【実施例】
【0038】
(実施例1:新規フラバン化合物の生成)
コニフェリルアルコール(和光純薬)1gをエタノール20mlに溶解し、5%NaHCO
3水溶液20mlを加えた混合液(pH=9.4)をオートクレーブ(SANYO LABO AUTOCLAVE)にて110℃、20分間加熱した。得られた反応後組成物1mlをメタノールにて50mlにメスアップし、このうちの10μlをHPLCにより分析した。
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H
2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1ml/min
注入:10μl
検出:254nm
勾配(容量%):80%A/20%Bから20%A/80%Bまで30分間、20%A/80%Bから100%Bまで5分間、100%Bで10分間(全て直線)
【0039】
得られたクロマトグラムを
図1に示す。上記の反応後に、増大したピークがいくつか確認されたことから、複数の化合物が生成されていることが確認された。中でも、※のピークで示された化合物は、下図が示すように反応前溶液には存在が認められないことから、上記の反応により生成されていることがわかる。
【0040】
(実施例2:新規フラバン化合物の単離・構造決定)
実施例1で得られた反応物における、
図1の※で示したピークに含まれる化合物を分取HPLCにより単離し、常法により乾燥したところ新規化合物を50mg得た。単離精製した新規化合物は、黄色粉末状物質となった。
【0041】
次いで、前記新規化合物の分子量を高分解能電子イオン化質量分析法(Electron Ionization-Mass Spectrometry)にて測定したところ、測定値は342.4860であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
理論値C20H22O5(M
+) : 342.4857
分子式C
20H
22O
5
【0042】
次に、前記新規化合物を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMR及び各種2次元NMRデータの解析から、前記新規化合物が式(1)で表される構造を有することを確認した。式(1)で表されるフラバン化合物は本発明の方法で効率的に生成できることが示された。
【0043】
なお、NMR測定値について、式(1)で表される新規フラバン系化合物の各部位を
【0044】
【化3】
【0045】
として、それぞれの
1H核磁気共鳴スペクトル、
13C核磁気共鳴スペクトルをそれぞれ表1に示す。
値はδ、ppmで、溶媒はMethanol−d3で測定した値である。
【0046】
【表1】
【0047】
また、前記新規フラバン化合物の物理化学的性状は、以下のようになった。
(性状)
黄色粉末
(溶解性)
水: 不溶
メタノール: 可溶
エタノール: 可溶
DMSO: 可溶
クロロホルム: 可溶
酢酸エチル: 可溶
【0048】
(実施例3:新規フラバン化合物の抗癌作用1)
次に癌細胞に対する新規フラバン化合物の効果を見るため、HL−60細胞(Human promyelocytic leokemiacells:ヒト骨髄球性白血病細胞)を用いた癌細胞増殖抑制作用について試験した。
【0049】
HL−60細胞の培養には、4mMグルタミン(L−Glutamine、SIGMA)、10%FBS(Foetal Bovine Serum Biological Industries)を含む高栄養培地RPMI−1690(SIGMA)を使用した。試験には細胞培養用96ウェルプレート(Corning)を用い、5×10
5cells/mlとなるように細胞数を調整したHL−60細胞を1ウェルあたり100μlずつ播種した。
【0050】
試料は、コニフェリルアルコール(和光純薬)、エピガロカテキンガレート(和光純薬、以下EGCg)、実施例2で得られた本発明品である新規フラバン化合物の3種類を用いた。EGCgは、フラバン骨格を有し、HL−60に対する高い細胞増殖抑制能を有することが知られている化合物である。試料調製については、各々の化合物をDMSO(ジメチルスルホキシド、和光純薬)にて溶解し、HL−60細胞培養液中に最終濃度がそれぞれ0.5μM、1μM、5μM、10μM、及び20μMとなるように添加し、試験を開始した。
【0051】
生存細胞数の定量はcell counting kit−8(DOJINDO)を用いたMTT法にて行った。試験開始より24時間後、各ウェルにcell counting kit−8を10μl添加し、よく攪拌した。1時間の遮光反応後にプレートリーダー(BIO−RAD Model 680)を用いて測定波長450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに細胞生存率を算出した。
【0052】
得られた結果を
図2に示す。
図2に示すグラフの縦軸は細胞生存率を、横軸はそれぞれの試料の濃度について示している。また、細胞生存率とは、溶媒であるDMSOのみを添加した培養液の生存細胞数を100%とし、各化合物の濃度下における細胞の生存細胞数を相対値として算出した値である。各化合物濃度と細胞生存率の関係から、細胞増殖を50%抑制する濃度IC
