(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5656270
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】電源装置、高周波システム及び該電源装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H01J 23/34 20060101AFI20141225BHJP
【FI】
H01J23/34 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-258232(P2013-258232)
(22)【出願日】2013年12月13日
【審査請求日】2013年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】396007982
【氏名又は名称】株式会社ネットコムセック
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】中里 行平
【審査官】
桐畑 幸▲廣▼
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−297258(JP,A)
【文献】
特開平11−149880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスと、
前記トランスの一次巻線へ交流電圧を供給するインバータと、
前記トランスの二次巻線から出力された交流電圧を整流し、電子管が備えるカソード及びコレクタに所定の直流電圧を供給する複数の整流回路と、
前記整流回路から出力される、前記カソードに供給する直流電圧を安定化させるシリーズレギュレータと、
前記シリーズレギュレータ及び前記インバータの動作を制御する制御部と、
を有し、
前記複数の整流回路は、各々の出力電圧を積み上げることで、前記コレクタに供給する直流電圧及び前記カソードに供給する直流電圧を生成し、
前記制御部は、
前記カソード及び前記コレクタに対する前記直流電圧の供給停止時、第1の制御信号により、先に前記シリーズレギュレータの出力電圧を低下させ、その後、第2の制御信号により、前記インバータの動作を停止させる電源装置。
【請求項2】
前記シリーズレギュレータは、
直列に接続された複数のトランジスタから成るトランジスタ群と、
所定の基準電圧を生成する基準電圧源と、
前記カソードに供給する直流電圧の検出に用いられる、前記カソードと前記接地電位間に直列に接続された複数の分圧抵抗器と、
前記分圧抵抗器の接続ノードから出力される分圧電圧と前記基準電圧とを比較し、それらが一致するように前記トランジスタ群を制御する差動増幅器と、
前記差動増幅器の出力信号にしたがって前記トランジスタ群を駆動する駆動トランジスタと、
を有する請求項1記載の電源装置。
【請求項3】
前記差動増幅器の一方の入力端子に接続される論理和回路を有し、
前記論理和回路に、前記分圧電圧と前記第1の制御信号、または前記基準電圧と前記第1の制御信号が入力される請求項2記載の電源装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の電源装置と、
前記電源装置からカソード及びコレクタに所定の直流電圧が供給される電子管と、
を有する高周波システム。
【請求項5】
トランスと、
前記トランスの一次巻線へ交流電圧を供給するインバータと、
前記トランスの二次巻線から出力される交流電圧を整流し、電子管が備えるカソード及びコレクタに供給する所定の直流電圧を生成する複数の整流回路と、
前記整流回路から出力される、前記カソードに供給する直流電圧を安定化させるシリーズレギュレータと、
前記シリーズレギュレータ及び前記インバータの動作を制御する制御部と、
を有する電源装置の制御方法であって、
前記複数の整流回路が、
各々の出力電圧を積み上げることで、前記コレクタに供給する直流電圧及び前記カソードに供給する直流電圧を生成し、
前記制御部が、
前記カソード及び前記コレクタに対する前記直流電圧の供給停止時、第1の制御信号により、先に前記シリーズレギュレータの出力電圧を低下させ、その後、第2の制御信号により、前記インバータの動作を停止させる電源装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子管が備える各電極へ所要の直流電圧を供給する電源装置、該電源装置を備える高周波システム及び該電源装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
進行波管やクライストロン等は電子銃から放出された電子ビームと高周波回路との相互作用によりRF(Radio Frequency)信号の増幅や発振等に用いる電子管である。進行波管1は、例えば
