【文献】
上田哲也、他3名,非可逆右手/左手系複合伝送線路からの漏洩波放射特性,電子情報通信学会技術研究報告 MW2008-17,社団法人電子情報通信学会,2008年 5月22日,第108巻、第63号,pp.11-16
【文献】
Ueda, T. ; Horikawa, K. ; Akiyama, M. ; Tsutsumi, M. ,Nonreciprocal Phase-Shift Composite Right/LeftHanded Transmission Lines and Their Applicationto Leaky Wave Antennas,Antennas and Propagation, IEEE Transactions on ,IEEE,2009年,Volume: 57 , Issue: 7 ,pp.1995-2005
【文献】
上田 哲也,非可逆右手/左手系伝送線路を用いた伝送線路型共振器,電子情報通信学会総合大会講演論文集 2008年_エレクトロニクス(1),社団法人電子情報通信学会,2008年 3月 5日,p.112
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
容量性素子を等価的に含む直列枝の回路と、誘導性素子を等価的に含む並列枝の回路と、非可逆伝送線路部分又は可逆伝送線路部分である少なくとも1つの伝送線路部分とを有する少なくとも1つの単位セルを、第1と第2のポートの間で縦続接続して構成されたマイクロ波伝送線路を備えた漏れ波アンテナ装置であって、
上記伝送線路部分は、マイクロ波の伝搬方向に対して異なる磁化方向に磁化されてジャイロ異方性を有するように自発磁化もしくは外部磁界により磁化された材料にて構成され、かつ上記伝搬方向と上記磁化方向とにより形成される面に対して非対称な構造を有するように構成され、
上記マイクロ波伝送線路の各単位セルは、上記マイクロ波伝送線路に入力されるマイクロ波信号の動作周波数と、上記マイクロ波伝送線路の伝搬定数との関係を示す分散曲線において上記マイクロ波伝送線路が所定の伝搬定数を有するように回路構成され、
上記マイクロ波伝送線路は第1のポートと第2のポートとを有し、
漏れ波アンテナ装置は、上記マイクロ波伝送線路の第2のポートに接続され、所定の動作周波数において、上記第2のポートから反射用インピーダンス回路を見たインピーダンスが実質的にゼロ又は無限大となるように動作する反射用インピーダンス回路をさらに備え、
上記動作周波数において、上記マイクロ波伝送線路に沿ってマイクロ波信号が第1のポートから入力されて第2のポートに向かって伝搬するとき、当該マイクロ波信号は第1の漏れ波として放射され、当該第1の漏れ波以外のマイクロ波信号は上記反射用インピーダンス回路により反射され、当該反射されたマイクロ波信号による第2の漏れ波は上記第1の漏れ波の放射方向と実質的に同一の方向で放射されることを特徴とする漏れ波アンテナ装置。
上記マイクロ波伝送線路の各単位セルは、上記動作周波数において、上記マイクロ波伝送線路において上記第1のポートから上記第2のポートに向う方向では上記マイクロ波信号が右手系伝送で電力伝送されかつ上記第2のポートから上記第1のポートに向う方向では上記マイクロ波信号が左手系伝送で電力伝送されるように、上記分散曲線においてマイクロ波伝送線路が所定の伝搬定数を有するように回路構成されたことを特徴とする請求項1記載の漏れ波アンテナ装置。
上記マイクロ波伝送線路の各単位セルは、上記動作周波数において、上記マイクロ波伝送線路において上記第1のポートから上記第2のポートに向う方向では上記マイクロ波信号が左手系伝送で電力伝送されかつ上記第2のポートから上記第1のポートに向う方向では上記マイクロ波信号が右手系伝送で電力伝送されるように、上記分散曲線においてマイクロ波伝送線路が所定の伝搬定数を有するように回路構成されたことを特徴とする請求項1記載の漏れ波アンテナ装置。
上記マイクロ波伝送線路の各単位セルは、上記動作周波数において、上記マイクロ波伝送線路において上記第1のポートから上記第2のポートに向う方向及び上記第2のポートから上記第1のポートに向う両方向で上記マイクロ波信号がその位相定数がゼロの状態で電力伝送されるように、上記分散曲線においてマイクロ波伝送線路が所定の伝搬定数を有するように回路構成されたことを特徴とする請求項1記載の漏れ波アンテナ装置。
上記マイクロ波伝送線路において、上記容量性素子は当該伝送線路を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負であるマイクロ波素子であり、上記誘導性素子は当該伝送線路を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負であるマイクロ波素子であることを特徴とする請求項1乃至4のうちのいずれか1つに記載の漏れ波アンテナ装置。
上記漏れ波アンテナ装置は、上記マイクロ波伝送線路に対する磁界を発生しかつ当該磁界の強度と方向の少なくとも一方を変化することにより、上記漏れ波アンテナ装置から放射される漏洩波の放射方向を変化する磁界発生手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至8のうちのいずれか1つに記載の漏れ波アンテナ装置。
上記反射用インピーダンス回路は、上記第2のポートから反射用インピーダンス回路を見たインピーダンスが実質的にゼロとなる第1の回路と、当該インピーダンスが実質的に無限大となる第2の回路と、上記第1の回路と第2の回路とを選択的に切り替えるスイッチ手段とを備え、上記漏れ波アンテナ装置から放射される漏洩波の偏波を切り替えることを特徴とする請求項1乃至9のうちのいずれか1つに記載の漏れ波アンテナ装置。
容量性素子を等価的に含む直列枝の回路と、誘導性素子を等価的に含む並列枝の回路と、非可逆伝送線路部分又は可逆伝送線路部分である少なくとも1つの伝送線路部分とを有する少なくとも1つの単位セルを、第1と第2のポートの間で縦続接続して構成されたマイクロ波伝送線路を備えたマイクロ波共振器であって、
上記伝送線路部分は、マイクロ波の伝搬方向に対して異なる磁化方向に磁化されてジャイロ異方性を有するように自発磁化もしくは外部磁界により磁化された材料にて構成され、かつ上記伝搬方向と上記磁化方向とにより形成される面に対して非対称な構造を有するように構成され、
上記マイクロ波伝送線路の各単位セルは、上記マイクロ波伝送線路に入力されるマイクロ波信号の動作周波数と、上記マイクロ波伝送線路の伝搬定数との関係を示す分散曲線において上記マイクロ波伝送線路が所定の伝搬定数を有するように回路構成され、
上記マイクロ波伝送線路は第1のポートと第2のポートとを有し、
上記マイクロ波共振器は、
上記マイクロ波伝送線路の第1のポートに接続され、所定の動作周波数において、上記第1のポートから第1の反射用インピーダンス回路を見たインピーダンスが実質的にゼロ又は無限大となるように動作する第1の反射用インピーダンス回路と、
上記マイクロ波伝送線路の第2のポートに接続され、上記動作周波数において、上記第1のポートから第2の反射用インピーダンス回路を見たインピーダンスが実質的にゼロ又は無限大となるように動作する第2の反射用インピーダンス回路とを備え、
(1)上記第1の反射用インピーダンス回路が上記動作周波数において、上記第1のポートから第1の反射用インピーダンス回路を見たインピーダンスが実質的にゼロとなるように動作するとともに、上記第2の反射用インピーダンス回路が上記動作周波数において、上記第2のポートから第2の反射用インピーダンス回路を見たインピーダンスが実質的にゼロとなるように動作するように、上記第1及び第2の反射用インピーダンス回路を設定し、もしくは、
(2)上記第1の反射用インピーダンス回路が上記動作周波数において、上記第1のポートから第1の反射用インピーダンス回路を見たインピーダンスが実質的に無限大となるように動作するとともに、上記第2の反射用インピーダンス回路が上記動作周波数において、上記第2のポートから第2の反射用インピーダンス回路を見たインピーダンスが実質的に無限大となるように動作するように、上記第1及び第2の反射用インピーダンス回路を設定したことを特徴とするマイクロ波共振器。
上記マイクロ波伝送線路の各単位セルは、上記動作周波数において、上記マイクロ波伝送線路において上記第1のポートから上記第2のポートに向う方向では上記マイクロ波信号が右手系伝送で電力伝送されかつ上記第2のポートから上記第1のポートに向う方向では上記マイクロ波信号が左手系伝送で電力伝送されるように、上記分散曲線においてマイクロ波伝送線路が所定の伝搬定数を有するように回路構成されたことを特徴とする請求項11記載のマイクロ波共振器。
上記マイクロ波伝送線路の各単位セルは、上記動作周波数において、上記マイクロ波伝送線路において上記第1のポートから上記第2のポートに向う方向では上記マイクロ波信号が左手系伝送で電力伝送されかつ上記第2のポートから上記第1のポートに向う方向では上記マイクロ波信号が右手系伝送で電力伝送されるように、上記分散曲線においてマイクロ波伝送線路が所定の伝搬定数を有するように回路構成されたことを特徴とする請求項11記載のマイクロ波共振器。
上記マイクロ波伝送線路の各単位セルは、上記動作周波数において、上記マイクロ波伝送線路において上記第1のポートから上記第2のポートに向う方向及び上記第2のポートから上記第1のポートに向う両方向で上記マイクロ波信号がその位相定数がゼロの状態で電力伝送されるように、上記分散曲線においてマイクロ波伝送線路が所定の伝搬定数を有するように回路構成されたことを特徴とする請求項11記載のマイクロ波共振器。
上記マイクロ波伝送線路において、上記容量性素子は当該伝送線路を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負であるマイクロ波素子であり、上記誘導性素子は当該伝送線路を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負であるマイクロ波素子であることを特徴とする請求項11乃至14のうちのいずれか1つに記載のマイクロ波共振器。
上記アンテナ装置は、上記マイクロ波伝送線路に対する磁界を発生しかつ当該磁界の強度と方向の少なくとも一方を変化することにより、上記アンテナ装置から放射される漏洩波の放射方向を変化する磁界発生手段をさらに備えたことを特徴とする請求項19記載のアンテナ装置。
上記第1の反射用インピーダンス回路及び上記第2の反射用インピーダンス回路はそれぞれ、上記第2のポートから反射用インピーダンス回路を見たインピーダンスが実質的にゼロとなる第1の回路と、当該インピーダンスが実質的に無限大となる第2の回路と、上記第1の回路と第2の回路とを選択的に切り替えるスイッチ手段とを備え、上記アンテナ装置から放射される漏洩波の偏波を切り替えることを特徴とする請求項19又は20記載のアンテナ装置。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0047】
まず、本発明の実施形態において用いる基本マイクロ波伝送線路(以下、基本伝送線路という。)である梯子型非可逆右手/左手系伝送線路について以下に説明する。
【0048】
図1は本発明の実施形態において用いる基本伝送線路である梯子型非可逆右手/左手系伝送線路の第1の例の単位セル60Aの構成を示す回路図であり、
図2は上記基本伝送線路である梯子型非可逆右手/左手系伝送線路の第2の例の単位セル60Bの構成を示す回路図である。また、
図3は上記基本伝送線路である梯子型非可逆右手/左手系伝送線路の第3の例の単位セル60Cの構成を示す回路図であり、
図4は上記基本伝送線路である梯子型非可逆右手/左手系伝送線路の第4の例の単位セル60Dの構成を示す回路図である。
【0049】
まず、上記基本伝送線路である非可逆伝送線路の基本構成について、
図1乃至
図4などを参照して以下に説明する。
【0050】
上記基本伝送線路である梯子型非可逆右手/左手系伝送線路の構成は、例えば
図1乃至
図4に示すように、例えば単位セル60A〜60Dが少なくとも1つ以上から構成される梯子型伝送線路構成である。ここで、単位セルの構成は、順方向と逆方向の伝搬定数が異なる非可逆位相推移現象を有する伝送線路部分を含み、直列枝の回路に容量性素子、並列枝の回路に誘導性素子が等価的に挿入された構成を有する(
図1乃至
図4参照。)。上記伝送線路構成として対象となる回路又は装置は、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、スロット線路、コプレーナ線路などマイクロ波、ミリ波、準ミリ波、テラヘルツ波において用いられるプリント基板回路、導波管、誘電体線路だけでなく、プラズモン、ポラリトン、マグノン等を含む導波モードあるいは減衰モードを支える構成全般、あるいはそれらの組み合わせ、さらに等価回路として記述可能な自由空間など全てが含まれる。
【0051】
上記非可逆位相推移現象を有する伝送線路は、上記に示す伝送線路構成のうち、特にジャイロ異方性を有する材料を部分的もしくは全体的に含み、かつ電磁波の伝搬方向に対して異なる磁化方向(より好ましくは、伝搬方向に対して直交する方向)で磁化されて、上記伝搬方向と上記磁化方向とにより形成される面に対して非対称性を有する構造の伝送線路より構成される。上記非可逆位相推移現象を有する伝送線路としては、上記伝送線路以外に、同等の非可逆位相推移機能を有する、波長に比べて充分小さな集中定数素子も対象とする。上記ジャイロ異方性を有する材料としては、自発磁化もしくは外部より印加した直流もしくは低周波の磁界により誘起された磁化あるいは自由電荷の周回運動により、材料の特性を表す誘電率テンソルもしくは透磁率テンソルあるいはその両方が、ジャイロ異方性を持つ状態として表される場合全てを含む。具体的に対象となる例としては、マイクロ波、ミリ波などで用いられるフェライトなどのフェリ磁性体、強磁性体材料、固体プラズマ(半導体材料など)及び液体、気体プラズマ媒質、さらに微細加工などにより構成された磁性人工媒質などが挙げられる。
【0052】
上記直列枝の回路に挿入される容量性素子としては、電気回路でよく用いられるコンデンサ、マイクロ波、ミリ波回路などで用いられる分布定数型容量素子だけでなく、等価的には、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負の値を持つような回路又は回路素子であってもよい。負の実効透磁率を示す具体的な例としては、金属からなるスプリットリング共振器、スパイラル構成などの磁気的共振器を少なくとも1つ含む空間的配置、あるいは磁気的共振状態にある誘電体共振器の空間的配置、あるいはフェライト基板マイクロストリップ線路に沿って伝搬するエッジモードのように、負の実効透磁率を持つ導波モードもしくは減衰モードで動作するマイクロ波回路全てを、等価回路として直列枝の回路が容量性素子として支配的に動作する線路として記述されることから用いることが可能である。さらに、上記直列枝の回路に挿入される容量性素子としては、上記以外に、容量性素子と誘導性素子の直列接続、並列接続あるいはそれらの組み合わせであってもよい。挿入されるべき部分の素子又は回路が全体として容量性を示すものであってもよい。
【0053】
