特許第5655953号(P5655953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5655953Al−Fe−Si系化合物及び初晶Siを微細化させたアルミニウム合金の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5655953
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】Al−Fe−Si系化合物及び初晶Siを微細化させたアルミニウム合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/02 20060101AFI20141225BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20141225BHJP
   B22D 27/20 20060101ALI20141225BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   C22C1/02 503J
   C22C1/02 501Z
   C22C21/02
   B22D27/20 B
   B22D21/04 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-538510(P2013-538510)
(86)(22)【出願日】2012年10月3日
(86)【国際出願番号】JP2012075692
(87)【国際公開番号】WO2013054716
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2014年1月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-223694(P2011-223694)
(32)【優先日】2011年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】織田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】磯部 智洋
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−096157(JP,A)
【文献】 特開2004−209487(JP,A)
【文献】 特開平01−096341(JP,A)
【文献】 特開平02−221349(JP,A)
【文献】 特開昭57−177943(JP,A)
【文献】 特表2002−535488(JP,A)
【文献】 特開昭62−227057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/02
B22D 21/04
B22D 27/20
C22C 21/02
C22F 1/00,1/043
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:10〜20質量%,Fe:0.5〜4質量%,P:0.003〜0.02質量%を含み、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯を準備し、Al‐Fe‐Si系化合物より高融点である微細な金属珪化物を含む物質を、珪化物として0.01〜1質量%の量で上記準備した溶湯に添加することを特徴とするAl−Fe−Si系化合物及び初晶Siを微細化させたアルミニウム合金の製造方法。
【請求項2】
Si:10〜20質量%,Fe:0.5〜4質量%,Mn:0.6×Fe質量%以下,P:0.003〜0.02質量%を含み、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯を準備し、Al‐Fe‐Si系化合物より高融点である微細な金属珪化物を含む物質を、珪化物として0.01〜1質量%の量で上記準備した溶湯に添加することを特徴とするAl−Fe−Si系化合物及び初晶Siを微細化させたアルミニウム合金の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金溶湯が、さらにNi:0.5〜6質量%,Cu:0.5〜8質量%のいずれか1種以上を含むものである請求項1又は2に記載のAl−Fe−Si系化合物及び初晶Siを微細化させたアルミニウム合金の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金溶湯が、さらにMg:0.05〜1.5質量%,Ti:0.01〜1.0質量%,Cr:0.01〜1.0質量%,Zr:0.01〜1.0質量%,V:0.01〜1.0質量%のいずれか1種以上を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のAl−Fe−Si系化合物及び初晶