(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は既述したような問題を解決したターボポンプを提供することであり、具体的には、タービン径を小型化し、ひいては小型のターボポンプを提供することである。
前記特許文献記載の発明は、本発明の目的の解決を指向していないし、その示唆も開示されていない。
【0005】
タービン径の小型化は、ターボポンプの小型化、ひいてはロケットエンジンの小型、軽量化に繋がるという利点がある。さらに、類似の例として、自動車用のターボチャージャがあり、このときの駆動ガスはエンジンのシリンダから排出される、排気ガスであるが、どちらも同様な温度の高温ガスというところで共通である。
また、自動車のターボチャージャでは、内向半径流型、混流式、ノズル羽根なしのラジアルタービンを用いている。このことから、前記のラジアルタービンを採用し、タービン径を自動車のターボチャージャのサイズまで小型化すれば、ターボチャージャのタービン、シャフト、さらに場合によっては軸受を含めた軸受ユニットが流用でき、製造コストの大幅な減少につながる。
【0006】
逆に、タービン径の小型化は、同一パワーでは回転数の増大につながる。通常、回転数との共振に起因するところの危険速度は、使用最大回転数より高くなるように設定する必要があるが、タービン径の小型化により、従来以上に危険速度を高める必要がある。
このため、タービン、インペラの付いたシャフト自体の、また、このシャフトと軸受等の弾性特性が連成した振動系に起因する危険速度の確認が必要で、危険速度が使用最大回転数より小さいときは、たとえばシャフト長の短縮、シャフト径の増大、シャフト、軸受の剛性を高める等の対策が必要になる。
【0007】
一方、ポンプ性能においては、回転数の増大は、インペラ周速の増大になり、ひいてはキャビテーション発生の可能性が高まるため、対策を行う必要がある。
キャビテーションの多くはインペラの入口ブレード端から発生し、対策としては液体とブレード端との相対速度を減少させる必要がある。この相対速度は、ブレード端の周速とインペラ入口に流入する軸方向流速の合成である。ブレード端の周速を減少させるためには、軸中心からこのブレード端までの半径を小さくする必要があるが、軸、インペラのハブの半径には機械的、強度的に制限があるため、ブレード端までの半径も制限される。また、この対策でインペラ入口断面積を小さくすることになり、要求流量を満たすためには、インペラ入口に流入する軸方向流速が大きくなる。このために、周速を小さくしたのにかかわらず、液体とブレード端の相対速度が結果として大きくなる場合もある。従って、前記ブレード端までの半径は、両者を考慮して、相対速度が最小になるように選ぶ必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した課題を、以下の手段によって解決する。
請求項1の発明は、回転軸と、前記回転軸の一方の端部に設けられたタービンと、前記回転軸の他方の端部に設けられたポンプと、前記回転軸を支承する軸受とを備えて構成されるターボポンプにおいて、前記タービンはラジアルタービンであり、前記ポンプは液体を吸い込んで一定高さまで吐出できる複数条の羽根を有するインペラを備えたポンプであ
り、前記ポンプは、前記回転軸回りにおける位相が略360deg.にわたって延在するブレードを、略120deg.間隔で3枚有するインペラを備え、前記ポンプのインペラの入口におけるブレード半径をrt(m)、前記インペラの回転数をN(rpm)、前記インペラの入口体積流量をQ(m3/s)、前記インペラの入口流路断面積をS(m2)、n=2π・rt・(N/60)、φ=Q/(S×n)、としたときに、前記インペラの入口のブレード端翼角βitip(deg.)を、βitip(deg.)=φ×100となるよう設定したことを特徴とするターボポンプである。
【0011】
請求項
2の発明は、前記ポンプの入口のハブ半径を、機械的強度を充足して成立し得る最小寸法に設定し、前記インペラの入口のブレード半径を、前記ハブ半径におけるキャビテーション係数が最大となるように設定し、使用上要求される揚程に応じて前記インペラの出口のブレード半径及び出口のハブ半径を設定したことを特徴とする請求項
1に記載のターボポンプである。
【0012】
請求項
3の発明は、前記インペラの入口のブレード半径を21.5(±0.5)mm、入口のハブ半径を9.5(±0.5)mm、出口のブレード半径を、24.0(±0.5)mm、出口のハブ半径を、12.0(±0.5)mm、入口のブレード端翼角(βitip(deg.))を9.5(±0.5)deg.としたことを特徴とする請求項4に記載のターボポンプである。
【0013】
請求項
4の発明は、インペラ入口のブレード前縁を、ハブへの付け根から端部まで、接線方向から半径方向に90deg.の後退角を有しかつ下記式で得られる円弧状に形成したことを特徴とする請求項1から請求項
3までのいずれか1項に記載のターボポンプである。
後退角を与えない場合のインペラ入口のブレードの仮想半径:ritip
インペラ入口のハブの半径:rihub
インペラ出口のブレードの半径:rotip
インペラの入口のブレード端翼角βitip(deg.)
