(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5656102
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】ヒューズエレメント及びこのヒューズエレメントを使用した密閉形電線ヒューズ
(51)【国際特許分類】
H01H 85/08 20060101AFI20141225BHJP
H01H 85/0445 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
H01H85/08
H01H85/0445
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-110897(P2010-110897)
(22)【出願日】2010年5月13日
(65)【公開番号】特開2011-238543(P2011-238543A)
(43)【公開日】2011年11月24日
【審査請求日】2013年5月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000205373
【氏名又は名称】ダイヘンヒューズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077780
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 泰甫
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【弁理士】
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(72)【発明者】
【氏名】新家 正敏
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌史
【審査官】
出野 智之
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭50−118442(JP,U)
【文献】
実開昭51−141337(JP,U)
【文献】
実開昭49−073731(JP,U)
【文献】
特開2008−293908(JP,A)
【文献】
実開昭48−099882(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 85/08
H01H 85/0445
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過電流が流れた際に溶断する溶断部と蓄熱部を有し、両端部に接続端子を接続したヒューズエレメントにおいて、溶断部と蓄熱部が単一の抵抗線で連続して一体的に構成されており、蓄熱部は抵抗線のらせんコイル状の屈曲部とこの屈曲部の空隙に充填した可溶金属で構成され、らせんコイル状屈曲部の巻き始めと巻き終わり部分及び蓄熱部間に位置する中央部が非直線状であるヒューズエレメント。
【請求項2】
請求項1記載のヒューズエレメントを密閉絶縁ケース内に収納してなる密閉形電線ヒューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、過電流が流れた際に溶断する溶断部と熱容量を持たせた蓄熱部を有し、両端部に接続端子を接続したヒューズエレメント及びこのヒューズエレメントを使用した密閉形電線ヒューズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
低圧配電線路の引込線の過負荷や短絡による絶縁被覆の劣化、発煙、発火、断線などを防止するために電線ヒューズが用いられているが、抵抗線の一部に蓄熱部を設け、熱容量を持たせることにより溶断時間−電流特性の調整を容易にし、また、パルス的な電流に対し熱蓄積を行い、抵抗線の温度上昇を抑えて熱的ダメージを防止することが行われている。
パルス的な電流とは、主としてモーターの起動電流であり、過電流保護を考慮しすぎると起動電流に耐えるヒューズの設計が難しくなるが、蓄熱部を設けてタイムラグ特性を持たせれば溶断時間−電流特性においてバランスのとれたヒューズ設計が可能となる。
【0003】
