(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5656180
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】感温磁性材料を用いた回転駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02N 10/00 20060101AFI20141225BHJP
【FI】
H02N10/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-536007(P2014-536007)
(86)(22)【出願日】2014年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2014054415
【審査請求日】2014年8月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-49749(P2013-49749)
(32)【優先日】2013年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511094912
【氏名又は名称】藤田 恵三
(74)【代理人】
【識別番号】100160657
【弁理士】
【氏名又は名称】上吉原 宏
(72)【発明者】
【氏名】藤田恵三
【審査官】
槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−086904(JP,A)
【文献】
米国特許第04730137(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感温磁性材料に温度差を与えて回転動力を得る装置であって、
本体と、
ローターと、
加熱装置と、
冷却装置と、
駆動用永久磁石と、から構成され、
前記ローターは、
全体または円周縁部に高熱伝導率素材を用いた円形の回転部材であって、
該ローターの中心には前記本体にベアリングを介して回転自在に備えるための出力軸を有し、
該ローターの周壁には、空間領域又は低熱伝導率素材を挟んで等間隔に隔てられた複数の感温磁性材料が周設され、
該感温磁性材料には可逆温度変化(可逆減磁)の下限と上限との間にキュリー点を有し、該キュリー点付近で磁気特性が急変する特性の感温磁性材料を用い、
該感温磁性材料が配設される周壁の内側には、加熱又は冷却、若しくは加熱及び冷却のための熱交換用媒体流通室及び熱交換用媒体流通穴が設けられて成り、
前記加熱装置は、前記駆動用永久磁石の近傍に配置され、区画化された加熱領域内の前記感温磁性材料をその可逆温度変化の上限を超えないように外部熱源からの熱を与える装置であり、
前記冷却装置は、前記駆動用永久磁石に対し、前記加熱装置の反対側近傍に配置され、前記加熱装置により加熱された前記感温磁性材料を、その可逆温度変化の下限を超えないように冷却する装置であり、
前記駆動用永久磁石は、前記ローターに周設される前記感温磁性材料の温度変化に伴う減磁に作用させ、磁極特性により該ローターを回転駆動するために必要な最大エネルギー積を有する残留磁束密度と保磁力の大きな永久磁石を用い、
前記本体に、前記ローター、前記加熱装置、前記冷却装置、及び前記駆動用永久磁石とを、適切な位置に配置させて構成されることを特徴とする感温磁性材特性を利用した回転動力装置。
【請求項2】
前記加熱装置における加熱手段が、太陽光を集光して熱源とし、該集光した光を加熱領域内の前記感温磁性材料に投射して加熱する構成を採用し、
前記冷却装置における冷却手段には、空冷又は低温水を冷媒とする構成を採用したことを特徴とする前記請求項1に記載の感温磁性材特性を利用した回転動力装置。
【請求項3】
前記加熱装置における加熱手段が、外部熱源から生じた高温気体を熱媒として加熱する構成を採用し、
前記冷却装置における冷却手段には、空冷又は低温水を冷媒とする構成を採用したことを特徴とする前記請求項1に記載の感温磁性材特性を利用した回転動力装置。
【請求項4】
前記加熱装置における加熱手段には外部熱源から生じた高温水を熱媒として加熱する構成を採用し、
前記冷却装置における冷却手段には、空冷又は低温水を冷媒とする構成を採用し、
