(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の消音器では、キャンセル波を生成するための電気回路を保護するために、防塵又は防水処理や配線の取り廻し処理等が必要になり、設置に手間と費用がかかるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、設置の手間及び費用を従来より低減可能な消音器及び車両用吸気ダクトの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る消音器は、ダクト内を伝達する騒音を低減させるための消音器であって、ダクトのダクト壁を貫通し、横並びに配置された1対の円形貫通孔と、1対の円形貫通孔を塞いだ状態に張られ、音波を受波して振動する1対の送受波膜と、1対の送受波膜の中心部の間を連絡すると共に、それら1対の送受波膜の中心部の間でダクトに対して回転可能に支持されて、1対の送受波膜の相互間で振動を伝達可能なシーソー部材とを備え
、1対の送受波膜とシーソー部材の回動中心とが略同一平面内に配置され、シーソー部材は、回動中心と一方の送受波膜の中心部との間を連絡するように湾曲した第1湾曲部と、回動中心と他方の送受波膜の中心部との間を連絡するように湾曲した第2湾曲部とを有する略E字形状をなしているところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の消音器において、1対の送受波膜は、ダクト内の音波伝達方向に沿って並べられたところに特徴を有する。
【0009】
請求項
3の発明は、請求項1
又は2に記載の消音器において、シーソー部材は、ダクト壁の外側に配置されると共に、ダクト壁に向かって延びかつ先端部がダクト壁に回動可能に支持された中央脚部を有し、ダクト壁には、中央脚部の先端部との干渉を回避するための干渉回避凹部が陥没形成されると共に、その干渉回避凹部の内面には、異物をダクト内に排出するための異物排除孔が貫通形成されたところに特徴を有する。
【0010】
請求項
4の発明は、請求項
3に記載の消音器において、中央脚部の先端部の両側面から相反する方向に回動中心シャフトをそれぞれ突出させ、ダクト壁の外面のうち干渉回避凹部の両側には、中央脚部の先端部が干渉回避凹部に受容された状態で回動中心シャフトを受容して回動可能に支持する1対のシャフト支持溝が形成されたところに特徴を有する。
【0011】
請求項
5の発明は、請求項
3又は
4に記載の消音器において、異物排除孔は、干渉回避凹部の底面と中央脚部の先端面との間の隙間より大きな直径の円形孔であるところに特徴を有する。
【0012】
請求項
6の発明は、請求項1乃至
5の何れか1の請求項に記載の消音器において、シーソー部材の回動範囲を規制して、送受波膜の過度の変形を防止するための回動規制ストッパを備えたところに特徴を有する。
【0013】
請求項
7の発明は、請求項1乃至
6の何れか1の請求項に記載の消音器において、ダクト壁の少なくとも一部は、それぞれ1対ずつの円形貫通孔が形成された平板状の1対のベース板部材を重ねて構成され、それら1対のベース板部材の間に挟まれた共通の膜部材により1対の送受波膜が構成されたところに特徴を有する。
【0014】
請求項
8の発明は、請求項1乃至
7の何れか1の請求項に記載の消音器において、シーソー部材は、ダクト壁の外側に配置され、そのダクト壁の外面をシーソー部材と共に覆う外面カバーを備えたところに特徴を有する。
【0016】
請求項
9の発明に係る車両用吸気ダクトは、車両のエンジンの吸気経路に配置され、請求項1乃至
8の何れか1の請求項に記載の消音器を備えたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
[請求項
1の発明]
請求項