上記並列枝の回路に挿入される誘導性素子として、電気回路で用いられるコイルなどの集中定数型素子や、マイクロ波、ミリ波回路などで用いられる短絡スタブなどの分布定数型誘導性素子だけでなく、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負の値を持つ回路又は素子を用いることができる。具体的には、金属細線、金属球などの電気的共振器を少なくとも1つ含む空間的配置、あるいは金属だけでなく電気的共振状態にある誘電体共振器の空間的配置、あるいはTEモードが遮断領域にある導波管、平行平板線路など、負の実効誘電率を持つ導波モードもしくは減衰モードで動作するマイクロ波回路全てを、等価回路として並列枝が誘導性素子として支配的に動作する伝送線路として記述されることから用いることができる。また、上記並列枝の回路に挿入される誘導性素子としては、上記以外に、容量性素子と誘導性素子の直列接続、並列接続あるいはそれらの組み合わせであってもよい。挿入されるべき部分が全体として誘導性を示す回路又は素子であってもよい。
【0054】
上記非可逆位相推移伝送線路において、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負の場合、減衰モードとなりうるが、負の実効透磁率は、直列枝に容量性素子が挿入された場合に相当することから、同線路の等価回路は、非可逆位相推移部分と直列容量素子部分の両方を含む。
【0055】
上記非可逆位相推移現象を有する伝送線路において、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負の場合、減衰モードとなりうるが、負の実効誘電率は、並列枝の回路に誘導性素子が挿入された場合に相当することから、同線路の等価回路は、非可逆位相推移部分と並列誘導素子部分の両方を含む。
【0056】
次いで、上記基本伝送線路である非可逆伝送線路の基本動作及び構成について、
図1乃至
図12を参照して以下に説明する。
【0057】
本発明で取り扱う非可逆伝送線路の全体は、
図9乃至
図12に示すように、
図1乃至
図4の単位セル60A〜60Dを少なくとも1つ以上含みかつ縦続接続されて構成される。なお、複数個の単位セル60A〜60Dが縦続接続される場合においても、必ずしも同一種の単位セル60A〜60Dより構成される必要はない。
図1及び
図2は、それぞれ単位セル60A,60Bが非対称T型構造及び非対称π型構造を有する場合を示している。また、
図3及び
図4は、より単純な場合として、対称T型構造及び対称π型構造を有する場合を示している。以下では原則として、単位セル60A〜60Dの線路長(つまり周期長さp=p1+p2)が波長に比べて十分小さい場合を仮定しているので、従来技術に係る右手/左手系複合伝送線路における単位セルの取り扱いと同様に、T型、π型あるいはL型の場合であっても、本質的に同様の結果が得られる。実際、L型は、パラメータ操作により
図1又は
図2の場合に含められる。一方で、波長に対する単位セル60A〜60Dの線路長がここで述べる基本的動作を制約しないことを強調しておく。
【0058】
図1乃至
図4に示す線路構造は単純で、それぞれ線路長(
図3及び
図4において線路長p/2であり、
図1及び
図2において線路長p1,p2である。)を有する2本の伝送線路部分61,62を含む非可逆伝送線路の直列枝の回路に容量性素子又は容量性を示す回路網が挿入されており、並列枝の回路には誘導性素子又は誘導性回路網が挿入されている。これらの素子をまとめて単純に実効的な大きさ(線路長)を示すために
図1においては、それぞれキャパシタCi(i=1,2)及びインダクタLを挿入する。同様に、
図2においては、キャパシタC及びインダクタLi(i=1,2)を挿入する。非可逆伝送線路部分の特性を表すパラメータとして、順方向(ポートP11からポートP12に向う方向をいう。)の伝搬定数及び特性インピーダンスをそれぞれβ
p及びZ
pとし、逆方向(ポートP12からポートP11に向う方向をいう。)のそれらをそれぞれ、β
m及びZ
mとしている。具体的例として、
図1及び2に示すように、伝搬定数β
p1、特性インピーダンスZ
p1及び線路長p
1を有する伝送線路部分61と、伝搬定数β
p2、特性インピーダンスZ
p2及び線路長p
2を有する伝送線路部分62とを有する伝送線路において、
図3及び
図4のような対称型伝送線路の場合(p
1=p
2=p/2,β
p1=β
p2=β
p,β
m1=β
m2=β
m,Z
p1=Z
p2=Z
p,Z
m1=Z
m2=Z
mである。特に、T型の場合C1=C2=2C、π型の場合、L1=L2=2Lである。)において、単位セル60A〜60Dの両端に対して周期的境界条件を課すと、次式を得る。なお、当該明細書において、数式がイメージ入力された墨付き括弧の数番号と、数式が文字入力された大括弧の数式番号とを混在して用いており、また、当該明細書での一連の数式番号として「式(1)」の形式を用いて数式番号を式の最後部に付与して(付与していない数式も存在する)用いることとする。
【0060】
ここで、Δβ及び
【数2】
は次式で表される。
【0062】
ω及びβはそれぞれ動作角周波数及び周期構造に沿って伝搬する電磁波の伝搬定数を表す。式(1)は動作角周波数ωと伝搬定数βの関係を表していることから、分散関係式(ω−βダイアグラム)となる。
【0063】
式(1)において、可逆性(β
p=β
mかつZ
p=Z
m)を仮定すると、従来技術に係る可逆性の複合右手/左手系伝送線路と同じになり、式(1)は次式に簡単化される。
【0065】
但し、式(4)中のアドミタンスY及びインピーダンスZはそれぞれ、Y=1/jωL、Z=1/jωCと置いている。
【0066】
図5は従来技術に係る可逆右手/左手系伝送線路において非平衡状態の場合の分散曲線(正規化伝搬定数βp/πに対する角周波数ωの特性)を示すグラフであり、
図6は従来技術に係る可逆右手/左手系伝送線路において平衡状態の場合の分散曲線(正規化伝搬定数βp/πに対する角周波数ωの特性)を示すグラフである。
【0067】
式(4)で表されるような従来技術に係る右手/左手系複合伝送線路の場合、典型的な分散曲線は
図5のように表され、一般に右手系(RH)伝送特性及び左手系(LH)伝送特性を示す帯域の間に禁止帯が現れる。左手系伝送帯域の上限及び右手伝送帯域の下限の周波数は、伝搬定数β=0の条件を式(4)に課すことにより、角周波数ω
2に関する2次方程式の解として得られる。結果として、次の2つの解を得る。
【0069】
ここで、ε
p及びμ
pは単位セル60A〜60D内伝送線路部分61,62の実効誘電率及び透磁率を表す。従って、禁止帯がゼロとなるように、カットオフ周波数がω
1=ω
2を満たすためには、式(4)が伝搬定数β=0の条件に対して、重解を持てばよく、結果として、次式を得る。
【0071】
式(7)の結果は、すでによく知られているように、直列枝の回路に挿入されるべき容量性素子であるキャパシタCと、並列枝の回路に挿入されるべき誘導性素子であるインダクタLとがなすインピーダンス
【数9】
が、挿入されるべき伝送線路部分61,62の特性インピーダンスZ
pと同じであれば、ギャップが生じないというものであり、一種のインピーダンス整合条件となっている。その場合の分散曲線を
図6に示す。
【0072】
式(1)により与えられる非可逆伝送線路の場合の分散曲線について説明する。可逆伝送線路の場合の式(4)の場合は、伝搬定数β=0の軸(つまりω軸)に対して対称構造をなしているのに対して、非可逆伝送線路の式(1)の場合は、分散曲線の対称軸がβ=0の軸よりもβに関して
【数10】
だけ正の方向にシフトした構造となっていることが式(1)の左辺を見ると容易にわかる。従って、
図5に対応して、
図7を得る。
【0073】
図7は上記基本伝送線路である非可逆右手/左手系伝送線路において非平衡状態の場合の分散曲線(正規化伝搬定数βp/πに対する角周波数ωの特性)を示すグラフであり、
図8は上記基本伝送線路である非可逆右手/左手系伝送線路において平衡状態の場合の分散曲線(正規化伝搬定数βp/πに対する角周波数ωの特性)を示すグラフである。
【0074】
このように、非可逆伝送線路を用いた右手/左手系複合伝送線路が、可逆伝送線路を用いた場合と大きく異なるのは、分散曲線の対称軸が可逆線路の場合ω軸に一致するのに対して、非可逆線路の場合、対称軸が伝搬定数βの軸に沿ってシフトすることであり、これは、順方向と逆方向の伝搬定数がβ
p≠β
m、つまり非可逆位相推移の効果による。結果として、次の5種類の伝送帯域(A)〜(E)に分類することができる。
【0075】
(A)順方向及び逆方向伝搬共に左手系伝送。但し、伝搬定数の大きさは互いに異なる。
(B)順方向が左手系伝送、逆方向は伝搬定数がゼロで管内波長が無限大となる。
(C)順方向が左手系伝送、逆方向が右手系伝送。
(D)順方向が右手系伝送、逆方向は伝搬定数がゼロで管内波長が無限大となる。
(E)順方向及び逆方向伝搬共に右手系伝送。但し、伝搬定数の大きさは互いに異なる。
【0076】
但し、一般に、上記の伝送帯域(C)において、
図7を見ればわかるように中央に阻止帯域(禁止バンド)が現れる。ここで、伝送帯域(B)〜(D)は新規な伝送帯域の利用であり、特に、
図7及び
図8において、RH/LHで示している伝送帯域の利用は新規であって各ポートに両方向(順方向及び逆方向)でマイクロ波信号を入力しても位相の流れが所定の同一方向を向く(左手系伝送及び右手系伝送)という特長を有する。
【0077】
比較のため、従来技術に係る可逆伝送線路の場合を考えると、電力伝送の方向が正及び負となる2つの同一モードは、式(7)の整合条件が成立している場合に、つまり、
図6に示すように、伝搬定数β=0の点で2つのモードが結合することなく交差することになる。同様に、式(1)により与えられる分散曲線の対称軸線上β=Δβ/2において、式(1)は角周波数ω
2に関する2次方程式となり、バンドギャップを生じさせないために重解の条件を課すと、次式を得る。
【0079】
但し、ε
p及びμ
pはそれぞれ順方向における単位セル60A〜60D内非可逆伝送線路部分61,62の実効誘電率及び透磁率を表し、ε
m及びμ
mは逆方向の場合のそれらを表す。式(10)より、2つのモードが交差する付近でギャップを生じさせないための条件は、可逆伝送線路の式(7)の場合と類似して、インピーダンス整合条件となっている。しかも、順方向もしくは逆方向のどちらかで整合が取れるように、インダクタL及びキャパシタCを挿入すればよく、インピーダンス整合条件が、可逆伝送線路の場合に比べて、より緩やかであることが特長として挙げられる。
【0080】
図1及び
図2に示されているような、対称性のない、より一般的な場合、つまり非対称型の場合について、若干説明する。このような非対称の場合であっても、基本的に
図7及び
図8と同様に動作する。対称軸の位置は
図7及び
図8の横軸の正規化伝搬定数β
p/π上で次式の位置に修正される。
【0082】
また、2つの非可逆伝送線路部分61,62が同一の伝搬特性を有している場合、バンドギャップを生じない整合条件は式(4)と同じになる。但し、
図1の場合は
【数14】
であり、
図2の場合、
【数15】
である。
【0083】
図8からわかるように、従来技術である可逆な右手/左手系複合伝送線路と本発明に係る非可逆移相右手/左手系複合伝送線路との最も大きな相違は、マイクロ波の伝搬方向に対して異なる磁化方向に磁化されてジャイロ異方性を有するように自発磁化もしくは外部磁界により磁化された材料にて構成され、かつ上記伝搬方向と上記磁化方向とにより形成される面に対して非対称な構造を有するように構成された非可逆伝送線路部分から生じる、式(2)に示されたΔβにより実現される。上記のジャイロ異方性を有する材料内の磁化の大きさと向き、もしくは同材料に印加された内部磁界の大きさと向きのうち、少なくとも一つを連続的にもしくは離散的に変化させることにより、このΔβの値を連続的にもしくは離散的に変化させることが可能である。
【0084】
ジャイロ異方性を有する材料内の磁化の大きさと向き、もしくは同材料に印加された内部磁界の大きさと向きのうち、少なくとも一つを変化させることにより、非可逆位相特性であるΔβがほぼゼロとなる場合、従来技術である可逆な右手/左手系複合伝送線路と同一の特性を示す。このように、本発明の非可逆移相右手/左手系複合伝送線路は、従来技術である可逆な右手/左手系複合伝送線路の諸特性を包含する、より一般的な伝送線路の動作を提供する。
【0085】
伝送線路からの漏れ波放射は、線路内の位相定数βと自由空間中の波長β
0=ω/cに対して、β<β
0の場合に生じる。但しcは真空中の光速の大きさを表す。この場合、漏れ波により形成される放射ビーム方向は、アンテナを構成する線路の長さが波長と同程度かそれ以上の場合、ほぼ
【数16】
の方向を向く。但し、放射角θは線路に対してブロードサイド方向(伝搬方向に対して垂直方向)を基準としてゼロとおき、位相定数βが正となる向きの方向に傾いた場合を表す。なお、線路長が波長に比べて充分小さい場合、つまり線路長が小さくなると、漏洩波の放射方向と上記式(14)の方向からの逸脱が大きくなる。
【0086】
図8に示すように、線路内の伝送電力の向きに関係なく、本発明に係る非可逆移相右手/左手系複合伝送線路に沿って伝搬する電磁波の位相定数βが等しくなるのは、動作角周波数がω=ω
0の場合であり、このとき位相定数はβ=Δβ/2となる。この動作点が、上述の放射条件をも満たす場合、漏れ波による放射ビーム方向θは、線路内の伝送電力の方向に関係なく、ほぼ
【数17】
の方向を向く。上述の放射条件を満足する下で、非可逆位相特性であるΔβの値を変化させることにより、線路内の伝送電力の向きに関係なく、本発明に係る非可逆移相右手/左手系複合伝送線路からの漏れ波放射の放射方向を同一にし、かつその放射ビーム方向を変化させることが可能であることを式(15)は示している。
【0087】
図9は
図1の例の単位セル60Aを複数個縦続接続されて構成された上記基本伝送線路である梯子型非可逆右手/左手系伝送線路70Aの構成を示すブロック図である。
図9において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Aが縦続接続されることにより、梯子型非可逆右手/左手系伝送線路70Aを構成している。
【0088】
また、
図10は
図2の例の単位セル60Bを複数個縦続接続されて構成された上記基本伝送線路である梯子型非可逆右手/左手系伝送線路70Bの構成を示すブロック図である。
図10において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Bが縦続接続されることにより、梯子型非可逆右手/左手系伝送線路70Bを構成している。
【0089】
さらに、
図11は
図3の例の単位セル60Cを複数個縦続接続されて構成された上記基本伝送線路である梯子型非可逆右手/左手系伝送線路70Cの構成を示すブロック図である。
図11において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Cが縦続接続されることにより、梯子型非可逆右手/左手系伝送線路70Cを構成している。
【0090】
またさらに、
図12は
図4の例の単位セル60Dを複数個縦続接続されて構成された上記基本伝送線路である梯子型非可逆右手/左手系伝送線路70Dの構成を示すブロック図である。
図12において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Dが縦続接続されることにより、梯子型非可逆右手/左手系伝送線路70Dを構成している。
【0091】
以上の
図9乃至
図12の構成例においてそれぞれ、同一の単位セルを用いているが、本発明はこれに限らず、異なる単位セルの組み合わせであってもよい。
