特許第5655778号(P5655778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5655778
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】有機溶媒の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 7/12 20060101AFI20141225BHJP
   C07C 9/15 20060101ALI20141225BHJP
   C07C 25/10 20060101ALI20141225BHJP
   C07C 9/21 20060101ALI20141225BHJP
   C07C 17/389 20060101ALI20141225BHJP
   C07C 17/395 20060101ALI20141225BHJP
   C07C 25/02 20060101ALI20141225BHJP
   C07C 25/22 20060101ALI20141225BHJP
   C07C 15/073 20060101ALI20141225BHJP
   C07C 15/24 20060101ALI20141225BHJP
   C07C 7/148 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   C07C7/12
   C07C9/15
   C07C25/10
   C07C9/21
   C07C17/389
   C07C17/395
   C07C25/02
   C07C25/22
   C07C15/073
   C07C15/24
   C07C7/148
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2011-513309(P2011-513309)
(86)(22)【出願日】2010年4月30日
(86)【国際出願番号】JP2010057663
(87)【国際公開番号】WO2010131585
(87)【国際公開日】20101118
【審査請求日】2013年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2009-115856(P2009-115856)
(32)【優先日】2009年5月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】和光純薬工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黒岡 正治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智博
(72)【発明者】
【氏名】牧野 悠一
【審査官】 品川 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−286869(JP,A)
【文献】 特開平04−072387(JP,A)
【文献】 特開平06−304390(JP,A)
【文献】 米国特許第03394200(US,A)
【文献】 特開昭51−010174(JP,A)
【文献】 特表2004−505936(JP,A)
【文献】 特開2001−322953(JP,A)
【文献】 特開昭59−221386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 7/12
C07C 17/38
C07C 7/148
C07C 17/395
C07C 7/00
C07C 17/389
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]若しくは[2]で表される化合物
(Rはハロゲン原子又は炭素数1〜3の低級アルキル基を表す。nは1〜5の整数を表す。)、

(Rは前記と同じ。p及びqは夫々独立して0〜4の整数を表す。但し、pとqの少なくとも一方は0ではない。)、
又は置換基を持たない飽和脂肪族炭化水素から選択される化合物に含有される不純物を、オゾンガスと接触させる第1の工程、次いでゼオライトと接触させる第2の工程により除去することを特徴とする、該化合物の精製方法。
【請求項2】
第1の工程と第2の工程のみからなる、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
一般式[1]で表される化合物がトリクロロベンゼン、クロロベンゼン又はエチルベンゼンであり、一般式[2]で表される化合物が1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレンであり、置換基を持たない飽和脂肪族炭化水素が2,2,4-トリメチルペンタン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-ノナン又はn-デカンである、請求項1又は2に記載の精製方法。
【請求項4】
一般式[1]で表される化合物が1,2,4−トリクロロベンゼンである、請求項1又は2に記載の精製方法。
【請求項5】
置換基を持たない飽和脂肪族炭化水素が2,2,4-トリメチルペンタン又はn-ヘプタンである、請求項1又は2に記載の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒の新規な精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の移動相溶媒として使用されるトリクロロベンゼン等の芳香族化合物は、その後の測定に影響を及ぼす不純物を含有しない高純度なものであることが望まれる。
【0003】
しかし、芳香族化合物中にはクロロフェノール、ジクロロフェノール等の蛍光を有する不純物を含有していることが多く、従来よりゼオライト等の吸着剤を用いて蛍光物質を取り除く処理が行われていた。しかし、この方法では大量のゼオライトを使用する必要がある。特にトリクロロベンゼンに関しては、蛍光物質の他に有害物質であるポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有している場合があり、PCBで汚染されたトリクロロベンゼンを大量のゼオライトで処理すると、PCBで汚染された大量の使用済みゼオライトが生じ、更にこの大量の使用済みゼオライトを処理する工程が必要であった。
【0004】
そのため、大量のゼオライトを使用する必要とせず、簡便且つ効果的に上記不純物を除去できるトリクロロベンゼン等の芳香族化合物の精製方法の確立が望まれている現状にあった。
【0005】
芳香族化合物から蛍光物質等の不純物を除く方法としては、蒸留法も知られている。しかし沸点の高い化合物を蒸留法で精製する場合、減圧下で蒸留を行う等の煩雑な操作が必要となる。また、構造内にベンゼン環を有する化合物を蒸留すると、該化合物により蒸留釜が汚染される可能性がある。更に、蒸留法による精製方法を実施するには特別の設備が必要であり、コストパフォーマンスの面でも問題がある。
【0006】
蒸留を行わずに芳香族化合物を含む有機溶媒中の不純物を除去する方法も、これまでにもいくつか知られている。例えば、
(1)芳香族ニトロ化合物に含まれる微量硫黄化合物をオゾン処理により酸化分解した後アルカリ水洗除去する、芳香族ニトロ化合物の精製方法(特許文献1)、
(2)ベンゼン等の芳香族化合物に含まれる微量硫黄化合物をオゾン接触により酸化分解した後、アルカリ水洗除去する、芳香族化合物中からの硫黄化合物の除去方法(特許文献2)、
がある。しかしながら、上記の方法は、いずれも原料をオゾン処理した後アルカリ水洗除去するという、液−液法による精製操作を行うため、攪拌、分液等を行うための設備が必要であり、且つ精製物の回収率も高くないという問題がある。
【0007】
また、芳香族化合物以外の有機溶媒中にも、蛍光物質や紫外線吸収を有する物質等の不純物を含有している場合があり、以下のような精製方法が知られている。