Siを微細化させたアルミニウム合金の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム合金溶湯に添加する微細な金属珪化物を含む物質が、金属珪化物の粉末そのものまたは母合金である請求項1〜4のいずれか1項に記載のAl−Fe−Si系化合物及び初晶Siを微細化させたアルミニウム合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金の製造方法に関するもので、特にAl−Fe−Si系化合物と初晶Siを微細に晶出させることができるアルミニウム合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐摩耗性に優れたアルミニウム合金として多量のSiを含有するアルミニウム合金が広く用いられている。さらに、多量のSiを含むアルミニウム合金の剛性を改善するためにFeを含有させることもよく知られている。
【0003】
しかし、多量のSiとFeを含むアルミニウム合金を製造するに際し、溶湯を冷却凝固する過程で晶出する初晶Si、Al‐Fe‐Si系化合物が粗大化してしまい、これにより強度、伸び、疲労などの機械特性が低下し、加工性が低下してしまうという問題があった。特に、Al‐Fe‐Si系化合物は硬度が高く針状に晶出するため、押し出し成形や圧延成形などの二次加工の障害となっていた。
【0004】
この多量のSiとFeを含むアルミニウム合金を製造する際の初晶SiやAl‐Fe‐Si系化合物の粗大化を防ぐために、各種の提案がなされている。
【0005】
例えば特許文献1では、「FeとNi」及び「FeとMn」の量的関係を調整して、粗大な晶出物を晶出させずに晶出物を均一微細に分散させる方法を提案している。具体的には、含有Ni,Fe,Mn量をFe≦−0.25Ni+1.75、さらにはMn≦0.6Feの関係になるように調整すると、粗大化しやすいAl(Ni,Mn,Fe)の晶出を抑えている。
【0006】
また特許文献2では、Si含有量を1.7×Fe含有量+13〜13.7質量%、Ti含有量を0.05〜0.07×Fe含有量+0.1質量%、Cr含有量を0.1×Fe含有量+0.05〜0.15質量%、Mn含有量を0.4〜0.6×Fe含有量に調整し、液相線温度以上で超音波照射をしている。
【0007】
アルミニウム合金溶湯に液相線温度以上で超音波振動を照射することにより、アルミニウム溶湯から晶出する晶出物の結晶核の芽であるエンブリオの数を増大させて、多数の微細な結晶核を生成し、微細な晶出物を晶出させている。また、アルミニウム合金溶湯の成分、組成範囲を上記のとおりに調整したことにより、各種晶出物を短時間の間に、しかもAl‐Ti系晶出物、Al‐Cr系晶出物、Al‐Fe系晶出物、単体Siの順となるように晶出させて、Al‐Fe系晶出物がAl‐Ti系晶出物及びAl‐Cr系晶出物を核として晶出させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−027316号公報
【特許文献2】特開2010−090429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の方法では、晶出物を増やすためにSi、Fe、Mn、Niなどの添加量を増加させているが、Feの添加量が多い場合には、Mn、Niの量を調整するだけでは、微細なAl−Fe−Si系化合物は得られない。
【0010】
また、特許文献2の方法では、Cr系、Ti系化合物がまず微細化しこれを異質核とすることでAl−Fe−Si系化合物を微細にしている。しかしながら、超音波照射を行うので、超音波照射設備の増設に伴うコスト上昇ばかりでなく、ホーンサイズによっては処理量に限界がある、といった問題点がある。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、簡便な手段の採用により、Al−Fe−Si系化合物と初晶Siを微細に晶出させることが可能な廉価なアルミニウム合金を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のAl−Fe−Si系化合物及び初晶Siを微細化させたアルミニウム合金の製造方法は、その目的を達成するため、Si:10〜20質量%,Fe:0.5〜4質量%,P:0.003〜0.02質量%を含み、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯に、Al‐Fe‐Si系化合物晶出の際に溶湯中に固相として存在する微細な金属珪化物を含む物質を、珪化物として0.01〜1質量%添加することを特徴とする。
【0013】
アルミニウム合金溶湯としては、Mn,Ni,Cu,Crのいずれか一種以上を含むものであってもよし、さらにMg,Ti,Cr,Zr,Vのいずれか一種以上を含むものであってもよい。
【0014】
