(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量が50〜3000ppmであることを特徴とする2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール組成物(ただし、1,2−メチレンジオキシベンゼンと2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンとを反応させて、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを製造する工程(1)、及び得られた1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを加水分解反応又はアルコールとのエステル交換反応に付した後、得られた反応混合物を蒸留精製する工程(2)を行うことにより、副生する1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量を50〜3000ppmにする2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製造方法によって得られるものを除く。)。
2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度が95%以上である、請求項1に記載の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール組成物。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔品質保持方法〕
本発明の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの品質保持方法は、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを50〜3000ppm含有させることを特徴とする。
2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール中の1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量は、着色や分解を効果的に抑制し、かつ香気への悪影響を防止する観点から、50〜3000ppmであり、55〜2900ppmが好ましく、60〜2800ppmがより好ましく、65〜2500ppmがより好ましく、65〜1200ppmが更に好ましく、65〜500ppmが特に好ましい。
1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量が50〜3000ppmの範囲内であれば、該化合物を含有していても、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製品としての安全性については、エームス試験、急性毒性、一次皮膚刺激性、眼粘膜刺激性等のテストにおいて市販品と同等であり、問題はない。
【0009】
1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを50〜3000ppm含有し、品質保持を達成することのできる2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールは、以下の3つの製造方法(A)〜(C)によれば、工業的に有利に製造することができる。
(1)製造方法(A)
1,2−メチレンジオキシベンゼンと2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンとを反応させて、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを製造する工程(1)、及び得られた1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを加水分解反応又はアルコールとのエステル交換反応に付した後、得られた反応混合物を蒸留精製する工程(2)を行うことにより、副生する1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量を50〜3000ppmに調整する方法。
(2)製造方法(B)
1,2−メチレンジオキシベンゼン、メタクロレイン及び無水酢酸を反応させて、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを製造する工程(3)、及び得られた1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを加水分解反応又はアルコールとのエステル交換反応に付した後、得られた反応混合物を蒸留精製する工程(2)を行うことにより、副生する1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量を50〜3000ppmに調整する方法。
(3)製造方法(C)
1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量が50ppm未満の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールに、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを添加して、該化合物の含有量を調整する方法。
製造方法(A)及び(B)は、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを製造する過程において、副生物として1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンが生成することを利用し、この1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの混入量を調整する方法であり、製造方法(C)は、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを後添加して、その量を調整する方法である。
以下、製造方法(A)〜(C)について詳細に説明する。
【0010】
〔製造方法(A)〕
製造方法(A)は、下記式(1)で表される1,2−メチレンジオキシベンゼンと下記式(2)で表される2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンを反応させて、下記式(3)で表される1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを製造する工程(1)、及び得られた1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを加水分解反応又はアルコールとのエステル交換反応に付した後、得られた反応混合物を蒸留精製する工程(2)を含む。
【0013】
なお、式(3)において、アセトキシ基はシス又はトランス位置にあることを示す。
(2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン〔式(2)〕の製造)
