(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記強磁性体のヨークの内側に取り付けられていて、前記曲がった経路に近接して伸びており、かつ前記曲がった経路に沿う位置において整形磁界を発生させるように励磁され、それによって前記偏向磁界によってもたらされる前記リボン状イオンビームの断面形状の歪みを減少させる働きをする複数のトリムコイルを更に備えている、請求項1記載のイオンビーム偏向マグネット。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明を実施するイオンビーム偏向マグネットは、イオン注入の分野において、特に、フラットパネルディスプレイ装置の製造のための比較的大きいフラットパネルへのイオン注入の分野において用いても良い。
図1は、この発明を実施するイオンビーム偏向マグネットを組み込んでいるイオン注入装置の主要な構成要素の幾つかを示す概略図である。
【0020】
図1において、注入されるべきイオンがイオン源10から引き出され、イオンビーム11を形成し、それがイオンビーム偏向マグネット13の入口12に入る。イオン注入の分野における当業者は、イオン源10に適している種々のイオン源に精通しているはずである。この分野に用いる典型的なイオン源においては、イオン注入に必要とする原子または分子のイオン種を含む原料がイオン源チャンバーに導入される。当該チャンバーに、例えば電気放電によってエネルギーが付与され、所望のイオン種を含むプラズマが当該チャンバー内に形成される。イオン流が、前記チャンバーの前面板の開口を通して、適度にバイアスされた引出し電極によって作られる電界によって、引き出される。引き出されたイオンは、
図1中のイオンビーム11を形成する。イオン源中のプラズマを形成するためには、電気放電の代わりに、マイクロ波エネルギーのような他のエネルギー源を用いても良い。
【0021】
図1において、イオンビーム偏向マグネット13は、質量分析マグネットを構成している。通常、入口12において偏向マグネット13に入るイオンビーム11中のイオンは、所定のエネルギーを有しており、それはイオン源10内のプラズマと偏向マグネット構造との間の電位差に対応している。偏向マグネット13は、イオンビーム11のための当該偏向マグネットを貫いている曲がった経路を定めるビーム通路14を有しており、それはビーム入口12からビーム出口15へと伸びている。ビーム通路14によって定められる曲がった経路は、イオンビーム偏向面において単調に曲がっており、このイオンビーム偏向面は
図1における紙面である。ビーム通路14はまた、曲がった中心ビーム軸を定めており、それは
図11中に鎖線16で示されている。
【0022】
このイオンビーム偏向マグネット13は、その磁界の方向が偏向面に垂直に向けられていて、ビーム通路14の全域に実質的に均一な磁界を発生するように構成されている。その結果、入口12においてイオンビーム偏向マグネット13に入射するイオンビーム11中のイオンは、ビーム通路14に沿う曲がった経路に沿って進む。当該曲がった経路は、イオンビーム11中のイオンの質量対電荷比m/q(mは質量、qは電荷)に対応する曲率半径を有している。それ故に、イオン源からのイオンビーム11中のイオンであって、同じ電荷数(典型的には1)を有している複数のイオンに対して、イオンビーム偏向マグネット13は、イオンビームが出口15において偏向マグネット13を離れるときに、偏向面内において異なった質量のイオン間に空間的な分離を生じさせる効果を奏する。イオンビーム11中の上記イオンであってイオン注入に必要なイオン種に対応する質量対電荷比m/qを有しているイオンは、ビーム通路14によって定められた曲がった経路に沿って進む。当該曲がった経路は、曲がった中心ビーム軸16に実質的に平行である。
【0023】
偏向マグネット13の出口15の下流には、当該偏向マグネットから出て来る中心ビーム軸に整列させて、質量分析スリット17が配置されており、それによって、所望の質量対電荷比m/qを有するイオンのみのビームが選別され、当該スリット17を通して処理室18へと通過する。処理室18内では、イオン注入に必要なイオンから成る質量分離されたイオンビーム19が、処理されるべき基板20に向けられて当該基板20に照射される。これによって、基板20に、例えばイオン注入等の処理を施すことができる。
【0024】
図1等に示す装置は、イオンビーム偏向マグネット13を通って出て来たリボン状イオンビーム19を基板20に照射して当該基板20に処理を施す構成であるので、イオンビーム照射装置と呼ぶこともできる。基板20に施す処理の一つとしてのイオン注入に着目すれば、当該イオンビーム照射装置はイオン注入装置と呼ぶことができる。
【0025】
基板20は、例えば、ウェーハ等の半導体基板、フラットパネルディスプレイのフラットパネル、その他の基板である。
【0026】
図2は、処理室18内における基板20を、質量分離されたイオンビーム19に沿って見た図である。この
図2に示すように、イオンビーム19は、長寸法Lを有する断面形状を持っている。このリボン状イオンビーム19の長寸法Lは、偏向マグネット13の偏向面に垂直である。従って、
図1においてはイオンビーム19の短寸法のみが表されている。
【0027】
基板20の全表面に亘って注入イオンの均一なドーズ量(注入量)を実現するためには、基板20に入射するイオンビーム19が、イオンビーム断面の長寸法Lの範囲に亘って、イオンの均一な強度分布を有している必要がある。イオンビーム断面の長寸法Lは、
図2中に示されているように、注入すべき基板20の対応する寸法を完全に横切って伸びるのに十分なものとする。更に、基板20をリボンビーム19を通り抜けて矢印21の方向に前後に輸送するために、機構(
図1および
図2においては図示の簡略化のために示されていない)が処理室18内に設けられており、それによって、基板20の全面がイオンビーム19に曝される。
【0028】
この装置においては、イオンビーム11は、イオン源10から、
図1の紙面に垂直な方向に長寸法を有しているリボン状ビームとして引き出される。従って、イオンビーム偏向マグネット13は、当該偏向マグネットの偏向面に垂直な方向に長寸法を有する断面形状を持っているリボン状イオンビーム11に適応しかつそれを前記曲がった経路16に沿って曲げるように構成されている。イオンビーム偏向マグネット13のビーム通路14を通って輸送されるリボン状ビーム11の断面形状が寸法hの長寸法を有している場合、ビーム通路14は、当該長寸法に適応するために、当該偏向マグネットを入口12から出口15へ貫いている曲がったビーム経路16の長さの全域に亘って、前記偏向面に垂直な方向に十分な寸法を有していなければならない。
【0029】
偏向面内で前記曲がったビーム経路16に沿ってイオンビーム11を曲げるためには、当該偏向マグネット13を通過するリボン状イオンビーム11の長寸法hに適応するように十分に離れて配置されている磁極間に、偏向面に垂直な磁界を発生させる必要がある。当該磁界の磁束密度は、リボン状イオンビーム11の長寸法hの全域に亘って磁極間で実質的に均一でなければならず、それによって、リボンビームの長寸法の範囲に亘る全ての位置における所望のイオンは同一の偏向力を受ける。更に、曲がった経路16に沿って進行する所望のイオンから成るリボン状イオンビーム11の短寸法に適応するために、磁極間の磁束密度は、ビーム通路14に沿う全ての位置において、曲がったビーム経路16を横切る方向の十分な距離に亘って実質的に均一でなければならない。