インペラ入口のブレードとインペラ出口のブレード間のインペラ軸方向の距離:Lh=2π・ritip・tan(βitip)
インペラ入口のブレード前縁より90deg.回転した位置におけるブレードの半径:r90tip=ritip+(rotip−ritip)/Lh・(90/360)
としたときに、前記円弧は、中心はインペラ入口のブレード前縁より90deg.回転した方向の線上に位置し、
円弧の半径rb=(rihub
2+r90tip
2)/(2r90tip)
円弧の中心のインペラ軸からの距離:ybo=r90tip−rb
請求項5の発明は、回転軸と、前記回転軸の一方の端部に設けられたタービンと、前記回転軸の他方の端部に設けられたポンプと、前記回転軸を支承する軸受とを備えて構成されるターボポンプにおいて、前記タービンはラジアルタービンであり、前記ポンプは液体を吸い込んで一定高さまで吐出できる複数条の羽根を有するインペラを備えたポンプであり、インペラ入口のブレード前縁を、ハブへの付け根から端部まで、接線方向から半径方向に90deg.の後退角を有しかつ下記式で得られる円弧状に形成したことを特徴とするターボポンプである。
後退角を与えない場合のインペラ入口のブレードの仮想半径:ritip
インペラ入口のハブの半径:rihub
インペラ出口のブレードの半径:rotip
インペラの入口のブレード端翼角βitip(deg.)
インペラ入口のブレードとインペラ出口のブレード間のインペラ軸方向の距離:Lh=2π・ritip・tan(βitip)
インペラ入口のブレード前縁より90deg.回転した位置におけるブレードの半径:r90tip=ritip+(rotip−ritip)/Lh・(90/360)
としたときに、前記円弧は、中心はインペラ入口のブレード前縁より90deg.回転した方向の線上に位置し、
円弧の半径rb=(rihub2+r90tip2)/(2r90tip)
円弧の中心のインペラ軸からの距離:ybo=r90tip−rb
【0014】
請求項
6の発明は、前記ラジアルタービンが内向半径流型かつ混流式でありノズル羽根を具備していないものであることを特徴とする請求項1から請求項
5までのいずれか1項に記載のターボポンプである。
【0015】
請求項
7の発明は、前記ポンプの出力総圧と流量とを乗じた出力パワーが最大44kWを、タービン最大径が95mm以下で達成することを特徴とする請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載のターボポンプである。
【0016】
請求項8の発明は、タービン端からシャフト端、インペラ端までを含めた最大長さが205mm以下とすることを特徴とする請求項1から請求項
7までのいずれか1項に記載のターボポンプである。
【0017】
請求項
9の発明は、インペラ長は30mm以下とすることを特徴とする請求項1から請求項
8までのいずれか1項に記載のターボポンプである。
【0018】
また、前述の課題は、回転軸(シャフト)の一端にタービン,もう一端にポンプ,タービンとポンプの間に回転軸を支承する軸受から構成されるターボポンプにおいて,ラジアルタービンと,液体を吸い込んで一定高さまで吐出できる複数条の羽根を有する1段のポンプを備えた構成とすることによって達成される。
【0019】
ラジアルタービンは、特に内向半径流型、混流式、ノズル羽根なしのタイプを1段で用いる。ラジアルタービンの、反動度が比較的大きいため小型でも比較的効率が高い、構造上高い周速を使うことができるため1段あたりの圧力比を比較的高くできる、構造が簡単という特長を活かして、タービン径の小型化を図っている。
【0020】
前記タービンは、前記ポンプ出力パワー(=出力総圧×流量)が、回転数65000rpm(round per min.)において44kWであるターボポンプにおいて、タービン羽根最大径を95mm以下で達成することで小型化を図っている。
【0021】
タービン径を小径にすると、同一のポンプ出力パワー(=出力総圧×流量)を得るには回転速度を上げなければならない。このため危険速度を、高くなった回転数を回避するまで、高くする必要が発生する。本発明では、使用最大回転数が65000rpm以上に達するが、これは従来のターボポンプの例よりも大きい。
このため、前記シャフト長を短くし、弾性固有振動数を高くする必要がある。このため、前記ターボポンプにおいて、タービン端からシャフト端、インペラ端までを含めた最大長さが205mm以下とした。
