【実施例】
【0038】
本発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、本発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。本発明の範囲は請求の範囲によってのみ定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一または相当部分を示す。
【0039】
以下、本発明の第1実施例が図面にしたがって説明される。
図1〜
図6Bは実施例1を示す。なお、
図1、
図2および
図6A〜Bは右足用の靴底が図示されており、
図3〜
図5は左足用の靴底が図示されている。
【0040】
図1および
図2に示すように、靴底はアウトソール1およびミッドソール2を備えている。なお、
図1および
図2においてはアウトソール1の接地面に形成された微細な溝(いわゆる意匠)は、省略されている。
【0041】
図3Aおよび
図3Bに示すように、靴底は前足部F、後足部R及びこれらの間のアーチ部Mを有する。
図3Aに示すように、アウトソール1は例えばゴムの発泡体または非発泡体で形成され、路面9と接する接地面1sを有している。なお、
図3Aにおいて、アウトソール1はミッドソール2に貼り合わされる前の状態が描かれている。
【0042】
ミッドソール2は、例えばEVAなどの樹脂の発泡体で形成され、
図3Aに示すように、アウトソール1の上に配置され、着地の衝撃を緩和するものである。そのため、ミッドソール2はアウトソール1よりも厚く形成されている。
図1、
図2および
図4Aにおいて、ミッドソール2の下面2u(底面)には、複数個のパーツに分離されたアウトソール1が設けられている。
【0043】
図4Aおよび
図4Bに示すように、アウトソール1は可動部10を有する。前記可動部10は前記アーチ部Mに設けられ、
図4Aのように、前記アーチ部Mが無負荷の状態では接地せず、かつ、
図4Aの前記無負荷の状態から前記アーチ部Mに歩行時の負荷がかかると、
図4Bのように、下方に向かって変位して接地する。
【0044】
図4Aに示すように、前記可動部10の接地面1sは前方に向かうに従い路面9からの距離が大きい傾斜面11を有する。すなわち、前記接地面1sは前記路面9に対し所定の傾斜角をなす。前記可動部10の後端10rには前記アウトソール1が薄肉化されて接地しない薄肉部1aが連なって配置されている。なお、前記アウトソール1において前記薄肉部1aは接地面1sに比べ厚さが薄く、かつ、路面9に接地しない。
【0045】
図4Bに示すように、前記アーチ部Mにフットフラット時の負荷がかかると、前記可動部10が下方に変位して、前記可動部10の傾斜面11が路面9に接地する。これにより、
図5Aのミッドソール2の上面2sがアーチ部Mにおいて下方に沈下し、そのため、前方へのスムースな重心の移動が実現される。
【0046】
なお、薄肉部1aに代えてアウトソール1が欠損した露出部Maとしてもよい。
この場合、アウトソール1のパーツの数が増える。
【0047】
図1に示すように、前記アーチ部Mにおいて前記アウトソール1は前部Mfの少なくとも一部が欠損して前記前部Mfに前記露出部Maが設けられ、かつ、前記可動部10が前記アーチ部Mの少なくとも後部Mrに設けられている。前記露出部Maは前記フットフラット時を含む歩行時の全ての状態において路面9(
図4A)に接地しない。そのため、前記露出部Maの上方のミッドソール2の上面2sは前記可動部10のそれよりも更に下方に沈下し易い。したがって、前方への重心の移動が更に容易である。
【0048】
図1に明示するように、本実施例の場合、前記可動部10は足の内側INにのみ設けられ、かつ、足の外側OUTには設けられていない。つまり、アーチ部Mの外側はアウトソール1が設けられていない露出部Maとなっている。そのため、重心がアーチ部Mにおいて外側OUTに移動し易いだろう。
図1に示すように、本実施例の場合、前記露出部Maは前記可動部10の前方および前記アーチ部Mの外側に設けられている。
【0049】
なお、一般に、前記アウトソール1は例えばゴムの発泡体や非発泡体などの耐摩耗性の高い素材が採用され、一方、前記ミッドソール2は例えばEVAのような樹脂の発泡体などが採用される。
【0050】
本実施例の場合、