前記感温磁性材料の可逆温度変化(可逆減磁)の上限が100度を超え、且つ、キュリー点が100度以下である特性の前記感温磁性材料を用いていることを特徴とする前記請求項1に記載の感温磁性材特性を利用した回転動力装置。
【請求項5】
前記駆動用永久磁石が、前記ローターに取りつけられる前記感温磁性材との位置関係において、前記本体に対して上方または下方に位置調整をするための位置調整機構を備えたことを特徴とする前記請求項1から前記請求項4のいずれかに記載の回転動力装置。
【請求項6】
前記駆動用永久磁石の同極を向かい合わせ、前記感温磁性材を挟み込むように配置されることを特徴とする前記請求項1から前記請求項5のいずれかに記載の回転動力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温磁性材特性を利用した回転動力装置に関し、詳しくは、可逆温度変化(可逆減磁)の下限と上限との間にキュリー点を有し、該キュリー点付近で磁気特性が急変する特性の感温磁性材料を用い、係る可逆減磁の範囲内で加熱と冷却を同時に行うことで回転動力を得る装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題に対する国民の意識が高まり、特に、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震以降は、原子力発電所からの放射能汚染の問題があり、水力、風力、若しくは太陽光等の自然エネルギーに基づく発電方法や技術に高い関心を示すようになっている。
【0003】
そして、これらの研究と同様、古くから磁性体を用いた動力発生装置の研究も進められている。特に近年では、希土類磁石のネオジム磁石のように、残留磁束密度と保磁力の大きな永久磁石が登場したことから、これを用いた動力装置や発電機等に関する技術が種々提案されている。しかしながら、どんなに強力な永久磁石を用いても、永久磁石のみでは駆動し続けることはできない。エネルギー保存の法則通り、質量を有する回転体を駆動し続けるためには、何らかのエネルギーを運動エネルギーとして取り出して与え続ける必要がある。従来からも、熱源があれば駆動が可能なスターリングエンジンや、円盤又は円筒の磁性材料に、磁性を失うキュリー付近まで熱を加えて駆動力を得る熱磁気エンジンがあった。これらは必要な熱エネルギーが得られれば熱源の種類は問わないといった利点がある。しかし、スターリングエンジンは、気体を熱膨張させるために必要な高温の燃焼ガス等が必要であり、常温に近い温度領域の熱源では駆動できないという欠点がある。また、熱磁気エンジンは熱交換サイクルの関係から高速回転に向かないという欠点がある。
【0004】
しかし、近年の技術開発によって、使用温度の範囲となる可逆温度変化(可逆減磁)の上限と下限との間にキュリー点を持ち、且つ、キュリー点付近でその磁気特性が急変する感温磁性材料が提供されるようになった。
そこで、本願発明は、上記の通り急速に技術の進歩が図られている感温磁性材料の温度変化に伴う磁性特性の変化を利用することとした。なお、最近ではキュリー点が80度前後にまで下げられたものが開発されているので、係る感温磁性材料を用いれば、温水と冷水だけでも駆動が可能であり、生産工場等から排出される水蒸気や内燃機関の冷却水、或いは一般家庭に設置されている給湯器や小型ボイラーなど、熱源として利用可能な範囲が広がり、熱源は容易に確保することができる。
【0005】
なお、本願以外にも、感温磁性材料の特性に着目し、熱を加えることで動力等を発生させる種々の技術が提案されている。例えば、「感温磁性材料から円筒状に形成された回転自在な回転ドラムと、この回転ドラムの内側及び外側に配置されしかも該回転ドラムの内周面と外周面に磁極を対向して設けられた対向磁石と、回転ドラムの一部分を加熱して形成された加熱領域と、回転ドラムの他の部分を冷却して形成された冷却領域から構成され、加熱領域と冷却領域の温度差により発生するマックスウェル応力により回転ドラムを回転させることを特徴とする対向磁石型熱磁気エンジン。」が公知技術となっている(特許文献1参照)。
【0006】
