(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プラスチックの熱重量分析による燃焼性試験で得られる燃焼開始点温度が110〜280℃、減量率50質量%点温度が370〜450℃及び燃焼終了点温度が520〜600℃である請求項1〜3の何れか1項記載のセメントクリンカーの製造方法。
【背景技術】
【0002】
一般に、セメントクリンカーは、石灰石、粘土、硅石、酸化鉄等を主原料として製造されるが、これらの主原料のほかに、各種産業副産物や産業廃棄物が原燃料として有効利用されている。このため、原燃料の選択によっては、セメントクリンカー中に各種原燃料に由来するカドミウム、クロム、鉛、モリブデン等の重金属類が微量に含まれることがある。
【0003】
このような重金属類を含有するセメントクリンカーを用いたセメントモルタル及びコンクリート硬化体からの重金属の溶出量は極めて少ないものの、それを用いた地盤改良材等のセメント系固化材は、土の種類、配合条件、及びセメント系固化材の性状や種類等によっては、固化処理土からの六価クロム等の重金属類の溶出量が多くなってしまうことがある(例えば、非特許文献1)。六価クロム溶出量は、特に関東ローム等の火山灰質粘性土を固化処理の対象とした場合に多くなることが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
一般に、セメントクリンカーの製造において、その原燃料中に含まれるクロムの大部分は三価クロムであるが、ロータリーキルン内での高温焼成過程やクリンカークーラー部での冷却過程でセメントクリンカー中の三価クロムの一部が六価クロムに転化することが知られている。
【0005】
これまでに、セメントクリンカー中の六価クロムを低減するセメントクリンカーの製造方法が種々提案されている。例えば、クリンカークーラー部の温度が850〜1,000℃となる領域に可燃物を供給して六価クロムを低減する方法(特許文献2、3)が開示されている。しかしながら、これらの可燃物は化石燃料代替としてロータリーキルン内及び/または仮焼炉内に供給するべきであり、クリンカークーラー部に可燃物を供給することは実用的ではない。
【0006】
また、セメントクリンカーの焼成工程で可燃物供給による還元作用を利用し、セメントクリンカー中の水溶性六価クロムの含有量を減らす方法(特許文献4、5)が開示されている。これらの方法は、可燃物を高温のクリンカー部分に供給し、可燃物を燃焼させることによってクリンカーを還元性雰囲気に曝し、六価クロムの生成を抑制することを意図したものである。その他に、キルンバーナーの角度や設置位置、補助バーナーの角度や設置位置を調整して、セメントクリンカーを炎膜焼成することにより、全クロム含有量に対する六価クロム生成割合を低減する製造方法(特許文献6)等が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、セメントクリンカーの製造時の焼成工程において、セメントクリンカー中の全六価クロムの生成を抑制し、セメントクリンカー中に硫化物硫黄を含有させることができる可燃物として、特定の硫黄含有量、揮発分量及び灰分量を含有するプラスチックを見出した点を特徴とする。すなわち、全硫黄量が0.2〜1質量%、揮発分量が80〜90質量%、かつ灰分量が4〜20質量%を含むプラスチックを、キルンバーナーから一次空気を用いてロータリーキルンに吹き込むことによって、主燃料(微粉炭、重油など)の燃焼によって形成される炎(フレーム)の周囲に、還元性雰囲気(酸素分圧の低い領域)を形成させることにより全六価クロム含有量を低減でき、かつ硫化物硫黄を含有するセメントクリンカーの製造方法を見出した点に特徴を有する。本明細書において、プラスチック中の全硫黄量は、JIS M−8819「石炭類及びコークス類−機器分析装置による元素分析方法」に準拠して測定した値をいい、揮発分量及び灰分量は、JIS M−8812「石炭類及びコークス類−工業分析」に準拠して測定した値をいう。
