(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、アーク炉、プラズマ炉、抵抗炉、誘導炉等の電気炉は、黒鉛で形成された電極を備えているが、この黒鉛電極は炉内の熱的、機械的衝撃により損耗したり、折損や亀裂等の内部欠陥が発生したりすることがある。電気炉の安定運転のためには電極の異常を早期に発見することが求められるが、電気炉に装備された状態の電極から異常を検出することは容易ではなく、特に炉底に配置される電極においては、炉内の被処理物に埋没しているためその状態を確認することは困難であった。
【0003】
ここで、電気炉の一例として、プラズマ式溶融炉の構成を
図14に示す。同図に示すように、プラズマ式溶融炉1は、内部が耐火材で形成された炉本体2を有し、その炉蓋3に主電極6、補助電極7が挿通されるとともに、炉底4に炉底電極8が配設された構成を備えており、主電極6と炉底電極8の間に直流電圧を印加してプラズマアークを発生させ、該プラズマアークにより炉本体2内に投入された被処理物を加熱溶融するようになっている。各電極6、7、8は黒鉛で形成された円柱形状を有している。溶融して形成されたスラグ、メタル9は炉本体2の側部に設けられた出滓口5より適宜排出される。
【0004】
このような電気炉では、炉内の高温雰囲気或いは化学反応等により電極が損耗することがある。特に、プラズマ式溶融炉の炉底電極においては、起動時や傾動出滓時などのスラグ層が薄いときに、プラズマガスによる黒鉛電極の燃焼やメタル中のFeの酸化還元反応により電極が損耗することがある。
また、電気炉を構成する耐火物は高温になるため、電極を支持する部材の熱応力により電極に折損、亀裂等の内部欠陥が発生する場合がある。この場合、内部欠陥の範囲が大きくなければそのまま使用し続けることは可能であるが、内部欠陥の範囲が大きく電極の抵抗が大幅に増大する場合には電極を交換する必要がある。
【0005】
そこで従来は、メジャー等による実計測及び目視確認により電極の状態を監視していた。炉底電極に関しては、
図14に示すように炉底電極8がメタル層9に埋没しているため、炉の運転停止後に炉底に堆積したメタル層9を除去して電極状態を確認する作業を行っていた。
また、特許文献1(特開平6−117759号公報)には、電極を把持するクランプ位置の変化から電極の消耗量を検出する方法が開示されている。
【0006】
また、他の方法として、電極の電気的な導通を汎用性の抵抗計で計測して電極の状態を監視することも行われている。これは、電極の上端と下端に夫々測定端子を当てて電極間の抵抗値を計測し、この電極抵抗値に基づいて電極の異常を診断するものである。
図15に示すように診断対象が炉底電極8の場合には、一方の測定端子52は炉底電極8の下端に接触させ、他方の測定端子51は、炉底電極8の上端がメタル9に埋没しているため該メタル9を介して炉底電極8の上端に擬似的に接触させるようにする。メタル9は抵抗が極めて小さいためこの方法により炉底電極8の抵抗値を計測できる。
【0007】
さらに、炉底電極8を異常を診断する他の方法としては、
図16に示すように、熱電対61を用いた方法がある。これは、炉底電極8の近傍の耐火物に複数の熱電対61を埋め込み、電極8の内部欠陥に起因したメタル9の漏れ出しによる温度上昇を熱電対61により計測してレコーダ60に入力し、電極8の異常を検出するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術における電極の異常診断方法のうち、電極を実計測、目視確認する方法では、電極を露出させた状態で実計測又は目視確認することは装置の構成上困難であることが多く、また炉底電極においては炉底メタルを除去する必要があり、この除去作業に時間がかかるとともに膨大な処理コストが発生してしまうという問題があった。また、特許文献1のようにクランプ位置の変化から電極の消耗量を検出する方法では、炉蓋に挿通されクランプで把持された電極にしか適用できず、さらに検出できるのは消耗のみであり内部欠陥等の他の異常については検出不可能であった。
