特許第5655325号(P5655325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5655325色素増感型太陽電池用電解質組成物及び色素増感型太陽電池
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  • 特許5655325-色素増感型太陽電池用電解質組成物及び色素増感型太陽電池 図000017
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5655325
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】色素増感型太陽電池用電解質組成物及び色素増感型太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20141225BHJP
【FI】
   H01G9/20 105
   H01G9/20 113A
   H01G9/20 113D
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2010-43491(P2010-43491)
(22)【出願日】2010年2月26日
(65)【公開番号】特開2011-181289(P2011-181289A)
(43)【公開日】2011年9月15日
【審査請求日】2012年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】繁田 徳彦
(72)【発明者】
【氏名】土屋 匡広
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−100485(JP,A)
【文献】 特開2010−009832(JP,A)
【文献】 特表2006−523369(JP,A)
【文献】 特開2003−157914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
H01M 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素材料と、
下記一般式(1)もしくは(4)で表される部分構造:
【化1】

(式(1)及び(4)中、nは、5〜500の数であり、Rは、水素原子又は1価の置換基である。)を少なくとも1種有するポリカチオンポリマー電解質と、
有機溶媒と、
を含有する、
色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【請求項2】
前記ポリカチオンポリマー電解質の含有割合が、3〜50wt%である、
請求項1に記載の色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【請求項3】
前記導電性炭素材料の含有割合が、5〜80wt%である、
請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【請求項4】
色素が金属酸化物層に担持された色素担持金属酸化物電極を有する作用電極と、前記作用電極の前記色素担持金属酸化電極と対向するように配設された対向電極と、前記作用電極及び前記対向電極の間に設けられた電解質と、を備える色素増感型太陽電池であって、
前記電解質が、導電性炭素材料と、下記一般式(1)もしくは(4)で表される部分構造:
【化2】

(式(1)及び(4)中、nは、5〜500の数であり、Rは、水素原子又は1価の置換基である。)を少なくとも1種有するポリカチオンポリマー電解質と、有機溶媒と、を含有する電解質組成物である、
色素増感型太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性炭素材料と特定のポリカチオンポリマー電解質を含有する色素増感型太陽電池用電解質組成物、及び、これを用いた色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の資源枯渇問題や、二酸化炭素の排出量削減に代表される、環境問題が脚光を浴びている。その有望な解決手段の一つとして、太陽光発電が注目されている。太陽電池の代表例としては、単結晶及び多結晶シリコン系太陽電池が広く知られ、これらは既に上市されている。ところが、当該技術分野では、昨今、主原料であるシリコンの供給不足への懸念が拡大しており、次世代を担う非シリコン系太陽電池(例えば、CuInGaSe2(CIGS)等)の実用化が切望されている。
【0003】
非シリコン系太陽電池の中でも、1991年にグレッツェル(Gratzel)らによって公表された色素増感型太陽電池は、低価格で製造可能であり、10%以上の変換効率を実現可能な有機系太陽電池として特に注目されている。そのため、近時、その応用開発研究が、国内外を問わず様々な研究機関で盛んに行われている。この種の色素増感型太陽電池は、色素を担持(吸着)させた多孔質の金属酸化物電極(金属酸化物半導体)とこれに対向配置された対向電極との間に、溶液系の電解質(電解液)が封入された基本構造を有している。
【0004】
ところが、溶液系の電解質を用いると、製造時やセル破損時に液漏れが生ずるおそれがあるので、安全性や耐久性を低下させる一因となり得る。そのため、このような液漏れ対策として、電解質が固体化或いは半固体化又はゲル化された擬固体電解質の技術開発が進められている。このような擬固体電解質としては、導電性に優れる導電性炭素材料を用いたものが注目されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、イオン性液体と導電性粒子或いはカップスタック型カーボンナノチューブとを主たる成分として含むゲル状の電解質組成物が開示されている。また、特許文献2には、p型導電性ポリマーを1乃至50質量%、炭素材料を5乃至50質量%、およびイオン液体を20乃至90質量%含む固体混合物から構成した電荷輸送層(電解質組成物)が開示されている。さらに、特許文献3には、電解質含有体を構成する高粘度物質として、金属酸化物粒子およびカーボン粒子のうちの少なくとも1種を含む物質が開示されている。また、特許文献4には、有機溶媒に少なくとも固体電解質塩を溶解してなる電解液と共に、粒子を含有する電解質含有層が開示されている。
【0006】
一方、溶媒の揮発などによる電解質の変質や欠損を抑制して光電変換特性や出力の安定性を改善する目的で、固体状の高分子化合物を採用する試みもなされている。例えば、特許文献5には、(イ)高分子の主鎖または側鎖に、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウムの群から選択されるいずれかのカチオン構造、(ロ)高分子の主鎖として、π−共役系高分子を部分酸化してなるカチオン構造、(ハ)部分的にπ−共役構造を有する高分子にハロゲン分子が作用することにより生成するカチオン構造を有し、対アニオンとしてヨウ化物イオン及びポリヨウ化物イオン(I-/I3-)を有する高分子化合物を含有し、固体状となっている電解質組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−093075号公報