(1)プロピレン又はイソブチレンを触媒の存在下にアンモニオキシデーション反応せしめてアクリロニトリルを製造する際の副生物として得られるアセトニトリルを前処理して不純物を低減せしめた粗アセトニトリルを、更にオゾンを含むガスと接触させ、次いで塩基性物質で中和した後、蒸留するアセトニトリルの精製方法(特許文献3)
(2)プロピレン又はイソブチレンを触媒の存在下にアンモニオキシデーション反応せしめてアクリロニトリルを製造する際の副生物として得られるアセトニトリルを硫酸と接触させた後、硫酸分を分離し、次いでオゾンを含むガスと接触させた後、蒸留する、アセトニトリルの精製方法(特許文献4)、
(3)粗アセトニトリルを発生期の酸素(オゾン)と接触させ、次いで塩基性物質、吸着剤等と接触させる。次いで、オゾン処理で生成した過マンガン酸還元性物質を分離除去し、更に低沸点化合物および高沸点化合物を蒸留法や膜分離法により分離除去する、粗アセトニトリルの精製方法(特許文献5)。
等が知られている。
【0008】
しかしながら、粗アセトニトリルをオゾン処理すると、多種の副生物を生じる。そのため、上記(1)の方法は、粗アセトニトリルをオゾン、次いで塩基性物質で処理した後、更に蒸留する操作が必須である。
【0009】
上記(2)の方法も、副成した粗アセトニトリルを硫酸、次いでオゾンと接触させた後、更に蒸留する操作が必要である。
【0010】
更に、上記(3)の方法も、オゾン処理した粗アセトニトリルを塩基性物質、吸着剤等と接触させるだけでは、生成した副生物を除去することが出来ない。そのため、更に過マンガン酸還元性物質を分離除去する工程や、低沸点化合物および高沸点化合物を蒸留法や膜分離法により分離除去する工程が必要である。
【0011】
また、例えばn−ヘプタンは、現在はゼオライトF−9カラム処理の後硫酸処理し、蒸留後、さらにゼオライトF−9カラム処理して、精製を行っている。しかし、操作が煩雑である、大量の洗浄廃液が発生する、ロットにより品質が異なる、など多くの問題を抱えている。
【0012】
すなわち、従来公知のいずれの方法も、煩雑な精製工程を行わなければならず、また精製のために特別な設備等が必要であるという問題があった。
【0013】
さらに近年、灯油は、家庭用燃料電池の燃料としての用途が期待されている。しかし、市販の灯油中には硫黄化合物が微量に混入しており、これが燃料電池の触媒の性能を低下させることが知られている。そのため灯油中の硫黄化合物を効率よく除去する方法も、望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公平01-011626号公報
【特許文献2】特公平06-018791号公報
【特許文献3】特許第3104312号公報
【特許文献4】特許第3001020号公報
【特許文献5】特許第2989477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、紫外線吸収物質、蛍光物質、硫黄化合物等の不純物を含有する有機溶媒を高純度に精製でき、且つ精製に使用するゼオライト等の使用量を低減させることの出来る有機溶媒の精製方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、従来より行われている有機溶媒の精製方法の一つであるゼオライトによる処理の前に、有機溶媒をオゾンガスと接触させることにより、有機溶媒中の不純物を効率よく除去し、且つゼオライトの使用量を激減させて、高純度の有機溶媒を得ることが出来ることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0017】
すなわち、本発明は「下記一般式[1]若しくは[2]で表される化合物
(Rはハロゲン原子又は炭素数1〜3の低級アルキル基を表す。nは1〜5の整数を表す。)

(Rは前記と同じ。p及びqは夫々独立して0〜4の整数を表す。但し、pとqの少なくとも一方は0ではない。)、
又は置換基を持たない飽和脂肪族炭化水素から選択される化合物に含有される不純物を、オゾンガスと接触させる第1の工程、次いでゼオライト又は塩基性吸着剤と接触させる第2の工程により除去することを特徴とする、該化合物の精製方法。」である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の精製方法によれば、紫外線吸収物質、蛍光物質、硫黄化合物等の不純物を含有する有機溶媒を、更なる蒸留操作を必要とせずに、高純度に精製することが出来る。また、本発明の精製方法により、ゼオライトの使用量を従来の使用量より遙かに少量にすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例8に於いて得られた、模擬灯油の紫外吸収スペクトルである。
図2】実施例8に於いて得られた、模擬灯油の精製品の紫外吸収スペクトルである。
図3】実施例8に於いて得られた、模擬灯油の三次元蛍光スペクトルである。
図4】実施例8に於いて得られた、模擬灯油の精製品の三次元蛍光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の精製方法において精製の対象となるのは、第1の工程で使用するオゾンガスに反応せず、常温(0℃〜40℃のいずれかの温度)で液体の有機溶媒である。具体的には、上記した本発明に係る一般式[1]若しくは一般式[2]で表される化合物置換基を持たない飽和脂肪族炭化水素、又は灯油である。
【0021】
本発明に係る一般式[1]又は[2]で表される化合物において、Rで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0022】
本発明に係る一般式[1]又は[2]で表される化合物において、Rで表される炭素数1〜3の低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基が挙げられる。
【0023】
本発明に係る一般式[1]で表される化合物の具体例としては、トリクロロベンゼン、
クロロベンゼン、エチルベンゼン等が挙げられる。中でもトリクロロベンゼンが好ましい。
【0024】
本発明に係る一般式[2]で表される化合物の具体例としては、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン等が挙げられる。中でも1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレンが好ましい。
【0025】
本発明に係る置換基を持たない飽和脂肪族炭化水素としては、常温(0℃〜40℃のいずれかの温度)で液体のものであれば全て挙げられ、直鎖状、分枝状、環状いずれのものでもよく、炭素数4〜20、好ましくは炭素数4〜15、より好ましくは炭素数4〜12のものが挙げられる。具体的には、例えばシクロブタン、2−メチルブタン、2,2−ジメチルプロパン(ネオペンタン)、n−ペンタンシクロペンタン、メチルシクロブタン、n−ヘキサン2−メチルペンタン、3−メチルペンタン2−エチルブタン2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタンシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、n−ヘプタン2,4−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタンシクロヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロペンタン、n−オクタン2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、2,2−ジメチルヘキサン、2,3−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,3−ジメチルヘキサン、3,4−ジメチルヘキサン、3−エチルヘキサン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン(イソオクタン)2,3,3−トリメチルペンタン、2,3,4−トリメチルペンタン、2−メチル−3−エチルペンタン、3−メチル−3−エチルペンタン、2,2,3,3−テトラメチルブタン、シクロオクタン、メチルシクロヘプタン、エチルシクロヘキサン、1,1−ジメチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、n−プロピルシクロペンタン、n−ノナン、分子式C920で示されるノナン異性体(34種)、メチルシクロオクタン、エチルシクロヘプタン、n−プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、1−エチル−3−メチルシクロヘキサン、1−エチル−2−メチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロペンタン、n−デカン、分子式C1022で示されるデカン異性体(74種)、シクロデカン、エチルシクロオクタン、n−プロピルシクロヘプタン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、1−メチル−3−(n−プロピル)シクロヘキサン、1−メチル−2−(n−プロピル)シクロヘキサン、1,3−ジエチルシクロヘキサン、1,2−ジエチルシクロヘキサン、1,2,4,5−テトラメチルシクロヘキサン、n−ペンチルシクロペンタン、n−ウンデカン、分子式C1124で示されるウンデカン異性体(158種)、メチルシクロデカン、n−ブチルシクロヘプタン、n−ペンチルシクロヘキサン、n−ドデカン、ビシクロヘキシル、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン(イソドデカン)、2−メチルウンデカン、分子式C1226で示されるドデカン異性体、n−ブチルシクロオクタン、n−ペンチルシクロヘプタン、n−ヘキシルシクロヘキサン、n−トリデカン、分子式C1328で示されるトリデカン異性体(801種)、n−ペンチルシクロオクタン、n−ヘキシルシクロヘプタン、n−ヘプチルシクロヘキサン、n−テトラデカン、分子式C1430で示されるテトラデカン異性体(1857種)、n−ペンタデカン、分子式C1532で示されるペンタデカン異性体(4346種)、n-ヘキサデカン、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナン(イソヘキサデカン)、分子式C1634で示されるヘキサデカン異性体、n−ヘプタデカン、分子式C1736で示されるヘプタデカン異性体、n−オクタデカン、分子式C1838で示されるオクタデカン異性体、n−ノナデカン、2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン、分子式C1940で示されるノナデカン異性体、n−エイコサン、分子式C2042で示されるエイコサン異性体等が挙げられる。
【0026】
なかでも2,2,4-トリメチルペンタン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカンが好ましい。特に、2,2,4-トリメチルペンタン又はn-ヘプタンが好ましい
【0027】
また、本発明に係る飽和脂肪族炭化水素の例として、灯油も挙げられる。灯油は、一般に販売されているものであればよい。
【0028】
例えば、「揮発油等の品質の確保等に関する法律」では、第二条に「この法律において「灯油」とは、炭化水素油であつて、経済産業省令で定める蒸留性状の試験方法による九十五パーセント留出温度が二百七十度を超えない範囲内で経済産業省令で定める温度以下のもの(第二項に規定する揮発油を除く。)をいう。」と定義されており、その規格は同法律施行規則第27条に「法第十七条の九第一項 の灯油の規格として経済産業省令で定めるものは、次の各号に掲げるとおりとする。 一 硫黄分が〇・〇〇八質量百分率以下であること。 二 引火点が四〇度以上であること。 三 セーボルト色がプラス二十五以上であること。」と定められているものである。
【0029】
具体的には、例えば上記した複数の飽和脂肪族炭化水素(炭素数9〜15程度のもの)の混合物を主成分とするものである。
【0030】
本発明に係る精製方法における第1の工程は、「本発明に係る一般式[1]若しくは[2]で表される化合物、置換基を持たない飽和脂肪族炭化水素又は灯油を、オゾンガスと接触させる工程」である。本工程により、例えば二重結合を有する不純物が、オゾンガスとの接触により分解され、以降の工程で分離除去し易い化合物に変換される。尚、第1の工程に付す「本発明に係る一般式[1]若しくは[2]で表される化合物、置換基を持たない飽和脂肪族炭化水素又は灯油」を、以下「本発明に係る原料」と記載する場合がある。
【0031】
第1の工程で使用するオゾンガスはオゾンの純粋ガスでよいが、オゾンガスを本発明に係る原料と接触させる際には、窒素、アルゴン、ヘリウム、炭酸ガス、空気等のガスで希釈して用いることもできる。本明細書で単に「オゾンガス」と言う場合、オゾンの純粋ガスの場合と、純粋ガスと例えば上記した如きオゾン以外のガスで希釈されたオゾンガスの両方を含む場合がある。
【0032】
オゾンガスは、空気又は酸素又は酸素含有ガスをオゾン発生器に供給することで得られる。オゾン発生器は特に限定されず、第1の工程を実施する環境に合わせて好ましい仕様のもの(大きさ等)を適宜選択して用いればよく、各種販売されている市販のオゾン発生器を適宜用いればよい。
【0033】
本発明に係る原料へのオゾンガスの供給量は、本発明に係る原料に含まれる不純物が、次の第2の工程で完全に除去できる程度の量にまで消滅するに要するオゾンガスの量以上であることが望まれる。すなわち、本発明に係る原料に含まれる不純物が続く第2の工程で完全に除去できる程度の量にまで消滅するに要するオゾンガス量の1〜5倍、好ましくは1.5〜3倍量である。
【0034】
本発明に係る原料に含まれる不純物が次の第2の工程で完全に除去できる程度の量にまで消滅したか否かは、例えば本発明に係る原料とオゾンガスとを接触させた後、オゾンガスと排出された排出ガス中のオゾン濃度を分析することによって判断することが出来る。具体的には、排出ガス中のオゾン濃度が供給するガス中のオゾン濃度の80%以上、好ましくは90%以上になった場合に、「不純物が第2の工程で完全に除去できる程度の量にまで消滅した。」と判断することができる。排出ガス中のオゾン濃度の分析は、常法であるヨウ素滴定法、紫外線吸収法、化学発光等で行えばよい。実際にはこれらの方法を利用した連続分析計等を用いて分析を行えばよい。
【0035】
また、例えば本発明に係る原料をオゾンガスと接触させながら、一定時間毎に本発明に係る原料をサンプリングし、本発明に係る原料の所定の蛍光強度又は所定波長の吸光度が所定の値以下になった場合に、「不純物が第2の工程で完全に除去できる程度の量にまで消滅した。」と判断することもできる。
【0036】
本発明に係る原料へのオゾンガスの供給量を、本発明に係る原料に対するオゾン通気量(O3として)として示した場合、本発明に係る原料により異なるが、概略当該原料1Lに対してオゾンとして0.001g〜1.0g、好ましくは0.002g〜0.20g程度、本発明に係る原料200Lに対してオゾンとして0.2g〜200g、好ましくは0.4〜40g程度である。
【0037】
オゾンガス中のオゾンの濃度は0.01〜5.0容量%(約0.2〜107.1g/Nm3:オゾンガス1m中のオゾン量(g))で、好ましくは0.05〜2.0容量%(約1.1〜42.8g/Nm3)である。オゾン濃度が低すぎると本発明に係る原料とオゾンガスとの接触に要する時間が長くなり、また、反応容器が大きくなる等の理由から効果的でない。
【0038】
オゾンガスの供給時間は、上述した如き「本発明に係る原料に含まれる不純物が、第2の工程で完全に除去できる程度の量にまで消滅する」のに要する時間以上であればよい。又は、上述した如き「本発明に係る原料の所定の蛍光強度又は所定波長の吸光度が所定の値以下になる」のに要する時間以上であればよい。
【0039】
