【文献】
R. S. Werbowyj and D. G. Gray,Ordered Phase Formation in Concentrated Hydroxypropylcellulose Solutions,Macromolecules,米国,American Chemical Society,1980年,Vol.13, No.1,p.69-73
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な人口増加や工業化、都市化、生活レベルの向上を背景にして、生活用水や工業用水に必要な質・量が高まっている。
【0003】
一般に、水資源の確保は、従来自然から得られる天然水を利用するほかに、海水から蒸発法や逆浸透法を利用して真水を得る方法、あるいは、塩分を含んだかん水から逆浸透現象を利用して真水を得る方法がある。しかしながら、天然に存在する真水の資源は限られており、かつ近年の異常天候の影響で利用可能性はますます狭くなる傾向にあると言われている。また、蒸発法や逆浸透を用いて真水を作るためには、加熱や加圧のためのエネルギーを必要とするため、利用される地域は限られる。
【0004】
別の方法として、下水を再利用する方向性がある。従来の下水処理は、下水中の有機成分を活性汚泥により分解処理し、沈降ろ過等を経て処理水を放流していたが、大腸菌等のバクテリア群を完全に除去することは困難であった。しかしながら、MBRでは、活性汚泥によって処理された水を分離膜を用いてろ過するため、上記の有害バクテリア群を完全に除去することが可能であり、設備のコンパクト性や運転管理の容易さなどの利点も多く、近年非常に注目を集める技術となってきた。膜分離活性汚泥法によって分離された水は、生活景観維持水や中水として利用可能であるばかりでなく、逆浸透法と組み合わせることで上水を得ることも可能である。海水を用いた逆浸透法では塩分濃度に抗う高圧が必要であるが、MBRにより得られた処理水を原水として利用することで、安全にかつ低エネルギーで造水できることが特徴である。
【0005】
このように、MBRは、将来予想される水不足を解消する方法として注目されている。この方法をさらに改良し、低コストで高効率なシステムに仕上げるためには、膜の分離性能を維持しながら、透水性能を確保する必要性に迫られている。膜分離活性汚泥法に用いる膜として、求められる一般的な特性を下記に示す。
【0006】
まず、MBRでは、むき出しの膜を活性汚泥中に浸漬して使用するため、他の技術分野における分離膜に比べて荒い使用形態である。そのため、使用に耐える物理的強度が求められる。より具体的には、活性汚泥中で種々の夾雑物による衝撃を受けたり、ろ過によって膜間差圧(TMP)が上昇したりしても、膜の破損や変形、性能の低下が生じないようにするためには、高い強度と伸びにくい膜特性が必要である。
【0007】
また、膜が活性汚泥に浸漬された状態で長期にわたって使われると、活性汚泥の出す分泌物やその死骸そのもの、汚泥中に含まれる挟雑物などによって孔が閉塞するため、透水性能が落ちたり、これに対応するためにポンプ圧力を上げる必要が生じたりする。これが、ファウリングと呼ばれる、膜を使用する際の最大の問題であるが、この問題に対し、次亜塩素酸ソーダや塩酸などの薬剤を用いて膜を洗浄することでファウリングを解消せしめ、膜をフレッシュな状態に戻す操作が行われる。したがって、膜がこれらの薬剤に対して劣化しない薬液耐性も重要である。
【0008】
しかしながら、これらの薬剤による洗浄操作は、その際にろ過運転ができないこと、薬剤コストや作業手間、薬剤の排液処理など、経済性や環境の面で問題が多い。したがって、薬剤による洗浄操作が少なくなるよう、いかにしてファウリングを防ぎ、より長期間使用できるようにするかが最大の課題となっている。
【0009】
ファウリングを抑制する方法は鋭意研究されているが、効果のある例としては、膜構造制御(特に細孔径やその分布などの制御)と膜の親水化が挙げられる。孔径に幅があると閉塞しやすい細孔が必ず存在するため、そこからファウリングが急速に進行していくと考えられる。また、膜表面の細孔径が小さすぎたり、開孔の度合いが低い場合、細孔1つ当たりの吸引圧が大きくなるために閉塞する確率が高くなると考えられる。もう一つ、膜の親水化であるが、一般的にファウリングの原因となる物質(ファウラント)の多くは疎水性を示す。分離膜が疎水性であれば、疎水性相互作用によってファウラントが膜面に吸着されやすくなってしまうため、結果、ファウリングが容易に生じ、かつその進行も速いと考えられる。
【0010】
さらに、膜の実用面において重要なことは、親水性ができる限り持続することである。これにより、使用後の膜を洗浄・乾燥させた後に再度親水化させる手間やコストを省けるとともに、実使用中も耐ファウリング効果が長く続くため、省エネルギーおよびコスト低減に寄与できる。
【0011】
かかる透水性や親水化の問題を考慮したMBR用膜としては、膜素材として塩素化ポリ塩化ビニル(CPVC)を使用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、特許文献1では、塩素化ポリ塩化ビニルをテトラヒドロフランに溶解し、これに更にイソプロピルアルコール(IPA)とショ糖エステルを添加した溶液にポリエステル不織布を含浸した後、乾燥により相分離を起こして微孔体を形成している。しかしながら、上記の従来のCPVCを使用した膜は、乾式法により製膜するため、製造工程から出る溶媒蒸気を処理する工程上の問題が存在する。また親水化の程度、特に長期間使用したときの親水性の維持に問題があった。
【0012】
異なる親水化剤を用いた例として、疎水性基が導入されたセルロースあるいは疎水性基が導入されたヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。具体的には、ポリ塩化ビニル(PVC)またはCPVCをテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、これに更に上記のセルロース誘導体およびIPA等の非溶媒を添加した溶液に不織布を含浸させた後、乾燥により相分離を起こして微孔体を形成させている。しかし、この方法では膜成分中に親水化剤を分散させているだけであり、実使用で行う膜洗浄、特に化学薬品を用いるような膜洗浄において親水化剤が溶出しやすく、親水性持続の面で効果が薄いという問題がある。また、該特許文献2では親水化剤を樹脂材料に対して少なくとも3重量%用いる必要があり、コストがかかるという問題がある。
【0013】
親水化剤を膜表面に固定化させる例として、疎水性の限外ろ過膜にヒドロキシアルキルセルロースの固定化を狙った方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。具体的には、スルホン系ポリマーからなる限外ろ過膜をヒドロキシアルキルセルロースを含むアルコール溶液に浸漬させ、その後、蒸気または水の存在下でオートクレーブ処理すること、および沸騰水に漬けることを含む処理を行うものである。しかしこの方法では、後述するように、高温でヒドロキシアルキルセルロースの熱変性が促進されすぎてしまうことで親水性効果を低下させる可能性があり、ヒドロキシアルキルセルロースの持つ本来の親水特性を充分に発現できない問題がある。また、オートクレーブ処理や沸騰水処理の工程を設けることは、エネルギー消費量が大きくなるため省エネルギーやコストの観点から優れた方法とはいえず、また装置や工程の複雑化を強いられる可能性がある。各種ポリマー性支持材料の表面改質法の例として、疎水性膜表面に親水性ポリマーを不可逆的に吸着させる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。具体的には、ポリスルホン(PSf)膜をヒドロキシプロピルセルロース(HPC)の脱イオン化溶液に16時間含浸させ、その後、脱イオン水で16時間洗浄するものである。しかしこの方法は、後述するように、HPCを疎水膜表面に固着させるための不溶化処理および好ましい熱変性をさせていないため、HPCが該膜表面に留まらず洗浄時に溶出してしまう問題がある。
