(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5656070
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】振動式絶対圧トランスデューサ
(51)【国際特許分類】
G01L 9/00 20060101AFI20141225BHJP
【FI】
G01L9/00 307
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-285721(P2010-285721)
(22)【出願日】2010年12月22日
(65)【公開番号】特開2012-132806(P2012-132806A)
(43)【公開日】2012年7月12日
【審査請求日】2013年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関森 幸満
【審査官】
山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−010141(JP,A)
【文献】
特開2010−281573(JP,A)
【文献】
特開平09−033371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
両端が前記半導体基板に固定された振動子と、
前記振動子を励振するための電圧を入力または前記振動子の周波数に応じた電気信号を取り出すための複数の端子とを備え、
前記半導体基板は、ダイアフラムを有さず、
前記複数の端子のすべてが、前記半導体基板上において、前記振動子の一方の固定端を通り、前記振動子の長手方向と直交する固定端線よりも外側の領域に配置されており、
前記半導体基板の前記振動子固定面の裏面の、最も前記固定端線側の端子と前記固定端線との間に対応する領域に、前記複数の端子毎に凹部が形成されていることを特徴とする振動式絶対圧トランスデューサ。
【請求項2】
前記凹部は、エッチングにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の振動式絶対圧トランスデューサ。
【請求項3】
前記複数の端子には、バンプ構造が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の振動式絶対圧トランスデューサ。
【請求項4】
前記複数の端子は、配置されている半導体基板面で最も高い位置に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の振動式絶対圧トランスデューサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動式絶対圧トランスデューサに係り、特に、振動子の長手方向の歪を検出して静圧を測定する振動式絶対圧トランスデューサにおいて測定精度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板上に振動子を形成し、歪による振動子の共振周波数の変化を検出することにより印加された物理量を測定する振動式トランスデューサが伝送器等において広く用いられている。
【0003】
図12は、振動式トランスデューサを振動式圧力センサチップに適用した場合の構造を示している。本図に示すように振動式圧力センサチップ50は、裏面にダイアフラム505が形成されたシリコン基板500に4本の振動子501(便宜的に1つの振動子のみ符号を付している)が形成され、2本の振動子を組として2つのシェル502で覆われている(便宜的に1つのシェルのみ符号を付している)。
【0004】
シリコン基板500上には、端子として、それぞれの振動子501に接続するためのボンディングパッド503a、ボンディングパッド503b、ボンディングパッド503c、ボンディングパッド503dと、それぞれのシェル502に接続するためのボンディングパッド503e、ボンディングパッド503fと、シリコン基板500の電位を定めるためのボンディングパッド503gが形成されている。
【0005】
振動式圧力センサチップ50は、ボンディングパッド503から与えられる電圧による静電力等によって振動子501を励振し、ダイアフラム505を介して振動子501に印加された歪を振動子501の共振周波数の変化として検出することで圧力の測定を行なう。共振周波数の変化は、ボンディングパッド503から取り出される電気信号に基づいて検出することができる。
【0006】
振動式圧力センサチップ50は、例えば、