【0092】
次いで、非可逆右手/左手系線路構成の具体的構成例について以下、
図13乃至
図15を参照して以下に説明する。
【0093】
図13は上記基本伝送線路である、フェライト基板10Fを有する非可逆右手/左手系伝送線路の第1の例の外観を示す斜視図である。
図13において、単位セルを構成する非可逆位相推移現象を持つ伝送線路として、構造が非対称な垂直磁化されたフェライト基板10F上に形成されたマイクロストリップ線路12Aに沿って伝搬するエッジモードを利用した非可逆右手/左手系伝送線路を示す。ここで、当該伝送線路の直列枝に集中定数容量素子である間隙14のキャパシタCを形成し、並列枝に誘導性素子として短絡スタブ導体13をフェライト基板10Fに隣接して置かれた誘電体基板10上に形成することを特徴としている。
【0094】
図13において、当該伝送線路は、
(a)基板表面に対して垂直な方向の自発磁化もしくは外部磁界により生じた磁化Msを有するフェライト基板10Fと、例えばガラスエポキシ樹脂などの誘電体基板10とをそれらの側面同士で境界部分にて合体してなり、裏面に接地導体11を有する基板と、
(b)上記基板の境界部分上に形成されたマイクロストリップ線路12Aと、
(c)マイクロストリップ線路12Aを、それぞれ間隙14を形成して、幅wの線路部である複数のストリップ導体12に分断し、複数のストリップ導体12のうちの互いに隣接する各ストリップ導体12を接続する複数のキャパシタCと、
(d)上記各ストリップ導体12をそれぞれ接地導体11に接続する複数の短絡スタブ導体13とを備えて構成される。
【0095】
なお、
図13の伝送線路では、6個のキャパシタCを装荷し、5個の短絡スタブ導体13を形成してなる5周期の分布定数回路型伝送線路を形成している。また、磁性体基板10F及び誘電体基板10を挟設する各ストリップ導体12及び線路端のストリップ導体12P1,12P2(幅w
port)と接地導体11によりマイクロストリップ線路12Aを構成する。さらに、キャパシタCは入力される高周波信号の周波数に依存して、互いに隣接するストリップ導体12間に実体のあるキャパシタを接続してもよいし、
図13のごとく上記各間隙14の浮遊容量のみで構成し、もしくは上記各間隙14の浮遊容量と並列接続されたキャパシタとからなる直列容量をキャパシタCとしてもよい。また、スタブ長l
stub及びスタブ幅w
stubの短絡スタブ導体13の形成間隔は単位セルの周期p[mm]と同じである。
【0096】
図14は上記基本伝送線路である、磁性体基板10Mを有する非可逆右手/左手系伝送線路の第2の例の外観を示す斜視図である。
図14において、当該例の非可逆右手/左手系伝送線路は、
図13の例に比較して、フェライト基板10Fに代えて、磁性体基板10Mを用いたことを特徴としている。すなわち、単位セルを構成する非可逆位相推移現象を持つ伝送線路として、垂直磁化Msされた磁性金属細線構造からなる磁性体基板10Mを用いた非対称な構成を有するマイクロストリップ線路12Aに沿って伝搬するエッジモードを利用した非可逆右手/左手系伝送線路を示す。ここで、当該伝送線路の直列枝に集中定数容量素子である間隙14のキャパシタCを形成し、並列枝に誘導性素子として短絡スタブ導体13を磁性体基板10Mに隣接して置かれた誘電体基板10上に形成することを特徴としている。
【0097】
図15は上記基本伝送線路である、半導体基板10Sを有する非可逆右手/左手系伝送線路の第3の例の外観を示す斜視図である。
図15において、当該例の非可逆右手/左手系伝送線路は、
図13の例に比較して、フェライト基板10Fに代えて、半導体基板10Sと、それに対して垂直直流磁界を印加する直流磁界発生器30を用いたことを特徴としている。すなわち、単位セルを構成する非可逆位相推移現象を持つ伝送線路として、直流磁界発生器30により垂直磁界Hoにより磁化された半導体基板10Sを用いた非対称な構成を有するマイクロストリップ線路12Aに沿って伝搬するエッジモードを利用した非可逆右手/左手系伝送線路を示す。ここで、当該伝送線路の直列枝に集中定数容量素子である間隙14のキャパシタCを形成し、並列枝に誘導性素子として短絡スタブ導体13を半導体基板10Sに隣接して置かれた誘電体基板10上に形成することを特徴としている。
【0098】
次いで、上記基本伝送線路回路である非可逆右手/左手系伝送線路の電気的特性について以下に説明する。以下の図面の電気的特性はすべてシミュレーション結果である。
【0099】
図16は上記基本伝送線路回路である非可逆右手/左手系伝送線路において平衡状態の場合のSパラメータの周波数特性を示すグラフである。また、
図17は上記基本伝送線路回路である非可逆右手/左手系伝送線路において平衡状態の場合の分散曲線(正規化伝搬定数βp/πに対する角周波数ωの特性)を示すグラフである。当該伝送線路では、フェライト基板10Fとして、厚さ0.8mm、誘電定数15、飽和磁化μ
0Ms=175mT、内部直流磁界50mT及び磁気損失μ
0ΔH=5mTの多結晶イットリウム鉄ガーネットを用いた。フェライト基板10F上のストリップ導体12の幅は、直流磁界が印加されない状態の固有インピーダンスが50Ωであるように、0.5mmに設定した。単位セルの長さは、p=3mmであり、挿入する直列キャパシタンス14Cは0.4pFである。直流磁界がフェライト基板に直角に印加されると、エッジガイドモードはフェライトマイクロストリップ線路に沿って伝搬され、非対称構造の非可逆伝送特性を示す。50mTの直流磁界下の平衡型非可逆移相右手/左手系伝送線路は、挿入する直列枝キャパシタンス及び分流枝インダクタンスの値を適切に選択することによって設計した。
【0100】
直流磁界50mTで設計した伝送線路の伝送特性を
図16及び
図17に示している。透過係数及び反射係数の大きさを
図16に示し、
図17は透過係数S
21及びS
12から推定される主モードの分散曲線を示す。
図16から、主エッジガイドモードの負の実効透磁率より遙かに上の周波数領域f>5GHzでは伝送線路は透過係数の大きさにおいてほとんど非可逆性を持たないことが認められるが、
図17からわかるように、線路は依然として重大な非可逆位相特性を有する。提案する右手/左手系複合伝送線路の非可逆位相特性は、所定の等価回路モデルに関連して説明することができる。
図17からは、透過係数S
21の場合、5.85GHzより下の周波数では左手系(LH)モードが主流であり、5.85GHzより上の周波数では右手系(RH)モードが主流であることがわかる。透過係数S
12の場合、位相定数ゼロにおける周波数は6.7GHzであることがわかるが、これは透過係数S
2よりも高い。位相定数ゼロにおける透過係数S
21とS
12との周波数差の結果として、5.85GHzから6.7GHzまでの周波数範囲において、透過係数S
21の主要RHモード及び透過係数S
12の別の主要LHモードが存在する。両者のモード間結合がない状態で、透過係数S
21及びS
12両方の正規化伝搬定数は、6.3GHzにおいて、同一値0.055を有することは、注目すべきである。
【0101】
次いで、従来技術の伝送線路回路である可逆右手/左手系伝送線路を構成する単位セルについて以下に説明する。
【0102】
図18は上記従来技術の基本伝送線路回路である可逆右手/左手系伝送線路を構成する単位セルの等価回路モデルを示す回路図である。
図18に示すように、単位セルは、直列インダクタL
R及び並列キャパシタC
Rを有する分布定数線路に対して、直列枝にキャパシタC
L及び並列枝にインダクタL
Lが挿入された構造となっている。
図18中に破線で示す通り、単位セル内において、直列枝には直列共振回路71が、並列枝には並列共振回路72が挿入された構造をなしている。この直列及び並列共振周波数は、それぞれ構造の実効透磁率及び誘電率がゼロとなる周波数に相当する。平衡型右手/左手系複合伝送線路の場合、両者の共振周波数は同じである、つまり同周波数においては直列共振及び並列共振が同時に起こりうる。
図20及び
図21を参照して詳細後述する実施形態に係る構造においては、伝送線路の終端の一方に反射用素子を挿入する方法として、大きさが等価的に0又は無限大であるインピーダンスZを接続する。この終端インピーダンスZの大きさが0である場合には、伝送線路からZへ大電流が流れ込むため、各単位セルの直列枝のインピーダンスが0となる直列共振動作が支配的となる。反対に、Zが無限大であるときには線路とZの接続点で電流はゼロ、電圧が最大となるため、並列枝のインピーダンスがほぼ無限大となる並列共振動作が支配的となる。以上のように、終端インピーダンスの変化により、平衡型右手/左手系複合伝送線路の特性を支配する共振状態が大きく変わる。その結果として、終端インピーダンスの変化により、線路から放射される漏洩波の主偏波方向が変化する。マイクロストリップ線路に誘導性スタブの挿入された右手/左手系複合伝送線路の場合、終端に短絡条件を課すと、直列共振が支配的となり、中央のマイクロストリップ線路上に大電流が流れ、漏れ波放射の主偏波方向は同線路を含むZX面内方向(θ方向)となる。一方で、終端に開放条件を課すと、各単位セル内で並列共振が支配的となり、その結果、並列共振回路を構成する誘導性スタブ上に大電流が流れ、同方向が漏れ波放射の主偏波方向を決める。誘導性スタブが、中央のマイクロストリップ線路に対して垂直方向となるように挿入される場合、漏れ波放射の主偏波はY軸方向(φ方向)となる。これらの実施例については詳細後述する。
【0103】
図19は本発明の実施形態に係る非可逆右手/左手系伝送線路を構成する単位セルの等価回路モデルを示す回路図である。
図13のような従来技術の基本伝送線路である可逆右手/左手系伝送線路とは異なり、本実施形態に係る構造においては、非可逆伝送線路部分と、その直列枝にキャパシタンスC
L、並列枝にインダクタンスL
Lが挿入された構造となっている。非可逆線路部分は、伝搬する波の位相に非可逆性を与えるものの、従来技術に係る可逆右手/左手系複合伝送線路と同様に、直列枝は、誘導性素子として、並列枝は、容量性素子としての役割を果たす。
図20及び
図21を参照して詳細後述する実施形態に係る構造においては、伝送線路の終端の一方に反射用素子を挿入する方法として、大きさが等価的に0又は無限大であるインピーダンスZを接続する。当該構造においても、終端インピーダンスの状態によって、伝送線路の動作が大きく異なる。終端インピーダンスZの大きさが0である場合には、伝送線路からZへ大電流が流れ込むため、各単位セル内の直列枝のインピーダンスが0となる直列共振動作が支配的となる。反対に、Zが無限大であるときには線路とZの接続点で電流はゼロ、電圧が最大となるため、並列枝のインピーダンスが無限大となる並列共振動作が支配的となる。以上のように、終端インピーダンスの変化により、平衡型右手/左手系複合伝送線路の特性を支配する共振状態が大きく変わる。その結果として、終端インピーダンスの変化により、線路から放射される漏洩波の主偏波方向が変化する。マイクロストリップ線路に誘導性スタブの挿入された非可逆移相右手/左手系複合伝送線路の場合、終端に短絡条件を課すと、直列共振が支配的となり、中央のマイクロストリップ線路上に大電流が流れ、漏れ波放射の主偏波方向は同線路を含むZX面内方向(θ方向)となる。一方で、終端に開放条件を課すと、各単位セル内で並列共振が支配的となり、その結果、並列共振回路を構成する誘導性スタブ上に大電流が流れ、同方向が漏れ波放射の主偏波方向を決める。誘導性スタブが、中央のマイクロストリップ線路に対して垂直方向となるように挿入される場合、漏れ波放射の主偏波はY軸方向(φ方向)となる。
【0104】
第1の実施形態.
図20は本発明の第1の実施形態に係る、非可逆右手/左手系伝送線路のポートP2に反射用インピーダンス素子75を接続してなる漏れ波アンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図20において、当該漏れ波アンテナ装置は、基本伝送線路である非可逆移相右手/左手系複合伝送線路の一方のポートP2を、所定のインピーダンスZを有する反射用インピーダンス素子75(当該反射用インピーダンス素子75は、以下に詳述するように、素子であってもよいし、回路であってもよい。)で終端したことを特徴としている。
図20の例では、ポートP2にインピーダンスZを有する反射用インピーダンス素子75を接続し、ポートP1を無線信号の入力ポーとした場合を示す。
図20に示すように、ポートP1から入射した所定の周波数の無線信号は、ポートP2へ向かい右手系モードで伝搬する。この際、エンドファイヤ方向へ漏洩波放射が起こる(前方放射)。ポートP1から伝搬した波はポートP2において、インピーダンスZにより決定される所定の位相条件のもとで反射し、ポートP1へ向かい左手系モードで伝搬する。この際、バックファイヤ方向へ漏洩波放射が起こる(後方放射)。ここで、入射波及び反射波により発生する同一方向への放射波の強め合いを利用し、終端に反射用インピーダンス素子75を用いない基本伝送線路(以下、比較例という。)の構造に比べて放射利得の向上を図ったものが、提案する反射型構造を有する漏れ波アンテナ装置である。
【0105】
第2の実施形態.
図21は本発明の第2の実施形態に係る、非可逆右手/左手系伝送線路のポートP1に反射用インピーダンス素子75を接続してなる漏れ波アンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図21において、当該漏れ波アンテナ装置は、基本伝送線路である非可逆移相右手/左手系複合伝送線路の一方のポートP1を、所定のインピーダンスZを有する反射用インピーダンス素子75で終端したことを特徴としている。
図21の例では、ポートP1にインピーダンスZを有する反射用インピーダンス素子75を接続し、ポートP2を無線信号の入力ポーとした場合を示す。
図21に示すように、ポートP2から入射した所定の周波数の無線信号は、ポートP1へ向かい左手系モードで伝搬する。この際、バックファイヤ方向へ漏洩波放射が起こる(後方放射)。ポートP2から伝搬した波はポートP1において、インピーダンスZにより決定される所定の位相条件のもとで反射し、ポートP2へ向かい右手系モードで伝搬する。この際、エンドファイヤ方向へ漏洩波放射が起こる(前方放射)。ここで、入射波及び反射波により発生する同一方向への放射波の強め合いを利用し、終端に反射用素子を用いない比較例に係る基本伝送線路の構造に比べて放射利得の向上を図ったものが、提案する反射型構造を有する漏れ波アンテナ装置である。
【0106】
第3の実施形態.
図22は本発明の第3の実施形態に係る、非可逆右手/左手系伝送線路のポートP2に反射用インピーダンス素子である終端開放右手系伝送線路76を接続してなる漏れ波アンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図22において、当該漏れ波アンテナ装置は、基本伝送線路である非可逆移相右手/左手系複合伝送線路の一端に無線信号の入出力ポートP1を設け、他端に設けたポートP2に所定のインピーダンスを有する右手系伝送線路76を接続したことを特徴としている。
図22の例では、接続するインピーダンスとして電気長θ1の終端開放(ポートP3を開放端としている)右手系伝送線路76を採用している。右手系伝送線路76の電気長θ1を調整し、右手系伝送線路76の接続点P2から見たインピーダンスが0又は無限大となるようにすることで、比較例に係る基本伝送線路に対してそれぞれ電界のθ成分又はφ成分における放射利得の向上を図っている。
【0107】
第4の実施形態.