1の消音器によれば、後述する実験結果の通り消音効果を得ることができる。その消音メカニズムは、以下の通りであると推測される。即ち、本発明の消音器は、音波を受波して振動する1対の送受波膜を備えている。ここで、音波は所定周期で圧力が変化する波であるから、送受波膜が騒音の音波を受波すると、その騒音の周波数で送受波膜が内側に膨出した状態と外側に膨出した状態とを交互に繰り返すように振動する。そして、本発明では、1対の送受波膜の間をシーソー部材又は振動伝達部材で連絡したことで、一方の送受波膜が騒音の音波を受けて所定周期で振動すると、それに従動して他方の送受波膜も同じ所定周期で振動しかつ、一方の送受波膜の膨出方向と他方の送受波膜の膨出方向は常に互いに逆向きになる。これにより、一方の送受波膜が受けた騒音の音波とは逆位相のキャンセル波が他方の送受波膜から送波されて、騒音を低減させることができる。しかも、キャンセル波生成用の電気回路を有しないので、従来の防塵、防水及び配線処理を必要とせず、低コストで設置することが可能になる
。
また、1対の送受波膜とシーソー部材の回動中心とを略同一平面内に配置したので、シーソー部材と送受波膜との間に作用する力のうち送受波膜と平行な方向の力成分が小さく抑えられ、その分、送受波膜と直交する方向の力成分が大きくなる。即ち、シーソー部材の回動中心を1対の送受波膜を含む面から離すと、その離した距離が大きいほどシーソー部材と送受波膜との間に作用する力のうち送受波膜と平行な方向の力成分が増加する一方、送受波膜と直交する方向の力成分が減少する。これに対し、本請求項1の消音器は、上記した構成を有するので送受波膜と平行な方向の力成分が最も小さくなり、送受波膜と直交する方向の力成分が最も大きくなる。これにより、送受波膜の振動が安定すると共に、送受波膜の一方で受けた振動を他方に効率良く伝達することができる。
【0018】
[請求項2の発明]
請求項2の消音器では、1対の送受波膜を音波伝達方向に沿って並べたので、騒音が低周波の場合に1対の送受波膜の間で音波の受波による差圧が生じ易く、送受波膜が振動し易くなり、消音効果が向上する。なお、後述する実験によれば、1対の送受波膜を音波伝達方向と直交する方向に並べた場合でも消音効果は得られたが、騒音が低周波の場合には1対の送受波膜を音波伝達方向に並べた場合の方が、より高い消音効果が得られることが確認できた。
【0020】
[請求項
3及び
4の発明]
請求項
3の構成によれば、シーソー部材の中央脚部との干渉を回避するためにダクト壁に陥没形成された干渉回避凹部内に粉塵等の異物が侵入しても、異物排除孔からダクト内へと排出されるので、異物が干渉回避凹部内に溜まることが防がれる。これにより、シーソー部材がスムーズに回動できる状態が維持される。
請求項
4の構成によれば、回動中心シャフトをその軸方向と直交する方向からシャフト支持溝に組み付けることができ、組付作業が容易になる。
【0021】
[請求項
5の発明]
請求項
5の消音器では、異物排除孔が、干渉回避凹部の底面と中央脚部の先端面との間の隙間より大きな直径の円形孔になっているので、ダクト内が負圧状態になっている場合に、異物排除孔を通してダクト内に異物を排出することができる。
【0022】
[請求項
6の発明]
請求項
6の消音器によれば、回動規制ストッパによってシーソー部材の回動範囲を規制して、送受波膜の過度の変形を防止することができる。
【0023】
[請求項
7の発明]
請求項
7の消音器によれば、1対ずつの円形貫通孔を有した1対のベース板部材の間に共通の膜部材を挟んで1対の送受波膜を構成したので、各送受波膜を別々の膜部材で構成した場合に比べて部品点数の削減が図られる。
【0024】
[請求項
8の発明]
請求項
8の消音器によれば、シーソー部材は、ダクトの外面側に配置されているので、ダクト内を通過する空気の流体抵抗の影響を受けずに済む。また、シーソー部材は外面カバーで覆われているので、シーソー部材と他の部品との当接が防がれ、消音器及び消音器を備えたダクトの取り扱いが容易になる。
【0025】
[請求項
9の発明]
請求項
9の車両用吸気ダクトは、請求項1乃至
8の何れか1の請求項に記載の消音器を備えているので、車両に設置する際に、従来の防塵、防水及び配線処理を必要とせず、低コストで設置することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1実施形態]
