特許第5655553号(P5655553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5655553
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】水性インクジェット用顔料インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20141225BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20141225BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20141225BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20141225BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   C09D11/38
   B41M5/00 E
   B41M5/00 B
   B41J2/01 501
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-288225(P2010-288225)
(22)【出願日】2010年12月24日
(65)【公開番号】特開2012-136573(P2012-136573A)
(43)【公開日】2012年7月19日
【審査請求日】2013年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宇都木 正貴
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 智史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 睦子
(72)【発明者】
【氏名】市村 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】吉田 寛之
【審査官】 富永 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−235155(JP,A)
【文献】 特開2008−222770(JP,A)
【文献】 特開2011−194823(JP,A)
【文献】 特開平11−166144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00−13/00
B41M5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、顔料分散樹脂、水、水溶性溶剤、難水溶性溶剤、アミノアルコール、および界面活
性剤を含有してなるインクジェット用顔料インクにおいて、
前記難水溶性溶剤がグリコールエーテルであり
前記界面活性剤がアセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートであり、
前記アミノアルコールが、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モノ
メチルエタノールアミンからなる群より選択される1種または2種以上である
インクジェット用顔料インク。
【請求項2】
前記難水溶性のグリコールエーテルが、インクの全重量に対し、0.2〜5重量%含まれ
てなる請求項1記載のインクジェット用顔料インク。
【請求項3】
前記難水溶性のグリコールエーテルが、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジ
エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエ
ーテルからなる群より選択される1種または2種以上である、請求項1または2記載のイ
ンクジェット用顔料インク。
【請求項4】
前記アミノアルコールが、インクの全重量に対し、0.1〜2重量%含まれてなる請求項
1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用顔料インク。
【請求項5】
前記アセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートが、インクの全重量に対
し、0.1〜2重量%含まれてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット
用顔料インク。
【請求項6】
水分散性樹脂微粒子を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット用顔
料インク。
【請求項7】
水分散性ワックスを含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット用顔料
インク。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット用顔料インクを、印刷本紙に印刷し
た印刷物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット用顔料インクを、印刷本紙上にカル
ボキシル基およびまたはスルホン酸基を有する水溶性樹脂、水分散性樹脂からなるインク