【特許文献2】特開2007−227087号公報
【特許文献3】特開2009−152179号公報
【特許文献4】特開2010−009832号公報
【特許文献5】特開2008−288216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1〜4に記載された電解質組成物においては、カーボンブラック等の微粒子状の炭素材料を均一に分散させることが困難であり、そのため、取り扱い性が悪く、生産性及び経済性に劣るものであった。また、これらの中には、微粒子状の炭素材料の分散性を高めるために分散剤を添加したものも開示されているが、そのような分散剤の添加は、色素増感型太陽電池の用途においては、光電変換効率の低下を引き起こす。そのため、色素増感型太陽電池に用いる電解質組成物において、光電変換効率の低下を引き起こさずに導電性に優れる導電性炭素材料を均一分散させる技術の確立が求められていた。
【0009】
一方、上記特許文献5に記載された電解質組成物においては、高分子ヨウ化物の他にヨウ素(I2)の添加が必須とされていることからも明らかなように、高分子ヨウ化物自身の導電性が不十分であり、色素増感型太陽電池のさらなる光電変換効率の向上が求められていた。
【0010】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、導電性炭素材料が均一に分散され、これにより光電変換特性及び耐久性が高められた色素増感型太陽電池を実現可能な、擬固体状の電解質組成物及びこれを用いた色素増感型太陽電池を提供することにある。また、本発明の他の目的は、光電変換効率の低下を引き起こし得る分散剤を含有しなくても、また、高分子ヨウ化物の他にヨウ素(I2)を含有しなくても、光電変換特性に優れる色素増感型太陽電池を実現可能な、電解質組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、側鎖に少なくとも1以上の含窒素複素芳香環を有するポリカチオンポリマー電解質が、導電性炭素材料の分散性を高める分散剤及び増粘剤としても機能することを見出し、また、そのようなポリカチオンポリマー電解質と導電性炭素材料と併用した電解質組成物を用いることにより光電変換特性及び耐久性に優れる色素増感型太陽電池を実現し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下<1>〜<6>を提供する。
<1>導電性炭素材料と、側鎖に少なくとも1以上の含窒素複素芳香環を有するポリカチオンポリマー電解質と、有機溶媒と、を含有する、色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【0013】
<2>前記含窒素複素芳香環は、置換又は無置換のピリジニウム、イミダゾリウム、チアゾリウム、イソチアゾリウム、オキサゾリウム、イソオキサゾリウム、ピラゾリウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、キノリニウム、インドリウム、ベンゾチアゾリウム、ベンゾオキサゾリウム、ベンゾイミダゾリウム、イミダゾピリジニウム、ビピリジニウム、アクリジニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、ナフトチアゾリウム及びベンゾインドリウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、上記<1>に記載の色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【0014】
<3>前記ポリカチオンポリマー電解質は、主鎖に、ポリメチレン鎖及び/又はポリエチレンオキシド鎖を有する、上記<1>又は<2>に記載の色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【0015】
<4>前記ポリカチオンポリマー電解質は、下記一般式(1)〜(4)で表される部分構造:
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(式(1)〜(4)中、nは、5〜500の数であり、Rは、水素原子又は1価の置換基である。)
を少なくとも1種有する、上記<1>〜<3>のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【0016】
<5>前記ポリカチオンポリマー電解質の含有割合が、3〜50wt%である、上記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【0017】
<6>前記導電性炭素材料の含有割合が、5〜80wt%である、上記<1>〜<5>のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【0018】
ここで、上記の色素増感型太陽電池用電解質組成物は、下記<7>〜<9>のものであることがより好ましい。
<7>前記ポリカチオンポリマー電解質は、前記側鎖に少なくとも1以上の含窒素複素芳香環を有するポリマーのハロゲン化物である、上記<1>〜<6>のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【0019】
<8>前記金属酸化物層が、実質的に酸化亜鉛からなる層である、上記<1>〜<7>のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【0020】
<9>前記金属酸化物層が、実質的に酸化チタンからなる層である、上記<1>〜<7>のいずれか一項に記載の色素増感型太陽電池用電解質組成物。
【0021】
また、本発明は、以下<10>をも提供する。
<10>色素が金属酸化物層に担持された色素担持金属酸化物電極を有する作用電極と、前記作用電極の前記色素担持金属酸化電極と対向するように配設された対向電極と、前記作用電極及び前記対向電極の間に設けられた電解質と、を備える色素増感型太陽電池であって、前記電解質が、導電性炭素材料と、側鎖に少なくとも1以上の含窒素複素芳香環を有するポリカチオンポリマー電解質と、有機溶媒と、を含有する電解質組成物である、色素増感型太陽電池。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、導電性炭素材料が均一に分散され、これにより光電変換特性及び耐久性が高められた色素増感型太陽電池を実現可能な擬固体状の電解質組成物、及び、色素増感型太陽電池が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】色素増感型太陽電池100の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0025】
図1は、本実施形態の色素増感型太陽電池の概略構成を示す断面図である。
