【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、高密度実装を実現するプリント配線板など、電子部品用途から要求される数多くの困難な課題を確実に克服でき、しかも高い生産性を有するガラス繊維組成に関して研究を重ねた。その中でガラス組成物中の酸化ケイ素成分の配合量、酸化アルミニウム成分の配合量、アルカリ土類金属元素成分の配合量、酸化チタン成分の配合量、そして酸化ホウ素成分の配合量等を適正なものとし、これらの成分を所定量含有させることで、上記の様々な問題をいずれも解決できることを見出し、ここに本発明を提示するものである。
【0022】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO
2 55〜70%、Al
2O
3 15〜25%、MgO 3〜13%、CaO 0〜3%、B
2O
3 0.6〜6%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜15%、SiO
2+Al
2O
3 78〜88%、Al
2O
3+MgO 23〜32%、TiO
2 0.1〜5%、ZrO 0〜1%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0〜1%を含有
し、溶融ガラスの粘性が103.0dPa・sに相当する紡糸温度TXと液相温度TLとの温度差ΔTXL=TX−TLが70℃以上であることを特徴とする。
【0023】
すなわち、本発明は、化学分析や機器分析等の各種分析手段を使用することによってガラスを構成する元素成分を酸化物換算の質量百分率で表示すると、そのガラス組成はSiO
2成分が55質量%以上70質量%以下の範囲にあり、Al
2O
3成分が15質量%以上25質量%以下の範囲にあり、MgO成分が3質量%以上13質量%以下の範囲にあり、B
2O
3成分が0.5質量%以上6質量%以下の範囲にあり、MgO成分とCaO成分とSrO成分とBaO成分とZnO成分の合量が5質量%以上15質量%以下の範囲にあり、SiO
2成分とAl
2O
3成分の合量が78質量%以上88質量%以下の範囲にあり、Al
2O
3成分とMgO成分の合量が23質量%以上32質量%以下の範囲にあり、TiO
2成分が0.1質量%以上5質量%以下の範囲にあり、更に任意成分としては、CaO成分が3質量%以下の範囲にあり、ZrO
2成分が1質量%以下の範囲にあり、Li
2O成分とNa
2O成分とK
2O成分の合量が1質量%以下の範囲で含有するものであるということを表している。
【0024】
以上の本発明のガラス繊維用ガラス組成物を構成する各成分の含有率の限定理由について、以下で具体的に説明する。
【0025】
SiO
2成分はガラス構造において、その網目状構造の骨格をなす成分であって本発明のガラス組成物の主要成分であり、ガラス組成物中のSiO
2成分の含有量が増加するほどガラスの構造強度が大きくなる傾向となる。ガラス構造の強度を充分な状態となるように維持し、安定した品位を有するものとするには、SiO
2成分の含有量は少なくとも55質量%以上とすることが必要であり、より好ましくは57質量%以上とすることである。一方、ガラス組成物中のSiO
2成分の含有量が増加すると、溶融ガラスの高温粘性値が大きくなり、その結果溶融法によりこのようなガラス組成物を高い効率で均質になるように製造しようとすれば、高価な設備が必要となる。またガラス繊維として成形する際の紡糸温度T
Xも高くなる。よって製造時の設備管理等の点でも制約が生じることとなる場合がある。また、SiO
2成分の含有量が増加し、高温粘性値が大きくなるとガラス溶融時にガラス化反応時などに生じた気泡等が残存しやすく均質な溶融ガラスを得がたく、ガラスの溶融に過剰な熱エネルギーが必要となり、しかもガラス繊維を製造する際の高い紡糸性を確保することが困難となる。さらに、SiO
2成分の含有量が増加するとプリント配線板のドリル穴あけ加工時にドリルの磨耗が大きくなり、ドリリング性の低下によって製造効率が低下し、プリント配線基板を製造する上での弊害となる。これらの問題が生じないようにするためにはSiO
2成分の含有量を70%以下の含有量とすることが必要であり、より好ましくは67質量%以下とすることである。
【0026】
Al
2O
3成分はガラスの化学的、機械的な安定性を実現するために有効な成分であり、ガラスの弾性率Eを向上させる成分である。Al
2O
3成分はガラス中に適量だけ含有されることによって、溶融ガラス中での結晶の晶出や分相生成を抑制する効果を有する場合もあるが、多量に含有すると溶融ガラスからAl
2O
3を主成分とするムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)の失透結晶を生じやすくなり、また、溶融ガラスの粘性を増加させることになる。ガラス組成中のAl