図3に示すように、電子を放出する電子銃10と、電子銃10から放出された電子によって形成される電子ビーム50とRF信号とを相互作用させる高周波回路であるヘリックス20と、ヘリックス20から出力された電子を捕捉するコレクタ30と、電子銃10から電子を引き出すと共に電子銃10から放出された電子によって形成される電子ビーム50をヘリックス20の螺旋構造内に導くアノード40とを有する。電子銃10は、熱電子を放出するカソード11と、カソード11に熱電子を放出させるための熱エネルギーを与えるヒータ12とを備える。
【0003】
電子銃10から放出された電子は、電子ビーム50を形成しつつカソード11とアノード40の電位差によって加速されてヘリックス20の螺旋構造内に導入され、ヘリックス20の一端から入力されたRF信号と相互作用しながら該螺旋構造内を進行する。ヘリックス20の螺旋構造内を通過した電子はコレクタ30で捕捉される。このとき、ヘリックス20の他端からは電子ビームとの相互作用によって増幅されたRF信号が出力される。
【0004】
電源装置60は、カソード11に対してヘリックス20の電位HELIXを基準に負の直流電圧であるヘリックス電圧Ehelを供給するヘリックス電源61と、コレクタ30に対してカソード11の電位H/Kを基準に正の直流電圧であるコレクタ電圧Ecolを供給するコレクタ電源62と、ヒータ12に対してカソード11の電位H/Kを基準に正または負の直流電圧(
図3では負の直流電圧)であるヒータ電圧Ehを供給するヒータ電源63とを備えている。アノード40及びへリックス20は電源装置60内でそれぞれ接地される。
【0005】
なお、
図3では1つのコレクタ30を備える進行波管1の構成例を示しているが、進行波管1には複数のコレクタ30を備える構成もある。また、
図3では、アノード40が接地された構成例を示しているが、進行波管1には、アノード40に対してカソード11の電位H/Kを基準に正の直流電圧であるアノード電圧Eaを供給する構成もある。
【0006】
図3に示すヘリックス電源61及びコレクタ電源62は、回路の一部を共通化することが可能であり、例えば
図4に示す回路で実現できる。
図4に示す電源回路は、2つのコレクタを備える進行波管1に異なるコレクタ電圧(第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2)を供給する場合の構成例を示している。
【0007】
図4に示す電源回路は、トランス101と、トランス101の一次巻線に交流電圧を供給するインバータ102と、トランス101の二次巻線から出力される交流電圧を整流する整流回路103
1〜103
3と、整流回路103
1〜103
3から出力されるヘリックス電圧Ehelを安定化させるシリーズレギュレータ104と、インバータ102の動作を制御する制御部105とを有する。
【0008】
図4に示す電源回路では、接地電位に対して整流回路103
1〜103
3の出力電圧を積み上げることで、第1のコレクタ電圧Ecol1、第2のコレクタ電圧Ecol2及びヘリックス電圧Ehelを生成する。また、シリーズレギュレータ104を用いてヘリックス電圧Ehelを制御することで、ヘリックス電圧Ehelのリップルを低減して、安定したカソード電位H/Kを実現している。
【0009】
シリーズレギュレータ104を用いてカソード電位H/Kを安定化させる構成は、例えば特許文献1及び2にも記載されている。また、複数の整流回路の出力電圧を積み上げることで複数のコレクタ電圧Ecolやヘリックス電圧Ehelを生成する構成は、例えば特許文献3〜6にも記載されている。アノード電圧Eaやヒータ電圧Ehも、上記と同様にインバータ、トランス、整流回路及び整流用コンデンサ等を用いて生成すればよい。
【0010】
ところで、上述した進行波管1及び電源装置60を備える高周波システムでは、電源投入時や電源停止時等の電源電圧が不安定な期間でヘリックス20に意図しない過大な電流が流れるのを防止するため、各電源電圧の投入順や停止順を制御することが望ましい。
【0011】
例えば、電源投入時は、最初にヒータ電圧Ehを供給して進行波管1のヒータ12を予熱する。続いて、インバータ102を動作させてヘリックス電圧Ehel、コレクタ電圧Ecol(Ecol1,Ecol2)を供給し、最後にアノード電圧Eaを供給する。一方、電源停止時は、最初にアノード電圧Eaの供給を停止する(アノード電位ANODEをカソード電位H/Kと等しくする)。続いて、インバータ102の動作を停止してヘリックス電圧Ehel、コレクタ電圧Ecol(Ecol1,Ecol2)の供給を停止し、最後にヒータ電圧Ehの供給を停止する。
【0012】
通常、進行波管1のカソード11やコレクタ30に供給する直流電圧(電源電圧)は数KV〜数十KVの高電圧であるため、アノード電圧Eaの供給及び供給停止には真空リレー等の高耐圧スイッチが用いられる。