図2に示すように、ミッドソール2の下面2uには強化部材3が付着されている。前記強化部材3は前記ミッドソール2およびアウトソール1のヤング率よりも大きいヤング率を有しており、
図1に示すように、前記アーチ部Mにおいてミッドソール2の下面2uと前記可動部10の上面10sとの間に挟まれている。
前記強化部材3は前記アーチ部Mにおいて少なくとも前記足の内側INに配置されていてもよい。
【0051】
なお、
図1、
図2、
図9および
図10において、前記強化部材3の部位には、網点が施されている。
【0052】
つぎに、前記靴底を有する靴を着用した場合の前記靴底の挙動について説明する。
【0053】
一方の足のみが接地し、かつ、他方の足が接地していない状態から同他方の足の後足部Rが接地し、前足部Fが接地した瞬間までの間においては、当該他方の足のアーチ部Mは無負荷の状態である。
この無負荷の状態においては、
図3A、
図5Bおよび
図6Bのように、後足部Rは路面9に接地し、一方、
図6Aおよび
図4Aに示すように、可動部10を含むアーチ部Mは路面9に接地していない。
この際、
図15Aの踵における荷重W
1が大きいだろう。
【0054】
つづいて、前記他方の足の後足部Rが接地し、かつ、前足部Fが接地し、重心が
図15AのベクトルW
2からベクトルW
5に移行するフットフラットの前半期には、まず、アーチ部Mの内側の後部の負荷が大きくなるだろう。
【0055】
この際、前記負荷の移動に伴い、
図4Aの可動部10が下方に向かって変位するように接地すると共に、
図6Aのミッドソール2の上面2sが下方に沈下する。
【0056】
更に、フットフラットの後半期に入ると、重心は
図15AのベクトルW
4、W
5で表されるように、前方に移動する。
この際、
図1のアーチ部Mの後部Mrの外側OUTや前部Mfにはアウトソールを設けていないので、各々、後部Mrの内側INに比べミッドソール2の上面が沈下し易い。したがって、アーチ部Mから小趾球への重心のスムースな移動が期待できる。
【0057】
図6C〜
図8は実施例2を示す。なお、本実施例2では右足用の靴底が図示されている。
図8に明示するように、本実施例2においては、前記強化部材3が靴底のアーチ部Mに設けられていない。
【0058】
一方、本実施例2においては、
図7に示すように、可動部10がアーチ部Mの内側の前部Mfおよび後部Mrに設けられていると共に、アーチ部Mの外側の後部Mrに設けられている。これらの3つの可動部10、10、10は互いに前後又は内外に分離して配置されている。
【0059】
前記アーチ部Mの後部Mrの可動部10には、その後端MErに薄肉部1aが連なっており、一方、アーチ部Mの前部Mfの可動部10には、その前端MEfに薄肉部1aが連なっている。
これにより、各可動部10が変位し易い。
【0060】
本実施例において、前記可動部10は前記アーチ部Mにおける足の内側INおよび外側OUTに配置され、前記アーチ部Mにおける足の内側INおよび外側OUTにおいて前記アウトソール1が欠損している露出部Maを更に備える。
【0061】
前記内外の可動部10,10は互いに内外に分離されており、前記内外の可動部10,10の間には露出部Maが設けられている。一方、前記前後の可動部10,10は互いに前後に分離されており、前記前後の可動部10,10の間には露出部Maが設けられている。
【0062】
図6Cに示すように、前記外側OUTの可動部10よりも前記内側INの可動部10の方が路面9からの距離が小さい。そのため、前記外側OUTの可動部10よりも前記内側INの可動部10の方が接地し易い。
なお、本実施例においても可動部10の数は1個以上であればよい。
【0063】
図9および
図10は実施例3を示す。
図10に明示するように、本実施例の強化部材3は、アーチ部Mの一部を覆っており、かつ、アーチ部Mの全域を覆っていない。
【0064】
前記強化部材3は前記アーチ部Mの内側INにおいて後端から前端に向かって延び、かつ、ミッドソール2の下面2uに付着された内側部31を有し、かつ、前記アーチ部Mの外側OUTにおいて少なくとも前記アーチ部Mの前半部M2を覆っていない。より詳しくは、前記強化部材3は前記アーチ部Mにおいて足の外側OUTを覆うことなく前記アーチ部Mの内側INの全長にわたって設けられている。