【0017】
以下に、本発明に関わるセメントクリンカーの製造方法の好適な実施形態について説明する。
【0018】
図1は、セメントクリンカーの製造に用いるキルン(炉)の概略構成を示す図である。
図1中、矢印は、セメント原料からセメントクリンカーが製造されるまでの流れを示す。
【0019】
図1に示すように、サスペンションプレヒーター1の上段部から供給されたセメント原料粉末は、複数段のサイクロン1a〜1cを下降しながらロータリーキルン4やクリンカークーラー5の熱ガスによって予熱された後、仮焼炉バーナー2を設置した仮焼炉3においてセメント原料である石灰石中の炭酸カルシウムが脱炭酸される。続いて、脱炭酸された原料は、最下段サイクロン1dに設けられたサイクロンシュート1eを通じてロータリーキルン4に導入され、ロータリーキルン4内で転動されながら高温(約1450℃)で焼成され、ロータリーキルン4から排出された後、クリンカークーラー5で急冷却されて、セメントクリンカーが得られる。このとき、セメントクリンカーは、ロータリーキルン4の窯前に設置されたキルンバーナー6から供給される微粉炭や重油などの主燃料(通常は微粉炭が使用される)によって焼成される。なお、
図1に示すキルン(炉)は本発明のセメントクリンカーの製造方法に用いるキルンの一例であり、本発明のセメントクリンカーの製造方法において、例えば仮焼炉を有していないキルン(炉)を用いる場合もある。
【0020】
一般に、セメント原料中のクロムの大部分は三価クロムとして存在しているが、セメントクリンカーの製造時に、その三価クロムはロータリーキルン内の酸化高温雰囲気に晒され、さらにクリンカークーラーで急冷されると六価クロムに転化しやすくなる。
本発明のセメントクリンカーの製造方法では、焼成工程においてキルンバーナーから主燃料(微粉炭、重油など)のほかに、特定成分のプラスチックをロータリーキルン内に吹き込むことにより、微粉炭燃焼炎の周囲に還元性雰囲気を一部形成することができ、この還元性雰囲気によって造粒焼成過程におけるセメントクリンカー中に存在するクロムが酸化されにくくなり、セメントクリンカー中の全六価クロムの生成を抑制することができる。
【0021】
なお、本発明に関わるセメントクリンカー中の全六価クロム含有量とは、セメント協会標準試験方法の「セメント中の水溶性六価クロムの定量方法」で測定される水溶性六価クロム含有量のみならず、セメントクリンカーの構成成分であるエーライトやビーライト等に固溶している六価クロムを含む量をいう。
【0022】
本発明のセメントクリンカーの製造方法において、キルンバーナーからロータリーキルンに吹き込まれるプラスチックは、全硫黄量が0.2〜1質量%、揮発分量が80〜90質量%、かつ灰分量が4〜20質量%である。より好ましくはプラスチックに含まれる、全硫黄量が0.25〜0.9質量%、揮発分量が80.5〜89.5質量%、かつ灰分量が5〜18質量%であり、さらに好ましくは全硫黄量が0.3〜0.8質量%、揮発分量が81〜89質量%、かつ灰分量が6〜16質量%であり、特に好ましくは全硫黄量が0.3〜0.6質量%、揮発分量が82〜88.5質量%、かつ灰分量が7〜14質量%である。前記プラスチックの全硫黄量が0.2質量%未満ではセメントクリンカー中に硫化物硫黄を含有させることが難しいため好ましくない。1質量%を超えると、セメントクリンカー中の硫酸アルカリ量が過剰になる恐れがあるため好ましくない。前記プラスチックの揮発分量が80質量%未満では、燃焼速度が遅くなり、ロータリーキルン内に微粉炭燃焼炎が拡がり過ぎて、ロータリーキルン内壁の煉瓦の損傷速度を速めてしまう恐れがあるため好ましくない。90質量%を超えると微粉炭の燃焼速度と同等またはそれ以上になり、微粉炭燃焼炎の周囲に還元性雰囲気を形成しにくくなるため好ましくない。前記プラスチックの灰分量が4質量%未満では、微粉炭燃焼炎内で燃焼しやすく還元性雰囲気を形成しにくくなるため好ましくない。20質量%を超えるとクリンカーの品質への悪影響もあるため好ましくない。キルンバーナーからロータリーキルンに、特定成分のプラスチックが吹き込まれることによって、セメントクリンカー中の水溶性六価クロムの含有量のみならず、セメントクリンカーの構成成分であるエーライトやビーライト等に固溶している六価クロムも含めた全六価クロムの含有量を抑制することができる。
【0023】
キルンバーナーからロータリーキルン内に吹き込まれたプラスチックの硫黄分が、セメントクリンカー中に硫化物硫黄として含有されるため、セメントクリンカーが接水した場合には、セメントクリンカー中に含まれる六価クロムを無害な三価クロムに還元して溶出させることが可能である。
【0024】
本発明の製造方法において、キルンバーナーからロータリーキルン内に吹き込まれるプラスチックは、好ましくは固定炭素量が1〜3.5質量%、発熱量が7000〜8500kcal/kgのものを使用することができ、より好ましくは固定炭素量が1.2〜3.2質量%、発熱量が7100〜8200kcal/kgのものを使用することができ、さらに好ましくは固定炭素量が1.5〜3質量%、発熱量が7200〜8000kcal/kgのものを使用することができる。本明細書において、固定炭素量は、JIS M−8812「石炭類及びコークス類−工業分析」に準拠して測定した値をいい、発熱量は、JIS M−8814「石炭類及びコークス類−ポンプ熱量計による総発熱量の測定方及び真発熱量の計算方法」に準拠して測定した値をいう。
【0025】
また、本発明のセメントクリンカーの製造方法において、キルンバーナーから吹き込まれるプラスチックは、好ましくは炭素量60〜72質量%、水素量6〜8.5質量%、酸素量7〜13質量%、窒素量1〜5質量%及び燃焼性硫黄量0.1〜1質量%であり、より好ましくは炭素量61〜71.5質量%、水素量6.2〜8.4質量%、酸素量7.5〜12.5質量%、窒素量1.2〜4.8質量%及び燃焼性硫黄量0.15〜0.9質量%であり、さらに好ましくは炭素量62〜71質量%、水素量6.5〜8.2質量%、酸素量8〜12質量%、窒素量1.5〜4.5質量%及び燃焼性硫黄量0.2〜0.8質量%であり、特に好ましくは炭素量63〜70.5質量%、水素量7〜8質量%、酸素量8.5〜11.5質量%、窒素量1.6〜4質量%及び燃焼性硫黄量0.25〜0.7質量%である。本明細書において、元素分析値は、JIS M−8819「石炭類及びコークス類−機器分析装置による元素分析方法」に準拠して測定した値をいう。
【0026】
また、本発明のセメントクリンカーの製造方法において、キルンバーナーからロータリーキルン内に吹き込む特定成分のプラスチックは、熱重量分析による燃焼性試験で得られる燃焼開始点温度が110〜280℃、減量率50質量%点温度が370〜450℃及び燃焼終了点温度が520〜600℃であることが好ましい。プラスチックの燃焼開始点温度、減量率50質量%点温度及び燃焼終了点温度が前記範囲内である場合には、プラスチックをキルンバーナーからロータリーキルンに吹き込んだ際に、微粉炭燃焼炎の周囲に還元性雰囲気を一部形成でき、この還元性雰囲気によって造粒焼成過程におけるセメントクリンカー中に存在するクロムが酸化されにくくなり、セメントクリンカー中の全六価クロムの生成を抑制することができる。なお、プラスチックの燃焼開始点温度、減量率50質量%点温度及び燃焼終了点温度が前記範囲の下限値未満である場合には、プラスチックが微粉炭燃焼炎中で直ちに燃焼してしまい、還元性雰囲気を形成することができない場合がある。一方、前記範囲の上限値を超える場合には、プラスチックの燃焼速度が遅くなり、燃焼炎が拡がり過ぎてロータリーキルン内壁の煉瓦が損傷しやすくなる場合がある。ここで、燃焼開始点温度、減量率50質量%点温度及び燃焼終了点温度とは、熱重量分析から得られるTG曲線(熱重量曲線)における温度である。