本発明に係る原料をオゾンガスと接触させる際の温度は、−40〜80℃程度、好ましくは5〜60℃程度、より好ましくは10〜40℃程度である。温度が低すぎると反応速度が遅くなったり、微量成分が析出する等の問題があり、また、温度が高すぎると過度の反応が進行し、本発明に係る原料の収率を低下させることもあるので、室温(20℃)程度で十分である。
【0040】
本発明に係る原料とオゾンガスとを接触させる圧力は減圧、常圧、加圧のいずれでもよく、オゾンガスの供給条件等に合わせて適宜設定すればよい。
【0041】
本発明に係る原料をオゾンガスと接触させる方法としては、回分方式(バッチ式)でも連続方式(流通式)でもよい。作業の簡便さ等を考慮すると回分方式が好ましい。
【0042】
それぞれの方法を説明すると、例えば以下の通りである。
(1)回分方式(バッチ法)
例えば、適当量の本発明に係る原料の入った反応容器中へ、要すれば温度、圧力を制御しながら、所定濃度のオゾンガスを連続的に通気し、所定時間反応させればよい。また、該工程は、本発明に係る原料とオゾンガスとの接触を良くするために、攪拌装置がある反応容器で行うことが望ましい。更に、気液の接触を良くするために、オゾンガスは1ヶ所以上のノズルから本発明に係る原料中へ小さな気泡として供給すること(いわゆるバブリング)が好ましい。
【0043】
回分方式における本発明に係る原料とオゾンガスとの接触は、上記した量のオゾンガスを、1〜600分間、好ましくは、5〜300分間、更に好ましくは10〜120分間かけて供給することが好ましい。供給する時間が短すぎると、オゾンと不純物の反応が不十分であったり、ガス流速が大きいために本発明に係る原料が飛散等してロスが大きくなるという問題が起きる。また、供給する時間が長すぎると生産性の点でメリットがなく、また、過度の酸化反応が進行するという問題が起きる。
【0044】
本発明に係る原料と接触した、オゾンガス処理後の排出ガスは、適宜、活性炭等のオゾン分解層を通し、排気させればよい。
【0045】
(2)連続方式(通気式)
例えば、連続的に供給されるオゾンガスに対し、本発明に係る原料を連続的に加えて所定時間接触させた後に処理されて当該原料を連続的に系外に取り出すという方法などが挙げられる。
【0046】
尚、本明細書において、本発明に係る原料をオゾンガスと「接触させる」ことを、本発明に係る原料をオゾンガスで「処理する」と言う場合がある。
【0047】
本発明に係る精製方法における第2の工程は、第1の工程を経た本発明に係る原料(以下、「本発明に係る粗精製品」、又は単に「粗精製品」という場合がある。)を、ゼオライト又は塩基性吸着剤と接触させる工程である。該工程では、一種のゼオライト又は塩基性吸着剤を用いても良いし、複数種のゼオライト、複数種の塩基性吸着剤、又は一種又は複数のゼオライトと一種又は複数種の塩基性吸着剤を用いても良い。
【0048】
取り扱いの簡便な点で、ゼオライトを使用することがより好ましい。
【0049】
第2の工程で用いられる本発明に係るゼオライトとしては、天然ゼオライト、合成ゼオライトのいずれでもよい。例えばX型ゼオライト、A型ゼオライト、Y型ゼオライト等が挙げられる。
【0050】
ゼオライトは各種市販品があるので、それを用いれば良い。第2の工程で用いられる、市販されているゼオライトとしては、合成ゼオライトF−9(X型ゼオライト)、合成ゼオライトA−3(A型ゼオライト)、合成ゼオライトA−4(A型ゼオライト)、合成ゼオライトHS−320(Y型ゼオライト)、モレキュラーシーブス5A(A型ゼオライト)(以上、和光純薬工業(株)販売)等が挙げられる。中でも、合成ゼオライトF−9が好ましい。
【0051】
本発明に用いられるゼオライトの形状としては、粉状、粒状、顆粒状のいずれでもよく、処理する原料の量、処理規模等に合わせて適宜選択すればよい。
【0052】
第2の工程で用いられる本発明に係る塩基性吸着剤としては、陰イオン交換樹脂、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、または炭酸塩、異種金属酸化物の混合物である固体塩基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の化合物を担体に担持させた物質等が挙げられる。
【0053】
これらの塩基性吸着剤にも各種市販品があるので、それを用いれば良い。市販されている塩基性吸着剤としては、例えばアフィニティクロマトグラフィにも用いられる塩基性活性アルミナ等が挙げられる。
【0054】
本発明に係る粗精製品をゼオライト又は塩基性吸着剤と接触させる方法としては、回分方式(バッチ式)でも連続方式(流通式)でもよい。工業的に行うには連続方式で行うことが好ましい。
【0055】
それぞれの方法を説明すると、例えば以下の通りである。
(1)回分方式(バッチ法)
第1の工程で得られた粗精製品を、本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤と混合させ、振盪処理する。この操作により粗精製品中の不純物のみがゼオライト又は塩基性性吸着剤に吸着される。次いで、得られた精製品とゼオライト又は塩基性吸着剤とを分離すれば、精製品から不純物のみが除去され、精製品を得ることができる。また、精製品とゼオライト又は吸着剤とを分離するには、例えば濾過、デカント等の適当な方法を用いればよい。
【0056】
回分方式においては、一種のゼオライト又は塩基性吸着剤で粗精製品を処理しても良いし、複数種のゼオライトの混合物、複数種の塩基性吸着剤の混合物、又は一種又は複数のゼオライトと一種又は複数種の塩基性吸着剤の混合物で処理しても良い。
【0057】
回分方式の場合の本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤の量は、多いほど粗精製品中の不純物を十分に除くことができるが、あまり多くても無駄であり、経済的でない。そのため、経済的な量を考慮すると、例えば、本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤と粗精製品との使用量比は、1:5〜1:10000、好ましくは1:10〜1:1000程度であればよい。尚、該比率は、重量比(W/W)、容量比(V/V)、容量/重量比(V/W)のいずれでも良い。例えば、原料200Lに対し、ゼオライト使用量は1〜5Kgでよい。
【0058】
また、粗精製品と本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤とを接触させる時間は、粗精製品中の不純物が該ゼオライト又は塩基性吸着剤に吸着されるのに十分な時間であれば良く、例えば0.1〜1000分、好ましくは1〜300分である。
【0059】
(2)連続方式(流通式)
本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤を充填したカラム(充填塔)に、第1の工程で得られた粗精製品を負荷(apply)する手段(カラム法)等が挙げられる。また、カラム法に於いては、一般の液体クロマトグラフィー法で十分である。この方法は、一度に大量の試料を処理できる点で、工業上有利である。
【0060】
連続方式において、一種のゼオライト又は塩基性吸着剤を充填したカラムを用いても良いし、複数種のゼオライトを積層したカラム、複数種の塩基性吸着剤を積層したカラム、又は一種又は複数のゼオライトと一種又は複数種の塩基性吸着剤を積層したカラムのいずれも用いることが出来る。
【0061】
カラム法は、例えば下記のように行えばよい。
【0062】
まず第1の工程で得られた粗精製品を、本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤を充填したカラム(充填塔)に通液する。この操作により、粗精製品中の紫外線吸収物質、蛍光物質、硫黄化合物等の不純物、若しくはその酸化物のみがゼオライト又は充填剤に吸着される。そして、不純物を含まない精製品がカラムから溶出してくる。この溶出液を回収すればよい。
【0063】