【0013】
なお、特許文献7には、パワートランジスタや電界効果トランジスタ等の半導体スイッチ素子を用いてアノード電圧Eaを制御することで、上記電源投入時や電源停止時のシーケンスを実現した構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007−323915号公報
【特許文献2】実開昭61−089916号公報
【特許文献3】特開昭60−167240号公報
【特許文献4】特開2001−143628号公報
【特許文献5】特開2008−061332号公報
【特許文献6】特開2009−037754号公報
【特許文献7】特公平4−029177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
一般に、真空リレー等の高耐圧スイッチは高価であり、また大型であるため、高耐圧スイッチを用いてアノード電圧Eaを制御する構成は電源装置のコストや回路容積が増大する課題がある。
【0016】
一方、特許文献7に記載された構成では、カソード電位H/Kと接地電位間に半導体スイッチ素子と抵抗器とを直列に接続することで、半導体スイッチ素子に対する印加電圧を低減している。しかしながら、そのような構成では、進行波管1の通常動作時に、半導体スイッチ素子と抵抗器とでヘリックス電圧Ehelを分圧した電圧がアノード40に供給されるため、進行波管1から出力可能なRF信号の最大電力が低下してしまう。すなわち、進行波管1の能力を最大限に利用することができない。
【0017】
したがって、進行波管1用の電源装置には、コストや回路容積の制約から高耐圧スイッチ等を用いてアノード電圧Eaを制御しない構成もある。その場合、アノード40は上述したように接地電位と接続される。
【0018】
しかしながら、アノード電圧Eaの供給及び供給停止を制御しない構成では、上述したように電源投入時や電源停止時にヘリックス20へ意図しない過大な電流が流れるため、ヘリックス20がダメージを受け、進行波管1の製品寿命が短くなるおそれがある。特に、電源停止時では、電流供給能力が高いヘリックス電源61やコレクタ電源62に蓄積された電力が放電されてヘリックス20に大きな電流が流れるため、ヘリックス20が受けるダメージもより大きくなる。
【0019】
本発明は上述したような背景技術の問題を解決するためになされたものであり、アノード電圧の供給及び供給停止を制御しない構成であっても、ヘリックスが受けるダメージを低減しつつ、電子管に対する電源供給を停止させることが可能な電源装置、該電源装置を備える高周波システム及び該電源装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するため本発明の電源装置は、トランスと、
前記トランスの一次巻線へ交流電圧を供給するインバータと、
前記トランスの二次巻線から出力された交流電圧を整流し、電子管が備えるカソード及びコレクタに所定の直流電圧を供給する複数の整流回路と、
前記整流回路から出力される、前記カソードに供給する直流電圧を安定化させるシリーズレギュレータと、
前記シリーズレギュレータ及び前記インバータの動作を制御する制御部と、
を有し、
前記複数の整流回路は、各々の出力電圧を積み上げることで、前記コレクタに供給する直流電圧及び前記カソードに供給する直流電圧を生成し、
前記制御部は、
前記カソード及び前記コレクタに対する前記直流電圧の供給停止時、第1の制御信号により、先に前記シリーズレギュレータの出力電圧を低下させ、その後、第2の制御信号により、前記インバータの動作を停止させる構成である。
【0021】
本発明の高周波システムは、上記電源装置と、
前記電源装置からカソード及びコレクタに所定の直流電圧が供給される電子管と、
を有する。
【0022】
また、本発明の電源装置の制御方法は、トランスと、
前記トランスの一次巻線へ交流電圧を供給するインバータと、
前記トランスの二次巻線から出力される交流電圧を整流し、電子管が備えるカソード及びコレクタに供給する所定の直流電圧を生成する複数の整流回路と、
前記整流回路から出力される、前記カソードに供給する直流電圧を安定化させるシリーズレギュレータと、
前記シリーズレギュレータ及び前記インバータの動作を制御する制御部と、
を有する電源装置の制御方法であって、
前記複数の整流回路が、
各々の出力電圧を積み上げることで、前記コレクタに供給する直流電圧及び前記カソードに供給する直流電圧を生成し、
前記制御部が、