図23は本発明の第4の実施形態に係る、非可逆右手/左手系伝送線路のポートP2に反射用インピーダンス素子である終端短絡右手系伝送線路77を接続してなる漏れ波アンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図23において、当該漏れ波アンテナ装置は、基本伝送線路である非可逆移相右手/左手系複合伝送線路の一端に信号の入出力ポートP1を設け、他端に設けたポートP2に所定のインピーダンスを有する右手系伝送線路77を接続したことを特徴としている。
図23の例では、接続するインピーダンスとして電気長θ2の終端短絡(ポート3を短絡端としている)右手系伝送線路77を採用している。右手系伝送線路77の電気長θ2を調整し、右手系伝送線路77の接続点P2から見たインピーダンスが0又は無限大となるようにすることで、比較例に係る基本伝送線路に対してそれぞれ電界のθ成分又はφ成分における放射利得の向上を図っている。
【0108】
図24は
図20の漏れ波アンテナ装置をマイクロストリップ線路により構成してなる漏れ波アンテナ装置の外観を示す斜視図である。
図24に示すように、
図13の基本伝送線路において、ポートP2側に、裏面に接地導体11が形成された誘電体基板10を延在させ、当該誘電体基板10上に、一端にストリップ導体12又は間隙14が接続されたストリップ導体76sを形成し、その他端を開放端としたことを特徴としている。誘電体基板10を挟設するストリップ導体76s及び接地導体11によりマイクロストリップ線路を構成し、
図22の電気長θ1の終端開放右手系伝送線路76を構成している。なお、入力ポートをP1とし、フェライト基板10Fの外部印加直流磁界をμ
0H
exで示している。
【0109】
図24の実施形態においては、
図13の伝送線路を用いているが、本発明はこれに限らず、
図14又は
図15の伝送線路を用いてもよい。以下の各実施形態についても同様である。また、
図24の間隙14については、チップコンデンサにより置き換えてもよい。さらに、ポートP1、P2における端部においては間隙14で開始してもよいし、ストリップ導体13から開始してもよい。以下の各実施形態についても同様である。
【0110】
図25は
図21の漏れ波アンテナ装置をマイクロストリップ線路により構成してなる漏れ波アンテナ装置の外観を示す斜視図である。
図25に示すように、
図13の基本伝送線路において、ポートP1側に、裏面に接地導体11が形成された誘電体基板10を延在させ、当該誘電体基板10上に、一端にストリップ導体12又は間隙14が接続されたストリップ導体76sを形成し、その他端を開放端としたことを特徴としている。誘電体基板10を挟設するストリップ導体76s及び接地導体11によりマイクロストリップ線路を構成し、
図22の電気長θ1の終端開放右手系伝送線路76を構成している。なお、入力ポートをP2とし、フェライト基板10Fの外部印加直流磁界をμ
0H
exで示している。
【0111】
図26は
図24及び
図25の漏れ波アンテナ装置の各入力ポートP1,P2の反射周波数特性を示すグラフである。
図26において、反射係数S
11が
図24の場合で、反射係数S
22が
図25の場合である。いずれの場合も反射特性はほぼ同程度で、−4dBとなっている。この反射の大きさは、一方通行伝搬における挿入損失が
図16の比較例から約2dB程度であるので、ほぼ予想された通りとなっている。
【0112】
図27は
図13の非可逆右手/左手系伝送線路からの漏洩波の放射特性(ポートP1に無線信号を入力したとき)を示すグラフである。
図27において、実線及び破線はそれぞれ、電界のθ方向成分、φ方向成分である。
図27から明らかなように、電界のθ方向成分、φ方向成分ともに、仰角θが正となる方向、すなわちエンドファイヤ方向(前方放射)へ主ビームが向いていることがわかる。
【0113】
図28は
図13の非可逆右手/左手系伝送線路からの漏洩波の放射特性(ポートP2に無線信号を入力したとき)を示すグラフである。
図28において、実線及び破線はそれぞれ、電界のθ方向成分、φ方向成分である。
図28から明らかなように、電界のθ方向成分、φ方向成分ともに、θが正となる方向、バックファイヤ方向(後方放射)へ主ビームが向いていることがわかる。
【0114】
図29は
図24の漏れ波アンテナ装置からの漏洩波の放射特性(ポートP1に無線信号を入力したときで長さ9mmの終端開放右手系伝送線路76をポートP2に接続したとき)を示すグラフである。
図29は、θ方向成分の電界の放射利得の向上を図るために、長さ9mmの終端開放右手系伝送線路76をポートP2に接続した場合を示している。終端開放右手系伝送線路76の長さはほぼ4分の1波長に相当し、同線路76と非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2との接続点P2において実質的に短絡条件(ポートP2から右手系伝送線路76を見たときのインピーダンスが実質的に0となる条件)となるように選択している。無線信号の入力はポートP1から行っている。
図29の実線が表すように、電界のθ方向成分の放射が破線に比較して顕著となっていることがわかる。
【0115】
図30は
図25の漏れ波アンテナ装置からの漏洩波の放射特性(ポートP2に無線信号を入力したときで長さ9mmの終端開放右手系伝送線路76をポートP1に接続したとき)を示すグラフである。
図30は、θ方向成分の電界の放射利得の向上を図るために、長さ9mmの終端開放右手系伝送線路76をポートP1に接続した場合を示している。終端開放右手系伝送線路76の長さはほぼ4分の1波長に相当し、同線路76と非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2との接続点P1において実質的に短絡条件(ポートP1から右手系伝送線路76を見たときのインピーダンスが実質的に0となる条件)となるように選択している。無線信号の入力はポートP2から行っている。
図30の実線が表すように、電界のθ方向成分の放射が破線に比較して顕著となっていることがわかる。
【0116】
図31は
図24の漏れ波アンテナ装置からの漏洩波の放射特性(ポートP1に無線信号を入力したときで長さ15mmの終端開放右手系伝送線路76をポートP2に接続したとき)を示すグラフである。
図31は、φ方向成分の電界の放射利得の向上を図るために、長さ15mmの終端開放右手系伝送線路76をポートP2に接続した場合を示している。終端開放右手系伝送線路76の長さはほぼ半波長に相当し、同線路76と非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2との接続点P2において実質的に開放条件(ポートP2から右手系伝送線路76を見たときのインピーダンスが実質的に無限大となる条件)となるように選択している。無線信号の入力はポートP1から行っている。
図31の破線が表すように、電界のφ方向成分の放射が実線に比較して顕著となっていることがわかる。
【0117】
図32は
図25の漏れ波アンテナ装置からの漏洩波の放射特性(ポートP2に無線信号を入力したときで長さ15mmの終端開放右手系伝送線路76をポートP1に接続したとき)を示すグラフである。
図32は、φ方向成分の電界の放射利得の向上を図るために、長さ15mmの終端開放右手系伝送線路76をポートP1に接続した場合を示している。終端開放右手系伝送線路76の長さはほぼ半波長に相当し、同線路76と非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2との接続点P2において実質的に開放条件(ポートP1から右手系伝送線路76を見たときのインピーダンスが実質的に無限大となる条件)となるように選択している。無線信号の入力はポートP2から行っている。
図32の破線が表すように、電界のφ方向成分の放射が実線に比較して顕著となっていることがわかる。
【0118】
図33は
図13及び
図24の漏れ波アンテナ装置からの漏洩波の放射特性の間の第1の比較結果を示すグラフである。ここで、
図13の漏れ波アンテナ装置は比較例に係る基本伝送線路を用いた漏れ波アンテナ装置であり、
図24の漏れ波アンテナ装置は、θ方向成分の電界の放射利得の向上を図るために、終端開放右手系伝送線路76と非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2との接続点P2において実質的に短絡条件(ポートP2から右手系伝送線路76を見たときのインピーダンスが実質的に0となる条件)となるよう、4分の1波長に相当する長さ9mmの終端開放右手系伝送線路76をポートP2に接続したものである。無線信号の入力はポートP1から行っている。
図33の特性線はともに電界のθ方向成分であり、点線が比較例(
図13)であり、実線が第1の実施形態(
図24)の特性を示す。
図33から明らかなように、第1の実施形態(
図24)に係る反射型構造を採用することにより放射利得が3.9dB向上することが確認できた。
【0119】
図34は
図13及び
図24の漏れ波アンテナ装置からの漏洩波の放射特性の間の第2の比較結果を示すグラフである。ここで、
図13の漏れ波アンテナ装置は比較例に係る基本伝送線路を用いた漏れ波アンテナ装置であり、
図24の漏れ波アンテナ装置は、φ方向成分の電界の放射利得の向上を図るために、終端開放右手系伝送線路76と非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2との接続点P2において実質的に開放条件(ポートP2から右手系伝送線路76を見たときのインピーダンスが実質的に無限大となる条件)となるよう、半波長に相当する長さ15mmの終端開放右手系伝送線路76をポートP2に接続したものである。無線信号の入力はポートP1から行っている。
図34の特性線はともに電界のφ方向成分であり、点線が比較例(
図13)であり、実線が第1の実施形態(
図24)の特性を示す。
図34から明らかなように、第1の実施形態(
図24)に係る反射型構造を採用することにより、放射利得が1.9dB向上することが確認できた。
【0120】
第5の実施形態.
図35は本発明の第5の実施形態に係る偏波方向切替型漏れ波アンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図35において、基本伝送線路である非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2の一端に信号の入出力ポートP1を設け、他端に設けたポートP2に所定のインピーダンスを有する右手系伝送線路78を接続したものとなっている。
図35の例では、接続するインピーダンスとして電気長θ3の終端開放右手系伝送線路78を採用している。右手系伝送線路78の電気長θ3を調整し、当該線路78の接続点P2から見たインピーダンスが0又は無限大となるようにすることで、比較例に係る基本伝送線路に対しそれぞれ電界のθ成分又はφ成分における放射利得の向上を図っている。
図35の例ではさらにこれに加え、右手系伝送線路78の先端のポートP3にさらに、スイッチSW1を介して別の電気長θ4の終端開放(ポートP4を開放としている)右手系伝送線路79を任意に接続及び開放可能な構造としている。ここで、SW1を接点a側又はb側に選択的に切替することにより、右手系線路78,79を含む伝送線路部分の電気長が可変である構造が実現できる。すなわち、非可逆伝送線路2と右手系伝送線路78,79の接続点P2から見たインピーダンスが0又は無限大となるよう電気長θ3及びθ4を調整することにより、偏波方向を選択して放射利得の向上を狙うことが可能である。例えば、右手系伝送線路78の長さを9mmとし、右手系伝送線路79の長さを6mmとし、SW1を接点a側に切替えたとき、右手系伝送線路78のみとなり、θ方向の放射成分がφ方向の放射成分よりも大きくなる(例えば、
図29参照)。一方、SW1を接点b側に切り替えたとき、右手系伝送線路78,79の合体された伝送線路となり、φ方向の放射成分がθ方向の放射成分よりも大きくなる(例えば、
図31参照)。従って、主たる偏波方向をθ方向又はφ方向に選択的に切り換えることができる。
【0121】
第6の実施形態.
図36は本発明の第6の実施形態に係る偏波方向切替型漏れ波アンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図36において、基本伝送線路である非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2の一端に信号の入出力ポートP1を設け、他端に設けたポートP2に所定のインピーダンスを有する右手系伝送線路81を接続したものとなっている。
図36の例では、接続するインピーダンスとして電気長θ5の終端短絡右手系伝送線路81を採用している。右手系伝送線路81の電気長θ5を調整し、当該線路81の接続点P2から見たインピーダンスが0又は無限大となるようにすることで、比較例に係る基本伝送線路に対しそれぞれ電界のθ成分又はφ成分における放射利得の向上を図っている。
図36の例ではさらにこれに加え、右手系伝送線路81の先端のポートP3にさらに、スイッチSW2を介して別の電気長θ6の終端短絡(ポートP4を短絡としている)右手系伝送線路82を任意に接続及び開放可能な構造としている。ここで、SW2を接点a側又はb側に選択的に切替することにより、右手系線路81,82を含む伝送線路部分の電気長が可変である構造が実現できる。すなわち、非可逆伝送線路2と右手系伝送線路81,82の接続点P2から見たインピーダンスが0又は無限大となるよう電気長θ5及びθ6を調整することにより、偏波方向を選択して放射利得の向上を狙うことが可能である。例えば、右手系伝送線路81の長さを9mmとし、右手系伝送線路82の長さを6mmとする。SW1を接点a側に切り替えたとき、右手系伝送線路81と短絡終端のみとなり、ポートP2から右手系伝送線路81を見たインピーダンスは、
図35の場合と逆で、無限大(開放状態)となる。従って、φ方向の放射成分がθ方向の放射成分よりも大きくなる(例えば、
図31参照)。一方、SW1を接点b側に切り替えたとき、右手系伝送線路81,82の合体された伝送線路となり、ポートP2から右手系伝送線路81を見たインピーダンスは、
図35の場合と逆で、0(短絡状態)となる。従って、θ方向の放射成分がφ方向の放射成分よりも大きくなる(例えば、
図29参照)。以上のように、主たる偏波方向をθ方向又はφ方向に選択的に切り換えることができる。
【0122】
図22、
図23、
図24、
図25、
図35及び
図36においては、入力ポーと逆側のポートに接続される反射用終端インピーダンスを構成する方法として、右手系伝送線路が用いられているが、左手系伝送線路を用いて構成することも可能である。例えば、
図22の右手系伝送線路76は電気長θ1をもつが、同じ電気長を得るのに左手系伝送線路を用いて構成することが可能である。
図23、
図35及び
図36においても同様である。
【0123】
第7の実施形態.
図37は本発明の第7の実施形態に係るビーム方向走査型漏れ波アンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図37において、第1の実施形態に係る漏れ波アンテナ装置において、フェライト基板10Fの平面に対してその底面から永久磁石30を用いて外部直流磁界μ
0H
exを印加することを特徴としている。そして、永久磁石30と伝送線路2のフェライト基板10Fの間の距離を移動方向30dの移動機構と、伝送線路に平行な方向に永久磁石の回転軸をもつ回転機構を併せ持つ移動機構30Mを用いて、移動機構と回転機構のうち少なくとも一つの機構を物理的に変化させることにより、伝送線路2への印加磁界の強度もしくは向きあるいはその両方を変化させて、これにより、漏洩波の放射方向91の仰角θを変化させて走査92させることができる。
【0124】
第8の実施形態.
