(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記重合禁止剤が、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、クレゾール、またはt−ブチルカテコールである、請求項1〜3のいずれかに記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、アルカリ型の固体高分子形燃料電池用の陰イオン交換膜には、さらなる低抵抗化が求められており、それに伴って陰イオン交換膜の薄膜化およびモノマーのグラフト率の向上が求められている。
【0006】
しかし、クロスや不織布をベースにした陰イオン交換膜を薄膜化した場合、下記の問題が生じる。
(i)クロスや不織布が多孔質であるため、クロスや不織布を薄膜化した場合、得られる陰イオン交換膜にピンホールが発生しやすくなる。ピンホールが多く発生すると、陰イオン交換膜として用いることはできない。
(ii)薄膜化したクロスや不織布の強度が低いため、得られる陰イオン交換膜の強度が不足する。
【0007】
なお、(i)、(ii)の問題を解決する方法としては、クロスや不織布の代わりに、クロスや不織布のように多孔質ではなく、かつ薄膜化してもクロスや不織布よりも強度が高い、膜状のポリマーをベースに用いることが考えられる。また、特許文献1、2にも、膜状のものを用い得る旨が記載されている。
【0008】
しかし、膜状のポリマーに、特許文献1、2に記載された方法にて4−(4−ブロモブチル)スチレンをグラフト重合させた場合、グラフト重合よりも4−(4−ブロモブチル)スチレンのオリゴマー化が優先的に進行し、グラフト率が充分に高い、すなわち膜抵抗が充分に低い陰イオン交換膜を得ることはできない。
【0009】
本発明は、耐熱性および耐アルカリ性を有し、薄膜化してもピンホールの発生や強度の低下が抑えられ、かつ膜抵抗が充分に低い陰イオン交換膜およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の構成を要旨とするものである。
(1)膜状のポリマーに、下式(1)で表わされるモノマーを含むモノマー成分を、該モノマー成分の100質量部に対して0.005〜3質量部の重合禁止剤の存在下に、放射線グラフト重合法によってグラフト重合させた後、下式(2)の化合物を反応させる、陰イオン交換膜の製造方法。
【化1】
ただし、Aは、炭素数3〜8のアルキレン基または炭素数4〜8のアルキレンオキシメチレン基であり、R
1〜R
3は、それぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基であり、Zは、ハロゲン原子であり、ベンゼン環の水素原子はアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよい。
(2)膜状のポリマーに、下式(31)で表わされるモノマーまたは下式(32)で表わされるモノマーを含むモノマー成分を、該モノマー成分の100質量部に対して0.005〜3質量部の重合禁止剤の存在下に、放射線グラフト重合法によってグラフト重合させる、陰イオン交換膜の製造方法。
【化2】
ただし、Aは、炭素数3〜8のアルキレン基または炭素数4〜8のアルキレンオキシメチレン基であり、R
1〜R
3は、それぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基であり、X
−は、アンモニウム基の対イオンであり、ベンゼン環の水素原子はアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよい。
(3)前記ポリマーが、ポリオレフィンまたはフッ素樹脂である、上記(1)または(2)に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
(4)前記重合禁止剤が、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、クレゾール、またはt−ブチルカテコールである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の陰イオン交換膜の製造方法。
(5)前記膜状のポリマーの厚みが、10〜200μmである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の陰イオン交換膜の製造方法。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法で得られた陰イオン交換膜であって、下式(I)によって求めたグラフト率が、6モル%以上である、陰イオン交換膜。