また、「回転自在に軸支した感熱磁性材製の円筒体と、前記円筒体の円周方向に磁極を位置せしめて円筒体の外周面と対向状に配設した磁石と、円筒体の一部分を加熱する加熱領域と、円筒体の他の部分を冷却する冷却領域とから形成した熱磁気エンジンに於いて、前記感熱磁性材製の円筒体を、複数個の厚みの薄い感熱磁性材製の円筒体を同芯状に積層固定した構成としたことを特徴とする熱磁気エンジン。」が公知技術となっている(特許文献2参照)。
【0007】
上記特許文献1及び特許文献2に係る技術も、本願発明と同様に、感温磁性材料の温度特性を利用している点で共通している。しかしながら、いずれの技術も回転体が一体の感温磁性材料製のドラムであり、該ドラムの回転方向の前後に高温部と低温部とを作ることで駆動するものである。そうすると、一体構造のドラムの一部を加熱しても、伝熱により加熱領域が必要以上に広がってしまい、熱の交換サイクルの効率がよくないものであったと思量される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−281774号公報
【特許文献2】特許第4234235号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
太陽光発電では夜間にエネルギーを得ることができず、火力発電では燃焼ガスによる環境破壊問題があり、水力は高低差や水源が必要であり、風力では風が強い地域でないと効率が悪い。そこで、化石燃料等による燃焼を伴わず、天候や地形にも左右されず、安定した動力の供給を得ることができる動力装置技術の提供が待ち望まれている。本願の発明者は、このような問題を解決すべく、磁性材料の温度変化に伴う磁性特性の変化に着目し、可逆減磁の下限と上限との間にキュリー点を有する感温磁性材料に、係る温度範囲内で加熱と冷却を効率良く繰り返せば、上記の問題を解決できる回転動力装置ができるのではないかとの着想の下、磁力と熱エネルギーを運動エネルギーに変換して回転駆動する本願発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、感温磁性材料に温度差を与えて回転動力を得る装置であって、本体と、ローターと、加熱装置と、冷却装置と、駆動用永久磁石と、から構成され、前記ローターは、全体または円周縁部に
高熱伝導率素材を用いた円形の回転部材であって、該ローターの中心には前記本体にベアリングを介して回転自在に備えるための出力軸を有し、該ローターの周壁には、空間領域又は低熱伝導率素材を挟んで等間隔に隔てられた複数の感温磁性材料が周設され、該感温磁性材料には可逆温度変化(可逆減磁)の下限と上限との間にキュリー点を有し、該キュリー点付近で磁気特性が急変する特性の感温磁性材料を用い、該感温磁性材料が配設される周壁の内側には、加熱又は冷却、若しくは加熱及び冷却のための熱交換用媒体流通室及び熱交換用媒体流通穴が設けられて成り、前記加熱装置は、前記駆動用永久磁石の近傍に配置され、区画化された加熱領域内の前記感温磁性材料をその可逆温度変化の上限を超えないように外部熱源からの熱を与える装置であり、前記冷却装置は、前記駆動用永久磁石に対し、前記加熱装置の反対側近傍に配置され、前記加熱装置により加熱された前記感温磁性材料を、その可逆温度変化の下限を超えないように冷却する装置であり、前記駆動用永久磁石は、前記ローターに周設される前記感温磁性材料の温度変化に伴う減磁に作用させ、磁極特性により該ローターを回転駆動するために必要な最大エネルギー積を有する残留磁束密度と保磁力の大きな永久磁石を用い、前記本体に、前記ローター、前記加熱装置、前記冷却装置、及び前記駆動用永久磁石とを、適切な位置に配置させて構成されることを特徴とする感温磁性材特性を利用する構成を採用した。
【0011】
また、本発明は、前記加熱装置における加熱手段が、太陽光を集光して熱源とし、該集光した光を加熱領域内の前記感温磁性材料に投射して加熱する構成を採用し、前記冷却装置における冷却手段には、空冷又は低温水を冷媒とする構成を採用したことを特徴とする感温磁性材特性を利用した構成の回転動力装置とすることもできる。
【0012】
また、本発明は、前記加熱装置における加熱手段が、外部熱源から生じた高温気体を熱媒として加熱する構成を採用し、前記冷却装置における冷却手段には、空冷又は低温水を冷媒とする構成を採用したことを特徴とする前記記載の感温磁性材特性を利用した回転動力装置とすることもできる。