図38は本発明の第8の実施形態に係るビーム方向走査型漏れ波アンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図38において、第1の実施形態に係る漏れ波アンテナ装置において、フェライト基板10Fの平面に対してその底面から電磁石31を用いて外部直流磁界μ
0H
exを印加することを特徴としている。電磁石31は鉄心32にコイル33を複数回巻回してなり、コイル33の両端に可変電圧源34を接続している。そして、可変電圧源34の電圧を変化させることにより、伝送線路2への印加磁界の強度もしくは向きあるいはその両方を変化させて、これにより、基本伝送線路である非可逆移相右手/左手系複合伝送線路の非可逆性の大きさΔβが変化し、漏洩波の放射方向91の仰角θを変化させて走査92させることができる。
【0125】
なお、非可逆右手/左手系複合伝送線路に対する印加直流磁界の大きさが同じで、向きを反転させることにより、伝送特性を反転させることが可能である。すなわち、散乱パラメータのS21とS12、及びS11とS22をそれぞれ入れ替えることができる。
【0126】
特に、ジャイロ異方性を有する材料として軟磁性フェライトを用いる場合、外部印加磁界を連続的に変化させると、飽和磁化の場合だけでなく、非飽和状態も含めて、非可逆な位相特性を表すΔβの値を連続的変化させることが可能である。外部磁界が印加されずΔβ=0となる場合も、これに含まれる。このように非可逆位相特性の程度を表すΔβの値の変化により、式(15)に示すように線路から漏洩する放射ビーム方向を走査することが可能である、この場合においても、終端インピーダンスからの反射波により、漏れ波の放射利得・指向性を改善することができる。また、終端インピーダンスZの値を切り替えることにより、放射波の偏波特性を切り替えることが可能である。
【0127】
特に、ジャイロ異方性を有する材料として軟磁性フェライトを用いる場合で、かつ印加磁界が0の場合、同材料は、実質的に誘電体と同様の動作をすることから、基本伝送線路は、可逆な右手/左手系複合伝送線路として動作する。この場合、可逆な線路であることからΔβ=0となる。この場合において、式(15)を満たすのは、伝送電力の方向に関係なく位相定数βがゼロとなる場合であり、放射方向はブロードサイド(垂直方向θ=0)となる。この場合においても、終端インピーダンスからの反射波により、漏れ波の放射利得・指向性を改善することができる。また、終端インピーダンスZの値を切り替えることにより、放射波の偏波特性を切り替えることが可能である。
【0128】
ジャイロ異方性を有する材料の代わりに、誘電体を用いた場合、基本伝送線路は、可逆な右手/左手系複合伝送線路として動作する。この場合においても、伝搬する信号の位相定数が伝送電力の方向に関係なくゼロであれば、終端インピーダンスからの反射波により、漏れ波の放射利得・指向性を改善することができ、放射方向は、ブロードサイド方向(垂直方向θ=0)となる。この場合においても、終端インピーダンスZの値を切り替えることにより、放射波の偏波特性を切り替えることが可能である。
【0129】
第9の実施形態.
図39は本発明の第9の実施形態に係る漏れ波アンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図39において、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2の反射用インピーダンス素子として、集中定数素子を接続したことを特徴としている。ここで、伝送線路2の一端のポートP2にインダクタ93及びキャパシタ94を接続する。なお、2つの集中定数素子による直列共振周波数は、漏洩波放射が発生する周波数とほぼ同一となるよう設定する。終端のポートP2に挿入された共振回路は、動作周波数において直列共振状態、すなわちインピーダンスが0となるため、伝送線路2から共振回路側を見たインピーダンスが0となる。このように、伝送線路2の端部において、集中定数素子を挿入することにより、所定の位相条件のもとで反射波を発生させることが可能である。なお、実際の構造においては、伝送線路2及び各部品の接続部分周辺に存在する寄生素子を打ち消すため、必要に応じ、例えば
図39に示すように、キャパシタ94として可変キャパシタを用いる。
【0130】
第10の実施形態.
図40は本発明の第10の実施形態に係る漏れ波アンテナ装置の外観を示す斜視図である。
図40において、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2の反射用インピーダンス素子として、集中定数素子を接続したことを特徴としている。ここで、伝送線路2の一端のポートP2にインダクタ95及びキャパシタ96の並列回路を接続する。なお、このとき、2つの素子95,96による並列共振周波数は漏洩波放射が発生する周波数とほぼ同一となるよう設定する。終端に挿入された共振回路は、動作周波数において並列共振状態、すなわちインピーダンスが無限大となるため、伝送線路2から共振回路側を見たインピーダンスが無限大となる。このように、伝送線路2の端部において、集中定数素子を挿入することにより、所定の位相条件のもとで反射波を発生させることが可能である。なお、実際の構造においては、伝送線路2及び各部品の接続部分周辺に存在する寄生素子を打ち消すため、必要に応じ、例えば
図40に示すように、キャパシタ96として可変キャパシタを用いる。
【0131】
以上の実施形態においては、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2の終端の一方に反射用インピーダンス素子75を挿入し、アンテナの指向性及び利得の改善に加えて、漏れ波放射の偏波方向の制御を行い、具体例として作成の容易なマイクロストリップ線路からなる構造を主に示している。しかしながら、本発明はこれに限らず、コプレーナ線路、導波管構造、その他異なる導波路構造から構成された非可逆移相右手/左手系複合伝送線路に対しても、短絡終端及び開放終端を構成することが可能であることから実現可能である。つまり、任意の導波路構造からなる非可逆移相右手/左手系複合伝送線路2の終端の一方に、反射用インピーダンス素子もしくはそれに相当する構造を挿入し、これを制御することにより、アンテナの指向性及び利得の改善に加えて、漏れ波放射の偏波方向の制御を行うことが可能である。一方で、漏れ波放射のビーム走査は、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路の非可逆特性を変えることにより行うことができる。
【0132】
第11の実施形態.
図41は本発明の第11の実施形態に係る漏れ波アンテナ装置の外観を示す斜視図である。
図41において、
図24のフェライト基板10Fに代えて、各ストリップ導体12の下側に直流磁界が印加された矩形柱形状のフェライト棒10Rが挿入され、その両側には誘電体基板10が隣接して置かれた複合基板を用いたことを特徴としている。本実施形態においては、フェライト基板10Fの作用効果をフェライト棒10Rにより実現している。
【0133】
第12の実施形態.
図42は本発明の第12の実施形態に係る漏れ波アンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図42において、
図25のフェライト基板10Fに代えて、各ストリップ導体12の下側に、矩形柱形状のフェライト棒10Rを挿入したことを特徴としている。なお、フェライト棒10Rを除いて、フェライト基板10Fの部分は誘電体基板10としている。本実施形態においては、フェライト基板10Fの作用効果をフェライト棒10Rにより実現している。
【0134】
第13の実施形態.
本発明に係る第13の実施形態では、新規の伝送線路型マイクロ波共振器を提案する。これは、有限長さの直線形状の非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100で構成され、両方の終端部であるポートP1,P2は開放端であるか、短絡される。従来技術に係る伝送線路型共振器又は進行波共振器とは違って、共振周波数は共振器の全体のサイズに依存せず、単位セルの構造に依存する。さらに、マイクロ波共振器上の電磁界分布は進行波共振器のそれに類似し、すなわち、マイクロ波共振器に沿って電磁界の振幅分布は一様であり、かつ位相分布は空間的に線形的に変化する。位相分布の空間勾配は、伝送線路の非可逆位相定数によって決定される。提案するマイクロ波共振器は、具体的には、垂直に磁化されたフェライト棒10Rを有するマイクロストリップ線路を用いて構成することを特徴としている。以下、これについて詳細説明する。
【0135】
まず、提案するマイクロ波共振器の基本概念について以下に説明する。
【0136】
図43は、本発明の第13の実施形態に係る、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100を用いたマイクロ波共振器の構成を示すブロック図である。まず、従来技術に係る伝送線路型マイクロ波共振器の共振条件に関する概要について説明すると、当該伝送線路型マイクロ波共振器は、有限長さl=Npの直線形状の不可逆移相右手/左手系複合伝送線路(CRLHTL)100(複数N個の基本セルからなり、1個の基本セルの長さはpである。)と、ポートP1における負荷インピーダンスZ
L1及びポートP2における負荷インピーダンスZ
L2とを備えて構成される。一般に、この伝送線路100に沿って非可逆移相伝送を想定することができる。
図43におけるパラメータβ
+及びΔφ
+はそれぞれポートP1からポートP2までの電力伝送に関する線路の位相定数及び位相遅延を示し、パラメータβ
−及びΔφ
−はそれぞれポートP2からポートP1までの電力伝送に関する線路の位相定数及び位相遅延を示す。さらに、ポートP1及びP2における反射に起因する移相は、それぞれΔφ
1及びΔφ
2である。この事例では、共振条件は、次式の位相関係式が成り立つときに満たされる。
【0137】
Δφ=Δφ
++Δφ
−+Δφ
1+Δφ
2=2mπ (16)
【0138】
ここで、Δφ
+=β
+l、及びΔφ
−=β
−lであり、mは整数である。両方のポートP1,P2が開放端であるか短絡されていれば、Δφ
1+Δφ
2=2π又は0であり、よって関係式(5)は次式で表される。
【0139】
Δφ=Δφ
++Δφ
−=(β
++β
―)l=2mπ (17)
【0140】
可逆伝送線路の条件では、パラメータβ
+及びβ
−は全く同一である。よって、線路の伝搬定数に関する共振条件は共振器の長さによって決定されかつ次式で表される。
【0142】
式(7)において、m=1である場合、線路長l=λ
g/2である。この条件は、半波長共振器の動作を規定する。式(7)において、m=0であれば、共振条件は線路長とは独立し、β=0である。位相定数ゼロは無限波長を意味し、共振周波数が共振器のサイズに依存しないゼロ次共振器の動作となる(例えば、非特許文献10参照。)。一方で、伝送線路が非可逆性であって次式の関係式を満たす場合(例えば、非特許文献15参照。)について考える。
【0144】
この場合において、共振条件の式(17)は、m=0である共振器の長さに何ら要件を課すことなく自動的に成り立つ。非可逆性の共振条件の式(8)は、非可逆性の共振を達成するために、伝送線路は伝送される電力の一方向で主要な右手系モードをサポートしかつ反対方向で主要な左手系モードをサポートしなければならないことを意味している。さらに、これらの異なる2モードの位相定数は、両方が同じ絶対値を持たなければならない。このような非可逆性の伝送特性は、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100を用いて達成することができる(例えば、非特許文献13参照。)。
【0145】
非可逆右手/左手系複合伝送線路100を用いたマイクロ波共振器に沿った(x軸に沿った)電圧波及び電流波は、非可逆性の固有インピーダンスZ
+及びZ
−で記述することができ、次式が得られる。
【0146】
V=V
+exp(−jβ
+x)+V
―exp(jβ
−x)
=Z
+I
+exp(−jβ
+x)+Z
−I
−exp(jβ
−x) (20)
I=I
+exp(−jβ
+x)−I
―exp(jβ
−x) (21)
【0147】
但し、式(20)及び式(21)におけるパラメータI
+及びI
−はそれぞれ、ポートP1からポートP2へ、かつその逆に伝搬する電流波の振幅を表す。式(19)が成り立つとき、式(20)及び式(21)は次式で表される。
【0148】
V=(V
++V
−)exp(−jβ
+x)
=(Z
+I
++Z
−I
−)exp(−jβ
−x) (22)
I=(I
+−I
−)exp(−jβ
+x) (23)
【0149】
この場合、位置xの関数としての割合V/Iは、次式のように一定値をとる。
【0151】
共振器の両ポートP1,P2が短絡されて、Z
L1=Z
L2=0であれば、電流波が支配的となり、式(24)ではV
++V
−=0及びZ
0N=0となって式(22)及び式(23)において電圧波の振幅は最小値をとる。両ポートP1,P2が開放端であって、Z
L1=Z
L2=+∞であれば、電圧波が支配的となり、式(13)ではI
+=I
−及びZ
0N=+∞となって電流波の振幅は最小値をとる。式(22)及び式(23)から、提案する伝送線路型マイクロ波共振器は、電流波及び電圧波の何れが支配的であれ、大きさが一様でありかつ位相が共振器上で係数exp(−jβ
+x)により空間的に線形変化する電磁界分布を提供することが分かる。
【0152】
図44(a)は
図43のマイクロ波共振器の位置に対する電圧波あるいは電流波の振幅分布を示すグラフであり、
図44(b)は
図43のマイクロ波共振器の位置に対する電圧波あるいは電流波の位相分布を示すグラフである。すなわち、
図44は提案するマイクロ波共振器上の電磁界分布を示す。従って、その電磁界分布は、リング共振器等の従来技術に係る進行波共振器のそれに類似するものである。提案するマイクロ波共振器とリング共振器との相違は、共振周波数が共振器の全体サイズに依存するか否かに存する。従来技術に係るゼロ次共振器と比較した場合、提案するマイクロ波共振器は、当該共振器の伝送線路100に沿って空間位相の流れが存在する点でこれらとは著しく異なる。この意味において、提案するマイクロ波共振器は、従来技術に係るゼロ次共振器に対する連続位相制御をさらに提供する。実際に、位相特性における非可逆性が小さくなるにつれて、電界プロファイルはゼロ次共振器に接近する。
【0153】
次いで、マイクロ波共振器の構造及び伝送特性について以下に説明する。
【0154】
図45Aは
図43のマイクロ波共振器の外観を示す斜視図であり、
図45Bは
図45Aのマイクロ波共振器の縦断面図である。
図45A及び
図45Bにおいて、その基本構造は、
図13〜
図15と同様であるが、垂直方向に磁化されたフェライト棒10R(他の磁性体であってもよい。)を、誘電体基板10の幅方向の中央位置であって、複数のストリップ導体12が縦続接続されてなるマイクロストリップ線路の直下へ挿入したことを特徴としている。この構造を選択する理由は、挿入損失が比較的少なく、透過係数の大きさにおける非可逆性が極小である一方で、非可逆位相特性はなお著しいことにある。
【0155】
上記マイクロストリップ線路には、直列枝のキャパシタ14及び並列枝の短絡スタブ13が周期的に挿入される。数値シミュレーションに使用する右手/左手系複合伝送線路100の様々な構成パラメータと、試作回路のそれらとは同じであって、下記の通りである。フェライト棒10Rの飽和磁化及び磁気損失はそれぞれ、μ
0M
s=175mT及びμ
0ΔH=5mTである。フェライト棒10R及び誘電体基板10の誘電定数は、ε
f=15及びε
d=2.6である。フェライト棒10R及び誘電体基板10両方の厚さはd=0.8mmであり、フェライト棒10Rの幅及び長さはそれぞれ、w=0.8mm及びl=30mmである。単位セルの長さは、p=3mmであり、線路内のセルの合計数はN=10(l=Np)である。各短絡スタブ13の幅及び長さは、1mm及び4mmである。各直列集中キャパシタ14はC=0.5pFの容量を有する。数値シミュレーションに用いた内部直流磁界はμ
