には、当然それに適合した膜厚としてもよい。
【0023】
基材の表面への無機表面膜の形成は、スプレー法、ゾルゲル法、スパッタリング法、CVD法など公知の形成方法で成膜することができる。
式(1)で表される化合物の防汚層を形成する場合、ポリシラザン溶液を用いてスプレー法で塗布して乾燥した無機表面膜が実用上十分な耐摩耗性が得られることが分かった。また、生産コスト、生産性の観点からも、ポリシラザン溶液をスプレー法で塗布する無機表面膜形成方法は他の方法と同等もしくは優れていることから、無機表面膜はこの方法で形成するのが好ましい。
【0024】
ポリシラザン溶液は、AZエレクトロニックマテリアルズ社から市販されており、濃度、溶媒の種類などを基材の種類、膜厚、スプレー条件などに合わせて、希釈、濃縮を適宜行なえばよい。なお、ポリシラザン溶液をスプレー塗布する際に使用するキャリアガスは、極力水分を含まないガスが適しており、コストの観点から窒素ガスが最も適している。また、必要に応じて乾燥後のポリシラザン系無機膜を高湿度雰囲気中に放置すること、あるいは光または熱エネルギーを加えることにより、シリカへの転化を促進させてもよい。
【0025】
本発明の防汚性基材は、携帯電話の表示面、液晶パネルやタッチパネルの表示面、メガネレンズなど、皮脂、指紋、汗、化粧品などが付着しやすい基材の表面に上述した防汚処理が施されているものである。
以下、本発明のコーティング用組成物を用いて防汚層が形成された携帯電話の例について、図面を用いて説明する。
図1および図2は、携帯電話の一例を示す図である。
図1は携帯電話の全体を示し、通話等に使用する各種の操作キー1、電話に関する各種の情報(電話番号、電波状態、バッテリーの残量等)や画像表示部である画像表示装置2、マイク3、スピーカー4から構成されている。画像表示装置2は具体的には液晶ディスプレイ(LCD)や有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(有機ELディスプレイ)などが挙げられる。
【0026】
図2図1の断面AA'を示す。画像表示装置2は携帯電話の筐体5の内部に設けられており、画像表示装置2の上には透過窓部材6が設けられている。透過窓部材6は一般的には光透過率の良い樹脂性であり、その材質はアクリル、ポリカーボネート等でできている。
本発明は、透過窓部材6に無機表面膜6aおよび式(1)で表される化合物による防汚層6bを順に設けるものである。
【0027】
透明な無機表面膜6aは、スパッタリング法によって透過窓部材6に形成される。無機表面膜6aの材料としては、ポリシラザン系無機膜を利用できる。
また、表面の防汚層6bとしては、式(1)で表される化合物を溶質とするコーティング用組成物を用いてスプレー法で塗布・乾燥して形成できる。
【実施例】
【0028】
防汚処理理後の基材を以下の方法で評価した。評価項目とその方法を説明する。
(評価1)外観
評価サンプルを、暗室内で蛍光灯500ルクス以上の照度の下、目視観察し、被膜の白濁、ムラの有無を判定した。
(評価2)皮脂付着性
評価サンプルを頬に押し当て、皮脂の付着状態を目視観察した。評価基準は、未処理の青板ガラスの付着状態を不良とし、これに比較して皮脂の付着が明らかに少ないものを良好とした。
(評価3)皮脂除去性
下記(評価4)の評価サンプルをセルロース製不織布(旭化成社製ベンコット)で軽く10往復擦り、皮脂の残り方を目視観察した。評価基準は、皮脂がほとんど残らないものを良好、明らかに残るものを不良とした。
(評価4)耐摩耗性
コピー用紙(アスクル製スーパーホワイト)を9.8N/cm2の荷重でサンプルに押し当て、往復摺動させ、摺動部の水に対する接触角を測定し、接触角が90°を下回るまでの摺動回数を測定した。試験は3回以上行ない、その平均値で評価した。なお、この試験方法で5万回程度の耐摩耗性があれば、実用上十分な耐摩耗性を有すると考えられる。