製造方法(A)の原料として使用される2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン〔式(2)〕の製造方法は特に限定されない。例えば、触媒存在下でメタクロレインと無水酢酸とを反応させる方法(特開昭61−151152号参照)等により製造することができる。
これらの製造方法において使用される反応方式としては、連続方式、半連続方式、バッチ方式等が挙げられるが、これらの何れの方法を用いてもよい。
メタクロレインと無水酢酸とを反応させる場合、触媒としてルイス酸性を有する化合物やブレンステッド酸を使用することができる。
【0014】
ルイス酸性を有する化合物としては、例えば、ハロゲン化ホウ素化合物(三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素、三フッ化ホウ素一酢酸錯体、三フッ化ホウ素二酢酸錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素アセトニトリル錯体、三フッ化ホウ素二水和物、三フッ化ホウ素−n−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体又は三フッ化ホウ素リン酸錯体等)、金属ハロゲン化物(フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、フッ化ガリウム、塩化ガリウム、臭化ガリウム、ヨウ化ガリウム、フッ化インジウム、塩化インジウム、臭化インジウム、ヨウ化インジウム、塩化スカンジウム、臭化スカンジウム、ヨウ化スカンジウム、塩化イットリウム、臭化イットリウム、ヨウ化イットリウム、四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタン、四塩化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、四ヨウ化ジルコニウム、四塩化ハフニウム、四臭化ハフニウム、四ヨウ化ハフニウム、三フッ化鉄、三塩化鉄、二塩化鉄、三臭化鉄、三ヨウ化鉄、三フッ化ルテニウム、三塩化ルテニウム、三臭化ルテニウム、三ヨウ化ルテニウム、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、フッ化カドニウム、塩化カドニウム、臭化カドニウム、ヨウ化カドニウム、フッ化水銀、塩化水銀、臭化水銀、フッ化スズ、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ、フッ化アンチモン、塩化アンチモン、臭化アンチモン、ヨウ化アンチモン、原子番号57〜71のランタノイド三ハロゲン化物等)、金属トリフラート化合物(銅トリフラート、銅トリフルオロアセテート、銀トリフラート、銀トリフルオロアセテート、亜鉛トリフラート、亜鉛トリフルオロアセテート、カドミウムトリフラート、スズトリフラート、スカンジウムトリフラート、イットリウムトリフラート、原子番号57〜71のランタノイドトリフラート等)及び金属トリフルオロアセテート化合物(カドミウムトリフルオロアセテート、スズトリフルオロアセテート、スカンジウムトリフルオロアセテート、イットリウムトリフルオロアセテート、トリフルオロアセテート等)が挙げられる。
また、ブレンステッド酸としては、フッ化水素、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、シュウ酸、リン酸、硫酸、メタンスルホン酸及びトルエンスルホン酸等が挙げられる。
なお、上記のルイス酸性を有する化合物、及びブレンステッド酸は、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
これらの触媒の使用量は特に制限されないが、通常はメタクロレインに対して触媒的使用量、例えば当量以下で使用される。だだし、反応の進行が遅い場合や、反応が進行しない場合には当モル以上の触媒を使用してもよい。
溶媒は通常使用されないが、必要に応じて溶媒を使用することもできる。溶媒としては、例えば、炭化水素化合物類(ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等)、カルボン酸類(酢酸、プロピオン酸等)、カルボン酸エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル等)、エーテル類(ジエチルエーテルやジイソプロピルエーテル等)、及び非プロトン性極性溶媒(アセトニトリル、N,N−ジメチルイミダゾリジノン等)が挙げられる。
メタクロレインと無水酢酸との仕込みのモル比は特に限定されないが、無水酢酸/メタクロレイン(モル比)が、通常は0.5〜2.5、好ましくは1.0〜1.5である。
反応温度も特に制限されないが、通常は−30〜65℃、好ましくは0〜40℃である。
得られた2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンは、反応終了後に水洗・中和や蒸留等の精製を行った後に、工程(1)の原料として使用されるが、精製せずに使用することもできる。
【0016】
(1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(2)〕の製造)
製造方法(A)における1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの製造方法は特に限定されないが、例えば、特許文献2、46、及び7に記載の方法により合成することができる。
これらの製造方法において使用される反応方式としては、連続方式、半連続方式、バッチ方式等が挙げられるが、これらの何れの方法を用いてもよい。
2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン〔式(2)〕に対する1,2−メチレンジオキシベンゼン〔式(1)〕の仕込みのモル比(1,2−メチレンジオキシベンゼン/2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン)は特に制限されないが、通常は0.5〜50、好ましくは2〜10、より好ましくは3〜6である。
2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン〔式(2)〕と1,2−メチレンジオキシベンゼン〔式(1)〕とを反応させる場合、前記ルイス酸性を有する化合物や前記ブレンステッド酸を触媒として使用することができる。これらの触媒の使用量は特に制限されないが、通常は2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン1モルに対して、好ましくは0.001以上1モル未満、より好ましくは0.003〜0.85モル、更により好ましくは0.004〜0.50モル、特に好ましくは0.005〜0.40モルである。ただし、反応の進行が遅い場合や、反応が進行しない場合には当モル以上の触媒を使用してもよい。
2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンと1,2−メチレンジオキシベンゼンとの反応温度は、通常−10〜80℃、好ましくは10〜60℃である。この温度が80℃を超えると生成物である1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンが分解し始め、この温度が−10℃未満であると反応の進行が遅くなり、生産性が悪くなるため好ましくない。
【0017】