以下、本発明の一実施形態を
図1〜
図5に基づいて説明する。
図1には、本発明に係る消音器20を備えた車両用吸気ダクト10(以下、単に「ダクト10」という)の一部が示されている。このダクト10は、一端部が車両のエンジン90側に接続され、他端部から取り込んだ空気をエンジン90へと案内する。ここで、ダクト10は、エンジン90からの騒音を伝達する伝達管路にもなるので、その騒音を低減させるための消音器20が備えられている。
【0028】
具体的には、ダクト10は、例えば、水平方向に延びた筒状をなして中心軸を含む水平な分割面10Cで上下のダクト構成体10A,10Bに2分割されている。また、これらダクト構成体10A,10Bは、樹脂を射出成形してなり、例えば振動溶着によって互いに固定されている。
【0029】
ダクト10のうち内部と外部とを区画するダクト壁10Wの一部は、上方に膨出して箱形膨出部11になっている。箱形膨出部11は、ダクト10の軸方向に延びた直方体状をなし、箱形膨出部11の先端に備えた矩形平板状のベース壁12には、1対の円形貫通孔13,13がダクト10の軸方向に並べて設けられている。そして、1対の円形貫通孔13,13をそれぞれ閉塞するように膜部材15が張られて1対の送受波膜21A,21Bが形成され、それら1対の送受波膜21A,21Bの中心部の間をシーソー部材22で連絡して消音器20が構成されている。
【0030】
詳細には、
図2に示すように、ベース壁12は、例えば、箱形膨出部11の側壁上端部に一体形成された矩形平板状の第1ベース板部材31と、その第1ベース板部材31の外面に重ねられた第2ベース板部材32とからなる。また、1対の円形貫通孔13,13は、同じ直径になっていて、第1と第2のベース板部材31,32のそれぞれに1対ずつの円形貫通孔13,13が同ピッチで貫通形成されている。さらに、第1及び第2のベース板部材31,32の対向面には接着剤が塗布され、それらの間に膜部材15が配されて、複数のビスにより第1及び第2のベース板部材31,32と膜部材15とが共締めされている。そして、膜部材15のうち1対の円形貫通孔13,13から露出した部分が1対の送受波膜21A,21B(
図1参照)になっている。
【0031】
膜部材15は、ゴム又は樹脂のシートであって、その材質の具体例としては、例えば、EPDM、TPU、TPO、PVC、PETが挙げられる。また、膜部材15の厚さは、例えば、0.1〜1.0[mm]程度である。
【0032】
第2ベース板部材32のうち1対の円形貫通孔13,13の間には、それら円形貫通孔13,13の中心点を結ぶ線に沿って延びたスリット16が形成されている。また、第2ベース板部材32のうち第1ベース板部材31との対向面側には、スリット16の幅方向の両側に1対のシャフト支持突部17S,17Sが突出形成され、それらシャフト支持突部17S,17Sの間に回動中心シャフト18Sが差し渡されている。
【0033】
回動中心シャフト18Sは、1対の円形貫通孔13,13の中心点の間の中央に位置しかつ、膜部材15と略同一平面内に配置されている(
図3参照)。そして、シーソー部材22の次述する中央脚部23が第2ベース板部材32の外面側からスリット16に通されて、その中央脚部23の端部に備えたシャフト挿通孔23Sに回動中心シャフト18Sが挿通され、これによりシーソー部材22が回動中心シャフト18Sを介してベース壁12に回動可能に支持されている。なお、中央脚部23の下端部と膜部材15及び第1ベース板部材31との干渉を避けるために、膜部材15には干渉回避孔15Aが形成され、第1ベース板部材31の外面には干渉回避凹部31Aが陥没形成されている。
【0034】
図1に示すように、シーソー部材22は、例えば、全体が略E字形状の樹脂製板であって、円形貫通孔13,13の中心点の間を結ぶ線に沿って延びた連絡部24と、その連絡部24の長手方向の中心から連絡部24と直交する方向に延びた中央脚部23と、その中央脚部23と平行に連絡部24の両端部から延びた1対の端部脚部25,25とを備えている。また、
