(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5655407
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】2サイクルエンジン及びそれを備えた携帯型作業機
(51)【国際特許分類】
F02B 67/00 20060101AFI20141225BHJP
F02B 63/02 20060101ALI20141225BHJP
F02P 15/00 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
F02B67/00 P
F02B63/02
F02B67/00 J
F02B67/00 E
F02P15/00 303E
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-165530(P2010-165530)
(22)【出願日】2010年7月23日
(65)【公開番号】特開2012-26350(P2012-26350A)
(43)【公開日】2012年2月9日
【審査請求日】2013年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】日立工機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】横山 仁一
(72)【発明者】
【氏名】田村 福志
【審査官】
西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−200532(JP,A)
【文献】
特開平10−122102(JP,A)
【文献】
特開2000−240548(JP,A)
【文献】
実開昭62−150528(JP,U)
【文献】
特開2010−043605(JP,A)
【文献】
特開2010−065663(JP,A)
【文献】
特開2002−227653(JP,A)
【文献】
特開2004−197594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 61/00−79/00
F02B 25/00−25/28
F02P 1/00− 3/12
F02P 7/00−17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク室と燃焼室とを有し、前記クランク室に開口された掃気路入口及び前記燃焼室に開口された掃気路出口が形成されたエンジン本体と、
前記掃気路入口と、前記掃気路出口とを含む前記エンジン本体の一部を覆い、掃気路を形成する掃気路カバーと、
クランクケースに回転可能に支持され、マグネトロータが連結された駆動出力軸と、
前記マグネトロータに隣接して配置され、前記マグネトロータの回転により発電を行い点火プラグに電力の供給を行う点火コイルと、を備えた2サイクルエンジンにおいて、
前記エンジン本体には、前記駆動出力軸の軸方向に突出する第一の取付座が形成され、前記掃気路カバーには、前記駆動出力軸の軸方向に突出する第二の取付座が形成され、
前記点火コイルは、前記第一の取付座と前記第二の取付座とに跨って取付けられていることを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項2】
前記掃気路カバーと前記エンジン本体との間に断熱部材が介在されていることを特徴とする請求項1に記載の2サイクルエンジン。
【請求項3】
前記断熱部材は、前記掃気路カバーと前記エンジン本体との間を密閉するシール部材として構成されていることを特徴とする請求項2に記載の2サイクルエンジン。
【請求項4】
前記点火コイルは、前記駆動出力軸の軸方向視において、前記掃気路カバーと重なる位置に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうち何れか1項に記載の2サイクルエンジン。
【請求項5】
前記点火コイルは、前記掃気路カバーの前記掃気路に隣接して取付けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち何れか1項に記載の2サイクルエンジン。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の2サイクルエンジンを備える、
ことを特徴とする携帯型作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,2サイクルエンジンの掃気路カバー形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術における2サイクルエンジンの一例を
図6から
図10を用いて説明する。
【0003】
2サイクルエンジンは、ピストン10の上昇に伴って吸気ポート14からクランク室13に吸込まれた燃料と空気の混合気体が、ピストン10の下降に伴って掃気路1d,1eに導かれてシリンダ1内の燃焼室1cに供給されると同時に点火プラグ4により点火、燃焼され、その燃焼圧力によりピストン10を駆動し、該ピストン10に連結されているコンロッド11を介してクランク軸12を回転させる。
【0004】
シリンダ1には前記の様に混合気体をクランク室13からシリンダ1の燃焼室1cへと導く2ヶ所の掃気路1d,1eが設けられているが、アルミダイカスト製が主流であるシリンダ1の成形、および金型製作を容易とするため、掃気路1d,1eの一部は外側へ通じる穴状形状となっている。
【0005】
