【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
<試験例1:Tb及びEuによるPCR反応の撹乱の確認試験>
Tb及びEuがDNA及びPCR反応に影響を与えるか否かについて、PCRにより増幅するDNAを追跡することにより測定した。鋳型DNAとして配列番号1に示されるポリヌクレオチドからなるDNAを使用した。配列番号1のDNAは、pBR322ベクター由来の501bpの二本鎖DNAである。まず、リン酸カリウムバッファ(pH7.0)30mM中に鋳型DNAを150μM及び希土類イオン(Tb、Eu)をそれぞれ0.3mM,3mM,30mMの各濃度になるように添加し、反応液を調製した。その反応液を37℃で1時間インキュベートした。
【0042】
次に、上記インキュベート後の反応液にPCR反応試薬を添加することにより、PCR反応を行った。PCR反応試薬は、タカラバイオ社製のTakara ExTaq(10×PCRバッファ、dNTP混合物、及びExTaqポリメラーゼ)を使用した。プライマーとしては、配列番号2,3のポリヌクレオチドからなるプライマー対を0.2〜1μMの濃度で使用した。その他は製品記載のプロトコルに従った。
【0043】
PCRは、サーマルサイクラー(PERKIN ELMER CETUS社製Gene Amp PCR System)を用い、94℃に2分間保持した後、94℃で1分間の解離工程、59.5℃で1分間のアニーリング工程、そして70℃で1分間のポリメラーゼ反応(相補鎖伸長反応)工程というサイクルを25回繰り返し、最後に再度伸長反応を72℃で10分間行うことにより実施した。
【0044】
反応後のPCR産物を0.5×TBEバッファ中、2.0%アガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後、UV光下でバンドを検出した。結果を
図1に示す。
【0045】
図1に示されるように、希土類イオンの濃度に依存して500bp付近のバンド(鋳型DNAに対応)が薄くなる、すなわち次第に消失することが確認された。これは、希土類イオンによる鋳型DNAの分解が原因と考えられる。したがって、このバンドの濃淡により、希土類イオンの存在の有無を検出できることが分かる。この試験例に記載の方法に従うと、鋳型DNAと希土類イオンを混合した後のインキュベートにかかる時間が1時間で、サーマルサイクラーによるPCR反応にかかる時間が約2時間半なので、電気泳動によるチェックの時間を含めても、合計4時間程度で希土類イオンの検出が可能である。
【0046】
また、
図1に示されるように、500bp付近のバンド(鋳型DNA)は希土類イオンの濃度が高くなるにつれて薄くなるため、検量線を作成することにより希土類イオンの定量も可能となることが示唆される。
【0047】
<試験例2:Tb及びEuによるPCR反応の撹乱の確認試験>
Tb及びEuがDNA及びPCR反応に影響を与えるか否かについて、PCR反応後に鋳型DNA以外のDNAに由来するバンドを検出することにより測定した。
【0048】
鋳型DNAとして配列番号1に示されるポリヌクレオチドからなるDNAを使用した。まず、リン酸カリウムバッファ(pH7.0)30mM中に鋳型DNAを15pM、及び希土類イオン(Tb、Eu)をそれぞれ300pM、3nM、30nMの各濃度になるように添加し、反応液を調製した。その反応液を37℃で1時間インキュベートした。
【0049】
次に、試験例1に記載の方法に従い、上記インキュベート後の反応液にPCR反応試薬を添加することによりPCR反応を行い、その後にアガロースゲル電気泳動によりバンドの検出を行った。結果を
図2に示す。尚、
図2中、丸で囲んだ数字の1で示すバンドは希土類イオンを添加していないコントロールのもの、丸で囲んだ数字の2で示すバンドはTbの濃度が300pMのときのもの、丸で囲んだ数字の3で示すバンドはTbの濃度が3nMのときのもの、丸で囲んだ数字の4で示すバンドはTbの濃度が30nMのときのもの、丸で囲んだ数字の5で示すバンドはEuの濃度が300pMのときのもの、丸で囲んだ数字の6で示すバンドはEuの濃度が3nMのときのもの、丸で囲んだ数字の7で示すバンドはEuの濃度が30nMのときのものを示す。
【0050】
図2に示されるように、希土類イオンを溶液中に含まない場合では、500bp付近のバンド(鋳型DNA)が増幅された(丸で囲んだ数字の1で示すバンドを参照)。一方、希土類イオンを添加した試料について、特に、Tbの濃度が300pMの場合(丸で囲んだ数字の2で示すバンドを参照)、Euの濃度が300pMの場合(丸で囲んだ数字の5で示すバンドを参照)、及びEuの濃度が3nMの場合(丸で囲んだ数字の6で示すバンドを参照)において、
図2中に白色矢印で示すように、鋳型DNA由来のバンドとは異なる100bp以下の長さの(非特異的な)バンドが出現することが確認された。これは、Tb及びEuの添加によりPCR反応が撹乱されたためと考えられる。かかる短いDNA鎖を検出することにより、希土類イオンの存在の有無を検出することが可能である。
【0051】
<試験例3:種々の希土類イオンによるPCR反応の撹乱の確認試験>
種々の希土類イオンのそれぞれがDNA及びPCR反応に影響を与えるか否かについて、鋳型DNA以外のDNAに由来するバンドを検出することにより測定した。