dg=m
m/m
p×100 ・・・(I)。
ただし、dgは、グラフト率[モル%]であり、m
pは、膜状のポリマーを構成するモノマー単位のモル数であり、m
mは、膜状のポリマーにグラフト重合させたモノマー成分のモル数である。
(7)イオン交換容量が、1.5〜3ミリ当量/g乾燥樹脂である、上記(6)に記載の陰イオン交換膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明の陰イオン交換膜は、耐熱性および耐アルカリ性を有し、薄膜化してもピンホールの発生や強度の低下が抑えられ、かつ膜抵抗が充分に低い。
本発明の陰イオン交換膜の製造方法によれば、耐熱性および耐アルカリ性を有し、薄膜化してもピンホールの発生や強度の低下が抑えられ、かつ膜抵抗が充分に低い陰イオン交換膜を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、モノマーとは、ラジカル重合性の官能基を有する化合物を意味する。
本明細書において、モノマー単位とは、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに由来する単位を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
【0013】
本明細書においては、式(1)で表されるモノマーをモノマー(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本明細書においては、式(2)で表される化合物を化合物(2)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0014】
<陰イオン交換膜の製造方法>
本発明の陰イオン交換膜は、下記の方法(α)または方法(β)によって製造できる。
【0015】
(α)膜状のポリマーに、モノマー(1)を含むモノマー成分を、該モノマー成分の100質量部に対して0.005〜3質量部の重合禁止剤の存在下に、放射線グラフト重合法によってグラフト重合させた後、化合物(2)を反応させる方法。
【0017】
(β)膜状のポリマーに、モノマー(31)またはモノマー(32)を含むモノマー成分を、該モノマー成分の100質量部に対して0.005〜3質量部の重合禁止剤の存在下に、放射線グラフト重合法によってグラフト重合させる方法。
【0019】
Aは、炭素数3〜8のアルキレン基または炭素数4〜8のアルキレンオキシメチレン基である。アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
Aとしては、炭素数3〜7のアルキレン基が好ましく、炭素数3〜5のアルキレン基がより好ましい。
炭素数が下限値以上であれば、正電荷を有するアンモニウム基がアルキレン基を通じてベンゼン環の影響を受けにくく、陰イオン交換基の耐熱性が良好となる。炭素数が上限値以下であれば、質量あたりのイオン交換容量が充分に高くなり、膜抵抗の増加が抑えられる。
【0020】
R
1〜R
3は、それぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基である。R
1〜R
3は、同一であってもよく、1つ以上が異なっていてもよい。
アルキル基またはヒドロキシアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヒドロキシエチル基またはヒドロキシプロピル基が好ましい。
【0021】
Zは、ハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、モノマー(1)の安定性、重合性および陰イオン交換基への変換性の点から、臭素が好ましい。
X
−は、アンモニウム基の対イオンである。X
−としては、ハロゲンイオン、HCO
3−、CO
32−、酢酸イオン、NO
3−、OH
−、p−トルエンスルホン酸イオン等が挙げられる。X
−はSO
42−のような多価アニオンであってもよく、該場合のX
−は一価相当分の多価アニオンを表わす。
【0022】
ベンゼン環の水素原子は、アルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよい。アルキル基としては、メチル基またはエチル基が好ましく、ハロゲン原子としては、塩素または臭素が好ましい。
【0023】
(膜状のポリマー)
