特許第5656342号(P5656342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5656342トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン誘導体を有する歯科用コンポジット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5656342
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン誘導体を有する歯科用コンポジット
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/09 20060101AFI20141225BHJP
   A61K 6/093 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   A61K6/09
   A61K6/093
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2007-328961(P2007-328961)
(22)【出願日】2007年12月20日
(65)【公開番号】特開2008-156356(P2008-156356A)
(43)【公開日】2008年7月10日
【審査請求日】2010年6月25日
(31)【優先権主張番号】102006060983.2
(32)【優先日】2006年12月20日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399011900
【氏名又は名称】ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ウッターオット
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ルッパート
(72)【発明者】
【氏名】マティアス シャウプ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーネ ディーフェンバッハ
(72)【発明者】
【氏名】クルト ライシュル
(72)【発明者】
【氏名】アルフレート ホーマン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル エック
(72)【発明者】
【氏名】ネリ シェーンホーフ
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−312634(JP,A)
【文献】 特開2005−232174(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第10001228(DE,A1)
【文献】 特開昭63−035551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00−6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー、架橋剤、充填剤、開始剤を含有する、細胞毒性の潜在性が低下された歯科用コンポジット組成物を製造するための、TCD−ウレタン構造を有するジアクリレート官能性モノマーのTCD−DI−HEAの使用において、50%を上廻る架橋剤含量が、前記TCD−ウレタン構造を有するジアクリレート官能性モノマーのTCD−DI−HEAによって形成され、硬化された組成物の細胞毒性がISO 10993−5およびDIN EN ISO 7405による標準規準値に相応して”細胞毒性の潜在性なし”の評価を有する、前記使用。
【請求項2】
前記組成物がビス−GMA不含である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
モノマー、架橋剤、充填剤、開始剤を含有する、細胞毒性の潜在性が低下された歯科用コンポジット組成物の製造方法において、前記架橋剤含量に、TCD−ウレタン構造を有するジアクリレート官能性モノマーのTCD−DI−HEAを添加し、50%を上廻る架橋剤含量が、前記TCDウレタン構造を有するジアクリレート官能性モノマーのTCD−DI−HEAによって形成され、硬化された組成物の細胞毒性がISO 10993−5およびDIN EN ISO 7405による標準規準値に相応して”細胞毒性の潜在性なし”の評価を有することを特徴とする、歯科用コンポジット組成物の製造方法。
【請求項4】
前記組成物がビス−GMA不含である、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリシクロ[5.2.1.02.6]デカンのウレタン基含有アクリル酸エステルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術
歯科用充填材料のための収縮の少ない重合性モノマーとしてビスフェノールA−(メタ)アクリレートモノマーが実証されている。収縮の少ない重合性ビスフェノールA−(メタ)アクリレートモノマーに対する代替物には、TCDモノマーが欧州特許第0254185号明細書(Bayer AG社)中に記載された。ビスフェノールA骨格のようにTCD基は、剛性を有し、さらにこの剛性は、収縮の少ない重合挙動を前提とする。また、1,3−ビス(1−イソシアナト−1−メチルエチル)−ベンゼンのウレタン誘導体は、欧州特許第0934926号明細書中に記載されているように、移動度の立体的制限によって性質の点でビス−GMAに極めて類似し、このビス−GMAの代わりに歯科用コンポジットに使用されることができる。
【0003】
更に、勿論、具体的には、メタクリレートの使用のみが記載される。
【0004】