所要の熱容量を有する蓄熱部をヒューズエレメントに設ける場合、直接抵抗線に銅管をカシメ止めするなど、抵抗線の軸方向において圧着接続する場合が通常であるが、抵抗線と蓄熱部が異なる部品で構成されているため、構成部品が多くなりコスト高となっていた。また、ヒューズエレメントにおいて接続箇所が増えると接続不良の問題や、機械的強度の劣化を招きやすく、抵抗線と蓄熱部は一体的に設けることが望ましいといえる。
【0004】
そこで従来においても、例えば特許文献1に示すように算盤玉形の蓄熱部を有するヒューズエレメントを線材からスエージング加工により一体成形する提案や、特許文献2に示すように大面積部を有するヒューズエレメントを銅棒又は銅線から一体的に切削する方法などが提案されている。
しかしながら、これらのヒュースエレメントは製造コストが高くなる難点があり、また、電流変動によるヒューズエレメントの発熱による膨張収縮によって、ヒューズエレメントに歪が生じるおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-74323号公報
【特許文献2】特開2008-293908
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明の目的とするところは、過電流が流れた際に溶断する溶断部と熱容量を持たせた蓄熱部を有し、両端部に接続端子を接続したヒューズエレメントにおいて、製造コストが安いヒューズエレメント及びこのヒューズエレメントを使用した密閉形電流ヒューズを提供するところにある。
また、電流変動によってヒューズエレメントが発熱し、膨張収縮して熱ストレスが加わることによる歪の発生を抑え、信頼性の高いヒューズエレメント及びこのヒューズエレメントを使用した密閉形電流ヒューズを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的達成のため、この発明においては、溶断部と蓄熱部が単一の抵抗線で連続して一体的に構成されたヒューズエレメントの蓄熱部を抵抗線の多重屈曲部とこの屈曲部の空隙に充填した可溶金属で構成したことを特徴としている。
すなわち、従来のようにスエージング加工や切削によるのではなく、単に単一の抵抗線を多重に屈曲し、この屈曲部の空隙に可溶金属を充填する構成としたものである。
【0008】
抵抗線は、銅、銀を主体とした単体もしくは銅・ニッケル合金、銅・ニッケル・クロム合金などの合金線が採用できるが、これに限定されるものではない。可溶金属は、錫単体若しくは錫を主体とする合金、例えば錫・ニッケル合金、錫・銀合金、錫・銅合金、錫・銀・銅合金などが採用できるが、これに限定されるものではない。
【0009】
多重屈曲部に可溶金属を充填する方法としては、例えば錫単体若しくは錫を主体とする合金を溶融した槽にフラックスを塗布したヒューズエレメント全体を浸漬して一定の速度で槽から引き揚げることによって、可溶金属を多重屈曲部の空隙に充填付着させることができる。
【0010】
多重屈曲部の形態としては、らせんコイル状が好ましい。らせんコイル状とするためには、例えば、バネ製作機械などにより、コイルバネを製作する要領で製作すれば良く、両端直線部を残して全体をコイルバネ状とした後にコイルバネ状部材を左右に伸展して、中央部を挟んで左右にらせんコイル状部分を残す方法や、当初より蓄熱部を構成する部分のみをコイル巻きする方法など適宜の方法をとることが可能である。蓄熱部は中央部を挟んで左右均等に対称的に配置するのが望ましい。
【0011】
らせんコイル状とした場合、上記のようにコイルバネを製作する要領で容易に製作可能であり、フラックスや可溶金属が浸透・付着しやすく、所望とする蓄熱部が得られる。また、蓄熱部をらせんコイル状の多重屈曲部とした場合、その巻き始めと巻き終わり部分及び蓄熱部間に位置する中央部は必然的に非直線状となり、この非直線部分が伸縮可能であるため、熱履歴を受けた場合にもヒューズエレメントの歪を低減することができる。
【0012】
また、フラックスや可溶金属が浸透・付着しやすい多重屈曲部としては、らせんコイル状に限定されるものではなく、例えば、抵抗線の軸線方向に沿って少なくとも2回以上の偶数回の折り曲げによって多重屈曲部を構成すれば可溶金属が浸透・付着しやく、容易に蓄熱部を構成することができる。この多重屈曲部は線材の折り曲げ機によって容易に製作可能である。
【0013】
