(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信装置、たとえばセルラー電話では、ユーザに提供する機能の量が絶えず増加し続けているとともに、性能およびコンピューティング能力が向上し、その一方で装置の外径寸法は小さくなっている。このような装置において見られる重要な部品の1つは、「バラン(balun)」と言われるタイプの変換器である。一般的に、バランは、アンテナによって通常は送受信されるシングル・エンドまたは「不平衡」信号を、通常は無線通信装置の処理電子装置において見られる差動または「平衡」信号に変換するものである。
【0003】
バランのデザインにおいて重要な2つのパラメータは、挿入損失および同相信号除去(common mode rejection)である。なぜならば、それらによって変換器およびキャパシタの値選択およびレイアウトが決まるからである。その結果、バランは、他の性能因子(たとえば高調波除去)をほとんど無視してデザインされることが多い。それでもやはり、良好な高調波除去は、非常に有用であり、全体的な回路性能にとって重要である場合が多い。
【0004】
高調波除去性能を向上させるために、特定の高調波フィルタをバラン回路に加えることが多い。しかし、このような高調波フィルタを用いると通常、システムの挿入損失とともに製造コストが増加し、バランに必要な外径寸法が大きくなる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を以下の図面とともに説明する。図面では、同様の数字は同様の要素を示している。
以下の詳細な説明は、事実上典型にすぎず、本発明または本発明の用途および使用方法を限定することは意図されていない。
【0008】
さらに、前述した技術分野、背景、概要、または以下の詳細な説明に示すいかなる明示的または黙示的な理論にも拘束されることは意図されていない。また、
図1〜9は単に例示的なものであり、一定の比率で描かれてはいない場合があることにも注意されたい。
【0009】
図1〜
図9に電子組立品を例示する。電子組立品は、基板と、基板上に形成されたバラン変換器(balun transformer)であって、第1の巻線(winding)と第2の巻線とを備え、第1および第2の巻線はそれぞれ別個の第1および第2の端部を有するバラン変換器と、基板上に形成された反応回路部品(reaction circuit component)であって、第2の巻線の第1および第2の端部間に電気的に結合される反応回路部品と、を備える。
【0010】
一実施形態においては、バラン変換器の第2巻線の中間点は、前記回路をバランの基本周波数の第2高調波において共鳴させる反応部品(たとえば、インダクタ、キャパシタ、またはそれらの組み合わせ)を通して、グランドに接続(接地)されている。付加する反応部品の値は、既存のバランと組み合わせたときに、第2高調波周波数において出力信号中に共鳴(したがってノッチ)を発生させるようなものである。こうして第2高調波の抑制は著しく向上する。
【0011】
図1に、本発明の一実施形態による送信機システム20を例示する。システム20は、送信機電子装置(または送信機)22、変換器回路24、電力増幅器26、およびアンテナ28を備える。一実施形態においては、送信機22は、一般的に理解されているように半導体基板上に形成された集積回路の形態であり、第1および第2のポート(すなわち、入力および/または出力)30および32を備えている。これについては、より詳しく述べる。
図1に示すように、変換器回路24は、第1および第2の「不平衡」(またはシングル・エンド)ポート34および36と、第1および第2の「平衡」(または差動)ポート38および40とを備える。アンテナ28は、変換器回路の第1の不平衡ポート34に電力増幅器26を通して接続され、変換器回路24の第2の不平衡ポート36は、接地(または基準電圧)に接続されている。変換器回路24の第1および第2の平衡ポート38および40は、送信機22の第1および第2のポート30および32に、それぞれ接続されている。
【0012】
図2および3に、変換器回路24をより詳しく例示する。
図2を参照して、変換器回路はさらに、バラン42と、第1および第2の同調キャパシタ44および46と、反応(または共鳴)回路48とを備える。バラン42は、第1および第2の巻線(またはコイル)50および52を、変換器回路24の対応する第1および第2のサイド54および56上に備える。当業者であれば分かるように、変換器回路24(またはバラン42)の第1のサイド54は「不平衡」であり、一方で第2のサイド56は「平衡」である。第1の同調キャパシタ44は、第1の巻線50の対向する端部(具体的には示さず)に渡って、また第1および第2の不平衡ポート34および36の間に接続され、第2の同調キャパシタ46は、第2の巻線52の対向する端部に渡って、また第1および第2の平衡ポート38および40の間に接続されている。