【0027】
本発明のセメントクリンカーの製造方法において、キルンバーナーからロータリーキルンに吹き込む特定成分のプラスチックは、産業廃棄物等の廃プラスチック類を使用することができる。廃プラスチック類は、軟質系と硬質系に大きく分類されるが、微粉炭燃焼炎の周囲に還元性雰囲気を容易に形成させるためには燃焼速度が遅い硬質系プラスチックを軟質系プラスチックよりも多く供給することが好ましい。軟質系プラスチック又は硬質系プラスチックは明確に定義されているわけではないが、軟質系プラスチックは、シート、フィルム等に使用されたプラスチックをいい、硬質系プラスチックは、容器等の包装材、電気部品、自動車部品等に使用されたプラスチックをいう。軟質系プラスチックとしては、例えば低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。一方、硬質系プラスチックに含まれる材料としては、例えば高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン(スチロール樹脂)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、メタクリル樹脂(アクリル樹脂)、ポリカーボネート、ポリアミド(ナイロン)、アセタール樹脂(ポリアセタール)、ポリブチレンテレフタレート、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。また、軟質系プラスチックと硬質系プラスチックは、単位容積重量によっても分けることができ、軟質系プラスチックは、単位容積重量が0.1〜0.3t/m
3のものであり、硬質系プラスチックは、単位容積重量は0.3t/m
3を超えるものである。また、軟質系プラスチックと硬質系プラスチックとは、曲げ弾性率によっても分けることができ、曲げ弾性率が7000kg/cm
2以上のものを硬質系プラスチック、曲げ弾性率が7000kg/cm
2未満のものを軟質系プラスチックとして分けることも可能である。軟質系プラスチックと硬質系プラスチックは、目的に応じて使い分けることができる。
【0028】
本発明において、キルンバーナーからロータリーキルンに吹き込む、全硫黄量が0.2〜1質量%、揮発分量が80〜90質量%、灰分量が4〜20質量%であるプラスチックは、硬質系プラスチックを主体とするものであり、軟質系プラスチックよりも硬質系プラスチックを多く含むものである。
【0029】
本発明のセメントクリンカーの製造方法において、プラスチックは、最大粒度が50mm以下の粒体であることが好ましく、粒度が好ましくは5〜50mm、より好ましく10〜40mmであり、さらに好ましくは15〜35mmである。プラスチックが5〜50mmの粒体であると、プラスチックの燃焼炎を、例えばキルンバーナーからロータリーキルンに吹き込んだ際に、微粉炭燃焼炎の周囲に還元性雰囲気を形成しやすい。粒度が5mm未満であると、微粉炭燃焼炎内で完全に燃焼しやすく、還元性雰囲気を形成しにくくなる場合がある。粒度が50mmを超えると、燃焼速度の著しい低下による着地燃焼を起こし、ロータリーキルンの焼点温度の変動や煉瓦損傷を起こしやすいため、結果としてクリンカーの品質低下を招く恐れがある。キルンバーナーから供給するプラスチック形態は、特に限定されるものではないが、例えばペレット状のもののほうがフラフ状のものに比べて微粉炭燃焼炎の周囲に還元性雰囲気を形成しやすい。
【0030】
本発明のセメントクリンカーの製造方法において、セメントクリンカー1t製造するにあたって特定成分のプラスチック5〜30kgをバーナーに供給する。セメントクリンカー1t製造するにあたって、このプラスチックを6〜25kg供給することが好ましく、7〜20kg供給することがより好ましい。プラスチックの供給量が5kgより少ないと微粉炭燃焼炎の周囲に還元性雰囲気を形成できず、全六価クロム含有量の低減効果が小さいため好ましくない。また、30kgを超えると形成される微粉炭燃焼炎の形状を乱し、クリンカー生産量の低下及びセメントの品質の低下を招く恐れがあるため好ましくない。