色素増感型太陽電池100は、作用電極11と、対向電極21と、これら作用電極11及び対向電極21の間に設けられた擬固体状(ペースト状)の電解質31とを備える。作用電極11及び対向電極21のうち少なくとも一方は、光透過性を有する電極となっている。作用電極11と対向電極21とは、スペーサ41を介して対向配置され、これら作用電極11、対向電極21及びスペーサ41並びに図示しない封止部材によって画成される封止空間内に電解質31が封入されている。
【0026】
作用電極11は、外部回路に対して、負極として機能する。作用電極11は、基体12の導電性表面12a上に金属酸化物を含有する多孔性の金属酸化物層13を備え、その金属酸化物層13に増感色素が担持(吸着)されることにより、色素担持金属酸化物電極14が形成されたものである。換言すれば、本実施形態の作用電極11は、増感色素が金属酸化物層13の金属酸化物表面に担持(吸着)された複合構造体が、基体12の導電性表面12a上に積層された構成(色素担持金属酸化物電極14)となっている。
【0027】
基体12としては、少なくとも金属酸化物層13を支持可能なものであればその種類や寸法形状は特に制限されず、例えば、板状或いはシート状の物が好適に用いられる。その具体例としては、例えば、ガラス基板、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィンあるいはブロム化フェノキシ等のプラスチック基板、金属基板或いは合金基板、セラミックス基板又はこれらの積層体等が挙げられる。また、基体12は、透光性を有することが好ましく、可視光領域における透光性に優れるものがより好ましい。さらに、基体12は、可撓性を有することが好ましい。この場合、その可撓性を生かした種々の形態の構造物を提供できる。
【0028】
導電性表面12aは、例えば、導電性PETフィルムのように基体12上に透明導電膜を形成する等して、基体12に付与することができる。また、導電性を有する基体12を用いることで、基体12に導電性表面12aを付与する処理を省略することができる。透明導電膜の具体例としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)あるいは白金(Pt)などを含む金属薄膜や、導電性高分子などで形成されたものの他、インジウム−スズ酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、SnO2、InO3の他、SnO2にフッ素をドープしたFTO(F−SnO2)等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、各々を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。透明導電膜の形成方法は、特に限定されず、例えば、蒸着法、CVD法、スプレー法、スピンコート法、或いは浸漬法等、公知の手法を適用できる。また、透明導電膜の膜厚は、適宜設定可能である。なお、基体12の導電性表面12aは、必要に応じて、適宜の表面改質処理が施されていてもよい。その具体的としては、例えば、界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液等による脱脂処理、機械的研磨処理、水溶液への浸漬処理、電解液による予備電解処理、水洗処理、乾燥処理等公知の表面処理が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0029】
金属酸化物層13は、増感色素を担持する担持体である。金属酸化物層13は、一般的には、空隙が多く、表面積の大きな多孔質構造を有しているものが用いられ、緻密で空隙の少ないものであることが好ましく、膜状であることがより好ましい。特に、金属酸化物層13は、多孔質の微粒子が付着している構造であることがより好ましい。
【0030】
本実施形態の金属酸化物層13は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化バナジウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウム又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を主成分とする多孔性の半導体層である。これらの金属酸化物は、1種のみを単独で用いても、2種以上を複合(混合、混晶、固溶体など)して用いてもよい。高い光電変換効率を得る観点から、金属酸化物層13は、実質的に酸化チタン又は酸化亜鉛からなる層であることが好ましい。ここで、「実質的に酸化チタンからなる」及び「実質的に酸化亜鉛からなる」とは、酸化チタンを95wt%以上含むこと、及び、酸化亜鉛を95wt%以上含むことを意味する。なお、金属酸化物層13は、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、カドミウム、鉛、アンチモン、ビスマス等の金属、これらの金属酸化物及びこれらの金属カルコゲニドを含んでいてもよい。なお、金属酸化物層13の厚みは、特に限定されないが、0.5〜50μmであることが好ましい。
【0031】
金属酸化物層13の形成方法としては、例えば、金属酸化物の分散液を基体12の導電性表面12a上に付与した後に乾燥する方法、金属酸化物の分散液を基体12の導電性表面12a上に付与した後に高温焼結する方法、金属酸化物のペーストを基体12の導電性表面12a上に付与した後に50〜150℃程度の低温処理を行う方法の他、金属塩を含有する電解液から基体12の導電性表面12a上にカソード電析させる方法等が挙げられるが、これらに特に限定されない。ここで、高温焼結を必要としない方法を採用すると、基体12として耐熱性が低いプラスチック材料を用いることができる。
【0032】
金属酸化物層13には、光を吸収して励起されることにより電子を金属酸化物へ注入することが可能な、増感色素が担持(吸着)されている。金属酸化物層13に担持される増感色素は、色素増感型太陽電池に要求される性能に応じて、所望の光吸収帯・吸収スペクトルを有するものが適用可能であり、特に限定されない。
【0033】
増感色素の具体例としては、例えば、エオシンY、ジブロモフルオレセイン、フルオレセイン、ローダミンB、ピロガロール、ジクロロフルオレセイン、エリスロシンB(エリスロシンは登録商標)、フルオレシン、マーキュロクロム、シアニン系色素、メロシアニンジスアゾ系色素、トリスアゾ系色素、アントラキノン系色素、多環キノン系色素、インジゴ系色素、ジフェニルメタン系色素、トリメチルメタン系色素、キノリン系色素、ベンゾフェノン系色素、ナフトキノン系色素、ペリレン系色素、フルオレノン系色素、スクワリリウム系色素、アズレニウム系色素、ペリノン系色素、キナクリドン系色素、無金属フタロシアニン系色素または無金属ポルフィリン系色素などの有機色素等が挙げられる。また、これらの増感色素は、金属酸化物と結合又は吸着することができるアンカー基(例えば、カルボキシル基、スルホン酸基或いはリン酸基等)を有することが好ましい。なお、増感色素は、各々を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