反応終了後、得られた反応混合物は、例えば、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法で精製することができるが、工業的な製法を考慮した場合、蒸留又は晶析で精製することが好ましい。例えば、蒸留による精製方法として具体的には、反応終了後、得られた反応混合物を水洗浄し、得られた有機層溶液から、未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンを蒸留除去すると、残渣溶液として、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕と、下記式(4)で表される1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを含有する粗製物を得ることができる。しかし、この残渣溶液の蒸留精製を更に行い、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕と、下記式(4)で表される1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを含有する粗製物を、留出物として取得することが好ましい。
【0019】
未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンの蒸留除去は、1,2−メチレンジオキシベンゼン(109℃/80torr)と目的物である1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン(170℃/5torr)の沸点を考慮して、通常は40〜175℃(1〜760torr)、好ましくは50〜150℃(3〜300torr)で行われる。蒸留により回収された未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンは、工程(1)で再使用することができる。
なお、この粗製物中の1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの量は、反応時の無水酢酸と1,2−メチレンジオキシベンゼンの仕込み比や反応温度、触媒種等によって変わるが、最大で60000ppm程度含まれる。また、下記式(4)で表される1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼン中のアセチル基は、反応で用いる2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンや無水酢酸から発生し、フリーデルクラフツ反応により導入されたものと推定される。
また、上記のような未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンの蒸留除去操作や、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの蒸留精製による取得操作を行わず、反応終了後、得られた反応混合物から、使用した触媒の分解・洗浄のみを目的とした後処理を行ったり、また、酸、塩基又は塩を加えて触媒等を分解させるだけで、水洗浄等を行わずに、そのまま次の工程(2)を行うこともできる。
【0020】
工程(2)
工程(2)は、工程(1)で得られた下記式(3)で表される1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを、加水分解反応又はアルコールとのエステル交換反応に付して、式(4)で表される1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンと下記式(5)で表される2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物を得た後、得られた反応混合物を更に蒸留精製することにより、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量が50〜3000ppmの2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを取得する工程である。
【0022】
なお、式(3)において、アセトキシ基はシス又はトランス位置にあることを示す。
(加水分解反応)
加水分解反応の方式としては、バッチ式、半連続式、連続式の何れも使用できる。加水分解反応は水を添加して行うことができるが、水と1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンとの混合を良くするために有機溶媒を用いることもできる。使用する有機溶媒の種類や使用量は、この反応を妨げない限り特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等)、脂肪族カルボン酸類(酢酸、プロピオン酸、酪酸等)、脂肪族カルボン酸エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等)及び非プロトン性極性溶媒(アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等)が挙げられる。なお、これらの溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの有機溶媒は反応後に回収し、再利用することもできる。
【0023】
加水分解反応で使用される触媒としては、酸触媒又は塩基触媒が挙げられる。
酸触媒としては、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、シュウ酸、硫酸、塩酸、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、硝酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酸性イオン交換樹脂、酸性点を持つゼオライト等が挙げられる。
塩基触媒としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシド(リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ルビジウムメトキシド、セシウムメトキシド、カルシウムメトキシド、マグネシウムメトキシド)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のカルボン酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のリン酸塩(リン酸ナトリウム等)、塩基性イオン交換樹脂、塩基性点を持つゼオライト等が挙げられる。
なお、上記の酸触媒又は塩基触媒は、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
前記触媒の使用量は、その種類によって異なるが、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン1モルに対して、通常1モル以下、好ましくは0.001〜0.5モル、より好ましくは0.005〜0.3モルである。ただし、反応速度が遅い場合や、反応が進行しない場合には当モル以上の触媒を使用してもよい。