受容層を塗布した印刷用紙に印刷した印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般の印刷本紙、特にコート紙、アート紙等の疎水性の高い用紙への白スジ、色ムラ、色間滲みの無い高品質な画像が得られ、インクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性に優れる水性インクジェット用顔料インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式によれば、使用する装置の騒音が小さく、操作性がよいという利点を有するのみならず、カラー化が容易であり、かつ記録部材として普通紙を使用することができるという利点があるため、オフィスや家庭での出力機として広く用いられている。
一方、産業用途においても、インクジェット技術の向上によりデジタル印刷の出力機としての利用が期待され、環境面および印刷物の耐性面等から水性顔料インキが求められている。
【0003】
水性顔料インキは、顔料が水に不溶であるため、インキ中での顔料分散を保つために分散樹脂を用いて水中での分散安定化を図っている。(例えば特許文献1,2,3参照)。
また、インクジェット記録方式の場合、ノズルの乾燥防止を目的として、保湿剤と位置づけられる高沸点の水溶性溶剤が含まれている。
【0004】
一般の印刷本紙は、その表面に油性インクを受容するための塗工層が設けられた塗工紙であるが、塗工層は疎水性であるため水性インクの濡れ性、吸収能力が乏しいという特徴を有する。そのため、インクジェット記録に一般的に用いられている水性の顔料インクを使用すると、インクの濡れ広がり性、浸透性が低く、画像に白スジや滲みが生じる等の問題があった。
このため、インキ中に浸透性の高い高沸点の水溶性溶剤を使用することにより濡れ性、浸透性の向上を図る必要がある。
しかしながら、高浸透性溶剤の使用は、顔料分散状態を安定化させている分散樹脂の溶解状態を変化させ、顔料分散性および保存安定性を著しく低下させる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−6074号公報
【特許文献2】特開昭64−31881号公報
【特許文献3】特開平3−210373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、一般の印刷本紙、特にコート紙、アート紙等の疎水性の高い用紙への白スジ、色ムラ、色間滲みの無い高品質な画像が得られ、インクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性に優れる水性インクジェット用顔料インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下に示す水性インクジェッ
ト用顔料インクにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、第1の発明は、顔料、顔料分散樹脂、水、水溶性溶剤、難水溶性溶剤、アミノ
アルコール、および界面活性剤を含有してなるインクジェット用顔料インクにおいて、
前記難水溶性溶剤がグリコールエーテルであり
前記界面活性剤がアセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートであり、
前記アミノアルコールが、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モノ
メチルエタノールアミンからなる群より選択される1種または2種以上である
インクジェット用顔料インクに関する。
【0008】
又、第二の発明は、前記難水溶性のグリコールエーテルが、インクに対し、0.2〜5重量%含まれてなる上記発明のインクジェット用顔料インクに関する。
又、第三の発明は、前記難水溶性のグリコールエーテルが、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテルからなる群より選択される1種または2種以上である、上記いずれかの発明のインクジェット用顔料インクに関する。
【0009】
又、第四の発明は、前記アミノアルコールが、インクに対し、0.1〜2重量%含まれて
なる、上記いずれかの発明のインクジェット用顔料インクに関する
【0010】
又、第の発明は、前記界面活性剤がアセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキ
シレートが、インクに対し、0.1〜2重量%含まれてなる、上記いずれかの発明のイン
クジェット用顔料インクに関する。
又、第の発明は、水分散性樹脂微粒子を含有する、上記いずれかの発明のインクジェッ
ト用顔料インクに関する。
【0011】
又、第の発明は、水分散性ワックスを含有する、上記いずれかの発明のインクジェット
用顔料インクに関する。
又、第の発明は、上記発明のインクジェット用顔料インクを、印刷本紙に印刷した印刷
物に関する。
又、第の発明は、印刷本紙上にカルボキシル基およびまたはスルホン酸基を有する水溶
性樹脂、水分散性樹脂からなるインク受容層を塗布した印刷用紙に印刷した印刷物に関す
る。

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一般の印刷本紙、特にコート紙、アート紙等の疎水性の高い用紙への白スジ、色ムラ、色間滲みの無い高品質な画像が得られ、インクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性に優れる水性インクジェット用顔料インクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明のインクが何故、一般の印刷本紙、特にコート紙、アート紙等の疎水性の高い用紙への白スジ、色ムラ、色間滲みの無い高品質な画像が得られ、インクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性に優れるかを説明する。