使用するカラムの大きさは特に限定されず、処理する粗精製品の量に合わせて、適宜選択すればよい。ダイオキシン類分析用試料やPCB類分析用試料のクリーンアップ処理に通常用いられているカラムを用いれば良い。例えば、内径(φ)5〜1000mm、好ましくは10〜600mm、長さ30〜5000mm、好ましくは100〜3000mmのカラムが挙げられる。
【0064】
本発明の精製方法に用いられる充填塔は、本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤を湿式または乾式充填法等の常法に従って、カラムに充填することにより得られる。
【0065】
カラムに充填させる本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤の量は、バッチ処理を行う場合と同様で、本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤と本発明に係る粗精製品との使用量比として、1:5〜1:10000、好ましくは1:10〜1:1000程度であればよい。尚、該比率は、重量比(W/W)、容量比(V/V)、容量/重量比(V/W)のいずれでも良い。例えば、原料200Lに対し、ゼオライト使用量は1〜5Kgでよい。
【0066】
溶出液の流速は、空間速度(space velocity, SV)として0.01〜1000(H−1)[SV=1(H−1):吸着剤1Lで1時間に溶媒1Lを処理する速度。]、好ましくは0.1〜100(H−1)の範囲から適宜選択されるが、特にこれに限定されない。
【0067】
本発明の第2の工程における粗精製品を本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤と接触させる際の温度は、−40〜80℃、好ましくは5〜60℃、更に好ましくは10〜40℃である。
【0068】
尚、本明細書において、本発明に係る粗精製品を本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤と「接触させる」ことを、本発明に係る粗精製品を本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤で「処理する」と言う場合がある。
【0069】
第2の工程で得られた溶出物は、本発明に係る原料の精製品であり、更に蒸留等の処理を必要としない。
【0070】
例えば1,2,4-トリクロロベンゼンの原料は蛍光試験によると励起波長365nmにおける蛍光強度が高く、液体クロマトグラフィ用の移動相として使用するには不適であるため、従来より原料をゼオライト処理して精製していた。この従来法では、原料200Lに対し約40〜50kgもの大量のゼオライトを使用する必要があった。また、1,2,4-トリクロロベンゼンには、0.1〜0.5ppm程度のPCBが混入している場合があり、問題となっている。そのため、1,2,4-トリクロロベンゼンをゼオライトを用いる従来の精製方法で精製処理した場合、ゼオライトがPCBに汚染されてしまい、精製に使用した大量のゼオライトを別途PCB廃棄物として処理する必要が生じていた。
【0071】
本発明の精製方法に寄れば、ゼオライト処理の前にオゾンガスを原料に接触させることによって、その後のゼオライト処理に要するゼオライトの量をはるかに少量にすることができるようになった。また、本発明の精製方法は、本発明に係る原料を実質的にオゾンガスによる処理、及び本発明に係るゼオライト又は塩基性吸着剤による処理に付すだけで良く、蒸留等の精製処理を別途行う必要はない。本発明の精製方法のみで液体クロマトグラフィー用移動相としての使用に適した精製品を得ることが出来る。
【0072】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何等制限されるものではない。
【実施例】
【0073】
実験例1.吸着剤を用いた1,2,4−トリクロロベンゼンの精製
原料として1,2,4−トリクロロベンゼンを用い、該原料をバッチ処理によって各種吸着剤と接触させ、各吸着剤による、1,2,4−トリクロロベンゼンからの蛍光物質の除去効果を検討した。
【0074】
(1)原料 1,2,4−トリクロロベンゼン(工業用原料)
【0075】
(2)吸着剤
・合成ゼオライト F−9(和光純薬工業(株)販売)
・活性炭(顆粒状)(和光特級、和光純薬工業(株)製)
・活性炭(カラムクロマトグラフ用、和光純薬工業(株)製)
・ワコーゲルC−200(カラムクロマトグラフ用、和光純薬工業(株)製)
・活性アルミナ(カラムクロマトグラフ用、和光純薬工業(株)製)
・モレキュラーシーブス5A(和光純薬工業(株)販売)
【0076】
(3)吸着剤による処理
原料50mLを100mL三角フラスコに入れ、上記(2)の何れかの吸着剤1gを添加し、5時間攪拌した。その後処理液をメンブレンフィルター(0.45μm)で濾過した。
【0077】
(4)測定
蛍光分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製F−4500)を用い、上記(3)で得られた濾液の励起波長365nm、蛍光波長450〜700nmにおける蛍光強度を測定した。
【0078】
(5)結果
得られた結果を下記表1に示す。表1の数値は、各吸着剤を用いて処理した原料の、励起波長365nm、蛍光波長450〜700nmにおける蛍光強度を硫酸キニーネ換算した値(10μg/Lの硫酸キニーネ溶液(0.1N硫酸酸性)の励起波長365nm/蛍光波長450nm付近の蛍光強度ピークの値を10 Q.S.U(Quinine sulfate unit)として相対強度(Relative fluorescence intensity: R.F.I.)に換算した値)である。
【0079】
【表1】
【0080】
表1から明らかな如く、吸着剤で処理する前の原料には蛍光物質が存在し、その蛍光強度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用として求められる蛍光物質の規格値よりも高い値であった。
【0081】
原料を各種吸着剤で処理したところ、原料を合成ゼオライトF−9を用いて処理した場合に、最も蛍光物質量が減少しているが、このような処理品もHPLC用規格品としては不十分であった。尚、処理前と比較して、いずれの蛍光波長でも蛍光強度が低くなったことを考慮すると、合成ゼオライトF−9は、1,2,4-トリクロロベンゼンから蛍光物質を除去する効果が高いことが判る。
【0082】
実施例1.
実験例1で蛍光物質の除去効果が高いことが確認された合成ゼオライト F−9を用いた処理方法にオゾンガス処理を加えた精製方法を検討した。
【0083】
(1)原料:1,2,4−トリクロロベンゼン(工業用原料)
【0084】
(2)オゾンガスによる処理
1)オゾン発生装置
実験用オゾン発生装置 コフロックPZ-1A (コフロック(株)製)
2)処理方法
原料100mLを、オゾン発生装置に接続したオゾンガス通気管と排出ガス排気管を設置した200mL容ガラス容器に入れ、オゾン発生装置を用い、原料攪拌下、下記の条件で原料にオゾンガスをバブリングした。
【0085】
オゾン通気条件(常圧)
オゾンガス発生量:0.3g/hr
ガス流量:1L/min
処理温度:20℃
処理時間:10min(オゾン通気量0.05g/100mL原料)
【0086】
以上の通気条件における、通気させる際のオゾンガス中のオゾン濃度は約0.2335 vol%(約5g/Nm3)である。
オゾンガス処理後の粗精製品を、一部サンプリングした。
【0087】
(3)吸着剤による処理
φ2cmガラスカラムに10gの合成ゼオライト F−9を充填したカラムに、オゾンガス処理した粗精製品をアプライし、処理速度1.2mL/min(空間速度SV=5.0(H−1))で、通液した。初流を5mLカット後、溶出液を回収した。
【0088】
(4)測定
回収した溶出液、及びサンプリングしたオゾンガス処理後の粗精製品について、実験例1(4)と同じ装置及び方法で、励起波長365nm、蛍光波長450〜700nmにおける蛍光強度を測定した。