なお、以下の実施例、比較例に記載している膜厚は、評価サンプルと同時に形成したSi(100)基板上の被膜を、エリプソメーター(溝尻光学社製DHA−FR)により測定した。また接触角は、評価サンプル表面の水に対する接触角を接触角計(協和界面科学社社製DM100)により測定した。
【0029】
実施例1
コーティング用組成物として、下記の式(2)で表される化合物1重量部を、ペルフルオロヘキサン(沸点56℃)4重量部と1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(沸点40℃)195重量部との混合溶媒に溶解した組成物を準備した。このコーティング組成物をガラス基板(アズワン社製スライドガラスS1225)にスプレー法でコーティングして、50℃で30分間乾燥した。形成された防汚層の膜厚は8.4nm、接触角は116°だった。被膜の外観はムラがなく透明で、皮脂付着性、皮脂除去性とも良好だった。また耐摩耗性は95,763回だった。結果を表1に示す。
【化5】
式(2)において、トリメトキシシランを側鎖に有する繰り返し単位の繰り返し数1−10は、繰り返し数が1〜10の混合物を表す。
【0030】
実施例2
コーティング用組成物として、上記式(2)で表される化合物1重量部を、ペルフルオロヘキサン(沸点56℃)4重量部と1,1,1,2,2,3,3,4,5,5,5−ウンデカフルオロ−(トリフルオロメチル)ペンタン(沸点56℃)195重量部との混合溶媒に溶解した組成物を準備した。このコーティング組成物をガラス基板(アズワン社製スライドガラスS1225)にスプレー法でコーティングして、50℃で30分間乾燥した。形成された防汚層の膜厚は9.2nm、接触角は115°だった。被膜の外観はムラがなく透明で、皮脂付着性、皮脂除去性とも良好だった。また耐摩耗性は88,140回だった。結果を表1に示す。
【0031】
実施例3
コーティング用組成物として、上記式(2)で表される化合物1重量部を、ペルフルオロヘキサン(沸点56℃)4重量部とメチルナノフルオロブチルエーテル(沸点61℃)195重量部との混合溶媒に溶解した組成物を準備した。このコーティング組成物をガラス基板(アズワン社製スライドガラスS1225)にスプレー法でコーティングして、50℃で30分間乾燥した。形成された防汚層の膜厚は8.8nm、接触角は116°だった。被膜の外観はムラがなく透明で、皮脂付着性、皮脂除去性とも良好だった。また耐摩耗性は92,598回だった。結果を表1に示す。
【0032】
実施例4
ハードコート付きアクリル基板(三菱レイヨン社製アクリライトMR−200)に、スプレー法でポリシラザン溶液(AZエレクトロニックマテリアル社製アクアミカNL120A−05)を塗布し、大気雰囲気に1昼夜放置してポリシラザン薄膜(膜厚93nm)を形成した。その後、実施例2で使用したコーティング組成物を実施例2と同じ条件でスプレー法でコーティングした。防汚層の膜厚は8.5nm、接触角は117°だった。
被膜の外観はムラがなく透明で、皮脂付着性、皮脂除去性とも良好だった。また耐摩耗性は66,031回だった。
【0033】
比較例1
コーティング組成物として、上記式(2)で表される化合物1重量部を、ペルフルオロヘキサン(沸点56℃)199重量部に溶解して準備した。このコーティング組成物をガラス基板(アズワン社製スライドガラスS1225)に実施例1と同じ条件でスプレー法でコーティングした。被膜の外観は、明らかに白濁していた。被膜の外観が不良であったため、皮脂付着性、皮脂除去性および耐摩耗性の評価を中止した。
【0034】
比較例2
コーティング組成物として、上記式(2)で表される化合物1重量部を、ペルフルオロヘキサン(沸点56℃)4重量部と旭硝子社製NovecHFE7200(沸点76℃)195重量部の混合溶媒に溶解して準備した。このコーティング組成物をガラス基板(アズワン社製スライドガラスS1225)に実施例1と同じ条件でスプレー法でコーティングした。被膜の外観は透明だったが、目視で認識できる円形の模様(ムラ)が発生した。被膜の外観が不良であったため、皮脂付着性、皮脂除去性および耐摩耗性の評価を中止した。