【0014】
蒸気滅菌などの高温滅菌処理耐性をもたせる目的で、HPCとポリエーテルスルホン(PES)から構成される自発的に湿潤可能な多孔質膜の例が提案されている(例えば、特許文献5参照)。具体的には、PESからなる多孔質膜にHPCを付与し、その後で蒸気滅菌処理を行うものである。しかし、この例においても特許文献3と同様、後述するように、高温でHPCの熱変性が促進されすぎてしまい、親水性効果が低下する可能性があり、HPCの持つ本来の親水特性を充分に発現できない可能性がある。
【0015】
疎水性膜フィルターのろ過速度の低下や目詰まりを起こさせないようにする目的で、疎水性膜を親水性へ改質するためにセルロース誘導体を膜表面に吸着させる例が提案されている(例えば、特許文献6参照)。具体的には、芳香族ポリマー系疎水性膜に、親水性セルロース誘導体の溶液を該溶液のゲル化もしくは白濁温度よりも10℃以上低い温度で含浸させ、次いで該溶液のゲル化もしくは白濁温度よりも20℃以上低くない温度の水で洗浄するというものである。しかし、該特許文献の内容は、HPCのゲル化や白濁の温度を示して、膜の目詰りを防止するためにその温度未満でHPCの親水化処理を行うことを教示するものにすぎない。
【0016】
膜の長期透水性を得るために、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた提案がある(例えば、特許文献7参照)。PVDFの持つ疎水性を改善するために、親水性を有する高分子成分を添加することで親水化を付与している。しかしながら、該提案では単に親水性成分をブレンドするだけであるので、使用時に親水化剤が脱落してしまうため、耐ファウリングの効果が長時間継続しない問題がある。
【0017】
また、PVDFからなる膜を親水化する例として、PVDF溶液を流延して製膜した平膜を、HPC水溶液に浸漬して親水性を付与する技術が開示されている(例えば、特許文献8参照)。本技術では、疎水性の膜をHPC水溶液に浸漬させ、その後に乾燥させている。しかしながらこの方法では、乾燥工程において、膜上の該水溶液の水分量が不均一になる可能性がある。乾燥時の加熱では、HPCを適切な温度かつ均一に熱処理できなかったり、また、局所的にHPCの濃度が高くなる/低くなる原因となりうることから、HPCの固着斑によって親水効果の不均一化につながり、結果、膜の親水性発現が不十分、かつ不均一となる可能性がある。乾燥時に風乾のみ行っている場合は、HPCの膜への固着が不十分となるため、膜の親水性発現、および親水効果の持続性が不十分となる問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をその実施の形態に基づいて説明する。本発明の実施の形態にかかる高分子多孔質平膜シートの特徴は、MBR用途に適するPVDFを含む膜に、HPCを微粒子状で分散させて固着させることにより、長期間使用しても高い透水性と耐ファウリング性が維持されるようにしたことを特徴とする。特に、このようなHPCの固着は、HPC、アルコール、および水からなる清澄な親水化含浸液(アルコール水溶液)に、上述の平膜構成体を浸漬させた後、膜中のアルコール成分の一部を揮発させてから特定範囲の温度で固着させることを特徴とする。
【0025】
本発明の平膜シートは、活性汚泥中に浸漬し、活性汚泥液中より清澄なろ液を得るMBRに使用される。MBR法では、排水を活性汚泥中に導き、有機物を中心とした排水中の汚濁物質を、反応タンクの中で大量に繁殖させた微生物、すなわち活性汚泥に捕えさせ、これを代謝または呼吸によって消費させるか、または付着させたまま汚泥として排出させる。このようにして、排水中の有機物は活性汚泥により分解され、一方で、膜を用いてろ過を行い、清澄な水だけを取り出す技術である。
【0026】
活性汚泥から浄水を分離するとき、従来法では沈殿法により分離していた。しかしながら、この方法を採用すると分離に長時間を要するため、広大な面積を必要とする沈殿池の設置が不可欠であった。また、沈殿槽の砂目を抜けて処理されるため、大腸菌等の活性汚泥に含まれるバクテリアや汚泥成分が処理水に混入するリスクが避けられない。一方、分離膜を用いたMBR法では、膜の孔径によってほぼ完全な固液分離が可能であるため、上記のリスクを著しく軽減できる上、沈殿槽を省くことができるため、処理設備や施設のコンパクト化・省スペース化にも大きく貢献できる。しかしながら、先述したように、膜を使用することによって、最大の問題であるファウリングが発生する。使用とともに膜表面にバクテリアの代謝物や死骸、代謝物である糖やポリペプチドが付着して膜を閉塞するものであるが、MBRにおいて、このファウリングに対する耐性の高い膜が出来れば、設備管理も容易となり、処理能力の向上やコストダウンにも大きく貢献可能となる。本発明の膜は、上述したように、膜の使用で問題になるファウリングを低減し、透水性などの膜性能を向上させることに成功したものである。
【0027】
本発明の平膜シートは、不織布からなる基材と、ネットワーク構造を形成するPVDFを含む膜素材とを複合して構成される。基材を構成する不織布は、膜素材を支持して膜の形態を保つのみならず、膜にかかる応力を吸収する役目を果たす。膜素材を構成する高分子材料は、基材と適度に絡み合いながら、適当な多孔構造を取ることで、分離膜としての機能を持たせることができる。
【0028】
不織布は、有機溶剤や水に溶けない高分子材料からなり、膜成分を保持しかつ膜にかかる応力を保持する能力を有するものであれば限定されない。不織布は、炭化水素系、オレフィン系、縮合系のポリマーからなることが好ましく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン(Ny)、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PVCなどから構成される。
【0029】
不織布の厚みは、好ましくは80〜150μmである。不織布は、透水膜の基材として用いるため、あまりに厚すぎると水の透過を阻害するおそれがある、また、薄すぎると強度が十分ではなく長期の使用に耐えないおそれがある。また、不織布の繊維径と目付は、透水性を確保する上で重要である。繊維径は5〜12μmが好ましい。繊維径が小さすぎると、強度が小さくなり、長期の使用に耐えず、太すぎると、全体からの見合いが少なくなり強力が十分に持てないため、これまた長期の使用に耐えないおそれがある。また、膜厚みに対して繊維径が太くなりすぎると、不織布が全体的に粗な構造となり、その結果、膜を構成するポリマー成分が不織布中に充分に保持されず欠点等の問題が生じたり、充填されるポリマー量が不十分となり、膜中に空隙が生じる可能性がある。厚み1μmあたりの目付は、好ましくは0.4〜0.8g/m
2が好ましい。目付は小さいほうが好ましいが、小さすぎると強力が小さくなるため、膜として長期の使用に耐えず、また、大きすぎると空隙が少なくなり、透水性が低下するおそれがある。
【0030】
不織布は膜を支持する部材であり、その強伸度特性は、膜強度を支配する重要な特性である。不織布の降伏強度は、縦方向・横方向ともに、幅15mmあたり15〜50Nが好ましい。降伏強度が低いと、膜に力が加わった際にすぐに塑性変形に至り元に戻らないため、高いほうが好ましい。ただし、あまり高すぎると、透水性を維持できる安価な不織布を得ることが技術的に困難となる。不織布の降伏伸度は、1〜5%が好ましい。降伏伸度が大きいと、不織布の伸びが大きくなるため、膜を形成した際のネットワークが破損するリスクが高くなるし、水圧やろ過の際の圧力で変形した状態となり、十分な透水量が得られなくなるおそれがある。また、全く伸びないと、膜に衝撃が加わった際に吸収できずに破損してしまう可能性がある。なお、得られたシートの長手方向を縦方向とする。
【0031】
膜素材を構成する高分子材料は、PVDFが使用され、サブミクロンサイズの孔を有する高分子ネットワークを相分離法により形成せしめ、膜とさせる。PVDFを用いる理由は、実使用において問題のない耐薬品性や強度、安定性を示すことと、材料コストとのバランスが非常に優れているからである。本発明品の用途において、使用時の吸引圧や洗浄時のスポンジ洗浄に耐える強度特性、次亜塩素酸ナトリウムや酸およびアルカリ系薬剤の処理に耐える耐薬品特性、そして長期にわたる使用でも分解や変形、破損しない安定性が求められる。