【0030】
図3および
図4は、この発明を実施する偏向マグネットの設計および構造を示している。
図3は、イオンビーム偏向マグネット13の部分図であって、当該偏向マグネット13の曲がった中心ビーム軸16に垂直な断面を示しており、
図1中の線III −III に沿う断面を示している。
図4は、
図3に示すx、y座標の平面において切断した偏向マグネットの概略断面図であり、座標zに沿う方向に見て示している。
【0031】
図3および
図4に示すように、イオンビーム偏向マグネット13は、強磁性体のヨーク25を備えている。このヨーク25は、偏向マグネットの入口と出口の間の経路長に沿って曲がった中心ビーム軸16を有している曲がったビーム経路を囲んでいる。ヨーク25は、当該ヨーク25の内面によって定められる断面内側輪郭を有している。この断面内側輪郭は、曲がった中心ビーム軸16に垂直なそれぞれの平面において、偏向マグネット13を貫いている前記曲がった経路の経路長伝いに(即ち当該経路長に沿って実質的にその端から端まで)実質的に一様である。そのような断面内側輪郭の一つが、
図4に示されており、かつ
図3および
図4に示す直交座標(デカルト座標またはカーテシアン座標とも呼ばれる)(x,y)において画定されている。これらの座標は、原点を中心ビーム軸16に有しており、当該中心ビーム軸16は前記断面のそれぞれの平面と交差している。前記座標のx軸は、中心ビーム軸16の曲率面に対応しているイオンビーム偏向面内で伸びている。前記座標(x,y)のy軸は、当該偏向面に垂直である。
【0032】
このイオンビーム偏向マグネット13は、更に、強磁性体のヨーク25と関連づけられた電気巻線(コイル)26および27を備えている。当該電気巻線26および27は、ヨーク25内に、前記曲がった経路16を横切って偏向磁界を発生させるように配置されており、それによって、所望の質量対電荷比m/qを有するイオンから成るリボン状イオンビーム11を前記曲がった経路に沿って曲げる。これらの電気巻線26および27の設計および配置の更なる詳細事項は以下に述べる。
【0033】
図4に見られるように、この実施形態におけるヨーク25の断面内側輪郭は、x軸およびy軸に関して対称である。この断面内側輪郭は、四つの斜めの辺28、29、30および31を含む六つの辺を有している。この例において、上記斜めの辺28〜31は全てy軸に対して同一の角度θを形成している。斜めの辺28および29は、中心ビーム軸16の湾曲に対してヨークの半径方向の内側にあり、斜めの辺30および31は、ヨークの半径方向の外側にある。
図4に示す例においては、角度θは45°であり、従って斜めの辺28と29とは、および斜めの辺30と31とは、互いに直角である。
【0034】
ヨーク25の前記斜めの辺は、斜めの線と呼ぶこともできる。またこの斜めの辺が中心ビーム軸16に沿う方向に連続して連なって、斜めの面(斜めの内面)を形成している。これについては後で更に説明する。
【0035】
巻線26は、ヨーク25の、斜めの辺28および31に対応する内面に沿って伸びている導体を有している。巻線26の導体は、中心ビーム軸16に実質的に平行になるように前記内面の内側で伸びている。同様に、巻線27は、ヨーク25の斜めの辺29および30に対応する内面の内側で伸びている導体を有している。また、巻線27の導体は、中心ビーム軸16に実質的に平行に伸びている。
【0036】
巻線26および27の導体は、四つの斜めの辺28、29、30および31の各々に沿って、単位距離ごとに均一な数の前記導体を提供するように、均一に配置されている。その結果、各導体に同一の電流が流れると、斜めの辺28、29、30および31に沿って単位長ごとに均一な電流配分が得られる。
【0037】
図4に示すように、巻線26中の、斜めの辺28に沿って配置された導体中を流れる電流の方向は、斜めの辺31に沿って配置された導体中の電流方向と反対である。同様に、巻線27中の、斜めの辺29に沿う導体中の電流の方向は、斜めの辺30に沿って配置された導体中の電流方向と反対である。
図4に示す例においては、斜めの辺28および29に沿う導体中の電流の方向は紙面に入っており、斜めの辺30および31に沿う導体中の電流の方向は紙面から出ている。
【0038】
強磁性体のヨーク25の断面内側輪郭は、四つの斜めの辺28、29、30および31に加えて、頂部32および底部33を有している。当該頂部32および底部33は、x軸に平行である。即ち、頂部32および底部33は、この実施形態ではそれぞれ、辺(頂部辺および底部辺)を形成している。
図5および
図6に示す実施形態における頂部32および底部33、
図7〜
図10に示す実施形態における頂部45および底部46についても同様である。
【0039】
後で説明するように、上述したような電気巻線26および27との組み合わせによって、
図4に示す強磁性体のヨーク25の構造は、y軸に平行に向けられた磁界Hを発生させる。当該磁界Hは、ヨーク25の内容積の全体に実質的に均一な磁束密度Bを有している。その結果、当該ビーム偏向マグネット13は、
図4中に符号35で示すような断面形状を有していて、当該偏向マグネット内の磁界に沿う長寸法を有しているリボン状イオンビームに適応することができる。
【0040】
先行技術における従来のイオンビーム偏向マグネットは、リボンビームの長寸法に適応するのに十分な磁極ギャップによって隔てられている一対の磁極を有している場合がある。当該磁極は、リボンビームの長寸法に沿うギャップの全域に実質的に均一な磁束密度を発生させ、かつ、リボンビームの短寸法に適応するために中心ビーム軸の両側に十分な距離に亘って、実質的に均一な磁束密度を発生させるのに十分な寸法を有している必要がある。従来の偏向マグネットは、磁極に物理的に結合されている鉄製コアを囲む励磁コイルと、二つの磁極間を結合する外部ヨークとを備えている場合がある。このような一般的な種類の内の一つの特別な形態のイオンビーム偏向マグネットが、米国特許第7,078,714号(前記特許文献2)に開示されている。当該特許は、その譲受人に譲渡されており、当該特許の開示内容は、その全部がここに参照組み込みされている。
【0041】
ところが、そのような従来のマグネット設計は、800mm以下の長寸法を有するリボンビームに適応するために800mm程度の磁極ギャップに対しては十分であるかも知れないけれども、そのような従来の設計をより大きなリボンビームのためにスケールアップすることは重大な実際上の問題を生じさせる。その結果、磁極ギャップを2倍以下でスケールアップするときでも、従来の偏向マグネットの磁極、ヨークおよびコイル構造の質量は3倍以上に増大させなければならない場合がある。それに比べて、
図3および
図4に示したような偏向マグネットの構造は、上記磁極、ヨークおよびコイルの組み合わせ構造の場合のような不釣り合いな質量増大を伴うことなく、上記のようなスケールアップを可能にすることができる。
【0042】