【0022】
さらに、危険速度は、シャフトの径、剛性、シャフトを支持する軸受間の距離等のパラメータがあるが、構造的に弾性一次危険速度を83000rpmとすることにした。
【0023】
また、前述のシャフト長205mm以下の制約に対応するため、前記ターボポンプにおいて、インペラの占める部分の長さを短くする目的で、インペラを1段とし、インペラ長は30mm以下とした。
【0024】
また、回転数が高い状態でインペラ入口のブレード端周速を低く抑えるため、シャフトのインペラ取り付け位置での径も考慮して、インペラ入口のブレード半径を21.5mm、ハブ入口の半径を9.5mmとした。
実際のブレード端は、後述する後退角を得るために加工し、実際のブレード半径の最大値は減少するが、この加工を行う前のブレード半径(後退角を与えないと仮定した場合のブレード半径)である。
なお、本明細書、特許請求の範囲などにおいて、後退角とは、ブレードの前縁がインペラの半径方向に対して外径側が後方側となるように傾斜するようにつけられた角度のことを示すものとする。
【0025】
また、インペラにおける入口のブレード端の翼角を9.5deg.とした。
実際のブレード端は、後述する後退角を得るために加工し、ブレード半径は減少するが、この加工を行う前のブレード端の設計上の値である。
【0026】
また、前記の両入口半径で、所定のポンプパワーを得るために、インペラ出口のブレードの半径を24.0mm、ハブ出口の半径を12.0mmとした。
【0027】
また、回転数が高い状態でインペラ入口のブレード端でのキャビテーション発生をできるだけ抑制するため、インペラ入口のブレード前縁の、ハブへの付け根から端部まで、接線方向から半径方向に90deg.の円弧となる後退角を備えた。
【発明の効果】
【0028】
本発明のターボポンプを使用することによって、記述した様々な問題を解決することができる。すなわち、第1にタービン径の小型化は、ターボポンプの小型化、ひいてはロケットエンジンの小型、軽量化に繋がる。また、場合によっては、既存の自動車用ターボチャージャのタービン、シャフト、軸受を含めた軸受ユニットが利用できるため、大幅なコスト低減を実現できる。
【0029】
第2に、タービン径の小型化は、同一パワーでは回転数の増大につながるが、本発明により従来にない高速の範囲まで以上に、危険速度を高めることができる。
【0030】
第3に、ポンプ性能においては、回転数の周速の増大により、キャビテーション発生の可能性が高まるが、発生を最小限に抑えるインペラを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、
図1乃至
図14を参照して本発明のターボポンプの実施形態を簡単に説明する。
図1は、本発明を適用したターボポンプの一実施形態が、ロケットエンジンシステム内で使用される例を示す概略図である。
なお、通常、液体ロケットエンジンは、推進剤として、液体酸素等の酸化剤と、液化天然ガス等の燃料の、2液体の混合燃焼を行うため、ターボポンプ、推進剤タンク、配管も2系統ある。しかしターボポンプの使用方法としては差異が小さいので、この図ではその1系統のみ示す。
図1に示すようにターボポンプ1は、タービン11にロケットエンジン燃焼室3からの燃焼ガスを注入することで、軸受ユニット14で支持されたシャフト13を介してタービン11と繋がったポンプ12を駆動する。このポンプ12で、推進剤タンク2に充填された推進剤を、昇圧し、ロケットエンジン燃焼室3に送出する。
軸受ユニット14は、シャフト13を回転可能に支持する一対の軸受141、142を備えている。軸受141、142は、シャフト13の軸方向に離間して配置されている。また、軸受ユニット14は、軸受141、142を潤滑する図示しない潤滑装置を備えている。
【0033】
図2に、本実施形態の液体ロケットエンジン用ターボポンプ1のユニット構成図を示す。
また、
図3に、
図2のターボポンプ1の概略構成図を示す。各構成品の番号は両図で一致させている。
タービン11はタービン羽根111とタービンハウジング112で構成される。
タービン羽根111は、タービンハウジング112に対して回転可能に支持されている。また、タービンハウジング112は、タービン羽根111を収容するとともに、タービン羽根111と協働して燃焼ガスが通過するガス流路を構成する。