膜状のポリマーは、ポリマーを膜状(フィルム、シート、塗膜等)に成形したものである。
ポリマーとしては、ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエステル等が挙げられ、耐アルカリ性の点から、ポリオレフィン、またはフッ素樹脂が好ましい。
【0024】
ポリオレフィンとしては、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンブロック共重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン等にエチレンプロピレンゴム、EPDM等を分散させたポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0025】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等が挙げられる。
【0026】
膜状のポリマーの厚さは、10〜200μmが好ましく、15〜150μmがより好ましい。膜状のポリマーの厚さが下限値以上であれば、膜状のポリマーの取り扱い性がよい。膜状のポリマーの厚さが上限値以下であれば、膜状のポリマーの厚さ方向の中央部付近にもモノマーを充分にグラフト重合でき、また、陰イオン交換膜の膜抵抗を低く抑えることができる。
膜状のポリマーの分子量は、数平均分子量で、1万〜100万程度が好ましく、数万〜数十万程度がより好ましいが、これに限定されるものではない。
【0027】
(モノマー成分)
モノマー成分は、モノマー(1)のみからなる成分もしくはモノマー(1)を含むモノマーの混合物、または、モノマー(31)もしくはモノマー(32)のみからなる成分またはモノマー(31)若しくはモノマー(32)を含むモノマーの混合物である。
【0028】
モノマー成分は、得られる陰イオン交換膜のイオン選択透過性や強度を調整するために、モノマー(1)、モノマー(31)およびモノマー(32)を除く、他のモノマーを含んでいてもよい。他のモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、エチレン、プロピレン、アクリニトリル、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、エチレングリコールジメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ビニルピリジン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。
これらの中でも、陰イオン交換膜を架橋して強度を上げたり、架橋密度をコントロールすることによって水やイオンの透過性を調整したりする観点から、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、またはジビニルナフタレンが好ましく、ジビニルベンゼンが特に好ましい。
【0029】
他のモノマーの割合は、得られる陰イオン交換膜の耐熱性や耐アルカリ性の点から、モノマー成分(100質量%)のうち、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
モノマー成分は、溶媒で希釈されていてもよく、溶媒を含んでいなくてもよい。モノマー成分が溶媒で希釈される場合には、全モノマー成分と溶媒の合計量における全モノマー成分の割合が、10質量%以上であることが好ましい。
【0030】
(重合禁止剤)
重合禁止剤としては、ヒドロキシ芳香族(ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、クレゾール、t−ブチルカテコール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、チオエーテル系(フェノチアジン、ジステアリルチオジプロピオネート等)、アミン系(p−フェニレンジアミン、4−アミノジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−i−プロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、ジフェニルアミン、N−フェニル−β−ナフチルアミン、4,4’−ジクミル−ジフェニルアミン、4,4’−ジオクチル−ジフェニルアミン等)、ニトロソ化合物系(N−ニトロソジフェニルアミン、N−ニトロソフェニルナフチルアミン、N−ニトロソジナフチルアミン、p−ニトロソフェノール、ニトロソベンゼン