【0010】
また、電極を汎用性の抵抗計で計測する方法では、一般的な黒鉛電極の抵抗値が約50〜200μΩであるのに対して、汎用性の抵抗計の接触抵抗値は0.1Ω程度であり、精度の高い抵抗値の計測は困難であった。さらに電極が折損していても、折損箇所の一部が点接触している場合には汎用性の抵抗計の最低可能表示である0.01Ω程度の数値を表示してしまい、折損していない健全な状態を区別し難い。さらにまた汎用性の抵抗計による導通検査では電極の長さや損耗量が把握できなかった。
【0011】
また、炉底電極において、熱電対を電極周囲に埋め込み、その温度上昇から電極異常を検出する方法では、電極の大電流により熱電対の指示値が大きく変動するため、正確に電極状態を把握することは難しかった。さらに、熱電対の埋め込みが原因で耐火物に隙間ができるため、炉の運転中にメタルが漏れ出す原因となる。この場合、電極の内部欠陥による異常はメタルが漏れ出した後に明確となるため、電極の異常を把握できた時には既に炉のダメージが大きかった。さらにまた、熱電対は腐食や伸縮による疲労、潰れなどにより断線する可能性があるが、耐火物に埋め込んだ状態であるため交換が困難であるという問題もあった。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、電気炉に配設された黒鉛電極の異常を早期に且つ精度良く検出することが可能である黒鉛電極の異常診断方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、電気炉に配設された黒鉛電極の損耗、あるいは該電極の折損又は亀裂等の内部欠陥のうち何れかを原因とした電極の異常を検出する黒鉛電極の異常診断方法であって、前記電気炉の炉外側に位置する電極の端面に探触子を当接配置し、該探触子より周波数が数十〜数百
kHzの低周波横波超音波を発振し、電極内部で反射した超音波を同一端面にて受振して波形データを取得し、該波形データのピーク位置から超音波の伝播時間を求めて、該伝播時間と前記電極の固有の音速とから電極長さを算出し、該電極長さに基づいて電極異常の有無を判定する超音波診断工程を行
い、前記超音波診断工程を行った後、該超音波診断工程にて電極に異常があると判定された場合、前記電気炉の休炉時に、電極に電流を流し、該電極の電流を計測しながら該電極の電圧を計測して抵抗値を検出する低抵抗計により前記電極の抵抗値を検出し、該検出した抵抗値に基づいて電極異常が損耗を原因とするものであるか、あるいは内部欠陥を原因とするものであるかを特定する抵抗診断工程を行うことを特徴とする。
【0013】
本発明では、電極長さを精度良く検出することにより、該検出された電極長さと元の電極長さとを比較し、大幅に短くなっている場合には、電極に損耗(消耗を含む)又は内部欠陥等の異常が発生したものと判断できる。
ここで、本発明では電極長さの検出に低周波横波超音波を用いているため、超音波の伝播経路が長く且つ内部に微小空隙が存在して材質が粗である黒鉛電極においても精度良く電極長さを求めることが可能となる。
【0014】
これは、
図13に示すように、超音波波形が波の進行方向に対して平行である縦波を用いた場合、測定対象物に不純物や気泡、隙間等が多いと横波などにモード変換してしまい縦波が弱くなるため、材質が粗である黒鉛電極には適していない。周波数が数百kHz以上の高周波縦波は、肉厚が薄い対象物には適しているが、電極のように伝播経路が長い対象物においては減衰が大きくなり精度が低下してしまう。周波数が数十〜数百kHzの低周波縦波は肉厚が厚いものに適しているが、上記したようにモード変換が生じることにより精度が低下してしまう。これに対して、超音波波形が波の進行方向に対して垂直である横波を用いた場合、モード変換されることなく、且つ周波数が数十〜数百kHzの低周波を用いることにより減衰が小さくなるため、低周波横波超音波を黒鉛電極の測定に適用した場合、高精度で測定を行うことが可能となる。