【0032】
本発明におけるPVDFとは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂で、複数のフッ化ビニリデン共重合体を含有しても構わない。フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンの残基構造を有するポリマーであり、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマーなどとの共重合体である。かかる共重合体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上とフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。また、本発明の効果を損なわない程度に、前記フッ素系モノマー以外の例えばエチレンなどのモノマーが共重合されていても良い。なかでも化学的強度および物理的強度の高さからフッ化ビニリデンホモポリマーからなる樹脂が好ましく用いられる。重量平均分子量は5万以上70万以下の範囲内にあることが好ましく、溶媒への溶解性や製膜性、その他樹脂との相溶性を考慮すると重量平均分子量10万以上50万以下のものが好ましい。
【0033】
PVDFは、後で述べるように溶剤に溶かして基材に塗付する。このとき、単体の高分子だけで溶液を作ると、長期保存中に白濁することがある。これを防ぐために第2成分を混入すると良い場合がある。混入する高分子としては、溶剤に溶解するものであれば良い。しかしながら、膜を作成した後の品位から言えば、PSf、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルピロリドン(PVP)などが好ましい。添加する量はPVDFに対して、好ましくは0.1〜5重量%である。
【0034】
高分子材料を溶解する溶媒としては、膜を構成する高分子を溶解するが不織布を溶解しないことが必要であり、概ね沸点が210℃以下で水溶性のものが使用できる。具体的には、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(EGMMA)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EGMEA)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(DEGMEA)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(DEGMBA)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMMA)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DPGMMA)、トリエチルホスフェート(TEP)が好適であり、単独で用いても複数種を混合してもよい。
【0035】
非溶媒を用いる場合は、水、アルコール、グリコールが好ましく、単独で用いても複数種を混合してもよい。アルコールに関しては、エタノール(EtOH)、プロパノール(1−または2−プロパノール、IPA)、ブタノール(1−または2−ブタノール、BuOH)が特に好適である。グリコールに関しては、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TEG)がさらに好ましい。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合してもよい。
【0036】
溶液中の高分子濃度は5〜40重量%である。高分子濃度が低すぎると、膜のネットワーク構造が十分発達せず、膜部分自体が長期の使用に耐えられず、濃度が高すぎると、溶液が不織布の内部にまで浸透せず、膜としての機能を果たさないおそれがある。溶媒および非溶媒からなる混合溶液中の溶媒の割合(溶媒/非溶媒)は、好ましくは10〜100重量%である。非溶剤の割合が高すぎると高分子の溶解能が損なわれ、均一な溶液を作ることができず、十分な含浸が達成できないおそれがある。低すぎると、相分離を促進する役目を果たせないおそれがある。
【0037】
高分子溶液の不織布基材への塗付・含浸の方法としては、浸漬法、コーター法、ダイ法、スプレー法などいずれの方法を用いても良い。しかしながら、塗布した表面の平滑性を保つためにはコーター法が好ましい。高分子溶液の塗付・含浸の後、相分離により膜構造を形成せしめる。相分離のためには、高分子材料を溶媒と混合して溶液を作成した後、不織布の基材に塗布・含浸し、空気中で乾燥する方法(乾式法)、凝固浴中に導き凝固させる方法(湿式法)、温度を急激に変化させる方法(熱誘起型相分離法、TIPS)などが知られている。いずれの方法を用いても良いが、TIPS法や、高分子溶液を塗布・含浸した基材を液体中にて凝固する湿式法、あるいはこれらを組み合わせた方法が、製膜管理の容易性や複雑な設備が不要であることなどから、好ましい。
【0038】
膜を構成する高分子材料は疎水性である。このため、膜の使い始めに水を通すのが困難であるだけでなく、疎水性相互作用により、使用中に活性汚泥菌の生成する代謝成分や糖、死骸などが膜に吸着されて膜を閉塞する、いわゆるファウリングの問題を生じやすい。これを回避する方法の一つとして、膜を親水化することが好ましい。なお、本発明において、シート状基材と高分子多孔質膜とが一体化しているとは、高分子多孔質層、少なくともシート状基材の一部に高分子多孔質層が入り込んだ複合層およびシート状基材が積層したようなものであってもよいし、高分子多孔質膜中にシート状基材が埋設されたものであってもよいが、いずれにしても通常の使用において高分子多孔質膜とシート状基材が剥離しない程度に一体化していることをいう。
【0039】
一般的な親水化の処理方法としては、親水化剤を高分子溶液に添加する方法、平膜構成体を作成した後で親水化剤を添加する方法、平膜構成体に表面処理をする方法などが挙げられる。これらのうちで好ましいのは、平膜構成体を作成した後で親水化剤を添加する方法、平膜構成体に表面処理をする方法などである。親水化剤は、一分子内に疎水部と親水部を併せ持つ化学物質で、膜表面や内部ネットワークに固着する機能があり、例えば糖類、セルロース誘導体、界面活性剤などを挙げることができる。具体的には、ショ糖脂肪酸エステル、HPC、ラウリル硫酸ナトリウムなどを挙げることができる。また、平膜構成体を作製した後で親水化を施す方法としては、上述の親水化剤からなる溶液に該平膜構成体を浸漬した後、温度をかけたり乾燥させたりして固着する方法が挙げられる。また、制御は難しくなるが、膜そのものを直接法にてスルフォン化したり、硫酸基をつけたりすることもできる。また、電子線やプラズマ、ガンマ線、紫外線等を当て、膜全体や膜表面を酸化させる等して、カルボン酸を付与するなどの方法も考えられる。また、後加工にて親水化剤を架橋させたり、グラフトさせる方法も親水化効果の持続といった面で有効である。
【0040】
上述のように膜の親水化の方法は様々な方法を採りうるが、コスト低減の観点からHPCを平膜構成体に付与することが好ましい。また、実排液に対する耐ファウリングの観点からも、HPCの付与が好ましい。用いるHPCの種類や特性は、本発明において限定されるものではないが、特に、平膜構成体に付与させるために用いるHPC溶液の調製のし易さ、溶液粘度の制御および維持・管理の容易さ、さらに、耐ファウリング特性と透水性能とのバランスを鑑みて、日本曹達株式会社製 HPC−Lを選定した。日本曹達株式会社の規格値によると、HPC−Lは、HPC濃度2%溶液の20℃における粘度が6.0〜10.0mPa・sの範囲にあり、ヒドロキシプロポキシ基が53.4〜77.5%の範囲にある。
【0041】