インクジェット印刷において高品質な画像を得るためには、ノズルより吐出されたインクが印刷用紙上に短時間で適度な広がりと乾燥によりインクドットを形成することが重要となる。インクジェットインクではノズルを乾燥させるとインクを吐出することできなくなるため、保湿剤つまり高沸点の水溶性溶剤が必須である。しかしながら、高沸点の水溶性溶剤を含有すると、一般の印刷本紙であるコート紙(片面に20g/m程度塗工した紙)、アート紙(片面に40g/m程度塗工した紙)に印字する場合、濡れ性、浸透性に乏しくこれが印字したドットとドットがつながり起こる白スジ、色ムラの原因になることがある。
【0014】
そこで、紙への濡れ性、浸透性が高い溶剤を使用することで、乾燥性を高めることが重要となる。難水溶性のグリコールエーテルが、その溶剤である。難水溶性のグリコールエーテルは、一般によく使用される溶剤であるグリセリンや1,3−プロパンジオールなどに比べ、はるかに静的表面張力の低下能力が低く、疎水性コートされた印刷用紙への濡れ性、浸透性が高い。さらに、インクの動的表面張力、特に10ms以下の短寿命時間における表面張力を下げる効果が大きく、ビーディング(ドットとドットがつながり起こる白スジ)を解消することが可能となる。つまり、難水溶性のグリコールエーテルを使用することで、乾燥性が高くなり、印字ムラなどの問題が解消し、印字性が優れたものとなる。
しかしながら、これらの溶剤には、顔料の分散性を低下させるという大きな問題がある。理由は定かではないが、これらの溶剤はグリセリンや1,3−プロパンジオールに比べて、疎水性が高く、インキ中の溶媒の疎水性が高くなるために、顔料に吸着している分散樹脂が溶媒へ脱着しやすくなり、分散性が低下するものと考えられる。
特にインキの保存安定性では、これらの溶剤を使用すると、大きく増粘するもしくは分離する傾向にある。
【0015】
そこで、アセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートを併用することにより、難水溶性のグリコールエーテルの使用量を抑えることができる。アセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートは疎水性基材を適度に湿潤化する能力に優れているが、それだけでは不十分であり、難水溶性のグリコールエーテルとの併用により、印刷品質をよりいっそう高めることができる。
【0016】
また、アミノアルコールは、油性インキを受容するために樹脂がコーティングされた印刷本紙に対し、アミノアルコールがコーティング層の極性基に対し選択的に配行することで、基材を膨潤させインクドットを固定されることで、色間滲み、色ムラが解消されるものと考えられる。
これらの作用により、難水溶性溶剤のグリコールエーテル、アミノアルコール、およびアセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートを併用することで、一般の印刷本紙、特にコート紙、アート紙等の疎水性の高い用紙への白スジ、色ムラ、色間滲みの無い高品質な画像が得られ、インクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性に優れるインクを得ることができる。
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明の水性インクジェット用顔料インク(以下、水性顔料インク又はインクという)について説明する。
【0017】
本発明で使用される、難水溶性のグリコールエーテルは、水性顔料インクの動的表面張力を低下させ、印刷本紙への濡れ性、浸透性を高める目的で使用される。
難水溶性のグリコールエーテルの具体例としては、例えば、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルが挙げられ、これらの1種または2種以上を併用して使用することができる。
【0018】
これらのうち、インク安定性の観点から水溶性溶剤に近い溶解度パラメータを有するジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテルを用いることがより好ましい。
本発明において、難水溶性のグリコールエーテルの含有量は、インク全体に対して、0.2〜5重量%が好ましく、0.5〜2重量%がより好ましい。0.2重量%より少ないと、インクの濡れ性、浸透性が不足し、印刷本紙に印刷した場合、インクのドットが十分に広がらず、白スジ、色ムラが発生して問題となる場合がある。また、5重量%を超えるとインクの経時保存安定性が不足して問題となる場合がある。
【0019】
本発明で使用される、アミノアルコールは、油性インキを受容するために樹脂がコーティングされた印刷本紙に対し、アミノアルコールが選択的にコーティング層を膨潤させることで、水性顔料インクのインクドットを固定させ、色間滲み、色ムラを解消する目的で使用される。
アミノアルコールの具体例としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、モノメチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モノエチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンが挙げられ、これらの1種または2種以上を併用して使用することができる。
【0020】