図13に示すように静圧、差圧両方の圧力を測定する圧力センサ600として用いられる。本図おいて、振動式圧力センサチップ50は、ダイアフラム505の下面側に支持部材62が接合されており、ダイアフラム505の上面側と下面側とが隔てられている。ダイアフラム505の上面側は、キャップ61が取り付けられ、ダイアフラム505の下面側は、圧力導入経路63が形成されている。
【0007】
また、振動式圧力センサチップ50の各ボンディングパッド503は、ハーメチック構造65で取り付けられたリードピン64と、ワイヤ66によりボンディングされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−70287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、振動式トランスデューサを、静圧によってセンサチップ自身に生じた歪を検出することで絶対圧を測定する振動式絶対圧センサチップに適用する場合を考える。この場合、センサチップ自身に生じた歪は、両端部がシリコン基板に固定された振動子の長手方向の歪を振動子の共振周波数の変化によって検出することで測ることができる。
【0010】
静圧による振動子の長手方向の歪を検出するため、センサチップが、振動子の長手方向に、静圧以外の外部から応力を受けると、測定精度が悪化することになる。外部からの応力は、主としてボンディングパッド等の端子やセンサ本体との固定部分において受ける。この応力による歪はダイアフラムに集中しやすい。このため、振動式絶対圧センサチップを振動子の長手方向の歪を考慮していない従来の振動式圧力センサチップと同様の端子配置とすると、ワイヤとの接続歪や材質の違いによる静圧歪の差、センサ本体に取り付けたときの接合歪等による応力が振動子の長手方向の歪に影響を与え、測定精度の悪化を招くことになる。
【0011】
そこで、本発明は、振動子の長手方向の歪を検出して静圧を測定する振動式絶対圧トランスデューサにおいて測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の振動式絶対圧トランスデューサは、半導体基板と、両端が前記半導体基板に固定された振動子と、前記振動子を励振するための電圧を入力または前記振動子の周波数に応じた電気信号を取り出すための複数の端子とを備え、前記半導体基板は、ダイアフラムを有さないことを特徴とする。
【0013】
ここで、前記複数の端子のすべてが、前記半導体基板上において、前記振動子の一方の固定端を通り、前記振動子の長手方向と直交する固定端線よりも外側の領域に配置されていることが望ましい。
【0014】
また、前記半導体基板の前記振動子固定面の裏面の、最も前記固定端線側の端子と前記固定端線との間に対応する領域に凹部を形成することができる。前記凹部は、エッチングまたは切削により形成することができる。
【0015】
また、前記複数の端子には、バンプ構造を形成することができ、前記複数の端子は、配置されている半導体基板面で最も高い位置に設けることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、振動子の長手方向の歪を検出して静圧を測定する振動式絶対圧トランスデューサにおいて測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】、本発明の振動式絶対圧トランスデューサを振動式絶対圧センサチップに適用した場合の構造を示す図である。
【
図2】振動式絶対圧センサチップが検出する静圧を説明する図である。
【
図3】振動式絶対圧センサチップの端子の配置について説明する図である。
【
図4】振動式絶対圧センサチップを、バンプを用いて圧力センサに取り付けたときの図である。
【
図6】振動式絶対圧センサチップを、ワイヤボンディングにより圧力センサに取り付けたときの図である。
【
図7】拡散を防ぐバリアメタル層を積層した例を示す図である。
【
図8】シリコン基板の裏面に、凹部を形成した例を示す図である。
【
図9】シリコン基板の裏面に、凹部を形成した他例を示す図である。
【
図10】端子を複数列に配置した例を示す図である。
【
図12】振動式トランスデューサを振動式圧力センサチップに適用した場合の構造を示す図である。
【
図13】静圧、差圧両方の圧力を測定する圧力センサの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の振動式絶対圧トランスデューサを振動式絶対圧センサチップに適用した場合の構造を示している。
【0019】