【0013】
反応回路48は、共鳴キャパシタ58および共鳴インダクタ60(すなわち、2つの反応回路部品)を備え、これらはバラン42の第2の巻線52と基準端子(または基準電圧)62との間に直列に接続されている。反応回路48は、第2の巻線52の端部間に接続され、より詳細には、第2の巻線52の中間点(たとえば、中央タップ)64に接続されている。共鳴キャパシタ58および共鳴インダクタ60の電気的値(すなわち、容量およびインダクタンス)は、バラン42と、同調キャパシタ44および46と、反応回路48とが共同して、高調波の抑制されたバラン変換器を構成するように選択的に選ばれる。これについては、後により詳しく説明する。高調波の抑制されたバラン変換器は、基本周波数がたとえば2.450ギガヘルツ(GHz)である。
【0014】
図3に示すように、変換器回路24は基板66上に形成されている。基板66は、たとえばシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウムヒ素(GaAs)、またはそれらの組み合わせから主に作られる半導体基板である。基板66は、直径がたとえば約150、200、または300ミリメートル(mm)の半導体ウェハを、複数のダイ、または「ダイス」に分割したものであっても良い。基板66を、相補形金属酸化物半導体(CMOS)、集積受動デバイス・プロセス、または他の半導体プロセスとともに用いて、チップ上に回路24を形成することを図っても良い。基板66によって、エッチング、成膜、または他の技術を用いて変換器回路24を1つまたは複数の層内に形成する回路平面が定められる。
【0015】
第1および第2の巻線50および52は、たとえばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、またはそれらの任意の実用的な組み合わせ(たとえば、AlCu)から作られる導電性配線であり、その形成は、たとえば、熱もしくは電子ビーム蒸着、物理気相成長法(PVD)、CVD、原子層堆積(ALD)、または電気メッキを用いて行なわれる。同調キャパシタ44および46とともに共鳴キャパシタ58(
図2)は、一般的に理解されるように金属−絶縁体−金属(MIM)キャパシタであっても良く、絶縁体(たとえば、窒化ケイ素から作られる)の対向する側面上に2つの導電板を備える。
【0016】
図4は基板66の拡大図である。図示するように、種々の電子部品を基板66上に形成しても良く、たとえば薄膜(TF)抵抗器68、インダクタ70、およびMIMキャパシタ72である。当業者であれば分かるように、TF抵抗器68およびインダクタ70は少なくとも部分的に、
図1〜3に示す変換器回路24を形成するために用いる処理工程と同じ工程の間に形成しても良い。具体的には示さないが、基板66上に形成した複数の部品を結合して、高調波フィルタ、カプラ、スイッチ、および付加的な変換器が形成されるようにしても良い。
図3に示す電子部品を
図2の変換器回路24と組み合わせることで、マイクロ電子(もしくは電子)組立品、または集積受動デバイス(integrated passive device:IPD)74を形成しても良い。IPD74は、他の電子装置が基板66上に形成されていない個別部品であっても良い。あるいは、送信機22を基板66上に、IPD74とともに形成しても良い。
【0017】
最終的な処理工程(コンタクト形成(たとえば、ハンダ・ボール)と電子部品およびコンタクト形成を相互接続する導体(たとえば、ワイヤ・ボンド)との形成を含んでいても良い)の後に、基板66を切断して、別個のマイクロ電子ダイス(またはIPDもしくは半導体チップ)にしても良い。これらは、パッケージされて、種々の電子またはコンピューティング・システム内に組み込まれる。
図5に、IPD74を用い得る典型的な電力増幅器(PA)モジュール76を概略的に例示する。図示した実施形態においては、PAモジュール76は、電力増幅器(または電力集積回路)78、デカップリング回路80、マッチング/同調回路82、高調波フィルタ84、ダイプレクサ86、および制御回路88を備える。
【0018】
詳細には例示していないが、電力増幅器は、一般的に理解されるように「スマート」電力集積回路であっても良く、電力を管理するように構成された電力回路部品と、電力回路の動作を制御するか、調整するか、モニタするか、動作に影響を及ぼすか、または反応するように構成された少なくとも1つの追加部品とを備えていても良い。実際には、電力回路部品はパワー・トランジスタを含んでいても良く、少なくとも1つの追加部品は、限定することなく以下のものを含んでいても良い。センサ(たとえば、環境状態センサ、電磁気センサ、電気機械センサ、電気特性センサ、トランスデューサなど)、電力制御部品、アナログ部品、デジタル・ロジック部品、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0019】