2O
3成分の含有量が15質量%以上であると、ガラスの機械的な安定性が向上し、ガラスの弾性率Eの向上に効果が大きい。Al
2O
3成分は、好ましくは17質量%以上である。一方、Al
2O
3成分の含有量が25質量%以下であると溶融ガラスからムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)の失透が晶出しにくく、ガラス繊維成形時にブッシングノズルが詰まることなく成形することができ、溶融ガラスの粘度も増加しにくいいため、ガラス繊維の生産時に必要なエネルギーも省力化でき、熔解ガラスの泡切れ(清澄性)もよいため好ましい。Al
2O
3成分は、より好ましくは23質量%以下することが望ましい。
【0027】
MgO成分は、ガラス原料を溶融し易くする融剤としての働きを有する成分であり、ガラス熔解時の粘性を低下させ泡切れを促進し、ガラス繊維成形時の紡糸温度T
Xを低下させる働きを有している。また、ガラスの機械的強度を向上し、弾性率Eを向上させる働きのある成分である。MgO成分の含有量が3質量%以上であるとガラス熔解時の粘性を低下させ、泡切れを促進し気泡の少ないガラス繊維を成形することができ、紡糸温度T
Xも十分下げることができる。また、ガラスの弾性率Eも十分大きくすることができ、このためガラスクロスに樹脂を含浸させたプリプレグに加工された時の反りを抑制することができる。MgO成分の効果をより明瞭に発揮させるには、より好ましくは4.5質量%以上とすることが望ましい。一方、MgO成分の含有量の増加は、Al
2O
3成分の含有量の多いガラス組成中では溶融ガラス中からコージェライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)の失透が晶出しやすくなり、ガラス繊維成形時にブッシングのノズル詰まりの原因となる場合がある。また、MgO成分の含有量の増加は、ガラスの線熱膨張係数αを大きくし、ガラスの誘電率εも上昇する。このような観点からMgO成分は、13質量%を超えるのは好ましくない。好ましくは12質量%以下であり、さらに好ましくは11質量%以下、一層好ましくは10.5質量%以下とすることである。
【0028】
B
2O
3成分は、SiO
2成分と同様にガラス網目構造において、その骨格をなす成分であるが、SiO
2成分のように溶融ガラスの高温粘性を大きくすることはなく、むしろ高温粘性を低下させる働きがあり、また、ガラスの誘電率εを低下させる成分である。また、Al
2O
3成分、SiO
2成分を主成分とするムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)の失透結晶の生成を抑制する。ガラス組成中のB
2O
3成分の含有量は、
0.6質量%以上であるとムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)あるいはコージェライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)の失透結晶の生成を抑制する効果があり、誘電率εを低下する効果が大きく、より好ましく
は1.0質量%以上、一層好ましくは1.5質量%以上とすることが望ましい。一方、B
2O
3成分は、ガラス組成中の含有量が多くなりすぎると、溶融中にホウ素成分の蒸発量が多くなり、溶融ガラスを均質な状態に維持するのが困難となる場合もある。またB
2O
3成分の含有量が多くなりすぎるとプリント配線板で使用される場合、周囲環境の湿分の影響を受けやすくなり、高湿度環境ではホウ素やアルカリ等がガラス組成から溶出することにより、電気絶縁性が低下するなど電気的信頼性を損なう恐れがある。このため、ガラス組成中のB
2O
3成分は、6質量%を超えるとガラス溶融時のホウ素成分の蒸発が多くなったり、プリント配線板の電気的信頼性が低下したりするため好ましくない。またB
2O
3成分の含有量は、より好ましくは5.5質量%以下とすることである。
【0029】
CaO成分は、MgO成分と同様にガラス原料を溶融し易くする融剤としての働きを有する成分であり、ガラス熔解時の粘性を低下させ泡切れを促進し、ガラス繊維成形時の紡糸温度T
Xを低下させる。また、ガラスの弾性率Eを向上させる成分である。一方、アルカリ土類金属元素成分の中では、最も誘電率εを増加させる働きが大きく、多量に含有させると誘電率εが大きくなりすぎ、溶融ガラスからウォラストナイト(CaO・SiO
2)の失透を晶出しやすくなる。また、CaO成分の添加量の増加は、線熱膨張係数αが大きくする。このためCaO成分は、3質量%を超えるものは好ましくない。
【0030】
ZnO成分、SrO成分、及びBaO成分は、何れも混合状態のガラス原料を加熱した際に溶融し易くする融剤としての働きを有する成分であり、ガラス熔解時の粘性を低下させ泡切れを促進し、ガラス繊維成形時の紡糸温度T