本図に示すように、振動式絶対圧センサチップ10は、半導体基板であるシリコン基板100に両端が固定された振動子110a、振動子110bが平行に形成されており、振動子110a、振動子110bは、シェル120に覆われている。ここで、振動子110a、振動子110bの両固定端の長手方向と直交する線を、振動子固定端140、振動子固定端142と称するものとする。以下では、振動子110a、振動子110bを区別する必要がない場合には、振動子110と総称する。
【0020】
振動式絶対圧センサチップ10には、配線112aを介して振動子110aと接続する端子130a、配線112bを介して振動子110bと接続する端子130b、配線122を介してシェル120と接続する端子130c、シリコン基板100の電位を定めるための端子130dが、シリコン基板100の片側端部に配置されている。各端子についても、区別する必要がない場合には、端子130と総称する。
【0021】
振動式絶対圧センサチップ10は、
図2に示すように、静圧を、振動子110の長手方向に発生する歪によって絶対圧として検出する構造となっている。このため、シリコン基板100には、ダイアフラムは形成されない。振動子110の長手方向に発生する歪は、振動子110の共振周波数の変化によって検出される。
【0022】
すなわち、振動式絶対圧センサチップ10は、端子130から与えられる電圧による静電力等によって振動子110を励振し、振動子110の長手方向に発生した歪を振動子110の共振周波数の変化として検出することで絶対圧の測定を行なう。共振周波数の変化は、端子130から取り出される電気信号に基づいて検出することができる。
【0023】
なお、振動子110の励振方法、共振周波数を用いた歪検出方法は種々の手法を用いることができる。したがって、シリコン基板100に設けられる端子の数は4つに限られない。また、振動子110の数も2本に限られない。
【0024】
上述のように、本実施形態の振動式絶対圧センサチップ10は、シリコン基板100にダイアフラムが形成されていない。すなわち、従来の振動式圧力センサチップ50のように、ダイアフラム505を有し、ダイアフラム505の歪も計測する構造の場合、接合などによる歪が、ダイアフラム505に集中しやすい。
【0025】
仮に、振動式絶対圧センサチップ10のシリコン基板100にダイアフラムを形成したとすると、ダイアフラムに集中した歪は、ダイアフラムが撓むような歪を発生させるため、振動子110の長手方向と直交する歪が、振動子110の長手方向への歪も発生させることになってしまう。
【0026】
そこで、本実施形態の振動式絶対圧センサチップ10は、シリコン基板100にダイアフラムを形成しないことによって、歪の影響を受けづらくし、測定精度を向上させている。
【0027】
また、本実施形態では、すべての端子130がシリコン基板100の片側端部に配置されている。これにより、振動式絶対圧センサチップ10が、振動子110の長手方向に、測定に影響与えるような外部からの応力を受けないようにしている。
【0028】
すなわち、複数の端子130が、振動子110を両端から挟むような配置や振動子110の長手方向に並ぶような配置とすると、接続歪や材質の違いによる静圧歪の差、センサ本体に取り付けたときの接合歪等による応力が振動子110の長手方向の歪に影響を与えることになってしまう。これは、特にバンプによって外部回路と固定状態で接続した場合に顕著となる。
【0029】
これに対して、本実施形態では、振動子110の固定端の片側だけにすべての端子130が配置されているため、外部の応力が振動子110の長手方向の歪に影響を与えることを防いでいる。
【0030】
本実施形態の端子130の配置箇所についてより一般化すると、
図3に示すように、振動子固定端140よりも外側の領域Aにすべての端子を配置すればよいことになる。もちろん、もう一方の振動子固定端142よりも外側の領域Bにすべての端子を配置してもよい。ただし、領域A、領域Bの両方に分散させて端子を設けることは、端子で振動子110を両側から挟むことになるため、不可である。
【0031】
振動式絶対圧センサチップ10は、例えば、
図4に示すような圧力センサ200に取り付けられて用いられる。振動式絶対圧センサチップ10は、圧力センサ200のダイアフラム21が受けた圧力を静圧として計測する。振動式絶対圧センサチップ10の各端子130は、ハーメチック構造24により取り付けられたリードピン23とバンプ25により接続され、これにより、振動式絶対圧センサチップ10が固定される。振動式絶対圧センサチップ10は、外部からの応力を受けないようにするために、バンプ25以外の箇所では、外部回路や圧力センサ200本体に接触しないようにする。なお、圧力センサ200の振動式絶対圧センサチップ10に対向する面には絶縁抵抗体22が形成されている。
【0032】