前記カソード及び前記コレクタに対する前記直流電圧の供給停止時、第1の制御信号により、先に前記シリーズレギュレータの出力電圧を低下させ、その後、第2の制御信号により、前記インバータの動作を停止させる方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アノード電圧の供給及び供給停止を制御しない構成であっても、ヘリックスが受けるダメージを低減しつつ、電子管に対する電源供給を停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の電源装置の一構成例を示す図であり、同図(a)はヘリックス電源及びコレクタ電源の一構成例を示す回路図、同図(b)は
図1(a)に示した差動増幅器の他の接続例を示す回路図である。
【
図2】
図1に示した電源装置のオフ時におけるヘリックス電圧及びコレクタ電圧の変化の様子の一例を示すグラフである。
【
図3】背景技術の高周波システムの構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図3に示したヘリックス電源及びコレクタ電源の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に本発明について図面を用いて説明する。
【0026】
図1は、本発明の電源装置の一構成例を示す図であり、同図(a)はヘリックス電源及びコレクタ電源の一構成例を示す回路図、同図(b)は
図1(a)に示した差動増幅器の他の接続例を示す回路図である。
【0027】
図1(a)に示す電源装置70は、
図3に示した背景技術の電源装置60と同様に、進行波管1の各電極に所要の電源電圧を供給するのに好適な構成例である。また、
図1(a)に示す電源装置70は、
図4に示した電源回路と同様に、ヘリックス電源とコレクタ電源の回路の一部を共通化した構成である。さらに、
図1(a)に示す電源装置70は、
図4に示した電源回路と同様に、2つのコレクタを備える進行波管1に、異なるコレクタ電圧(第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2)を供給する場合の構成例を示している。進行波管1を含む高周波システムの構成は、進行波管1が備えるコレクタの数を除いて
図3に示した背景技術と同様であるため、その説明は省略する。
【0028】
図1(a)に示すように、本発明の電源装置70は、トランス201と、トランス201の一次巻線へ交流電圧を供給するインバータ202と、トランス201の二次巻線から出力される交流電圧を整流する整流回路203
1〜203
3と、整流回路203
1〜203
3から出力されるヘリックス電圧Ehelを安定化させるシリーズレギュレータ204と、シリーズレギュレータ204及びインバータ202の動作を制御する制御部205とを有する。
図1(a)に示す整流回路203
1〜203
3の各出力端や接地電位とカソード電位H/K間には、周知の整流用コンデンサが接続されていてもよい。
【0029】
図1(a)では、ヒータ電圧Ehを生成するヒータ電源の構成例を示していないが、ヒータ電圧Ehは、上記と同様にインバータ、トランス、整流回路及び整流用コンデンサ等を用いて生成すればよい。ヒータ電圧Ehの生成に用いるインバータやトランスは、上記インバータ202やトランス201と共通であってもよく、独立して備えていてもよい。
【0030】
図1(a)に示す電源装置70は、
図4に示した電源回路と同様に、接地電位に対して整流回路203
1〜203
3の出力電圧を積み上げることで、第1のコレクタ電圧Ecol1、第2のコレクタ電圧Ecol2及びヘリックス電圧Ehelを生成する。また、シリーズレギュレータ204を用いてヘリックス電圧Ehelを制御することで、ヘリックス電圧Ehelのリップルを低減して、安定したカソード電位H/Kを実現している。
【0031】
インバータ202は、例えば不図示の直流電圧源から供給される直流電圧をトランジスタでスイッチングすることで交流電圧に変換する、周知の回路である。
【0032】
トランス201は、インバータ202から出力された交流電圧を昇圧または降圧して出力する。
【0033】
整流回路203
1〜203
3は、トランス201の二次巻線から出力された交流電圧を整流して出力する、周知のダイオードブリッジで構成される。
【0034】
シリーズレギュレータ204は、直列に接続された複数のトランジスタ(
図1(a)では4つのトランジスタQ1〜Q4)から成るトランジスタ群210と、所定の基準電圧Erefを生成する基準電圧源211と、ヘリックス電圧Ehelの検出に用いられる、カソード11と接地電位間に直列に接続された複数の分圧抵抗器R1及びR2と、分圧抵抗器R1及びR2の接続ノードから出力される分圧電圧Edと上記基準電圧Erefとを比較し、それらが一致するようにトランジスタ群210を制御する差動増幅器212と、差動増幅器212の出力信号にしたがってトランジスタ群210を駆動する駆動トランジスタ213とを有する。基準電圧源211は、比較的安定した直流電圧を生成できればよく、周知のどのような回路を用いてもよい。
【0035】
