特許第5655229号(P5655229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5655229
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】外部ギャップ式避雷装置の劣化診断工具
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20060101AFI20141225BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   G01R31/12 Z
   G01R31/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-141571(P2010-141571)
(22)【出願日】2010年6月22日
(65)【公開番号】特開2012-7903(P2012-7903A)
(43)【公開日】2012年1月12日
【審査請求日】2013年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(74)【代理人】
【識別番号】100161403
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 静夫
(72)【発明者】
【氏名】柘植 憲治
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲茂
(72)【発明者】
【氏名】出木場 秀作
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 保則
(72)【発明者】
【氏名】牧 浩史
【審査官】 菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−159909(JP,A)
【文献】 特開2005−43196(JP,A)
【文献】 特開2011−58957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 31/00
H01C 7/12
H01C 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電線を絶縁支持する碍子装置に取り付けられている外部ギャップ式避雷装置の劣化状況を活線で測定する劣化診断工具であって、
絶縁性の活線工具の先端に測定部を設けるとともに、活線工具の基部には無線通信手段によりこの測定部を操作する操作部を設け、
この測定部は外部ギャップ式避雷装置の両端に接触する検出端子と、これらの検出端子に高周波電圧を印加する電源部と、検出端子間に流れる電流を検出する検出部とを備え、
前記高周波電圧の周波数を、商用周波数の100倍以上高くし、これらの検出端子間のインピーダンスを100kΩ以下とすることにより、系統電圧に対する外部ギャップ式避雷装置の避雷要素部への誘導電圧に影響されることなく、避雷要素部を構成する酸化亜鉛素子そのものの劣化状況を正確に検出可能としたことを特徴とする外部ギャップ式避雷装置の劣化診断工具。
【請求項2】
電源部が高周波電圧の周波数切替回路を備え、操作部から測定周波数の切替を可能としたことを特徴とする請求項1記載の外部ギャップ式避雷装置の劣化診断工具。
【請求項3】
電源部が投入操作後、所定時間を経過したときに高周波電圧を自動遮断する手段を備えたものであることを特徴とする請求項1記載の外部ギャップ式避雷装置の劣化診断工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電線を絶縁支持する碍子装置に取り付けられている外部ギャップ式避雷装置の劣化状況を、活線状態のまま正確かつ安全に測定することができる外部ギャップ式避雷装置の劣化診断工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送電線を絶縁支持する碍子装置を落雷から保護するとともに、落雷時の続流による送電線の溶断を防止するために、碍子装置には酸化亜鉛形の避雷装置が取り付けられている。周知のように、酸化亜鉛形の避雷装置は非直線の電圧−電流特性を持つ酸化亜鉛素子(避雷要素)を多数直列に接続し、避雷要素部の外周を絶縁物製容器に収納し、ゴムや樹脂等で絶縁被覆したものである。
【0003】
このような避雷装置は通常は碍子装置の接地側に取り付けられ、その先端の放電用電極が気中ギャップGを介して課電側の放電用電極と対向配置されている。この気中ギャップGにより、酸化亜鉛形の避雷装置は電力線から常時切り離された状態にあり、常時は運転電圧がこの避雷装置に直接印加されることはない。しかし落雷時に高い雷サージ電圧を受けると気中ギャップ間で放電を生じさせて酸化亜鉛素子の抵抗値が小さくなって導体となり、雷サージ電流を接地側に逃がし、碍子装置を保護することができる。このような避雷装置を外部ギャップ式避雷装置という。
【0004】
上記のような外部ギャップ式避雷装置は永年にわたり送電用鉄塔上に設置されるものであるが、過大な繰り返し雷撃を受けると酸化亜鉛素子が劣化して所期の避雷効果を達成できなくなるおそれがある。そこでその劣化状況を活線状態のままで測定できる装置が求められている。
【0005】