、p−ニトロソジフェニルアミン、α−ニトロソ−β−ナフトール等)、その他窒素含有化合物(ピペリジン−1−オキシル、ピロリジン−1−オキシル,2,2,6,6−テトラメチル−4−オキソピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等のニトロキシド等)、遷移金属塩(ジアルキルジチオカルバミン酸銅、酢酸銅、サリチル酸銅、チオシアン酸銅、硝酸銅、塩化銅、炭酸銅、水酸化銅、アクリル酸銅等の銅塩;ジアルキルジチオカルバミン酸マンガン、ジフェニルジチオカルバミン酸マンガン、蟻酸マンガン、酢酸マンガン、オクタン酸マンガン、ナフテン酸マンガン、過マンガン酸マンガン、エチレンジアミン四酢酸のマンガン塩)等の重合禁止剤が挙げられる。
これらの中でも、モノマーや溶媒との相溶性の観点から、ヒドロキシ芳香族が好ましく、より具体的にはハイドロキノン、p−メトキシフェノール、クレゾール、またはt−ブチルカテコールが好ましく、t−ブチルカテコールがより好ましい。
【0031】
重合禁止剤の量は、モノマー成分の100質量部に対して0.005〜3質量部であり、0.05〜1.5質量部が好ましい。重合禁止剤の量が下限値以上であれば、モノマー(1)、モノマー(31)およびモノマー(32)のオリゴマー化が充分に抑えられ、グラフト率が充分に高い、すなわち膜抵抗が充分に低い陰イオン交換膜を得ることができる。重合禁止剤の量が上限値以下であれば、グラフト重合が阻害されることなく、グラフト率が充分に高い、すなわち膜抵抗が充分に低い陰イオン交換膜を得ることができる。
【0032】
(放射線グラフト重合法)
放射線グラフト重合法は、ポリマーに放射線を照射することによってポリマー内にラジカルを発生させ、該ラジカルを開始点としてモノマー成分をグラフト重合させる方法である。
放射線としては、電子線、紫外線、X線、α線、β線、γ線等が挙げられる。
【0033】
放射線の照射は、分子状酸素の存在しない雰囲気下、すなわち不活性ガス(窒素ガス等)の雰囲気下に行うことが好ましい。
放射線の線量は、電子線の場合、5〜300kGyが好ましい。
【0034】
グラフト重合は、膜状のポリマーに、過剰または重合させる分のモノマー成分を含浸させた状態で行ってもよく、膜状のポリマーを、モノマー成分中に浸漬した状態で行ってもよく、膜状のポリマーを、モノマー成分を溶媒に溶解した溶液中に浸漬した状態で行ってもよい。
溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、クロロベンゼン、クロロベンゼン誘導体、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサン、ヘキサン、各種アルコール類、各種ケトン類、水等が挙げられる。
グラフト重合の際の温度は、4〜80℃が好ましい。
【0035】
重合時間は、後述するグラフト率に影響を及ぼす。重合時間が長くなるにつれてグラフト率は高くなる。しかし、モノマー成分中の重合禁止剤の含有量が多かったり少なかったりすると、重合時間を長くしてもグラフト率が充分に高くならず、得られた陰イオン交換膜のイオン交換容量が不充分となる。重合時間は、モノマー成分の量、重合温度、放射線量、重合禁止剤量等にもよるが、60分以上行うことが好ましい。重合時間が長すぎると生産性が低下するので、前記の諸条件を適宜調整することにより、重合時間を10時間以内とすることが好ましく、8時間以内とすることがより好ましい。
【0036】
(A基に結合したX基の陰イオン交換基への変換)
方法(α)においては、グラフト重合の後に得られたグラフト重合膜(陰イオン交換膜中間体)については、A基に結合したX基を陰イオン交換基(アミノ基またはアンモニウム基)に変換する必要がある。
A基に結合したX基の陰イオン交換基への変換は、A基に結合したX基に化合物(2)を反応させることによって行われる。化合物(2)は、塩酸塩等の塩の状態であってもよい。
【0037】
化合物(2)が、アンモニア、第一級アミン(メチルアミン等)、第二級アミン(ジメチルアミン等)の場合は、弱塩基性陰イオン交換膜が得られる。
化合物(2)が、第三級アミン(トリメチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)の場合は、強塩基性陰イオン交換膜が得られる。
【0038】
(対イオンの交換)
方法(α)または方法(β)によって得られた陰イオン交換膜がアンモニウム基を有する場合、アンモニウム基の対イオンを、他の対イオンに交換してもよい。