Xを低下させる働きをする。また、ZnO成分、SrO成分及びBaO成分は、ガラスの弾性率Eを向上させる成分である。一方、これら成分の増加は、ガラスの誘電率εを大きくし、線熱膨張係数αも大きくする。また、これら成分の各原料は、一般的に高価であり、大量に使用すると原料費用の上昇を招くことになる。このため、SrO成分の含有量は5質量%以下、BaO成分の含有量は5質量%以下、ZnO成分の含有量は5質量%以下であることが好ましい。
【0031】
またアルカリ土類金属酸化物の各成分の総和、すなわちΣRO=MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOは、これら成分が高温反応時に相互に働いてガラス原料を一層溶融し易くする融剤としての働きを高めるものであり、ガラス熔解時の粘性を低下させ泡切れを促進することによって、ホローファイバーの発生を防止し、ガラス繊維成形時の紡糸温度T
Xを低下させる。また、これら成分の総和は、ガラスの弾性率Eを向上させる。このためアルカリ土類金属酸化物成分の合量値、ΣRO=MgO+CaO+SrO+ZnOは、5質量%以上であることが望ましい。一方、これら成分の総和が増加し過ぎると、ガラスの誘電率εが大きくなり、線熱膨張係数αが大きくなるためアルカリ土類金属酸化物の各成分の総和、すなわちΣRO=MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOは15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは14.5質量%以下、さらに好ましくは14質量%以下とすることである。
【0032】
Li
2O成分、Na
2O成分あるいはK
2O成分のアルカリ金属酸化物成分は、ガラス原料をガラス融液とする際に、ガラス融液の生成を容易にする、いわゆる融剤として著しく大きく働き、さらに溶融ガラスの高温粘性を低下させ、清澄し易い状態にする働きが大きい。しかし、Li
2O成分、Na
2O成分あるいはK
2O成分は、いずれもガラス組成中の含有量が多くなると、ガラスの線熱膨張係数αが大きくなり、誘電率εが大きくなるほか、プリント配線板の補強材として使用される場合にはガラスからのアルカリイオンの溶出により電気絶縁性を損なう場合がある。このため、これらの成分の合量ΣR
2O=Li
2O+Na
2O+K
2Oは1質量%までで、より好ましくは0.8質量%までである。
【0033】
TiO
2成分は、ガラスの弾性率Eを向上させる成分であり、SiO
2−Al
2O
3−MgO組成系においてはムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)あるいはコージェライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)の失透析出温度を低下させる働きがある。このためTiO
2成分の含有量は0.1質量%以上であることが望ましい。TiO
2成分は、好ましくは0.5質量%以上とすることが望ましい。一方、TiO
2成分は、多量に含有されると誘電率εが大きくなり、溶融ガラスからTiO
2系の結晶を晶出し易くなるため好ましくない。このためTiO
2の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは4.5質量%以下であることである。
【0034】
ZrO
2成分は、TiO
2成分と同様にガラスの弾性率Eを向上させる成分であるが、SiO
2−Al
2O
3−MgO組成系のガラス融液においてはムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)あるいはコージェライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)の失透析出温度を上昇させる場合があり、含有量を制限すべき成分である。ZrO
2成分の含有量は1質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.6質量%以下とすることである。
【0035】
SiO
2成分とAl
2O
3成分の合量は、ガラスの粘性と線熱膨張係数αを適正な範囲となるように調整する指標である。SiO
2成分とAl
2O
3成分の合量SiO
2+Al
2O
3が小さいとガラスの粘性が低下するためガラス繊維製造時のガラス熔解が容易になるほか、ガラス繊維成形でのブッシングの温度管理が容易となるため好ましく、SiO
2+Al
2O
3は88質量%以下であることが望ましい。一方、SiO
2+Al
2O
3が小さ過ぎるとガラスの線熱膨張係数αが大きくなり、誘電率εが大きくなるため好ましくない。このためSiO
2+Al
2O
3は、78質量%以上であることが望ましい。
