特許第5656138号(P5656138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5656138抗菌性を有するリン青銅合金及びそれを用いた物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5656138
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】抗菌性を有するリン青銅合金及びそれを用いた物品
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/02 20060101AFI20141225BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20141225BHJP
   A01N 59/26 20060101ALI20141225BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20141225BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20141225BHJP
   E04F 11/18 20060101ALN20141225BHJP
【FI】
   C22C9/02
   A01N59/20 Z
   A01N59/26
   A01N59/16 Z
   A01P3/00
   !E04F11/18
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-108520(P2014-108520)
(22)【出願日】2014年5月8日
【審査請求日】2014年5月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513314768
【氏名又は名称】株式会社原田伸銅所
(72)【発明者】
【氏名】原田 真理生
(72)【発明者】
【氏名】小浴 和博
【審査官】 村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−315927(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/030538(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/002247(WO,A1)
【文献】 特開2010−168655(JP,A)
【文献】 特開平11−181986(JP,A)
【文献】 特開2006−342418(JP,A)
【文献】 特開平06−184673(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/016621(WO,A1)
【文献】 特開2007−332466(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/111301(WO,A1)
【文献】 特開2000−198709(JP,A)
【文献】 M. G. Schmidt, et al.,10 - The role of continuous microbial debulking in the hospital environment and its effect on reducing hospital-acquired infections (HAI),Decontamination in Hospitals and Healthcare, [online],Woodhead Publishing Limited,2014年 2月21日,p.232-253,[retrieved on 2014-07-16], Internet:<URL:http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B9780857096579500102>
【文献】 L. Weaver, et al.,Survival of Clostridium difficile on copper and steel: futuristic options for hospital hygiene,Journal of Hospital Infection,2008年 2月,vol.68 no.2,p.145-151
【文献】 H. Gutierrez, et al.,Evaluation of biocidal efficacy of copper alloy coatings in comparison with solid metal surfaces: generation of organic copper phosphate nanoflowers,Journal of Applied Microbiology,2013年 3月,vol.114 no.3,p.680-687
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/02
A01N 59/00−59/26
E04F 11/18
Science Direct
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
11重量%以下(0を含まない)のスズと、0.35重量%以下(0を含まない)のリンとを含み、残部が銅と不可避の不純物からなり、圧延加工が施され、かつ表面に、粒度が40〜200の砥粒を用いたグラインダ加工、粒度が40〜200の砥粒を用いたショットブラスト加工、ヘアライン加工から選ばれる少なくとも1種を含む、粗面化処理が施されてなることを特徴とする、抗菌性を有するリン青銅合金。
【請求項2】
請求項1に記載のリン青銅合金の薄板で、表面を被覆してなることを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有するリン青銅合金と、それを用いて抗菌性を付与した、物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅、銀、スズなどが殺菌性や抗菌性を有することは、従来から知られていて、様々な分野に使用されている。これらの金属が殺菌性や抗菌を発現する理由としては、水に溶けて生じるイオンが、微生物の細胞壁や細胞膜を破壊したり、酵素やタンパク質と結合して、活性や代謝機能を低下させたりすることによると言われている。また、イオン化する際に放出される電子が、空気中や水中に溶存する酸素の一部を活性化し、微生物中の有機物を化学的に攻撃することも、殺菌性や抗菌性の要因になると言われている。
【0003】
一方で、リン青銅はスズを含む合金で、機械的な強度や導電性に優れ、加工性にも優れていることから、電子部品や各種電機製品に用いられている。加工性に優れていることから、用途に合わせた形状に加工することが容易で、この特徴と、殺菌性あるいは抗菌性の両方を活用することにより、従来とは異なる用途展開が期待できる。
【0004】
このような観点から、殺菌性や抗菌性を必要とする分野への銅合金の使用例を概観すると、例えば、銅線を編み込むことにより、水虫の予防効果を付与した靴下が挙げられる。また、特許文献1には、銅や銀などの金属で構成した金網を用いた、水系洗浄液を濾過する濾過装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、銀、銅、亜鉛、スズなどから選ばれる消臭抗菌成分を担持させた酸化チタン粒子と、アミン系化合物からなる抗菌消臭剤が開示されている。しかし、これらはいずれも、人の手などが直接触れるものではなく、例えば、医療機関の通路に付設される手摺などのように、手で直接触れることが使用目的で、しかも高度の殺菌性あるいは抗菌性が要求されるものは、見出せないのが実情である。