【0089】
また、分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製U−3310)を用いて波長200〜400nmにおける紫外線の吸光度も測定した。尚、紫外線の吸光度測定値は、JIS K 0115に従い、石英ガラス製吸収セル10mmを用い、それぞれの波長における吸光度を蒸留水を対照液として測定した値である。
【0090】
別に、オゾンガス処理せずに、上記ゼオライト処理のみを行って得られた溶出液についても、同様に蛍光強度を測定した。
【0091】
(5)結果
得られた結果を表2に示す。表2において、380〜400nmにおける吸光度は、380〜400nmでの吸光度の最大値を示す。また、蛍光強度は、各蛍光波長における蛍光強度の最大値を、硫酸キニーネ換算値で示す。
【0092】
【表2】
【0093】
表2から明らかな如く、吸着剤処理のみよりも、吸着剤処理前に原料をオゾンガスで処理することにより、更に蛍光物質の除去効果が向上することがわかる。
【0094】
実施例2
オゾンガス処理と吸着剤処理の最適条件の検討を行った。
(1)原料:1,2,4−トリクロロベンゼン(工業用原料)
【0095】
(2)オゾンガスによる処理
1)オゾン発生装置 実施例1で使用したものと同じ。
2)処理方法
原料650mLを、オゾン発生装置に接続したオゾンガス通気管と排出ガス排気管を設置した1L容ガラス容器に入れ、オゾン発生装置を用い、原料を攪拌下に、下記表3に記載の各条件(常圧)で、原料にオゾンガスをバブリングした。
【0096】
尚、表3で「オゾン通気量(g/1L換算)」とは、各実験で原料650mLに通気したオゾンの量(O3として)を、原料1Lに対するオゾン(O3として)の通気量として換算した値を示し、「オゾン通気量(g/200L換算)」とは、原料200Lに対するオゾン(O3として)の通気量として換算した値を示す。
【0097】
【表3】
【0098】
オゾンガス処理後の粗精製品を、一部サンプリングした。
【0099】
(3)吸着剤による処理
φ2cmガラスカラムに10gの合成ゼオライト F−9を充填したカラムに、オゾンガス処理した粗精製品の各全量をアプライし、処理速度1.2mL/min(SV=5.0(H−1))で、通液した。初流を5mLカット後、溶出液を200mL×2フラクション分取し、次いで第3フラクションのみ230mL分取した。
【0100】
(4)測定
回収した各フラクションの溶出液、及びサンプリングしたオゾンガス処理後の粗精製品について、実験例1(4)と同じ装置及び方法で、励起波長365nm、蛍光波長450〜700nmにおける蛍光強度を測定した。また、分光光度計を用いて、波長350nmにおける紫外線の吸光度を測定した。
【0101】
(5)結果
結果を表4に示す。表4において、蛍光強度は、上記測定条件における蛍光強度の最大値を、硫酸キニーネ換算値で示す。尚、実験No.1〜5のいずれの場合も、蛍光強度の最大値は、蛍光波長450〜490nmのところに出現した。また、実験No.1〜5のいずれの場合も、蛍光波長500〜700nmの範囲では、蛍光強度はすべて3未満であった。
【0102】
【表4】
【0103】
また、吸光度の測定結果を表5に示す。表5において、吸光度がHPLCの規格に適合していた場合(350nmの紫外線の吸光度が0.05以下の場合)を「○」適合していなかった場合を「×」で示す。
【0104】
【表5】
【0105】
表4及び表5の結果から明らかな如く、実験No.1〜3の条件で原料をオゾンガス処理後、吸着剤処理することにより、蛍光強度及び吸光度のいずれもがHPLCの規格品に適合する精製品が取得できたことが判る。
【0106】
また、実施例2のゼオライト処理では、ゼオライトカラムから流出した流出液を3回に分けてサンプリングしているが、1回目のサンプリング液200mLは、ゼオライト10gで処理しているので、実生産規模である原料200L相当を処理した場合に換算すると、原料200Lをゼオライト約10kgで処理した場合に相当する。同様に2回目のサンプリング液は原料400mLをゼオライト10gで処理した場合に相当し、実生産規模に換算すると原料200Lをゼオライト約5kgで処理した場合に相当する。3回目のサンプリング液は原料630mLをゼオライト10gで処理した場合に相当し、実生産規模に換算すると原料200Lをゼオライト約3kgで処理した場合に相当する。そこで、表4及び表5の実験No.1〜3の蛍光強度及び吸光度の測定結果を、オゾン通気量(g/200L換算)と比較してみると、200Lの原料をオゾン量1〜3g/200L程度で処理すれば、その後のゼオライト処理時には、ゼオライト使用量が約3kg/200L(原料)で、精製が可能になることが判る。現在のゼオライト使用量は40〜50kg/200L(原料)であることと比較すると、本発明の方法により原料をオゾンガス処理した後ゼオライト処理することにより、使用するゼオライトの量を大幅に削減出来ることが示唆された。
【0107】
尚、オゾンガスを過剰に通気すると、原料が着色してしまい、ゼオライト処理しても吸光度、蛍光強度ともに改善されなかった。
【0108】
実施例3.
実製造規模で、本発明に係る精製方法を実施した。
(1)原料:1,2,4−トリクロロベンゼン(工業用原料)
【0109】
(2)オゾンガスによる処理
1)オゾン発生装置 実施例1で使用したものと同じ。
2)処理方法
原料200Lを、オゾン発生装置に接続したオゾンガス通気ノズルと排出ガス排気管を設置したドラムに入れた。原料を攪拌下に、下記の条件で、ドラム内底部に設置したオゾンガス通気ノズルより、オゾンガスを細かい気泡で、原料にバブリングした。
【0110】
オゾン通気条件(常圧)
オゾンガス発生量:1g/hr
ガス流量:約2L/min
処理温度:20℃
以上の通気条件における、通気させる際のオゾンガス中のオゾン濃度は約0.38761 vol%(約8.3g/Nm3)である。
【0111】
30分毎にオゾン通気を止め、原料をサンプリングし、実験例1(4)と同じ装置及び方法で、励起波長365nm、蛍光波長450〜700nmにおける蛍光強度を測定した。蛍光強度が10(硫酸キニーネ換算)以下になった時点で、バブリングを終了した。
【0112】
オゾンガス処理後の粗精製品を、一部サンプリングした。
【0113】
(3)吸着剤による処理
φ30cmガラスカラムに5kgの合成ゼオライト F−9を充填したカラムに、オゾンガス処理した粗精製品の各全量をアプライし、処理速度33L/hr(SV=4.6(H−1))で、通液した。初流を3Lカット後、溶出液を回収した。
【0114】
(4)測定
回収した溶出液、及びサンプリングしたオゾンガス処理後の粗精製品について、実験例1(4)と同じ装置及び方法で、励起波長254nm、蛍光波長450〜700nm、及び励起波長365nm、蛍光波長450〜700nmにおける蛍光強度を測定した。また、分光光度計を用いて波長200〜400nmにおける紫外線の吸光度も測定した。
【0115】
(5)結果
結果を下記表6に示す。表6において、380〜400nmにおける吸光度は、380〜400nmでの吸光度の最大値を示す。また、蛍光強度は、上記測定条件における蛍光強度の最大値を、硫酸キニーネ換算値で示す。
【0116】
尚、蛍光強度の最大値は蛍光波長450〜490nmのところに出現した。また、蛍光波長500〜700nmの範囲では、蛍光強度は全て3未満であった。
【0117】
【表6】
【0118】
表6の結果から明らかな如く、原料をオゾンガス処理後、ゼオライト処理することにより、蒸留等の更なる精製処理を行わなくても、HPLC用移動相としての使用に適した精製品を取得することができることが判る。また、オゾンガス処理を行わずにゼオライト処理する従来の方法では原料約200Lに対して約40〜50kgのゼオライトを使用していた。これに対して本発明に係る精製方法では、従来より遙かに少量のゼオライト使用量(約5kg程度)で、精製処理を行えることが判る。
【0119】
実施例4.