【0052】
鋳型DNAとして配列番号1に示されるポリヌクレオチドからなるDNAを使用した。まず、リン酸カリウムバッファ(pH7.0)30mM中に鋳型DNAを15pM及び
図3中に示されている各希土類イオンをそれぞれ3nMの濃度になるように添加することにより反応液を調製した。その反応液を37℃で1時間インキュベートした。
【0053】
次に、試験例1に記載の方法に従い、上記インキュベート後の反応液にPCR反応試薬を添加することによりPCR反応を行い、その後にアガロースゲル電気泳動によりバンドの検出を行った。尚、分子量マーカーとしてニッポンジーン社製のGene Ladder100を使用した。結果を
図3に示す。
【0054】
図3に示されるように、希土類イオンを溶液中に含まない場合(コントロール)では、500bp付近のバンド(鋳型DNA)が増幅された。一方、希土類イオンを添加した全ての試料について、鋳型DNAとは異なる100bp以下の長さの(非特異的な)バンドが出現することが確認された(Y,Gd,Ybの場合、
図3中不明瞭ではあるが存在する)。これは、希土類イオンの添加によりPCR反応が撹乱されたためと考えられる。かかる短いDNA鎖を検出することにより、希土類イオンの存在の有無を検出することが可能である。
【0055】
また、
図3に示されるように、100bp以下の非特異的なバンドは、希土類イオンの種類により濃淡が相違するため、かかるバンドの濃淡の比較により希土類イオンの定性の可能性も示唆される。
【0056】
<試験例4:鋳型DNAに希土類イオンを接触させる工程の条件検討(その1)>
鋳型DNAに希土類イオンを接触させる時間の長さによる影響について検討した。
鋳型DNAとして配列番号1に示されるポリヌクレオチドからなるDNAを使用した。まず、超純水中に鋳型DNAを150pM、及び希土類イオン(La)をゼロ、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μMの各濃度になるように添加し、反応液を調製した。その反応液を37℃で0時間、1時間、2時間又は3時間インキュベートした。
【0057】
次に、試験例1に記載の方法に従い、上記インキュベート後の反応液にPCR反応試薬を添加することによりPCR反応を行い、その後にアガロースゲル電気泳動によりバンドの検出を行った。インキュベート時間がゼロ又は1時間の場合の電気泳動写真を
図4(a)、インキュベート時間が2時間又は3時間の場合の電気泳動写真を
図4(b)に示す。
【0058】
図4(a)及び
図4(b)に示されるように、Laの濃度が同じであれば、鋳型DNAに希土類イオンを接触させる時間の長さにより、500bpのバンドの消失量に差がないことが確認された。したがって、希土類イオンの検出時間の短縮の観点から、鋳型DNAに希土類イオンを接触させる工程は、PCR反応の前処理として行うよりもPCR反応中に行うことが好ましいこと、また前処理として行うとしてもできるだけ短時間で済ませるのが好ましいことが示唆された。
【0059】
<試験例5:鋳型DNAに希土類イオンを接触させる工程の条件検討(その2)>
鋳型DNAに希土類イオンを接触させるときに使用されるリン酸緩衝液の濃度による影響について検討した。
【0060】
鋳型DNAとして配列番号1に示されるポリヌクレオチドからなるDNAを使用した。まず、超純水、30mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、60mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、又は120mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中に鋳型DNAを150pM、及び希土類イオン(La)をゼロ、0.5μM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μMの各濃度になるように添加し、反応液をそれぞれ調製した。その反応液を37℃1時間でインキュベートした。
【0061】
次に、試験例1に記載の方法に従い、上記インキュベート後の反応液にPCR反応試薬を添加することによりPCR反応を行い、その後にアガロースゲル電気泳動によりバンドの検出を行った。反応液の調製において超純水又は30mMリン酸カリウム緩衝液を使用した場合の電気泳動写真を
図5(a)、反応液の調製において60mMリン酸カリウム緩衝液又は120mMリン酸カリウム緩衝液を使用した場合の電気泳動写真を
図5(b)に示す。
【0062】
図5(a)及び
図5(b)に示されるように、鋳型DNAに希土類イオンを接触させるときには超純水よりも30mM程度の濃度のリン酸カリウム緩衝液を使用した方が、100bpのバンドの検出感度が優れることが確認された。
【0063】
<試験例6:種々の希土類イオンによるPCR反応の撹乱の確認試験>
希土類イオンであるLa,Eu,Y,Tmのそれぞれの濃度がPCR反応に与える影響について、鋳型DNAに由来するバンドを検出することにより測定した。
【0064】