アルミニウム合金溶湯に添加する微細な金属珪化物を含む物質としては、金属珪化物そのものの粉末または母合金が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアルミニウム合金の製造方法によれば、Si及びFeを含有するアルミニウム合金溶湯に、Al−Fe−Si系化合物の晶出の際に溶湯中に固相として存在し、かつAl−Fe−Si系晶出物の凝固核となる微細な金属珪化物を添加しておくことにより、超音波照射と同等の微細化効果が得られる。
【0016】
また、超音波照射をする際のような超音波設備は必要ないためサイクルサイムを短縮することができ、ホーンサイズに起因する処理量の制約も少なく、ホーンからの汚染もないアルミ二ウム合金を得ることができる。さらに、超音波照射と異なり確実にできている異質核を添加している点で超音波照射した際よりも信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】本発明の実施例1〜4により微細化した組織を示す図。
図1B】本発明の実施例5〜6および9により微細化した組織を示す図。
図2A】比較例1〜4での、超音波照射の有無で微細化組織の違いを示す図。
図2B】比較例5〜6での、超音波照射無しで微細化しない組織を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者等は、多量のSiとFeを含むアルミニウム合金を製造する際に、溶湯の冷却・凝固の過程で晶出する晶出物、特にAl‐Fe‐Si系晶出物の粗大化を防止し、微細に晶出させる方法について、鋭意検討を重ねてきた。
【0019】
特許文献2で提案した方法においてAl−Fe−Si系晶出物、初晶Siの微細化効果が得られたため、超音波照射によって微細化したAl−Fe−Si中の異質核を調査したところ、Cr系化合物としてCrSi、Ti系化合物としてTiSiが異質核になっていることがわかった。
【0020】
なお、本明細書中では、初晶Siと記載した場合、Al−Fe−Siなど他の化合物が初晶として晶出する場合でも共晶Siと区別するために初晶Siと記載する。
【0021】
そこで、多量のSiとFeを含むアルミニウム合金溶湯に対し、Al‐Fe‐Si系化合物晶出の際に溶湯中に固相として存在する微細な金属珪化物を含有させておけば、これがAl−Fe−Si系晶出物、初晶Siの異質核として機能して、晶出物の微細化効果が得られると推測し、本発明に到達したものである。
【0022】
なお,Al−Fe−Si系化合物晶出の際に溶湯中に固相として存在する微細な金属珪化物とはAl−Fe−Si系化合物より高融点である珪化物という意味で、CrSi,TiSi,WSi,MoSi,ZrSi,TaSi,NbSi等が想定できる。上記金属珪化物の融点は1500〜2000℃である。融点が1500〜2000℃であっても、溶湯中に保持しておくといつかは溶解してしまうが、高融点であればしばらくは固相として存在することができ、凝固核になることができる。逆に一度溶解してしまうと、金属珪化物として晶出するとは限らないので、核が無くなってしまう。例えば,Al−Si−Fe系合金ではCrSiが溶解すると,CrはCrSiとしては晶出せずに,Al−Fe−Si系化合物中のFeの一部を置換したAl−(Fe,Cr)−Siの形で晶出する。
【0023】
以下に本発明を詳しく説明する。
まず、処理前のアルミニウム合金溶湯の成分、組成範囲について説明する。
【0024】
Si:10〜20質量%
Siは、アルミニウム合金の剛性,耐摩耗性を向上させ,熱膨張を低減させるために必須の元素であり、10〜20質量%の範囲で含有させる。Si含有量が、10質量%に満たないと充分な剛性,耐摩耗性,低熱膨張が得られず、20質量%を超えるほどに多いと液相線が著しく高くなり,溶解,鋳造が困難になる。
【0025】
Fe:0.5〜4質量%
Al−Fe−Si系化合物として晶出し、アルミニウム合金において剛性を向上させて熱膨張を低下させる。Fe含有量が、0.5質量%より少ないと剛性を高めるために必要な量のAl―Fe−Si系晶出物が得られず、4質量%より多いと晶出粒子が粗大化してしまうため、加工性が低下する。さらに、4質量%を超えると異質核となるTiSi等の増加も必要となる。このとき液相線が高くなり、鋳造温度を高くする必要がある。これにより溶湯中のガス量が増加し、鋳造欠陥が発生する。また、鋳造温度の上昇は耐火材寿命の低下を招くことにもなる。
【0026】
Mn:0.6×Fe質量%以下
MnはFeを含むアルミニウム合金溶湯を冷却・凝固させる際、針状粗大なAl−Fe−Si系晶出物を塊状に変える作用があるので必要に応じて含有させる。しかし、0.6×Feより多いとFeとともに粗大な化合物が生成してしまう。Mn添加が少量のときはWSiやMoSiの添加が特に有効である。これはMn添加が少ないときに晶出するAl−Fe−Si系τ相とWSiとMoSiが同じ結晶系(正方晶)のためである。他の結晶系ではやや微細化効果が低下する。一方、Mn添加が十分行われている場合にはAl−Fe−Si系τ相(六方晶)が晶出する。τ相は異質核が存在していれば微細化しやすく、斜方晶のTiSi,ZrSi,六方晶のCrSi,TaSi,NbSi,正方晶のWSi,MoSiで微細化する。