図3に示すように、端部脚部25,25の先端面と中央脚部23のシャフト挿通孔23Sとは略同一平面内に配置されている。さらに、端部脚部25,25の先端面の図心同士の間隔は、送受波膜21A,21Bの中心点同士の間隔と同じになっている。そして、上記したように中央脚部23の先端部が回動中心シャフト18Sを介してベース壁12に回動可能に支持され、端部脚部25,25の先端面の各図心を送受波膜21A,21Bの各中心点に一致させた状態で、端部脚部25,25の先端面が送受波膜21A,21Bの外面に接着剤にて固定されている。なお、本実施形態では、シーソー部材22のうち一方の端部脚部25と中央脚部23とそれらの間の連絡部24とからなる湾曲部分が、本発明に係る「第1湾曲部」に相当し、他方の端部脚部25と中央脚部23とそれらを繋ぐ連絡部24とからなる湾曲部分が、本発明に係る「第2湾曲部」に相当する。
【0035】
消音器20の外面は、外面カバー27によって覆われている。外面カバー27は、底面全体が開口した台形箱形構造をなし、その底面の矩形開口27Aの開口縁を第2ベース板部材32の外縁部に宛がった状態でビスにてベース壁12に固定されている。
【0036】
図3に示すように、外面カバー27の内面のうちシーソー部材22の両端部に対して送受波膜21A,21Bと反対側から対向する位置には回動規制ストッパ51,51が設けられている。これら回動規制ストッパ51,51は、消音器20の通常の使用方法では、シーソー部材22に対して離間状態を維持し、例えば、送受波膜21Aが工具等に押されてシーソー部材22が回動するような異常時に、シーソー部材22と当接して送受波膜21Aの過度の変形を防ぐ。
【0037】
本実施形態の消音器20の構成に関する説明は以上である。次に、この消音器20の作用効果について説明する。エンジン90は、ダクト10を通して吸気を行って作動する。すると、そのエンジン90による吸気音が騒音となって、
図4(A)に示すようにダクト10内を吸気方向と逆向きに進み、騒音源であるエンジン90に近い側の一方の送受波膜21Aから他方の送受波膜21Bを通過してダクト10外に放出される。しかしながら、ダクト10に本発明に係る消音器20を備えているので、後述する実験でも確認できたように騒音が低減される。その消音メカニズムは、以下の通りであると推測される。
【0038】
即ち、音波は所定周期で圧力が変化する波であるから、一方の送受波膜21Aは、騒音の音波を受波すると、その騒音の周波数で内側に膨出した状態と外側に膨出した状態とを交互に繰り返すように振動する。ここで、送受波膜21A,21B同士の間はシーソー部材22で連絡されているので、一方の送受波膜21Aが騒音の音波を受けて所定周期で振動すると、それに従動して他方の送受波膜21Bも同じ所定周期で振動しかつ、
図4(B)及び
図4(C)に示すように、一方の送受波膜21Aの膨出方向と他方の送受波膜21Bの膨出方向は常に互いに逆向きになる。これにより、一方の送受波膜21Aが受けた騒音の音波とは逆位相のキャンセル波が他方の送受波膜21Bから送波され、騒音を低減させることができる。しかも、本実施形態の消音器20は、キャンセル波生成用の電気回路を有しないので、従来の防塵、防水及び配線処理を必要とせず、低コストで車両に設置することができる。
【0039】
また、本実施形態の消音器20では、
図3に示すように、1対の送受波膜21A,21Bとシーソー部材22の回動中心P1とを略同一平面内に配置したので、シーソー部材22と送受波膜21A,21Bとの間に作用する力のうち送受波膜21A,21Bと平行な方向の力成分が小さく抑えられ、その分、送受波膜21A,21Bと直交する方向の力成分が大きくなる。具体的には、例えば、
図5(A)と
図5(B)とに比較して示すように、シーソー部材22の回動中心P1を1対の送受波膜21A,21Bを含む面から離すと、その離した距離が大きくなるほどシーソー部材22から送受波膜21Bに付与される力Fのうち送受波膜21Bと平行な方向の力成分Fxが増加する一方(
図5(A)のFxより