従来技術のイオンビーム偏向マグネットの更に既知の問題は、当該偏向マグネットの入口および出口における端部磁界によって生み出される収差(これは、簡単に言えば、イオンビームの焦点をぼやかす現象を言う)である。
図3および
図4に示す構造においては、巻線26および27の内の、斜めの辺28、29、30および31の上端および下端(そこで頂部32および底部33に接続されている)に近い導体のみが、当該偏向マグネット内の曲がった経路に沿って曲げられるリボンビームに近接している。その結果、端部磁界によって惹き起こされる収差は、主としてリボンビームの上端部および下端部に限定される。
【0043】
従来技術において知られている他のビーム偏向マグネットの構造は、ホワイト他の米国特許第7,112,789号(前記特許文献3)に記載されている、いわゆる窓枠マグネットである。この構造においては、励磁巻線の導体は、リボンビームに近接して当該リボンビームの実質的に全幅に亘って位置しており、それによって、リボンビーム全体が、当該マグネットの入口および出口における端部磁界からの収差を受ける場合がある。
【0044】
図4を参照して、図示された偏向マグネット13の磁気特性は、次のアンペアの法則から導くことができる。
【0046】
簡単に言えば、上記式は、閉じた経路sに沿う磁界H
s の線積分は、当該経路によって閉じ込められる総電流iに等しいということを述べている。
【0047】
図4を参照して、一つの閉じた経路sがA→B→C→Aで示されている。それゆえに、アンペアの法則によれば次式となる。
【0049】
数2において、磁界Hは、次式に従って、磁束密度Bおよびそれぞれの材料の透磁率μによって表されている。
【0051】
数2を参照して、その第1項は、偏向マグネット13の動作ギャップにおける磁界の線積分であり、ここでは透磁率はμ
0 である。第2項は、強磁性体のヨーク25における磁界の線積分であり、ここでは透磁率はμ
s である。低炭素鋼のような強磁性体のヨーク25に対しては、μ
s ≫μ
0 であり、従って第2項は第1項よりも遥かに小さい。従って数2は次のように単純化することができる。
【0053】
上に説明したように、偏向マグネット13の電気巻線26および27は、ヨーク25の内側輪郭の斜めの辺28、29、30および31の各々に沿って単位距離ごとに一定数の導体を含んでいる。これらの導体に同一の電流が流されることを仮定すると、この配置は、ヨーク断面の斜めの辺に沿って単位長さごとに一定の電流jアンペアを提供することが分る。
【0054】
図4を参照して、この構造はx軸に関して対称であり、頂部32と底部33との間の間隔またはギャップが2Gであれば、次式となる。
【0056】
ここで、ヨーク内側輪郭の斜めの辺31に隣接する導体中を流れる総電流がI、ヨーク内側輪郭の斜めの辺28に隣接する導体中を流れる総電流が−Iである。従って数4は次式となる。
【0058】
図4におけるヨークの構造はx軸に関して対称であるので、B
y(x,y)はまた対称であり、それによって、数6に対する唯一の可能な解は、jを数5のjで置き換えると、次式となる。
【0059】
[数7]
B
y(x,y)=2μ
0I/G
【0060】
このことは、B
y は、xおよびyに対して独立であり、かつそれゆえに、ヨーク25内における偏向マグネットの動作ギャップ全域において一定であることを示している。
【0061】
磁束密度成分B
x を考えると、x方向において動作ギャップを横切る線積分を含む閉じた積分経路は、正味ゼロの電流を囲むことになる。これは、ヨーク内側輪郭の斜めの辺31に隣接する導体からの寄与は、当該ヨーク内側輪郭の斜めの辺28に隣接する導体からの寄与によって妨げられるからである。
【0062】
結果として、x軸に沿っての数6に等価の式は次式となる。
【0066】
数7および数9の組み合わせによって次のことがもたらされる。即ち、
図4中に示すヨーク25に囲まれた空間における磁束密度は、当該空間の全域において均一であり、かつy方向を有している。
【0067】
上記のことが角度θの値とは無関係に真実である、ということもまた論証されている。それゆえに、ヨーク内側輪郭はy軸に関して対称である必要がないことも分り、それによって、ヨーク内側輪郭の斜めの辺30および31のy軸に対する角度は、斜めの辺28および29のy軸に対する角度と異なっていても良い。このことが
図5に図示されており、ここでは斜めの辺30および31とy軸との間の角度がθ
1 として示されており、斜めの辺28および29とy軸との間の角度がθ
2 で示されている。しかしながら、巻線26および28は、斜めの辺28および29に隣接する導体に沿って流れる総電流−Iが斜めの辺30および31に隣接する導体に沿って流れる総電流Iと同一となるように配置しなければならない。
【0068】
また、ヨーク25の構造は、x軸に関して対称である必要はない。このことは
図6に示されており、ここでは斜めの辺30とy軸との間の角度θ
3 は斜めの辺31とy軸との間の角度θ
1 と異なっており、更に、斜めの辺29とy軸との間の角度θ
4 は斜めの辺28とy軸との間の角度θ
2 と異なっている。しかし、ヨーク断面の内容積の全体を通して磁束密度B(x,y)が均一でありかつy方向に向けられるためには、斜めの辺29および30に隣接する導体(
図6中のx軸の下側)によって与えられる電流の大きさは、斜めの辺28および31に隣接する導体(
図6中のx軸の上側)によって与えられる単位長さごとの電流の大きさによって作られる磁界と同一の磁界B
y をx軸(y=0)に沿う位置において与えるように調整されるべきである。
【0069】
また、ヨーク25によって囲まれている容積内において磁場の均一性を維持するためには、斜めの辺31が斜めの辺30と交差するのと同一のy位置において、斜めの辺28が斜めの辺29と交差しなければならない。
図6において、上記斜めの辺の二つの交点は共にx軸(y=0)上にある。
【0070】
各斜めの辺28、31に隣接する導体によって与えられる総電流がI
a であり、各斜めの辺29、30に隣接する導体によって与えられる総電流がI
b であるとすると、ヨーク25内において次式であれば均一磁場が得られる。
【0071】
[数10]
I
b /I
a =G
b /G
a
【0072】
ここで、G
a は、x軸からヨーク内側輪郭の頂部32までのギャップ間隔であり、G
b は、x軸からヨーク内側輪郭の底部33までのギャップ間隔である。
【0073】
イオンビーム偏向マグネット13は、
図6に示すように、x軸およびy軸両方に関して非対称であるヨーク内側輪郭によって均一なギャップ磁場を発生させるように構成することができるけれども、この非対称性は当該偏向マグネットの入口および出口における非対称な端部磁界をもたらす結果となる。それによって、偏向マグネット13の出口から出て来るリボン状イオンビーム中のイオンの分布において不所望な非対称の収差を生じさせる場合がある。x軸に関して対称なヨーク構造は、偏向マグネットの入口および出口における端部磁界と関連づけられる上記のような非対称の収差を減少させることができる。y軸に関して非対称であるヨーク断面内側輪郭に適している巻線を製造することはより困難な場合があり、従って、
図4に示すように、対称なヨーク断面内側輪郭は二重に好ましいと言うことができる。
【0074】
それでも、