【0006】
この理由としては、リン青銅が、純銅よりも高い抗菌性を示すことが明確に示されていなかったことと、銅及び銅合金は人体との接触により、変色が生じやすいことが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2010−137353号公報
【特許文献2】 特開2009−268510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、リン青銅の抗菌性を検証し、人体との接触による変色を軽減する方法を提供して、リン青銅の抗菌性を活用し得る用途を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題に鑑み、リン青銅のスズとリンの含有量と抗菌性との関係を明確化するとともに、表面の性状と変色の顕在化との関係を検討した結果なされたものである。
【0010】
即ち、本発明は、11重量%以下(0を含まない)のスズと、0.35重量%以下(0を含まない)のリンとを含み、残部が銅と不可避の不純物からなることを特徴とする、抗菌性を有するリン青銅合金である。
【0011】
また、本発明は、圧延加工が施され、表面に機械的な粗面化処理を施されてなることを特徴とする、前記の抗菌性を有するリン青銅合金である。
【0012】
また、本発明は、前記粗面化処理の加工方法が、粒度が40〜200の砥粒を用いたグラインダ加工、粒度が40〜200の砥粒を用いたショットブラスト加工、ヘアライン加工から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、前記の抗菌性を有するリン青銅合金である。
【0013】
また、本発明は、前記のリン青銅合金の薄板で、表面を被覆してなることを特徴とする物品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明者らは、リン青銅合金における、スズとリンの含有量と抗菌性の関係を、微生物の培養試験により検討した結果、スズの含有量が11重量%以下、リンの含有量が0.35重量%以下の領域で、リン青銅合金が顕著な抗菌性を発現することを見出し、本発明をなした。
【0015】
一般に銅などの抗菌性の要因の一つとして、金属がイオン化する際に放出される電子が、空気中や水中に溶存する酸素の一部を活性化することが考えられているのは、前記の通りである。リン青銅合金においては、合金を構成する成分の、イオン化ポテンシャルの相異とそれに付随するイオン化傾向の相異により、各成分の間で電子の授受が生じることが、特定の組成範囲における、このような結果に繋がったものと解される。
【0016】
また、一般に金属表面の外観は、鏡面のように研磨した状態と、粗面化した状態とでは、大きく異なり、特に適当な表面粗さに粗面化すると、例えば人の手の皮脂のような異物の付着や、酸化による変色が目立たなくなる。本発明者は、この現象に着目し、粗面化の条件の検討により、表面の変色を解消した。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】 ハロー試験の一例を示す写真
図2】 ハロー試験の結果を、横軸をスズ含有量、縦軸をハロー幅として示したグラフ
図3】 本発明に係る青銅合金表面を、グラインダを用いて粗面化した一例の写真
図4】 本発明のリン青銅合金薄板を、手摺表面に取り付けた一例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、リン青銅合金のスズとリンの含有量と抗菌性の検討の説明により、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
まず、電気銅、スズ、リンを溶解、鋳造し、60mm×60mm×200mmの角柱状のインゴットを得た。ターゲット組成は、スズが、0、1.0、2.0、2.5、3.0、5.0、5.5、6.7重量%、リンが0.09重量%、残部が銅である。
【0020】
このインゴットから、寸法が10mm×28mm×28mmの、抗菌性試験用試料を切り出し、JIS L 1902に準じたハロー試験を行った。試験に用いた菌は、黄色ブドウ球菌、大腸菌、緑膿菌の3種類である。図1は、ハロー試験の一例を示す写真で、ここに示したのは、黄色ブドウ球菌の例である。
【0021】
ハロー試験では、シャーレの中に菌を培養し、中央に試験片を置いて一定時間保持する。そして試験片周辺の菌が消滅した、ハローと称される領域の幅を測定する。試験は3菌種に対し3回異なる試験片を用いて行った。ハロー幅は、図1にA、B、C、Dで示したように、試験片の4辺に対して測定するので、1条件に対し12回の測定を行った
【0022】
表1は、試験に用いたリン青銅合金のスズ含有量毎に、ハロー幅の12回の測定値の平均値をまとめた表である。また、図2は表1に示したハロー試験の結果を、横軸をスズ含有量、縦軸をハロー幅として示した図である。
【0023】
【表1】
【0024】
表1と図2に示したように、本試験条件の範囲では、一定以上の抗菌性が認められる。つまり、スズを添加することで、いずれの菌においても、純銅よりも抗菌効果の向上が認められることが明らかである。また,菌種によって、スズ添加の効果が異なる可能性があることがわかった。黄色ブドウ球菌と大腸菌ではスズ含有量が1重量%のときにハロー幅のピークが見られ、それ以上の領域の含有量では減少するが、スズ含有量3重量%程度から再び増加し、安定となる。緑膿菌のスズ含有量1重量%でのハロー幅は、他の二つの菌よりも小さいが、スズ含有量の増加に伴い、他の二つの菌と同じような挙動を示した。
【0025】
図3は、本発明に係る青銅合金表面を、グラインダを用いて粗面化した例の写真である。ここで粗面化加工に用いたグラインダの、砥石の粒度は120である。通常の圧延仕上がり面では、直接手で触れると指紋跡が目立つが、表面をこのように機械加工で粗面化することにより、指紋跡の視認が困難になった。なお、粗面化の方法としてはグラインダの他に、ショットブラスト加工、ヘアライン加工などが挙げられ、同様の効果が得られることは勿論である。
【0026】
図4は、約0.2mmの厚さに圧延し、表面を粗面化した、本発明のリン青銅合金薄板を、手摺表面に取り付けた一例を示す斜視図である。図4において、1は手摺、2はリン青銅合金薄板、3a及び3bは手摺1を壁面に取り付けるためのフランジ部である。医療機関や高齢者の介護施設の通路や出入り口には、ここに示したように、手摺やドアノブなどの直接手で触れる部分を、本発明のリン青銅合金の薄板で覆うことにより、感染症の蔓延を事前に防止することができる。
【0027】
以上に示したように、本発明によれば、抗菌性に優れたリン青銅合金を提供することができる。なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
1・・・手摺
2・・・リン青銅合金薄板
3a,3b・・・フランジ部
【要約】
【課題】 リン青銅の抗菌性を検証し、人体との接触による変色を軽減する方法を提供して、リン青銅の抗菌性を活用し得る用途を提案する。
【解決手段】 リン青銅合金の組成を、11重量%以下(0を含まない)のスズと、0.35重量%以下(0を含まない)のリンとを含み、残部が銅とすることにより、優れた抗菌性を発現する。変色の防止には、粒度が40〜200の砥粒を用いてグラインダ加工やショットブラスト加工により、表面を粗面化することで対処できる。この抗菌性を有するリン青銅で、医療機関などの手摺、ドアノブ、その他の手で直接触れる部分を覆うことで、感染症の蔓延などを未然に防止できる。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4