次に、本発明の高分子多孔質平膜シートの作成方法の一例について述べる。本発明において使用するHPCによる親水化前の平膜構成体は、本発明の目的を達成できる限り、実際に作製しても市販のものを使用しても良い。まず、不織布に膜を形成する高分子を溶解させた溶液を含浸する。含浸の方法としては、浸漬法、ダイを用いた含浸などいずれの方法を用いてもよい。
【0042】
不織布に高分子溶液を含浸した後、膜構造形成のための凝固ゾーンに導く。このとき、十分な開孔を確保するために凝固温度に注意することが必要である。好ましい温度は5〜90℃である。温度が低すぎると表面構造が緻密になり開孔径が下がるので好ましくない。温度が高すぎると孔径分布が広くなり、膜の分画能が低下する。
【0043】
凝固浴の成分としては、ポリマー溶液を凝固するものであればいかなる液体であっても良い。好ましくは、水、アルコールの単体もしくは混合物である。好ましい膜構造を形成させるためには、凝固剤分子の膜中への浸透速度を調整する必要がある。このために、ポリマー溶液作成時に用いた溶媒、非溶媒成分を凝固浴に添加しても良い。添加剤としては、エタノール(EtOH)、プロパノール(1−または2−プロパノール、IPA)、ブタノール(1−または2−ブタノール、BuOH)が好適である。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合してもよい。
【0044】
凝固浴の後工程で、必要であれば得られた平膜構成体の洗浄工程を導入してもよい。これは、該膜中に残存する溶媒および非溶媒を洗い流すためであり、後の工程をより円滑に行えるメリットがある。洗浄用液としては、水、アルコール、またはそれらの混合物が好適である。温度は、5℃〜沸点未満の範囲で用いることが好ましい。高い温度で用いる方が洗浄効果も高くなる傾向にあるが、その場合は用いる液体の沸点に注意する必要がある。
【0045】
該膜は凝固の後乾燥させるが、そのままではPVDFが疎水性のため膜ファウリングが早急に進むので、排水処理膜としては使えない。そこで、以下に述べる方法を用いて膜の表面を親水化する。
【0046】
上述の方法で作成した平膜構成体を、以下に述べる含浸、揮発、固着、乾燥工程を経て膜の親水化を達成する。以下に本発明の親水化の方法と出来た膜の構造的特徴について詳しく述べる。
【0047】
一般に、HPCは、その水溶液を50℃以上の温度で加熱することにより、水に対して不溶化(白濁)する性質があると言われている。しかし、本発明においては、この水溶液にアルコールを溶解させた場合、50℃以上の温度で該溶液を加熱してもHPCは不溶化せず、該溶液は透明を維持することを見出した。この現象は、アルコールの存在によってHPCが加熱時(固着工程)においても凝集・不溶化されない、すなわち、アルコールがHPCを溶液中で分散させる効果のあることを示すものである。この性質を利用し、膜の表面に均一にHPCから成る微粒子を分散固着させることにより効果的に親水化を達成せしめた。まずはHPC、アルコール(好ましくはメタノール、エタノール、IPAのどれかであり、より好ましくはIPAである)、および水からなる親水化含浸液(アルコール水溶液)に平膜構成体を浸漬させ(含浸工程)、膜細孔中にHPCからなるアルコール水溶液を広く分散させる。その後、膜中からアルコールを選択的に揮発(揮発工程)および/または洗浄してそのアルコール分量を低減させる。これにより、後述する固着工程において、膜の表面や膜内に存在する微細孔の表面に、望ましい形態でHPCが微粒子の形で適度に分散させた状態で閉塞することなく固着される。結果として、耐ファウリング特性や親水特性の発現・維持に加えて、透水性能の低下抑制(膜細孔の親水化剤による閉塞抑制)に寄与する。但し、アルコール成分を完全に揮発させてはいけない。その後、温湯を用いて所定温度に加熱して不溶化させ、膜を構成するポリマーに固着化させる(固着工程)。このとき、含浸液内にはアルコールが残っている。先に述べた様にアルコール分はHPCの白濁(ゲル化)を阻害する効果がある。このため、アルコールの存在下で固着させることにより、HPC成分が膜細孔中の一部分に偏在・局在化することなく、微粒子の状態をもって分散された状態で膜内の孔の表面に効果的に付与できる。ここでいう「微粒子」とは、HPCが集合(凝集)し、粒状あるいは塊状になったものを意味する。固着されたHPCが微粒子の状態で分散された膜の一例として、
図2のTEM画像を示す。そこではHPCは、後述する染色処理によって染色され黒色で示される。
【0048】
本発明の膜の構造的特徴について詳しく述べる。本発明においては、高分子多孔質膜の断面(高分子多孔質膜の最表面から深さ5μmの範囲かつ観察面積が20μm
2となる領域)をTEMで5千倍に拡大して得た画像において、HPC微粒子のサイズ(該微粒子の最大長と最小幅の各平均値を加算平均したもの、と定義する。)が5〜100nmであることを特徴とする。この値が小さすぎる場合は、ファウラントと膜表面の相互作用を十分阻害することが出来ないので、ファウラントが吸着しやすくなって耐ファウリング特性が低下する問題が生じる。この値が大きすぎる場合は、膜の微細孔内をHPC微粒子自身で閉塞させてしまい、透水用空間が狭くなることで、透水特性の低下や圧力損失の上昇という問題が生じる恐れがある。また、本発明においては、前述の画像においてHPCの微粒子の分散度(粒子間距離の平均偏差を平均粒子間距離で除したもの、と定義する)が0.2〜1.5の範囲であることを特徴とする。この値が大きすぎる場合は、該微粒子の分散・分布状態が著しく偏ることを表し、細孔内部の一部の空間を過度に占有してしまうこと(偏在・局在化)で透水性能が低下したり、圧力損失の上昇という問題が生じること、さらに、高分子多孔質膜表面の露出部分が広く大きくなりすぎるため、ファウラントが吸着しやすくなって耐ファウリング特性が低下する問題が生じたり、膜の親水特性の低下を招く恐れがある。逆に、この値が小さい場合とは、該微粒子の分散・分布状態がより均一であることを表すが、該高分子多孔質膜の領域(TEM画像中の不定形の島部)が存在するために該値は本来小さくなりにくい。それでも該値が上述の範囲よりも小さくなりうる場合として、膜細孔の微小領域にHPC微粒子が偏在しかつ均等に存在し、TEM画像中の上述の領域以外にはHPC微粒子が存在しないことを意味する。この状態は、該微粒子の存在しない領域、即ち、高分子多孔質膜表面の露出部分が広く大きくなりすぎるため、ファウラントが吸着しやすくなって耐ファウリング特性が低下する問題が生じたり、膜の親水特性の低下を招く問題につながるため、好ましくない。
【0049】
含浸工程について述べる。上述のようにして得られた平膜構成体は含浸工程に導かれ、親水性を発現せしめるための含浸液を付与される。耐ファウリング性能を可能な限り長く維持させるためには、HPCを適正な量だけ膜に付与させる必要がある。該含浸液は、HPCを好ましくは0.5重量%〜1.0重量%の範囲で均一に溶解させたアルコール水溶液を用いることが好ましい。用いる多孔質膜の特性に応じて、アルコールと純水の比率や、HPCの濃度を変更してもよい。該アルコール水溶液のHPC濃度が低すぎる場合は、HPCの膜への固着量が少なくなり、最終的に得た平膜シートの親水特性が悪くなってしまい、好ましい耐ファウリング特性を発現できない恐れがある。逆に、HPC濃度が高すぎる場合は、HPC微粒子の分散度を好ましい範囲に制御できない。その結果、最終的に得る平膜シートの耐ファウリング特性の発現が不十分になったり、該膜の細孔を閉塞することで透水性能を低下させる恐れがあり、好ましくない。該溶液を平膜構成体へ付与する方法としては、該水溶液を含浸液として該平膜構成体を浸漬させる方法や、ダイ等を用いて平膜構成体へ塗布する方法などが挙げられるが、含浸させる方法が最も簡便かつコスト面から好ましい。該含浸液に平膜構成体を浸漬させた後、余分な溶液をかきとりへら、またはローラーバーにて除去する工程を経てもよい。
【0050】
HPCとアルコール水溶液を形成するための該含浸液中の溶媒の好ましい比率は、アルコール重量分率にして30〜90%、好ましくは40〜70%である。溶媒中のアルコールの分率が低すぎると、膜が疎水性であるため、充分に膜構造の細孔の中まで含浸することが出来ず、好ましくない。アルコール分率が高すぎると、後で述べる固着工程において、望ましい形態のHPCからなる微粒子を形成せしめることが出来ず、好ましくない。