図6に示す例のように、ヨーク25の断面内側輪郭がx軸およびy軸の両者に関して非対称である強磁性体のヨーク構造を有しているイオンビーム偏向マグネットを製作することは確かに可能である。そのようなヨークの断面内側輪郭の幾何学構造は
図7中により詳しく示している。この断面内側輪郭は、四つの斜めの辺40、41、42および43並びに頂部45および底部46を有するものとして
図7中に示されており、図示のように閉じた六角形の形状を画定している。
図7に示すように、直交座標(x,y)上で、前記四つの斜めの辺40、41、42および43はそれぞれ次の四つの式によって定義される線上にそれぞれ位置する。ここで、a
1 、a
2 、a
3 、a
4 、b
1 およびb
2 は正数である。
(1)a
1 x+b
1 y=a
1 b
1
(2)a
2 x−b
1 y=a
2 b
1
(3)a
3 x+b
2 y=−a
3 b
2
(4)a
4 x−b
2 y=−a
4 b
2
【0075】
図7に示すように、ヨーク内側輪郭の頂部45は、位置y=y’においてx軸に平行な線上にあり、底部46は位置y=−y”においてx軸に平行な線上にある。従って、斜めの辺40および43は、上記式(1)および(4)によって定義される線上に位置していて、その各々の線上で位置y=y’まで伸びている。同様に、斜めの辺41および42は、上記式(2)および(3)で定義される線上に位置していて、その各々の線上で位置y=−y”まで伸びている。y’およびy”は共に正である。y’はa
1 およびa
4 の内の小さい方よりも小さく、その結果、ヨーク内側輪郭の頂部45はy軸を完全に横切って伸びている。同様に、y”はa
2 およびa
3 の内の小さい方よりも小さく、その結果、ヨーク内側輪郭の底部46もまたy軸を完全に横切って伸びている。
【0076】
ヨーク内側輪郭の頂部45と底部46との間において、y軸に沿う長寸法hを有するリボン状イオンビームに適応するためには、y’+y”はhよりも大きくなければならない。このイオンビーム偏向マグネット13は、前記強磁性体のヨーク25と関連づけられた電気巻線を更に備えている。当該電気巻線は、前記ヨーク内に、前記曲がった経路を横切る偏向磁界を発生させるように配置されており、それによって、所望の質量対電荷比m/qを有するイオンから成るリボン状イオンビームを前記曲がった経路に沿って曲げる。
【0077】
強磁性体のヨーク25(
図3、
図4、
図5および
図6参照)は、当該ヨークの前述した一様な断面内側輪郭の四つの斜めの辺にそれぞれ対応している四つの斜めの内面を有している。電気巻線26および27は、当該偏向マグネットの入口および出口の間において、前記曲がった中心ビーム軸に平行に、当該ヨークの斜めの内面に隣接して伸びている複数の軸方向導体要素を有している。これらの軸方向導体要素のブロックは
図3中に符号50および51で概略的に図示されている。この導体要素50および51は、前記断面内側輪郭の四つの斜めの辺の各々に沿って、単位距離ごとに均一な数の前記導体を提供するように配置されている。
【0078】
再び
図7を参照して、断面内側輪郭の斜めの辺40および43に沿って配置された導体中の総電流は、x軸の上側でI’である。斜めの辺43に隣接する導体中を流れる当該電流I’は、斜めの辺40に沿う導体中を流れる総電流−I’と反対方向である。同様に、斜めの辺42に沿って一様に配分されて流れる電流の総電流は、x軸の下側においてI”であり、斜めの辺41に沿って均一に配分されて流れる電流の総電流は、x軸の下側において−I”である。
【0079】
強磁性体のヨーク25の内側輪郭によって画定された内部空間の全体に所要の均一な磁界Hを与えるためには、I’/I”=y’/y”とする。
【0080】
再び
図7を参照して、次のことが分る。
(5)b
2 /a
4 =tanθ
1
(6)b
1 /a
1 =tanθ
2
(7)b
2 /a
3 =tanθ
3
(8)b
1 /a
2 =tanθ
4
【0081】
一般的に、角度θ
1 、θ
2 、θ
3 およびθ
4 の各々は、20°以上かつ60°以下であっても良い。約20°未満の角度では、斜めの辺を有するヨーク内側輪郭の利点は大幅に減り、約60°より大きい角度では、ヨーク構造は、付加的な利点を殆ど有することなくより重くなる。
【0082】
図7に示す配置において、頂部45は、図示された断面内側輪郭における平面において寸法(長さ)c
1 を有している。当該断面内側輪郭の底部46は、対応する寸法(長さ)c
2 を有している。好ましい実施形態においては、寸法c
1 およびc
2 の各々は、(b
1 +b
2 )/2以下である。より好ましい実施形態においては、寸法c
1 およびc
2 の各々は、(b
1 +b
2 )/4以下である。
【0083】
寸法c
1 および/またはc
2 が(b
1 +b
2 )/2を超えると、この発明の利点は大きく減少する。
【0084】
図8を参照して、この図は
図7の例を十分に非対称にした特殊な例を示しており、ここではtanθ
1 /tanθ
3 =tanθ
2 /tanθ
4 である。この制限はまた、a
1 ・a
3 =a
2 ・a
4 の形で表現しても良い。この制限によって、ヨーク内側輪郭の頂部45および底部46は、
図7の非対称の例に比べて、y軸に対して実質的に対称性良く配置されているということができる。その結果、有限の厚さのリボン状ビームのために、十分な空間および磁場の均一性を、より容易に提供することができる。
【0085】
図9を参照して、図示されているヨーク内側輪郭はx軸に関して対称であり、ここで角度θ
4 は角度θ
2 と等しく、かつ角度θ
3 は角度θ
1 と等しい。その結果、a
2 =a
4 およびa
3 =a
1 である。頂部45の位置と底部46の位置とが対称であり、それによってy”=y’である。従って、寸法c
1 は寸法c
2 と等しい(
図9では、両者を同一の符号cで単純化している)。y’=y”であるので、斜めの辺40および41に沿って配分された総電流は−I’に等しく、斜めの辺42および43の各々に沿って配分された総電流はI’に等しい。
【0086】
図10は、
図4に対応していて完全に対称な配置を示しており、ここでは角度θ
1 =θ
2 =θ
3 =θ
4 (
図10では、これら全てを符号θで単純化している)。
図10はまた、θ=45°である実施形態を示している。
【0087】
再び
図4を参照して、ヨーク25は、図示された断面内側輪郭の斜めの辺28、29、30および31に対応している四つの斜めの面を備えている。ヨーク25の一様な断面内側輪郭の四つの斜めの辺の各々は、|x|が最大であり|y|が最小であるそれぞれの上下方向中央部端と、|x|が最小であり|y|が最大であるそれぞれの頂部端との間で伸びている。
図4から分るように、ヨーク25は、それぞれの斜めの内面に垂直な断面厚さを有しており、当該断面厚さは、前記斜めの辺の前記上下方向中央部端での最大値から前記斜めの辺の前記頂部端での最小値へと減少している。この厚さの変化は直線的であっても良い。強磁性体のヨーク25の厚さが、斜めの辺28、29、30および31の上下方向中央部端に向かって増大していることは、ヨーク内で当該偏向マグネットの上下方向中央部領域(ここではy=0である)に向けて増大している内部磁束を発生させる効果を奏する。斜めの辺の頂部端(ここではヨークによって発生させる磁束はより少ない)に向けてヨーク25の厚さを減少させることによって、偏向マグネット13の全体の重量を減少させることができる。