所謂、シロラン(Silorane)は、シロキサン単位に対するエポキシド官能価の組合せであり、陽イオン架橋機構により開環重合によって収縮が少ないように重合されることができる。この新規のモノマーの僅かな収縮率および硬化された歯科用コンポジット中でのとにかく危険なエポキシドの毒物学的非懸念性については、ドイツ連邦共和国特許第10001228号明細書および欧州特許第1117368号明細書中に記載された。
【特許文献1】欧州特許第0254185号明細書(Bayer AG社)
【特許文献2】欧州特許第0934926号明細書
【特許文献3】ドイツ連邦共和国特許第10001228号明細書
【特許文献4】欧州特許第1117368号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
出発状況
メタクリレートと比較してよりいっそう高い、アクリレートモノマーの反応性は、公知であるが、しかし、生体組織に対する刺激作用がメタクリレートの刺激作用より明らかに高いことも公知であり、したがって歯科用材料においては、主にメタクリレートとのモノマー混合物が、場合によってはアクリレートの僅かな添加物と共に使用される。ポリエーテルモノマー、ポリエステルモノマーまたは脂肪族モノマーと比較してウレタン(メタ)アクリレートモノマーの上昇された反応性も同様に公知である。それに応じて、アクリレートモノマーの使用にも拘わらず有利な性質を有する歯科用コンポジットを提供するという課題が課されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は、請求項1の記載により解決された。好ましい実施態様は、請求項2または請求項3に記載されている。
【0007】
発明の詳細な説明
本発明は、
A 50%を上廻る架橋剤含量が一般式
【化1】
〔式中、
Aは、2〜20個の炭素原子を有する、場合によっては1〜3個の酸素橋を含有する、直鎖状または分枝鎖状の脂肪族基、6〜24個の炭素原子を有する芳香族基、7〜26個の炭素原子を有する芳香脂肪族基または6〜26個の炭素原子を有する環状脂肪族基であり、
rは、Aから出発する鎖の数を表わし、かつ2〜6の数を意味し、
1およびR2は、同一であり、かつ水素であるか、またはR1およびR2は、異なり、かつ水素およびメチルを意味し、
nは、Aから出発するそれぞれの鎖とは無関係に0〜5の数を意味し、
Xは、基
【化2】
を表わし、上記式中、
4およびR5は、同一かまたは異なり、水素、ハロゲン、低級アルコキシ、低級アルキルまたはトリフルオロメチルを意味し、
Zは、場合によっては1〜3個の酸素橋を含有することができ、かつ場合によっては1〜4個の付加的な(メタ)アクリレート基によって置換されていてよい、炭素原子数3〜15の2価の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素基を意味し、
2、R3は、専ら水素である〕で示されるTCD−ウレタン構造を有するアクリレートモノマーによって形成されており、
および
B 硬化されたコンポジットの細胞毒性がISO 10993−5およびDIN EN ISO 7405による標準規準値に相応して"細胞毒性の潜在性なし"の評価を有するという特殊性を有することによって特徴付けられる、モノマー、架橋剤、充填剤、開始剤を含有する歯科用コンポジットに関する。
【0008】
本発明による組成物の利点
A ウレタン基含有アクリル酸エステルの高い反応性は、TCD骨格の剛性の構造と組み合わされたものであり、したがってビス−GMAに対する代替物として歯科用コンポジット中に使用されることができる。この場合、反応性が上昇された場合には、よりいっそう高い変換率が達成され、変換率と体積の目減りとの公知の関連にも拘わらず、収縮の少ないコンポジットが可能になる。この場合には、予想外にも有利に毒物学的試験は、5%を上廻るアクリレート含量を生じる(実施例/構成)。
【0009】
B 毒物学的試験は、重合されたコンポジットの意外にも高い生物学的認容性を証明する。
【0010】
C よりいっそう高い重合度は、コンポジットの機械的性質にとって好ましいが、しかし、アクリレートモノマーは、不利な毒物学的性質のために不適当な架橋剤と見なされた。硬化後、意外なことに、極めて有利な生体認容性が検出された。この歯科用コンポジットは、直接的および間接的に歯科学に使用される。
【実施例】
【0011】
実施例:
コンポジットペースト(本発明による)
配合は、遊星歯車装置を備えた混練機中で行なわれる。作業は、黄色光の下で実施することができる。
【0012】
モノマー、開始剤および助剤を装入し(場合によっては既に予め溶解された)、2500rpmで10分間、均一化する。
【0013】
充填剤を計量し、量を減少させながら数回に分けて添加する([%]:35/25/20/10/5/5)。全ての添加後、混練可能なペーストが生じるまで再度均一化する。強く加熱した場合には、ペーストは、直ぐ次の混合プロセス前に若干冷却する。なお存在する充填剤残基の場合には、混合プロセスは、さらに1回繰り返される。
【0014】
毒物学的試験(XXT染料の形成による試験管内での細胞毒性試験)
XTT着色試験を用いて、細胞の分裂能および生存率を同時に比色測定により評価する。この試験は、活性のミトコンドリアのデヒドロゲナーゼ活性のためにオレンジ色の水溶性ホルマザン染料を形成する、黄色のテトラゾリウム塩XTT(ナトリウム−3′−(1−フェニルアミノカルボニル)−3,4−テトラゾリウム)−ビス(4−メトキシ−6−ニトロ)ベンゼンスルホン酸水和物の遊離に基づく。
【0015】
細胞毒性の試験は、ISO 10993−5およびDIN EN ISO 7405による標準規準値に相応して行なわれた。そのために、滅菌されていない物質試料を攪拌しながら37±1℃で72±2時間、抽出した(抽出剤:Dubecco's Modified Eagle Medium (DMEM)に胎児の子牛血清10%(FCS)を添加した)。表面積/体積の比は、6cm2/mlであった。引続き、抽出液を滅菌濾過した。
【0016】