対イオンの交換は、変換後の対イオンを含む水溶液に陰イオン交換膜を浸漬することによって行われる。
【0039】
(作用効果)
以上説明した本発明の陰イオン交換膜の製造方法にあっては、膜状のポリマーに、モノマー(1)を含むモノマー成分、または、モノマー(31)もしくはモノマー(32)を含むモノマー成分をグラフト重合しているため、得られる陰イオン交換膜は、耐熱性および耐アルカリ性を有する。
また、ベースとして膜状のポリマーを用いているため、ベースがクロスや不織布の場合に比べ、ベースを薄膜化しても、得られる陰イオン交換膜におけるピンホールの発生や強度の低下が抑えられる。
また、モノマー成分を、該モノマー成分の100質量部に対して0.005〜3質量部の重合禁止剤の存在下に、放射線グラフト重合法によってグラフト重合させているため、モノマー(1)、モノマー(31)およびモノマー(32)のオリゴマー化が充分に抑えられ、グラフト率が充分に高い、すなわち膜抵抗が充分に低い陰イオン交換膜を得ることができる。
【0040】
通常、モノマーの重合を行う際には、モノマーを精製して、モノマーの保存安定性のために添加されていた重合禁止剤を取り除くのが常識であるため、特許文献1、2に記載された方法にて、膜状のポリマーに精製された4−(4−ブロモブチル)スチレンをグラフト重合させても、不安定な4−(4−ブロモブチル)スチレンのオリゴマー化が優先的に進行し、グラフト重合がうまく進行しなかったものと考えられる。また、ベースがクロスや不織布の場合にグラフト重合がうまく進行した理由としては、クロスや不織布の繊維間に4−(4−ブロモブチル)スチレンが浸透した後、繊維間にてオリゴマー化とグラフト重合とが進行し、オリゴマーが繊維間に閉じ込められたため、見かけ上、グラフト重合がうまく進行していたように見えていたものと考えられる。
【0041】
<陰イオン交換膜>
本発明の製造方法で得られた陰イオン交換膜は、下式(41)で表わされるモノマー単位または下式(42)で表わされるモノマー単位を有するグラフト鎖を有するものである。
【0043】
ただし、Aは、炭素数3〜8のアルキレン基または炭素数4〜8のアルキレンオキシメチレン基であり、R
1〜R
3は、それぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基であり、X
−は、アンモニウム基の対イオンであり、ベンゼン環の水素原子はアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよい。X
−には、モノマー(1)のZに由来するZ
−(ハロゲンイオン)も含まれる。
【0044】
(グラフト率)
本発明の陰イオン交換膜においては、下式(I)によって求めたグラフト率(dg)が、6モル%以上であるのが好ましく、8〜16モル%であることがより好ましい。
dg=m
m/m
p×100 ・・・(I)。
ただし、dgは、グラフト率[モル%]であり、m
pは、膜状のポリマーを構成するモノマー単位のモル数であり、m
mは、膜状のポリマーにグラフト重合させたモノマー成分のモル数である。
【0045】
dgが6モル%未満では、陰イオン交換膜のイオン交換容量が不充分となり、膜抵抗も上がるため、陰イオン交換膜としての機能を充分に発揮できない。dgが高すぎると、陰イオン交換膜の含水率が高くなり、イオン選択透過性が低くなり、電流効率も低下してしまう。
【0046】
m
pは、放射線グラフト重合法に用いた膜状のポリマーの乾燥質量(W
0)を、ポリマーを構成するモノマー単位の分子量(M
p)(モノマー単位が複数の場合は、各モノマー単位のモル分率を加味した平均分子量)で除すことによって求める。
m
mは、放射線グラフト重合法によって得られたグラフト重合膜の乾燥質量(W
1)から、放射線グラフト重合法に用いた膜状のポリマーの乾燥質量(W
0)を引いた質量(W
1−W
0)、すなわちグラフト鎖の乾燥質量を、グラフト鎖を構成するモノマー単位の分子量(M
m)(モノマー単位が複数の場合は、各モノマー単位のモル分率を加味した平均分子量)で除すことによって求める。
【0047】
(イオン交換容量)
本発明の陰イオン交換膜のイオン交換容量(Q)は、1〜4ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、1.5〜3ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましい。
Qが小さすぎると、膜抵抗が高くなり、陰イオン交換膜としての機能を充分に発揮できない。Qが大きすぎると、イオン選択透過性が低下する。