0H
0=60mTであるが、試作された右手/左手系複合伝送線路100に印加された外部直流磁界の測定値は中心部のマイクロストリップ線路でB
ex=μ
0H
ex=150mTであった。右手/左手系複合伝送線路100のブロッホインピーダンスは計算モデル及び試作回路ともに、ほぼ50Ωであった。
【0156】
図46は
図45Aのマイクロ波共振器の正規化位相定数の周波数特性(シミュレーション値及び測定値)を示すグラフである。すなわち、
図46はばらつきの多いパラメータの位相特性から推定した、シミュレーション及び測定による分散図をプロットしたものである。
図46から明らかなように、異なる2方向に伝搬する主要モードの2つの分枝の交点は、数値シミュレーションでは、βp/π=0.025、6.3GHzで見出されるのに対して、測定においてこれに対応する周波数は5.92GHzである。これらの周波数における非可逆右手/左手系複合伝送線路100は、β
+p/π=−β
−p/π=0.025で式(19)を満たすことが留意される。以下、これらの周波数の周辺で動作する非可逆右手/左手系複合伝送線路100を用いて、提案する擬似進行波共振器を設計して製造した。
【0157】
次いで、マイクロ波共振器の共振特性とその電磁界分布について以下に説明する。
【0158】
提案するマイクロ波共振器を実証するために、インピーダンス整合用に非可逆右手/左手系複合伝送線路100のセクションと両ポートP1,P2との境界に挿入された容量2Cの集中素子キャパシタを
図45Aの右手/左手系複合伝送線路100の試作回路及びシミュレーションモデルから外し、これらの間に弱い容量結合を生成した。修正したこの構造は、ほぼ、開放終端を有する非可逆伝送線路型共振器と見なすことができる。
【0159】
図47Aは
図45Aのマイクロ波共振器の透過係数S
21,S
12の周波数特性(シミュレーション値)を示すグラフであり、
図47Bは
図45Aのマイクロ波共振器の透過係数S
21,S
12の周波数特性(測定値)を示すグラフである。
図47A及び
図47Bにおける各ピークは、共振に相当する。
図47Aから、シミュレーションによる共振周波数は、5GHzから8GHzまでの周波数範囲において、5.3GHz、6.13GHz及び7.45GHzで見出される。5.3GHz及び7.45GHzでの共振は、電界規模内のヌルポイントが長手方向の共振器中央部に見られることから、半波長共振に対応することがわかる。
【0160】
図48(a)は
図45Aのマイクロ波共振器のポートP1からマイクロ波信号を入力したときの電界の規格化振幅分布を示す図であり、
図48(b)は
図45Aのマイクロ波共振器のポートP1からマイクロ波信号を入力したときの電界の位相分布を示す図である。また、
図49(a)は
図45Aのマイクロ波共振器のポートP2からマイクロ波信号を入力したときの電界の規格化振幅分布を示す図であり、
図49(b)は
図45Aのマイクロ波共振器のポートP2からマイクロ波信号を入力したときの電界の位相分布を示す図である。ここで、
図48及び
図49は、数値計算によって求められた6.13GHzにおける接地導体面上の電界分布を示している。
【0161】
図48(a)及び
図49(a)からわかるように、振幅分布は、入力ポートの選択に関係なく、共振器上の振幅はほぼ一様となっている。
図48(b)を見ると、観測点が入力ポートP1からポートP2に向かって移動するにつれて、位相が遅れてゆくのに対して、
図49(b)を見ると、観測点が入力ポートP2からポートP1に向かって移動するにつれて位相が進んでいくことが確認できる。以上のことから、
図48及び
図49の特性を有するマイクロ波共振器は、進行波型共振器と類似した電磁界分布を持っていることがわかる。さらに、入力ポートの選択に関係なく、位相分布の傾きに関して、その向き及び大きさともに同じであることが確認できる。この勾配は、
図43において既に示しているように、線路の位相定数に見られる非可逆特性の大きさにより決定される。
【0162】
図50(a)は
図45Aのマイクロ波共振器のポートP2からマイクロ波信号を入力したときの電界の相対電力分布を示すグラフであり、
図50(b)は
図45Aのマイクロ波共振器のポートP2からマイクロ波信号を入力したときの電界の位相分布を示すグラフである。
図45Aのマイクロ波共振器の動作は、
図50に示すように、共振器に沿って電磁界分布を測定することにより直接的に確認された。ここで、
図50は、5.77GHzで測定された共振器上の大きさ及び位相分布を示す。
図50における水平軸の距離は、入力ポートと観測位置との距離を示す。
図50(b)には、比較のために、
図46における正規化された位相定数βp/π=0.025から推定した勾配を有する位相分布の計算値をプロットしている。
図50(a)から、共振器上の大きさはその共振でほぼ一様であることが分かる。さらに、
図50(b)から分かるように、位相は共振器に沿って観測位置を移動させると線形的に変わる。
図47から、負荷Qのシミュレーション値は47であり、一方で測定値は41であった。よって、測定結果は数値シミュレーションとよく一致し、提案する擬似進行波共振器のデモンストレーションを立証している。
【0163】
以上説明したように、本実施形態によれば、有限長さの直線形状の非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100で構成され、両終端は開放端であるか、短絡されたマイクロ波共振器を提案した。ここで、当該マイクロ波共振器上の電磁界分布は、従来技術に係る進行波共振器のそれに類似し、すなわち、当該共振器の長手方向に沿って電界の振幅分布は一様であり、かつ位相分布は空間的に線形変化した。提案するマイクロ波共振器の基本動作を実証した。位相分布の勾配が、線路の非可逆性を変えることによって、すなわち、フェライト棒10Rを有するマイクロストリップ線路へ印加する直流磁界の大きさを変えることによって連続的に制御可能である点は強調されるべきである。また、本実施形態に係るマイクロ波共振器によれば、動作波長に依存せずに装置サイズを自由に変化させることができ、例えば装置サイズを小型化できるマイクロ波共振器を提供できる。従って、提案したマイクロ波共振器は、マイクロ波チューナブルフィルタ、電力分割器並びにビームステアリングアンテナに対する新しいアプリケーションを開拓すると考えられる。
【0164】
第15の実施形態.
第15の実施形態では、非可逆移相右手左手系複合伝送線路100の片側ポートに反射素子を接続した漏れ波アンテナ装置に関する追加の実施形態について以下に説明する。
【0165】
図51は
図45Aの非可逆移相右手/左手系複合線路100のポートP2に終端開放マイクロストリップ線路(線路長l
r2=λg/4=8.6mm)を接続したときの漏れ波アンテナ装置の外観を示す斜視図である。
図51において、非可逆移相右手/左手系複合線路を用いた漏れ波アンテナ装置は、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100の一方のポートP1からマイクロ波信号を入力し、他方のポートP2に、反射用の素子(反射器)として、終端開放有限長のマイクロストリップ線路を接続したことを特徴としている。当該反射器のマイクロストリップ線路は、裏面に接地導体11を有する誘電体基板10上に、ストリップ導体12よりも幅広のストリップ導体12P2をポートP2に接続するように形成して構成される。なお、
図51では、具体例としてポートP1から信号を入力し、ポートP2側に反射器を接続した場合を示しているが、ポートP2を入力ポーとし、ポートP1に反射器のマイクロストリップ線路を接続してもよい。
【0166】
図51において、ポートP2には誘電体基板10上に構成された線路長l
r2の終端開放マイクロストリップ線路(ストリップ導体12P2で構成される)が反射器として接続されている。非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100から見たポートP2の負荷インピーダンスが0(終端短絡条件)となるためには、動作周波数で、線路長l
r2が管内波長λgの4分の1程度、電気長(位相差)θ
r2=90度程度に設定する必要がある。一方、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100から見たポートP2の負荷インピーダンスが無限大(終端開放条件)となるためには、動作周波数で、線路長l
r2が管内波長λgの2分の1程度、電気長(位相差)θ
r2=180度程度に設定する必要がある。
【0167】
また、
図51において、ポートP2に、終端開放マイクロストリップ線路ではなく終端短絡マイクロストリップ線路が反射器として接続されている場合も構成方法の一つとして考えられる。この場合、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100から見たポートP2の負荷インピーダンスが無限大(終端開放条件)となるためには、動作周波数で、線路長l
r2が管内波長λgの4分の1程度、電気長(位相差)θ
r2=90度程度に設定する必要がある。一方、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100から見たポートP2の負荷インピーダンスが0(終端短絡条件)となるためには、動作周波数で、線路長l
r2が管内波長λgの2分の1程度、電気長(位相差)θ
r2=180度程度に設定する必要がある。
【0168】
図52は
図45Aの非可逆移相右手/左手系複合線路100のポートP1からマイクロ波信号を入力したときの反射係数S
11の周波数特性を示すグラフである。
図52は、ポートP2に線路長l
r2=λg/4=8.6mmの終端開放マイクロストリップ線路が反射器として接続された場合の、入力ポートP1から見た反射係数を表す。この場合、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100から見たポートP2の負荷インピーダンスが0(終端短絡条件)となる。なお、以下のSパラメータの表記において、ポートP1を1とし、ポートP2を2として表記する。
【0169】
図53は
図45Aの非可逆移相右手/左手系複合線路100のポートP1に終端開放マイクロストリップ線路(線路長l
r1=λg/4=8.6mm)を接続したときのアンテナ装置においてポートP2からマイクロ波信号を入力したときの反射係数S
22の周波数特性を示すグラフである。
図53から明らかなように、この場合、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100から見たポートP1の負荷インピーダンスが0(終端短絡条件)となる。
【0170】
図54は
図45Aの非可逆移相右手/左手系複合線路100のポートP2に終端開放マイクロストリップ線路(線路長l
r2=λg/4=8.6mm)を接続したときの漏れ波アンテナ装置においてポートP1からマイクロ波信号を入力したときのx−z面内の放射パターンを示す図である。ここで、座標系の取り方は、
図51と同じである。この場合、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100から見たポートP2の負荷インピーダンスが0(終端短絡条件)となる。従って、右手/左手系複合伝送線路100を構成する直列枝部分のインピーダンスが非常に小さくなり、直列共振状態に近くなる。実際、
図54の放射パターンから、主偏波はE
θ成分で、中央のマイクロストリップ線路に平行な成分が主となっていることが確認される。このことから、放射に対する直列枝部分の寄与が大きいことが確認できる。
【0171】
ここで、放射ビーム形成に関してもう少し詳しく説明する。まず、ポートP1からポートP2に向かって信号が伝搬するのに伴い漏れ波によって第1の放射ビームが形成される。この際に放射に寄与しなかった信号がポートP2に到達すると終端での反射により、ポートP2からポートP1に向かって信号が再び逆方向に伝搬する。この逆向きの信号伝搬による漏れ波が第2の放射ビームを形成する。第1の放射ビームと第2の放射ビームは実質的に同一の方向を向くため、その重ね合わせの結果、全体の放射ビームは単一方向を向く。短絡終端では、線路に沿って伝搬する信号の入射波と反射波との重ね合わせで、線路上の電圧波振幅がほぼゼロとなることから、電流波が支配的となり、放射に対する直列枝部分の寄与が大きくなるので、E
θ成分は強め合う結果主偏波となり、E
φ成分は弱め合い交差偏波となる。
【0172】
図55は
図45Aの非可逆移相右手/左手系複合線路100のポートP1に終端開放マイクロストリップ線路(線路長l
r1=λg/4=8.6mm)を接続したときの漏れ波アンテナ装置においてポートP2からマイクロ波信号を入力したときのx−z面内の放射パターンを示す図である。
図54の漏れ波アンテナとの構成方法の違いは、入力ポーと負荷終端を入れ替えただけである。
図55の放射パターンから明らかなように、主偏波は
図54と同様にE
θ成分で、中央のマイクロストリップ線路に平行な成分が主となっていることが確認される。
図55において、
図54と比較すると、利得は低下しているものの、放射方向は、
図54と実質的に同一の方向を向いており、入力ポートの選択に関係なく、放射ビーム方向が決められることが確認できる。
【0173】
図56は
図45Aの非可逆移相右手/左手系複合線路100のポートP2に終端開放マイクロストリップ線路(線路長l
r2=λg/2=17.3mm)を接続したときのアンテナ装置においてポートP1からマイクロ波信号を入力したときのx−z面内の放射パターンを示す図である。
図56において、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100から見たポートP2の負荷インピーダンスが無限大(終端開放条件)となる。従って、右手/左手系複合伝送線路100を構成する並列枝部分のアドミタンスが非常に小さくなり、並列共振状態に近くなる。実際、
図54の放射パターンより、主偏波はE
φ成分で、並列共振回路に関連する並列枝の誘導スタブ13に平行な成分が主となっていることが確認される。このことから、放射に対する並列枝部分の寄与が大きいことが確認できる。
【0174】
この場合においても、放射ビーム形成に関してもう少し詳しく説明する。
図56の場合も、
図54の場合と同様、ポートP1からポートP2に向かって信号が伝搬するのに伴い漏れ波によって第1の放射ビームが形成され、ポートP2からの終端反射により、ポートP2からポートP1に向かって信号が再び逆方向に伝搬する。この逆向きの信号伝搬による漏れ波が第2の放射ビームを形成する。第1の放射ビームと第2の放射ビームは実質的に同一の方向を向くため、その重ね合わせの結果、全体の放射ビームはやはり単一方向を向く。開放終端では、線路に沿って伝搬する信号の入射波と反射波との重ね合わせで、線路上の電流波振幅がほぼゼロとなることから、電圧波が支配的となり、放射に対する並列枝部分の寄与が大きくなるので、短絡スタブに平行なE
φ成分は強め合う結果、主偏波となり、E
θ成分は弱め合い交差偏波となる。
【0175】
図57は
図45Aの非可逆移相右手/左手系複合線路100のポートP1に終端開放マイクロストリップ線路(線路長l
r1=λg/2=17.3mm)を接続したときの漏れ波アンテナ装置においてポートP2からマイクロ波信号を入力したときのx−z面内の放射パターンを示す図である。
図57において、
図56の漏れ波アンテナと構成方法の違いは、入力ポートと負荷終端を入れ替えただけである。
図57の放射パターンから明らかなように、主偏波は
図56と同様E
φ成分で、並列共振回路に関連する並列枝誘導スタブ13に平行な成分が主となっていることが確認される。
図56と比較すると、利得は低下しているものの、放射方向は、
図56と実質的に同一の方向を向いており、入力ポートの選択に関係なく、放射ビーム方向が決められることが確認できる。
【0176】
第16の実施形態.