【0088】
図4に示す実施形態は、x軸およびy軸の両者に関して対称である。
図5および
図6に示すような非対称のヨーク構造の場合においても、ヨーク25の厚さは、当該ヨークの内側輪郭の斜めの辺の頂部に向けて次第に小さくしても良い。
【0089】
図11および
図12は、イオンビーム偏向マグネットの実施形態をより詳細に示す。当該図示された実施形態は、
図4の対称構造に対応しており、ここでは強磁性体のヨーク25は、y軸に対して45°の斜めの辺を有する内側輪郭を有している。
【0090】
図11および
図12において、前記強磁性体のヨーク25は、この例では、前記曲がったビーム経路に沿う方向に互いに隣接して配置された六つのセグメント60で構成されており、それらは、当該分析マグネットを通過するイオンビームのための所要の曲がった経路に適応するように互いにぴったり合わさっている。ヨーク25はまた、斜めの内側セグメント60を、対応する外側セグメント62と連結する六つの天板61を有している。天板61は、
図4に示したヨーク内側輪郭の頂部32に対応している内面を形成している。
図11に示すように、天板61は、分析マグネットの所要の曲率に適応させるために、環状のセグメントとして形成されている。天板61と同様の底板が、対応する下側の斜めのセグメントを互いに連結するように設けられており、それによって、
図4中に図示されたヨーク内側輪郭の底部33に対応するヨーク面を形成している。
【0091】
天板61(および
図11および
図12中において図示されていない底板)は、当該偏向マグネットを通過するリボンビームの上端部および下端部に対する収差をより良く制御できる特別な形状をしている。天板61に設けられた切り抜き63は、収差を打ち消すために、リボンビーム35(
図4参照)の上端部付近に作られる磁界を修正する効果を奏する。同様の切り抜きは、当該偏向マグネットの前記底板にも設けられているけれども、
図11では図に表れていない。
【0092】
この実施形態では、前記巻線26および27(
図4参照)は、
図11中に符号65、75、66、76、67、77および68、78で示されている鞍型コイルユニットによって提供されている。各鞍型コイルユニット65、66、67および68は、
図4の巻線26の一部分を形成している。各鞍型コイルユニット75、76、77および78は、
図4の巻線27の一部分を形成している。従って、鞍型コイルユニット65と75とは対を成している。同様に、鞍型コイルユニット66と76、鞍型コイルユニット67と77、および鞍型コイルユニット68と78は、それぞれ対を成している。
【0093】
各鞍型コイルユニットは、前記曲がったビーム経路の内側にある斜めのヨーク内面の内の第1の内面に平行な第1の軸方向列において互いに並んで配置されている第1の複数の軸方向導体要素を備えている。鞍型コイルユニット65の場合、前記並んで配置された第1の複数の軸方向導体要素は
図11中で符号65aで示されている。同様に、鞍型コイルユニット66、67および68の第1の軸方向導体要素は、それぞれ符号66a、67aおよび68aで示されている。下側コイルユニット27(
図4参照)に対応している鞍型コイルユニット75、76、77および78は、対応する第1の複数の軸方向導体要素を有している。上述した各々の複数の導体要素中の軸方向導体要素は、均一に配置されており、それによって、ヨーク25の一様な断面内側輪郭の斜めの辺に沿って単位距離ごとに均一な数の導体要素を提供している。
【0094】
各鞍型コイルユニットは、前記曲がったビーム経路の外側にある斜めのヨーク内面の内の第2の内面に平行な第2の軸方向列において互いに並んで配置されている第2の複数の軸方向導体要素を備えている。この各鞍型コイルユニットのための当該第2の複数の軸方向導体要素は、ヨークのy軸の他方側にある鞍型コイルユニットを流れる電流の戻り経路を提供する。上記外側は、曲がったビーム経路に対してヨークの半径方向の外側のことである。各鞍型コイルユニットはまた、偏向マグネットの入口の近傍にあって、前記第1および第2の軸方向列の軸方向導体要素間を接続している接続導体要素65b、66b、67bおよび68bを有している。同様に、各鞍型コイルユニットはまた、偏向マグネットの出口の近傍にあって、前記第1および第2の軸方向列の軸方向導体要素間を接続している接続導体要素65c、66c、67cおよび68cを有している。
【0095】
前記鞍型コイルユニットの場合、第1の複数の接続導体要素65b、66b、67bおよび68bは、当該偏向マグネットの入口での中心ビーム軸に垂直なそれぞれの第1の半径方向面内に位置する第1の半径方向列において互いに並んで配置されている。同様に、第2の複数の接続導体要素65c、66c、67cおよび68cは、当該偏向マグネットの出口での中心ビーム軸に垂直なそれぞれの第2の半径方向面内に位置する第2の半径方向列において互いに並んで配置されている。
【0096】
前記各鞍型コイルユニットを考える場合に
図11および
図12から分るように、第1および第2の軸方向列65a、66a、67aおよび68aのそれぞれの内の各軸方向導体要素は、第1および第2の斜めのヨーク内面の内のそれぞれ隣接するものと垂直に外側に90°曲がっていて、接続導体要素65c〜68cまたは接続導体要素65b〜68bの内の対応するそれぞれのものに接続されている。
【0097】
この実施形態においては、電気巻線26および27(
図4参照)は、鞍型コイルユニット65と75との対(つい)、鞍型コイルユニット66と76との対、鞍型コイルユニット67と77との対および鞍型コイルユニット68と78との対から成る複数対の鞍型コイルユニットを備えている。対を成す鞍型コイルユニットのそれぞれの列の軸方向導体は、各斜めのヨーク内面のそれぞれの部分の内側で伸びている。従って、四つの上側の鞍型コイルユニットによって提供される軸方向導体要素の列65a、66a、67aおよび68aは、互いに隣接しており、それらが協力して、ヨーク25の上側の斜めの内面に平行に伸びている完全な上側の巻線26を形成している。
【0098】
図11から分るように、上側の鞍型コイルユニットの半径方向列65c、66c、67cおよび68cは、一つのものが他のものの内側に入れ子状にきっちり収まるように配置されており、従って外側に収まっている鞍型コイルユニット65の軸方向導体要素の列65aは、隣の鞍型コイルユニット66の軸方向列66aよりも長い。同様に、軸方向列66aは鞍型コイルユニット67の軸方向列67aよりも長い。同様に、軸方向列67aは鞍型コイルユニット68の最上部の軸方向列68aよりも長い。このような構造は、下側の鞍型コイルユニット75、76、77および78にも採用されている。
【0099】