これらのうち、アミノアルコールの沸点が高すぎると印刷物の耐水性が問題となる場合があり、吐出性に影響の出ない適度な沸点を持つジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モノメチルエタノールアミンを用いることがより好ましい。
本発明において、アミノアルコールの含有量は、インク全体に対して、0.1〜2重量%が好ましく、0.2〜1重量%がより好ましい。0.1重量%より少ないと、インクの浸透性が不足し、印刷本紙に印刷した場合、インクのドットが十分に固定されず、色間滲み、色ムラが発生して問題となる場合がある。また、2重量%を超えるとインクの粘度上昇による吐出性不良が問題となる場合がある。
【0021】
本発明で使用される、アセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートは、水性顔料インクの動的表面張力を低下させ、印刷本紙への濡れ性、浸透性を高める目的で使用される。
アセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートの具体例としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチンー3,6−ジオール、または3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどのポリアルコキシレートが挙げられ、これらの1種または2種以上を併用して使用することができる。
これらのうち、特に2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのポリエトキシレートを用いることが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートは市販品としては、例えば、AirProductsandChemicals Inc.製サーフィノール420、440、465、485、川研ファインケミカル株式会社製アセチレノールE40、E81、E100、E200、日信化学工業株式会社製オルフィンE1004、E1010が挙げられる。
【0022】
本発明において、アセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートの含有量は、インク組成物全体に対して、0.1〜2重量%が好ましく、0.3〜1重量%がより好ましい。0.1重量%より少ないと、インクの濡れ性、浸透性が不足し、印刷本紙に印刷した場合、インクのドットが十分に広がらず、白スジ、色ムラが発生して問題となる場合がある。また、2重量%を超えるとインクの粘度上昇による吐出性不良が問題となる場合がある。
【0023】
本発明の水性顔料インクは、上記で説明した本発明で規定する特定の難水溶性溶剤、アミン類、および界面活性剤の他に、顔料、水溶性溶剤、及び水を少なくとも含んでなるが、以下、これらの各成分について説明する。
【0024】
本発明の水性顔料インクに含まれる顔料としては、従来既知のものが使用できる。
本発明で使用することができるブラックの顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40mμm(nm)、BET法による比表面積が50〜400m2/g、揮発分が0.5〜10質量%、pH値が2乃至10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品としては下記のものが挙げられる。例えば、
No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学製)、RAVEN1255(コロンビア製)、REGAL330R、400R、660R、MOGULL(以上、キャボット製)、Nipex 160IQ、Nipex 170IQ、Nipex 75、Printex 85、Printex 95、Printex 90、Printex 35、Printex U(以上、デグサ製)等があり、何れも好ましく使用することができる。
【0025】
本発明で使用することができるイエローの顔料としては、例えば、
C.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、55、74、81、83、109、113、128、150、151、155、183等が挙げられる。
本発明で使用することができるマゼンタの顔料としては、例えば、
C.I.Pigment Red5、7、12、22、23、31、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、112、122;キナクリドン固溶体、146、147、150、238、269、C.I.PigmentViolet 19等が挙げられる。
本発明で使用することができるシアンの顔料としては、例えば、
C.I.Pigment Blue1、2、3、15:3、15:4、16、22、C.I.VatBlue 4、6等が挙げられる。
【0026】
本発明で使用することができる顔料としては、上記以外の色の顔料、及び自己分散型顔料等も使用することができる。これらの顔料は、各色インクにおいて、1種または2種以上を併用して使用することができる。
本発明で使用することができる顔料の含有量としては、水性顔料インク中に、重量比で、1〜20重量%、より好ましくは2〜12重量%の範囲である。
【0027】
本発明の水性顔料インクに含まれる顔料分散樹脂としては、従来既知のものが使用できるが、一般に、(メタ)アクリル酸共重合物が使用される。これは、顔料表面に吸着した(メタ)アクリル酸共重合物がイオン化した際の電荷反発により、水性溶媒中で、顔料どうしの電荷反発が起こり、安定した顔料分散状態を保つことができるためと考えられる。