この穴状形状は機能上塞ぐ必要が有るため、機密性を確保するためのパッキン部材9を介して、掃気路カバー5及び掃気路カバー6がねじ7a,7bによってシリンダ1に取付けられている。
【0006】
また、クランク軸12には磁石を内蔵したマグネトロータ3が取付けられており、該マグネトロータ3の回転により発電を行い、点火プラグ4に電力供給を行う点火コイル2が、該マグネトロータ3に隣接して配置されている。
【0007】
尚、前記点火コイル2はシリンダ1に設けられた2ヶ所の取付座1a,1bに断熱部材8a,8bを介して、ねじ7c,7dによって固定されている。
【0008】
上記従来技術における2サイクルエンジンでは、混合気体の燃焼によりシリンダ1に伝導、蓄積された熱が、取付座1a,1bを介して点火コイル2へ伝導し、点火コイル2内部に存在する抵抗素子等、電子部品の特性に影響を与える恐れがあるため、伝熱を極力抑えるため、前記のように取付座1a,1bと点火コイル2の間に断熱部材8a,8bを配設する必要が有り、生産性の悪化、部品点数増によるコストアップに繋がっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−299605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記で述べたような従来技術の2サイクルエンジンでは、取付座と点火コイルの間に断熱部材を配設する必要が有り、生産性の悪化、部品点数増によるコストアップに繋がっていた。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、掃気路カバーを使用する2サイクルエンジンにおいて、生産性を向上し、部品点数削減によるコストダウンを図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点に係る2サイクルエンジンは、クランク室と燃焼室とを有し、前記クランク室に開口された掃気路入口及び前記燃焼室に開口された掃気路出口が形成されたエンジン本体と、前記掃気路入口と、前記掃気路出口とを含む前記エンジン本体の一部を覆い、掃気路を形成する掃気路カバーと、クランクケースに回転可能に支持され、マグネトロータが連結された駆動出力軸と、
前記マグネトロータに隣接して配置され、前記マグネトロータの回転により発電を行い点火プラグに電力の供給を行う点火コイルと、を備えた2サイクルエンジンにおいて、前記点火コイルは、前記掃気路カバーに取付けられていることを特徴とする。
【0013】
また、前記掃気路カバーと前記エンジン本体との間に断熱部材が介在されていることが望ましい。
【0014】
更に、前記断熱部材は、前記掃気路カバーと前記エンジン本体との間を密閉するシール部材として構成されていることが望ましい。
【0015】
また、前記掃気路カバーは、前記駆動出力軸の軸方向に突出する延設部が形成され、前記点火コイルは前記延設部に取付けられていてもよい。
【0016】
また、前記点火コイルは、前記駆動出力軸の軸方向視において、前記掃気路カバーと重なる位置に設けられていることが望ましい。
【0017】
更に、前記点火コイルは、前記掃気路カバーの前記掃気路に隣接して取付けられていることが好ましい。
【0018】
また、本発明の第2の観点に係る携帯型作業機は、上記いずれかに記載の2ストロークエンジンを備えることを特徴とする。
【0019】
ことを特徴とする携帯型作業機。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、掃気路カバーを使用する2サイクルエンジンにおいて、掃気路カバーに点火コイルを取付ける座面を設け、断熱部材の使用数を削減することにより、生産性を向上し、部品点数削減によるコストダウンを図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る2サイクルエンジンを搭載した携帯型作業機
【
図2】本発明の実施形態に係る2サイクルエンジンを示す外観図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を
図1から
図5に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の機能を有する部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るブロワ装置101の全体を示す斜視図である。
図2は、本発明の実施形態に係るブロワ装置101に搭載されている2サイクルエンジンの側面図であり、
図3は、
図2の状態から点火コイル2を取り外した状態を示す側面図である。
図4は、
図2のA―A線断面図であり、
図5は、
図2のB方向から見たB矢視図としての側面図である。ブロワ装置101は、主に、メインハウジング102と、メインハウジング102内に収容される2サイクルエンジン201と、送風用のファンを収納するファンハウジング103と、ファンハウジング103に形成される吸引口を覆う防塵カバー104と、ファンによりおこされた風を排出するための排出管部により構成される。排出管部は、本実施形態では、ブロワ装置本体の排出管と、着脱可能な2つのパイプ119と、ノズル118で構成された例を示している。メインハウジング102及びファンハウジング103の下部には2つの脚部が形成され、これら脚部の側方には、ハンドルの役目も兼用する脚部が取り付けられる。
【0024】
ハウジングの上部にはブロワ装置101を運搬したり、作業中に保持するためのハンドル部107が形成される。ハンドル部107によって、ブロワ装置101を把持しての作業が行える。また、ブロワ装置101を横に倒して右手でハンドル部107を、左手で脚部を把持すれば、先端のノズル118の角度を90度回転させることができ、作業環境に応じて多様な持ち方ができるよう構成されている。