このタービンハウジング112のタービン気流入口1121に、矢印で示した気流方向(タービン11の径方向)に注入された燃焼ガスが、タービンハウジング112内のタービン羽根111を駆動(回転)させながら、タービンハウジング112のタービン気流出口1122で、矢印で示した気流方向(タービン11の軸方向)に排出される。
【0034】
この駆動ガスである燃焼ガスの流量、温度、タービン気流入口1121の圧力とタービン気流出口1122の圧力との圧力比を調整することにより、タービン11の出力パワーを調整できるが、タービン羽根111の回転数は、高出力パワーで大きくなる。また、同一のパワーでもタービン羽根111の径が小さいと高回転数が必要である。
【0035】
タービン11の型は、内向半径流型、混流式、ノズル羽根なしのラジアルタービンで1段である。一般にタービンには、大きく分けて軸流タービンとラジアルタービンがあるが、ラジアルタービンの持つ以下の特長を活かして採用し、タービン径の小型化を図っている。
・一般に反動度が比較的大きいため小型でも比較的効率が高い
・一般に構造上高い周速を使うことができるため、1段あたりの圧力比を比較的高くできる。圧力比が3程度で、高効率が得られる。
・一般に回転数が高いとタービン効率は良くなるが、構造が簡単で、高回転数での使用に適している。
・一般に軸流式より、1段あたりのエネルギー消費が大きい
・一般に軸流式より、クリアランスによる損失が小さい。
なお、今回、タービン羽根111の最大直径は例えば95mm以下のものである。また、圧力比は約2から3の範囲で使用する。
なお、本実施形態において、タービン11として、公知の自動車用ターボチャージャのタービンを流用することが可能である。
【0036】
また、ポンプ12は、インペラ121とポンプハウジング122で構成される。液体酸化剤、燃料等の扱う液体は、ポンプハウジング122のポンプ液入口1221から矢印で示す液方向(ポンプ12の軸方向)に入り、インペラ121で昇圧され、ポンプ液出口1222から矢印で示す液方向(ポンプ12の径方向)に排出される。
【0037】
インペラ121はタービン羽根111に固定されたシャフト13のもう一端の先にインペラ止め123で固定されており、このシャフト13の長さ(タービン羽根111端からインペラ121、インペラ止め123先端まで含めた全長)は205mm、またはそれ以下としてある。
インペラ止め123としては、例えば、シャフト13のインペラ121側の端部に形成されたM9ネジ部に締結される2面幅13mmのナットが用いられる。
【0038】
また、前記の、シャフト13の長さが205mm以下の制約に対応するため、前記ターボポンプ1において、インペラ121がシャフト13に取り付けられる部分の長さを短くする目的で、インペラ121を1段とし、インペラ121の長さは30mm以下とした。
このことで、タービン羽根111、軸受ユニット14、ポンプハウジング122の各構造、寸法の制約の中においても、上記シャフト13の長さのもとで、ターボポンプ1の構成、構造が成立する。
【0039】
図4にインペラ121の構造図を示す。インペラ121はそのハブ1211の外周に螺旋状360deg.のブレード1212を3枚、120deg.間隔で有している。本発明ではこの3条の螺旋ブレード1212を持つ単段のインペラ121を用いる。
【0040】
また、回転数が高い状態でインペラ121入口のブレード1212端の周速を低く抑えるため、インペラ121入口におけるブレード1212の半径は小さくする必要がある。
しかし、一方、シャフト13のインペラ121取り付け位置での軸径(M9ネジで固定)から、そこに取り付くハブ1211の半径は、9.5mmとした。
ハブ1211の半径が、9.0mm、9.5mm、10.0mmのときのキャビテーション係数K2(定義は後述する)の計算値を、
図5に示す。
図5で、ハブ1211の半径、9.5mmにおける最適値(kの最大値)が得られるインペラ入口ブレード半径を選び、インペラ121入口におけるブレード1212の半径を21.5mmとした。特性への影響度では、ハブ1211の半径とともに、公差±0.5mmを許容するが、実際の製造上の公差はこれより十分小さい値で製造できる。
【0041】
また、インペラ121入口におけるブレード1212端の翼角(βitip(deg.))を入口での単位面積当たりの流量係数(φ)から以下の式で求め、9.5deg.とした。翼角とは、インペラ121の中心軸と直交する平面に対してブレード1212端がなす傾斜角を示すものとする。特性への影響度では、公差±0.5deg.を許容するが、実際の製造上の公差はこれより十分小さい値で製造できる。