加水分解反応における、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン1モルに対する水の使用量は、通常1〜50モル、好ましくは、1.5〜30モル、より好ましくは3〜20モルである。
加水分解反応の温度は、使用される触媒の種類や量、溶媒の種類によって異なるが、好ましくは20〜120℃、より好ましくは30〜100℃である。
【0025】
(アルコールとのエステル交換反応)
工程(2)では、工程(1)で得られた1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕をアルコールとエステル交換することもできる。この反応では、使用したアルコールの酢酸エステルが副生する。
エステル交換反応の方式としては、連続式、半連続式、バッチ式の何れも使用できる。
エステル交換反応で使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、sec−ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-オクタノール等のモノアルコールや、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリン等の多価アルコール類を使用することができる。なお、これらのアルコールは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記アルコールの使用量は特に制限されないが、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン1モルに対して、通常1〜50モル、好ましくは1.2〜30モル、より好ましくは1.5〜20モルである。未反応のアルコールは回収して、エステル交換反応に再使用することができる。
【0026】
エステル交換反応に使用される触媒に特に制限はなく、公知の酸触媒、塩基触媒、金属触媒等を使用することができる。酸触媒、塩基触媒としては、前記の加水分解反応で説明したものと同じものが挙げられる。
金属触媒の種類は特に限定されないが、例えばチタニウムアルコキシド(チタニウムテトラメトキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド等)等のチタン化合物や、スズ化合物(ジブチルチンオキシド、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、酸化スズ等)、鉛化合物(酢酸鉛、酸化鉛等)等が挙げられる。なお、これらの金属触媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
エステル交換反応の触媒の使用量は触媒の種類により異なるが、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン1モルに対して、通常1モル以下、好ましくは0.001〜0.5モル、より好ましくは0.005〜0.3モルである。
【0027】
また、使用する触媒の溶解度を上げるために、別途に有機溶媒を添加して反応させることができる。使用する有機溶媒は使用する触媒の種類により適宜決定することができ、触媒の溶解度を上げ、反応に関与しないものであれば特に限定されない。例えば脂肪族カルボン酸類(酢酸、プロピオン酸、酪酸等)、脂肪族カルボン酸エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等)、ハロゲン類(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等)及び非プロトン性極性溶媒(アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等)が挙げられる。なお、これらの溶媒は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの有機溶媒は反応後に回収し再利用することもできる。
【0028】
エステル交換反応の温度は、使用するアルコールの種類や触媒使用量により異なるが、通常0〜150℃、好ましくは20〜120℃、より好ましくは30〜100℃である。
工程(2)の反応において、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕が大量に残存すると、蒸留精製工程で該化合物〔式(3)〕が徐々に分解し、酢酸発生の原因となるため、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの転化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上にする。
【0029】
工程(2)の加水分解反応又はエステル交換反応後の反応混合物には使用した触媒が含まれるため、後処理操作として、酸や塩基で触媒を中和するか、又は触媒を除去するために水、酸性水溶液、又は塩基性水溶液で洗浄して、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼン〔式(4)〕と、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(5)〕の粗製物を得ることができる。更に、得られた粗製物から、反応残渣物を分離する目的で蒸留を行い、蒸留物として、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(5)〕と、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼン〔式(4)〕を含有する粗製物を新たに得ることもできる。
一方、このような中和や洗浄を行わずに、水、アルコール、使用した有機溶媒等の蒸留除去を行ったり、或いは反応終了後、得られた反応混合物から、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの蒸留精製を行い、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物を取得することもできる。しかし、その場合は、残存する触媒の影響により、目的物である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールが分解し、更にその分解物が蒸留物に混入する等、品質低下を起こし易くなるので、工業的に好ましい方法とは言い難い。
また、前記加水分解反応においては、副生物として酢酸が生成するため、後処理操作として、水や塩基性溶液で洗浄を行うことにより、得られる2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物中の酢酸を効果的に除去することができる。
【0030】
(蒸留精製)
次に、上記で得られた1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼン〔式(4)〕と、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(5)〕の粗製物の蒸留精製について説明する。
蒸留精製法は、単蒸留精製、精留精製のいずれの方法でもよく、蒸留方式は、バッチ方式、半連続方式、連続方式のいずれの方式でもよい。