【0031】
本発明のセメントクリンカーの製造方法において、特定成分のプラスチックをキルンバーナーから吹き込む際には、主燃料となる微粉炭を供給するノズルの近くに配置されたプラスチック用ノズルを通じて、キルンバーナーからロータリーキルンに吹き込まれる。プラスチック用ノズルとは別に、木屑、廃油、廃タイヤ、廃スラッジ、乾燥汚泥、繊維屑、肉骨粉、廃トナー、塗料粕、廃触媒、各種廃液、油滓、廃畳、廃白土、紙くず、RDF、ヤシ殻等から選択される1種以上の燃料系廃棄物を供給する専用ノズルを通じて、これらの燃料系廃棄物もキルンバーナーからロータリーキルンに吹き込んでもよい。
【0032】
本発明のセメントクリンカーの製造方法において、プラスチックはキルンバーナー以外に仮焼炉バーナーから仮焼炉に吹き込んでもよい。プラスチックの供給箇所は、その燃焼速度、すなわちプラスチックの揮発分量、灰分量等によって選択することが好ましい。例えば、揮発分量が少なく、灰分量が多く、燃焼速度の遅い硬質系のプラスチックを多く含むプラスチックはキルンバーナーからロータリーキルンに吹き込むことが好ましい。燃焼速度の速い軟質系のプラスチックを多く含むプラスチックは仮焼炉バーナーから仮焼炉に吹き込んでもよい。軟質系プラスチックを多く含むプラスチックを仮焼炉バーナーから仮焼炉に吹き込んだ場合は、キルン排ガス温度の上昇を抑制できるとともに、キルン排ガス中の煤塵や有機塩素化合物といった有害物質濃度も低減できる場合がある。
【0033】
本発明のセメントクリンカーの製造方法により得られるセメントクリンカー中の全クロム含有量に対する全六価クロム含有量の割合は70%以下であり、且つ全六価クロム含有量がクリンカー1kg当たり50mg以下であることが好ましい。セメントクリンカー中の全クロム含有量に対する全六価クロム含有量の割合は、より好ましくは68%以下、さらに好ましく66%以下、特に好ましくは64%以下である。セメントクリンカー中の全六価クロム含有量は、クリンカー1kg当り、より好ましくは48mg以下、さらに好ましくは47mg以下、特に好ましくは46mg以下である。このように本発明の製造方法によれば、全六価クロム含有量を低減したセメントクリンカーを製造することができる。
【0034】
次に、本発明の製造方法によって得られたセメントクリンカーを用いたセメント系固化材の製造方法について説明する。
【0035】
本発明のセメント系固化材の製造方法は、前記セメントクリンカーと、石膏とを混合する工程を含む。
本発明の製造方法によって得られたセメント系固化材の好適な実施形態は、前記セメントクリンカー100質量部に対して、石膏を好ましくは5〜30質量部、より好ましくは7〜25質量部、さらに好ましくは8〜20質量部、特に好ましくは10〜15質量部含む。石膏の量が5〜30質量部であると、セメント系固化材を添加した固化処理土の好適な強度発現性を維持することができる。なお、石膏が5質量部未満では、土の種類によって固化処理土の強度発現性が保たれなくなる場合があり、石膏が30質量部を超えると、強度発現性を発揮するための添加効果が得られなくなる場合がある。
【0036】
前記セメント系固化材に使用される石膏の形態は、特に限定されるものでなく、二水塩、半水塩、無水塩のいずれも使用可能であるが、セメント系固化材をスラリー工法で施工する場合には、二水塩または無水塩を用いることが好ましい。
【0037】