【0015】
また、本発明によれば、電気炉の炉外から電極端面に探触子を当てて低周波横波超音波を発振する構成としているため、装置構成を簡単にすることができ、また電気炉の運転中、休炉中の何れにおいても電極異常を検出することが可能である。
さらに、本発明によれば、電極異常を早期に把握することができるため、異常が生じた際に迅速な対処が可能となる。
【0016】
また、
電気炉に配設された黒鉛電極の損耗、あるいは該電極の折損又は亀裂等の内部欠陥のうち何れかを原因とした電極の異常を検出する黒鉛電極の異常診断方法であって、
前記電気炉の炉外側に位置する電極の端面に探触子を当接配置し、該探触子より周波数が数十〜数百kHzの低周波横波超音波を発振し、電極内部で反射した超音波を同一端面にて受振して波形データを取得し、該波形データのピーク位置から超音波の伝播時間を求めて、該伝播時間と前記電極の固有の音速とから電極長さを算出し、該電極長さに基づいて電極異常の有無を判定する超音波診断工程を行い、前記超音波診断工程を行う前に、前記電気炉の休炉時に、電極に電流を流し、該電極の電流を計測しながら該電極の電圧を計測して抵抗値を検出する低抵抗計により前記電極の抵抗値を検出し、該検出された抵抗値に基づいて電極異常の有無を判定するとともに、電極に異常がある場合はそれが損耗を原因とするものであるか、あるいは内部欠陥を原因とするものであるかを特定する抵抗診断工程を行い、前記抵抗診断工程にて電極に異常がある場合にのみ前記超音波診断工程を行い、前記算出された電極長さに基づき電極の損耗量あるいは内部欠陥の位置を検出することを特徴とする。
【0017】
このように、低周波横波超音波による電極長さの検出と、低抵抗計による抵抗値の検出を組み合わせて用いることにより、電極の異常を早期に精度良く検出することが可能であるとともに、その異常の原因を正確に特定することが可能となり、異常の原因に応じて適切な処置を施すことが可能となる。例えば、電極異常が損耗による場合、電極長さに応じて電極の交換作業を行う。一方、電極異常が内部欠陥による場合は、その欠陥位置に応じて電極の交換作業を行う。このとき欠陥位置が電極の炉外側にある場合には交換作業を行うことが好ましい。
【0018】
また、上記した発明において、前記電気炉が、炉蓋に挿通された主電極と、炉底に配設された炉底電極との間に直流電圧を印加することにより炉内の被処理物を加熱溶融するプラズマ式溶融炉であり、
前記プラズマ式溶融炉の休炉時に、冷却固化したメタル層が露出した状態で各診断工程を行うようにし、
前記超音波診断工程では、前記炉底電極の下端面に前記探触子を配置して波形データを取得し、
前記抵抗診断工程では、前記低抵抗計の一方の測定端子は前記炉底電極の下端面に接続し、他方の測定端子は前記メタル層を介して前記炉底電極の上端面に接続して抵抗値を検出するようにしたことを特徴とする。
【0019】
前記プラズマ式溶融炉の炉底電極はメタル層に埋没しているため、本発明のように炉外に面した電極下端面に探触子を配置することにより容易に電極異常を検出することが可能となる。さらに、メタル層の抵抗は極めて小さいため、低抵抗計によりメタル層を介して電極抵抗値を計測する構成とすることにより、メタル層を除去することなく抵抗値を計測することが可能である。
【0021】
また、電気炉に配設された黒鉛電極の損耗、あるいは該電極の折損又は亀裂等の内部欠陥のうち何れかを原因とした電極の異常を検出する黒鉛電極の異常診断装置であって、前記電気炉の炉外側に位置する電極の端面に当接されて周波数が数十〜数百kHzの低周波横波超音波を発振し、該電極内部で反射した超音波を同一端面で受振する探触子と、該探触子に信号ケーブルを介して接続され前記受振した超音波を波形データとして取得する波形計測器と、前記波形計測器からの波形データが入力される演算装置とを備え、前記演算装置は、前記波形データのピーク位置から求められる超音波の伝播時間と、前記電極の固有の音速とから電極長さを算出し、該電極長さに基づいて電極異常の有無を判定する超音波診断部を備え