すなわち、前記アーチ部Mの外側OUTにおいて、前記ミッドソール2の下面2uは露出している。
【0065】
前記強化部材3は前記アーチ部Mの内側から前足の爪先に向かって延び、かつ、アーチ部Mの内側から後足の内外に向かって延びる。更に、前記強化部材3は前記アーチ部Mの内側から前記外側の後半部M1の一部を覆う。
【0066】
強化部材3で強化されたアーチ部Mの内側においてミッドソール2の上面は沈下しにくく、一方、アーチ部Mの外側の前半部M2において沈下し易い。したがって、中足から小趾球に向かう重心の移動がスムースであろう。
【0067】
図9の前記可動部10はアーチ部Mの内側の後部Mrにおいて前記強化部材3の底面に付着されている。すなわち、前記実施例1と同様に、前記アーチ部Mにおいて、前記アウトソール1は前記強化部材3の下面に付着され、アーチ部Mの前記内側INの前部Mfを覆う事なく前記内側INの後半部M1(
図11B)を覆う部分を有する。
【0068】
本実施例の場合、前記アーチ部Mの外側OUTよりも前記アーチ部Mの内側INの方が前後方向Yの長さが小さい。すなわち、
図1の例において設けられていた前足部Fの外側OUTの後端の部位のアウトソール1が
図9のように切欠されて、外側OUTのアーチ部Mが前後に長くなっている。
【0069】
換言すれば、前足部Fのアウトソール1の後端は、内側INよりも外側OUTの方が前方に配置されている。すなわち、無負荷の状態で接地しないアーチ部Mの面積は、内側よりも外側の方が大きい。
【0070】
そのため、フットフラット時にアーチ部Mの可動部10が接地した後に、重心は内側INの後部Mrから外側OUTの前部Mfないし小趾球に向かって移動し易いだろう。
また、アウトソール1の欠損による軽量化が図られるであろう。
【0071】
なお、本実施例および
図1の実施例において強化部材3を設けなくてもよいし、逆に
図7の実施例において強化部材3が設けられてもよい。
【0072】
図11A〜
図11Dは実施例4を示す。
本実施例ではミッドソール2のアーチ部Mのヤング率つまり硬度と厚さが前後および内外について異なっていることで、ミッドソール2の上面2sの沈下し易さが前後および内外において異なっている。
【0073】
前記ミッドソール2の前記中足部Mは互いに硬度の異なる下層21とその上の上層22とを包含する。前記2つの層の一方が高硬度の第1層21で、前記2つの層の他方が前記第1層21よりも低硬度の第2層22である。
【0074】
すなわち、
図11Cおよび
図11Dに示すように、前記中足部Mにおいて、前記ミッドソール1は高硬度の前記第1層21の上面21sの上に前記第1層21よりも低硬度の前記第2層22が配置されている。本実施例の場合、前記第1層21の前記上面21sが前記中足部Mの内側INから外側OUTに向かって下方に傾いている。また、
図11Aおよび
図11Bに示すように、前記第1層21の前記上面21sが前記中足部Mの後半部M1から前半部M2に向かって下方に傾いている。
【0075】
ミッドソール2の前記樹脂の発泡体の硬度は、実用上、JIS K 7312に規定される硬度(以下、「C硬度」という。)で0度よりも大きく75度以下が好ましいだろう。
前記ミッドソール2の発泡体の硬度差は、C硬度で2度以上が好ましく、2度〜30度程度がより好ましく、5度〜15度程度が特に好ましいだろう。硬度差が小さいと重心の移動し易さの効果が小さく、硬度差が大きすぎると前記実用的な硬度範囲から外れ易くなる。
【0076】
かかる観点から、前記第1層21の硬度は、C硬度で55度〜65度程度が更に好ましく、58度〜63度程度が最も好ましいだろう。
一方、第2層22の発泡体の硬度は、C硬度で、50度〜60度が更に好ましく、53度〜58度程度が最も好ましいだろう。
【0077】
こうして、
図11Bの前記中足部Mの内側の後半領域α1、内側の前半領域α2、
図11Aの前記中足部Mの外側の後半領域α3および外側の前半領域α4における、前記高硬度層21の体積を低硬度層22の体積で除算した値V1,V2,V3およびV4が下記の(1)及び(2)式を満たすように設定されている。
V1>V2>V4 …(1)
V1>V3>V4 …(2)
【0078】
この場合、前記アーチ部つまり中足部Mにおける前記ミッドソール2の上面2sの沈下しにくさが、前記アーチ部Mの後端から前端に向かうに従い小さい。