振動式絶対圧センサチップ10の端子130がバンプ25で固定されることにより、端子130間は、接続対象の材料特性に応じた静圧歪の影響を受けるが、本実施形態では、端子130が振動子110を挟まない配置となっているため、測定への影響を排除することができる。
【0033】
バンプ25を形成する材料は、接合性の良好な材料としてAl、Au、Snなどを含有したAu合金等を使用することが望ましい。バンプ構造は、
図5(a)に示すように、薄膜に凸形状の段差を付けた構造でもよいし、
図5(b)に示すように、ボールボンダでバンプを取り付けてもよい。
【0034】
また、振動式絶対圧センサチップ10にバンプ構造を形成しない構成としてもよい。この場合、外部回路側にバンプ構造を形成して接続するようにしてもよいし、
図6に示すようにワイヤ26によるワイヤボンディングで接合してもよい。この場合、固定部材27により圧力センサ200本体に取り付けるが、取り付け部分からの影響を避けるため、固定部材27はなるべく柔らかい材料を用い、かつ取り付け面積が小さくなるようにすることが望ましい。
【0035】
ただし、絶対圧センサの場合、固定部材27は必ずしも必要ではなく、ワイヤ26によって電気的な結線をするのみでよい。この場合、接合による歪の発生は一層小さくなる。
【0036】
測定媒体を直接的に振動式絶対圧センサチップ10に導入し、振動式絶対圧センサチップ10と測定媒体とが接触する使用方法の場合は、腐食性ガスや水分などに対する耐食性を考慮した端子材料とすることが望ましい。さらに、接合性、膜の密着性、シリコン基板100とのコンタクト抵抗なども考慮した材料構成とする必要がある。表層の材料を例示すると、Au、Au合金等が挙げられる。
【0037】
端子材料にAu、SnなどのSiと共晶しやすい材料を含み、製作プロセスで高温になる工程が必要となる場合は、
図7に示すように、シリコンと当該膜との間に拡散を防ぐバリアメタル層を積層することが望ましい。本図では、下層膜28、上層膜29を積層している。シリコンとのコンタクト、接合性、密着性を各層に持たせ、3層以上の積層構造としてもよい。
【0038】
ワイヤボンディングやバンプ接合で、外部回路と振動式絶対圧センサチップ10とが接続されるとき、端子130において接合歪が発生する。この歪の振動子110への影響を一層軽減するために、
図8に示すようにシリコン基板100の裏面に、凹部150を形成することができる。シリコン基板100の裏面の、最も振動子固定端140側の端子130と振動子固定端140との間に対応する位置に凹部150を形成することにより、接合歪が発生した場合であっても、凹部150が歪の影響を吸収し、振動子110に歪を伝達させないようにすることができる。
【0039】
凹部150は、
図9(a)、
図9(b)のようにエッチングにより形成してもよいし、
図9(c)のように、切削により物理的に形成してもよい。
【0040】
各端子130は、領域A内に配置されている限り、
図1に示したように1直線上に並べて配置してもよいし、
図10に示すように複数列に配置させてもよい。複数列に配置させることで、振動式絶対圧センサチップ10への歪のかかり具合を調整したり、接続時の安定性を高めたり、接合作業を容易にすることができる。
【0041】
また、振動式絶対圧センサチップ10が、端子130以外の箇所で、外部回路や圧力センサ200本体に接触しないようにするために、
図11に示すように、端子130を凸構造として振動子形成面内で最も高い位置に形成することが望ましい。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の振動式絶対圧センサチップは、すべての端子を一方の振動子固定端よりも外側に配置しているため、端子の接続による歪の影響が振動子に伝達されない。したがって、測定精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0043】
10…振動式絶対圧センサチップ、21…ダイアフラム、22…絶縁抵抗体、23…リードピン、24…ハーメチック構造、25…バンプ、26…ワイヤ、27…固定部材、28…下層膜、29…上層膜、50…振動式圧力センサチップ、61…キャップ、62…支持部材、63…圧力導入経路、64…リードピン、65…ハーメチック構造、66…ワイヤ、100…シリコン基板、110…振動子、112…配線、120…シェル、122…配線、130…端子、140…振動子固定端、142…振動子固定端、150…凹部、200…圧力センサ、500…シリコン基板、501…振動子、502…シェル、503…ボンディングパッド、505…ダイアフラム、600…圧力センサ