【0025】
ブロワ装置101に収容される2サイクルエンジン201は、
図10に示すよう、シリンダ1とクランクケース16から構成されており、シリンダ1内には、ピストン10の頂面とシリンダ1の内周及び天井部によって燃焼室1cが画成され、クランクケース16には内部にクランクシャフト12やコンロッド11、クランクウェイト等が収容されるクランク室13を備えている。シリンダ1はアルミニウム合金により形成され、シリンダ1の内周にはピストン10が嵌合し、上下に摺動可能に配置されるシリンダボア内周面が形成されている。本明細書中において、ピストン10が摺動する紙面の上下方向をシリンダの軸線方向として説明する。
【0026】
シリンダ1において、吸気口14と排気口15とはシリンダ軸線方向視において燃焼室1cを挟んで180度離間して配設されており、吸気口14と排気口15との間には掃気通路1d,1eが形成されている。掃気通路1d,1eはシリンダ軸線方向に延び、クランクケース側のクランク室及びシリンダ1の燃焼室とを接続している。掃気路カバー5及び掃気路カバー6は吸気通路及び排気通路と90度離れて取り付けられている。掃気通路1dは通路の一部を掃気路カバー5とシリンダ1とによって画成されている。同様に、掃気通路1eは通路の一部を掃気路カバー6とシリンダ1とによって画成されている。掃気路カバーには、掃気通路1d,1eを周方向に分割する仕切り壁が突出して設けられ、分割された掃気通路は、それぞれ排気口側掃気開口と反排気口側掃気開口とを介して燃焼室に接続される。
【0027】
図2に示すように、シリンダ1には、点火コイル2が取付けられ、点火コイル2は、シリンダ1にの頂点部に取付けられた点火プラグ4とプラグコード17を介して接続されている。また、クランクシャフト12の端部付近には外周端面に所定の角度範囲に亘ってマグネットが取付けられたマグネトロータ3が設けられている。マグネトロータ3には冷却ファンが一体に形成され、回転することで冷却風を発生させると共にシリンダ1及びその周辺部品の冷却に寄与している。点火コイル2は、マグネトロータ3の径方向外側に所定のエアギャップを有して隣接して配置されており、クランクシャフト12が回転により、マグネトロータ3の外周端面に取り付けられたマグネットと点火コイルとが近接離間を繰り返すことで高電圧が発生し、燃焼室内に突出した点火プラグ4の電極間に火花を発生させる。
【0028】
図3に示すように、掃気路カバー5は、アルミニウム合金により形成され、シリンダ1にねじ7a,7bを介して取り付けられている。基本的部品構成は従来技術と同様であるが、掃気路カバー5には点火コイル2を取付ける取付座5a(延設部)が1ヵ所設けられており、シリンダ1にも点火コイル2を取付ける取付座1aが1ヵ所設けられている。取付座5aは掃気通路を形成する箇所の外側近傍からクランクシャフト12の軸方向に延設して一体に形成されている。取付座1a、および取付座5aにはそれぞれ雌ねじが形成されている。
【0029】
点火コイル2はシリンダ1に設けられた取付座1a、および掃気路カバー5に設けられた取付座5aに2ヶ所でそれぞれねじ7c,7dにより固定される。掃気通路は運転中に混合燃料が通過することにより常時冷却されているため、シリンダ1から取付座5aへの熱の伝達を抑制することができる。シリンダ1の一方の側では、クランク軸線方向に沿って、燃焼室1c、掃気路1e、掃気路カバー5、取付座5a、点火コイル2の順に配置され、掃気路カバー5と点火コイル2とは、クランク軸線視において、少なくとも一部が重なって設けられている。
【0030】
掃気路カバー5とシリンダ1の間には、従来技術と同様に機密性を確保するためのパッキン部材9が配設されており、結果的にパッキン部材9がシリンダ1と掃気路カバー5の間の断熱部材としても十分に機能しているため、点火コイル2と取付座5aの間には、従来技術で使用されていた断熱部材を配設する必要がない。パッキン部材9は基材は周知のものであり、例えば金属性やゴム製のものを用いることができる。
【0031】
上記構成によれば、掃気路カバー5とシリンダ1の間に配設されているパッキン部材9を断熱部材としても機能させる事により、従来技術で使用していた断熱部材8bを削除することが可能であり、生産性向上とコストダウンを図ることが可能となる。更に、掃気路カバー5を備えたエンジンにおいて、点火コイル2の取付位置の自由度を向上させることができる。
【0032】
以上、本発明を示す実施形態に基づき説明したが、本発明は上述の形態に限定されるものではなくその趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、点火コイル2の取付穴ピッチを狭くする、掃気路カバー5を大きくする等の更なる工夫により、掃気路カバー5に複数の取付座を設けて点火コイル2を掃気路カバー5に設けた取付座のみで固定することにより、シリンダ1の取付座1aを廃止して、断熱部材8a,8bを完全に削除することも可能である。
【0033】
尚、本願では2サイクルエンジンをブロワに適用した例について説明したが、小型エンジンを用いる他の携帯用工具においても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1:シリンダ、2:点火コイル、3:マグネトロータ、4:点火プラグ、5:掃気路カバー、6:掃気路カバー、7:ねじ、8:断熱部材、9:パッキン部材、10:ピストン、11:コンロッド、12:クランク軸、13:クランク室