1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼン〔式(4)〕の主留分への混入量を微調整しながら蒸留する必要があるため、これらの蒸留装置には、精留塔を設けることが好ましい。なお、精留塔の本数、蒸留回数は特に制限されない。
精留塔としては、棚段式精留塔や充填式精留塔等の通常の蒸留精製で用いられるものを使用することができる。
【0031】
充填式精留塔を使用する場合、充填物の種類は特に限定されない。しかし、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールは、蒸留温度が高くなると分解し易くなるため、蒸留釜の液温を高温に設定しなくてすむよう、精留塔の塔頂部と塔底部との差圧が小さくなるように規則充填物を使用することが好ましい。
使用できる規則充填物としては、例えば、スルーザーケムテック株式会社製「スルーザーパッキング」(金網成型タイプ)、「メラパック」(多孔金属シート成型タイプ)、グリッチ社製「ジェムパック」、モンツ社製「モンツパック」、日本フイルコン株式会社製「グッドロールパッキング」、日本ガイシ株式会社製「ハニカムパック」、株式会社ナガオカ製「インパルスパッキング」、MCパック(金網成型タイプ又は金属シート成型タイプ)、テクノパック等が挙げられる。また、精留塔や充填物の材質は、例えばステンレス製、ハステロイ製、セラミックス製、樹脂製等の通常の蒸留精製で用いられるものを使用することができる。
蒸留の加熱方法に特に制限はなく、通常使用されるジャケット式、コイル式、流下膜式、薄膜式等の熱交換器を使用することができる。その際、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(5)〕の熱分解を抑制するため、伝熱面との接触滞留時間が短い薄膜蒸発器や流下膜式蒸発器を用いることが好ましい。例えば、流下膜式蒸発器等の加熱装置を精留塔と接続することで、蒸留精製の際に、前記反応混合物中の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(5)〕自身の熱分解を抑制することができる。
【0032】
棚段式精留塔を使用する場合、棚板(トレイ)の種類は特に限定されない。
蒸留精製塔の実段数は、通常1〜200段であり、好ましくは2〜120段、より好ましくは3〜70段である。
また、還流比は各精留塔の分離状態を確認して決定すればよいが、段数が低いと分離効率が低下し、また過剰な段数は、蒸留効率上好ましくない。蒸留における還流比(=還流量/留出量)は通常0〜50、好ましくは0.1〜30、より好ましくは1〜15である。過剰な還流比では、長時間の加熱のため、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(5)〕の分解その他の反応が促進されるため好ましくない。
【0033】
1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼン〔式(4)〕(沸点:158〜159℃/14torr)は、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(4)〕(沸点:158℃/10torr)より沸点が低い。そこで、工程(2)における蒸留は、次の3つの蒸留画分(蒸留物1、2及び3)として取得することが好ましい。
すなわち、蒸留物1は、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼン〔式(4)〕が3000ppmを超える量を含有する2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールであり、蒸留物2は、本発明の目的物である1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを50〜3000ppm含有する2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールであり、蒸留物3は、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを50ppm未満含有する2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールであり、この3つの蒸留画分をこの順に取得することが好ましい。
【0034】
この蒸留精製においては、蒸留装置の蒸留釜の液温を210℃以下で行うことが好ましい。より具体的には、減圧(0.1〜100torr(0.013〜13.332kPa))下、精留塔の塔頂部において、好ましくは100〜210℃、より好ましくは140〜210℃、特に好ましくは150〜200℃である。更に、最終品取得時(主留留出時)の蒸留装置の蒸留釜の液温は、210℃以下、好ましくは125〜210℃、より好ましくは130〜200℃、更に好ましくは135〜190℃、特に好ましくは140〜185℃、最も好ましくは145〜180℃である。該温度が210℃を超えると、蒸留釜の溶液中に高沸点の副生物及び不純物が存在しなくても、高温度下では2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール自体が分解して酢酸が生成し、主留分に混入するおそれがあるので好ましくない。
一方、蒸留釜の液温を下げて蒸留するには、高真空にする必要があり、これには、高性能で特殊な真空ポンプを使用しなければならず、さらに精留塔のサイズが大きくなり、経済的に有利でない。そのため、最終品として、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量が50〜3000ppmの2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを取得する際には、上記の条件で蒸留精製を行うことが好ましい。
【0035】
特にバッチ方式で蒸留精製する場合は、連続式精留方法と比較して、精留塔内での2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの滞留時間が長くなるため熱分解により蒸留収率が低下し、さらに酢酸が副生し易くなり、更にこれが留分に混入することがある。そのため、バッチ方式では、蒸留温度を好ましくは130〜210℃、より好ましくは140〜185℃で行う。なお、蒸留の仕込みや留分、最終製品の取り出し、保存は、不活性ガス下で行うことが好ましい。また減圧蒸留中においても不活性ガスを系内にフィードする場合もある。
なお、前記の蒸留精製により、香気に影響を与えない酢酸含有量(40ppm未満)の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(5)〕を得ることもできる。