これまでに述べて来たイオンビーム偏向マグネットの巻線の上記構造には、数々の利点がある。第1に、偏向マグネットのための巻線構造の全体が複数の部品に分割されるので、製造および組立をかなり容易にすることができる。また、各鞍型コイルユニットのための接続導体の半径方向列65b〜68bおよび65c〜68cは互いにきっちり収まっているので、半径方向列の全体の半径方向寸法を小さくすることができ、かつ必要とされる導体の全体の長さもまた小さくすることができる。前述したように、上記きっちり収まる構造は、偏向マグネットの上下方向中央部に近い軸方向導体列(例えば65aおよび66a)を偏向マグネットの入口および出口においてヨーク構造の端を超えて伸ばす必要があるけれども、これらの比較的長い軸方向導体によって惹き起こされて大きくなる端部磁界は、
図4に示すy軸の近くに位置しているイオンビームから十分に離れたものとなり、それによって、これらの伸ばされた軸方向導体65aおよび66aによってもたらされる収差は最小になる。
【0100】
各鞍型コイルユニット65、66、67および68を形成するのに用いる導体の巻き数は、各鞍型コイルユニットにおける導体長の全体的な相違を最小化するために調節しても良い。例えば、最も外側に収まるコイルユニット65と最も内側に収まるコイルユニット68との間で鞍型コイルユニットの巻き数を徐々に増大させても良い。その結果、軸方向導体列65a、66a、67aおよび68a中の導体間隔は巻線全体に亘って均一であるので、各導体要素列の幅もまた導体列65aから導体列68aへと増大する。各鞍型コイルユニットの全体的な導体長を実質的に同一に保つことによって、各鞍型コイルユニットにおける電力損失を実質的に均一に保つことができる。各鞍型コイルユニットの導体要素は、水冷の管状の要素である。
【0101】
各鞍型コイルユニット65、66、67および68の巻線は、所要の電流で駆動(励磁)するために、一つの励磁電源に直列に接続しても良い。しかしながら、鞍型コイルユニット65、66、67および68(または少なくともその内の幾つか)を、別々の励磁電源から独立して駆動(励磁)することもまた好ましい。通常、偏向マグネット内に所望の均一な偏向磁界を発生させるためには、下側の鞍型コイル75〜78中の電流は、上側の鞍型コイル65〜68中の電流と一致しているべきである。
【0102】
図12を参照して、前述した偏向マグネット13に対応する部分には同一の参照符号を付している。この
図12は、
図4のヨーク内側輪郭の斜めの辺29に対応する内側の斜めの面を提供する六つの下側のヨークセグメントを示している。これらのヨークセグメントは、
図12中に参照符号70で特定している。
図12において、リボンビーム35が偏向マグネットの入口12から入り、出口15から出ているのが示されている。
【0103】
図11は、偏向マグネットの入口にある入口マニフォールド80および偏向マグネットの出口にある出口マニフォールド81を示している。入口マニフォールド80はアクセスカバー84を有しており、それはこの図では開いた状態で示されている。入口マニフォールド80は、偏向マグネット内において前記曲がった経路に沿って伸びている真空ビームガイド90(
図13参照)につながっており、当該真空ビームガイドは偏向マグネットの出口で出口マニフォールド81とつながっている。このようにして、リボンビームに対して、偏向マグネットを貫く真空の経路を提供することができ、一方、ヨークおよび巻線は大気中にある。
【0104】
入口マニフォールド80および出口マニフォールド81は、それぞれ、磁界クランプ82および83を備えている。磁界クランプ82および83は、それぞれ、ビーム経路から横方向に伸びている強磁性体の板から成り、偏向マグネットによって発生された磁界を阻止して、当該磁界が入口マニフォールド80の上流側へ広がるのを妨げ、かつ出口マニフォールド81の下流側へ広がるのを妨げるためのものである。磁界クランプ82および83は、それぞれのマニフォールド80および81の内側に伸びていて、偏向マグネットに入りかつ出るイオンビームのためのビーム開口を提供している。磁界クランプ82の一部は、入口マニフォールド80のアクセスカバー84の内面上で折り返して図示されている。完全な磁界クランプ82および83は、
図12中に概略的に図示されている。
【0105】
図13は、
図11に対応しているイオンビーム偏向マグネットの更なる図であるが、ここでは入口マニフォールドを除去し、かつヨークの前記セグメント60および62の上側の三つのセグメントも除去している。更に、鞍型コイルユニット65、66、67および68は、内部構造を明らかにするために、偏向マグネットの中央から出口まで切断している。
【0106】
図13においてはヨークの天板もまた除去しており、それによって、偏向マグネットの入口12から出口15へと伸びている内側の真空ビームガイド90を明らかにしている。この真空ビームガイド90は、長方形の断面を有していて、ヨークの天板61とそれに対応する底板との間で垂直に伸びている。この真空ビームガイド(ガイド管)90は、リボンビームに適応する寸法を有しており、リボンビームに対して所要の真空容器を提供している。この真空ビームガイド90は、偏向マグネットの入口で入口マニフォールド80(
図11参照)とつながっており、偏向マグネットの出口で出口マニフォールド81とつながっている。
【0107】
側部トリムコイル91および92は、真空ビームガイド90の半径方向に内側の面に取り付けられており、真空ビームガイド90の入口から出口までの実質的に全長に亘って伸びている。上記と対応するトリムコイルが、ビームガイド90の半径方向に外側の面に取り付けられている。図から分るように、これらのトリムコイルは、強磁性体のヨーク(25)の内側に取り付けられていて、偏向マグネットを通過するイオンビームの曲がった経路に近接して伸びている。このトリムコイルは、曲がったビーム経路に沿う位置においてトリム(整形)磁界を発生させるように励磁可能であり、それによって、偏向磁界の収差によってもたらされるリボン状イオンビームの断面形状の歪みを減少させる効果を奏する。
【0108】
偏向マグネットの入口および出口における端部磁界によってもたらされる収差は、偏向マグネットを出るリボン状イオンビームの断面形状を歪める効果を有する場合がある。これは、リボンビームが通過して不所望のイオン種を当該ビームから除去するための質量分析スリットと組み合わせた偏向マグネットの分解能を低下させる効果を有する。トリムコイル91および92は、このリボンビームの断面形状の歪みを修正するために励磁することができる。トリムコイル91および92は、偏向マグネットの入口および出口の端部磁界によってもたらされる歪み(収差)を修正するために、真空ビームガイド90内に六重磁界を発生させるように励磁しても良い。
【0109】
図13に示すように、上側のトリムコイル91は、ビーム経路に平行に伸びている上側導体要素91aおよび下側導体要素91bを有している。同様に、下側のトリムコイル92は、ビーム経路に沿って平行に伸びている上側導体要素92aおよび下側導体要素92bを有している。トリムコイル91および92は、偏向マグネットの、
図4中のx軸に対応している中央面の互いに反対側に対称に配置されている。
【0110】
図4には、トリムコイル91および92の上側および下側の導体要素91a、91bおよび92a、92b中を流れる電流の組み合わせが一例として示されている。真空ビームガイド90の半径方向外側に位置するトリムコイルは、同様に励磁されて、
図4中に符号93a、93bおよび94a、94bで示すような電流を提供する。