βitip(deg.)=φ×100
φ=Q/(S×n)
Q:インペラ121入口体積流量(m
3/s)
S:インペラ121入口断面積・(m
2)(ハブを除いた流路部分)
n:=2π・rt・(N/60)
rt:インペラ121入口におけるブレード1212の半径(m)
N:回転数(rpm)
図6で、この翼角βitipと、流入流体に対する迎角の関係を示す。
図6に示すように、仰角は翼角βitipに対してほぼ比例関係にあり、ハブ側と先端部側とでは、翼角βitipが同等ではハブ側のほうが仰角が大きくなることがわかる。
本実施形態のように、翼角βitipを9.5deg.に設定した場合、仰角は先端側、ハブ側でそれぞれ約4.2deg.及び8.0deg.となる。
【0042】
また、前記のブレード1212、ハブ1211の入口半径で、所定の圧力上昇(揚程)を得るための特性を
図7、
図8に示す。
今回、要求の圧力上昇(5.0MPa=head490m)に対して、計算マージンを1.5倍取った、750mを圧力上昇の目標値とした。
図7より、翼角が9.5deg.で、この目標値を達成するために、インペラ121出口のブレード1212の半径を24.0mm、とした。
このとき、出口のハブ1211の半径を変化させたときの、圧力上昇特性を
図8に示す。これより、最適値を選び、出口のハブ1211の半径を12.0mmとした。
特性への影響度では、公差±0.5mmを許容するが、実際の製造上の公差はこれより十分小さい値で製造できる。
インペラ121のハブ1212は、上述したように、入口の半径が9.0mm、出口の半径が12.0mmであり、この間は軸方向距離に応じて半径が増大する円錐台状に形成されている。
【0043】
また、回転数が高い状態でインペラ121入口のブレード1212端でのキャビテーション発生をできるだけ抑制するため、
図4に示すように、前記のブレード1212は、インペラ121入口で、前縁のハブへの付け根から端部まで、接線方向から半径方向に90deg.の円弧となる後退角形状とした。
図4に示すこの円弧は、中心はインペラ121入口より90deg.回転した方向の線上に位置し、その半径と、この円弧の中心のインペラ軸からの距離は以下の式から求められる。
・インペラ121入口のブレード1212の半径(後退角加工前、設計上):ritip
・インペラ121入口のハブ1211の半径:rihub
・インペラ121出口のブレード1212の半径:rotip
・上記インペラ121入口におけるブレード1212とインペラ121出口のブレード1212間のインペラ軸方向の距離:
Lh=2π・ritip・tan(βitip)
・インペラ121入口より90deg.回転した位置(
図4参照)におけるブレード1212の半径:r90tip=ritip+(r0tip−ritip)/Lh・(90/360)
・この円弧は、中心はインペラ121入口より90deg.回転した方向の線上に位置するとし、円弧の式を x
2+(y−ybo)
2=rb
2 と置く。(ybo:この円弧の中心のインペラ軸からの距離、rb:円弧の半径)
この円弧は(x、y)=(rihub、0)と(0、r90tip)を通ることより、ybo、rbが以下の式で求められる。
円弧の半径:rb
rb=(rihub
2+r90tip
2)/(2r90tip)
円弧の中心のインペラ軸からの距離:ybo
ybo=r90tip−rb
図4のrbは、後退角の先端とハブとの付け根にR2.5の接合部を設けたため、上記式のrbより0.1mm大きめに取ってある。
【0044】
ポンプハウジング122は、
図3に示すふたつのラビリンスシール1223、ラビリンスシール1224を有している。
ラビリンスシール1223は、シャフト13に面している。ラビリンスシール1224は、
図4に示すインペラ121のハブ1211の底面にあるラビリンスシール1213と凹凸を対で合わせたものである。これらはシャフト13の回転軸を中心とした同心円状のものである。これらにより、ポンプハウジング122内の液体がインペラ121の底面の隙間を通って軸受ユニット14に流れるのを防いでいる。
【0045】
ポンプハウジング122は、インペラ121に合わせて設計した。