図5(B)のFxが大きいことを参照)、送受波膜21Bと直交する方向の力成分Fyが減少する。これに対し、本実施形態の消音器20では、1対の送受波膜21A,21Bとシーソー部材22の回動中心P1とを略同一平面内に配置したので、シーソー部材22から送受波膜21Bに付与される力Fのうち送受波膜21Bと平行な方向の成分Fxが最も小さくなる一方(即ち「0」に抑えられ)、送受波膜21Bと直交した方向の力成分Fyが最も大きくなる。図示しないが、シーソー部材22が送受波膜21Aから受けるに力に関しても同様である。これにより、本実施形態では、送受波膜21A,21Bの振動が安定すると共に、送受波膜21A,21Bの一方で受けた振動を他方に効率良く伝達することができる。
【0040】
さらには、1対ずつの円形貫通孔13,13を有した1対の第1及び第2のベース板部材31,32の間に共通の膜部材15を挟んで1対の送受波膜21A,21Bを構成したので、各送受波膜21A,21Bを別々の膜部材で構成した場合に比べて部品点数の削減が図られる。なお、本実施形態では、シーソー部材22が外面カバー27で覆われているので、シーソー部材22と他の部品との当接が防がれ、ダクト10の取り扱いが容易になる。
【0041】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係る消音器20Vのうち第1実施形態の消音器20と異なる構成について、
図6〜
図14を参照しつつ説明する。
【0042】
図7に示すように、本実施形態の消音器20Vの第2ベース板部材32Vは、第1ベース板部材31Vに比べて一回り小さい長方形になっている。また、
図9に示すように、第2ベース板部材32Vの下面に、四角形の1対の膜部材15,15がそれぞれ1対の円形貫通孔13,13を閉塞した状態に敷設されている。さらに、各膜部材15の四隅には第2ベース板部材32Vの下面から突出した複数の膜固定突起32Tが貫通していて、各膜部材15と第2ベース板部材32Vの下面との間が、例えば接着剤によって固定されている。そして、膜部材15のうち1対の円形貫通孔13,13から露出した部分が1対の送受波膜21A,21Bになっている。
【0043】
図8に示すように、第2ベース板部材32Vの上面には、1対の円形貫通孔13,13の間に干渉回避凹部19が陥没成形されている。ここで、1対の円形貫通孔13,13の中心点間を結ぶ中心連絡線L10(
図10参照)と、その中心連絡線L10の中央に直交しかつ膜部材15(詳細には、膜部材15の上面)と略同一平面に含まれる回動中心線L11(
図10及び
図11参照)とを描くと、干渉回避凹部19は、
図11に示すように、回動中心線L11を中心軸とした半円形底面19Aを有する円弧溝になっている。また、干渉回避凹部19のうち中心連絡線L10(
図10参照)の方向で対向した溝内側面19B,19Bは半円形底面19Aから離れるに従って互いの間隔が広がるように傾斜している。さらに、
図10に示すように、干渉回避凹部19のうち半円形底面19Aの最下部中央には、円形の異物排除孔19Cが貫通形成されている。
【0044】
第2ベース板部材32Vの上面のうち干渉回避凹部19の両側には、シャフト支持溝18,18が陥没成形されている。シャフト支持溝18,18は、干渉回避凹部19より幅及び深さが小さい円弧溝になっていて、回動中心線L11を中心軸とした半円形底面18Aを有し、干渉回避凹部19の両端面に連通している。また、シャフト支持溝18のうち中心連絡線L10の方向で対向した溝内側面18B,18Bは、
図11に示すように互いに平行になって対向している。
【0045】
図12に示すように、本実施形態のシーソー部材22Vの各端部脚部25には、上下方向における中間部に円形鍔部25Fが備えられ、端部脚部25の下端面の中心部から丸棒状の貫通シャフト25Tが突出している。また、
図11に示すように、円形鍔部25Fの下端面は、前記した回動中心線L11とは同一平面に含まれる配置になっている。そして、貫通シャフト25T,25Tが送受波膜21A,21Bの中心部に形成された中心孔21C,21C(
図11には、一方の中心孔21Cのみが示されている)に挿通されている。また、貫通シャフト25Tには、送受波膜21A,21Bより下方から膜固定ワッシャ25Wが挿通されて接着剤にて固定され、それら膜固定ワッシャ25Wと円形鍔部25Fとの間に送受波膜21A,21Bの中心部が挟まれている。