さらに、上記蒸留精製から得られる蒸留物2(本発明の目的物である1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを50〜3000ppm含有する2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール)は、そのまま最終製品として使用することができる。そのため蒸留精製は、例えば、蒸留画分に含まれる1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼン及び酢酸含有量を分析する等の操作を適宜行ない、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度が、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上になったところで、最終製品として蒸留物2の取得を開始することが好ましい。なお、蒸留物2以外の蒸留画分うち、例えば、回収した蒸留物1(1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンが3000ppmを超える量を含有する2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール)は、再度同様の蒸留精製に使用することができる。また、回収した蒸留物3(1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを50ppm未満含有する2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール)は、製造方法(c)で使用することができる。
【0036】
〔製造方法(B)〕
製造方法(B)は、1,2−メチレンジオキシベンゼン〔式(1)〕、メタクロレイン及び無水酢酸を反応させて、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕を製造する工程(3)、及び得られた1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕を、加水分解反応又はアルコールとのエステル交換反応に付した後、得られた反応混合物を蒸留精製する工程(2)を含む方法である。
工程(3)
工程(3)の具体的手法は特に限定されないが、例えば、特許文献7に記載の方法により合成することができる。
メタクロレインと無水酢酸との仕込みのモル比は特に限定されないが、無水酢酸/メタクロレイン(モル比)は、通常0.5〜2.5、好ましくは1.0〜1.5である。
また、メタクロレインと1,2−メチレンジオキシベンゼンとの仕込みモル比は特に限定されないが、1,2−メチレンジオキシベンゼン/メタクロレイン(モル比)は、通常0.5〜50、好ましくは2〜10、より好ましくは3〜6である。
工程(3)の反応においては、ルイス酸性を有する化合物やブレンステッド酸を触媒として使用することができる。これらの触媒の使用量、反応温度、反応終了後の後処理は、製造方法(A)の工程(1)で説明した、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの製造条件と同じである。
工程(3)に続く工程(2)は、製造方法(A)の工程(2)と同じである。
【0037】
〔製造方法(C)〕
製造方法(C)は、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼン含有量が50ppm未満の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(5)〕に、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを加えて、該化合物の含有量を50〜3000ppmに調整する方法である。
1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼン含有量が50ppm未満の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールとしては、製造方法(A)又は(B)で得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの精製品や、例えば、特許文献1記載のサフロールやヘリオトロピンを原料として製造された2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの精製品等が挙げられる。
【0038】
上記の製造方法(A)〜(C)によれば、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼン含有量が50〜3000ppmである2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを工業的に有利に製造することができる。得られた化合物の香料製品としての安全性は、エームス試験、急性毒性、一次皮膚刺激性、眼粘膜刺激性等の試験結果から、市販品と同等であり、問題がないことが確認されている。また、この製造方法により得られる2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールは、当該化合物の熱分解や、製造過程で混入する、香気に影響を与える酢酸の含有量が40ppm未満であることが確認されており、サフロールやヘリオトロピンから製造された従来品と異なる、よりみずみずしくクリアな香気を有している。さらに、製造方法(A)及び(B)は、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの着色及び分解抑制のために、別途に安定化剤を添加する必要がないことから、生産効率性に優れた製造方法である。
【実施例】
【0039】
本発明を実施例と比較例を挙げて具体的に説明する。なお、以下の実施例及び比較例において、「%」は特記しない限り「重量%」を意味する。
また、測定法、純度等の算出法は以下のとおりである。
【0040】
〔1〕最終製品である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度、及び1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量の測定
株式会社島津製作所製のガスクログラフィー装置「GC−2014」(検出器:FID方式、分析カラム:ジーエルサイエンス社製、TC−17(0.25mm×30m、膜厚0.5μm)を使用して測定し、面積百分率法により算出した。
2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度は、ガスクロマトグラフィーの面積百分率で算出し、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンは、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを標準物質とした修正面積百分率法で算出した(検出限界:10ppm以下)。
ガスクロマトグラフィー(GC)の分析条件においては、スプリット比は30、インジェクション温度280℃、ディテクター温度300℃、カラム温度は130℃から5℃/分の速度で280℃まで昇温し、280℃で5分間保持した。サンプル打ちこみ量は0.3μlである。
〔2〕酢酸含有量の測定
株式会社島津製作所製のガスクログラフィー装置「GC−14B」(検出器:FID方式、分析カラム:ジーエルサイエンス社製、TC−WAX(0.53mm×30m、膜厚1.0μm))を使用して測定し、絶対検量線法により算出した。
分析対象である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを、1μlのマイクロシリンジで0.6μl注入した。インジェクション温度は220℃、ディテクター温度は260℃、カラム温度は80℃で3分間保持した後に115℃まで5℃/分の速度で昇温させ、さらに230℃まで40℃/分で昇温させ、230℃で20分間保持した。