このヒューズエレメントにおいても、蓄熱部と接続端子間において抵抗線に非直線部分を設ければ、ヒューズエレメントの発熱による膨張収縮に対応可能であり、熱履歴を受けた場合にヒューズエレメントの歪を低減することができる。
【0014】
このようなヒューズエレメントを密閉絶縁ケース内に収納して密閉形電線ヒューズを構成すれば、製作コストが安く、信頼性の高い電線ヒューズを提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明のヒューズエレメントは、上述のように、単一の抵抗線を多重に屈曲し、この多重屈曲部の空隙に可溶金属を充填する構成としたので、蓄熱部を抵抗線の軸方向において圧着接続する場合に比し、接続箇所が少なく、信頼性が向上する。
【0016】
また、抵抗線と蓄熱部が異なる部品で構成されている従来品に比し、部品点数が少なくなりコストの低減を図り得るものである。さらに、スエージング加工や切削加工によって溶断部と蓄熱部を一体に形成する場合に比し、バネ製作機械などにより、蓄熱部をコイル巻きしたり、線材の折り曲げ機によって、抵抗線の軸線方向に沿って少なくとも2回以上の偶数回折り曲げることによって多重屈曲部を構成し、この多重屈曲部に可溶金属を充填付着させるものであるから、製造が容易であり、製造コストを低減することができる。
【0017】
多重屈曲部をらせんコイル状とした場合、巻き始めと巻き終わり部分及び蓄熱部間に位置する中央部が非直線状となり、この非直線部分が伸縮可能であるため、熱履歴を受けた場合にもヒューズエレメントの歪を低減することができる。
また、抵抗線の軸線方向に沿って少なくとも2回以上の偶数回の折り曲げた多重屈曲部を有するヒューズエレメントにおいても、蓄熱部と接続端子間において抵抗線に非直線部分を設ければ、同様な効果を期待し得る。
【0018】
また、多重屈曲部に可溶金属を充填付着させるものであるから、可溶金属が全体的に行き渡り易く、全体の濡れ状態も目視しやすいため、品質管理も容易となる。さらにまた、多重屈曲部には間隙が存在するため、内部に残留フラックスが溜まり難く、溶断特性も安定する。
また、蓄熱部を多重屈曲部で構成するものであるから、蓄熱部の外径と長さを容易に変更できるため、設計の自由度が高く、溶断特性を簡単に調整できる利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るヒューズエレメントの実施形態を示す正面図
【
図2】同ヒューズエレメントを使用した密閉形電線ヒューズの実施形態を示す正面図
【
図3】同密閉形電線ヒューズの溶断時間―電流特性図
【
図4】本発明に係るヒューズエレメントの他の実施形態を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は溶断部と蓄熱部が単一の抵抗線で連続して一体的に構成されたヒューズエレメントの蓄熱部を抵抗線の多重屈曲部とこの屈曲部の空隙に充填した可溶金属で構成した本発明に係るヒューズエレメントの一実施形態を示すものである。
【0021】
具体的に説明すると、直径1.33mmの銅線を素材とする抵抗線1の両端部及び中央部を残して左右対称位置において多重屈曲部2を一体的に構成し、全体にフラックスを塗布した上、Sn−3.5Ag-0.75Cuの錫を主体とする低融点合金の溶融槽に浸漬して一定の速度で槽から引き揚げることによって、可溶金属を多重屈曲部2の空隙に充填付着させて蓄熱部3としたものである。4は抵抗線1の両端部にカシメ止めした接続端子であり、50A用として直径3.2mmとしている。
【0022】
この多重屈曲部2は単一の抵抗線1の中央部を残して左右対称位置においてコイル巻きしたもので、バネ製作機械によって巻径3.0mm、8巻きのらせんコイル状に巻かれている。従って、らせんコイル状の多重屈曲部2の巻き始めと巻き終わり部分及び蓄熱部間に位置する中央部は非直線状となっている。
【0023】
図2は上記ヒューズエレメントを密閉絶縁ケース内に収納して構成した密閉形電線ヒューズの実施形態を示すもので、ガラス製内筒5内にヒューズエレメントを納め、両端の接続端子4を内筒5の保持キャップ6から導出させ、ポリカーボネート製の外筒7に収納している。8は外筒7に被せたポリカーボネート製の外キャップであり、内キャップ9によって内端部を保持された圧縮スリーブ10の電線接続部10aを外キャップ8の外側に突出させている。