【0048】
Qは、下式(II)によって求める。
Q={(W
1−W
0)/M
m}/W
1×10
3 ・・・(II)。
ただし、W
0は、放射線グラフト重合法に用いた膜状のポリマーの乾燥質量であり、W
1は、放射線グラフト重合法によって得られたグラフト重合膜の乾燥質量であり、M
mは、グラフト鎖を構成するモノマー単位の分子量である。
本発明の製造方法で得られた陰イオン交換膜は、湿潤状態での膜厚が5〜400μmであるのが好ましく、10〜200μmであるのがより好ましい。また、0.5mol/リットルNaCL(25℃)での膜抵抗が0.05〜4Ω・cm
2であるのが好ましく、0.1〜2Ω・cm
2であるのがより好ましい。さらに、0.5mol/リットルNaCLと1mol/リットルNaCLを用いた静的輸率が0.90以上であるのが好ましく、0.94以上であるのがより好ましい。
【0049】
(グラフト鎖のモノマー単位に由来する元素のX線強度分布)
本発明の製造方法で得られた陰イオン交換膜においては、膜状のポリマーの両表面付近に優先的にモノマー成分がグラフト重合しつつ、膜状のポリマーの厚さ方向の中央部付近にもモノマー成分が充分にグラフト重合する。
【0050】
本発明の陰イオン交換膜またはその中間体(グラフト重合膜)においては、X線元素分析器を用いて測定された、膜の厚さ方向における、グラフト鎖のモノマー単位に由来する元素(たとえば、ハロゲン元素)のX線強度分布において、膜の厚さ方向の中央部付近に現れる極小値(X
min)と、膜の一方の表面付近に現れる第1の極大値(X
max1)および膜の他方の表面付近に現れる第2の極大値(X
max2)の平均値(X
max)との比(X
min/X
max)は、0.6以上が好ましく、0.75以上がより好ましい。また、X
min/X
maxは、1.1以下が好ましく、1以下がより好ましい。
【0051】
X
min/X
maxが小さすぎると、膜の厚さ方向の中央部付近におけるモノマーのグラフト重合が不充分であるため、陰イオン交換膜のイオン交換容量が不充分となり、膜抵抗が上昇し、陰イオン交換膜としての機能を充分に発揮できないおそれがある。X
min/X
maxが大きすぎると、膜の厚さ方向の中央部付近におけるイオン交換基の量が多くなり、イオン選択透過性が低下するおそれがある。
【0052】
X
min/X
maxが0.6〜1.1である陰イオン交換膜は、放射線グラフト重合法によって膜状のポリマーの両表面付近に優先的にモノマー成分をグラフト重合させ、かつdgを6〜16モル%に調整することによって得ることができる。
【0053】
(作用効果)
以上説明した本発明の陰イオン交換膜にあっては、本発明の製造方法で得られた陰イオン交換膜であるため、グラフト鎖に式(41)で表わされるモノマー単位または式(42)で表わされるモノマー単位を有する。その結果、耐熱性および耐アルカリ性を有する。
また、ベースとして膜状のポリマーを用いているため、ベースがクロスや不織布の場合に比べ、薄膜化してもピンホールの発生や強度の低下が抑えられる。
また、グラフト率が6モル%以上であれば、膜抵抗が充分に低いので好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
例1〜6は実施例であり、例7、8は比較例である。
【0055】
(略号)
HDPE:高密度ポリエチレン。
BBS:4−(4−ブロモブチル)スチレン(下式(1−1))。
TBC:4−t−ブチルカテコール。
TMA塩酸塩:トリメチルアンモニウム塩酸塩(N(CH
3)
3・HCl)。
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド。
【0056】
【化6】
【0057】
(グラフト率)
陰イオン交換膜におけるグラフト率(dg)は、下式(I)によって求めた。
dg=m
m/m
p×100
={(W
1−W
0)/M
m}/{W
0/M
p}×100 ・・・(I)。
ただし、dgは、グラフト率[モル%]であり、m
pは、HDPEフィルムを構成するエチレン単位のモル数であり、m
mは、HDPEフィルムにグラフト重合させたBBSのモル数であり、W
0は、放射線グラフト重合法に用いたHDPEフィルムの乾燥質量であり、W
1は、放射線グラフト重合法によって得られたグラフト重合膜の乾燥質量であり、M
mは、グラフト鎖を構成するBBS単位の分子量であり、M
pは、HDPEフィルムを構成するエチレン単位の分子量である。
【0058】
(イオン交換容量)
陰イオン交換膜のイオン交換容量(Q)は、下式(II)によって求めた。