【0046】
図12に示すように、シーソー部材22Vの中央脚部23は、連絡部24の幅方向の中央から垂下された突片部23Aの先端両側面に1対の大径シャフト23B,23Bを突出して備え、それら大径シャフト23B,23Bの各先端面から回動中心シャフト23C,23Cを突出させた構造になっている。また、これら大径シャフト23B及び回動中心シャフト23Cは、前記した回動中心線L11を中心軸とした同心の丸棒状をなし、大径シャフト23Bより回動中心シャフト23Cが細くなっている。そして、突片部23Aと大径シャフト23B,23Bとからなる脚部本体23Hの先端部が干渉回避凹部19に受容される一方、1対の回動中心シャフト23C,23Cがシャフト支持溝18,18に受容されている。また、
図11に示すように、回動中心シャフト23C,23Cは、シャフト支持溝18,18の円形底面18A,18Aに摺接可能に当接して支持され、脚部本体23Hは、干渉回避凹部19の内面から浮いた状態になっている。これにより、シーソー部材22Vが回動中心線L11を中心にして回動する。
【0047】
なお、前記した異物排除孔19Cの直径は、脚部本体23Hと干渉回避凹部19の内面との間の隙間より大きくなっている。
【0048】
図8に示すように、第2ベース板部材32Vのうち4辺の各外縁部からは、複数ずつの係止片17が垂下している。また、各係止片17の先端部の外面側には、三角形の係止突起17Aが備えられている。そして、第1ベース板部材31Vに貫通形成された複数の第1係止スリット35Aに係止片17群が挿入され、
図13に示すように、各係止突起17Aが第1ベース板部材31Vの内面に係止することで第2ベース板部材32Vが第1ベース板部材31Vに一体に固定されている。
【0049】
図8に示すように、第1ベース板部材31Vの上面からは、第2ベース板部材32Vの円形貫通孔13,13の開口縁に向かって円環状突部33,33が突出している。そして、それら円環状突部33,33の内側が第1ベース板部材31Vの円形貫通孔13,13になっている。また、
図11に示すように、第2ベース板部材32Vが第1ベース板部材31Vに固定された状態で、円環状突部33,33の先端面は第2ベース板部材32Vにおける円形貫通孔13,13の開口縁との間で膜部材15,15を挟持している。さらに、第1ベース板部材31Vのうち円環状突部33,33の間には、中央矩形窓36が貫通形成され、第2ベース板部材32Vのうち干渉回避凹部19の裏面側の膨出突部19Eが中央矩形窓36内に突入している。
【0050】
図6に示すように、消音器20Vの外面は、外面カバー27Vによって覆われている。
図14に示すように、外面カバー27Vは、底面全体が開口しかつ上下方向に偏平の直方体構造をなし、その平面形状は、第2ベース板部材32Vより僅かに大きく、第1ベース板部材31Vより僅かに小さい長方形になっている。また、外面カバー27Vの底面の矩形開口27Aにおける短辺側の開口縁からは複数の係止片28Aが垂下される一方、長辺側の開口縁からは複数の突当片28Bが垂下されている。突当片28Bは、下端部が平坦面になった突片状をなし,係止片28Aは、突当片28Bより下方に長く延び、係止片17の係止突起17Aと同様に係止突起28Tを外面に備えている。そして、
図13に示すように、突当片28Bの先端面が第1ベース板部材31Vの上面に突き当てられ、係止片28Aが第1ベース板部材31Vに貫通形成された第2係止スリット35Bに挿通して係止突起28Tが第1ベース板部材31Vの内面に係止し、これにより、外面カバー27Vが第1ベース板部材31Vに固定されている。
【0051】
また、
図14に示すように、外面カバー27Vの内部上面には、シーソー部材22Vと同方向の延びた1対の天井リブ29L,29Lが備えられ、それら天井リブ29L,29Lの中央から1対の抜止突片29,29が垂下している。そして、それら抜止突片29,29が第2ベース板部材32Vにおけるシャフト支持溝18,18の上面開口を横切った状態で第2ベース板部材32Vの上面に突き当てられ(図示せず)、これにより回動中心シャフト23C,23Cがシャフト支持溝18,18に抜け止めされている。