また、増感色素として、例えば、有機金属錯体化合物も使用可能である。有機金属錯体化合物の具体例としては、例えば、芳香族複素環内にある窒素アニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子またはカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物や、酸素アニオンもしくは硫黄アニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子またはカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物等が挙げられる。より具体的には、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン系色素、金属ナフタロシアニン系色素、金属ポルフィリン系色素、並びに、ビピリジルルテニウム錯体、ターピリジルルテニウム錯体、フェナントロリンルテニウム錯体、ビシンコニン酸ルテニウム錯体、アゾルテニウム錯体或いはキノリノールルテニウム錯体等のルテニウム錯体等が挙げられる。これらは、各々を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
増感色素を金属酸化物層13に担持させる方法は、特に限定されない。その具体例としては、例えば、増感色素を含む溶液に金属酸化物層13を浸漬する方法、増感色素を含む溶液を金属酸化物層13に塗布する方法等が挙げられる。ここで用いる増感色素含有溶液の溶媒は、使用する増感色素の溶解性又は相溶性等に応じて、例えば、水、エタノール系溶媒、ニトリル系溶媒、ケトン系溶媒等の公知の溶媒から適宜選定することができる。
【0036】
ここで、カソード電析法により金属酸化物層13を形成する場合、金属塩及び増感色素を含む電解液を用いることで、金属酸化物層13の形成と色素担持とを同時に行って、増感色素が金属酸化物層13の金属酸化物表面に担持(吸着)された色素担持金属酸化物電極14を直ちに形成することもできる。電解条件は、常法にしたがい、使用する材料の特性に応じて適宜設定すればよい。例えば、ZnOと増感色素からなる色素担持金属酸化物電極14を形成する場合には、還元電解電位は−0.8〜−1.2V(vs.Ag/AgCl)程度、pHは4〜9程度、電解液の浴温は0〜100℃程度が好ましい。また、電解液中の金属イオン濃度は、0.5〜100mM程度、電解液中の色素濃度は50〜500μM程度が好ましい。さらに、光電変換特性をより一層高めるために、増感色素が担持された金属酸化物層13から、一旦、増感色素を脱着し、その後に、他の増感色素を再吸着させてもよい。
【0037】
なお、作用電極11(金属酸化物電極14)は、基体12の導電性表面12aと金属酸化物層13との間に、中間層を有していてもよい。中間層の材料は、特に限定されないが、例えば、上記の透明導電膜12aで説明した金属酸化物等が好ましい。中間層は、例えば、蒸着法、CVD法、スプレー法、スピンコート法、浸漬法或いは電析法等の公知の手法によって、基体12の導電性表面12aに金属酸化物を析出或いは堆積することで形成することができる。なお、中間層は、透光性を有することが好ましく、さらに導電性を有することが好ましい。また、中間層の厚みは、特に限定されるものではないが、0.05〜5μm程度が好ましい。
【0038】
対向電極21は、外部回路に対して正極として機能する。対向電極21は、導電性表面22aを有する基体22からなり、その導電性表面21aが作用電極11の金属酸化物層13と対面するように対向配置されている。基体22及び導電性表面22aは、上述した基体12及び導電性表面12aと同様に、公知のものを適宜採用することができ、例えば、導電性を有する基体12の他、基体12上に透明導電膜12aを有するもの、基体12の透明導電膜12a上にさらに白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、モリブデン、チタン、ロジウム、ルテニウム或いはマグネシウム等の金属、カーボン、導電性ポリマー等の膜(板、箔)を形成したもの等を用いることができる。なお、上述したように、本実施形態では、対向電極に白金を使用しなくても優れた光電変換特性を奏し得る有機溶媒非含有電解質を採用しているため、導電性を有する基体12や、基体12上に透明導電膜12aを有するもの等の比較的廉価な対向電極を用いる場合に、従来技術に対する優位性が顕著となる。
【0039】
本実施形態の色素増感型太陽電池100において擬固体状(ペースト状)の電解質31は、導電性炭素材料と、側鎖に少なくとも1以上の含窒素複素芳香環を有するポリカチオンポリマー電解質と、有機溶媒と、を含有する電解質組成物を含んでなる。なお、本明細書において、「擬固体」とは、固体の他、流動性はほとんど認められないが応力の印加により変形可能であるゲル状固形物或いは粘土状固形物を包含する概念を意味し、具体的には、静置して一定時間を放置した後に、自重による形状変化がないか又はその形状変化がわずかなものを意味する。
【0040】
電解質組成物に含まれる導電性炭素材料は、電荷移動を担うとともに、酸化還元反応を触媒する機能を有する。かかる触媒機能を有する導電性炭素材料の使用により、対向電極に高価な白金触媒を用いなくても良好な起電力が得られるので、経済性を高めることができる。導電性炭素材料としては、黒鉛等の結晶質なものの他、活性炭やカーボンブラック等のような非晶質なものも知られているが、その結晶性については特に限定されない。かかる導電性炭素材料の具体例としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛、活性炭、フラーレン等が挙げられる。カーボンブラックの具体例としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック及びオイルファーネスブラック等が挙げられる。黒鉛の具体例としては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛が挙げられる。なお、これらは、各々を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。導電性及び経済性を考慮すると、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラファイト及びカーボンナノチューブが好ましく、カーボンブラックがより好ましい。カーボンブラックの中でも、単位粒子あたりの電解液の吸着量を増大させて光電変換効率を高める観点から、オイル吸収量(JIS K6217−4)が高いものが好ましい。
【0041】
電解質組成物中の導電性炭素材料の含有量は、特に限定されないが、電解質組成物の総量に対し5〜80wt%であることが好ましく、15〜60wt%がより好ましい。
【0042】