【0036】
Al
2O
3成分とMgO成分の合量、すなわちAl
2O
3+MgOは熔解ガラスからの失透が晶出する温度、液相温度T
Lを適正な値にするための指標となり、また、ガラスの強度、ガラスの弾性率Eを適正な値にするための指標ともなる。Al
2O
3+MgOが小さいと熔解ガラスからムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)あるいはコージェライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)の失透を晶出しにくくすることができ、ガラス繊維成形時のブッシングのノズルでの失透物の詰りによる糸切れを抑制することできる。このためAl
2O
3+MgOは、32質量%以下であることが好ましい。以上のような観点から、Al
2O
3+MgOの値は、より好ましくは、31.4質量%以下より好ましくは31.3質量%以下とすることである。一方、Al
2O
3+MgOの値が小さすぎるとガラスの弾性率Eが小さくなりすぎるため好ましくない。このためAl
2O
3+MgOは、23質量%以上であることが望ましい。以上のような観点から、Al
2O
3+MgOの値は、より好ましくは23.4質量%以上、さらに好ましくは23.7質量%以上が好ましい。
【0037】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、本発明のガラス繊維用ガラス組成物の性能に大きな影響を及ぼさない範囲で上記に加え必要に応じて各種の成分を添加することができる。例えば、P
2O
5、Fe
2O
3、CeO
2、SO
2、Cl
2、F
2、WO
3、Nb
2O
5、Y
2O
3、La
2O
3等の希土類酸化物、あるいはMoO
3等を質量%表示で各々3%以下の含有量であれば含有することができる。
【0038】
また上述以外にも、微量成分を質量%表示で0.1%まで含有することができる。例えば、Cr
2O
3、H
2O、OH、H
2、CO
2、CO、He、Ne、Ar及びN
2等の各種微量成分が該当する。
【0039】
また本発明のガラス繊維用ガラス組成物では、ガラス繊維用ガラス組成物の性能に大きな影響がないならば、ガラス中に微量の貴金属元素が含有してもよい。例えばPt、Rh及びOs等の白金属元素を1000ppmまで、すなわち金属元素の含有量を質量百分率で表示して0.1%まで含有してもよい。
【0040】
また本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、溶融ガラスの粘性が10
3.0dPa・sに相当する紡糸温度Txが1450℃以下であれば、ガラス繊維の紡糸装置や紡糸方法に大きな変更を行うことなく、効率よくガラス繊維を製造することができるので好適である。
【0041】
また本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、溶融ガラスの粘性が10
3.0dPa・sに相当する紡糸温度T
Xと液相温度T
Lとの温度差ΔT
XL=T
X−T
Lが70℃以上
であることから、ガラス繊維成形時にブッシングのノズルが溶融ガラスから晶出した失透物で詰り、紡糸時に切断されることがなくなるため好ましい。
【0042】
また本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、線熱膨張係数αが40×10
−7/℃以下であれば、プリント配線板に用いられた場合に、高温環境下ではんだ接合部に熱応力が発生し、はんだクラックを引き起こし、電気接続が得られなくなる等の障害の発生を防ぐことになるので好ましい。
【0043】
さらに、本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、周波数1MHzにおける誘電率εが5.8以下であるなら、プリント配線板として用いる場合に、高速な電子回路を実現するために高周波を用いる場合であっても、十分高速な伝送速度を実現できる。伝送速度は誘電率εの平方根に反比例し、V=K×C/ε
1/2で表される。ここでVは電気信号伝搬速度、Kは定数、Cは光速を表されるからである。
【0044】
また本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、弾性率Eが85GPa以上であれば、プリント配線板として用いる場合に、補強材として使用されるガラスクロスの弾性を向上させ、プリント配線板の反りを低減することができるので好ましい。
【0045】
本発明のガラス繊維は、本発明のガラス繊維用組成物よりなることを特徴とする。
【0046】
本発明のガラス繊維用組成物よりなるとは、酸化物換算の質量百分率表示でSiO
2 55〜70%、Al
2O
3 15〜25%、MgO 3〜13%、CaO 0〜3%、B
2O
