特許第5656352号(P5656352)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5656352-積層圧電アクチュエータ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5656352
(24)【登録日】2014年12月5日
(45)【発行日】2015年1月21日
(54)【発明の名称】積層圧電アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/083 20060101AFI20141225BHJP
   H02N 2/00 20060101ALI20141225BHJP
【FI】
   H01L41/08 S
   H01L41/08 Q
   H02N2/00 B
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2008-265805(P2008-265805)
(22)【出願日】2008年10月14日
(65)【公開番号】特開2010-98015(P2010-98015A)
(43)【公開日】2010年4月30日
【審査請求日】2011年9月9日
【審判番号】不服2013-20349(P2013-20349/J1)
【審判請求日】2013年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090413
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 康稔
(72)【発明者】
【氏名】岸本 純明
(72)【発明者】
【氏名】土信田 豊
【合議体】
【審判長】 小野田 誠
【審判官】 恩田 春香
【審判官】 松本 貢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−53467(JP,A)
【文献】 特開2009−131138(JP,A)
【文献】 特公平2−56823(JP,B2)
【文献】 特開2006−66837(JP,A)
【文献】 特開2001−244514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L41/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略柱状の圧電体素体と、該圧電体素体中に埋設され、前記圧電体素体の端面に露出する引出部を有するとともに、圧電体を間に挟んで積層された複数の内部電極と、前記圧電体素体の前記引出部が露出している端面に形成され、前記内部電極と電気的に接続する外部電極とを有する積層圧電アクチュエータにおいて、
前記外部電極は、
前記内部電極の積層方向に分割されており、前記内部電極の引出部と接続する複数の下地金属層と、該複数の下地金属層を連結する導電性の弾性体層と、
によって構成され、
前記導電性の弾性体層は導電性シリコーンゴムであり、
前記複数の下地金属層それぞれは、一つの下地金属層に、二つ以上の内部電極の引出部が接続され
前記圧電体素体と前記弾性体層との間に前記複数の下地金属層を分割形成するとともに、前記導電性の弾性体層を導電性シリコーンゴムで形成することで、隣接する下地金属層の間であって、かつ、前記圧電体素体と前記弾性体層との間に、間隙を形成したことを特徴とする積層圧電アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的入力エネルギーを、変位や力の機械エネルギーに変換する積層圧電アクチュエータに関し、更に具体的には、厳しい使用環境下においても特性劣化を生じることなく長期間使用可能とする積層圧電アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の積層圧電アクチュエータは、圧電体材料よりなる圧電体層と、導電性を有する内部電極層を交互に複数積層した積層体の側面に、導電性接着剤によって外部電極を接合した構造となっている。このような積層圧電アクチュエータを、高温雰囲気下などの厳しい使用環境で長期間用いると様々な問題、例えば、導電性接着剤に応力がかかってクラックが発生するという問題が生じる。これは、前記アクチュエータの駆動時、すなわち、圧電変位によって前記積層体が積層方向に伸縮したときに、該積層体の側面に配設された導電性接着剤に応力がかかり、この応力の繰り返しによって導電性接着剤にクラックが発生するためである。クラックが発生すると、前記内部電極層と外部電極とは、前記導電性接着剤を介する電気的導通性を確保することができず、通電不良等の不都合が生じる。
【0003】
前記通電不良を改善する手段として、例えば、下記特許文献1に記載の技術には、圧電積層体の側面に設けられた外部電極が、内部電極と接続するための金属層と、この金属層の上に形成された導電性弾性体とで構成されている積層型圧電アクチュエータが開示されている。これは、積層体の伸縮時に前記外部電極にかかる応力を、前記導電性弾性体によって分散・緩和するもので、これによってクラックの発生を防止するものである。
【特許文献1】特開2001−313428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような背景技術は、内部電極との接続はメッキ処理等の方法で形成した下地金属層で行っており、応力を緩和する導電性弾性体は、下地金属層の上に形成されている。下地金属層は、積層体の伸縮時の応力が直接かかる部分である。また、下地金属層が導電性弾性体に比べて伸縮性が小さいので、積層体の変形に十分に追随できないことがある。そのため、外部電極にかかる応力を十分に緩和させることができず、クラックの発生を十分に防止できないという課題がある。