電解質組成物に含まれる側鎖に少なくとも1以上の含窒素複素芳香環を有するポリカチオンポリマー電解質は、そのカチオン構造に由来して、増感色素の再還元に必須なイオン導電性を示すとともに、上記の導電性炭素材料を均一に分散させる分散剤としての機能を有し、しかも、電解質組成物に適度な粘性を与える増粘剤としての機能をも有することが、本発明者らの知見によって見出された。すなわち、かかるポリカチオンポリマー電解質は、電解質でありながらポリマー構造を有するため、導電性炭素材料の分散機能及び増粘機能を発揮するので、従来公知の添加物(光電変換効率を低下させる分散剤及び増粘剤等)を加えることなくホモジザイザーやミル等で適度なシェアをかけることができ、これにより、導電性炭素材料が良好に分散した安定した擬固体状の電解質31を実現できる。そして、本実施形態の電解質組成物は、触媒作用を有し且つ導電性に優れる導電性炭素材料が均一に分散しており、色素が吸着した金属酸化物層に近接配置することができるため、これを用いた色素増感型太陽電池100においては、光を吸収し金属酸化物に電子を供給して酸化状態になった増感色素を効率よく且つ迅速に再還元することが可能となり、その結果、良好な光電変換特性が得られる。
【0043】
上記のポリカチオンポリマー電解質は、側鎖に含窒素複素芳香環を有することが必須とされる。含窒素複素芳香環の具体例としては、例えば、ピリジニウム、イミダゾリウム、チアゾリウム、イソチアゾリウム、オキサゾリウム、イソオキサゾリウム、ピラゾリウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、キノリニウム、インドリウム、ベンゾチアゾリウム、ベンゾオキサゾリウム、ベンゾイミダゾリウム、イミダゾピリジニウム、ビピリジニウム、アクリジニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、ナフトチアゾリウム及びベンゾインドリウム等が挙げられる。これらは、置換基を有していてもよい。
【0044】
上述した置換基を有していてもよい含窒素複素芳香環の一般式を、以下に示す。
【化5】
【0045】
上記式中のRにおいて、1価の置換基の具体例としては、例えば、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜8のアルキル基、メトキシ、エトキシ等の直鎖又は分枝状のアルコキシ基、ビニル、アリル等のアルケニル基、ポリエーテル基等が挙げられる。これらの中でも、合成の容易さの観点から、炭素数1〜6の直鎖状アルキル基が好ましい。
【0046】
また、上記のポリカチオンポリマー電解質は、主鎖に、ポリメチレン鎖及び/又はポリエチレンオキシド鎖を有することが好ましい。
【0047】
上記のポリカチオンポリマー電解質の好ましいものとしては、下記一般式(1)〜(4)で表される部分構造を有するものが挙げられる。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
(上記式(1)〜(4)中、nは、5〜500の数であり、Rは、水素原子又は1価の置換基である。)
【0048】
上記のポリカチオンポリマー電解質は、イオン導電性を付与するという観点から、上述した側鎖に少なくとも1以上の含窒素複素芳香環を有するポリカチオンポリマーのハロゲン化物であることが好ましい。好ましいハロゲンとしては、ヨウ素及び臭素が挙げられる。
【0049】
電解質組成物中のポリカチオンポリマー電解質の含有割合は、特に限定されないが、良好なカーボンの分散状態とイオン導電性を確保するという観点から、電解質組成物の総量に対し3〜50wt%であることが好ましく、5〜40wt%がより好ましい。
【0050】
電解質組成物は、上述した導電性炭素材料及びポリカチオンポリマー電解質を溶解、分散、膨潤又は懸濁させる有機溶媒を含んでいることが好ましい。有機溶媒は、電気化学的に不活性であれば特に制限なく用いることができるが、融点が20℃以下、且つ、沸点が80℃以上のものが好ましい。融点及び沸点がこの範囲にあるものを用いることにより、耐久性がより一層高められる傾向にある。また、有機溶媒は、粘度が高いものが好ましい。粘度が高いことにより沸点が高くなるため、高温環境下に曝されても電解質の漏れが抑制される傾向にある。さらに、有機溶媒は、電気伝導率が高いものが好ましい。電気伝導率が高いことにより高い光電変換効率が得られる傾向にある。
【0051】
かかる有機溶媒の具体例としては、例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キノリン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、アセトン、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、バレロニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、酢酸、ギ酸、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、ペンタノール、メチルエチルケトン、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジオキサン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル、N−メチルピロリドン、γ‐ブチロラクトン、α‐メチル‐γ‐ブチロラクトン、β‐メチル‐γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトン、3‐メチル‐γ‐バレロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、有機溶媒は、官能基として、ニトリル基、炭酸エステル構造、環状エステル構造、ラクタム構造、アミド基、アルコール基、スルフィニル基、ピリジン環、環状エーテル構造のうちの少なくとも1種を有するものが好ましい。このような官能基を有する有機溶媒は、これらの官能基をいずれも含まないものと比較して、高い効果が得られるからである。このような官能基を有する有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピルニトリル、ブチロニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン、ペンタノール、キノリン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチルラクトン、ジメチルスルホキシドあるいは1,4−ジオキサンなどが挙げられる。中でも、メトキシプロピオニトリル、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン、ペンタノール、キノリン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチルラクトン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、メトキシアセトニトリルおよびブチロニトリルが挙げられる。なお、これらは、有機溶媒は、各々を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。また、有機溶媒の含有量は、電解質組成物の総量に対し、10〜80wt%であることが好ましい。