【0052】
本実施形態の消音器20Vの構成に関する説明は以上である。本実施形態の消音器20Vでは、
図11に示すように、シーソー部材22Vの中央脚部23を受容した干渉回避凹部19の底部に異物排除孔19Cを設けたので、中央脚部23と干渉回避凹部19との間の隙間に粉塵等が侵入しても、ダクト10内の負圧を受けてそれら粉塵等が異物排除孔19Cからダクト10内へと排除され、粉塵が溜まることが防がれる。これにより、シーソー部材22Vがスムースに回動可能な状態に維持され、この点においても消音性能の低下が防がれ、耐久性が向上する。
【0053】
[
参考例1]
本発明の
参考例1に係る消音器20Zを備えたダクト10Zは、
図15に示されている。このダクト10Zには、1対の角筒状膨出部40,40がダクト10Zの軸方向に並べて設けられ、それら1対の角筒状膨出部40,40の対向面に1対の円形貫通孔41,41を同軸上に並ぶように貫通形成されている。そして、それら1対の円形貫通孔41,41を塞ぐように膜部材が張られて1対の送受波膜42A,42Bが形成され、それら1対の送受波膜42A,42Bの中心部の間を振動伝達部材49で連絡して消音器20Zが構成されている。本
参考例の消音器20Zによって、第1実施形態の消音器20と同様に、ダクト10Z内を伝達する騒音の音波に対してキャンセル波を送波して、騒音低減を図ることができる。
【0054】
[実施例1]
以下、本発明の実施品1,2
と、参考品1と、本発明の発明特定事項の一部を欠いた比較品1,2とを製作して行った消音効果の比較実験結果について述べる。実施品1は、
図16に示すように、全長L1が400[mm]で、内径D3がφ56[mm]のダクト10における長手方向の終端寄り位置に、第1実施形態と同様の消音器20を備えた構造になっている。その消音器20における送受波膜21A,21Bの直径(即ち、円形貫通孔13,13の直径)D1,D2は共にφ50[mm]で、それら送受波膜21A,21Bの中心点間の距離L3は60[mm]、ダクト10の終端から送受波膜21A,21Bの中心点間の中央位置までの距離L2が100[mm]になっている。また、送受波膜21A,21Bは、共に膜厚が0.3[mm]のEPDM(エチレンプロピレンゴム)で構成されている。
【0055】
実施品2は、消音器20における送受波膜21A,21Bの直径がD1=D2=φ35[mm]で、それら送受波膜21A,21Bの中心点間の距離がL3=50[mm]である点以外は、実施品1と同じ構成になっている。
参考品1は、送受波膜21A,21Bがダクト10の軸方向と直交する方向に並べられている点以外は、実施品1と同じ構成になっている。
【0056】
比較品1は、実施品1から消音器20を排除した単なる筒形構造になっている。即ち、比較品1は、内径φ56[mm]、全長400[mm]の単なる円筒状のダクトである。比較品2は、実施品1からシーソー部材22を排除した構造になっていて、その他の構成に関しては実施品1と同じである。
【0057】
(実験方法)
(1)実験方法は、以下の通りである。即ち、
図16に示すように、実施品1におけるダクト10の始端部の開口にスピーカー92を対向配置すると共に、ダクト10の始端部と終端部に始端マイク91Aと終端マイク91Bを配置する。そして、スピーカー92から出力する音の周波数を50〜800[Hz]の範囲で変更しなら、始端マイク91A及び終端マイク91Bにて拾音する。そして、周波数毎に終端マイク91Bによる拾音量から始端マイク91Aによる拾音量を差し引いた差分音量を求めて
図17及び
図19に示したグラフg1を作成する。また、同様の手順で、実施品1に代わりに実施品2を用いて
図18のグラフg2を作成し、
参考品1を用いて
図19のグラフg3を作成し、比較品1を用いて
図17〜
図19のグラフh1を作成し、さらに、比較品2を用いて
図17のグラフh2を作成する。
【0058】
(実験結果)