本発明の水性顔料インクに含まれる水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0028】
本発明で使用することができる水の含有量としては、インキの全重量の10〜90重量%、更に好ましくは、30〜80重量%の範囲である。
本発明の水性顔料インクに含まれる水溶性溶剤としては、従来既知のものが使用できる。
【0029】
本発明で使用することができる水溶性溶剤としては、保湿性の観点から、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオールなどが挙げられる。また、印刷本紙への濡れ性の観点から、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。これらの水溶性溶剤は、各色インクにおいて、1種または2種以上を併用して使用することができる。
本発明で使用することができる水溶性有機溶剤の含有量は、一般的には、インクの全重量の3〜60重量%の範囲であり、より好ましくは3〜50重量%の範囲である。
【0030】
さらに、本発明のインクは、水分散性樹脂微粒子を含有することが好ましい。水分散性樹脂微粒子を含有することで、粘度はあまり上昇させずに、印字した塗膜の耐性を向上させることができる。これにより、耐水性、耐溶剤性、耐擦過性などが向上する。水溶性の樹脂を添加しても、ある程度耐性の向上は期待できるが、粘度が上昇してしまう傾向にある。インクジェットインクの場合、ノズルからインクを吐出できる粘度にはある範囲があり、あまり粘度が高いとインクを吐出することができなくなることがあるため、粘度の上昇を抑えることは重要である。
【0031】
上記したような水分散性樹脂微粒子のインク中における含有量は、固形分で、インクの全重量の2〜20質量%の範囲であり、より好ましくは、3〜15質量%の範囲である。
さらに、本発明のインクは、水分散性ワックスを含有することが好ましい。水分散性ワックスを含有することで、粘度はあまり上昇させずに、印字した塗膜の耐性を向上させることができる。これにより、耐擦過性が向上する。
【0032】
本発明で使用することができる水分散性ワックスとしては、例えば、天然ワックスおよび合成ワックスの水分散体を挙げることができる。天然ワックスとしては、石油系ワックスであるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等、あるいは植物系ワックスであるカルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ロウ等、さらにまた動物植物系ワックスであるラノリン、みつろう等を挙げることができる。また合成ワックスとしては、合成炭化水素系ワックスであるポリエチレンワックス、
フィッシャー・トロブシュワックス等、あるいは変性ワックス系であるパラフィンワックス誘導体、モンタンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等を挙げることができる。これらの水分散性ワックスは、各色インクにおいて、1種または2種以上を併用して使用することができる。水分散性ワックスの市販品としては、例えば、株式会社岐阜セラツク製造所製AF−41、AG−73(HDPE)、A−514(LDPE)、A−329、A−206(マイクロクリスタリン)、AD−62(パラフィン)、X−8512(ラノリン)、XA−35(アマイド樹脂)、AF−20(蜜蝋)、XD−075(カルナバ)、ビックケミー・ジャパン株式会社製AQUACER531(HDPE)が挙げられる。
上記したような水分散性ワックスのインク中における含有量は、固形分で、インクの全重量の0.2〜5重量%の範囲であり、より好ましくは、0.3〜2重量%の範囲である。
【0033】
また、本発明のインクは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、表面調整剤、消泡剤、防腐剤等の添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、インクの全重量に対して、0.05〜10重量%の範囲であり、好ましくは0.2〜5質量%の範囲である。
上記したような成分からなる本発明のインクの作製方法としては、下記のような方法が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。先ず初めに、顔料分散樹脂と、水とが少なくとも混合された水性媒体に顔料を添加し、混合撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の顔料分散液を得る。次に、必要に応じてこの顔料分散液に、水溶性溶剤、或いは、上記で挙げたような適宜に選択された添加剤成分を加え、撹拌、必要に応じて濾過して本発明のインクとする。
【0034】
本発明のインクの作製方法においては、上記で述べたように、インクの調製に分散処理を行って得られる顔料分散液を使用するが、顔料分散液の調製の際に行う分散処理の前に、プレミキシングを行うのが効果的である。即ち、プレミキシングは、少なくとも顔料分散樹脂と水とが混合された水性媒体に顔料を加えて行えばよい。このようなプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進することができるため、好ましい。
【0035】
上記した顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザー等が挙げられる。その中でも、ビーズミルが好ましく使用される。このようなものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