【0051】
揮発工程について述べる。上述の含浸工程後の平膜構成体中に存在するアルコールを一部揮発させる。この時、該膜シート内において水がアルコールよりも多いほうが好ましい。溶媒中のアルコールの濃度が低すぎると、HPCが分散せずに一部の領域へ局在化されてしまい、該領域の細孔閉塞とそれに伴う透水特性の低下の恐れがある。結果として、後述するHPC微粒子の好ましい分散状態を達成できない。高すぎると、有効な効果を発揮するサイズの微粒子を形成することができなかったり、後で述べる固着工程でHPC微粒子が充分固着しない恐れがある。揮発工程の温度および湿度は、後述のアルコール重量分率の範囲を満たすのであれば特に制限を受けないが、温度の好ましい範囲は18℃以上50℃未満である。温度が低すぎると、アルコールの揮発が抑制されすぎてしまうので効果が発現しない。温度が高すぎると、急激にアルコールが揮発したり、アルコールの揮発が促進されすぎてしまう。この場合、平膜構成体の最表面付近に高濃度のHPC溶液が偏在するようになり、好ましくない。また、揮発工程ではアルコールの揮発をより詳細に制御するために、平膜構成体の周辺に風を流すことが必要である。アルコール重量分率の範囲を満足できれば、与える風速の条件は特に制限を受けないが、好ましくは0.01〜0.5m/秒である。該風速が小さすぎると、アルコールの揮発が抑制されてしまい、アルコール重量分率を減少させられない可能性がある。逆に、風速が大きすぎると、アルコールの揮発が促進されすぎてしまい、アルコール重量分率が減少しすぎてしまう恐れがある。HPCの微粒子の形成は核形成過程である。すなわち、溶液濃度、組成がある条件を満たしたときに、分子同士の相互作用が開始し、微粒子の元になる核が形成する。最終的には、核がさらに集まって微粒子に至る。このとき、アルコールの揮発速度が重要になる。特定の範囲の速度をもって揮発させたときに、微粒子の核が形成する。揮発速度が遅いとある種の準平衡状態に陥るため、微粒子の核が出来ない。従って、十分に親水性効果を発揮するHPCの微粒子が形成しない。揮発工程の後に、平膜構成体を必要に応じて水洗槽に短時間浸漬し水洗してもよい。浸漬時間は、好ましくは3秒以下である。浸漬時間が3秒を超えると、平膜構成体の最表面に含浸液が引き戻されるため、固着工程で該平膜構成体の最表面にHPCの凝集が生じ、細孔を閉塞する等の問題を生じさせる可能性がある。また、著しく長時間水洗を行えば、固着前のHPCが洗い流されてしまう恐れもある。結果、揮発/水洗の工程を経た後の平膜構成体において、滞留時間30秒〜5分の間にHPCアルコール水溶液中のアルコールの重量分率が25〜55%の範囲に低減されるように揮発が制御される。
【0052】
固着工程について述べる。HPCを高分子多孔質膜へ固着化させるために加熱処理を行う。この加熱処理は熱水、温風、赤外線照射など方法を規定されるものではないが、熱水を用いた加熱処理が低コスト・簡便かつ膜内を含む膜全体を均一に処理できるため好ましい。また、この時の加熱処理温度は好ましくは50℃〜72℃である。50℃に満たない温度で処理を行った場合、HPC微粒子の膜への固着が困難になる。その場合、得た平膜シートの洗浄時や実使用時などにおいて水中にHPCが溶け出し、親水性の低下や失われやすくなるといった恐れがある。このことは、実液テストや実使用時のろ過吸引における差圧上昇度が高くなることからも知ることができる。一方で、72℃を超えるような高い温度で加熱処理を行うと、得られた膜が、実液を使ったろ過テストにおいて耐ファウリング特性を著しく低下させることを見出した。この理由は、加熱温度が高すぎる場合、HPCが化学的に変性してしまい、本来有する親水性等の特性を充分に発揮できないためである。
【0053】
膜性能は加熱処理する時間によっても変化しうる。好ましい処理時間としては、5分〜75分である。処理時間が短いと十分にHPCを膜に固着させることが出来ない可能性がある。処理時間が長いと、工業生産性の観点から好ましくない。
【0054】
更に、固着温度は微粒子の形成と分布にも関与する。既に述べた様に、HPCが適当な寸法のサイズの微粒子を形成し、分散状態で膜表面に固着する状態が好ましい。この微粒子の形成と微分散固着を達成するために、HPC溶液の組成と固着温度が関わっている。即ち、アルコール分率が低すぎると、HPCの溶解度が落ちるため、分散を達成できない。逆に、高すぎると該溶解度が高すぎるため、有効な効果を発揮するサイズの微粒子を形成することができない。固着温度については、低すぎると有効な効果を発揮するサイズの微粒子が形成されない。高すぎると出来た微粒子同士が相互作用した結果、融着が生じ、好ましい分散状態を達成できない。
【0055】
乾燥工程について述べる。HPCによる親水化処理後の平膜シートを乾燥させて巻き取る。乾燥条件は、水気の効率的な除去とHPCの変性を抑制するために、温度40℃〜70℃、相対湿度1%〜20%の範囲である。温度が高すぎるとHPCの変性を促進してしまう恐れがあり、温度が低すぎると乾燥不足となり、巻取り後の膜ロールの保管時に問題の生じる恐れがある。また、相対湿度が高すぎると乾燥不足となる恐れがあり、相対湿度が低すぎるとエネルギーや設備面で負担が大きくなる恐れがある。
【0056】
上述のような、含浸工程、揮発工程、固着工程、乾燥工程は連続的に処理されるため、生産効率向上やコスト低減化の検討がやりやすいといったメリットがある。その他、必要に応じて親水化剤の架橋化や膜と親水化剤とを反応・結合させるような処理装置をオンラインで導入してもよいし、後加工としてガンマ線照射やグラフト化反応をさせてもよい。
【0057】
また、平膜シートの膜表面近傍のみではなく、膜全体に着目した場合の平膜シートに対するHPCの固着割合についても、実液テストにおける耐ファウリング特性に影響を与えることを見出した。すなわち、親水性の発現および耐ファウリング効果をできる限り維持させるために、HPCの固着割合には適切な範囲がある。HPCの固着割合は、膜あたり0.4重量%〜1.0重量%である。該固着割合が少なすぎると、膜の親水性発現の程度が弱くなる可能性があり、膜の実使用時の耐ファウリング特性を維持する期間が短くなるといった問題が生じる。また、該固着割合が多すぎると、透水性が低下したり、実使用時の膜間差圧の上昇度が大きくなる・短期間で上昇するといった問題が生じる可能性がある。
【0058】
膜特性および性能について述べる。このようにして作製した本発明の平膜シートは、Porous Materials社製のパームポロメーター(PPM)での測定において、平均細孔径が0.2μm〜0.5μmである。この細孔径の範囲は、実用面において分画性能と透水性を考慮したものである。また、このPPM測定において、該平膜シートがドライ状態のときの流量が、圧力150kPaのときに20L/min.〜60L/min.である。この範囲は、長期の使用における膜強度と濾過効率を考慮したものである。この流量の値は、間接的に膜表面の開孔度合いや膜構造の緻密度合いを表すものでもある。この値が大きいほど膜表面の開孔度合いが大きかったり、膜構造が粗である傾向にある。逆に値が小さいほど、開孔度合いが小さい、あるいは膜構造が密である傾向にあると言える。これらは膜の強度や濾過効率に密接に関わることから、長期にわたって使用可能な膜であるかどうかの指標になりうる。
【0059】
平膜シートの初期性能は純水フラックス(FR)とバブルポイント(B.P.)によって評価される。純水FRは、単位時間単位面積当たりに純水を通過させることができる水の体積であり、B.P.は、細孔の最大孔径を示す指標であり、分画性能を表す。純水FR(単位:mL/cm
2/min/bar)は15〜50である。純水FRが小さすぎると、実用に供したときに必要な出水量を確保するために、平膜シートの枚数を増やしたり、ポンプによる圧力を高めたりする必要があり、経済的・エネルギー的に問題が大きい。一方、大きすぎると、膜の細孔径を大きくする必要があり、分画性能が悪くなり、膜として十分な機能を果たせなくなる可能性がある。B.P.は0.08〜0.3MPaである。B.P.が小さすぎると、分画性能が未達(細孔径が大きくなりすぎる)で、汚泥成分がろ過水に混じる可能性があり、大きすぎると、十分な透水量が確保できない可能性が高くなるため、濾過の効率が悪くなるおそれがある。