図3で説明する。インペラ121に軸方向から流入してインペラ121から軸方向に出た液体は、その後流の案内領域1225で外径側へ周方向に曲げられ、下流の渦巻き状ケーシング1226に吐出する。ポンプハウジング122はベーンレスとした。
【0046】
インペラ121の出口から案内領域1225入口に流入してきた液体は、そこで流路面積を約1.2倍にすることで減速する。案内領域1225出口では、軸方向流れ成分を遠心方向に変えるために出口は半径方向になるようにしている。案内領域1225出口の流路面積はインペラ121出口の約1.4倍にした。その後流の渦巻き状ケーシング1226の設計については、内部の絶対速度が維持できるよう、出口部における最大面積を、ポンプ12に流れる流量から決定した。なお、渦巻き状ケーシング1226入口部から出口部(最大面積部)までの流路面積については、周方向360度として一次近似で滑らかにつないだ。
【0047】
軸受ユニット14は、内部に設けたふたつの軸受141、142によって、両端支持でタービン羽根111、インペラ121の付いたシャフト13を支持する。軸受141、142は、シャフト13の軸方向に離間して1対が設けられている。このとき、危険速度は、シャフト13の径、剛性、シャフト13を支持する軸受141、軸受142間の距離等のパラメータにより値が変化するが、構造的に弾性一次危険速度を83000rpmとさせて、これにより、使用最高回転数を危険速度以下となるようにしている。
【0048】
前述の弾性一次危険速度は、実験により確認したので、以下に示す。
実験では、タービン羽根111とインペラ121をシャフト13の両端に付けた回転部分を軸受141、軸受142を介して軸受ユニット14で支持し、液体なしで、電動モータで回転させることにより、軸受ユニット141に支持された状態の回転部分の危険速度を確認した。
図9は各回転数での、シャフト13の軸に垂直な2方向x、y(これらも直交の向き)の振動による軸振動変位量を計測した回転実験結果である。また、回転のタイミングを計測することで、振動の位相も計測した。電動モータの限界で17000rpmまでである。回転部分のバランシングが良いため、軸振動変位量に大きな共振点は見られないが、位相が−90deg.となる点が共振点であり、すなわち1次の危険速度(後述するように弾性一次危険速度ではない)が判明した。
【0049】
なお、軸受ユニット14で支持された状態の前記の回転部分につき、伝達マトリクス法で数値シミュレーションを行った。このとき、軸受141,軸受142の弾性係数を前記実験で求めた1次の危険速度から求め、シミュレーションモデルをコリレーションした。この結果より、2次、3次の振動モードと周波数、すなわち危険速度を求めた。
図10は、これらの危険速度における振動モードである。この結果、危険速度、約回転9000rpm(1次)、24000rpm(2次)、83000rpm(3次)が確認された。
図10に示すように、この3次が弾性一次危険速度である。
1次に関しては、振動強度が許容できることを、本実験で確認した。
2次に関しては、水流し実験で、この周波数を超えた回転数まで回転させ、振動強度が許容できることを確認した。
3次に関しては、この回転数以下でターボポンプ1を使用することとすることで、回避する。すなわち、使用最高回転数を危険速度以下とする。
【0050】
ターボポンプ1の実際の性能は、ポンプ効率等、解析的に確定できないものもあるため、最終的には実験が必要であり、性能は、この実験データから、相似側により、確認される。
【0051】
本発明であるターボポンプ1の特性確認のために実施した、水流し実験につき以下に示す。
図11は、実験のブロックダイアグラムである。
タービン11を高回転で駆動させるためのガス源は高エンタルピー風洞を用いた。この風洞を用い、駆動ガスの流量、温度、タービン気流入口1121の圧力とタービン気流出口1122の圧力との圧力比によって、タービン11の出力パワーを調整できる。タービン羽根111の回転数は、高出力で大きくなる。また、同一のパワーでもタービン羽根111の径が小さいと高回転数が必要となる。また、この実験では、ポンプ12の液体は、常温の水を使用している。
【0052】
図12は水流し実験結果のうち、以下で定義される流量係数および揚程係数である。
・ 流量係数=Q/N
Q: ポンプ液入口1221に入る液体の体積流量(l/s:リットル/秒)
N:回転数(rpm)
・揚程係数=Head/N
Head(m)=ΔP/ρw・g