鋳型DNAとして配列番号1に示されるポリヌクレオチドからなるDNAを使用した。まず、超純水中に鋳型DNAを150pM及びLa,Eu,Y,Tmの各希土類イオンをそれぞれゼロ、0.3μM、1μM、3μM、10μM、30μM、100μMの各濃度になるように添加し、反応液を調製した。その反応液を37℃で1時間インキュベートした。
【0065】
次に、試験例1に記載の方法に従い、上記インキュベート後の反応液にPCR反応試薬を添加することによりPCR反応を行い、その後にアガロースゲル電気泳動によりバンドの検出を行った。尚、分子量マーカーとしてニッポンジーン社製のGene Ladder100を使用した。使用した希土類イオンがLa又はEuの場合の電気泳動写真を
図6(a)、使用した希土類イオンがY又はTmの場合の電気泳動写真を
図6(b)に示す。
【0066】
図6(a)及び
図6(b)に示されるように、La,Eu,Y,Tmのいずれを使用した場合も、希土類イオンの濃度に依存して鋳型DNAに対応する500bpのバンドの消失が起こることが確認された。したがって、鋳型DNA鎖の消失を検出することにより、希土類イオンの存在の有無を検出できること、また、バンドの濃さを測定することにより、希土類イオンの定量も可能であることが確認された。また、希土類イオンの種類によりバンドの濃淡が相違するため、かかるバンドの濃淡の比較により希土類イオンの定性の可能性も示唆される。
【0067】
<試験例7:リアルタイムPCRを用いた増幅DNAの検出試験>
希土類イオンLaが鋳型DNAに与える影響について、リアルタイムPCRを用いて増幅DNAを検出することにより測定した。
【0068】
鋳型DNAとして配列番号1に示されるポリヌクレオチドからなるDNAを使用した。まず、超純粋中に、リアルタイムPCR用試薬の他、鋳型DNAを150pM、及び希土類イオンLaをゼロ、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μMの各濃度になるように添加し、各PCR反応液を調製した。リアルタイムPCR用試薬は、バイオラッド・ラボラトリーズ社製のiQ SYBR Green Supermixを使用した。プライマーとしては、配列番号2,3のポリヌクレオチドからなるプライマー対を0.2〜1μMの濃度で使用した。その他は製品記載のプロトコルに従った。
【0069】
次に、リアルタイムPCR測定器(バイオラッド・ラボラトリーズ社製のリアルタイムPCR装置(Chromo4))を使用し、各反応液毎にPCR反応により増幅されるDNA産物をインターカレータ試薬(SYBR Green)由来の蛍光強度によりリアルタイムで測定した。リアルタイムPCRを用いて得られたPCRサイクル数に対する蛍光強度のモニタリングデータを
図7(a)に示す。サイクル数が12回、14回又は16回におけるLa濃度と蛍光強度との関係を示すグラフを
図7(b)に示す。
【0070】
図7(b)に示されるように、La濃度と蛍光強度との間には直線的な相関関係が認められた。したがって、希土類イオンの検量線を予め作成することにより、未知試料中の希土類イオンの濃度を測定することも可能である。リアルタイムPCRによる増幅途中の蛍光強度を指標にすることで、短時間且つ細かい濃度範囲で正確な希土類イオンの濃度の測定が可能であることが示唆された。
【0071】
尚、リアルタイムPCR用試薬として、バイオラッド・ラボラトリーズ社製のSsoFast EvaGreen Supermixを使用した場合にも同様の結果を得ている。
<試験例8:自然界で採取される試料によるPCR反応の撹乱の確認試験>
自然界で採取される試料液に溶解させた希土類イオンLaがPCR反応に与える影響について、鋳型DNAに由来するバンドを検出することにより測定した。
【0072】
鋳型DNAとして配列番号1に示されるポリヌクレオチドからなるDNAを使用した。試料液として超純水、水道水、河川の上流域の水、河川の中流域において採取場所の異なる水A及び水B、並びに河川の下流域において採取場所の異なる水A及び水Bをまず用意し、これらの試料液のそれぞれに鋳型DNAを150pM及びLaをゼロ、2μm、6μMの各濃度になるように添加し、反応液を調製した。その反応液を37℃で1時間インキュベートした。
【0073】
次に、試験例1に記載の方法に従い、上記インキュベート後の反応液にPCR反応試薬を添加することによりPCR反応を行い、その後にアガロースゲル電気泳動によりバンドの検出を行った。尚、分子量マーカーとしてニッポンジーン社製のGene Ladder100を使用した。
図8(a)は、超純水を除く各試料液における主なイオンの組成について示す。反応液の調製において超純水、水道水、又は河川の上流域の水を使用した場合の電気泳動写真を
図8(b)に示す。反応液の調製において河川の中流域の水A又はB若しくは河川の下流域の水A又はBを使用した場合の電気泳動写真を
図8(c)に示す。
【0074】
図8(b)及び
図8(c)に示されるように、いずれの反応液を使用した場合も、Laの濃度が同じであれば、500bpのバンドの消失量に差がないことが確認された。したがって、希土類イオンによるPCR反応の撹乱は、反応液中に存在する無機イオンの影響を受けにくいことが確認された。つまり、本発明の希土類イオンの検出方法により、自然界に存在する希土類イオンの検出の可能性も示唆される。