【0060】
本発明の平膜シートは、厚みが80〜150μmであることが好ましい。平膜シートは、基材である不織布によって形状を保持されているため、基材とほぼ同一の厚みとなる。厚みが厚すぎると通水時の抵抗が高まるため透水性を低下させるおそれがあるし、薄すぎると膜強度が不十分となる可能性がある。
【0061】
平膜シートの強伸度特性もまた、基本的には基材である不織布によって支配されている。降伏強度が低いと、平膜シートに力が加わった際にすぐに塑性変形に至り元に戻らないため、高いほうが好ましい。本発明の平膜シートの降伏強度は、縦方向(MD)・横方向(TD)ともに、幅15mmあたり15〜52Nが好ましい。また、降伏伸度が大きいと、平膜シートの伸びが大きくなるため、膜構造を破損するリスクが高くなるし、水圧やろ過の際の圧力で変形した状態となり、十分な透水量が得られなくなるおそれがある。また、全く伸びないと、平膜シートに衝撃が加わった際に吸収できずに破損してしまう可能性がある。したがって、本発明の平膜シートの降伏伸度は、1〜5%が好ましい。なお、得られたシートの長手方向をMDとする。
【0062】
MBR用の平膜シートの特性を評価するために、活性汚泥を用いた実液中でのろ過テストが有効である。一般的に、一定のろ過流量を保持させながらろ過を継続し、その膜間差圧上昇の度合いを見る。その差圧上昇度が長期間にわたって小さく保たれるほど、MBR用膜として優れており、実用的であるといえる。本発明では、実施例に示す条件で実液テストを行った際に、1週間の連続運転で膜間差圧が10kPaを超えるかどうかをファウリング耐性有無の指標とした。
【0063】
本発明の平膜シートは、長期使用に耐えうる特性を有する不織布を基材に用い、膜構造および孔径の制御を行って作製した膜に、HPCを膜に微粒子の状態で分散させて固着させているため、MBR用途において実使用に耐え、優れた透水性の発現と高い親水性および耐ファウリング特性を発現できる。
【実施例】
【0064】
本発明の平膜シートの優れた効果を以下の実施例によって示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中で測定した特性値の評価方法を以下に記載した。
【0065】
(1)使用した原材料
本発明で用いた原材料について述べる。(ポリマー)PVDF;SOLVAY社:SOLEF6020、(溶媒)DEGMEA;ダイセル化学工業株式会社、(親水化剤)HPC;日本曹達株式会社 HPC−L、IPA;大商化成株式会社、(基材)PET抄紙;廣瀬製紙株式会社 05TH−60 をそれぞれ用いた。
【0066】
(2)純水フラックス(純水FR)
作製した平膜シートをφ90mmの円形にカットし、ろ過用ホルダー(東洋濾紙株式会社製UHP−90Kの攪拌器を省いたもの)にセットした後、水圧0.5barをかけてホルダー出口より1分間に採取される透水量より、下記式から純水FRを求めた。なお、ろ過に使用する水は25℃のRO水とし、水圧をかけてから30秒経過後を採取開始時間とした。また、膜面からの水面高さは、3cm±1cmとなるように調整した。
(純水FR[mL/cm
2/min/bar])
=(Q[mL/min])/(A[cm
2])/(P[bar])
(Q:1分間の透水量、A:有効膜面積=48cm
2、P:水圧=0.5bar)
【0067】
(3)B.P.
作製した平膜シートを、(2)で用いたホルダーにセットし、膜面から高さ5cmとなるようにRO水を入れ、ホルダー内の圧抜き弁を開けた状態で、ホルダー出口(膜下面)より窒素圧をかけていき、膜面より水中に気泡が連続して出てきた圧力をB.P.[MPa]とした。なお、膜上面に気泡の観察を妨げずに膜をサポートできる部材をセットし、膜が下面からの圧力に対してホルダーから外れないよう工夫した。また、窒素圧の上昇速度は、1分につき0.02MPaとした。
【0068】
(4)平膜構成体および平膜シートの平均細孔径
作製した平膜シートの平均細孔径の測定は、Porous Materials社製 パームポロメーター(PPM,CFP−1200AEX)装置を用いて行った。試験タイプはCapillary Flow PorometoryのWet Up/Dry Upとし、試液としてGalWick(表面張力15.7dyne/cm)を使用した。膜サンプルは、装置付属のサンプルホルダー(o−リング内径30mm、ホルダー開口部25.4mm)に合うようセットした。下に記した測定パラメーターを装置付属の測定用ソフトに入力後、予めGalWickに5分間浸漬させてよく馴染ませた膜サンプルをサンプルホルダーにセットし、さらに該ホルダーを装置にセットした。測定はまずWet下で実施し、その後に続けてDry下での測定を実施した。
<細孔直径分布測定試験の自動試験パラメーター値>
・最小圧力;0(KPA)、最大圧力;300(KPA)
(i)バブルポイント試験/インテグリティ試験;10 bublflow(cc/m)、50 F/PT(old bubltime)、0 minbppres(KPA)、0 minbppres(KPA)、1.0 zerotime(sec)
(ii)モータバルブ制御;10 v2incr(cts*3)
(iii)レギュレータ制御;1 preginc、2 pulse delay
(iv)Lohmの校正;1378.9466 maxpres(KPA)、0.2 pulsewidth(sec)
(v)データ確定ルーチン;30 mineqtime(sec)、10 presslew(cts*3)、50 flowslew(cts*3)、20 eqiter(0.1sec)、20 aveiter(0.1sec)、0.69 maxpdif(KPA)、50 maxfdif(cc/m)
【0069】
(5)膜基材の厚み
膜基材の厚みは、膜に用いる基材から、厚み計を用いて任意の5点を計測し、その平均値とした。なお、製膜後の膜から膜成分のみを溶解させる溶媒に浸漬し、膜成分を除去して膜基材を露出させてから測定する方法でも実施した。
【0070】
(6)膜基材の繊維径
膜基材の繊維径は、基材をSEMにて撮影し、撮影された基材繊維と縮尺情報より算出した。繊維10本について算出し、その平均値を膜基材の繊維径[μm]とした。
【0071】
(7)単位厚みあたりの膜基材の目付
膜基材の目付は、10cm角に切り取った基材の重量を電子天秤にて秤量し、その結果から1m
2あたりの重量を算出し、基材の目付を得たのち、膜基材の厚みで除して、厚み1μmあたりの目付を求めた[g/m
2/μm]。
【0072】
(8)膜基材および平膜シートの降伏強度及び降伏伸度
膜基材および膜の降伏強度および降伏伸度は、テンシロン引張り測定器を用いて測定した。膜基材を幅15mm(長さ約60mm)の帯状にカットし、チャック間距離が40mmとなるよう、テンシロン引張り測定器にセットした。ロードセル条件を100kgf・レンジ10%とし、20mm/minの引張り速度にて引張り試験を実施し、応力−歪み曲線を得た。得られた曲線から、弾性変形部分と塑性変形部分の接線を直線にて描き、両者の交点を降伏点として、その点にあたる強度と降伏伸度を求めた。膜の縦方向・横方向それぞれについて、5枚の試料を測定し、その平均値を降伏強度[N/15mm]および降伏伸度[%]とした。
【0073】
(9)構造観察
平膜シート外表面近傍および平膜シート内表面近傍の断面の観察については、次の要領で実施した。平膜シートを液体窒素に浸漬して凍結させ、平膜シートの断面を露出させた後、これをSEM観察用試料台に両面テープで固定した。これら試料に白金コーティングを行い、日立(株)製の走査型電子顕微鏡(S−4500)を用いて倍率5千倍で観察した。
【0074】
(10)膜のHPCの割合
(a)平膜シート試料を約130mg(W
1、重量を記録する)を約1cm角にカットした後、バイアル瓶に重ねて入れた。他方で、(b)HPCを約10mg採取し(W
2、重量を記録する)、異なるバイアル瓶に入れた。これらの瓶に、重クロロホルム(CDCl