(1)原料:2,2,4−トリメチルペンタン(工業用原料)
【0120】
(2)オゾンガスによる処理
1)オゾン発生装置 実施例1で使用したものと同じ。
2)処理方法
原料400mLを、オゾン発生装置に接続したオゾンガス通気管と排出ガス排気管を設置した1L容ガラス容器に入れ、原料を攪拌下に、下記の条件で、オゾンガスを原料にバブリングした。
【0121】
オゾン通気条件(常圧)
オゾンガス発生量:0.4g/hr
ガス流量:約1L/min
処理温度:約20℃(室温)
処理時間:(a)1分間
(b)3分間
(c)5分間
以上の通気条件における、通気させる際のオゾンガス中のオゾン濃度は約0.31289 vol%(約6.7g/Nm3)である。
【0122】
尚、(a)のオゾンガス処理時間が1分の条件下でのオゾン総通気量は、0.4g×(1/60分)=0.007g/原料400mL(=0.017g/L原料)である。同様に、(b)のオゾンガス処理時間が3分の条件下でのオゾン総通気量は、0.4g×(3/60分)=0.02g/原料400mL(=0.05g/L原料)である。(c)のオゾンガス処理時間が5分の条件下でのオゾン総通気量は、0.4g×(5/60分)=0.033g/原料400mL(=0.083g/L原料)である。
【0123】
各処理時間オゾンガス処理した粗精製品の一部をサンプリングした。
【0124】
(3)吸着剤による処理
φ2cmガラスカラムに10gの合成ゼオライト F−9を充填したカラムに、オゾンガス処理した粗精製品350mLをアプライし、処理速度1mL/min(SV=4.2(H−1))で、通液した。初流を10mLカット後、溶出液を回収した。
【0125】
(4)測定
回収した溶出液、及びサンプリングしたオゾンガス処理後の粗精製品について、実験例1(4)で使用したと同じ装置及び方法で、励起波長254nm、蛍光波長450〜700nm、及び励起波長365nm、蛍光波長450〜700nmにおける蛍光強度を測定した。また、分光光度計を用いて波長200〜400nmにおける紫外線の吸光度も測定した。
【0126】
(5)結果
結果を下記表7に示す。表7において、254〜400nmにおける吸光度は、254〜400nmでの吸光度の最大値を示す。また、蛍光強度は、上記測定条件における蛍光強度の最大値を、硫酸キニーネ換算値で示す。
【0127】
【表7】
【0128】
表7の結果から明らかな如く、本発明の精製方法を実施することにより、HPLC用移動相としての使用に適した2,2,4−トリメチルペンタンを得ることが出来ることがわかる。
【0129】
実施例5.
(1)原料:1,2,4−トリクロロベンゼン(工業用原料)
【0130】
(2)オゾンガスによる処理
1)オゾン発生装置 実施例1で使用したものと同じ。
2)処理方法
原料650mLを、オゾン発生装置に接続したオゾンガス通気管と排出ガス排気管を設置した1L容ガラス容器に入れ、オゾン発生装置を用い、原料を攪拌下に、下記の条件で原料にオゾンガスをバブリングした。
【0131】
オゾン通気条件(常圧)
オゾンガス発生量:0.3g/hr
ガス流量:1L/min
処理温度:20℃
処理時間:2min(オゾン通気量0.01g/650mL原料)
【0132】
以上の通気条件における、通気させる際のオゾンガス中のオゾン濃度は約0.2335 vol%(約5g/Nm3)である。
オゾンガス処理後の粗精製品を、一部サンプリングした。
【0133】
(3)吸着剤による処理
1)吸着剤
・合成ゼオライト F−9(和光純薬工業(株)販売)
・合成ゼオライトHS−320(Y型ゼオライト、和光純薬工業(株)製)
・塩基性活性アルミナ(カラムクロマトグラフ用、和光純薬工業(株)製)
2)処理方法
φ2cmガラスカラムに上記1)の何れかの吸着剤10gを充填したカラムに、オゾンガス処理した粗精製品の200mLをアプライし、処理速度1.2mL/min(空間速度SV=5.0(H−1))で、通液した。初流を5mLカット後、溶出液を回収した。
【0134】
(4)測定
回収した溶出液、及びサンプリングしたオゾンガス処理後の粗精製品について、実験例1(4)と同じ装置及び方法で、励起波長365nm、蛍光波長450〜700nmにおける蛍光強度を測定した。また、分光光度計を用いて波長200〜400nmにおける紫外線の吸光度も測定した。
【0135】
(5)結果
得られた結果を表8に示す。表8において、380〜400nmにおける吸光度は、380〜400nmでの吸光度の最大値を示す。また、蛍光強度は、各蛍光波長における蛍光強度の最大値を、硫酸キニーネ換算値で示す。
【0136】
【表8】
【0137】
表8の結果から明らかな如く、本発明の精製方法を実施することにより、Y型ゼオライト(合成ゼオライト HS-320)や塩基性吸着剤(塩基性活性アルミナ)を吸着剤として用いた場合でも、原料の吸光度及び蛍光強度が低減された。また、原料の吸光度及び蛍光強度が、HPLC用移動相としての使用に適した程度まで精製することが出来た。
【0138】
特に、合成ゼオライトF−9を吸着剤として用いた場合に、最も原料の精製効果が高いことが判る。
【0139】
実施例6.
(1)原料:n−ヘプタン(工業用原料)
【0140】
(2)オゾンガスによる処理
1)オゾン発生装置 実施例1で使用したものと同じ。
2)処理方法
原料200mLを、オゾン発生装置に接続したオゾンガス通気管と排出ガス排気管を設置した1L容ガラス容器に入れ、オゾン発生装置を用い、原料攪拌下、下記の条件で原料にオゾンガスをバブリングした。
【0141】
オゾン通気条件(常圧)
オゾンガス発生量:0.3g/hr
ガス流量:1L/min
処理温度:20℃
処理時間:2min(オゾン通気量0.01g/200mL原料)
以上の通気条件における通気させる際のオゾンガス中のオゾン濃度は約0.2335 vol%(約5g/Nm3)である。
オゾンガス処理後の粗精製品を、一部サンプリングした。
【0142】
(3)吸着剤による処理
1)吸着剤
・合成ゼオライト F−9(和光純薬工業(株)販売)
・塩基性活性アルミナ(カラムクロマトグラフ用、和光純薬工業(株)製)
2)処理方法
φ2cmガラスカラムに上記1)の何れかの吸着剤10gを充填したカラムに、オゾンガス処理した粗精製品の200mLをアプライし、処理速度1.2mL/min(空間速度SV=5.0(H−1))で、通液した。初流を5mLカット後、溶出液を回収した。
【0143】
(4)測定
回収した溶出液、及びサンプリングしたオゾンガス処理後の粗精製品について、実験例1(4)と同じ装置及び方法で、励起波長254nm、蛍光波長450〜700nm、及び励起波長365nm、蛍光波長450〜700nmにおける蛍光強度を測定した。また、分光光度計を用いて波長200〜400nmにおける紫外線の吸光度も測定した。
【0144】
(5)結果
得られた結果を表9に示す。表9において、254〜400nmにおける吸光度は、254〜400nmでの吸光度の最大値を示す。また、蛍光強度は、上記測定条件における蛍光強度の最大値を、硫酸キニーネ換算値で示す。
【0145】
【表9】
【0146】
表9の結果から、吸着剤(合成ゼオライトF−9)を用いた処理のみでは、吸光度の低減はわずかであり、HPLC用移動相としての使用に適した品質にまで精製することが出来なかった。これに対し、オゾンガス処理後、吸着剤処理することにより、吸光度が顕著に低減され、HPLC用移動相として使用可能な、高精製品を取得できることが判った。
【0147】
また、Y型ゼオライト(合成ゼオライト HS-320)や塩基性吸着剤(塩基性活性アルミナ)を吸着剤として用いた場合でも、吸光度及び蛍光強度が低減でき、蛍光物質の除去効果が得られたことが判る。
【0148】
特に、合成ゼオライトF−9を吸着剤として用いた場合に、最も精製効果が高いことが判る。
【0149】
実施例7.