【0035】
比較例3
コーティング組成物として、上記式(2)で表される化合物1重量部を、ペルフルオロヘキサン(沸点56℃)4重量部と住友スリーエム社製フロリナートFC−40(沸点155℃)195重量部との混合溶媒に溶解して準備した。このコーティング組成物をガラス基板(アズワン社製スライドガラスS1225)に実施例1と同じ条件でスプレー法でコーティングした。被膜の外観は透明だったが、目視で認識できる不定形(アメーバ状)のムラが発生した。被膜の外観が不良であったため、皮脂付着性、皮脂除去性および耐摩耗性の評価を中止した。
【0036】
比較例4
実施例2で使用したコーティング組成物を、実施例4で使用したハードコート付きアクリル基板に直接スプレー法でコーティングした。防汚層の膜厚は9.9nm、接触角は116°だった。被膜の外観はムラがなく透明で、皮脂付着性、皮脂除去性とも良好だった。しかし、耐摩耗性は7,379回と低かった。
【0037】
比較例5
実施例2で使用したコーティング組成物の溶質を、実施例2で使用したガラス基板に真空蒸着法で成膜した。真空蒸着の背景圧力は10-3Pa台とし、ガラス製坩堝に入れたコーティング組成物の溶質を室温から500℃まで約30分かけて昇温した。形成された被膜の膜厚は7.2nm、接触角は117°だった。被膜の外観はムラがなく透明で、皮脂付着性、皮脂除去性とも良好だった。しかし、耐摩耗性は42,217回であり、実施例2と比較すると低かった。
【0038】
比較例6
実施例2で使用したコーティング組成物を、実施例2で使用したガラス基板にディップ法で成膜した。ディップは、室温で24時間浸漬し、10mm/秒程度の速さで引き上げた。形成された被膜の膜厚は5nm以下で、測定できなかった。また、接触角は117°だった。被膜の外観はムラがなく透明で、皮脂付着性、皮脂除去性とも良好だった。しかし、耐摩耗性は4,701回と低かった。
【0039】
比較例7
実施例4で使用したハードコート付きアクリル基板に、スパッタ法でSiO2薄膜(膜厚101nm)を形成した。スパッタはイオンビーム方式で行い、背景圧力を10-3Pa台とし、溶融石英ターゲットに700eVのArイオンビームを照射した。その後、実施例2で使用したコーティング剤をスプレー法でコーティングした。防汚層の膜厚は8.9nm、接触角は115°だった。被膜の外観はムラがなく透明で、皮脂付着性、皮脂除去性とも良好だった。しかし、耐摩耗性は20,558回と実施例4と比較すると低かった。
【0040】
各実施例と各比較例の結果を表1にまとめた。なお、表1において、溶媒Aはペルフルオロヘキサン(沸点56℃)を、溶媒Bは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(沸点40℃)を、溶媒Cは1,1,1,2,2,3,3,4,5,5,5−ウンデカフルオロ-(トリフルオロメチル)ペンタン(沸点56℃)を、溶媒Dはメチルナノフルオロブチルエーテル(沸点61℃)を、溶媒Eは旭硝子社製NovecHFE7200(沸点76℃)を、溶媒Fは住友スリーエム社製フロリナートFC−40(沸点155℃)をそれぞれ表す。
【0041】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のコーティング組成物および表面処理方法により、防汚性に優れ、透明であり、実用上十分な耐久性を持った防汚被膜を、低コストで形成することが可能となるので、携帯電話、表示装置等に利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 操作キー
2 画像表示装置
3 マイク(送話口)
4 スピーカー(受話口)
5 筐体
6 透過窓部材
6a 無機表面膜
6b 防汚層
図1
図2