【0041】
〔3〕2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物の純度測定
株式会社島津製作所製の高速液体クロマトグラフィー装置(HPLC)「CLASS−VP」(分析カラム:東ソー株式会社製「TSKgel ODS−80Ts QA 4.6mm×250mm」を使用し、アセトニトリル/0.1%−リン酸水溶液=40/60体積比の溶離液を使用し、pH2.5、流速1.0ml/分、カラムオーブン温度40℃に設定した。UV検出器を使用し、測定波長252nm、サンプル注入量は20μlとし、面積百分率法により測定、算出した。
サンプルの調整は、測定する試料0.8gを50ml−メスフラスコに正確に量りとり、アセトニトリルでメスアップした。この溶液をホールピペットで5ml取り、50mlメスフラスコに入れ、アセトニトリルでメスアップし、得られた調製液を分析に使用した。
【0042】
実施例1
〔工程(1)〕
窒素ガス雰囲気下にて、撹拌機、冷却管、温度計を備えた20L−セパラブルフラスコに、無水酢酸1737gと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体5gとを加え、この混合液に液温を0〜20℃に維持しながら、メタクロレイン1073g(純度94.7%)を滴下し、2時間撹拌した。これに1,2−メチレンジオキシベンゼン8184gを加えた後に三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体62gを滴下し、40℃で3時間撹拌した。反応終了後、得られた反応混合物を水で洗浄し、有機層を抽出した。得られた有機層から、未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンを留去し、残渣溶液を得た。得られた残渣溶液3231gを蒸留(179〜190℃/3〜5torr)し、主留分として、1−アセトキシ−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの粗製物を2857g(純度:94.9%)得た。
〔工程(2)〕
(エステル交換反応)
得られた粗製物にメタノールを3183g、炭酸カリウム24.1g加えて35〜55℃で2時間撹拌を行った。反応終了後に反応液に85wt%リン酸水溶液22.6gを添加、撹拌した後に、未反応のメタノールを減圧蒸留にて除去した。得られた反応混合物を水洗し、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物2385g(純度:93.0%)を得た。
(蒸留精製)
次に、得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物のうち722gを1L−フラスコ付きの精留塔(充填物:スルーザーパッキングEX Φ25ミリメートル×高さ1100mm)を用いて蒸留精製した。初留分は、還流比=10(139〜152℃/6torr)で留出させ、183g取得した。次いで、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度が98.5%になった時点から主留分とし、還流比=1(152〜154℃/6torr)で留出させて、最終製品である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを440g(純度:99.6%)得た。得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール中の1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量は150ppmであった。また、酢酸含有量は、5ppmであった。
得られた最終製品を空気中、室温下(23〜27℃)に静置し、着色度(APHA)及び純度を経時的に測定し、一般的生活環境下(昼間は屋内光、夜間は蛍光灯下)での安定性を調べた。その結果を表1に示す。
【0043】
実施例2
実施例1の工程(1)及び(2)のエステル交換反応まで同様の操作を行い、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物を2330g(純度95.2%)得た。この粗製物のうち678gを用い、還流比=8で初留分118g(100〜147℃/5torr)を留出させた後に、還流比=0.5(148〜149℃/5torr)で蒸留を行い、主留分を最終製品として、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを520g(純度:99.3%)得た。初留分と主留分の切り替え時の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール純度は98.0%であった。得られた最終製品中の1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量は330ppmであった。また、酢酸含有量は、1ppm以下であった。更に実施例1と同様に着色度、及び安定性についても調べた。その結果を表1に示す。
【0044】
実施例3
〔工程1〕
窒素ガス雰囲気下にて、撹拌機、冷却管、温度計を備えた20L−セパラブルフラスコに、無水酢酸1835gと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体4.3gとを加え、この混合液に液温を0〜20℃に維持しながら、メタクロレイン1048g(純度94.4%)を滴下し、2時間撹拌した。これに1,2−メチレンジオキシベンゼン8833gを加えた後に三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体52gを滴下し、40℃で3時間撹拌した。反応終了後、得られた反応混合物を水で洗浄し、有機層を抽出した。得られた有機層から、未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンを留去し、得られた残渣溶液3007gを薄膜蒸発器(174〜185℃/3〜4torr)で蒸留し、主留分として、1−アセトキシ−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの粗製物を2660g(純度:97.0%)得た。
〔工程2〕
(エステル交換反応)
得られた粗製物にメタノールを3220g、炭酸カリウム22.0g加えて35〜55℃で2時間撹拌を行った。反応終了後に反応液に85wt%リン酸水溶液20.6gを添加、撹拌した後に、未反応のメタノールを減圧蒸留にて除去した。得られた反応液を水洗し、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物2167g(純度:95.1%)を得た。
(蒸留精製)