固化処理土からの六価クロムの溶出は、対象とする土壌の性状により異なる。例えば、対象土が関東ロームのように、固化処理土からの六価クロム溶出量の低減が難しい土壌を処理する場合には、前記セメントクリンカーと、石膏と、更に高炉スラグとを混合する工程を含むことが好ましい。セメント系固化材は、前記セメントクリンカー100質量部に対して、高炉スラグを、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは20〜90質量部、さらに好ましくは25〜85質量部、特に好ましくは30〜80質量部含む。高炉スラグの量が10〜100質量部であると、関東ロームのような火山灰質粘土であっても、六価クロム溶出量を十分に低減することができ、所望の強度発現性が得られるため好ましい。なお、高炉スラグの量が10質量部より少ないと、関東ロームのような火山灰質粘性土を処理する場合、六価クロム溶出量を十分に低減することが難しくなる場合があり、100質量部を超えると、強度発現性が得られ難くなる場合がある。高炉スラグ中に含まれる硫化物硫黄は、六価クロムを三価クロムに還元する作用を有する。本発明のセメント系固化材は、セメントクリンカー中の全六価クロム含有量が少ないため、硫化物硫黄の含有量が少ない高炉スラグを有効に活用できる点で優れている。
【0038】
本実施形態のセメント系固化材は、セメントクリンカー、石膏と、更に高炉スラグとの混合と粉砕を同時に行って製造してもよく、セメントクリンカーと石膏とを粉砕したセメント組成物に対して予め粉砕された高炉スラグ粉末を後から混合して製造してもよい。粉砕機としてはボールミル、竪型ミル、振動ミル等を使用できるが、通常、混合と粉砕を同時に行う場合にはボールミルを使用することが多い。
【0039】
また、本実施形態のセメント系固化材のブレーン比表面積は、好ましくは2500〜5000cm
2/gであり、より好ましくは2800〜4800cm
2/gであり、さらに好ましくは3000〜4600cm
2/gである。
【0040】
本実施形態のセメント系固化材を用いた土壌の固化処理方法は、上記セメント系固化材と土壌とを混合する工程を備え、土壌1m
3に対して前記セメント系固化材を50〜300kg混合するものである。なお、土壌に対するセメント系固化材の添加量は、事前の室内配合試験の結果によって決定することが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下では、具体例を示しながら、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(1)セメントクリンカーの製造
図1に示すキルン(炉)を用いてセメントクリンカーを製造した。具体的には、サスペンションプレヒーター1の上段部から、石灰石、珪石、石炭灰、建設発生土、鉄精鉱等からなるセメント原料を送入するとともに、ロータリーキルン4のキルンバーナー6に微粉炭と、表1に示す分析値を有する廃プラスチックをキルンバーナー6からロータリーキルン4に吹き込み、普通セメントクリンカーを焼成した。各種廃プラスチックの供給を開始してから6時間後に、クリンカークーラー5からベルトコンベアで排出されるセメントクリンカー全粒群を採取し、その全量を縮分することにより代表サンプルを作製し、代表サンプルの全クロム含有量、全六価クロム含有量、硫化物硫黄量、遊離石灰量を以下の方法により測定した。なお、プラスチックを用いていないセメントクリンカーも同様に製造し、セメントクリンカー(C6)とした。セメントクリンカーの焼成条件として、窯尻のO
2濃度が2〜5質量%、窯尻のCO濃度が0〜0.05質量%、クリンカークーラー5からロータリーキルン4の窯前へ流れる空気(二次空気)の温度が1000℃程度であった。また、キルンバーナーからロータリーキルンへの吹込み風量は、微粉炭流、直進流、旋回流は同一条件とした。
【0043】
(2)プラスチックの熱重量分析
使用した廃プラスチックA、B、Cの分析値を表1に、そのTG曲線を
図2〜4に示す。廃プラスチックAは、ポリプロピレン、ポリエチレン、粒状プラスチック、ポリエチレンテレフタレート容器、ナイロン等であり、廃プラスチックCは、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリスチレン製フィルム等である。廃プラスチックBは廃プラスチックAとCの混合品である。なお、いずれの廃プラスチックも最大粒度が50mm以下、粒度が5〜50mmである。