【0005】
本発明は、以上の点に着目したもので、その目的は、厳しい環境下で長期間に渡って使用した場合でも、クラックなどから特性劣化を引き起こすことがない外部電極構造を有する積層圧電アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、略柱状の圧電体素体と、該圧電体素体中に埋設され、前記圧電体素体の端面に露出する引出部を有するとともに、圧電体を間に挟んで積層された複数の内部電極と、前記圧電体素体の前記引出部が露出している端面に形成され、前記内部電極と電気的に接続する外部電極とを有する積層圧電アクチュエータにおいて、前記外部電極は、前記内部電極の積層方向に分割されており、前記内部電極の引出部と接続する複数の下地金属と、該複数の下地金属層を連結する導電性の弾性体層と、によって構成され、前記導電性の弾性体層は導電性シリコーンゴムであり、前記複数の下地金属層それぞれは、一つの下地金属層に、二つ以上の内部電極の引出部が接続され、前記圧電体素体と前記弾性体層との間に前記複数の下地金属層を分割形成するとともに、前記導電性の弾性体層を導電性シリコーンゴムで形成することで、隣接する下地金属層の間であって、かつ、前記圧電体素体と前記弾性体層との間に、間隙を形成したことを特徴とする。
【0007】
本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、圧電体素体内に積層された複数の内部電極と前記素体端面で接続する外部電極を、前記内部電極の積層方向に分割されており前記内部電極の引出部と接続する複数の下地金属層と、該複数の下地金属層を連結する導電性の弾性体層とによって構成する。その際、前記導電性の弾性体層として導電性シリコーンゴムを用い、前記複数の下地金属層それぞれは、一つの下地金属層に、二つ以上の内部電極の引出部が接続され、前記圧電体素体と前記弾性体層との間に前記複数の下地金属層を分割形成するとともに、前記導電性の弾性体層を導電性シリコーンゴムで形成することで、隣接する下地金属層の間であって、かつ、前記圧電体素体と前記弾性体層との間に、間隙を形成することとした。これにより、前記下地金属層にかかる応力を緩和し、弾性体層によって応力を吸収し、かつ、素子変位に良好に追随するため、厳しい環境下で長期間にわたって使用しても、クラックなどから特性劣化を引き起こすことのない積層圧電アクチュエータが得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
最初に、図1及び図2を参照しながら本発明の実施例1を説明する。図1(A)は、本実施例の積層圧電アクチュエータの側面図,図1(B)は前記(A)を矢印FA方向から見た正面図,図2は、本実施例の積層体の正面図である。図1及び図2に示すように、本実施例の積層圧電アクチュエータ10は、圧電体素体(圧電体)14内に複数の内部電極16,18が、圧電体を挟んで交互に複数形成された積層体12の端面に、外部電極20,26が設けられた構造となっている。前記圧電体素体14は略柱状であって、前記内部電極16の引出部16Aが、前記圧電体素体14の一方の端面に露出し、前記内部電極18の引出部18Aが、前記圧電体素体14の他方の端面に露出している。
【0011】
このような積層圧電アクチュエータ10では、積層体12の伸縮による応力が外部電極にかかることが知られている。そこで、本発明では、厳しい環境下で長期間にわたって積層圧電アクチュエータ10を利用した場合においても、クラックなどから特性劣化を引き起こすことがないように、外部電極20,26を2層構造としている。より詳細に説明すると、外部電極20は、積層方向に分割されており内部電極16の引出部16Aと接続する複数の下地金属層22と、これら複数の下地金属層22を連結する導電性を有する弾性体層24により構成されている。同様に、外部電極26は、積層方向に分割されており内部電極18の引出部18Aと接続する複数の下地金属層28と、これら複数の下地金属層28を連結する導電性を有する弾性体層30により構成されている。
【0012】
図示の例では、一つの下地金属層22に対して二つの引出部16Aが接続され、一つの下地金属層28に対して二つの引出部18Aが接続されている。そして、隣接する2つの下地金属層22は、互いに間隔xをおいて並んでおり(図2参照)、隣接する2つの下地金属層28は、互いに間隔xをおいて並んでいる。また、前記弾性体層24,30は、前記下地金属層22,28の略中央部に設けられており、両側から前記下地金属層22,28が露出する程度の幅に設定されている。
【0013】
このような外部電極構造は、次のような作用効果を発揮する。前記下地金属層22,28をそれぞれ積層方向に複数に分割することにより、下地金属層22,28の各々にかかる応力を小さくすることができる。また、間隔xの部分も伸縮するが、この間隔xの部分の伸縮による応力は、下地金属層22,28にかからないため、その分の応力も低減することができる。そして、弾性体層24,30によって、分割された下地金属層22,28を連結することにより、外部電極20,26にかかる応力を吸収して低減するとともに、前記弾性体層24,30によって積層体12の変位に良好に追随する。そのため、厳しい環境下での長期間の使用によって外部電極20,26にクラックが入るのを防止し、マイグレーションなどの劣化を防止することができる。例えば、AC200V−50Hzで150℃の条件下で、10億回伸縮させた場合、従来の積層型圧電アクチュエータでは、変位量が80%に低下したのに対して、本発明の積層型圧電アクチュエータでは変位量の低下が見られなかった。