細胞培養のための正の対照および負の対照は、確証のための基準として同時に試験に使用された。負の対照を1g/5ml媒体の質量/体積の比で抽出した。正の対照を培地(DMEM 10%FCS)の6cm2/mlの質量/体積の比で37±1℃で72±2時間、抽出した。
負の対照:ポリエチレン(Greiner Cellstart, 商品No.188271, LOT 04080197)。
正の対照:粉不含の工業用ラテックス手袋(Semperit GmbH, LOT 67910077)。
【0017】
試験をL929細胞(ATCC No. CCL1, NCTCクローン929(マウスの結合組織), 菌株L(DSMZ)のクローン)試験のために、37±1℃でFCS10%(Seromed)および二酸化炭素5.0%を有するDMEM(PAA)において75cm2の培養瓶(Greiner)中の培地を使用した。
【0018】
この細胞培養物をCa−Mg不含のPBSを用いて約3分間、処理する。酵素反応をDMEM 10% FCSで停止させ、2〜104個の細胞/mlの濃度を有する個々の細胞懸濁液を製造する。この懸濁液100μlをスポットプレートのウェル中に導入する。この細胞培養物を37±1℃で24±2時間、CO25.0%および空気95%で恒温保持した。引続き、抽出液の希釈をDMEM 10% FCSで他のスポットプレート中で濃度100体積%、80体積%、50体積%、30体積%、20体積%、10体積%に調製する。更に、先に付着した細胞の細胞培地を除去し、試験用抽出液の希釈液100μlにそれぞれ3つの試料中の対照100μl(濃度100%)を添加する。培養物を37±1℃で24±2時間、CO25.0%および空気95%で恒温保持した。
【0019】
XTT着色を恒温保持時間の終結の1〜2時間前に開始する。そのために、XTT着色混合物50μl(Roeche Diagnostics)をそれぞれの細胞培養物に添加する。前記混合物は、XTT標識試薬(5ml)と電子カップリング試薬(0.1ml)とからなる。恒温保持時間(1〜2時間)の終結後、細胞培養物を板状検出器(Biotek Systems)中で比色分析のために添加する。この場合、490nmでの吸収を記録し、基準波長630nmと比較して評価する。
【0020】
生存細胞の数の減少は、それぞれの細胞培養物中のミトコンドリアのデヒドロゲナーゼの活性の減少に相当する。それによって、オレンジ色のホルマザン染料の形成は、直接の相関関係で減少され、吸光度として定量的に示される。
【0021】
【数1】
A(試料、490nm)試験抽出液での吸収、
A(基準、490nm)空の培地の吸収(細胞なし)、
A(対照、490nm)抽出液なしの対照培養物での吸収。
【0022】
結果をそれぞれ3つの試料の定量からの標準偏差で算術平均として測定した。70%未満のデヒドロゲナーゼ活性を明らかな細胞毒性として評価する。
【0023】
結果の論議
比較可能な分子量、極性および官能化度を有するメタクリレートモノマーと比較してアクリレートの著しく顕著な細胞毒性は、公知である。前記の理由から、歯科用材料において有利には種々のメタクリレートの純粋な混合物または僅かな含量にすぎないアクリレートモノマーが使用される。
【0024】
また、前記の公知の事実に一致して、種々のアクリレートモノマー(Sartomer 368および295)の含量を有する固有の試験は、前記の添加剤なしのメタクリレートからなる比較可能な調剤と比較して検出可能なよりいっそう高い細胞毒性を示す。ペースト状の試験用コンポジット201は、7:3の比のビス−GMAとトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)とからなる歯科用レジンの常用の組成に相当し、細胞毒性の潜在性を示さず、多官能性アクリレートモノマーの添加量を有する試料204の場合には、細胞毒性の明らかな上昇を観察することができる。
【0025】
この公知の効果にも拘わらず、比較可能なコンポジットは、ビス−GMAをジアクリレート官能性TCDモノマーと交換した場合にむしろ細胞毒性作用の減少を示した。本発明によるTCDモノマーは、古典的な歯科用コンポジット材料中で検出可能であるように細胞毒性の潜在性を示した。
【0026】
ウレタンメタクリレートとの別のレジン混合物において、試験を再現した。トリエチレングリコールジメタクリレートとUDMAとTCDモノマーとからなる混合物を他のモノマーとの種々の組合せで試験した。古典的なビス−GMA/TEGDMAコンポジットとの比較可能性を達成させるために、1つの試験でビス−GMA72%を添加し、試料338を試験した。硬化されたコンポジットを用いて、なお試料230の作用下にある、極めて僅かな細胞毒性の潜在性を検出した。比較可能な収縮の少ないアクリレートモノマーTCD−DI−HEAによるビス−GMAの完全な代替物は、試料349および350において、類似した好ましい細胞毒性の潜在性を生じ、この場合開始剤含量は、モノマーのよりいっそう高い反応性に基づきなお減少させることができた。これとは異なり、多官能価アクリレートモノマー(SR295)を有する前記混合物の変形は、重合されたコンポジット試料の明らかな細胞毒性作用を示した。
【0027】
それによって、別の構成されたレジン混合物についても、含有されているアクリレートモノマーの細胞毒性作用と種類との間に同じ関連があることが判明した。実施された試験において、TCD−ウレタン構造を有する本発明によるアクリレートモノマーは、通常使用される反応性キャリヤーのメタクリレートモノマーまたは別の反応性アクリレートモノマーよりも好ましい毒物学的性質を生じることが示された。
【0028】
医薬品でありかつ通常生存組織と絶えず接触したままである本発明によるモノマーTCD−DI−HEAを有する硬化可能な歯科用材料の極めて僅かな細胞毒性の潜在性は、患者および使用者の場合にかかる材料の使用可能性および生体への受け入れにとって極めて重要である。
【0029】
【表1】