さらに、上記した顔料のプレミキシング及び分散処理において、顔料分散樹脂は水のみに溶解もしくは分散した場合であっても、水溶性溶剤と水の混合溶媒に溶解もしくは分散した場合であっても良い。
【0036】
本発明のインクは、インクジェット記録用であるので、顔料としては、最適な粒度分布を有するものを用いることが好ましい。即ち、顔料粒子を含有するインクをインクジェット記録方法に好適に使用できるようにするためには、ノズルの耐目詰り性等の要請から、最適な粒度分布を有する顔料を用いることが好ましい。所望の粒度分布を有する顔料を得る方法としては、下記の方法が挙げられる。先に挙げたような分散機の粉砕メディアのサイズを小さくすること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、処理時間を長くすること、粉砕後フィルタや遠心分離機等で分級すること、及びこれらの手法の組み合わせ等の手法がある。
【0037】
以上説明した本発明の水性顔料インクを印刷する印刷本紙は、公知のものが使用可能である。例えば、上質紙、コート紙、アート紙、キャスト紙、又は、合成紙などを使用することができる。前記基材の表面が滑らかな表面であっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。
又、これらの基材の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。更に印字面の反対側に剥離粘着層等を設けても良く、又印字後、印字面に粘着層等を設けても良い。
さらに、印刷本紙上にカルボキシル基およびまたはスルホン酸基を有する水溶性樹脂、水分散性樹脂からなるインク受容層を塗布した印刷用紙を使用することができる。これにより、白スジ、色ムラ、色間滲みの無く、印刷本紙に直接印字した場合よりも、より高品質な画像を得ることができる。これは、インク受容層のカルボキシル基およびまたはスルホン酸基が本発明の水性顔料インクに含まれる難水溶性グリコールエーテルおよびアミノアルコールとの相互作用によりインクの濡れ性に優位に働き、インクドットを広げると共に、インクの浸透を促進することができるためと考えられる。
【0038】
インク受容層は公知の方法で塗工することができ、例えば、ロールコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、ゲートロールコーター法、バーコーター法、サイズプレス法、スプレーコート法、又はグラビアコーター法、カーテンコーター法等が挙げられる。インキ受容層は、用紙の一方の面のみに設けられていてもよく、両方の面に設けられていてもよい。
又、インク受容層形成用コート剤を、インクジェットプリンターのインクカートリッジに充填し、他の色のインクと同時に、又は先んじて、インクジェット方式で印刷することもできる。
【0039】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例中、「部」は、「重量部」を、「%」は、「重量%」を、それぞれ表す。
【0040】
(顔料分散樹脂の製造例)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、トリエチレングリコールモノメチルエーテル93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、ラウリルメタクリレート35.0部、スチレン35.0部、アクリル酸30.0部、およびV−601(和光純薬製)6.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、顔料分散樹脂1の溶液を得た。顔料分散樹脂1の重量平均分子量は約16000であった。
さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部添加し中和した。これは、アクリル酸を100%中和する量である。さらに、水を200部添加し、水性化した。これを1gサンプリングして、180℃20分加熱乾燥して不揮発分を測定し、先に水性化した樹脂溶液の不揮発分が20%になるように水を加えた。これより、顔料分散樹脂1の不揮発分20%の水性化溶液を得た。
【0041】
(水分散性樹脂微粒子の製造例)
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水40部と界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)0.2部とを仕込み、別途、2−エチルヘキシルアクリレート40部、メチルメタクリレート50部、スチレン7部、ジメチルアクリルアミド2部、メタクリル酸1部、イオン交換水53部および界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)1.8部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの1%をさらに加えた。内温を60℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液10部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液20部の10%を添加し重合を開始した。反応系内を60℃で5分間保持した後、内温を60℃に保ちながらプレエマルジョンの残りと過硫酸カリウムの5%水溶液、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液の残りを1.5時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。ジエチルアミノエタノールを添加して、pHを8.5とし、さらにイオン交換水で固形分を40%に調整して水分散性樹脂微粒子1の水分散体を得た。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。