3)/重ジメチルスルホキシド(DMSO−d6)=2/1体積%の混合溶液6ml(C)に、標準物質としてBHT(Butylhydroxy toluene、3,5−di−tert−butyl−4−hydroxytoluene、8mg(D))を入れた溶液を1mlずつ投入し、2日間浸漬させて基材以外の成分を溶解させた。その後、(a)・(b)の溶液を別々に採取し、それぞれ400MHz−プロトンNMR測定を行った。用いた測定装置は(6)と同じとし、測定条件として、共鳴周波数399.796MHz、ロック溶媒DMSO−d6、積算回数128回、待ち時間1秒、フリップ角45度とした。BHT由来のスペクトルピークを6.8ppmと定め、これと3.8ppm付近にでるHPC由来のスペクトルピークに着目した。測定(a)におけるBHT由来スペクトルピークの積分値をI、HPC由来スペクトルピークの積分値をIIとし、測定(b)におけるBHT由来スペクトルピークの積分値をI´、HPC由来スペクトルピークの積分値をII´としたとき、次式を用いて膜あたりのHPC割合を算出した。
<膜あたりのヒドロキシプロピルセルロース割合
= II×I´×W
2/(I×II´×W
1)×100[wt%/膜]>
<(C)および(D)の調製量;同時測定サンプル数が6個以上の場合、
測定サンプル数n個として、C=(n+1)[ml]
D=(n+1)/5×8 [ml]とする。>
【0075】
(11)アルコール重量分率
(アルコール水溶液)含浸工程に用いるアルコール水溶液を約50mg(有効数字3桁で重量を記録する、W
3)秤りとり、重水素化溶媒(例えば重水素化メタノール)を予め1mL入れておいたバイアル瓶に投入した。次に、標準物質としてBHT10mgを該バイアル瓶に投入して液体に溶解させてから、この溶液をNMRチューブへ投入した。これを用い、400MHz−プロトンNMR測定を行った。用いた測定装置はVarian社 400MR、測定条件として、共鳴周波数399.796MHz、ロック溶媒は重水素化メタノール、積算回数64回、待ち時間1秒とした。BHT由来のスペクトルピークを6.9ppmと定め、これとアルコール由来のピーク(例えば、2−プロパノールの場合は3.9ppm付近または1.2ppm付近のもの)を用い、積分強度、各ピークに対応する水素原子数、BHT投入量から、該アルコール水溶液中のアルコールの重量(W
4)を算出した。この値と最初に秤り取ったアルコール水溶液の重量(W
3)から、次式を用いてアルコール重量分率を算出した。
アルコール重量分率(%)=W
4/W
3×100
(平膜シート)揮発工程を通過した平膜シート試料を4×5cm四方に切り取って重量を測定し(W
5、有効数字3桁)、これを約1cm角にカットして、アルコール水溶液のみを選択的に溶解できる重水素化溶媒(例えば重水素化メタノール)を予め1mL入れておいたバイアル瓶に全て投入した。(これら一連の作業は手早く行うこと。)該バイアル瓶を密閉し、膜試料が重水素化溶媒に完全に浸漬するようにして室温下で24時間以上おき、膜試料に付着したアルコール水溶液を完全に抽出させた。次に、標準物質としてBHT2mgを該バイアル瓶に投入して抽出液とよくなじませ、該バイアル瓶内の抽出液をNMRチューブへ投入した。このNMRチューブを用い、400MHz−プロトンNMR測定を行った。用いた測定条件は、積算回数を256回としたこと以外、上述のアルコール水溶液の内容と同等とした。BHT由来のスペクトルピークを6.9ppmと定め、これとアルコール由来のピーク(例えば、2−プロパノールの場合は3.9ppm付近または1.2ppm付近のもの)を用い、積分強度、各ピークに対応する水素原子数、BHT投入量から、平膜シートに付着していたアルコール水溶液中のアルコールの重量(W
6)を算出した。さらに、該膜試料を取り出して絶乾させた後の膜試料重量を(W
7、有効数字3桁)としたとき、次式を用いて平膜シートに付着していたアルコール水溶液中のアルコール重量分率を算出した。
アルコール重量分率(%)=W
6/(W
5−W
7)×100
【0076】
(12)実液テスト(ファウリングの程度)
実際の汚泥液を用いて、膜のファウリング特性を調べた。装置は、宮本製作所製の浸漬型膜分離活性汚泥法テスト装置(Model IMF−5)を用いた。装置槽内のMLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)濃度を10,000mg/L程度になるよう活性汚泥液を調製し、作製した膜を両面に貼り付けた膜カートリッジをセットした。膜面積1m
2あたり、0.6m
3/日のろ過速度にてチューブポンプによる吸引ろ過運転を行った。ろ過運転中は、30℃に保ち、運転停止時間を設けず連続運転として、膜カートリッジ下部より連続して曝気を行った。曝気量は、膜カートリッジ1個あたり2L/min.となるように調整した。この状態で1週間運転を続け、膜間差圧の上昇をモニターすることでファウリングの程度を判定した。1週間での差圧上昇が10kPaを超えるかどうかを目安とした。
【0077】
(13)TEM観察
平膜シート試料を切り出し、エポキシ樹脂で脱気包埋した。包埋した試料を、超音波ナイフを装着したミクロトームで厚さ約100nmの超薄切片とし、濃度0.5%のリンタングステン酸水溶液中で30分間浸漬・染色させた。その後に水洗し、カーボン蒸着を施してTEM観察用の試料とした。装置に日本電子(株)JEM2100透過電子顕微鏡を用い、加速電圧200kVとして、測定倍率5,000倍で膜表面近傍(膜最表面から深さ方向に5μm程度まで、かつ観察領域面積は20μm
2)における断面の観察・写真撮影を行った。この時のTEM画像のサイズは、4008×2672ピクセルとした。
【0078】
(14)HPC微粒子の分散度、サイズ
(13)で得た平膜シートのTEM画像(BMPファイルまたはJPEGファイル)を、画像解析ソフトウェア 旭化成エンジニアリング株式会社製 A像くん(ver.2.52)を用いて以下の解析を実施した。
(HPC微粒子の分散度)上述の解析ソフトウェアを立ち上げ、メニューバーの「画像入出力」から「JPEGファイル入力」または「BMPファイル入力」を選択してTEM画像を取り込んだ。「縮尺新規設定」を用い、画像中の基準目盛線と該基準線の長さを入力し「登録」した後、「画像転送」で該解析ソフトに画像情報を転送させた。メニューバーの「画像解析」から「分散度計測」を選び、続いて表示される「パラメータ」ウィンドウで次のように選択した。測定方法;壁間距離法、粒子の明度;暗、2値化の方法;手動、範囲指定;無、外縁補正;無、穴埋め;有、小図形除去面積;10画素、補正方法;無、雑音除去フィルタ;有、シェーディング;無、結果単位表示;nm。「実行」を押し、「しきい値設定」ウィンドウで山状に図示されるヒストグラムの連続した底辺のうち、最も小さい値を選択した(この時、ヒストグラムの山の底辺の小さい側が0まで連続している場合は、山の最長部の高さを基準に、その2%の高さである山の端部(麓部位)の値を選択する。この高さ2%の端部の値は、該値の大きい側(明部)と小さい側(暗部)の2種存在するが、小さい方(暗部)を選択すること)。これを該しきい値として「決定」し、HPC由来の微粒子領域のみを選択した。得られる計測結果ウィンドウに表示される値の中から、「分散度」で示される値を用いた。定義は次式の通りである。(該ソフトウェアのマニュアルに記載されている。)
HPC微粒子の分散度=粒子間距離の平均偏差/平均粒子間距離
(HPC微粒子のサイズ)上述の解析ソフトを立ち上げ、メニューバーの「画像解析」から「粒子解析」を選び、続いて表示される「パラメータ」ウィンドウで次のように選択した。粒子の明度;暗、2値化の方法;手動、範囲指定;無、外縁補正;無、穴埋め;無、小図形除去面積;10画素、補正方法;無、雑音除去フィルタ;有、シェーディング;無、結果単位表示;nm、計測項目;面積・周囲長・最大長・最小幅。「実行」を押し、しきい値設定ウィンドウでの設定は上述と同様に設定し(分散度で扱うTEM画像と同じ画像の場合は、しきい値を同じ値とする)、HPC由来の微粒子領域のみを選択されるようにした。得られる「計測結果」ウィンドウに表示される値の中から、最大長の平均値(X)、最小幅の平均値(Y)を確認し、下式から微粒子のサイズを求めた。