【0027】
Cu:0.5〜8質量%
Cuは機械的強度を向上させる作用があるため、必要により添加する。またAl−Ni‐Cu系化合物として剛性も向上させて,熱膨張を低減させる。また高温強度も向上させる。この作用は0.5質量%以上の添加で顕著となるが、8質量%を超えると化合物の粗大化が進み機械的強度が低下してしさらに耐食性も低下してしまう。そこでCuの添加量は0.5〜8%にすることが好ましい。
【0028】
Ni:0.5〜6質量%
NiはCuが存在する状態ではAl−Ni‐Cu系化合物として晶出し、剛性を向上させ熱膨張を低減させる作用があるため、必要により添加する。また高温強度も向上させる。この作用は0.5質量%以上で特に効果を発揮し、6.0質量%を超えると液相線温度が高くなるため,鋳造性が悪くなる。そこでNiの添加量は0.5〜6.0質量%の範囲にすることが好ましい。
【0029】
Mg:0.05〜1.5質量%
Mgはアルミニウム合金の強度を上昇させるために有用な合金元素であるため、必要により添加する。Mgを0.05質量%以上添加することで上記の効果が得られるが、1.5質量%を超えるとマトリックスが硬くなって、靭性が低下するので好ましくない。そこでMgの添加量は0.05%〜1.5質量%にすることが好ましい。
【0030】
Ti:0.01〜1.0質量%、Cr:0.01〜1.0質量%
Tiは結晶粒を微細化する作用を有し、高温強度の向上に寄与する。また、Ti,Crは包晶系添加元素であり、Al中の拡散係数が小さく、高温で安定な固溶体を形成させ、高温強度の向上に寄与する。またCrはMnと同様に針状粗大なAl−Fe−Si系晶出物を塊状に変える作用がある。したがって、所望の特性に応じて、上記元素を所要量添加することもできる。Ti量及びCrが0.01質量%より少ないと上記のような効果を生じ難く、1.0質量%を超える程に多いと粗大な化合物が形成され、機械的強度の低下を招く。また、液相線が高くなり、鋳造温度を高くする必要がある。これにより溶湯中のガス量が増加し、鋳造欠陥が発生する。また、耐火材寿命の低下を招くこととなる。そこで、Ti及びCrの添加量はそれぞれ0.01〜1.0質量%であることが好ましい。
【0031】
Zr:0.01〜1.0質量%、V:0.01〜1.0質量%
Zr,Vは、結晶粒を微細化させ、強度及び伸びを向上させる作用があり、各々単独添加でも効果を呈するため、必要により添加する。また、Zr、Vともに溶湯の酸化を抑制する働きがあり、Vは高温強度を高める効果がある。Zr:0.01質量%未満,V:0.01%質量%未満では十分な効果が得られない。逆にZr:1.0質量%、V:1.0質量%より多いと、粗大な金属間化合物が晶出し、強度や伸びが低下する。また、液相線が高くなり、鋳造温度を高くする必要がある。
【0032】
P:0.003〜0.02質量%
Pは初晶Siの微細化剤として働く。その作用を有効に発現させるためには0.003質量%の含有が必要である。しかしながら、Pを0.02質量%を超えるほどにいれてしまうと湯流れ性が悪くなり、湯まわり不良等の鋳造欠陥が発生しやすくなる。そこで、P含有量の上限は0.02質量%とする。
【0033】
次に、アルミニウム合金溶湯に添加し、Al−Fe−Si系化合物、初晶Siの晶出の際に凝固核として作用する物質の形態、添加量等について説明する。
【0034】
各元素の組成範囲を上記のとおりに調整したアルミニウム合金溶湯に、Al−Fe−Si系化合物晶出の際に溶湯中に固相として存在する微細な金属珪化物の1種類以上を、珪化物として0.01〜1.0質量%添加する。
【0035】
Al−Fe−Si系化合物晶出の際に溶湯中に固相として存在する微細な金属珪化物は、Al−Fe−Si系化合物の異質核となり、Al−Fe−Si系化合物を微細に晶出させることができる。0.01質量%以下ではこの効果が得られず、1.0質量%を超える程に多いと溶湯の粘性が高くなって,流動性が悪化する。
【0036】
金属珪化物の具体名としては、前記したようなCrSi,TiSi,WSi,MoSi,ZrSi,TaSi,NbSi等が挙げられる。また、これらの金属珪化物は組み合わせて添加してもよい。
【0037】
金属珪化物の粉末として添加した場合、粉末そのものが異質核として作用するため効果的である。これらの金属珪化物は、アルミニウム合金溶湯に添加する際に微細な形態を維持していればよい。例えばCrSiの場合、Al-15質量%Si-4質量%Cr合金の急冷凝固材でCrSiを微細に晶出させたものや、Al-15質量%Si-4質量%Cr合金の鋳造材を塑性加工した後に微細に砕いたものなど、金属珪化物そのものの粉末に限らず母合金の形態での添加でもよい。