熱分析結果から得られた燃焼開始温度、減量50質量%温度及び燃焼終了温度から廃プラスチックA、B、Cは、この順に燃焼性が低いことを示しており、廃プラスチックCは本発明の範囲を外れている。また、廃プラスチックA及びBには不燃性硫黄が含まれている。なお、プラスチックの分析は、各種プラスチックを凍結粉砕機により1mm以下に粉砕し、JIS M−8812「石炭類及びコークス類−工業分析」に準拠して工業分析値を測定し、JIS M−8814「石炭類及びコークス類−ボンブ熱量計による総発熱量の測定方法及び真発熱量の計算方法」に準拠して発熱量を測定し、JIS M−8819「石炭類及びコークス類−機器分析装置による元素分析方法」に準拠して元素分析値を測定した。また、表1中の熱重量分析の「燃焼開始点温度」、「減量率50質量%点温度」、「燃焼終了点温度」は、プラスチックの燃焼性を評価するための指標であり、示差熱重量分析(TG−DTA)によって、空気雰囲気下で10℃/分間の昇温速度で昇温した場合の20〜800℃の範囲の測定値である。なお、「燃焼開始点温度」は、昇温開始後に重量減少開始時の温度、「減量率50質量%点温度」は、減量率が50質量%時点の温度、「燃焼終了点温度」は、重量減少がなくなった時点の温度とした。測定方法は、示差熱重量分析装置としてTG−DTA2000SA(ブルカー社製)を用い、直径5mm、高さ2.5mmのセル(白金容器)に試料を5mg入れ、昇温速度10℃/minで室温(20℃)から800℃まで昇温し測定した。なお、リファレンスとしてアルミナ粉(5mg)を用いた。
図2、3に示すように、廃プラスチックA、Bは、熱重量分析による燃焼性試験で得られる燃焼開始温度は110〜280℃、減量率50質量%温度が370〜450℃及び燃焼終了点温度が520〜600℃である。
【0044】
(3)全クロム含有量及び全六価クロム含有量の測定
セメントクリンカー中の全クロム含有量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I−52「ICP発光分光分析及び電気加熱式原子吸光分析によるセメントの微量成分の分析方法」に準拠して測定した。また、セメントクリンカー中の全六価クロム含有量は、クリンカーをpH13のエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)溶液に溶解させると、溶液中に溶出した三価クロムは水酸化クロム(溶解度積(22℃):6.3×10
−31)として沈殿し、溶液中にはクロムイオンのうち六価クロムイオンだけが存在するため、この六価クロムイオンを測定して、セメントクリンカー中の全六価クロム含有量とした。なお、溶液中の六価クロムイオンの定量には、ICP発光分光分析装置を用いた。全六価クロム含有量に関する試料調製から測定に至るまでの測定精度は、±3mg/kgの範囲内であった。C1〜C6のセメントクリンカーの分析結果を表3に示す。
【0045】
(4)硫化物硫黄の測定
セメントクリンカー中の硫化物硫黄の測定は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」の中に規定される「硫化物硫黄の定量方法」に準拠して測定した。
【0046】
(5)遊離石灰量の測定
得られたセメントクリンカー中の遊離石灰量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I−01:1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準拠して測定した。
【0047】
【表1】
【0048】