ΔP=Pout−Pin
Pin:ポンプ液入口1221における総圧(絶対圧)(Pa)
Pout:ポンプ液出口1222における総圧(絶対圧)(Pa)
ρw:水密度(kg/m
3)、g:重力係数(m/s
2)、N:回転数(rpm)
【0053】
図13は水流し実験結果のうち、タービンインプットパワーとポンプアウトプットパワーである。なお、タービンインプットパワー(Pwrt-i)、ポンプアウトプットパワー(Pwrp-o)は、以下の式で求めたものである。
・Pwrt-i = G・κ/(κ-1)・R・Tin・(1-π^((1-κ)/κ))
G : タービン気流入口1121に入れるガス流量(質量流量)(kg/s)
κ: 比熱比=1.4
R: 空気のガス乗数(joule/(kg・K))
Tin: タービン気流入口1121の気流静温度 (K)
π: 圧力比=タービン気流出口1122の静圧(絶対圧)/タービン気流入口1121の静圧(絶対圧)
・Pwrp-o= Q・(Pout-Pin)
Q: ポンプ液入口1221に入る液体の体積流量(m
3/s)
Pin: ポンプ液入口1221における総圧(絶対圧)(Pa)
Pout: ポンプ液出口1222における総圧(絶対圧)(Pa)
【0054】
図14は、キャビテーション係数と、回転数、揚程係数の関係を示すものである。
なお、キャビテーション係数(k)は、以下の式で求めたものである。
k=(Pins-Pv)/((1/2)ρw・V
2)
Pins:ポンプ液入口1221の液体(水)の静圧(絶対圧)(Pa)
ρw:液体(水)の密度(kg/m
3)
Pv: 液体(水)の飽和水蒸気圧(絶対圧)(Pa)
V: インペラ121の入口におけるブレード1212端の速度と、その点での液体(水)との相対速度(m/s)
【0055】
図14上のグラフで見られるように、キャビテーション係数が約0.04、回転数で約30000rpmのデータより、それ以下で、急激に揚程係数が下がる。
図12の下図に示したデータの詳細な解析では、この点より上の、回転数で約20000rpm以下のデータでの揚程係数の平均値は9.19×10
−8(m/rpm
2)であるが、回転数で約30000rpmのデータでは8.05×10
−8と、12%以上も低下しており、この実験のターボポンプ1へのインタフェース条件において、キャビテーションが発生していることが分かる。
逆に、これより下の回転数、約20000rpm以下のデータから求めた流量係数、揚程係数は、ポンプ12の性能であると判断できる。なお、流量係数は、0.000179(l/s/rpm)となる。(
図12の上図参照)
キャビテーションの対策は、ポンプ液入口1221の圧力を上げることで実施できる。今回の実施例でも、
図1の推進剤タンク2の圧力を上げることによって対策することが可能である。
【0056】
図13のタービンインプットパワーとポンプアウトプットパワーのグラフにおいて、キャビテーション発生前の約20000rpm以下のデータから、最小二乗法によって求めた近似曲線を、同図に示す。なお、曲線はタービンインプットパワーとポンプアウトプットパワー各々の2本である。ポンプアウトプットパワーの曲線は、パワーが回転数の3乗にのみ比例する(2次以下の項はない。すなわち、Pwrp-o=ap・N
3)とした。また、タービンインプットパワーも、回転数の3乗にのみ比例する(2次以下の項はない。すなわち、 Pwrt-i=at・N
3)とした。ここではターボポンプ1全体の全効率であるポンプアウトプットパワーとタービンインプットパワーの比が一定であることを前提とした。実験結果より、ap=1.70×10−13(kw/rpm
3)、at=6.20×10−13(kw/rpm
3)となった。なお、前記の流量係数、揚程係数の積として、apを求めると、ap=1.65×10−13(kw/rpm
3)となり、ほぼ一致する。
【0057】
前記の式、Pwrp-o=ap・N
3よりap=1.65×10
−13で、回転数65000rpmで、44kWとなる。なお、他の密度の液体としても、成立するため、本実施例の特性が確認されたことになる。
【0058】
よって、本発明のターボポンプ1の性能は、回転数65000rpmにおいて、ポンプ出力パワー44kWである。同様に、前記、揚程係数より、ポンプ液入口1221とポンプ液出口の総圧差(ポンプ12による総圧上昇分)は3.8MPa、前記、流量係数より、流量は0.0116
m3/sとなる。