この要求に応えるために、例えばDC1000V等の直流高電圧による絶縁抵抗測定機器を絶縁性の活線工具の先端に配置する方式(特許文献1)の装置が検討されてきた。しかしこの方式では活線測定時には測定電源の投入や開放を行うことができず、これらの操作は活線工具の先端を手元に引き寄せて行う必要がある。このため鉄塔上の高所作業においては作業性、安全性ともに良好であるとはいえない。また試験電圧を印加する時間は数秒で十分であるが、上記の動作を行うには電源投入から開放までに時間がかかり、その分だけ電池などの駆動電源が大型化して軽量性が損なわれ、操作性も低下することとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2942030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、碍子装置に取り付けられている外部ギャップ式避雷装置の劣化状況を活線状態のまま、正確かつ安全に測定することができ、しかも軽量で操作性に優れた外部ギャップ式避雷装置の劣化診断工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、送電線を絶縁支持する碍子装置に取り付けられている外部ギャップ式避雷装置の劣化状況を活線で測定する劣化診断工具であって、絶縁性の活線工具の先端に測定部を設けるとともに、活線工具の基部には無線通信手段によりこの測定部を操作する操作部を設け、この測定部は外部ギャップ式避雷装置の両端に接触する検出端子と、これらの検出端子に高周波電圧を印加する電源部と、検出端子間に流れる電流を検出する検出部とを備え、前記高周波電圧の周波数を、商用周波数の100倍以上高くしこれらの検出端子間のインピーダンスを100kΩ以下とすることにより、系統電圧に対する外部ギャップ式避雷装置の避雷要素部への誘導電圧に影響されることなく、避雷要素部を構成する酸化亜鉛素子そのものの劣化状況を正確に検出可能としたことを特徴とするものである。
【0009】
なお請求項2のように、電源部が高周波電圧の周波数切替回路を備え、操作部から測定周波数の切替を可能とすることが好ましい。さらに請求項3のように、電源部が投入操作後、所定時間を経過したときに高周波電圧を自動遮断する手段を備えたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の外部ギャップ式避雷装置の劣化診断工具は、絶縁性の活線工具の先端に測定部を設けるとともに、活線工具の基部には無線通信手段によりこの測定部を操作する操作部を設けた構造であるため、遠隔操作により測定電源の投入や測定条件の設定変更などを、大きく姿勢を変えることなく行うことができる。このため鉄塔上の高所での劣化診断作業を安全かつ操作性よく行うことができる。
【0011】
また本発明の外部ギャップ式避雷装置の劣化診断工具は、測定電圧として高周波電圧を用いるとともに、検出端子間のインピーダンスを、系統電圧に対する外部ギャップ式避雷装置の避雷要素部への誘導電圧を無視できる値、例えば100kΩ以下とした測定部を採用した。これにより外部ギャップ式避雷装置の分担電圧を大幅に低減することができ、活線工具の先端の電位を接地電位付近とすることができる。したがって安全性が高まるとともに、検出精度を高めることが可能となる。
【0012】
また、避雷装置に印加する電圧の周波数を、商用周波数の100倍以上高くすることにより、静電容量による避雷装置のインピーダンスを見掛け上小さくすることができる。これにより、外被表面の湿潤や汚損による沿面漏れ抵抗の影響を無視することが可能となり、避雷要素部を構成する酸化亜鉛素子そのものの劣化状況を正確に検出することができる。また100〜1000V程度の比較的低い電源電圧でも検出に十分な負荷電流(数mA程度)を供給することができ、装置全体を小型化することができる。また商用周波数よりも十分に高い周波数で容量性電流を検出するため、電力線からの商用周波数の誘導電流や誘導電圧ノイズを容易に除去することができ、活線状態においても信頼性の高い検出が可能である。
【0013】
さらに請求項2のように電源部が高周波電圧の周波数切替回路を備えたものとしておけば、検出感度の周波数特性に起因する検出誤差を防止することができ、検出精度を向上させることができる。
【0014】
さらに請求項3のように電源部が投入操作後、所定時間を経過したときに高周波電圧を自動遮断する手段を備えたものとしておけば、電池の電流供給容量を大幅に低減することができ、軽量化とそれによる操作性の向上とを達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態を示す全体図である。
図2】測定部の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図2に示されるように、外部ギャップ式避雷装置1は送電線2を絶縁支持する碍子装置3と並列に取付けられるもので、外部に直列ギャップ4を備えている。この直列ギャップ4より、外部ギャップ式避雷装置1は送電線2から電気的に常時切り離された状態で、送電用鉄塔5上に取り付けられている。なお外部ギャップ式避雷装置1と直列ギャップ4はそれぞれ静電容量を有するので、常時は外部ギャップ式避雷装置1にも送電線2の運転電圧Vがこれらの静電容量に応じて分割された分担電圧が作用している。
【0017】
図1は本発明の実施形態を示す全体図であり、10はFRP等の絶縁性材料からなる棒状の活線工具である。その先端には測定部11が設けられ、基部には操作部12が設けられている。測定部11は検出端子13と、電源部14と、検出部15とを備えている。測定部11と操作部12とはFM波や赤外線などの無線通信手段により操作信号や検出信号の遣り取りができるようになっている。このため操作部12から電源部14の投入を行うことができ、検出部15に対して測定周波数の設定ステータス及び劣化判定表示の復帰制御指令を伝達することができる。なお測定部11と操作部12との距離は、活線作業に必要となる絶縁離隔距離を確保できるように設定しておくことはいうまでもない。
【0018】