【0014】
ここで、前記下地金属層22,28の間隔x(図2参照)は、内部電極16と内部電極18との間に挟まれている圧電体の一層厚みの2倍よりも小さく形成される。各々の端面に露出する内部電極の引出部16A,18Aは、圧電体の一層厚みの2倍の間隔をおいて露出しているので、間隔xを圧電体の一層厚みの2倍よりも小さくすると、下地金属層22,28にかかる応力を緩和することができるとともに、内部電極16,18との接続を十分に確保することができる。
【0015】
前記圧電体素体14を形成する材料としては、鉛・非鉛材料のいずれを用いるようにしてもよい。また、内部電極16,18としては、例えば、Pt,Ag,Pd,Pd,Cu,Niなどが用いられる。外部電極の下地金属層22,28は、例えば、導電性樹脂ペースト,Ag,Pd,Cu,Niペーストなどを用いてスクリーン印刷や非接触塗布などで塗布し、焼付け法、硬化によって形成する。また、弾性体層24,30としては、例えば、導電性シリコーンゴムを用いて前記下地金属層22,28に接着形成する。なお、接着強度を考慮すると、下地金属層22,28は硬化によって、弾性体層24,30とともに形成するのが望ましい。
【0016】
このように、実施例1によれば、圧電体素体14の端面に露出した内部電極16,18の引出部16A,18Aに接続し、前記内部電極16,18の積層方向に分割された複数の下地金属層22,28と、複数の下地金属層22,28を連結する導電性を有する弾性体層24,30とによって外部電極20,26を構成することとした。このため、前記下地金属層22,28と弾性体層24,30によって2段階で応力を吸収し、かつ、弾性体層24,30によって積層体12の変位あるいは積層圧電アクチュエータ10の伸縮に良好に追随するため、厳しい環境下で長期間にわたって使用しても、外部電極20,26にクラックが発生するのを防止でき、特性劣化を引き起こすことがないという効果が得られる。
【0017】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した形状・寸法は一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。材料についても同様である。
(2)前記実施例では、一つの下地金属層22,28に対して、二つの引出部16A,18Aを接続することとしたが、これも一例であり、3つ以上の引出部を接続するようにしてもよい。
【0018】
(3)前記実施例で示した弾性体層24,30も一例であり、図3(A)に示す例のように、複数の弾性体層24Aによって、下地金属層22の両端側を交互に連結するようにしてもよい。あるいは、図3(B)に示す例のように、下地金属層22の一端側のみを弾性体層24Bで連結するようにしてもよい。なお、図示の例では左端側に弾性体層24Bを設けたが、図に点線で示すように右側に設けるようにしてもよいし、両端側に設けるようにしてもよい。図3(B)に示す形態とすることにより、弾性体層24Bにクラックが入っても、その下部は圧電不活性部分であるため、より安定した駆動状態を保つことができる。この場合、弾性体層24Bは、下地金属層22と同素材であっても同程度の効果を見込むことができる。
(4)下地金属層22,28と弾性体層24,30との密着を向上させるために、下地金属層22,28にメッキを施してもよい。また、弾性体層24,30にも、半田ぬれ性を向上させるためにメッキを施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、圧電体素体内に積層された複数の内部電極と前記素体端面で接続する外部電極を、前記内部電極の積層方向に分割されており前記内部電極の引出部と接続する複数の下地金属層と、該複数の下地金属層を連結する導電性の弾性体層とによって構成する。その際、前記導電性の弾性体層として導電性シリコーンゴムを用い、前記複数の下地金属層それぞれは、一つの下地金属層に、二つ以上の内部電極の引出部が接続され、前記圧電体素体と前記弾性体層との間に前記複数の下地金属層を分割形成するとともに、前記導電性の弾性体層を導電性シリコーンゴムで形成することで、隣接する下地金属層の間であって、かつ、前記圧電体素体と前記弾性体層との間に、間隙を形成することとした。これにより、外部電極にかかる応力を低減し、かつ、外部電極が素子変位に追随してクラックの発生を防止できるため、積層圧電アクチュエータの用途に適用できる。

【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例1の積層圧電アクチュエータを示す図であり、(A)は側面図,(B)は前記(A)を矢印FA方向から見た正面図である。
図2】前記実施例1の積層体の正面図である。
図3】本発明の他の実施例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0021】
10:積層圧電アクチュエータ
12:積層体
14:圧電体素体(圧電体)
16,18:内部電極
16A,18A:引出部
20,26:外部電極
22,28:下地金属層
24,24A,24B,30:弾性体層
図1
図2
図3