3 0.6〜6%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜15%、SiO
2+Al
2O
3 78〜88%、Al
2O
3+MgO 23〜32%、TiO
2 0.1〜5%、ZrO 0〜1%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0〜1%を含有
し、溶融ガラスの粘性が103.0dPa・sに相当する紡糸温度TXと液相温度TLとの温度差ΔTXL=TX−TLが70℃以上であるガラスからなるガラス繊維である。
【0047】
本発明のガラス繊維の製造方法は、所望の性能を実現できるのであれば、どのような製造方法によって製造するのであってもよい。ガラス繊維の製造方法は、種々の無機ガラス原料を混合し、高温で溶融した後、ブッシングノズルから連続的に引き出し、ノズル近傍にノズル位置を挟むように配した冷却装置を使用して急速冷却を行ってガラス繊維径を調整する製造方法、すなわちガラス長繊維としてブッシングノズル直下方向に引き出して製造するものであれば、安定したバラツキのない繊維径のガラス繊維を得ることができる。また、ガラス長繊維としては、直接成形法(DM法:ダイレクトメルト法)、間接成形法(MM法:マーブルメルト法)等の各種の製造方法を用途や製造量に応じて採用してよい。これらのガラス繊維の製造方法では、前記無機ガラス原料に加えて、ガラスカレットを適量使用してもよい。
【0048】
またガラス繊維は、急速冷却を行ってガラス繊維径を調整したガラス繊維の表面に各種有機物の薬剤を被覆剤として塗布してよい。この場合、被覆剤の塗布方法は、任意であるが、例えばスプレー法やロール塗布法等の塗布方法を用い、塗布量を調整すればよい。被覆剤の種類としては、具体的には集束剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤、被膜形成剤、カップリング剤あるいは潤滑剤を被覆したものであってもよい。
【0049】
表面処理に使用できるシランカップリング剤を例示すれば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等があり、使用されるガラス繊維と複合化する樹脂の種類により適宜選択すればよい。
【0050】
また、本発明のガラス繊維は、紡糸時の引き出し方向に垂直な繊維断面の形状としては、円形状に加えて、楕円、トラック形状、扁平形状、矩形状、マユ型形状、及び多角形などの異形断面の形状であってもよい。
【0051】
また、本発明のガラス繊維は、固形分換算の質量百分率表示で96.5%以上99.99%以下がガラス組成物であり、残分が被覆剤などの有機物であるなら、ガラス繊維の製織工程などの各種加工工程でガラス繊維表面に傷が生じにくく、安定した強度性能を維持することができる。また、ガラス繊維が各種の物理化学的な性能を十分に発揮できるものとなる。固形分換算というのは、ガラス表面の水分が0.1%未満となるように乾燥した状態で、質量を計測し、さらに強熱処理を施して、ガラス繊維表面の塗布された有機物を加熱除去後にその質量を計測すればよい。
【0052】
ガラス組成物が、固形分換算の質量百分率表示で96.5%未満である場合には、表面に塗布された有機物がガラス繊維を保護する性能が一層向上することもなく、また塗布に要する有機物量が増加するため、製造費用が増加し、経済的ではない。またガラス組成物が、固形分換算の質量百分率表示で99.99%を超えると、ガラス繊維表面の保護性能が十分に果たされなくなる場合もあるので好ましくない。
【0053】
また、本発明のガラス繊維製シート状物は、本発明のガラス繊維よりなり、ガラスクロス、ガラスペーパー又は不織布として加工されてなるものであれば、用途に応じて高密度なプリント配線板を構成する上で最適なガラス繊維となるので好ましい。
【0054】
すなわち、ガラスクロス又は不織布として加工されてなるとは、ガラス繊維を経糸と緯糸として、プリント配線板用ガラスクロスに用いられる種々の製織方法で織られた織物とするか、あるいはチョップドストランドを湿式法や乾式法にて不織布、例えばガラスペーパーとし、これらを有機樹脂材と複合化することによって有機樹脂複合材を形成する用途で用いるものである。
【0055】