添加した微粉炭(石炭)は、微粉炭A及び微粉炭Bの2種類を1:1の比率で使用した。微粉炭の分析値を表2に示す。なお、微粉炭の分析は、JIS M−8812「石炭類及びコークス類−工業分析」に準拠して工業分析値を測定し、JIS M−8814「石炭類及びコークス類−ボンブ熱量計による総発熱量の測定方法及び真発熱量の計算方法」に準拠して発熱量を測定し、JIS M−8819「石炭類及びコークス類−機器分析装置による元素分析方法」に準拠して元素分析値を測定した。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
廃プラスチックAまたはBをキルンバーナーから吹き込んで得られたセメントクリンカーC1〜C4(実施例1〜4)は、廃プラスチックCをキルンバーナーから吹き込んで得られたクリンカーC5(比較例1)に比べて、全クロム含有量に対する全六価クロム含有量の割合が少なかった。
【0052】
表1に示す廃プラスチックA、B、Cの全硫黄量(質量%)、揮発分量(質量%)、灰分量(質量%)、固定炭素分量(質量%)、発熱量(kcal/kg)のそれぞれと、廃プラスチックA、B、Cをそれぞれキルンバーナーからロータリーキルンに吹き込んで得られたセメントクリンカーの全クロム含有量に対する全六価クロム含有量の割合との関係を、
図5〜9に示す。
図5〜9に示すように、廃プラスチック中の全硫黄量(質量%)、揮発分量(質量%)、灰分量(質量%)、固定炭素分量(質量%)、発熱量(kcal/kg)のそれぞれと、セメントクリンカー中の全クロム含有量に対する全六価クロム含有量の割合とは相関関係を有すると推測することができ、全硫黄量、揮発分量、灰分量が特定の範囲の廃プラスチック等のプラスチックを用いることによって、セメントクリンカー中の全六価クロムの生成量を抑制することができ、セメントクリンカー中の全クロム含有量に対する全六価クロム含有量の割合が70%以下であり、かつ全六価クロム含有量がセメントクリンカー1kg当り50mg以下である、セメントクリンカーを得られることが確認できた。
【0053】
(6)セメント系固化材の調製
セメントクリンカーC1〜C5をボールミルによりブレーン比表面積が3000±100cm
2/gとなるように調製した後、各セメントクリンカー100質量部に対して無水石膏(セントラル硝子社製)14.5質量部と、高炉スラグ(千葉リバメント社製)67.2質量部を添加し、混合してセメント系固化材B1〜B5を調製した。
【0054】
(7)試験土
試験土として、六価クロム溶出量が多くなりやすい関東ローム(自然含水比105.4%、湿潤密度1.329g/cm
3、礫分2.9質量%、砂分24.1質量%、細粒分73質量%)を使用した。
【0055】
(8)固化処理土の作製及び固化処理土からの六価クロム溶出試験
前記試験土(1m
3)に、各セメント系固化材を下記表に示す量添加し、ホバートミキサーで1.5分間混合した後、JCAS L−01:2006「セメント系固化材による改良体の強さ試験方法」に準拠してφ5×10cmの円柱供試体を作製した。この供試体をポリラップで密封し、室温20℃、湿度90%で7日間養生した。その後、環境庁告示46号(平成3年8月23日)に則って溶出試験を行った。六価クロムイオンの定量は、振とう後のろ液をジフェニルカルバジド吸光光度法により行った。結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
固化処理土からの六価クロム溶出量は、全六価クロム含有量を低減したセメントクリンカーC1〜C4を配合したセメント系固化材B1〜B4の場合(実施例5〜8)、セメントクリンカー中の六価クロム含有量が少ないほど、固化処理土からの溶出量が少なくなった。また、本発明の範囲を外れる廃プラスチックCを供給して得られたセメントクリンカーC5を配合したセメント系固化材B5(比較例2)では、セメントクリンカー中の六価クロム含有量が高く、かつ全クロム含有量に対する全六価クロム含有量の割合が高いので、実施例5〜8のセメント系固化材B1〜B4を使用した場合よりも、固化処理土からの六価クロム溶出量が高かった。