50(50%阻害濃度:half maximal inhibitory concentration)を求めた。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2及び
図2の結果より、実施例2で得られたフラバン化合物は、コニフェリルアルコールやEGCgよりも、細胞生存率が低く、HL−60細胞の増殖を抑制する効果がより高いことが示唆される。また、IC
50は実施例2で得られたフラバン化合物は6.0μMであり、EGCgの14.6μMと比較して、2倍程度効果が強いことがわかった。
【0055】
(実施例4:新規フラバン化合物の抗癌作用2)
次いで、抗癌作用の試験を、HL−60細胞を用いて実施した。HL−60細胞を5.0×10
5cells/mlとなるように100mmスタンダードディッシュ(BD Falcon)に播種し、DMSOにて調整したコニフェリルアルコールと新規フラバン化合物をそれぞれ10μMとなるように添加した。24時間培養を行い、回収した細胞をPBS(Dulbecco's PBS(−) Wako)にて洗浄し、既知のDNA抽出法を用いて細胞からDNAを抽出した。得られたDNAサンプルを1%アガロースゲル(Takara agarose)に200ng/wellとなるようにアプライした。電気泳動を行い、染色反応はエチジウムブロマイド(Ethidium Bromide Solution BIO−RAD)を用いて行った。
【0056】
得られた結果を
図3に示す。
図3は、各試料のDNA抽出物の電気泳動写真であり、電流は上から下に流されている。レーン左より、通常培養細胞(第1レーン)、DMSO処理(第2レーン)、コニフェリルアルコール10μM処理(第3レーン)、新規フラバン化合物10μM処理(第4レーン)、DNA分子量マーカーλ/Pst(第5レーン)を流した。通常培養細胞(第1レーン)及びDMSO処理細胞(第2レーン)ではDNAのラダー化が確認されない点から、本実験の信頼性が確認できる。
また、細胞を10μMの新規フラバン化合物で処理したもの(第4レーン)ではDNAのラダー化が観察できるのに対して、同濃度のコニフェリルアルコール(第3レーン)ではDNAのラダー化は観察されなかった。これより、新規フラバン化合物はアポトーシスを誘導する高い効果を有し、その効力はコニフェリルアルコールよりも高いことが示された。
【0057】
(実施例5:加熱温度によるフラバン化合物の生成量の違い)
コニフェリルアルコール100mg、エタノール1ml、5%NaHCO
3水溶液1mlの混合溶液(pH=9.4)を、オートクレーブにて70℃、90℃、110℃、130℃の各温度条件で20分間加熱した。それぞれの温度条件で得られた反応後組成物1mlをメタノールにて50mlにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析した。
【0058】
その結果、いずれでも新規化合物の生成は確認できた。コニフェリルアルコールからの生成費比率(重量%)は、70℃が極微量、90℃が2%、110℃が5%、130℃が3%となり、110℃での加熱がもっとも多く新規化合物が生成していた。
【0059】
(実施例6:新規フラバン化合物含有エキスの調製)
松樹皮エキス10g、エタノール10ml、5%NaHCO
3水溶液を10ml加えて調製した混合溶液(pH=9.0)を、オートクレーブにて110℃、20分間加熱した。得られた反応溶液を減圧加熱させて乾固し、新規フラバン化合物含有エキスを6g得た。得られた新規フラバン化合物含有エキス6g中には、実施例5と同様の手法で確認したところ新規フラバン化合物が0.020g含有されていた。必要に応じてこの作業を繰り返した。
【0060】
(実施例7:新規フラバン化合物を含有する食品)
実施例6で得た新規フラバン化合物含有エキス1gをあらかじめ100mLのエタノールに溶解させ、これに砂糖500g、水飴400gを混合溶解し、生クリーム100g、バター20g、練乳70g、乳化剤1.0gを混合した後、真空釜にて−550mmHg減圧させ、115℃の条件下で濃縮し、水分値3.0重量%のミルクハードキャンディを得た。このミルクハードキャンディは、菓子として食べ易いものであることはもちろん、癌患者における癌の拡散のリスクを低減したり、癌の発症のリスクを低減したり、癌の予防を期待した機能性食品としても利用できる。
【0061】
(実施例8:新規フラバン化合物を含有する医薬品)
実施例1,2と同様の方法で得た新規フラバン化合物をエタノールに溶解し、これを微結晶セルロースに吸着させた後に、減圧乾燥させた。これを常法に従い、打錠品を得た。処方は、フラバン化合物を10重量部、コーンスターチ23重量部、乳糖12重量部、カルボキシメチルセルロース8重量部、微結晶セルロース32重量部、ポリビニルピロリドン4重量部、ステアリン酸マグネシウム3重量部、タルク8重量部の通りである。本打錠品は、癌治癒を目的とする医薬品として有効に利用できる。