(1)原料:2,2,4−トリメチルペンタン(工業用原料)
【0150】
(2)オゾンガスによる処理
1)オゾン発生装置 実施例1で使用したものと同じ。
2)処理方法
原料200mLを、オゾン発生装置に接続したオゾンガス通気管と排出ガス排気管を設置した1L容ガラス容器に入れ、オゾン発生装置を用い、原料攪拌下、下記の条件で原料にオゾンガスをバブリングした。
【0151】
オゾン通気条件(常圧)
オゾンガス発生量:0.3g/hr
ガス流量:1L/min
処理温度:20℃
処理時間:2min(オゾン通気量0.01g/200mL原料)
以上の通気条件における通気させる際のオゾンガス中のオゾン濃度は約0.2335 vol%(約5g/Nm3)である。
【0152】
(3)吸着剤による処理
φ2cmガラスカラムに10gの合成ゼオライト F−9を充填したカラムに、オゾンガス処理した粗精製品の200mLをアプライし、処理速度1.2mL/min(空間速度SV=5.0(H−1))で、通液した。初流を5mLカット後、溶出液を回収した。
【0153】
(4)測定
回収した溶出液について、実験例1(4)と同じ装置及び方法で、波長200〜400nmにおける紫外線の吸光度を測定した。
【0154】
別に、オゾンガス処理せずに、上記吸着剤処理のみを行って得られた溶出液についても、同様に紫外線の吸光度を測定した。
【0155】
(5)結果
得られた結果を表10に示す。表10において、254〜400nmにおける吸光度は、254〜400nmでの吸光度の最大値を示す。
【0156】
【表10】
【0157】
表10の結果から明らかな如く、2,2,4−トリメチルペンタンを精製する場合も、吸着剤(合成ゼオライトF−9)を用いた処理のみでは、吸光度の低減はわずかであり、HPLC用移動相の使用に適した精製品を得ることはできなかった。これに対し、オゾンガス処理後、吸着剤処理することにより、吸光度が顕著に低減され、HPLCに使用可能な高精製品を取得できることが判った。
【0158】
さらに、以上の実施例6及び7の結果から、本発明の精製方法は、2,2,4−トリメチルペンタンやn−ヘプタンなどの飽和炭化水素類の精製に有効であることが判る。
【0159】
実施例8.模擬灯油を用いた、本発明の精製方法の検討
灯油は、家庭用燃料電池の燃料としての利用が期待されているが、市販の灯油中に微量に混入している硫黄化合物が燃料電池の触媒の性能を低下させることが知られている。
【0160】
そのような硫黄化合物としてはジベンゾチオフェン、4,6-ジメチルベンゾチオフェン、3-メチルベンゾチオフェン等がある。
【0161】
そこで、灯油の主成分(炭素数9−15の炭化水素)の一種であるウンデカンに、上記3種類の硫黄化合物を添加した模擬灯油を調製し、本発明の精製方法でこの模擬灯油を精製した。
【0162】
(1)模擬灯油
特級n−ウンデカン(和光純薬工業(株)製)に、ジベンゾチオフェン、4,6-ジメチルベンゾチオフェン、3-メチルベンゾチオフェン(すべて和光純薬工業(株)製)を、それぞれ30mg/Lになるように添加した模擬灯油(硫黄濃度として約0.0022w/w%)を調製した。
【0163】
(2)オゾンガスによる処理
1)オゾン発生装置 実施例1で使用したものと同じ。
2)処理方法
原料200mLを、オゾン発生装置に接続したオゾンガス通気管と排出ガス排気管を設置した1L容ガラス容器に入れ、オゾン発生装置を用い、模擬灯油を攪拌下に、下記の条件で原料にオゾンガスをバブリングした。
【0164】
オゾン通気条件(常圧)
オゾンガス発生量:0.3g/hr
ガス流量:1L/min
処理温度:20℃
処理時間:4min(オゾン通気量0.02g/200mL原料)
以上の通気条件における通気させる際のオゾンガス中のオゾン濃度は約0.2335 vol%(約5g/Nm3)である。
【0165】
(3)吸着剤による処理
φ2cmガラスカラムに10gの合成ゼオライト F−9を充填したカラムに、オゾンガス処理した粗精製品の200mLをアプライし、処理速度1.2mL/min(空間速度SV=5.0(H−1))で、通液した。初流を5mLカット後、溶出液を回収した。
【0166】
(4)測定
回収した溶出液について、実験例1(4)と同じ装置及び方法で、波長200〜400nmにおける紫外線の吸光度を測定した。
【0167】
また、下記条件で、三次元蛍光スペクトルによる品質評価を行った。
【0168】
装置:蛍光分光光度計(日立ハイテクノロジーズ製F‐4500)
測定条件:
測定モード:三次元
測定励起波長:200nm〜800nm
測定蛍光波長:200nm〜800nm
スキャンスピード:2400nm/min
【0169】
(5)結果
1)吸光度測定結果
吸光度の測定結果を表11に示す。
【0170】
【表11】
【0171】
表11の結果から明らかな如く、オゾンガス処理と吸着剤処理を併用する本発明の精製方法で模擬灯油を精製すると、不純物に起因すると思われる吸光度が顕著に低減し、添加した硫黄化合物や、ウンデカン中に含まれていた不純物が除去できていることが判る。
【0172】
2)紫外吸収スペクトルによる品質評価
200〜400nmにおける紫外線吸収スペクトルを図1及び図2に示す。1は、原料の模擬灯油の紫外吸収スペクトルを示す。図2は、模擬灯油の精製品の紫外吸収スペクトルを示す。また、図1及び図2に於いて、横軸は測定波長(nm)を、縦軸は吸光度(Ab)を夫々示す。
【0173】
図1及び図2の結果から明らかな如く、本実施例で調製した模擬灯油を用いた場合は、硫黄化合物及び原料であるn−ウンデカン中の不純物に由来する紫外吸収のスペクトルが出現した(図1)。一方、本発明の方法で精製することにより、このスペクトルが消失しており(図2)、本発明の精製方法により硫黄化合物や、試薬中の紫外吸収を有する不純物が効果的に除去できたことが判る。
【0174】
3)三次元蛍光スペクトルによる品質評価
三次元蛍光スペクトルによる評価結果を図3及び図4に示す。図3は、模擬灯油の三次元蛍光スペクトルを示す。図4は、模擬灯油の精製品の三次元蛍光スペクトルを示す。また、図3及び図4に於いて、横軸は蛍光波長(EM(nm))を、縦軸は励起波長(EX(nm))を夫々示す。
【0175】
図3から明らかな如く、模擬灯油の蛍光スペクトルには、硫黄化合物及び原料のn−ウンデカンの不純物に起因すると思われる蛍光スペクトルが出現した(図3中、丸く囲んだ箇所)。これに対し、模擬灯油を本発明の精製方法で精製することにより、このスペクトルが何れも消失していた(図4)。このことから、本発明の精製方法により、硫黄化合物や、原料のn−ウンデカン中の蛍光を有する不純物が効果的に除去できたことが判る。
【0176】
以上のことから、本発明の精製方法は、灯油中の硫黄化合物の除去に非常に有効であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明の精製方法は、ゼオライトの使用量を従来より遙かに少量に出来るので、例えばPCB汚染された1,2,4−トリクロロベンゼンを本発明の精製方法により処理すれば、精製により生じるPCB汚染されたゼオライトの量を激減させることが出来る。また、本発明の精製方法により得られた精製物は、更に蒸留等の処理をする必要がないので、従来よりも簡便に、且つ高純度の精製品を得ることが出来る。
図1
図2
図3
図4