【0013】
また、本発明は、前記加熱装置における加熱手段に、外部熱源から生じた高温水を熱媒として加熱する構成を採用し、前記冷却装置における冷却手段には、空冷又は低温水を冷媒とする構成を採用し、前記感温磁性材料の可逆温度変化(可逆減磁)の上限が100度を超え、且つ、キュリー点が100度以下である特性の前記感温磁性材料を用いることを特徴とする、前記に記載の感温磁性材特性を利用した回転動力装置とすることもできる。
【0014】
また、前記駆動用永久磁石が、前記ローターに取りつけられる前記感温磁性材との位置関係において、前記本体に対して上方または下方に位置調整を可能とすることを特徴とする、前記に記載の感温磁性材特性を利用とした回転動力装置とすることもできる。
【0015】
また、前記駆動用永久磁石が、同極を向かい合い、前記感温磁性材を挟み込むように配置されることを特徴とする前記に記載の感温磁性材特性を利用とした回転動力装置とすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る回転動力装置によれば、生産工場等から排出される水蒸気や内燃機関の冷却水、或いは一般家庭に設置されている給湯器や小型ボイラーなどの熱源でも駆動することができ、熱源と冷却水さえ確保できる環境にあればどこでも利用が可能であるという優れた効果を発揮する。
【0017】
また、本発明に係る回転動力装置によれば、構造がシンプルであり、部品点数も少ないことから製作が容易でコストも低く抑えられるという効果も奏する。
【0018】
また、本発明に係る回転動力装置によれば、区画化された複数の感温磁性材料が、空間領域又は低熱伝導率素材を挟んで等間隔に隔てられて周設されているので、従来の円筒形状の感温磁性体を用いた熱磁気エンジン等と比して、無駄な加熱やその冷却を不要とし、隣設され横並びになる感温磁性材料同士の温度差が明確になり、効率の良い熱交換サイクルを実現できるといった優れた効果も発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る回転動力装置の基本構成を示す概略説明斜視図である。
【
図2】請求項2に係る太陽光利用型の実施形態を示す説明図である。
【
図3】請求項3に係る回転動力装置の実施形態を示す説明平面図である。
【
図4】請求項3に係る回転動力装置の熱交換説明断面図である。
【
図5】請求項4に係る回転動力装置の実施形態を示す説明平面図である。
【
図6】請求項4に係る回転動力装置の熱交換説明断面図である。
【
図7】駆動用永久磁石の位置調整機構を示す説明図である。
【
図8】駆動用永久磁石の同極を対向させた磁力の斥力状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る回転動力装置は、可逆温度変化(可逆減磁)の下限と上限との間にキュリー点を有し、該キュリー点付近で磁気特性が急変する特性の感温磁性材料を用いて、係る使用温度範囲内で、加熱と冷却を効率よく繰り返し、磁性体の極性による異極の引き合い又は同極の反発により、加熱された感温磁性材料の減磁による磁力の低下と、該加熱により減磁された感温磁性材料を冷却することによる磁性の復活に作用させて、駆動力を発生させることを最大の特徴とするものである。以下、図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る回転動力装置10の基本構成を示す概略説明斜視図である。
図1(a)は全体概略説明であり、
図1(b)はローター30において、複数の感温磁性材料33が空間領域37を挟んで等間隔に隔てられた構成を採用した場合の配置状態を示し、
図1(c)は ローター30において、複数の感温磁性材料33が低熱伝導率素材38を挟んで等間隔に隔てられた構成を採用した場合の配置状態を示している。
【0022】
本発明に係る回転動力装置10は、本体20と、ローター30と、加熱装置40と、冷却装置50と、駆動用永久磁石60と、から構成されている。
【0023】