図1および2を参照して、動作中に、差動または「平衡」信号が、送信機電子装置22によって生成され、回路24に第1および第2の平衡ポート38および40を通して送られる。差動信号が回路24の平衡サイド56(特にバラン42の第2の巻線52)を通過すると、バラン42の第1および第2の巻線50および52間で誘導結合が生じて、信号が回路24の不平衡サイド54上でシングル・エンドまたは「不平衡」信号に変換される。これは、一般的に理解されている通りである。シングル・エンド信号は、変換器回路24の第1の不平衡ポート34を通して送られ、アンテナ28に送られる前に、増幅器26によって増幅される。
【0020】
図6に、1つのキャパシタと1つのインダクタとを反応回路内に有する1つの実験的な実施形態の挿入損失(insertion loss:IL)を図式的に例示する。図示したように、変換器回路(または高調波の抑制されたバラン変換器)は、基本周波数2.450GHz(ピーク90に示す)において動作し、基本周波数の第2高調波4.900GHzにおいて挿入損失におけるノッチ92が生じた。
【0021】
挿入損失は、基本周波数において−0.537デシベル(dB)であり、第2高調波において−19.441dBであった。
図7に、本発明の別の実施形態による変換器回路94を例示する。変換器回路94は、
図2に示す変換器回路24の部品と同様の多くの部品を備えていても良い。しかし
図7に示す変換器回路94内の反応回路96は、共鳴キャパシタ98と2つの共鳴インダクタ100とを備えている。
【0022】
図8に、
図7に示す場合と同様の実験的な実施形態の挿入損失を図式的に例示する。
図6の実施形態と同様に、
図7の変換器回路は、基本周波数2.450GHz(ピーク102に示す)において動作し、基本周波数の第2高調波4.900GHzにおいてノッチ104が生じた。挿入損失は、基本周波数において−0.585デシベル(dB)であり、第2高調波において−18.447dBであった。また、第2のノッチ106(すなわち、第2のインダクタによって生じる)が約3.100GHzにおいて生じたが、基本周波数での回路の動作には影響しなかったことに注意されたい。
図9に、
図7および8の変換器回路に対する同相信号除去比(common mode rejection ratio:CMRR)を例示する。ピーク108に示すように、変換器回路に対するCMRRは27.754dBであり、したがって反応回路による悪影響はなかった。
【0023】
前述した電子組立品の優位性の1つは、反応回路内の反応部品によって、バラン変換器が、その基本周波数の第2高調波(または他の選択された高調波)において共鳴することである。その結果、第2高調波除去性能とともにデバイスの全体性能が、著しく向上する。別の優位性は、反応回路の反応部品を、従来の半導体処理工程を用いて形成しても良く、したがってデバイスの残りの部品と一体化しても良いことである。その結果、デバイスの外径寸法および製造コストに対する影響が最小限になる。
【0024】
また反応回路は、受信機システム(だけでなく送受信機システム)とともに用いても良いことを理解されたい。このようなシステムは、
図1に示す送信機システムと、送信機の代わりに受信機または送受信機を用いることを除いて、同様であっても良い。受信機を用いる実施形態においては、シングル・エンドまたは「不平衡」信号がアンテナによって受信され、変換器回路の不平衡ポートを通過する前に、増幅器によって増幅される。シングル・エンド信号が回路の不平衡サイドを通過すると、バランの第1および第2の巻線間で誘導結合が生じて、信号が回路の平衡サイド上で差動または「平衡」信号に変換される。これは、当該技術分野において一般的に理解されている通りである。差動信号は、変換器回路の平衡ポートを通って送信機に送られる。
【0025】
他の実施形態では、反応回路内に反応部品を、高調波抑制が第2高調波以外の高調波(たとえば第3または第4高調波)において行なわれるように電気的値が選択された状態で備えていても良い。反応回路は、単一のキャパシタまたはインダクタのみを用いて形成しても良い。たとえば、単一のインダクタは、所望の電気的効果に対する好適なインダクタンスとなるように長さが十分なワイヤ・ボンドという形を取っても良い。理解されるように、他の製造プロセスを用いて、前述した種々の部品を形成しても良い。前述したように、能動的な電気部品(たとえばトランジスタおよび他の集積回路部品)をシリコン基板上に、受動的な電子部品とともに形成しても良い。
【0026】