第16の実施形態では、非可逆移相右手左手系複合伝送線路100の両ポートP1,P2に反射素子を接続した共振器構造、及び共振器からなるアンテナ装置の構成方法とその実施例について以下に説明する。本実施形態に係るマイクロ波共振器を示す
図43において、共振条件として両端の負荷インピーダンスZ
L1及びZ
L2に課せられる条件は、両端開放の場合として、
1/Z
L1=1/Z
L2=0 (25)
であるか、両端短絡の場合として
Z
L1=Z
L2=0 (26)
であるかのいずれかである。これら両端開放あるいは両端短絡条件を実現する具体的な方法として、以下では有限長の伝送線路を用いて構成することを考える。
【0177】
図58は本発明の第14の実施形態に係るマイクロ波共振器の実施例1の構成を示すブロック図である。
図58のマイクロ波共振器は、両端短絡共振器の共振条件を満たすために、線路長l
r1が4分の1波長と実質的に同一の長さ(電気長θ
r1=90度)の終端開放伝送線路101を非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100のポートP1(A−A’)に接続し、一方、線路長l
r2が4分の1波長と実質的に同一の長さ(電気長θ
r2=90度)の終端開放伝送線路102をポートP2(B−B’)に接続したことを特徴としている。この場合、ポートP1から左側の伝送線路101を見たときの負荷インピーダンス及びポートP2から右側の伝送線路102を見た場合の負荷インピーダンスはともに0となることから、
図58において、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100の両端に対して短絡条件が満足している。
【0178】
図59は本発明の第14の実施形態に係るマイクロ波共振器の実施例2の構成を示すブロック図である。
図59のマイクロ波共振器は、両端開放共振器の共振条件を満たすために、線路長l
r1が4分の1波長と実質的に同一の長さ(電気長θ
r1=90度)の終端短絡伝送線路101を非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100のポートP1(A−A’)に接続し、一方、線路長l
r2が4分の1波長と実質的に同一の長さ(電気長θ
r2=90度)の終端短絡伝送線路102をポートP2(B−B’)にそれぞれ接続したことを特徴としている。この場合、ポートP1から左側の伝送線路101を見たときの負荷インピーダンス及びポートP2から右側の伝送線路102を見た場合の負荷インピーダンスはともに無限大となることから、
図59において、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100の両ポートP1,P2に対して開放条件が満足している。
【0179】
図60は本発明の第14の実施形態に係るマイクロ波共振器の実施例3の構成を示すブロック図である。
図60のマイクロ波共振器は、両端短絡共振器もしくは両端開放共振器としての共振条件を満たすために、線路長l
r1が4分の1波長の|m
1|倍(ここで、m
1は整数である。)と実質的に同一の長さ(電気長θ
r1≒m
1×90度)の終端開放伝送線路101Aを、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100のポートP1(A−A’)に接続し、一方、線路長l
r2が4分の1波長の|m
2|倍(ここで、m
2は整数である。)と実質的に同一の長さ(電気長θ
r2≒m
2×90度)の終端開放伝送線路102Aを、ポートP2(B−B’)に接続したことを特徴としている。この場合、両端短絡もしくは両端開放のどちらかの条件に設定する必要があるが、それぞれ整数m
1と整数m
2がともに奇数か、ともに偶数であるかに対応する。なお、整数m
i(i=1,2)が0の値を取る場合は、偶数として扱われる。また、整数m
iの符号としては、伝送線路内の位相の遅れ/進みの観点で、負の値も取り得るものとする。ここで、整数m
iが負の値をとるのは、反射器を構成する伝送線路101A又は102Aが左手系線路として動作している場合を指すものとする。
【0180】
図61は本発明の第14の実施形態に係るマイクロ波共振器の実施例4の構成を示すブロック図である。
図61のマイクロ波共振器は、両端短絡共振器もしくは両端開放共振器としての共振条件を満たすために、線路長l
r1が4分の1波長の|m
1|倍(ここで、m
1は0を除く整数である。)と実質的に同一の長さ(電気長θ
r1≒m
1×90度)の終端短絡伝送線路101Aを、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100のポートP1(A−A’)に接続し、一方、線路長θ
r2が4分の1波長の|m
2|倍(ここで、m
2は整数である。)と実質的に同一の長さ(電気長θ
r2≒m
2×90度)の終端短絡伝送線路102Aを、ポートP2(B−B’)に接続したことを特徴としている。この場合、両端短絡もしくは両端開放のどちらかの条件に設定する必要があるが、それぞれ整数m
1と整数m
2がともに偶数か、ともに奇数であるかに対応する。なお、整数m
i(i=1,2)が0の値を取る場合は、偶数として扱われる。また、整数m
iの符号としては、伝送線路内の位相の遅れ/進みの観点で、負の値も取り得るものとする。ここで、整数m
iが負の値をとるのは、反射器を構成する伝送線路101A又は102Aが左手系線路として動作している場合を指すものとする。
【0181】
図58〜
図61に示した短絡終端及び開放終端を実現する有限長さ伝送線路構造は、終端反射素子としての役割だけでなく、同時に当該伝送線路構造に沿って電圧と電流の比が0から無限大まで変化することから、信号を給電するためのインピーダンス整合回路としての役割も果たす。
【0182】
図62は
図60のマイクロ波共振器に対する給電回路を備えたアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図62のアンテナ装置は、
図60のマイクロ波共振器に対して、給電する方法の一例を示す。給電線を接続する位置としては、反射器としてポートP1側(A−A’)に接続された終端開放線路101(
図60)と、ポートP2側(B−B’)に接続された終端開放線路102(
図60)のどちらかを選ぶことができる。
図62のアンテナ装置においては、一例としてポートP1側の反射器の伝送線路に接続しており、ポートP1は伝送線路112及び111を介してポートP21に接続され、伝送線路111,112により、電気長θ
r1=m
1×90度を有する伝送線路101(
図60)を構成している。給電回路は、出力抵抗Roを有するマイクロ波信号発生器120と、給電線路125とを備えて構成される。但し、給電回路内の給電線路125の特性インピーダンスZ
02とインピーダンス整合の取れる位置を補償するためには、整数m
1は非零でなければならない。この場合、給電線路125の挿入されるべき、反射器に用いられる伝送線路101(111,112)上では、伝送線路101に沿って電圧と電流の比が0から無限大まで変化することから、給電線路125とインピーダンス整合の取れる位置が必ず存在する。その位置を
図62ではポートP3(C−C’)として表している。
【0183】
図63は
図61のマイクロ波共振器に対する給電回路を備えたアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図63のアンテナ装置は、
図61のマイクロ波共振器に対して、給電する方法の一例を示す。給電線を接続する位置としては、反射器としてポートP1側(A−A’)に接続された終端開放線路101(
図61)と、ポートP2側(B−B’)に接続された終端開放線路102(
図61)のどちらかを選ぶことができる。
図63においては、給電回路の給電線路125を一例としてポートP1側の反射器に接続している。但し、給電線の特性インピーダンスZ
02とインピーダンス整合の取れる位置を補償するためには、整数m
1は非零でなければならない。この場合、給電線路の挿入されるべき反射器に用いられる伝送線路101(111,112)上では、伝送線路に沿って電圧と電流の比が0から無限大まで変化することから、給電線路125とインピーダンス整合の取れる位置が必ず存在する。その位置を
図63ではP3(C−C’)として表している。
【0184】
図64は
図58のマイクロ波共振器の外観を示す斜視図である。
図64のマイクロ波共振器は、
図45A及び
図45Bに示された、垂直方向に磁化されたフェライト棒10Rを含む非可逆右手/左手系複合伝送線路100の両端に、終端開放で有限長のマイクロストリップ線路(それぞれ、誘電体基板10を挟設する各ストリップ導体12P1,12P2及び接地導体11により構成される。)を接続したことを特徴としている。ここで、動作周波数において、反射器の線路長として管内波長の4分の1に設定している。その結果、非可逆右手/左手系複合伝送線路100の両端で短絡終端の条件を満たし、共振時においては、非可逆右手/左手系複合伝送線路100内で、直列枝の直列共振つまり、電流波が支配的となり、進行波型共振器と類似した電磁界分布を示す。
【0185】
図65は
図59のマイクロ波共振器の外観を示す斜視図である。
図65のマイクロ波共振器は、
図45A及び
図45Bに示された、垂直方向に磁化されたフェライト棒10Rを含む非可逆右手/左手系複合伝送線路100の両端に、終端短絡で有限長のマイクロストリップ線路(それぞれ、誘電体基板10を挟設する各ストリップ導体12P1,12P2及び接地導体11により構成される。)を接続したことを特徴としている。ここで、動作周波数において、反射器の線路長として管内波長の4分の1に設定している。その結果、非可逆右手/左手系複合伝送線路100の両端で開放終端の条件を満たし、共振時においては、非可逆右手/左手系複合伝送線路100内で、並列枝の並列共振つまり、電圧波が支配的となり、進行波型共振器と類似した電磁界分布を示す。
【0186】
図66は
図64のマイクロ波共振器においてポートP2側に信号入力ポートを備えたアンテナ装置の外観を示す斜視図である。すなわち、
図66のアンテナ装置は、
図62のマイクロ波共振器においてm
1=m
2=1とした場合の両端短絡共振器を具体的に実現したものである。但し、
図62では、ポートP1側の反射器の伝送線路111,112に給電線路125が挿入されているのに対して、
図66では、ポートP2側の反射器の伝送線路に給電線路(誘電体基板10を挟設するストリップ導体12P2A及び接地導体11とによりマイクロストリップ線路を構成してなる給電線路である。)が挿入された場合である。
【0187】
図67は
図65のマイクロ波共振器においてポートP2側に信号入力ポートを備えたアンテナ装置の外観を示す斜視図である。すなわち、
図67のアンテナ装置は、
図63のマイクロ波共振器においてm
1=m
2=1とした場合の両端開放共振器を具体的に実現したものである。但し、
図63では、ポートP1側の反射器の伝送線路111,112に給電線路125が挿入されているのに対して、
図67では、ポートP2側の反射器の伝送線路に給電線路(誘電体基板10を挟設するストリップ導体12P2A及び接地導体11とによりマイクロストリップ線路を構成してなる給電線路である。)が挿入された場合である。
【0188】
図68は
図66のアンテナ装置において終端開放マイクロストリップ線路の線路長を半波長にしたときの装置の外観を示す斜視図である。
図68のアンテナ装置は、
図62のアンテナ装置においてm
1=m
2=2とした場合の両端開放共振器を具体的に実現したものである。
【0189】
以下では、具体的なマイクロ波共振器構造をアンテナ装置として動作させた場合の実施例を示すために、両端短絡共振器構造として
図62及び
図66の構造で、ポートP2側でなく、ポートP1側の反射器の伝送線路111,112に給電線路125を挿入した場合を取り扱う。また、両端短絡共振器構造として、
図68のアンテナ装置の場合、及びポートP2側ではなく、ポートP1側の反射器の伝送線路111,112に給電線路125を挿入した場合を取り扱う。
【0190】
図69は
図66のアンテナ装置においてポートP2側ではなくポートP1側の反射用伝送線路に給電線路を接続した装置における入力端での反射係数S
11の周波数特性を示すグラフである。
図69から明らかなように、反射係数S
11が−10dB以下になる動作帯域は5.70GHzから5.82GHzまでの範囲であって、比帯域(帯域幅を当該帯域の中心周波数で除算した値をいう。)は2.1%であった。
【0191】
図70は
図69のグラフにおいて反射係数S
11が最も低くなる周波数5.76GHzでのx−z面上の放射パターンを示すグラフである。
図70から明らかなように、主偏波E
θの放射方向は332度の方向放射利得は6.2dBiであり、放射ビーム半値幅が54度、放射効率は79%となった。
【0192】
図71は
図69のグラフにおいて反射係数S
11が−10dB以下となるアンテナ装置としての動作帯域での主偏波と交差偏波の放射利得と、そのときの放射方向の周波数依存性を示すグラフである。
図71から明らかなように、動作帯域内で、アンテナの放射利得及びビーム方向がほぼ一定に保たれていることが確認できた。
【0193】
図72は
図66のアンテナ装置において入力端での反射係数S
22の周波数特性を示すグラフである。
図72から明らかなように、反射係数S
22が−10dB以下になる動作帯域は5.71GHzから5.84GHzまでの範囲であって、比帯域は2.3%であった。
【0194】
図73は
図72のグラフにおいて反射係数S
22が最も低くなる周波数5.78GHzでのx−z面上の放射パターンを示すグラフである。
図73から明らかなように、主偏波E
θの放射方向は332度の方向であって、放射利得は5.7dBi、放射ビーム半値幅が54度、放射効率は67%となった。
【0195】
図74は
図72のグラフにおいて反射係数が−10dB以下となるアンテナとしての動作帯域での主偏波と交差偏波の最大利得、そのときの放射方向の周波数依存性を示すグラフである。
図74から明らかなように、動作帯域内で、アンテナの放射利得及びビーム方向がほぼ一定に保たれていることが確認できた。
【0196】
図75は
図68のアンテナ装置においてポートP2側ではなくポートP1側の反射用伝送線路に給電線路を接続した装置における入力端での反射係数S
11の周波数特性を示すグラフである。
図75から明らかなように、反射係数S
11が−10dB以下になる動作帯域は5.80GHzから5.87GHzまでの範囲であって、比帯域は1.2%であった。
【0197】
図76は
図75のグラフにおいて反射係数S
11が最も低くなる周波数5.83GHzでのx−z面上の放射パターンを示すグラフである。
図76から明らかなように、主偏波E
θの放射方向は343度の方向であって、放射利得は5.1dBi、放射ビーム半値幅が49度、放射効率は73%となった。
【0198】
図77は
図75のグラフにおいて反射係数が−10dB以下となるアンテナ装置としての動作帯域での主偏波と交差偏波の最大利得、そのときの放射方向の周波数依存性を示すグラフである。
図77から明らかなように、動作帯域内で、アンテナの放射利得及びビーム方向がほぼ一定に保たれていることが確認できた。
【0199】
図78は
図68のアンテナ装置において入力端での反射係数S
22の周波数特性を示すグラフである。
図78から明らかなように、反射係数S
22が−10dB以下になる動作帯域は5.71GHzから5.77GHzまでの範囲であって、比帯域は1.0%であった。
【0200】
図79は
図77のグラフにおいて反射係数S
22が最も低くなる周波数5.74GHzでのx−z面上の放射パターンを示すグラフである。
図79から明らかなように、主偏波E
θの放射方向は342度の方向であって、放射利得は5.7dBi、放射ビーム半値幅が51度、放射効率は60%となった。
【0201】
図80は
図77のグラフにおいて反射係数S
22が−10dB以下となるアンテナ装置としての動作帯域での主偏波と交差偏波の最大利得、そのときの放射方向の周波数依存性を示すグラフである。
図80から明らかなように、動作帯域内で、アンテナの放射利得及びビーム方向がほぼ一定に保たれていることが確認できた。
【0202】