図4に示されているようなトリムコイル中の電流の効果は、イオンビーム中のイオンのリボンビーム中心(yの値が小さい部分)方向への曲率を増大させ、かつ、イオンビーム中のイオンのリボンビーム端(yの値が正および負に大きい部分)方向への曲率を減少させることである。
【0111】
収差を減少させて偏向マグネットから出て来るリボンビームの形状を最適化するために、前記トリムコイルに他の電流配置を適用しても良い。
【0112】
トリムコイル91および92に加えて、偏向マグネットの主磁界を形成する鞍型コイルユニット65、66、67および68の内の異なったものの中を流れる電流の相対的な電流値を調節することによって収差を修正することもできる。鞍型コイルユニットの巻線中の相対的な電流値を調節することによって、偏向マグネットの入口および出口において端部磁界によって惹き起こされる収差を補償するために、偏向マグネット内の名目上は均一な磁界をうまく歪ませることができる。リボン状イオンビームを曲げるために望ましい均一な磁界を発生させる強磁性体のヨークと関連づけられている巻線についてこの明細書中で言及している事項は、不所望な収差を修正するために前記磁界を歪ませる可能性があるという背景において理解されるべきである。
【0113】
一つの実施形態においては、偏向マグネットは、ヨーク内の真空ビームガイド90の上面と下面との間の磁極ギャップとして最大で1500mmの磁極ギャップを有している。当該偏向マグネットによって提供される全体の偏向角度は約70°である。所望のイオンビームを、偏向マグネットを貫いている曲がったビーム経路に沿って曲げるのに必要な磁界は、当該イオンビームの磁気剛性率から計算することができる。そのような構造によって、リボン状イオンビームを曲げ、質量分離し、最大で約1350mmのリボン幅(長寸法)で質量分析スリットから出現させることができる。当該リボンビームが平行化されることを想定すると、このことは、イオン注入される基板に照射されるリボンビームの最大の長寸法Lが約1350mmであることを意味している。従って、当該リボンビームによって均一にイオン注入され得る基板の最大寸法は、1350mm以下となる。
【0114】
図14から
図17は、上述したイオンビーム偏向マグネットから出て来るリボンビームの最大の長寸法よりも若干大きい長寸法を有している基板上にリボンビームのフットプリントを与えることに適応させたイオンビーム偏向マグネットの変形例を示している。この寸法増大は、偏向マグネットに入るリボンビームをその長寸法(y寸法)に沿って若干圧縮し、そして当該偏向マグネットから出て来るリボンビームをその長寸法(y寸法)に沿って若干発散させるように構成することによって実現することができる。リボンビームのy方向における上記発散の結果として、イオン注入される基板上のリボンビームのフットプリントはより大きな長寸法を持つことができるようになり、それによって、より大きな基板にイオン注入を行うことができる。
【0115】
図14および
図15は、イオンビーム偏向マグネットの
図12に対応する図であるけれども、四つの互いに入れ子状にきっちり収まった鞍型コイルユニット65、66、67および68を完全に見せるために、当該偏向マグネットの上下方向中央部(または中央面)の上のヨーク構造を除去した状態で示している。更に、
図14および
図15において、内部の真空ビームガイド90の中央面の上の上側半分も除去している。また、入口マニフォールド80の中央面の上側半分も、磁界クランプ82および83の中央面の上側半分と共に除去している。更に、出口マニフォールド81は、上記構造を明確にするために完全に除去している。
【0116】
入口マニフォールド80は
図16においてより詳しく図示されており、
図17は当該入口マニフォールド80内に含まれているコイル構造を図示している。まず
図16および
図17を参照して、入口マニフォールド80は一対のステアリングコイル95および96を含んでいる。この入口マニフォールド80内のステアリングコイル95および96は、入口マニフォールド80を通過して偏向マグネット内に入るリボン状ビームの反対側に互いに位置するように、互いに平行な面内に配置されている細長い巻線である。
【0117】
動作において、ステアリングコイル95および96は、リボンビームの主面に対して横向きに、概ね垂直に、磁界を発生させるために、図示しない励磁電源からの同一方向の電流によって励磁される。当該ステアリングコイル95、96は、それゆえに、リボンビームの所望量の垂直偏向(y方向において)を提供することに利用することができる。このリボンビームの垂直ステアリングは、概ねリボンビームの主面内におけるものであるけれども、イオン注入装置の処理室18内のイオン注入される基板上のリボンビームのフットプリントの正確な位置を制御するために有用である。このようにして、ステアリングコイル95および96は、イオン源のイオン源開口と第1引出し電極間で生じることがある熱膨張および位置合わせ不良(これらはイオンビームの初期軌道を左右する)による問題を補償するのに必要な場合に用いることができる。ステアリングコイル95および96によって発生される磁界は、本質的には双極子である。
【0118】
入口マニフォールド80はまた、四重極コイル組立体97、98、99および100(
図17中に最もよく表れている)を含む四重極巻線を含んでいる。各四重極コイル組立体は、リボンビームの一端部に位置している内側巻線97aと、それよりも若干大きくてリボンビームの中心線の方へ更に伸びている外側巻線97bとを備えている。四重極コイル組立体97および98は、図示しない励磁電源からの同一方向に流れる電流によって励磁され、リボンビームの上端部を横切って横向きに磁界を形成する。当該磁界は、イオンビームの中心線に向けて下向きに、リボンビームの上端部付近のイオンビーム中のイオンを制御することができる偏向を提供する働きをする。同様に、四重極コイル組立体99および100は、図示しない励磁電源からの四重極コイル組立体97および98を励磁する電流とは反対極性の電流で励磁され、リボンビームの下端部付近を横切る磁界を発生させる。当該磁界は、イオンビーム中のイオンを当該イオンビームの中心線に向けて上向きに偏向させる。各四重極コイル組立体の内側巻線および外側巻線は、横向きの磁界の所望の変化量を提供するために、同一方向に励磁される。
【0119】
四重極コイル組立体97、98、99および100によって、偏向マグネットに入るリボンビームの長寸法を若干小さくするように、リボンビームの上端部および下端部を当該リボンビームの中心線に向けて制御可能に曲げる(集束させる)ことができる。
【0120】
再び
図14を参照して、図示のように、第1および第2の四重極コイル組立体110および111が、鞍型コイルユニット65、66、67および68に重なるように設けられている。第1の四重極コイル組立体110は、
図4中に示したようなヨーク内側輪郭の斜めの辺28、29、30および31に対応しているヨークの四つの斜めの内面の各々に沿って並べられた、それぞれ実質的に平らな環状の巻線110a、110bを備えている。
図14においては、四重極コイル組立体110を形成する四つの巻線の内の二つ(110aおよび110b)のみが見えている。これに対応する巻線もまた、当該偏向マグネットのヨークの下側の斜めの内面に対して設けられている。
【0121】