電子組立品が提供される。電子組立品は、基板と、基板上に形成され、第1の巻線と第2の巻線とを含むバラン変換器であって、各巻線は別個の第1および第2の端部を有するバラン変換器と、基板上に形成された反応回路部品であって、第2の巻線の第1および第2の端部間に電気的に結合される反応回路部品とを備える。バラン変換器および反応回路部品は共同して、基本周波数を有する高調波の抑制されたバラン変換器を構成しても良い。反応回路部品を、高調波の抑制されたバラン変換器が基本周波数の選択された高調波において共鳴するように調整しても良い。
【0027】
選択された高調波周波数は、基本周波数の第2高調波であっても良い。反応回路部品はキャパシタを含んでいても良い。反応回路部品は第2の巻線の中間点に電気的に結合されていても良い。
【0028】
電子組立品はまた、バラン変換器の第1の巻線の第1の端部に電気的に結合されるアンテナを備えていても良い。電子組立品はまた、バラン変換器の第1の巻線の第2の端部に電気的に結合される接地端子を備えていても良い。
【0029】
バラン変換器の第2の巻線は中央タップを備えていても良く、反応回路部品は中央タップを通して第2の巻線に電気的に結合される。電子組立品はまた、バラン変換器の第1の巻線に電気的に結合される増幅器を備えていても良い。共鳴回路部品はまた、インダクタを含んでいても良い。基板は、シリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素、またはそれらの組み合わせを含んでいても良い。
【0030】
電子組立品が提供される。電子組立品は、基板と、基板上に形成され、第1の巻線と第2の巻線とを含むバラン変換器であって、第1および第2の巻線はそれぞれ別個の第1および第2の端部を有するバラン変換器と、基板上に形成されたアンテナであって、バラン変換器の第1の巻線の第1の端部に電気的に結合されるアンテナと、基板上の接地端子であって、バラン変換器の第1の巻線の第2の端部に電気的に結合される接地端子と、バラン変換器の第1の巻線の第1の端部に電気的に結合される増幅器と、基板上に形成された反応回路部品であって、第2の巻線の第1および第2の端部間に電気的に結合される反応回路部品とを備える。バラン変換器および反応回路部品は共同して、基本周波数を有する高調波の抑制されたバラン変換器を構成する。反応回路部品は、高調波の抑制されたバラン変換器が基本周波数の選択された高調波において共鳴するように調整される。
【0031】
反応回路部品はキャパシタを含んでいても良い。選択された高調波は基本周波数の第2高調波であっても良い。
電子組立品はまた、基板上の送信機であって、バラン変換器の第2の巻線の第1および第2の端部に電気的に結合される送信機を備えていても良い。バラン変換器の第2の巻線は、中央タップを備えていても良く、反応回路部品は中央タップを通して第2の巻線に電気的に結合される。電子組立品はまた、反応回路部品に電気的に結合される第2の接地端子を備えていても良い。
【0032】
電子組立品を形成するための方法が提供される。第1の巻線を基板上に形成する。第1の巻線は第1および第2の端部を有している。第2の巻線を基板上に形成する。第2の巻線は第1および第2の端部を有している。第1および第2の巻線は共同して、バラン変換器を構成する。反応回路部品を基板上に形成する。反応回路部品を、第2の巻線の第1および第2の端部間に電気的に結合する。反応回路部品を、バラン変換器および反応回路部品が共同して、基本周波数を有する高調波の抑制されたバラン変換器であって基本周波数の選択された高調波において共鳴するバラン変換器を構成するように、調整する。
【0033】
反応回路部品はキャパシタを含んでいても良い。選択された高調波周波数は基本周波数の第2高調波であっても良い。本方法はまた、基板上にアンテナを形成することを含んでいても良い。アンテナを第1の巻線の第1の端部に電気的に結合しても良い。第2の巻線は中央タップを備えていても良く、反応回路部品を、中央タップを通して第2の巻線に電気的に結合しても良い。
【0034】
前述した本発明の詳細な説明において少なくとも1つの典型的な実施形態を示してきたが、膨大な数の変形が存在することを理解されたい。また、典型的な実施形態は単に例にすぎず、本発明の範囲、適用性、または構成を限定することは決して意図されていないことを理解されたい。むしろ、前述の詳細な説明によって、当業者には、本発明の典型的な実施形態を実現するための便利なロード・マップが与えられ、添付の請求項およびそれらの合法的な均等物において述べられるような本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変形を、典型的な実施形態において説明した要素の機能および配置において行なっても良いことが理解される。