次に、得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物のうち792gを1L−フラスコ付きの精留塔(充填物:スルーザーパッキングEX Φ25ミリメートル×高さ1100mm)を用いて、還流比=10(圧力7〜15torr、温度109〜157℃)で初留分215gを抽出させた後、還流比=1(156〜157℃/7torr)で蒸留を行い、主留分を最終製品として、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを460g(純度:99.7%)得た。初留分と主留分の切り替え時の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度は98.5%であった。得られた最終製品中の1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量は68ppmであった。また、酢酸含有量は、6ppmであった。更に実施例1と同様に着色度、及び安定性についても調べた。その結果を表1に示す。
【0045】
実施例4
実施例1の工程(1)及び(2)のエステル交換反応まで同様の操作を行い、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物2195g(純度96.1%)を得た。この粗製物のうち、630gを蒸留精製し、還流比=8で初留分59gを留出させた後に、還流比=0.5で、主留分を最終製品として、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール組成物58.3g(97.0%)を得た。初留分と主留分の切り替え時の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度は95.0%であった。得られた最終製品中の1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量は2800ppmであった。また、酢酸含有量は、3ppmであった。更に実施例1と同様に着色度、及び安定性についても調べた。その結果を表1に示す。
【0046】
実施例5
実施例1の工程(1)及び(2)のエステル交換反応まで同様に操作を行い、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンが検出限界以下、含有酢酸量が1ppm以下である、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール(蒸留物3)を得た。この留分に対して、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを2500ppm添加して、着色度(APHA)及び純度を測定した。その結果を表1に示す。
【0047】
実施例6
〔工程(3)〕
攪拌装置と温度計を備えた300mlの3ッ口フラスコに、メタクロレイン22.1g(300mmol、純度95.0%)、無水酢酸36.8g(360mmol)、及び1,2−メチレンジオキシベンゼン171.2g(1410mmol)を入れて混合し、内温5〜45℃を維持しながら塩化鉄(III)(無水物)0.97g(6.0mmol)をゆるやかに加え、5時間攪拌した。反応終了後、得られた反応物に水200mlを加え10分間攪拌を行った。次いで、水層を分離後、有機層に再び水200mlを加え10分間攪拌を行った。再度水層を分離し、得られた有機層から、未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンを留去し、残渣溶液を得た。得られた残渣溶液をHPLCにて分析した結果、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの収量は54.9g(メタクロレイン使用量基準の収率:78.1%)であった。
〔工程(2)〕
次に、得られた1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの粗製物は、その後、実施例2における工程(2)と同様な蒸留操作を行い、主留分を最終製品として、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを27.0g(純度:99.1%)得た。得られた最終製品中の1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量は1150ppmであった。また、酢酸含有量は、18ppmであった。更に実施例1と同様に着色度、及び安定性についても調べた。その結果を表1に示す。
【0048】
比較例1
実施例1の工程(1)及び(2)のエステル交換反応まで同様の操作を行い、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを含む粗製物2288g(純度93.3%)を得た。この粗製物のうち764gを蒸留精製した。還流比=10で初留分263gを留出させた後に、還流比=1.0で主留分を400g(99.8%)得た。初留分と主留分の切り替え時の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度は99.0%であった。得られた主留分中の1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンは、検出限界以下(10ppm以下)であった。更に実施例1と同様に着色度、及び安定性についても調べた。その結果を表1に示すが、経時的な着色度の変化が非常に大きく、十分な品質を保持することはできなかった。
【0049】
比較例2
実施例2の工程(1)及び(2)のエステル交換反応まで同様の操作を行い、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物2305g(純度95.3%)を得た。この粗製物のうち、619gを蒸留精製し、還流比=5で初留分59gを留出させた後に、還流比=0.5で主留分を36.4g(96.1%)を得た。初留分と主留分の切り替え時の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度は92.0%であった。得られた主留分中の1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンの含有量は3880ppmであった。更に実施例1と同様に着色度、及び安定性についても調べた。その結果を表1に示すが、経時的な着色度の変化は少なかったものの、香気を満足することはできなかった。
【0050】
参考例1
サフロールを原料として、ヘリオトロピンを経由して得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの市販品(ACROS ORGANICS社製、95.60%)は開封時にすでにAPHA300以上の着色があった。この市販品は、1−アセチル−3,4−メチレンジオキシベンゼンを含まないが、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT:酸化防止剤)を1500ppm(ガスクロ面積百分率)含有していた。
【0051】
また、実施例及び比較例で得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール組成物について、調香師が下記の評価基準で判定した。結果を表1に示す。
(香気の評価)
○:香気に酸臭がなく、香料として実使用できる。
×:異臭が感じられ、香料として実使用できない。
(市販品(Acros organics社)との香気の違いの評価)
○:前記市販品とは異なる、よりみずみずしくクリアな香気である。
×:前記市販品と同じ香気である。
−:実施せず。
【0052】
【表1】