【0052】
電解質組成物は、上記のポリカチオンポリマー電解質の他に、他の酸化還元剤を含有していてもよい。他の酸化還元剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、例えば、I-/I3-系、Br-/Br3-系、又は、キノン/ハイドロキノン系等が挙げられる。具体的には、ヨウ化物塩とヨウ素単体とを組み合わせたもの、又は、臭化物塩と臭素とを組み合わせたもの等、ハロゲン化物塩とハロゲン単体とを組み合わせたもの等が挙げられる。かかる他の酸化還元剤の含有量は、擬固体電解質の総量に対し、1×10-4〜1×10-2mol/gが好ましく、1×10-3〜1×10-2mol/gがより好ましい。
【0053】
上記のハロゲン化物塩としては、例えば、ハロゲン化セシウム、ハロゲン化四級アルキルアンモニウム類、ハロゲン化イミダゾリウム類、ハロゲン化チアゾリウム類、ハロゲン化オキサゾリウム類、ハロゲン化キノリニウム類、又は、ハロゲン化ピリジニウム類等が挙げられる。より具体的には、これらのヨウ化物塩としては、例えば、ヨウ化セシウムや、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラペンチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド、テトラへプチルアンモニウムヨージド或いはトリメチルフェニルアンモニウムヨージド等の4級アルキルアンモニウムヨージド類や、3−メチルイミダゾリウムヨージド或いは1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド等のイミダゾリウムヨージド類や、3−エチル−2−メチル−2−チアゾリウムヨージド、3−エチル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾリウムヨージド或いは3−エチル−2−メチルベンゾチアゾリウムヨージド等のチアゾリウムヨージド類や、3−エチル−2−メチル−ベンゾオキサゾリウムヨージド等のオキサゾリウムヨージド類や、1−エチル−2−メチルキノリニウムヨージド等のキノリニウムヨージド類や、ピリジニウムヨージド類等が挙げられる。また、臭化物塩としては、例えば、四級アルキルアンモニウムブロミド等が挙げられる。ハロゲン化物塩とハロゲン単体とを組み合わせたものの中でも、上記したヨウ化物塩のうちの少なくとも1種とヨウ素単体との組み合わせが好ましい。
【0054】
また、電解質組成物は、例えば、イオン性液体とハロゲン単体とを組み合わせたものでもよい。この場合には、さらに上記したハロゲン化物塩などを含んでいてもよい。イオン性液体は、一般に電池や太陽電池等において使用されているものを適宜用いることができ、特に限定されない。イオン性液体の具体例としては、例えば、「Inorg.Chem」1996,35,p1168〜1178、「Electrochemistry」2002,2,p130〜136、特表平9−507334号公報、或いは、特開平8−259543号公報等に開示されているものが挙げられる。
【0055】
イオン性液体は、室温(25℃)より低い融点を有する塩、又は、室温よりも高い融点を有していても他の溶融塩等と溶解することにより室温で液状化する塩が好ましい。このようなイオン性液体の具体例としては、以下に示したアニオン及びカチオン等が挙げられる。
【0056】
イオン性液体のカチオンとしては、例えば、アンモニウム、イミダゾリウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、オキサジアゾリウム、トリアゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピラゾリウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、トリアジニウム、ホスホニウム、スルホニウム、カルバゾリウム、インドリウム及びそれらの誘導体が挙げられる。これらは、各々を単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。具体的には、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム或いは1−エチル−3−メチルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0057】
イオン性液体のアニオンとしては、例えば、AlCl4-或いはAl2Cl7-等の金属塩化物や、PF6-、BF4-、CF3SO3-、N(CF3SO22-、F(HF)n-或いはCF3COO-等のフッ素含有物イオンや、NO3-、CH3COO-、C611COO-、CH3OSO3-、CH3OSO2-、CH3SO3-、CH3SO2-、(CH3O)2PO2-、N(CN)2-或いはSCN-等の非フッ素化合物イオンや、ヨウ化物イオン或いは臭化物イオン等のハロゲン化物イオンが挙げられる。これらは、各々を単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、イオン性液体のアニオンとしては、ヨウ化物イオンが好ましい。
【0058】
電解質組成物は、要求性能に応じて各種添加剤を含んでいてもよい。一般に電池や太陽電池等において使用されているものを適宜用いることができる。添加剤の具体例としては、例えば、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン及びそれらの誘導体等のp型導電性ポリマー;イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、トリアゾリウムイオン及びそれらの誘導体とハロゲンイオンとの組み合わせからなる溶融塩;ゲル化剤;オイルゲル化剤;分散剤;界面活性剤;安定化剤等が挙げられる。
【0059】
なお、本実施形態の電解質組成物は、ヨウ素や臭素等のハロゲン単体を別途に添加したものでなくてもよい。導電性炭素材料の触媒機能により、及び/又は、側鎖に少なくとも1以上の含窒素複素芳香環を有するポリカチオンポリマー電解質の対アニオンとしてヨウ素や臭素等のハロゲンイオンを含ませることにより、従来に比して、十分な光電変換特性を奏することができる。
【0060】
電解質組成物の調製は、常法にしたがって行えばよい。例えば、導電性炭素材料と側鎖に少なくとも1以上の含窒素複素芳香環を有するポリカチオンポリマー電解質とを、必要に応じて配合される少量の溶媒や酸化還元剤、各種添加剤と混合或いは混練することで、均一な擬固体電解質を調製することができる。混合或いは混練においては、各種公知の混合装置、混錬装置或いは分散装置を用いることができる。
【0061】
電解質31を作用電極11と対向電極21との間に配する方法は特に限定されず、各種公知の手法を用いて行うことができる。なお、電解質31は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0062】