より詳しくは、前記アーチ部Mにおける前記ミッドソール2の上面2sの沈下しにくさは下記の(3)および(4)式を満たす。
内側の後半>外側の後半>外側の前半 …(3)
内側の後半>内側の前半>外側の前半 …(4)
そのため、前記重心のスムースな移動が期待できる。
【0079】
前記領域α1〜α4は以下のように定義付けられてもよい。
図11Cおよび
図11Dのミッドソール2の内外の縁の巻上部分は、前記沈下しにくさに寄与する度合が前記ミッドソール2の内外の中央部分に比べ小さい。したがって、前記巻上部分を除く中央部分のみが4つの領域α1〜α4に設定されてもよい。
【0080】
前記(3)、(4)式等で示されるアーチ部Mの上面2sの沈下しにくさは、前述の他の実施例および後述の他の実施例においても備えているのが好ましい。
すなわち、前記アーチ部Mにおける前記ミッドソール2の上面2sの沈下しにくさが上記の(3)および(4)式となるような制御手段を備えているのが好ましい。
かかる制御手段は、
図1の前述の可動部10、強化部材3、ミッドソール2の硬度差、あるいは、アーチ部Mの内外の長さの相違により得られる。
【0081】
前記第1層21と前記第2層22とは、たとえば、互いに硬度の異なる一次成型された第1層21と第2層22とが二次成型されて互いに溶着されて形成されたり、あるいは、互いに接着されて形成されたりしてもよい。この場合、第1層21と第2層22との界面は明確で前記界面は第1層21の上面21sとなる。
【0082】
一方、前記第1層21と第2層22との間に明確な界面がなくてもよい。
たとえば、第1層21と第2層22とを同時に一次成型する場合、前記明確な界面は表れにくいだろう。
【0083】
かかるミッドソール1の製造方法としては、金型において第1層21の下側に対応する箇所と第2層22の上側に対応する箇所とに各々溶解樹脂の導入口を設け、2つの導入口から同時に溶解樹脂を同金型内に供給することにより形成されてもよい。
あるいは、第1層21を構成する溶解樹脂と第2層22を構成する溶解樹脂とを上下に積み重ね圧縮成型してもよい。
【0084】
第1層21と第2層22との間に明確な界面がない場合、たとえば、明確な硬度差を有する面がない場合、前記第1層21の上面21sは、第1層21および第2層22のミッドソール1の硬度範囲のうち中間の硬度を持つ面に設定されてもよい。
【0085】
図12A〜
図12Cは実施例5を示す。
これらの図に示されるように、前記アーチ部Mの外側OUTよりも前記アーチ部Mの内側INの方が前後方向Yの長さが小さい。
【0086】
本実施例の場合、例えば5個の可動部10、10Aを有する。
図12Aの前記外側の可動部10、10、10Aよりも
図12Bの前記内側の可動部10、10の方が路面9からの距離が小さい。
【0087】
前記可動部10の接地面1sは前方に向かうに従い路面9からの距離が大きい傾斜面11を有する。一方、外側の最前端の可動部10Aの接地面1sは後方に向かうに従い路面9からの距離が大きい傾斜面11を有する。
【0088】
前記制御手段は
図13A〜
図13Cに示される棒状のパーツ40で形成されてもよい。この棒状のパーツ40はミッドソール2よりも硬い樹脂素材で形成されており、ミッドソール2に埋設されている。一般に、内側のパーツ40の数が外側のパーツ40の数よりも大きい。
【0089】
また、前記制御手段は
図14Aおよび
図14Bの破線で示される空隙41で構成されてもよい。空隙41はミッドソール2の内側INの方がミッドソール2の外側OUTよりも小さい。
【0090】
また、前記制御手段は
図14Cの強化部材3で構成されてもよい。この強化部材3は前方に行くに従い下方に傾斜しており、ミッドソール2における厚さが前方に行くに従い厚い。
【0091】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。
たとえば、ミッドソールは樹脂の発泡体に凹所などを設けて樹脂の発泡体以外の緩衝要素が充填されていてもよい。
なお、本発明のミッドソールについての技術思想を中敷について採用することも可能である。
したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる本発明の範囲内のものと解釈される。