図17に示されているように、ダクト10に消音器20を備えたものでは(実施品1:グラフg1)、消音器20を備えないもの(比較品1:グラフh1)に比べて、130〜400[Hz]の周波数帯で消音効果を得られることが確認できた。このように130〜400[Hz]という広範囲の周波数帯で消音効果を確認することができたので、一般に吸気ダクトで使用されているヘルムホルツの共鳴室を備えた消音器に比べて広範囲の周波数帯での消音が求められている場合に本発明は有効である。また、ヘルムホルツの共鳴室では、略130[Hz]の騒音と共鳴させて消音効果を得るには、2000〜3000[cc]程度の容量が必要であるが、本発明に係る消音器20を備えた実施品1であれば、φ50[mm]の送受波膜21A,21Bを並べてシーソー部材22を設けた程度の大きさであるから、200[mm]×100[mm]×30[mm]の程度の容積に収まり、600[cc]の容量の空間に収まり、省スペース化が図られる。
【0059】
また、
図17に示されているように、送受波膜21A,21Bをシーソー部材22で連絡していないもの(比較品2:グラフh2)でも、一定の消音効果は得られるが、送受波膜21A,21Bをシーソー部材22で連絡したもの(実施品1:グラフg1)の方が、大きな消音効果を得られることも確認できた。
【0060】
また、ダクト10に消音器20を備えた実施品1の送受波膜21A,21B及びシーソー部材22における固有振動数を計算したところ略120[Hz]であり、通常の消音器でも現れ得る固有振動数の前後での消音効果の急変(乱高下)がグラフg1(
図17参照)上で確認された。しかしながら、実施品1とは送受波膜21A,21Bの径が異なる実施品2のグラフg2(
図18参照)では、消音効果の急変(乱高下)の周波数が300[Hz]前後に変わり、消音可能な周波数帯や消音効果も変わった。このことから、本発明によれば、騒音の周波数に応じて送受波膜21A,21Bの径を変更することで、狙った騒音を効率よく消音することが可能であると思われる。
【0061】
さらに、
図19に示されているように、送受波膜21A,21Bを音の進行方向に並べた場合の消音効果と、進行方向と直交する方向に並べた場合の消音効果とでは、110〜140[Hz]程度の低周波領域(
図19の「R」)で、送受波膜21A,21Bを音の進行方向に並べた場合の方が消音効果が高いことが確認できた。
【0062】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0063】
(1)前記第1、第2の実施形態では、送受波膜21A,21Bの間を連絡するシーソー部材22がダクト10の外部に配置されていたが、ダクト内に配置してもよい。但し、ダクト内ではシーソー部材が風圧によって回動し得るので、シーソー部材はダクト外に配置する方が好ましい。
【0064】
(2)前記第1
、第2の実施形態では、ダクト10に本発明に係る消音器20,20V,20Zのみが備えられていたが、従来からの公知の消音器と本発明に係る消音器とを組み合わせてダクト内に設けてもよい。
【0065】
(3)前記第1
、第2の実施形態では、消音器20等は車両用吸気ダクト10,10Zに備えられていたが、それ以外のダクトや、ダクト以外の部分に本発明に係る消音器を設けてもよい。例えば、車両のエンジンルームの内壁に1対の円形貫通孔を貫通形成してそこに送受波膜を張り、本発明に係る消音器としてもよい。
【0066】
(4)前記第1、第2の実施形態では、ダクト壁10Wにシーソー部材22が取り付けられていたが、シーソー部材は、ダクトに対して回動できれば、ダクト以外の部位に取り付けてもよい。
【0067】
(5)前記第1、第2の実施形態の消音器20,20Vの外面カバー27,27Vは、ビスや係止片でベース壁12に取り付けられていたが、接着剤や溶着によって外面カバーをベース壁に取り付けてもよい。
【0068】
(6)前記第2実施形態では、異物排除孔19Cが干渉回避凹部31Aの底面に設けられていたが、干渉回避凹部31Aの内側面に設けてもよい。
【0069】
(7)前記第1実施形態の消音器20にも、第2実施形態の消音器20Vと同様に干渉回避凹部31Aに異物排除孔19Cを設けてもよい。