【0024】
ヒューズエレメントは両端の接続端子4が圧縮スリーブ10の内端部においてカシメ止めされ、外筒7、内キャップ9及び外キャップの三者を接着剤、高周波融着等によって固着して封止することにより、ヒューズエレメントを密閉絶縁ケース内に収納した密閉形電線ヒューズを構成したものである。
【0025】
上記のようにして構成した定格電流3.2mm用50Aの密閉形電線ヒューズについて45°の傾斜状態でヒューズ特性を検証した。検証項目と望ましい特性は次の通りである。
1.通電特性 定格電流の130%(65A)において連続不溶断
電動機の起動電流(320A)において3秒間不溶断
2.溶断特性 115Aにおいて300秒以内溶断
400Aにおいて10秒以内溶断
3.遮断特性 試験電圧250V、試験電流3000A,力率0.4以下(遅れ)で、ヒューズの著しい変形、汚損及び飛散物を生じることなく、遮断可能であること。また、遮断後の絶縁抵抗値が0.2MΩ以上であること。
4.ヒートサイクル 3秒間不溶断電流3秒間通電、30分間休止、連続25回で溶断しないこと
【0026】
検証結果を表1に示す。試料No.1〜10に示す通り、優れた溶断特性が得られた。また、試料No.14及び15に示す通り、遮断時に異常は見られず、遮断後の絶縁抵抗値も100MΩ以上で遮断特性も良好であった。試料No.11〜13に示す通り、ヒートサイクルにおいても連続25回をはるかに超える望ましい特性が得られている。表中、溶断箇所として示すイ、ロ、ハ、ニ、ホは、
図1に示す箇所である。
【0028】
図3は試料No.1〜No.15に基づく溶断時間−電流特性を示すもので、定格電流の130%(65A)において連続不溶断、電動機の起動電流(320A)において3秒間不溶断、115Aにおいて300秒以内溶断の各条件を充足していることがわかる。
なお、密閉形電線ヒューズの構成は
図2の形態に限定にされるものではなく、要するにヒューズエレメントを密閉絶縁ケース内に収納して構成する密閉形電線ヒューズであれば、
図2の形態以外にも種々の実施形態を取り得る。
【0029】
蓄熱部3を構成する多重屈曲部2はらせんコイル状の屈曲部であり、巻き始めと巻き終わり部分及び蓄熱部3間に位置する中央部は非直線状となる。ヒューズエレメントが通電電流による自己発熱もしくは周囲温度の変化により全長が伸び縮みすると容器とヒューズエレメントの熱膨張収縮率が異なるため、ストレスがかかるが、非直線状部分が伸縮することで熱膨張収縮を吸収し、ヒートサイクルによるヒューズエレメントの歪の発生も抑制できるものである。また、蓄熱部3の存在により電流変動による可溶体の発熱を放散して膨張収縮が緩和され、熱衝撃に強い、信頼性の高いヒューズエレメントが提供できる。
【0030】
過負荷小電流の溶断時は、いわゆるM効果により溶断するが、蓄熱部3は、M効果を促進させるための低融点の可溶合金を貯めておく場所にもなっている。すなわち、過負荷小電流域での動作時、抵抗線1の銅が蓄熱部3の錫を主体とする可溶合金と反応して低融点の合金となり、銅の融点よりかなり低い温度で溶断するので、動作時のケースの熱変形を防止することができる。
【0031】
なお、このヒューズエレメントは、蓄熱部3を構成するらせんコイル状屈曲部の付け根で溶断することが多い。これは蓄熱部3のらせんコイル状の巻き始めもしくは巻き終わりの部分に溜まった可溶合金が抵抗線1の銅に熱拡散して銅を浸食させて溶断させることによる。
【0032】
図4は、ヒューズエレメントの他の実施形態を示すもので、蓄熱部3を構成する多重屈曲部2が抵抗線1の軸線方向に沿って少なくとも2回以上の偶数回の折り曲げによって構成される屈曲部としており、全体にフラックスを塗布した上、Sn−3.5Ag-0.75Cuの錫を主体とする低融点合金の溶融槽に浸漬して一定の速度で槽から引き揚げることによって、可溶金属を多重屈曲部2の空隙に充填付着させて蓄熱部3としたものである。抵抗線1の両端部には直径3.2mmの接続端子4がカシメ止めされている。
図5は、
図4の実施形態のヒューズエレメントにおいて蓄熱部3と接続端子4間において抵抗線1に非直線部分1a、1bを設け、熱履歴を受けた場合のヒューズエレメントの歪を低減可能としている。
【符号の説明】
【0033】
1 抵抗線
2 多重屈曲部
3 蓄熱部
4 接続端子