【0038】
母合金として添加する場合、通常の鋳造法ではCrSi等は粗大化し,Al−Fe−Si系化合物より粗大になることがあるが、Al−Fe−Si系化合物より十分小さくないと異質核として作用しないため,微細化させるために急冷にする、或いは粗大化したものを加工で細かくするなどの方法がある。また、母合金として添加する場合、金属珪化物の粉末そのものとして添加する場合より、分散性が向上し歩留まりがよくなる傾向にある。なお、CrSi等を微細にできれば他の製法でもよい。
【0039】
なお、アルミニウム合金溶湯への微細な金属珪化物の添加時期としては、溶湯の合金組成を調整した後、鋳造までの間であれば、何時でも良い。ただし、微細な金属珪化物を凝固核として効果的に作用させるためには、当該金属珪化物が溶湯全体に行き渡るように、添加後の時間を十分に確保することが好ましい。
【0040】
また、本発明者の知見によれば、一般的な鋳造保持温度より高い770℃で数時間保持しても微細化効果が得られたが、1000℃以上の高温で長時間溶湯保持すると金属珪化物が溶解する恐れがある。
【0041】
その後の鋳造方法、冷却条件等には何の制約もない。
【実施例】
【0042】
Al−25質量%Si合金,Al−5質量%Fe合金,Al−10質量%Mn合金,Al−5質量%Cr合金,Al−10質量%Ti合金、Al−19質量%Cu−1.4質量%P合金、Al−20質量%Ni合金、Al−30質量%Cu合金、Al−5質量%Zr合金、Al−5質量%V合金、純Si,純Fe、純Cu、純Mgを使用し、表1に記載の成分組成のアルミニウム合金溶湯を調製した。なお比較例6は市販のJIS-ADC12合金である。
【0043】
これらのアルミニウム合金の表2に示す温度の溶湯に、日本新金属(株)製の平均粒径2〜5μmのCrSi粉末(品番CrSi2-F)、TiSi粉末(品番TiSi2-F)、又はMoSi粉末(品番MoSi2-F)を表2に示す量で添加した。なお、比較例2,4では760℃で30秒間の超音波を照射している。Al-Cr-Si合金の組成はAl-3.5質量%Cr-15.0質量%Siであり,Al−25質量%Si合金,Al−5質量%Cr合金,純Siを使用して作製した。これを1050℃で溶解,鋳造した。鋳型はJIS4号舟型(30×50×200)とし,型温は100℃とした。Al-Cr-Si合金鋳物にはCrSiが晶出しており,これをCrSi粉末と同様にAl-Si-Fe系化合物の凝固核として作用させる。作製した鋳物を小片に切断して,微細化剤として使用した。
【0044】
その後、同じく表2に示す条件で鋳造した。鋳型サイズは、直径13mm、長さ100mmの丸棒とし、型温度140℃で鋳造した。鋳込み後、100℃/秒で冷却し、冷却された鋳物について、熱処理することなく組織観察し、晶出物の分布状況を調べた。
その結果を、併せて表2に示す。
【0045】
また、各試料の組織写真を図1A、1B、2A、2Bに示す。
実施例1、2、3と比較例1、2は、同等の成分組成を有する合金を試料とし、金属珪化物添加の効果をみている。超音波照射を行わなくても実施例1、2、3は、比較例1よりAl−Fe−Si系化合物が微細になっており、超音波照射を行った比較例2と同等の組織が得られている。
【0046】
また、実施例4、5と比較例3、4、5は、同等の成分組成を有する合金を試料とし、金属珪化物添加の効果をみている。超音波照射を行わなくても実施例4,5は、比較例3,5よりAl−Fe−Si系化合物が微細になっており、超音波照射を行った比較例4と同等の組織が得られている。
【0047】
さらに、実施例6と比較例6が同等の成分組成を有する合金を試料としている。実施例6は超音波照射を行っていない比較例6よりAl−Fe−Si系化合物が微細になっている。
【0048】
実施例9は実施例4と同等の成分組成を有する合金を試料としている。実施例4ではCrSi粉末を添加しているのに対して、実施例9ではAl-Cr-Si合金を添加しており,同等に微細なAl-Fe-Si系化合物を得ている。そして実施例9では超音波照射を行っていないが、超音波照射を行った比較例4と同等の微細組織である。また実施例9は比較例5と同等の成分組成を有する合金を試料としている。比較例5は超音波照射なし,Al-Cr-Si合金添加なしのため、Al-Fe-Si系化合物が粗大である。これに対して実施例9ではAl-Cr-Si合金添加の効果でAl-Fe-Si系化合物が微細化している。
【0049】
以上の結果から、アルミニウム合金溶湯に微細な金属珪化物を添加することにより、微細化した組織が得られることがわかる。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、簡便な手段の採用により、Al−Fe−Si系化合物と初晶Siを微細に晶出させることが可能な廉価なアルミニウム合金の製造方法が提供される。
図1A
図1B
図2A
図2B