この色素増感型太陽電池100は、作用電極11に対して光(太陽光、又は、太陽光と同等の紫外光、可視光或いは近赤外光)が照射されると、その光を吸収して励起した色素が電子を金属酸化物層13へ注入する。注入された電子は、隣接した導電性表面12aに移動したのち外部回路を経由して、対向電極21に到達する。一方、電解質31は、電子の移動にともなって酸化された色素を基底状態に戻す(還元する)ように、酸化される。この酸化された電解質31が上記の電子を受け取ることによって還元される。このように、作用電極11と対向電極21との間における電子の移動と、これにともなう電解質31の酸化還元反応とが繰り返されることにより、連続的な電子の移動が生じ、定常的に光電変換が行われる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
以下の手順により、上記実施の形態で説明した色素増感型太陽電池100を作製した。
【0065】
まず、以下の手順で、作用電極11を作製した。
フッ素ドープしたSnOを透明導電膜とする透明ガラス基板(TCO:旭硝子(株)製)を準備し、25mm角の形状に切断した。次に、全体をマスキングテープで覆い、基板中央に10mm角の大きさの開口部を設けた。そして、この開口部の透明導電膜上に、平均1次粒子30nmの酸化亜鉛粒子を分散させたトルエン分散液をスプレー塗布した後に風乾して、膜厚が約10μmの酸化亜鉛膜を形成した。次に、下記式で表されるシアニン色素の0.15mMアセトニトリル溶液を調製し、この色素含有溶液中に酸化亜鉛膜を形成した基板を室温で1時間浸漬させることにより、色素の吸着処理を行った。その後、基板を引き上げ、アセトニトリル溶液に浸漬して余分に吸着した色素を除去した。
【0066】
【化10】
【0067】
次に、以下の手順で、対向電極21を作製した。
フッ素ドープしたSnOを透明導電膜とする透明ガラス基板(TCO:旭硝子(株)製)を準備し、25mm角の形状に切断した。次に、スパッタリング法により、透明導電膜上に厚さ約100mmのMo層を形成した。
【0068】
次いで、以下の手順で電解質組成物を調製した。
まず、ポリ(2−ビニルピリジン)(和光純薬工業株式会社製)をヨウ化アルキルと反応させ、四級化することにより、上記一般式(1)に相当する重量平均分子量が3500のポリ−2−ビニルピリジニウムのヨウ化物を得た。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー)にてポリスチレン換算で算出したものである。
得られたポリ−2−ビニルピリジニウムのヨウ化物を15wt%メトキシプロピオニトリル(MPN)に溶解し、さらに、カーボンブラック(ライオン株式会社製、ケッチェンブラックEC−600JD)を加えた後、ホモジナイザーを用いて15分間、100,000rpmで撹拌・分散することにより、実施例1のペースト状の電解質組成物を得た。なお、この実施例1の電解質組成物におけるポリ−2−ビニルピリジニウムとカーボンブラックと有機溶媒との含有量は、電解質組成物の総量に対して、それぞれ10.5wt%:30wt%:59.5wt%とした。
【0069】
その後、上記の作用電極11及び対向電極21並びに電解質組成物を用いて、以下の手順で、色素増感型太陽電池100を作製した。
色素を吸着した作用電極11の酸化亜鉛膜の周囲を囲むように、厚さ30μmのスペーサを設けた。次に、実施例1の電解質組成物を酸化亜鉛膜上にスキージ塗布して電解質31を形成し、この電解質31上に対向電極21を重ね合わせた後、周囲を封止することにより、実施例1の色素増感型太陽電池100を得た。
【0070】
(実施例2)
4−ビニルピリジン(和光純薬工業株式会社製)を開始剤AIBNでラジカル重合して、ポリ(4−ビニルピリジン)とした。これをヨウ化アルキルで四級化することにより、上記一般式(2)に相当する重量平均分子量が3000のポリ−4−ビニルピリジニウムのヨウ化物を得た。得られたポリ−4−ビニルピリジニウムのヨウ化物を15wt%メトキシプロピオニトリルに溶解し、さらに、カーボンブラック(ライオン株式会社製、ケッチェンブラックEC−600JD)を加えた後、ホモジナイザーを用いて15分間、100,000rpmで撹拌・分散することにより、実施例2のペースト状の電解質組成物を得た。なお、この実施例2の電解質組成物におけるポリ−2−ビニルピリジニウムとカーボンブラックと有機溶媒との含有量は、電解質組成物の総量に対して、それぞれ10.5wt%:30wt%:59.5wt%とした。
得られた実施例2の電解質組成物を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、実施例2の色素増感型太陽電池100を得た。
【0071】
(実施例3)
1−ビニルイミダゾール(和光純薬工業株式会社製)をラジカル重合して、ポリ(1−ビニルイミダゾール)とした。これをヨウ化アルキルで四級化することにより、上記一般式(3)に相当する重量平均分子量が3000のポり−1−ビニルイミダゾリウムのヨウ化物を得た。得られたポリ−1−ビニルイミダゾリウムのヨウ化物を15wt%メトキシプロピオニトリルに溶解し、さらに、カーボンブラック(ライオン株式会社製、ケッチェンブラックEC−600JD)を加えた後、ホモジナイザーを用いて15分間、100,000rpmで撹拌・分散することにより、実施例3のペースト状の電解質組成物を得た。なお、この実施例3の電解質組成物におけるポリ−2−ビニルピリジニウムとカーボンブラックと有機溶媒との含有量は、電解質組成物の総量に対して、それぞれ10.5wt%:30wt%:59.5wt%とした。
得られた実施例3の電解質組成物を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、実施例3の色素増感型太陽電池100を得た。
【0072】
(実施例4)
4−メチル−5−ビニルチアゾール(シグマ・アルドリッジ製)をラジカル重合して、ポリ(4−メチル−5−ビニルチアゾール)とした。これをヨウ化アルキルで四級化することにより、上記一般式(4)に相当する重量平均分子量が2500のポリ−4−メチル−5−ビニルチアゾリウムのヨウ化物を得た。得られたポリ−4−メチル−5−ビニルチアゾリウムのヨウ化物を15wt%メトキシプロピオニトリルに溶解し、さらに、カーボンブラック(ライオン株式会社製、ケッチェンブラックEC−600JD)を加えた後、ホモジナイザーを用いて15分間、100,000rpmで撹拌・分散することにより、実施例4のペースト状の電解質組成物を得た。なお、この実施例4の電解質組成物におけるポリ−2−ビニルピリジニウムとカーボンブラックと有機溶媒との含有量は、電解質組成物の総量に対して、それぞれ10.5wt%:30wt%:59.5wt%とした。
得られた実施例4の電解質組成物を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、実施例4の色素増感型太陽電池100を得た。
【0073】
(実施例5及び6)