これまでは、自発磁化もしくは外部印加磁界により磁化されたフェライト棒10Rを有する誘電体基板10上に構成された非可逆移相右手左手系複合伝送線路100について述べたが、磁気的性質が時間的に変わらないものとして、動作説明を行った。以下では、外部印加磁界の大きさ及び向きを時間関数として連続的にあるいは離散的に変えることにより、線路の伝送特性を時間ともに変える機能を備える構造について以下に説明する。
【0203】
図81は第14の実施形態の第1の変形例に係るマイクロ波共振器及びアンテナ装置の構成を示す縦断面図であり、外部印加磁界の大きさを変えるための構成方法の一例を示す。非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100に外部直流磁界を印加するために、永久磁石30が接地導体11の下に取り付けられており、かつ永久磁石30と線路の間の位置関係を変化するように、例えばモータ30Mにより機械的に上下方向30dの平行移動もしくは回転移動、もしくはその両方を兼ね備えた構造が提供される。永久磁石30の機械的移動により、磁界の印加対象となる伝送線路100に印加される直流磁界の大きさ、あるいは向き、あるいはその両方が変化し、フェライト棒10R内部の磁化ベクトル及び内部直流磁界の大きさ、あるいは向き、あるいはその両方が変化する。この直流磁化及び内部磁界の変化により、伝送線路100の伝搬特性に表れる非可逆移相特性が変化する。その結果、進行波型マイクロ波共振器として動作する場合の位相分布の空間的勾配を時間関数として連続的あるいは離散的に変化することが可能となる。従って、この進行波型マイクロ波共振器をアンテナ装置に応用する場合、印加直流磁界の大きさあるいは向き、あるいはその両方を変えることにより、共振器から放射するビーム方向を変えることができる。すなわち、当該アンテナ装置はビーム走査アンテナとして動作する。
【0204】
図82は第14の実施形態の第2の変形例に係るマイクロ波共振器及びアンテナ装置の構成を示す縦断面図であり、外部印加磁界の大きさを変えるための構成方法の一例を示す。非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100に外部直流磁界を印加するために、鉄心32に、可変電圧源34が接続されたコイル33が巻回されてなる電磁石31が接地導体11の下に取り付けられており、当該伝送線路100への印加直流磁界の大きさ、あるいは向き、あるいはその両方を変えられる構造が提供される。電磁石31を構成するコイル33への印加電圧を変えることにより、磁界の印加対象となる伝送線路100に加えられる直流磁界の大きさ、あるいは向き、あるいはその両方が変化し、フェライト棒10R内部の磁化ベクトル及び内部直流磁界の大きさ、あるいは向き、あるいはその両方が変化する。この直流磁化及び内部磁界の変化により、線路の伝搬特性に表れる非可逆移相特性が変化する。その結果、進行波型マイクロ波共振器として動作する場合の位相分布の空間的な勾配を時間関数として連続的あるいは離散的に変化することが可能となる。従って、この進行波型マイクロ波共振器をアンテナ装置に応用する場合、印加直流磁界の大きさあるいは向き、あるいはその両方を変えることにより、マイクロ波共振器から放射するビーム方向を変えることができる。すなわち、当該アンテナ装置はビーム走査アンテナとして動作する。
【0205】
特に、軟磁性体であるフェライト棒10Rを備えた非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100の場合、外部磁界を印加しないと、フェライト棒10Rは誘電体と同じ役割を果たす。この場合、進行波型共振器は、0次共振器として動作し、共振器上で位相分布は一様となる。このとき、同共振器をアンテナ装置として応用する場合、放射方向は、ブロードサイド方向を向く。
【0206】
図83は
図66のアンテナ装置において外部印加磁界が0のときの入力端での反射係数S
11の周波数特性を示すグラフである。
図83から明らかなように、反射係数S11が−10dB以下になる動作帯域は5.40GHzから5.49GHzまでの範囲であって、比帯域は1.7%であった。
【0207】
図84は
図83のグラフにおいて反射係数S
11が最も低くなる周波数5.44GHzでのx−z面上の放射パターンを示すグラフである。
図84から明らかなように、主偏波E
θのビーム方向は3度でほぼブロードサイド方向を向いており、放射利得7.3dBiであった。
【0208】
図85は
図83のグラフにおいて反射係数S
11が−10dB以下となるアンテナとしての動作帯域での主偏波と交差偏波の最大利得、そのときの放射方向の周波数依存性を示すグラフである。
図85から明らかなように、動作帯域内で、アンテナの放射利得及びビーム方向がほぼ一定に保たれていることが確認できた。
【0209】
進行波型マイクロ波共振器の終端条件が等価的に両端短絡から両端開放へ切り替わることにより、直列枝部分が支配的な共振形態から、並列枝部分が支配的な共振形態に切り替わることが可能であり、また逆に、両端開放から両端短絡へ切り替わることにより、並列枝部分が支配的な共振形態から、直列枝部分が支配的な共振形態に切り替わることが可能となる。当該進行波型マイクロ波共振器をアンテナ装置として利用し、共振器の終端条件を機械的、あるいは電気的、あるいはその両方を兼ね備えた方法で切り替えることにより、放射波の偏波特性の切替を行う。
【0210】
マイクロ波共振器の両端の反射器として、等価的に終端短絡から終端開放へ特性変化させたり、あるいはその逆方向に特性を変える方法として、反射器を構成する伝送線路長を切り替えることを考える。またそのために、線路長切替のためのスイッチを挿入する。
【0211】
図86は第14の実施形態の第3の変形例に係るアンテナ装置の構成を示す縦断面図である。
図86のアンテナ装置は、
図62のアンテナ装置において、ポートP1は伝送線路121,122、スイッチSW11及び伝送線路123を介してポートP21に接続され、ポートP2は伝送線路131、スイッチSW12及び伝送線路132を介してポートP22に接続される。ここで、伝送線路121,122の合計の電気長θ
r1は90度であり、伝送線路123の電気長θ
r1Sは90度であり、伝送線路123の電気長θ
r2は90度であり、伝送線路132の電気長θ
r2Sは90度である。さらに一般的には、各電気長θ
r1,θ
r2,θ
r1S,θ
r2Sはそれぞれ、電気長θ
r1≒m
1×90度(m
1は整数である。)、電気長θ
r2≒m
2×90度(m
2は整数である。)、電気長θ
r1S≒m
3×90度(m
3は奇数である。)、電気長θ
r2S≒m
4×90度(m
4は奇数である。)であってもよい。但し、m
1,m
2はともに奇数又はともに偶数である。m
1,m
2がともに奇数の場合、
図86の場合と同様の働きをするが、m
1,m
2はともに偶数の場合、
図86の場合と比べるとスイッチSW11及びSW12のオンの状態とオフの状態とが入れ替わる。また、m
i(i=1,2,3,4)が負の整数の場合、その伝送線路が左手系線路であることを示す。
【0212】
以上のように構成された
図86のアンテナ装置において、SW11及びSW12をオフしたとき、当該伝送線路100の両終端は実質的に短絡状態となり、共振状態は直列枝部分が支配的となる。この場合、
図70に示すように、放射波は直列枝部分である中央のマイクロストリップ線路に平行なE
θ成分が主偏波となる。一方、スイッチSW11及びSW12をオンしたとき、当該伝送線路100の両終端は実質的に開放状態となり、共振状態は並列枝部分が支配的となる。この場合、
図76に示すように、放射波は並列枝部分である短絡スタブに平行なE
φ成分(E
θとは直交する成分である。)が主偏波となる。以上のことから、反射器内のスイッチSW11,SW12の切り替えにより、アンテナ装置からの放射において、主偏波の方向を切り替えることができる。
【0213】
図87は第14の実施形態の第4の変形例に係るアンテナ装置の構成を示す縦断面図である。
図87のアンテナ装置は、
図63のアンテナ装置において、ポートP1は伝送線路121,122、スイッチSW21の共通端子及び接点a及び伝送線路123を介してポートP21に接続され、ポートP2は伝送線路131、スイッチSW22の共通端子及び接点a及び伝送線路132を介してポートP22に接続される。スイッチSW21,SW22の各接点bはそれぞれ接地されている。ここで、伝送線路121,122の合計の電気長θ
r1は90度であり、伝送線路123の電気長θ
r1sは90度であり、伝送線路131の電気長θ
r2は90度であり、伝送線路132の電気長θ
r2sは90度である。さらに一般的には、各電気長θ
r1,θ
r2,θ
r1S,θ
r2Sはそれぞれ、電気長θ
r1≒m
1×90度(m
1は整数である。)、電気長θ
r2≒m
2×90度(m
2は整数である。)、電気長θ
r1S≒m
3×90度(m
3は奇数である。)、電気長θ
r2S≒m
4×90度(m
4は奇数である。)であってもよい。但し、m
1,m
2はともに奇数又はともに偶数である。m
1,m
2がともに奇数の場合、
図87の場合と同様の働きをするが、m
1,m
2はともに偶数の場合、
図87の場合と比べるとスイッチSW21及びSW22の接点aの状態と接点bの状態とが入れ替わる。またm
i(i=1,2,3,4)が負の整数の場合、その伝送線路が左手系線路であることを示す。
【0214】
以上のように構成された
図87のアンテナ装置において、スイッチSW21及びSW22をそれぞれ接点a側に切り替えたとき、当該伝送線路100の両終端は実質的に短絡状態となり、共振状態は直列枝部分が支配的となる。この場合、
図70に示すように、放射波は直列枝部分である中央のマイクロストリップ線路に平行なE
θ成分が主偏波となる。一方、スイッチSW21及びSW22をそれぞれ接点b側に切り替えたとき、当該伝送線路100の両終端は実質的に開放状態となり、共振状態は並列枝部分が支配的となる。この場合、
図76に示すように、放射波は並列枝部分である短絡スタブ13に平行なE
φ成分が主偏波となる。以上のことから、反射器内のスイッチSW21,SW22の切り替えにより、アンテナ装置からの放射において、主偏波の方向を切り替えることができる。
【0215】
上記の各実施形態においては、進行波型マイクロ波共振器の両端に取り付けられた反射器として、伝送線路構造を採用したが、集中定数回路により、等価的に終端短絡、終端開放を実現することも可能である。また、スイッチを挿入して、それらの状態を切り替える構造も可能である。
【0216】
なお、第14の実施形態に係るアンテナ装置においては、マイクロ波共振器の共振状態において電磁波を放射しているが、設定条件を変更することにより、部分的に電磁波を漏洩して漏れ波アンテナ装置として構成してもよい。
【0217】
なお、第13の実施形態に係るマイクロ波共振器と、第14の実施形態に係るアンテナ装置とにおいて用いる基本構造を、
図45A及び
図45Bに図示しているが、本発明はこれに限らず、第1乃至第12の実施形態において開示した基本構造を用いてもよい。すなわち、各単位セルは第1乃至第12の実施形態において開示した上述の種々の条件で動作させることができ、フェライト棒10Rを含まず、外部磁界を印加してもよいし、磁性体基板と誘電体基板とを側面同士で境界部分にて合体してもよい。すなわち、以下の通りである。
【0218】
(1)伝送線路100であるマイクロ波伝送線路の各単位セルは、上記動作周波数において、上記マイクロ波伝送線路においてポートP1からポートP2に向う方向では上記マイクロ波信号が右手系伝送で電力伝送されかつポートP2からポートP1に向う方向では上記マイクロ波信号が左手系伝送で電力伝送されるように、上記分散曲線においてマイクロ波伝送線路が所定の伝搬定数を有するように回路構成されてもよい。
(2)上記マイクロ波伝送線路の各単位セルは、上記動作周波数において、上記マイクロ波伝送線路においてポートP1からポートP2に向う方向では上記マイクロ波信号が左手系伝送で電力伝送されかつポートP2からポートP1に向う方向では上記マイクロ波信号が右手系伝送で電力伝送されるように、上記分散曲線においてマイクロ波伝送線路が所定の伝搬定数を有するように回路構成されてもよい。
(3)上記マイクロ波伝送線路の各単位セルは、上記動作周波数において、上記マイクロ波伝送線路においてポートP1からポートP2に向う方向及びポートP2からポートP1に向う両方向で上記マイクロ波信号がその位相定数がゼロの状態で電力伝送されるように、上記分散曲線においてマイクロ波伝送線路が所定の伝搬定数を有するように回路構成されてもよい。
(4)上記マイクロ波伝送線路において、容量性素子は当該伝送線路を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負であるマイクロ波素子であり、誘導性素子は当該伝送線路を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負であるマイクロ波素子である。
(5)磁性体基板20と誘電体基板10とをそれらの側面同士で境界部分にて合体してなり、裏面に接地導体11を有してもよい。
【0219】
分散ダイアグラムを用いた動作周波数についての補足.
一般に、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100の分散曲線は、
図7のように表される。
図7についての説明は上述しているのでここでは詳細説明を省略する。
図7において、次式で定義される。
【0220】
ω
cU=max(ω
se,ω
sh) (27)
ω
cL=min(ω
se,ω
sh) (28)
ω
cU≠ω
cL (29)
【0221】
図7において、関心のある帯域は
ω
β0L<ω<ω
β0U
であり、分散曲線の接線の傾きである
【数19】
が、各伝搬モードの伝送電力の方向を表すことに注意すると、動作点の接線が右肩上がりの正の勾配をもち、かつ位相定数βが正の値を持つ曲線部分は、伝送電力と波数ベクトルの向き(等位相面の流れる向き)が同じ方向を向く右手系モード伝搬であり、動作点の接線が左肩上がりの負の勾配をもち、かつ位相定数βが正の値を持つ曲線部分は、伝送電力と波数ベクトルの向きとが逆方向を向く左手系モード伝搬を示している。従って、両端にポートP1及び2をもつ有限長さの線路でポートP1からポートP2に向かって正の方向と設定すると、
ω
β0L<ω<ω
β0U
の帯域内で、ポートP1から入力した場合、右手系モードとして伝搬し、逆にポートP2から信号を入力した場合、左手系モードとして伝搬する。
【0222】
特に、ω=ω
cL及びω=ω
cUの動作周波数においては、ポートP1から入力した場合である右手系モードと、逆にポートP2から信号を入力した場合の左手系モードの位相定数が一致している。従って、伝送電力の向きに関係なく等位相面は正の方向に流れる。
【0223】
非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100の両端に境界条件を課すことにより、進行波型マイクロ波共振器を構成することができることは既に述べたが、両端短絡と両端開放の2つの場合が考えられる。両端短絡の場合、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100のうち直列枝部分のインピーダンスがほぼゼロの直列共振状態にあり、電流波が支配的となる。この場合の動作周波数をω
seとおく。一方、両端開放の場合、非可逆移相右手/左手系複合伝送線路100のうち並列枝部分のアドミタンスがほぼゼロの並列共振状態にあり、電圧波が支配的となる。この場合の動作周波数をω
shとおく。一般に、両端開放の場合と両端短絡の場合の共振周波数は異なっており、これは、
図7において阻止帯域の下側カットオフ周波数ω
cLと上側カットオフ周波数ω
cUの違いに現れる。実際、2つの共振周波数ω
seとω
shのうち、大きい側の値がω
cUで小さい側の値がω
cLとなる。
【0224】
図8では、特に、
図7のうち
ω
cL=ω
cU=ω
0
となる場合であり、
図2において見られた阻止帯域が消失している。つまり、線路の両端の境界条件により動作可能な両端開放進行波型共振と両端短絡型共振の2つの動作周波数が縮退する条件を伴なっている。
【0225】
これまでに上記で示した実施例のほとんどが
図8の特殊な場合に対応しているが、
図7のような2種類の共振状態が縮退していない場合においても、進行波型マイクロ波共振器としての動作は可能である。この場合、もちろん、両端開放共振と両端短絡共振の動作周波数はそれぞれ異なる。