図1(a)では2つの分圧抵抗器R1及びR2を備える構成例を示しているが、分圧抵抗器の数は2つ以上であればいくつでもよい。また、
図1(a)では、トランジスタ群210が複数のバイポーラトランジスタで構成される例を示しているが、トランジスタ群210は複数のFET(Field Effect Transistor)で構成されていてもよい。
【0036】
上述したように進行波管1のヘリックス電圧Ehelは数KV〜数十KVの直流高電圧であるため、
図1(a)に示す電源装置70では、複数のトランジスタ(
図1(a)ではQ1〜Q4)を直列に接続してトランジスタ群210を形成することで、各トランジスタQ1〜Q4に印加される電圧を低減している。
【0037】
差動増幅器212には、上記分圧電圧Ed及び基準電圧Erefが入力されると共に、制御部205から出力される、シリーズレギュレータ204の動作を制御するための制御信号Regが入力される。
【0038】
本実施形態の制御部205は、進行波管1に対する電源供給の停止時、制御信号Regとして、シリーズレギュレータ204の出力電圧を接地電位方向へシフト(低下)させるための所定の直流電圧を出力する。
【0039】
差動増幅器212が2つの入力端子のみ備える構成の場合、負入力端子または正入力端子へ2つのダイオードを順方向に接続して論理和回路を構成し、該論理和回路に分圧電圧Edと制御信号Regとを入力すればよい(
図1(b)参照)。論理和回路には基準電圧Erefと制御信号Regとを入力してもよい。その場合、もう一つの入力端子に分圧電圧Edを入力すればよい。
【0040】
制御部205は、CPU(Central Processing Unit)、該CPUの処理で必要な情報を一時的に保持する主記憶装置、CPUに処理を実行させるためのプログラムが記録された記録媒体、D/A(Digital to Analog)コンバータ等を備えた情報処理装置または情報処理用のIC(Integrated Circuit)で実現できる。制御部205は、記録媒体に記録されたプログラムにしたがってCPUが処理を実行することで、後述する制御部205の機能を実現する。記録媒体は、磁気ディスク、半導体メモリ、光ディスクあるいはその他の記憶装置であってもよい。
【0041】
次に本発明の電源装置70の動作について説明する。
【0042】
図2は、
図1(a)に示した電源装置のオフ時におけるヘリックス電圧及びコレクタ電圧の変化の様子の一例を示すグラフである。
図2(a)は、本発明の制御方法を採用しない場合の、進行波管1に対する電源供給の停止時のヘリックス電圧Ehel、第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2の変化の様子を示している。
図2(b)は、本発明の制御方法を採用した場合の、進行波管1に対する電源供給の停止時のヘリックス電圧Ehel、第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2の変化の様子を示している。
図2(a)及び(b)は、ヘリックス電圧Ehel、第1のコレクタ電圧Ecol1、第2のコレクタEcol2、ヘリックス20に流れる電流(ヘリックス電流Ihel)を模式的に示した図であり、これらの電圧値や電流値を正確に示すものではない。なお、進行波管1のアノード40は電源装置70内で接地されているものとする。
【0043】
進行波管1に対する電源供給の停止時、制御部205は制御信号HVを用いてインバータ202の動作を停止させる。ここで、本発明の制御方法を採用しない場合、
図2(a)に示すように制御部205が制御信号HVを用いてインバータ202の動作を停止させると(HV OFF)、ヘリックス電圧Ehelが徐々に低下する(カソード電位H/Kが徐々に接地電位(GND)へ近づく)。
【0044】
また、インバータ202の動作が停止すると、コレクタ電源は出力電位を維持できないため、第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2がヘリックス電圧Ehelとほぼ等しくなり、その後、ヘリックス電圧Ehelと共に徐々に低下して接地電位へ近づいていく。
【0045】
進行波管1では、ヘリックス電圧Ehelが十分に低下していない期間ではカソード11から電子が放出され続けている。そのため、第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2がヘリックス電圧Ehelとほぼ等しいと、カソード11から放出された電子は、2つのコレクタ30で捕捉されることなく、そのほとんどがヘリックス20を経由して接地電位へ流れてしまう。特に、インバータ202の動作停止直後はヘリックス電圧Ehelが高電圧であるため、
図2(a)で示すようにヘリックス20に大きなピーク電流が流れてしまう。また、ヘリックス電源やコレクタ電源に蓄積されていた電力がヘリックス20以外ではほとんど消費されないため、大きなヘリックス電流Ihelが流れる期間も長くなる。