HPC微粒子のサイズ(nm)=(X+Y)/2
【0079】
(実施例1)
製膜原液用の樹脂成分としてPVDFを用い、溶媒にDEGMEAを用いた。これらを160℃で4時間撹拌・溶解させた後に静置脱泡させて、PVDF20重量%、DEGMEA80重量%の高分子溶液を調製した。巻出し用フリーロールにPET抄紙からなる基材ロールをセットし、基材を巻き出して、前記高分子溶液を加熱可能なコンマコーターまたはダイを用いて塗布・含浸させたのち、水60重量%とDEGMEA40重量%からなる10℃の凝固液に浸漬させた。凝固浴の通過時間を1分間とし、膜を形成させた。その後、形成した膜を90℃の温水浴を約1分間通過させて残存溶媒・非溶媒を取り除いた後、60℃に調整した乾燥ゾーンを通過させて(約5分間)、巻取り機で巻きとった。このようにして平膜構成体を作成した。次に、該平膜構成体を用いてHPCの付与を行った。巻出し用のフリーロールに該平膜構成体のロールをセットし、HPC(0.7重量%)、IPA(49.65重量%)、水(49.65重量%)からなるアルコール水溶液が入った含浸槽へ(気泡が入らないように)該膜ロールを巻き出しながらゆっくり浸漬させた。含浸槽の温度は約20℃で、該膜の浸漬時間は15分間とした。該膜を含浸槽から引き上げた後、温度25℃、風速0.03m/秒、処理時間2分の条件で膜中の2−プロパノールをゆっくりと揮発させた。さらに、純水の入った水洗槽に極わずかに浸した(1秒以下)。水洗槽から出てきた膜に含まれていた含浸液(アルコール水溶液)中のアルコール重量分率は約35%であった。その後、該膜を65℃の熱水処理槽へ15分間浸漬させた。熱水処理槽から該膜を引き上げた後、乾燥ゾーンで温度40℃、相対湿度10%、処理時間15分の条件で該膜を乾燥させた。最後に該膜を巻取り機でゆっくり巻き取った。これら一連の作業において、基材および膜に不具合は見られなかった。後処理(親水化)条件を表1に、結果を表2にまとめた。
【0080】
(実施例2、3)
揮発工程および水洗後の平膜構成体において、該膜に含まれるアルコール水溶液のアルコール重量分率が、それぞれ27%、52%に調整されたこと以外は、実施例1と同様の方法で平膜シートを得た。後処理(親水化)条件を表1に、結果を表2にまとめた。
【0081】
(実施例4、5)
熱水処理槽の温度を55℃、71℃にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で平膜シートを得た。後処理(親水化)条件を表1に、結果を表2にまとめた。
【0082】
(実施例6、7)
平膜構成体の熱水処理槽への浸漬時間を、5分、60分へそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で平膜シートを得た。後処理(親水化)条件を表1に、結果を表2にまとめた。
【0083】
(実施例8)
HPC溶液に含まれるアルコール成分をエタノールに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で平膜シートを得た。後処理(親水化)条件を表1に、結果を表2にまとめた。
【0084】
(実施例9、10)
含浸槽中のアルコール溶液のHPC濃度を0.97wt%に変更したことと、揮発工程および水洗後の平膜構成体において、該膜に含まれるアルコール水溶液のアルコール重量分率が、それぞれ52%、27%に調整されたこと以外は、実施例1と同様の方法で平膜シートを得た。後処理(親水化)条件を表1に、結果を表2にまとめた。
【0085】
(比較例1、2)
揮発工程および水洗後の平膜構成体において、該膜に含まれるアルコール水溶液のアルコール重量分率が、それぞれ20%、60%に調整されたこと以外は、実施例1と同様の方法で平膜シートを得た。HPCの付与条件の詳細を表1に、膜特性の詳細を表2に記した。後処理(親水化)条件を表1に、結果を表2にまとめた。
【0086】
(比較例3、4)
熱水処理槽の温度を45℃、73℃へそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で平膜シートを得た。後処理(親水化)条件を表1に、結果を表2にまとめた。
【0087】
(比較例5)
HPCアルコール水溶液の液体成分を2−プロパノールのみに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で平膜シートを得た。後処理(親水化)条件を表1に、結果を表2にまとめた。
【0088】
(比較例6、7)
含浸槽中のアルコール溶液のHPC濃度を1.1wt%に変更したことと、揮発工程および水洗後の平膜構成体において、該膜に含まれるアルコール水溶液のアルコール重量分率が、それぞれ60%、20%に調整されたこと以外は、実施例1と同様の方法で平膜シートを得た。後処理(親水化)条件を表1に、結果を表2にまとめた。
【0089】
(比較例8)
含浸槽中のアルコール溶液のHPC濃度を0.8wt%に変更したことと、揮発工程および水洗後の平膜構成体において、該膜に含まれるアルコール水溶液のアルコール重量分率を60%に調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で平膜シートを得た。後処理(親水化)条件を表1に、結果を表2にまとめた。
【0090】
(比較例9)
平膜構成体にHPC付与を行わなかった。結果を表2にまとめた。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
表2の結果から明らかなように、実施例1〜10は比較例1〜9に対して、高い透水性能と良好なバブルポイントを持つ膜が得られている。また、HPCの微粒子が高分子多孔質膜の微細孔表面で分散されて固着されている。これら膜特性や膜へのHPC固着処理の相乗効果によって、実汚泥液のろ過テストで優れた結果(差圧上昇度が小さい)が得られている。一方で、比較例1は、膜中のアルコール重量分率を低くした結果、HPC微粒子のサイズが大きくなった。また、純水FRが低く、かつ実液テスト差圧上昇が高くなった。比較例2では、膜中のアルコール重量分率を高くした結果、HPC微粒子サイズが著しく小さくなり、粒子サイズおよび分散度の値も低いものとなった。また、実液テスト差圧上昇度も高くなった。比較例3では、HPCの熱処理温度が低いため、多孔質膜への固着が不十分となり、実液テスト差圧上昇度が高くなった。このときのHPCの微粒子のサイズは小さくなっており、また分散度も低くなった。比較例4では、同熱処理温度が高すぎることから、HPCの微粒子のサイズ、および分散度の値が著しく大きいものとなり、さらに、実液テスト差圧上昇度が高くなった。比較例5は、含浸工程におけるHPC溶液の溶媒にIPAのみを用いたところ、HPC微粒子サイズが小さくなり、分散度の値も低いものとなった。また、純水FRが著しく高くなり、実液テスト差圧上昇度が高くなった。比較例6は、含浸液のHPC濃度を増やし、さらにアルコール重量分率の値を大きくした結果、粒子サイズが著しく小さくなり、かつ分散度の値が著しく大きくなった。また、実液テスト差圧上昇度も高くなった。比較例7は、含浸液のHPC濃度を増やし、さらにアルコール重量分率の値を小さくした結果、粒子サイズが著しく大きくなり、かつ分散度の値も著しく大きくなった。また、実液テスト差圧上昇度も高くなった。比較例8では、膜中のアルコール分率の値を大きくし、含浸槽のHPC濃度を上げた結果、HPC微粒子サイズが著しく小さいものとなった。また、実液テスト差圧上昇度が高くなった。比較例9ではHPC付与をしていない疎水膜であるため、汚泥成分が吸着しやすい挙動が見られ、実液テスト差圧上昇度が著しく高くなった。
【解決手段】不織布製のシート状基材とポリフッ化ビニリデンを含む高分子多孔質膜とからなる平膜構成体を含む平膜シートであって、前記平膜シートにヒドロキシプロピルセルロースが微粒子の状態で分散して固着されており、前記平膜シートの最表面から深さ5μmの範囲におけるヒドロキシプロピルセルロースの微粒子のサイズが5〜100nmであることを特徴とするMBR用高分子多孔質平膜シート。