Q={(W
1−W
0)/M
m}/W
1×10
3 ・・・(II)。
ただし、W
0は、放射線グラフト重合法に用いたHDPEフィルムの乾燥質量であり、W
1は、放射線グラフト重合法によって得られたグラフト重合膜の乾燥質量であり、M
mは、グラフト鎖を構成するBBS単位の分子量である。
【0059】
(臭素元素のX線強度分布)
グラフト重合膜(陰イオン交換膜中間体)について、エネルギー分散形X線元素分析器を備えた走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、SU6600)を用い、グラフト重合膜の断面を観察すると同時に、エネルギー分散形X線元素分析器によって、グラフト重合膜の厚さ方向における臭素元素のX線強度分布を測定した。
【0060】
(厚さ)
陰イオン交換膜の厚さは、陰イオン交換膜を0.5モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に6時間浸漬させ、純水で洗浄した後、電磁膜圧計(ケント科学研究所社製、LZ−200J)を用いて湿潤状態にて測定した。
【0061】
(含水率)
陰イオン交換膜の含水率(H
w)は、下式(III)によって求めた。
H
w=(W
3−W
2)/W
2×100 ・・・(III)。
ただし、W
2は、陰イオン交換膜の乾燥質量であり、W
3は、陰イオン交換膜を0.5モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に6時間浸漬させ、純水で洗浄した後の湿潤質量である。
【0062】
(膜抵抗)
陰イオン交換膜を、内径:1.50cm、幅:5.5cmの膜抵抗測定用のセル(有効膜面積:1.77cm
2)に挟み、陰イオン交換膜の両側1cmの位置に白金電極を置いた。インピーダンスメータ(アジレント・テクノロジー社製、433B)を用い、0.5モル/Lの塩化ナトリウム水溶液中における1kHzの交流抵抗を測定した。測定温度は25℃とした。陰イオン交換膜と水溶液との交流抵抗の和を測定した後、陰イオン交換膜を外し、水溶液のみの交流抵抗を測定した。これらの差から、陰イオン交換膜のみの交流抵抗R
m[Ω]を算出した。膜抵抗[Ω・cm
2]を下式(IV)によって求めた。
膜抵抗=R
m×有効膜面積 ・・・(IV)。
【0063】
(静的輸率)
陰イオン交換膜を、有効膜面積:1.00cm
2の測定セルに挟み、左右のセルに、それぞれ1.0モル/Lの塩化ナトリウム水溶液および0.50モル/Lの塩化ナトリウム水溶液を入れた。左右のセルを塩橋によって飽和塩化カリウムと連結し、電圧計(テクシオ社製、DL−2040)に接続した甘コウ電極を設置した。左右のセルを撹拌し、電位差を測定した後、ブランク電位差を測定した。測定温度は25℃とした。測定した電位差およびブランク電位差から、静的輸率[−]を下式(V)から求めた。
静的輸率=0.5−(E
1−E
0+E
L)/[2RT/Fln(a
±1.0/a
±0.5)]
=0.5−(E
1−E
0+E
L)/33.7 ・・・(V)。
ただし、E
1、E
0、E
L、R、T、F、a
±1.0およびa
±0.5は、それぞれ測定電位、0.50モル/Lの塩化ナトリウム水溶液−1.0モル/Lの塩化ナトリウム水溶液間の液間電位(4.4mV)、輸率測定装置から陰イオン交換膜を除いたブランク電位、気体定数(8.31J/(K モル))、測定温度(298K)、ファラデー定数(96485C/モル)、1.0モル/Lの塩化ナトリウム水溶液の平均活量(0.657)および0.5モル/Lの塩化ナトリウム水溶液の平均活量(0.341)である。
【0064】
(電気浸透係数および濃縮液のアルカリ濃度)
陰イオン交換膜を1.0モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液に6時間浸漬し、対イオンをOH
−とした。0.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液(25℃)を用いて陰イオン交換膜の膜抵抗を測定した。
0.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液をモデルアルカリ性溶液に用いて電気透析を行った。このときの対膜としては、市販の陽イオン交換膜(旭硝子社製、SELEMION(登録商標)CMV)を用いた。透析時の有効膜面積および膜間距離は、それぞれ8.0cm