ローター30は、全体または円周縁部に高熱伝導率素材を用いた円形の回転部材であって、該ローター30の中心には前記本体20にベアリング32を介して回転自在に備えるための出力軸31を有し、該ローター30の周壁には、空間領域37又は低熱伝導率素材38を挟んで等間隔に隔てられた複数の感温磁性材料33が周設され、該感温磁性材料33が配設される周壁の内側には、加熱又は冷却、若しくは加熱及び冷却のための熱交換用媒体流通室35及び熱交換用媒体流通穴34が設けられている。高熱伝導率素材としては、一般に入手し易く機能的にもコスト的にもアルミ(250W/(mK))や銅(401W/(mK))等が良く、他方、 低熱伝導率素材38としては、一般的な素材にガラスウール断熱材(0.04W/(mK))やグラスファイバー(0.04W/(mK))がある。なお、近年では空気分子の運動を規制する微細なマイクロポア構造を有した超微細ヒュームドシリカと赤外線の不透過材(高純度ジルコニア)で構成された、極めて熱伝導率が低い(0.021W/mk)断熱材も入手が容易となっている。ただし、本願発明は、これらの素材に限定されるものではなく、使用目的やコスト等から適宜選択することができるものである。
【0024】
感温磁性材料33には可逆温度変化(可逆減磁)の下限と上限との間にキュリー点を有し、該キュリー点付近で磁気特性が急変する特性の感温磁性材料33を用いる。例えば、IH調理器に使用されている日立金属のMS材や、株式会社NEOMAXのMS−T等である。極性については、N極又はS極のいずれを駆動用永久磁石60と作用させても良い。
【0025】
加熱装置40は、駆動用永久磁石60の近傍に配置され、区画化された加熱領域内の前記感温磁性材料33のみに対して、その可逆温度変化の上限を超えないように外部熱源からの熱を与える装置である。請求項1に係る回転動力装置10では、熱源については特に限定するものではなく、どのような熱源であっても利用できることを特徴とするものである。但し、理想的な熱源としては、常にキュリー点を超え、可逆温度変化(可逆減磁)の下限と上限との間の温度の熱媒41の供給が受けられるものであることが望ましい。なお、請求項2では、熱源として太陽光を利用することを特定しており、請求項3では、工場や内燃機関等から排出される燃焼ガス、或いはボイラーからの水蒸気等を利用することを特定しており、請求項4では、温水を利用することを特定している。
【0026】
冷却装置50は、駆動用永久磁石60に対し、加熱装置40の反対側近傍に配置され、該加熱装置40により加熱された感温磁性材料33を、その可逆温度変化の下限を超えないように冷却する装置である。冷却手段としては、自然空冷、強制空冷、水冷が考えられるが、冷却効果の高さからいっても水冷式が望ましい。
【0027】
駆動用永久磁石60は、ローター30に周設される感温磁性材料33の温度変化に伴う減磁に作用させ、磁極特性により該ローター30を回転駆動するために必要な最大エネルギー積を有する残留磁束密度と保磁力の大きな永久磁石を用いる。係る駆動用永久磁石60の磁力は駆動力に大きく影響するため強力なものが良い。吸着力や反発力の強さで選択すると、ネオジム磁石となるが、冷却装置50の冷却手段が水冷式を採用する場合は、ネオジム磁石は酸化しやすく、また、加熱装置40からの熱の影響により磁性が落ちやすいため、サマリウムコバルト磁石が望ましい。但し、本願発明に係る駆動用永久磁石60は、これに限定されるものではなく、駆動が可能な磁力を有する永久磁石であればよい。従って、係る永久磁石の種類選択についての説明は、フェライト磁石等、他種類の永久磁石などを除く趣旨ではない。また、駆動用永久磁石60は、本体20が円滑に回転させるために、位置調整機構を用いて本体20の六方に位置を修正可能とすることが望ましい。また、係る磁石を二個用いて同極を向かい合わせ、僂本体20を挟み込むように配置し、磁束を広げ、磁力を高めることも可能とする。
【0028】
本体20は、ローター30、加熱装置40、冷却装置50、及び駆動用永久磁石60とを、適切な位置に配置させるためのフレーム21及びカバー22である。ローター30の直径や、感温磁性材料33の吸着力又は反発力などから必要な強度計算をし、十分な安全率をかけて設計する。
【実施例1】
【0029】