カーボンブラックの含有量を40wt%及び50wt%に変更すること以外は、上記実施例1と同様に処理して、実施例5及び6のペースト状の電解質組成物を得た。なお、この実施例5及び6の電解質組成物におけるポリ−2−ビニルピリジニウムとカーボンブラックと有機溶媒との含有量は、電解質組成物の総量に対して、実施例5では9wt%:40wt%:51wt%とし、実施例6では7.5wt%:50wt%:42.5wt%とした。
得られた実施例5及び6の電解質組成物を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、実施例5及び6の色素増感型太陽電池100を得た。
【0074】
(実施例7〜10)
上記一般式(1)の置換基R及び重量平均分子量が表1に記載のポリ−2−ビニルピリジニウム置換体のヨウ化物を用いること以外は、実施例1と同様に処理して、実施例7〜10のペースト状の電解質組成物を得た。
得られた実施例7〜10の電解質組成物を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、実施例7〜10の色素増感型太陽電池100を得た。
【0075】
(実施例11)
ヨウ素を0.05M添加すること以外は、実施例1と同様に処理して、実施例11のペースト状の電解質組成物を得た。
得られた実施例11の電解質組成物を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、実施例11の色素増感型太陽電池100を得た。
【0076】
(比較例1)
カーボンブラックの代わりにヨウ素を0.05M添加すること以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例1の液状の電解質組成物を得た。
得られた比較例1の電解質組成物を用い、対向電極11としてPt電極を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例1の色素増感型太陽電池100を得た。
【0077】
(比較例2)
メトキシプロピオニトリルの代わりに1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド(EMImI、イオン液体)を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例2のペースト状の電解質組成物を得た。
得られた比較例2の電解質組成物を用い、対向電極11として実施例1と同様の手順で透明導電膜上に厚さ約100mmのTi層を形成した対向電極21を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例1の色素増感型太陽電池100を得た。
【0078】
(比較例3)
ポリ−2−ビニルピリジニウムのヨウ化物を配合せず、メトキシプロピオニトリルの代わりに1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド(MPImI、イオン液体)を用い、さらにヨウ素を0.05M添加すること以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例3のペースト状の電解質組成物を得た。
得られた比較例3の電解質組成物を用い、対向電極11としてPt電極を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例3の色素増感型太陽電池100を得た。
【0079】
(比較例4)
さらに分散剤としてディスパロンDA−7301(楠本化成、顔料・カーボン用分散剤)を5wt%添加すること以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例4のペースト状の電解質組成物を得た。
得られた比較例4の電解質組成物を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例4の色素増感型太陽電池100を得た。
【0080】
(比較例5)
カーボンブラックを配合しないこと以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例5の液状の電解質組成物を得た。
得られた比較例5の電解質組成物を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例5の色素増感型太陽電池100を得た。
【0081】
(比較例6)
ポリ−2−ビニルピリジニウムのヨウ化物の代わりにテトラブチルアンモニウムヨージド(TBAI)0.5M添加し、さらにヨウ素を0.05M添加すること以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例6のペースト状の電解質組成物を得た。
得られた比較例6の電解質組成物を用いること以外は、上記実施例1と同様に処理して、比較例6の色素増感型太陽電池100を得た。
【0082】
<光電変換特性の測定>
得られた実施例1〜11及び比較例1〜6の色素増感型太陽電池100の光電変換効率を、AM−1.5(1000W/m2)のソーラーシミュレーターを用いて測定した。比較例1の効率を1としたときの相対評価結果を、表1に示す。
なお、光電変換効率(η:%)は、色素増感型太陽電池の電圧をソースメーターにて掃引して応答電流を測定し、これにより得られた電圧と電流との積である最大出力を1cm2あたりの光強度で除した値を算出し、この算出結果に100を乗じてパーセント表示したものである。すなわち、光電変換効率(η)は、(最大出力/1cm2あたりの光強度)×100で表される。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示す結果から、導電性炭素材料と側鎖に少なくとも1以上の含窒素複素芳香環を有するポリカチオンポリマー電解質と有機溶媒とを含有する電解質組成物を用いた実施例1〜11の色素増感型太陽電池は、比較例1〜6の色素増感型太陽電池100と比較して、優れた光電変換効率を有することが確認された。なお、比較例6の色素増感型太陽電池は、光電変換効率の相対値が、最大で1.13を示す一方、最小値が0.6を示し、特性のばらつきが大きく実用に与さないものであった。これは、実施例1〜11の電解質組成物とは異なり、ポリカチオンポリマー電解質の代わりに低分子のTBAIを用いたため、電解質ペーストの粘度が低く、それ故に、カーボンブラックが均一に分散されなかったためと考えられる。
【0085】
なお、上述したとおり、本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明した通り、本発明は、色素増感型太陽電池に関わる電子・電気材料、電子・電気デバイス、及びそれらを備える各種機器、設備、システム等に広く且つ有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0087】
11…作用電極、12…基体、12a…導電性表面、13…金属酸化物層、14…色素担持金属酸化物電極、21…対向電極、22a…導電性表面、22…基体、31…電解質、41…スペーサ、100…光電変換素子。
図1