ガラスクロスとしては、様々な構造の織布を採用することができる。例えば平織り、綾織等の織り構造のものから、さらに複雑な構造を有するものまで使用することが可能である。さらに不織布については、例えばガラスペーパーについては、チョップドストランドを使用し、白水中でモノフィラメントとして分散させた後、すきあげ、有機結合剤を用いてシート状物に成形したものであればよい。また、例えばチョップドストランドを使用する場合であれば、上述した本発明のガラス繊維用組成物を溶融した溶融ガラスをブッシング等の成形装置に配設された耐熱製ノズルから連続的に引き出してその周囲に集束剤などを被覆させてガラス長繊維として成形する。次いで得られたガラス長繊維を紙管等の周囲に巻き取ってケーキ(またはチーズともよぶ)とした後、ケーキから必要本数をまとめて引き出してガラス繊維切断装置によって所定長の寸法となるように切断する。こうして得られたチョップドストランドを白水中に分散させた後、メッシュ上にすき上げ、コンベヤ上にランダムに堆積してシート状となった状態で、その上方より液状の結合剤を散布し、この結合剤を硬化させることによりそれぞれのガラスチョップドストランド同士を接合する工程を経て、ガラスチョップドストランドにより構成させるガラス繊維シート状物が得られることとなる。
【0056】
本発明のガラス繊維製シート状物が、プリント配線板の構成材料として用いられる場合には、その製造工程は具体的に以下のようなものとなる。すなわち、本発明のガラス繊維用組成物よりなるガラスヤーン回巻体やガラスヤーン合撚糸回巻体のパッケージから解舒されたガラスヤーンやガラスヤーン合撚糸をワーパーで整経し、糊付け機で二次サイズしてビームからルームビームに巻き取りこれを経糸とする。ガラスヤーン回巻体やガラスヤーン合撚糸回巻体のパッケージを解舒して、これを緯糸に使用し、エアージェットルームなどを用いてガラスクロスを製織する。製織されたガラスクロスに付着している有機成分を加熱焼却することにより取り除き(加熱脱油)、シランカップリング剤を含む処理液に浸漬して乾燥した(表面処理)後、樹脂を含侵させ、積層して樹脂を硬化させることによってプリント配線板用の積層板が製造される。
【0057】
また本発明のガラス繊維製シート状物が、チョップドストランドを用いて製造されたガラスペーパーである場合については、そのチョップドストランドの長さ寸法ついては限定されない。繊維の長さ寸法については、用途に適応したものを選択することができる。また、チョップドストランドの製造方法についても任意のものを採用することができる。例えば、溶融工程から紡糸されたストランドを紡糸直後に切断加工することもできるし、一度連続繊維として巻き取った後に用途に応じて切断装置により切断加工してもよい。この場合、切断方法についても任意の方法を採用することができる。例えば、外周刃切断装置や内周刃切断装置、ハンマーミル等を使用することが可能である。また、チョップドストランドの集合形態についても特に限定しない。
【0058】
また本発明のガラス繊維製シート状物には、本発明のガラス繊維以外の繊維材や固形添加剤、液状添加剤を用途に応じて併用してよい。またガラスクロスや不織布を構成する場合に本発明のガラス繊維材と併用する本発明のガラス繊維以外の繊維材としては、Dガラス繊維や他の組成のガラス繊維、また有機繊維材、セラミック繊維やカーボン繊維等を使用してもよく、固形添加材としては、セラミックス粉末、ガラス粉末、有機樹脂粉末、シリコーン粉末等があり、液状添加剤としては、重合促進剤、重合禁止剤、酸化防止剤、分解反応禁止剤、希釈剤、帯電防止剤、凝集防止剤、改質剤、湿潤剤、乾燥剤、防黴剤、分散剤、硬化促進剤、反応促進剤、増粘剤又は反応促進剤等を適量使用してもよい。
【0059】
本発明のガラス製シート状物は、有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられることを特徴とする。
【0060】
有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられるとは、酸化物換算の質量百分率表示でSiO
2 55〜70%、Al
2O
3 15〜25%、MgO 3〜13%、CaO 0〜3%、B
2O
3 0.6〜6%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5〜15%、SiO
2+Al
2O
3 78〜88%、Al
2O
3+MgO 23〜32%、TiO
2 0.1〜5%、ZrO 0〜1%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0〜1%を含有
し、溶融ガラスの粘性が103.0dPa・sに相当する紡糸温度TXと液相温度TLとの温度差ΔTXL=TX−TLが70℃以上であるガラスからなるガラス繊維を、その厚さが1mm以下のガラス繊維シート状物とし、熱硬化性を有する有機樹脂材を含浸させて有機樹脂複合材を得る用途で使用されるものであることを意味している。
【0061】
熱硬化性を有する有機樹脂材としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂あるいはビスマレイミド樹脂等の樹脂を使用すればよい。
【0062】
また本発明のガラス繊維シートは、上述に加えガラスシート状物が、ガラスクロス又は不織布であるならば、用途に応じて種々の性能を発揮するプリント配線板を製造することができる。