図2は、請求項2に係る回転動力装置10の実施形態を示す説明図である。前記加熱装置40における加熱手段が、太陽光を集光して熱源とし、該集光した光を加熱領域内の前記感温磁性材料33に投射して加熱する構成を採用する場合は、
図2に示すように、該加熱装置40の構成は凹レンズを組み合わせた一般的な集光装置で良い。但し、最低でも使用する感温磁性材料33のキュリー点以上に加熱できる能力を備えていることが必要である。なお、係る加熱手段を採用する場合は、
図2に示すように、区画化された感温磁性材料33を二つ以上加熱する。逆回転方向の磁力の影響を少なくし、回転方向の安定と効率を高めるためである。
【実施例2】
【0030】
図3は、請求項3に係る回転動力装置10の実施形態を示す説明平面図であり、
図4は、
図3に示すA−A部及びB−B部の断面を示し、加熱装置40と冷却装置50との関係において、請求項3に係る回転動力装置の熱交換説明断面図である。
前記加熱装置40における加熱手段が、外部熱源から生じた高温気体を熱媒41として加熱する構成を採用する場合、熱媒41の流れ方向に沿うように下から上、冷媒51の流れ方向は上から下となる。なお、熱交換用媒体流通穴34は、熱交換用媒体流通室35の開口面積と等しくし、ローター30へ不要な圧力がかからないようにする。それ以外の構造は液体の場合と同様である。
【実施例3】
【0031】
図5は、請求項4に係る回転動力装置10の実施形態を示す説明平面図であり、
図6は、
図5に示すA−A部及びB−B部の断面を示し、加熱装置40と冷却装置50との関係において、請求項4に係る回転動力装置の熱交換説明断面図である。
図5及び
図6は、加熱装置40における加熱手段として、外部熱源から生じた高温水を熱媒41とし、加熱冷却装置50における冷却手段に空冷又は低温水を冷媒51とする構成を採用した場合の実施例を示している。なお、感温磁性材料33の可逆温度変化(可逆減磁)の上限が100度を超え、且つ、キュリー点が100度以下である特性の前記感温磁性材料33を用いることが必要である。例えば日立金属のMS90等である。
【0032】
係る構成を採用する場合は、ローター30の熱交換用媒体流通室35に流入した冷媒51又は熱媒41がオーバーフローによって混和するのを避ける必要がある。そこで、ローター30の円周縁部上方には、開口段差部36を設け、冷媒51又は熱媒41がオーバーフローしても、隣設の熱交換用媒体流通室35へ流出するのを防ぐ形状とする。
【0033】
図7は、駆動用永久磁石の位置調整機構70を設けた構成の回転動力装置10を示す説明図である。
図7(a)は、周方向への水平位置に駆動用永久磁石60を配置した状態を示し、
図7(b)は単に駆動用永久磁石60を上方へ移動させた状態を示し、
図7(c)は、上方に二つの駆動用永久磁石60で感温磁性材料33を挟み込むように備えた場合の状態をそれぞれ示している。
【0034】
本発明に係る回転動力装置10の駆動力は、使用する感温磁性材料33のキュリー点温度への加熱と、冷却による温度差を駆動用永久磁石33作ることによって、大きな力を得ることができる。但し、キュリー点以下でも温度差があれば、回転駆動するものであり、駆動用永久磁石60の磁力が及ぶ領域において、温度差を作ることが重要となる。更に、高速化や高出力化を図るには、駆動用永久磁石60の取付け位置、及び、その大きさや形状によっても動作特性が大きく変化するため、諸条件に応じて、適宜、選択することが望ましい。
【0035】
なお、駆動用永久磁石60には、単に強力な磁力を用いればよいというものではない。例えば、ローター30の中心方向に向かう磁界特性の駆動用永久磁石60の場合では、周方向に並んだ感温磁性材料33の温度差を拾いにくく、回転方向の変動や回転速度の変動など安定性に欠ける動作となってしまう。他方、周方向に向かって長い形状であると、この温度差を拾いやすくなるので安定した駆動力を得ることができる。また、ローター30に向かう厚みと断面積の比率などによっても、磁界特性は大きく変化する。このことは、実験装置を用いて、種々の形状や種類の永久磁石を用いて実験を行った結果わかったことである。
【0036】