検出端子13は外部ギャップ式避雷装置1の両端に接触される金属製端子であり、活線工具10の最先端に測定対象となる外部ギャップ式避雷装置1のサイズに対応させて所定間隔で設けられている。電源部14はこれらの検出端子13間に高周波電圧を印加するためのもので、検出部15は高周波電圧を外部ギャップ式避雷装置1に印加した際に外部ギャップ式避雷装置1を通じて検出端子13間に流れる電流を検出する機能を有するものである。
【0019】
図2に示すように、電源部14は電池16と、発振回路17と、高周波トランス18とからなる。発振回路17は高周波を生成する回路であり、高周波トランス18は生成された高周波を昇圧する装置である。ただし昇圧電圧は外部ギャップ式避雷装置1の動作開始電圧である数kV〜数十kVよりも十分に低い数十〜数百V程度、すなわち、外部ギャップ式避雷装置1の動作開始電圧または1mAにおけるバリスタ電圧よりも十分(1桁以下)低くし、外部ギャップ式避雷装置1が高抵抗体とみなせる領域において測定できるようにしておく。周波数は電力線の商用周波数よりも十分に高くしておく。電力線の商用周波数は50Hzまたは60Hzであり、その100倍以上の周波数、例えば5kHz〜数100kHzの高周波を発振回路17により発生させる。
【0020】
発振回路17には高周波電圧の周波数切替回路19を設けておき、外部ギャップ式避雷装置1に印加される高周波電圧を操作部12からの遠隔操作によって複数段階に変更できるようにしておくことが好ましい。この切り替えにより検出感度の周波数特性による誤差をキャンセルすることができる。
【0021】
また電源部14には、投入操作後に所定時間を経過したときに高周波電圧を自動遮断する手段20を設けておくことが好ましい。この実施形態では投入操作後3秒を経過すると自動遮断を行うように設定してあり、従来品に比較して電池16の電流供給容量を大幅に低減させることを可能とした。測定中に手元に引き寄せている間に電圧が遮断されるので、操作時の安全性にも配慮できる。実際の測定に要する時間は1秒以下であるから、自動遮断を行っても全く支障はない。
【0022】
高周波トランス18と検出端子13との間には測定用抵抗21と保護抵抗22とが直列に設けられている。測定用抵抗21は外部ギャップ式避雷装置1に高周波電圧を印加したときに外部ギャップ式避雷装置1に流れる電流を電圧に変換して検出部15に受け渡すためのものであり、保護抵抗22に対して十分小さくなるように100Ω程度のものを用いればよい。
【0023】
本発明では、検出端子13間のインピーダンスを小さくすることにより、系統電圧に対する外部ギャップ式避雷装置1の避雷要素部への誘導電圧を無視できるようにする。このインピーダンスは主として保護抵抗素子22により決定されるので、保護抵抗素子22の抵抗値を1kΩ〜100kΩ程度とすることにより、検出端子13間のインピーダンスを好ましくは100kΩ以下に設定する。
【0024】
この点につきさらに説明すると、商用周波数における系統電圧に対する外部ギャップ式避雷装置1の静電容量を10pF、直列ギャップ4の静電容量を1pF程度とすると、前記したように外部ギャップ式避雷装置1の分担電圧率は1/11となり、系統電圧の9.1%に相当する電圧が外部ギャップ式避雷装置1の端子間に発生することになる。このため外部ギャップ式避雷装置1の端子に検出端子13を接触させて測定を行う際に感電の危険があるばかりでなく、測定精度への影響も懸念される。しかし外部ギャップ式避雷装置1の避雷要素部への誘導電圧に対しては、外部ギャップ式避雷装置1はほぼ絶縁物と見なせることから、そのインピーダンスは静電容量分(1/2πfCs)で表わすことができる。ここでfは周波数、Csは等価静電容量である。このため上記のように検出端子13間のインピーダンスを十分に小さくしておけば、検出端子13を接触させた瞬間に外部ギャップ式避雷装置1と検出電源の合成インピーダンスが減少し、外部ギャップ式避雷装置1の分担電圧率は0に近づく。その計算結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
このように、本発明では検出端子13間のインピーダンスを十分に小さく、例えば100kΩ以下としておくことにより系統電圧に対する外部ギャップ式避雷装置1の避雷要素部への誘導電圧を実質的に無視することができ、安全かつ精度のよい測定が可能となる。
【0027】
測定用抵抗21の端子間電圧は、検出部15のバンドパスフィルター30により系統電圧の誘導分を取り除き、A/D変換部31にて整流・平滑化処理を施してアナログ波高値をデジタルデータに変換する。信号処理部32では予めメモリ33に格納してある判定閾値を呼び出して先のデジタルデータとの比較を行い、所定時間連続して閾値を超えたときに劣化と判定するとともに、表示部34に表示する。
【0028】
以上に説明したように、本発明の劣化診断工具を用いれば、碍子装置3に取り付けられている外部ギャップ式避雷装置1の劣化状況を活線状態のまま、正確かつ安全に測定することができる、しかも本発明の劣化診断工具は軽量で操作性に優れたものであり、高所作業における安全性を確保することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 外部ギャップ式避雷装置
2 送電線
3 碍子装置
4 直列ギャップ
5 送電用鉄塔
10 活線工具
11 測定部
12 操作部
13 検出端子
14 電源部
15 検出部
16 電池
17 発振回路
18 高周波トランス
19 周波数切替回路
20 高周波電圧を自動遮断する手段
21 測定用抵抗
22 保護抵抗
30 バンドパスフィルター
31 A/D変換部
32 信号処理部
33 メモリ
図2
図1