、前記電極に電流を流し、該電極の電流を計測しながら該電極の電圧を計測することにより電極の抵抗値を検出する低抵抗計を備えており、前記演算装置は、前記低抵抗計で検出された電気炉休炉時の電極の抵抗値に基づいて、電極の異常原因が損耗を原因とするものであるか、あるいは内部欠陥を原因とするものであるかを特定する抵抗診断部を備えることを特徴とする。
【0023】
さらにまた、前記電気炉は、炉蓋に挿通された主電極と、炉底に配設された炉底電極との間に直流電圧を印加することにより炉内の被処理物を加熱溶融するプラズマ式溶融炉であり、
前記探触子は、前記炉底電極の下端面に当接された状態に配置され、
前記低抵抗計は、一方の測定端子が前記炉底電極の下端面に接続され、他方の測定端子が炉内の固化したメタル層を介して前記炉底電極の上端面に接続された状態で配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上記載のごとく本発明によれば、電極長さの検出に低周波横波超音波を用いているため、超音波の伝播経路が長く且つ内部に微小空隙が存在して材質が粗である黒鉛電極においても精度良く電極長さを求めることができ、正確に電極異常を診断することが可能となる。
また、電気炉の炉外から電極端面に探触子を当てて低周波横波超音波を発振する構成としているため、装置構成を簡単にすることができ、また電気炉の運転中、休炉中の何れにおいても電極異常を検出することが可能である。
さらに、本発明によれば、電極異常を早期に把握することができるため、異常が生じた際に迅速な対処が可能となる。
さらにまた、低周波横波超音波による電極長さの検出と、低抵抗計による抵抗値の検出を組み合わせて用いることにより、電極の異常を早期に精度良く検出することが可能であるとともに、その異常の原因を正確に特定することが可能となり、異常の原因に応じて適切な処置を施すことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本発明は、アーク炉、プラズマ炉、抵抗炉、誘導炉等の電気炉に配設された黒鉛電極の異常を診断するものであり、特に、電極の損耗(消耗を含む)、あるいは電極の折損や亀裂等の内部欠陥のうち何れかを原因とする電極異常を検出するものである。
以下に示す実施形態ではプラズマ式溶融炉に適用した例を説明するが、適用先はこれに限定されるものではない。
【0028】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る異常診断装置を備えたプラズマ式溶融炉の断面図である。同図に示すように、プラズマ式溶融炉1は、内部が耐火物で形成された炉本体2を有し、該炉本体2の炉蓋3から主電極6が垂下され、これに対向して炉底4から炉底電極8が挿設されている。主電極6は不図示の可動装置により昇降可能で、炉底電極8は炉本体2に固定される。また炉蓋3には補助電極7が挿通されており、該補助電極7は炉本体2の出滓口5付近のスラグ表面温度を高くして未溶融被処理物を溶融する。
【0029】
プラズマ式溶融炉1では、これらの電極間に直流電源により直流電圧を印加して炉内にプラズマアークを発生させることにより、炉本体2内に投入された焼却灰等の被処理物を加熱溶融する。被処理物が溶融した溶融スラグは炉底に溜まり、その下部には比重差により溶融メタル9が堆積する。溶融スラグは適宜出滓口5より排出され、溶融メタル9は炉本体2を傾動させることにより出滓される。
本第1実施形態は、プラズマ式溶融炉1の運転中、休炉中の何れにも適用可能である。
【0030】
本第1実施形態に係る電極の異常診断装置は、主電極6、補助電極7、炉底電極8の何れにも適用可能であるが、ここでは一例として炉底電極8の異常を診断する場合につき説明する。
前記異常診断装置100は、探触子11と、該探触子11に信号ケーブル19を介して接続される波形計測器10と、該波形計測器10からの波形データが入力される演算装置20と、を備えている。