2および1.5mmとした。濃縮室にはあらかじめ0.50モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を入れておき、希釈室には0.50モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液(25℃)を7.1cm/sで循環させた。電流密度:30mA/cm
2で直流電流を流した。200分間定常運転させた後、濃縮液を100分間採取し、0.1モル/Lの塩酸を用いた中和滴定によって、濃縮液のアルカリ濃度(C
OH−)を定量した。電気浸透係数[−]を、下式(VI)によって求めた。
電気浸透係数=(水分子の透過流束)/(水酸化物イオンの透過流束) ・・・(VI)。
【0065】
〔例1〜6〕
HDPEフィルム(タマポリ社製、厚さ:35μm、密度:0.94g/cm
3)を用意した。また、BBSは、市販品(純度:97.5質量%、TBC:0.1質量%=BBSの100質量部に対するTBC:0.1質量部)を精製せずに、そのまま用いた。
【0066】
HDPEフィルムに、窒素雰囲気下において200kGyの線量の電子線を照射し、ラジカルを発生させた。HDPEフィルムを、40℃のBBSの市販品(未精製)に浸漬し、ラジカルを開始点としてBBSをグラフト重合させ、グラフト重合膜を得た。グラフト率(dg)は、グラフト重合の時間(0.25〜4時間)によって調整した。
グラフト重合膜をDMF、メタノールおよび純水を用いて洗浄した後、乾燥させた。dgおよびイオン交換容量(Q)を表1に示す。また、グラフト重合膜の厚さ方向における臭素元素のX線強度分布を測定した。臭素元素のX線強度分布から求めたBr
min/Br
maxを表1に示す。
【0067】
グラフト重合膜を0.5モル/LのTMA塩酸塩水溶液(pH12に調製)に6時間浸漬し、BBS単位の臭素をTMA基に変換し、陰イオン交換膜を得た。浸漬温度は40℃とした。
陰イオン交換膜をメタノールおよび純水を用いて洗浄した。陰イオン交換膜を0.5モル/Lの臭化ナトリウム水溶液に6時間浸漬し、対イオンをBr
−とした後、乾燥させた。
【0068】
陰イオン交換膜を0.5モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に6時間浸漬し、対イオンをCl
−とした。陰イオン交換膜を純水で洗浄した後、湿潤状態の厚さを測定した。厚さを表1に示す。また、陰イオン交換膜の湿潤質量を測定した後、陰イオン交換膜を40℃で乾燥させ、乾燥質量を測定した。含水率(H
w)を表1に示す。
また、膜抵抗、静的輸率、電気浸透係数および濃縮液のアルカリ濃度を表1に示す。
【0069】
〔例7〕
BBSとして、市販品(純度:97.5質量%、TBC:0.1質量%)から、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いた液液抽出によって重合禁止剤を除去し、重合禁止剤抽出後のBBSに塩化カルシウムを添加して乾燥させ、精製したもの(BBSの100質量部に対するTBC:0質量部)を用いた。
【0070】
HDPEフィルムに、窒素雰囲気下において200kGyの線量の電子線を照射し、ラジカルを発生させた。HDPEフィルムを、40℃のBBSの精製品に浸漬し、ラジカルを開始点としてBBSをグラフト重合させ、グラフト重合膜を得た。
グラフト重合膜をDMF、メタノールおよび純水を用いて洗浄した後、乾燥させた。dgを表1に示す。
【0071】
グラフト重合膜を0.5モル/LのTMA塩酸塩水溶液(pH12に調製)に6時間浸漬し、BBS単位の臭素をTMA基に変換し、陰イオン交換膜を得た。浸漬温度は40℃とした。
陰イオン交換膜をメタノールおよび純水を用いて洗浄した。陰イオン交換膜を0.5モル/Lの臭化ナトリウム水溶液に6時間浸漬し、対イオンをBr
−とした後、乾燥させた。
【0072】
陰イオン交換膜を0.5モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に6時間浸漬し、対イオンをCl
−とした。陰イオン交換膜を純水で洗浄した後、湿潤状態の厚さを測定した。厚さを表1に示す。また、膜抵抗を表1に示す。
【0073】
〔例8〕
市販の陰イオン交換膜(旭硝子社製、SELEMION(登録商標)AHT)を用意した。該陰イオン交換膜は、ベースにHDPEのクロスを用い、これにBBSおよびジビニルベンゼンを含浸させてバルク重合を行った後、TMA塩酸塩を反応させて得られたものである。
該陰イオン交換膜のQ、厚さ、H
w、膜抵抗、静的輸率、電気浸透係数および濃縮液のアルカリ濃度を表1に示す。
【0074】
【表1】