上述したイオンビーム偏向マグネットの実施形態においては、ヨークによって形成される各斜めの面は、x軸に対してそれぞれ45°である。このx軸は、この実施形態では水平線に相当する。四重極コイル組立体110の巻線間を通っている真空ビームガイド90内の部分に四重極磁界を発生させるためには、四重極コイル組立体110の巻線は、リボンビームの上側部分において上方偏向、およびリボンビームの下側部分において下方偏向を発生させる実質的に横向きの磁界を発生させる極性で励磁される。四重極コイル組立体110の隣り合う巻線(例えば110aおよび110b)は互いに90°であるので(ヨークの辺が垂直に対して45°だからである)、その結果として、当該コイル構造は真空ビームガイド90内に所要の四重極磁界を発生させることができる。
【0122】
当業者によく知られているように、四重極磁界は、当該磁界を通過するイオンをビーム方向に垂直な一方向において集束させ、ビーム方向に垂直な方向で前記一方向とは直角の方向において発散させる効果を有している。四重極コイル組立体110は、図示しない励磁電源によって、y方向(これはリボンビームの長寸法方向である)において発散を提供し、x方向(これはリボンビームの短寸法方向である)において集束を提供するように励磁される。リボンビームはx方向(これは当該リボンビームの厚さに対応している)において比較的短い距離伸びているので、x方向の集束は、y方向の発散に比べて大きさが小さいけれども、リボンビームの厚さを小さくすることに役立ち、質量分析スリット17における質量分解能の向上を可能にする。
【0123】
第2の四重極コイル組立体111は、第1のコイル組立体110と同一の構造を有しており、図示しない励磁電源によって同一の極性で励磁され、それによってイオンビームの更なるy方向の発散を提供する。
【0124】
四重極コイル組立体110および111の結果として、偏向マグネットを出て行くリボンビームは、y方向(これはリボンビームの主面にある)における制御された量の発散を有することができる。実際には、四重極コイル組立体110および111は、y方向において5°までのビーム発散を提供するように励磁されても良い。その結果、イオン注入される基板上のリボンビームのフットプリントを、偏向マグネットの真空ビームガイド90を通すことができるリボンビーム幅よりも大きくすることができる。入口四重極コイル組立体97〜100と共に四重極コイル構造110および111がないときは、最大寸法が約1500mmを有する真空ビームガイド90を備えている偏向マグネットは、約1350mmの平行化されたリボンビームを提供することができる。
図14〜
図17に関連して説明した四重極コイル組立体を有している場合は、偏向マグネットから取り出した発散リボンビームは、イオン注入される基板上に少なくとも1500mmのイオンビームのフットプリントを提供することができる。その結果、このイオン注入装置は、1500mmの寸法を有する基板にイオン注入を行うことに用いることができる。
【0125】
図14において、第1の四重極コイル組立体110は、イオンビーム偏向マグネットのビーム進行方向長さの中ほどに、より具体的には入口と出口との間の中間付近に位置している。第2の四重極コイル組立体111は、第1のコイル組立体110に隣接して当該偏向マグネットの出口側に設けられている。
図15は、代わりの配置を示しており、ここでは第2の四重極コイル組立体111は、中央に位置するコイル組立体110に隣接していて当該偏向マグネットの入口側に設けられている。
【0126】
図14および
図15の両方の配置において、前記二つの四重極コイル組立体110および111は、協働して動作するように図示しない励磁電源によって励磁され、四重極磁界の拡張された領域を提供し、リボンビームのy方向における発散を提供する。二つの四重極コイル組立体110および111を、
図15中に示すように、偏向マグネットの入口付近に位置させることによって、基板へのイオン注入位置でのイオンビーム中のイオンの最大発散角を幾分小さくすることかできる。
【0127】
上述した実施形態において、偏向マグネットのヨーク構造の複数の斜めの面は、当該偏向マグネットの実質的に中央面(ここではy=0)に向けて伸びており、それによって中央面の下方の隣接する斜めの面と共に尾根を実質的に形成している。
図10を参照して、上に述べたことは、
図10に示すように、斜めの辺40と41とがx軸上のx=bで合わさり、更にまた斜めの辺42と43とがx軸(y=0)上のx=−bで合わさる、ということと等価である。
【0128】
他の実施形態においては、上記斜めの辺40および41(
図10参照)は、共に、x=x’<bの点で終り、垂直線55(これはy軸に平行である)によって結ばれている。同様に、斜めの辺42および43は、x=−x’>−bの点で終り、垂直線56によって結ばれている。その結果、ヨークは、斜めの辺40、41、42および43の先端部を切り取った残りの長さに相当する四つの斜めの内面を有しており、頂部面および底部面は前記と同様に、
図10の断面内側輪郭の頂部45および底部46に相当しており、また垂直側面は垂直線55および56に相当している。
【0129】
上記のような構造において、巻線は、ヨークの斜めの内面に近接するビーム経路に平行な導体を有しているべきであり、それによって前述した実施形態と同様に、斜めの辺40、41、42および43に沿って単位距離ごとに同一の均一な電流を提供することができる。しかしながら、ビーム経路に平行な巻線は、垂直線55および56に相当する側面にも隣接して設けなければならない。ヨークの垂直側面に隣接するこれらの巻線は、垂直側面55および56の外側における、換言すればx’よりも大きくかつ−x’よりも小さいxの値における斜めの面上の位置で、前述した実施形態における斜めの面に隣接する導体によって運ばれるのと同一の総電流を流すべきである。そのようにすることによって、ヨーク構造の側面55および56での斜めの面40、41、42および43の切り取りは、ヨークの内部空間内に形成される磁界に何の影響も及ぼさないことが分る。
【0130】
上述したこの発明およびその実施形態の説明では、強磁性体のヨークは、偏向マグネットを貫いているイオンビーム経路長に沿ってずっと一様な断面内側輪郭を有しているものとして記載している。実際上は、当該強磁性体のヨークは、
図11および
図12中に示すセグメント60および70のような複数のセグメントで構成しても良い。これらのセグメントは、全体としては、当該偏向マグネットのイオンビーム経路長に沿って所要の曲がった輪郭を提供するように形作られているけれども、各セグメントは実質的に平坦な内面を有していても良い。従って、ヨークの断面内側輪郭は、当該偏向マグネットを貫いているイオンビーム経路長の端から端まで正確に一様である必要はない。このような状況において、「一様」と言うのは、断面内側輪郭における上記のような小さな変化(違い)を含むものとして理解されるべきである。
【0131】
以上の詳細な説明は、この発明が採り得る多くの形態の内の幾らかだけを記載したものである。それゆえに、当該詳細な説明は、例示のためになされたものであり、制限のためになされたものではない。この発明の範囲を画定するために意図されているものは、全ての均等物を含めて、以下の特許請求の範囲だけである。