また、回転動作している感温磁性材料33を加熱して、狙った通りのキュリー点付近の温度にすることは難しいため、加速方向に対し、残った磁性によるブレーキ現象が常に生じていることになる。そこで、加熱による温度上昇ではキュリー点には達せずに、磁性を失わせることができなかった逆回転方向に働く磁力の影響を少なくし、回転方向の安定と効率を高めるために駆動用永久磁石60の取付け位置を調整できるようにすることが望ましい。実験の結果によれば、周方向へ距離を離すよりも、上下方向へ移動させた方が、他が同条件の下では回転数を上げることができた。具体的な構造については図面に示していないが、位置調整機構71の構造については、スライドガイド70とネジによる固定のアジャスト機構などが考えられる。
【0037】
図8は、駆動用永久磁石60の同極を対向させた磁力の斥力状態説明図である。駆動用永久磁石60の同極(特にN極同士)を向い合わせると、
図8(a)のように押し潰されてローター30の周方向に磁界が及ぶことになり、
図8(bb)に示すようにS極とN極を向かい合わせたときとでは、温度差の大きな感温磁性材料33を捉えることができる領域に大きな差が生じ、後記の実験条件でN極同士を向かい合わせたときと異極を向かい合わせたときでは約20rpmもの回転差が生じた。即ち、駆動用永久磁石60の同極(N極)同士の中間位置は、斥力によってつり合うため、最も磁性を受ける領域において、滑らかな通過を図ることができる。
【0038】
実験に用いた装置のローター30の外径は200mm、厚さ30mm、重量998g。感温磁性材料33は、厚さ1mm、縦×横が28mm×16mm、26枚。熱源にはドライヤーによる温風、及びガストーチによる燃焼気体を使用。駆動用永久磁石60には直径10mm×長さ30mm、30mm×30mmの厚さ1mm、30mm×30mmの厚さ10mm、直径50mm×厚さ10mm、40mm×20mmの厚さ3mm、その他これらを組み合わせたものを使用し、実験当初はネオジム磁石を使用したが、耐熱性が悪く熱の影響を受けて磁力の減衰が著しいため、サマリウムコバルト磁石に代えたところ、2ヶ月経過して毎日約30分から1時間駆動しても、回転数や立ち上がりなどのレスポンスに大きな変化はみられなかった。また、駆動用永久磁石60の取付け位置については、感温磁性材料33から周方向へ離してみたり、接触するほどに近づけてみたり、更には上下方向のシフトや、片側のみの配置と両側向かい合わせの配置等、種々の位置関係で実験したところ、これらの配置構成によって、それぞれ異なる結果となった。最も良い結果が得られたのは、外径30mm、内径10mm、厚さ10mmのドーナツ状のネオジム磁石を用いた駆動用永久磁石60を二個用い、N極同士を向かい合わせて、やや上方にセットした場合であった。立ち上がりの速さと回転の安定性がよく、80rpmを安定状態のまま30分以上回転させ、この設定条件の下、約1ヶ月のあいだ、毎日回転状態をチェックを行った。結果としては、30日を過ぎても、大きな変化は見られなかった。キュリー点を超えないように使用すれば相当な耐久性が期待できると思われる。
【符号の説明】
【0039】
10 回転動力装置
20 本体
21 フレーム
22 カバー
30 ローター
31 出力軸
32 ベアリング
33 感温磁性材料
34 熱交換用媒体流通穴
35 熱交換用媒体流通室
36 開口段差部
37 空間領域
38 低熱伝導率素材
40 加熱装置
41 熱媒
50 冷却装置
51 冷媒
60 駆動用永久磁石
61 磁力線
R1 周方向磁性領域
R2 周方向磁性領域
70 位置調整機構
【要約】
感温磁性材特性を利用した回転動力装置において、全体または円周縁部に高熱伝導率素材を用いた円形の回転部材の周壁に、空間領域(37)又は低熱伝導率素材(38)を挟んで等間隔に隔てられた複数の感温磁性材料(33)を周設し、該感温磁性材料が配設される周壁の内側に、加熱又は冷却、若しくは加熱及び冷却のための熱交換用媒体流通室(35)及び熱交換用媒体流通穴(34)を設けたローター(30)と、駆動用永久磁石(60)の近傍に配置され、区画化された加熱領域内の感温磁性材料に外部熱源からの熱を与える加熱装置(40)と、駆動用永久磁石に対し、加熱装置の反対側近傍に配置された冷却装置(50)とを適切な位置に配置して構成することにより、可逆減磁の下限と上限との間にキュリー点を有する感温磁性材料に、係る温度範囲内で加熱と冷却を効率良く繰り返すことが実現できる。