【0042】
(顔料分散体の製造例)
顔料としてPigment Yellow 74を20部、顔料分散樹脂1の水溶化液を42.9部、水37.1部をマヨネーズ瓶に仕込み、ディスパーで予備分散した後、直径0.8mmのジルコニアビーズ250部を分散メディアとして仕込み、ペイントシェイカーにて本分散を行い、顔料分散体を得た。このとき、顔料と顔料分散樹脂1の不揮発分の比率は、顔料/分散樹脂(不揮発分)=7/3となっている。
【0043】
(インクの製造例)
得られた顔料分散体を20部、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルを4部、ジメチルエタノールアミンを0.5部、アセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートとしてサーフィノール465(AirProductsandChemicals Inc.製)を1部、プロピレングリコールを30部、水を27.5部、水分散性樹脂微粒子1の水分散体を12.5部、水分散性ワックスとしてAF−41(株式会社岐阜セラツク製造所製)の30%水分散体を3.3部混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することで、インクを作製した。このとき、インク100部の中に、顔料4部、顔料分散樹脂1.7部、水分散性樹脂微粒子5部、水分散性ワックス1部が含まれている。
【0044】
(インク受容層形成用コート剤の製造例)
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水136.2部、界面活性剤としてRA−9607(日本乳化剤(株)製)の24%水溶液1.6部、及び緩衝剤として重曹0.13部を仕込み、別途、ジアリルフタレート0.5部、メタクリル酸40部、エチルアクリレート30部、ブチルアクリレート29.5部、イオン交換水80部、及び界面活性剤として前述のRA−9607の24%水溶液6.4部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの5%を更に加えた。内温を75℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液6部の10%を添加し重合を開始した。反応系内を75℃で5分間保持した後、内温を75〜80℃に保ちながらプレエマルジョンの残りと過硫酸カリウムの5%水溶液の残りを2時間かけて滴下し、更に2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%を超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。イオン交換水で固形分を30%に調整してビニル系エマルジョンを得た。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。
得られたビニル系エマルジョン100部に、精製水200部を配合し、固形分10%のインクジェットインク受容層形成用コート剤1を調製した。
【0045】
(印刷用紙の製造例)
インクジェットインク受容層形成用コート剤1を、コート紙[王子製紙(株)製、OKトップコートプラス]に、ワイヤーバーNo.2によって塗工し、60℃の熱風オーブンで2分間乾燥して、インクジェットインク受容層を積層した印刷用紙1を作製した。
【0046】
(印刷物の製造例)
インクをインクジェットプリンター(エプソン社製「PM−750C」)のカートリッジに充填して、コート紙(王子製紙製OKトップコート+、米坪104.7g/m)および印刷用紙1にパターン印字を行い、評価用印刷物を作製した。
【0047】
(実施例1〜4)
表1に記載した組成に従い、上記製造例と同様にして分散体の作製、インクの作製、評価用印刷物を作製した。
(比較例1〜5)
表2に記載した組成に従い、上記製造例と同様にして分散体の作製、インキの作製、評価用印刷物を作製した。
【0048】
表3に、インクの経時保存安定性、印刷物の白スジ・色ムラ、及び滲みの評価結果を示す。以下具体的な評価方法を説明する。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
(インクの経時保存安定性)
インクを70℃の恒温機に2週間保存、経時促進させた後、経時前後でのインクの粘度、分散粒子径、ろ過性の変化を評価した。70℃2週間保存前後の粘度、分散粒子径、の変化率が、±10%以内なら○、±10%以上±20%以内であれば△、±20%以上であれば×とした。
【0053】
(印刷物の白スジ・色ムラ)
印字率100%のベタ印刷部において、目視で、明らかに白抜け・白スジが発生しているものを×、若干白抜け・白スジが発生しているものを△、白抜け・白スジがないものを○とした。特に、白抜け・白スジがない上に、濃度ムラがなく均一なベタ印刷部が得られているものを◎とした。
【0054】
(印刷物の滲み)
印字率100%の単色ベタ印刷部を異なる色で掛け合わせた境界部において、目視で、明らかに滲みが発生しているものを×、若干滲みが発生しているものを△、滲みがないものを○とした。特に、3色重ねにおいても滲みの無い印刷部が得られているものを◎とした。