【0046】
そこで、本発明では、進行波管1に対する電源供給の停止時、制御部205は、先にシリーズレギュレータ204を用いてヘリックス電圧Ehel、第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2を接地電位方向へシフトさせる。すなわち、制御部205は、制御信号Regとして所定の直流電圧を差動増幅器212に供給し(Reg OFF)、シリーズレギュレータ204の出力電圧を低下させる(Reg Shift)。その後、制御部205は、インバータ202の動作を停止させる。上述したようにインバータ202の動作は制御信号HVを用いて制御する。なお、インバータ202の動作を停止させるには、例えば、上記直流電圧源の動作を停止させる、またはスイッチング用のトランジスタをオフ状態で維持させればよい。
【0047】
このようにシリーズレギュレータ204を用いてヘリックス電圧Ehel、第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2を制御すると、
図2(b)で示すようにヘリックス電圧Ehel、第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2は、Reg OFF時に比較的短時間で所定の電圧まで低下し、その後、一定となる。この段階では、インバータ202及びシリーズレギュレータ204がそれぞれ動作しているため、カソード11と2つのコレクタ30間もある程度の電位差でそれぞれ維持されている。したがって、カソード11から放出された電子の多くが2つのコレクタ30で捕捉され、該コレクタ30を介して接地電位へ流れる。そのため、ヘリックス20に流れる電流(ヘリックス電流Ihel)が低減される。
【0048】
また、インバータ202の動作を停止させた時点(HV OFF)では、ヘリックス電圧Ehel、第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2が既に低下しているため、
図2(b)で示すようにヘリックス20に流れるピーク電流も低減する。さらに、ヘリックス電圧Ehel、第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2が低下していることで、ヘリックス電流Ihelが流れる期間も短縮する。
【0049】
シリーズレギュレータ204による出力電圧のシフト時、ヘリックス電源に蓄積されている電力は、主としてシリーズレギュレータ204が備えるトランジスタ群201で消費される。そのため、シリーズレギュレータ204を用いてヘリックス電圧Ehel、第1のコレクタ電圧Ecol1及び第2のコレクタ電圧Ecol2をシフト(低下)させる場合は、その時間や低下量(低下電圧)をトランジスタ群210が備える各トランジスタQ1〜Q4の最大許容損失等を考慮して設定すればよい。
【0050】
本発明によれば、高耐圧スイッチ等を用いてアノード電圧Eaの供給及び供給停止を制御しない構成であっても、進行波管1に対する電源電圧の供給停止時にヘリックス20に流れる電流を低減できるため、ヘリックス20が受けるダメージを低減しつつ電源装置70の動作を停止させることができる。
【0051】
また、本発明の制御方法で用いるシリーズレギュレータ204は、元々電源装置70に備える構成であり、新たに追加する必要もない。そのため、電源装置70のコストや回路容積の増大も抑制される。
【符号の説明】
【0052】
10 電子銃
11 カソード
12 ヒータ
20 ヘリックス
30 コレクタ
40 アノード
70 電源装置
201 トランス
202 インバータ
203
1〜203
3 整流回路
204 シリーズレギュレータ
205 制御部
210 トランジスタ群
211 基準電圧源
212 差動増幅器
R1,R2 分圧抵抗器
【要約】
【課題】アノード電圧の供給及び供給停止を制御しない構成であっても、ヘリックスが受けるダメージを低減しつつ、電子管に対する電源供給を停止させることが可能な電源装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】電源装置は、トランスと、トランスへ交流電圧を供給するインバータと、トランスから出力された交流電圧を整流する複数の整流回路と、カソードに供給する直流電圧を安定化させるシリーズレギュレータと、シリーズレギュレータ及びインバータを制御する制御部とを有する。各整流回路は各々の出力電圧を積み上げることでコレクタ及びカソードに供給する直流電圧を生成する。制御部は、電子管に対する電源供給停止時、制御信号により先にシリーズレギュレータの出力電圧を低下させ、その後インバータの動作を停止させる。
【選択図】
図1