【0031】
図2は、本発明の第1実施形態に係る異常診断装置の内部構成を示すブロック図である。同図に示すように、前記探触子11は、炉底電極8の下端面に当接配置されており、該下端面から電極軸方向上側に向けて低周波横波超音波を発振する。該探触子11は、内蔵される超音波振動子が励振されると超音波を発生して炉底電極8内に超音波を発振し、炉底電極8内で反射された超音波を受振する。該探触子11は、
図10に示すように針状となっており、発振側と受振側に夫々複数の針状の超音波振動子を有する。該超音波振動子は、炉底電極8の端面に対して点接触した状態で配置されている。
【0032】
前記波形計測器10は、パルス電圧を発生するパルス発生器13と、該パルス電圧を探触子11に送信(印加)する送信部12と、探触子11にて受振した超音波が電気信号に変換され波形データとして入力される受信部14と、該受信部14に入力された波形データを増幅する増幅部15と、増幅された波形データを表示するための液晶画面やCRT等の波形表示部16と、を備えている。
前記探触子11から発振される低周波横波超音波は、
図3(a)に示されるようにパルス波となる。好適には、本実施形態で用いる低周波横波超音波は、周波数が数十〜数百kHzのものとする。尚、探触子11にて受振される超音波は、
図3(b)に示されるような波形となる。
【0033】
前記演算装置20は、波形計測器10にて得られた波形データが入力され、該波形データに基づいて所定の演算処理を実行することにより炉底電極8の異常を判定する装置である。該演算装置20は、中央演算装置
(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
該演算装置20の機能的構成としては、波形データのフィルタ処理、移動平均処理、微分処理等の所定の波形処理を行う波形処理部21と、該波形処理された波形データのピーク時間から求められた超音波の伝播時間と、予め求めておいた電極固有音速とから炉底電極の長さを算出し、該電極長さに基づいて炉底電極8の異常を判定する超音波診断部22と、を備える。尚、波形データのフィルタ処理、移動平均処理、微分処理等の波形処理は、波形計測器10側で行うようにしてもよい。
【0034】
次いで、このような構成を備えた異常診断装置において、
図4を参照して、電極異常を診断する手順につき説明する。
最初に、使用前の炉底電極8、或いは溶融炉に配設された炉底電極と同一で未使用の電極8を用いて、元の電極長さL
0を求めておく(
図8(a)参照)。また、この電極8の低周波横波超音波の伝播時間から電極固有音速を求めておく。
【0035】
パルス発生器13にて発生させたパルス電圧を送信部12から信号ケーブル19aを介して探触子11に送信し、該探触子11を励振させて炉底電極8内に低周波横波超音波を発振する。発振した超音波は、炉底電極8に内部欠陥が存在しない場合には、電極の上端面で反射して探触子11に戻ってくる。炉底電極8に内部欠陥が存在する場合には、欠陥位置で反射して超音波が探触子11に戻ってくる。この戻ってきた超音波を探触子11で受振し、信号ケーブル19bを介して受信部14に入力する。該受信部14にて受信された超音波の波形データは、増幅器15で増幅された後、波形表示部16に表示される。このようにして波形データが得られる(S1)。
【0036】
波形計測器10で取得した前記波形データは演算装置20に入力される。演算装置20では、波形処理部21にて、ノイズ除去を含む所定の波形処理が行われる。ここで、該波形処理手順の一例を以下に説明する。尚、波形処理部21では、低周波横波超音波が炉底電極8内を伝播する伝播時間を精度良く求めるために、好適な処理を適宜選択して実施するものであり、以下の手順に限定されるものではない。
まず、波形計測器10で取得した波形データをフィルタ処理する(S2)。これは、最初にバンドパスフィルタにより波形データをフィルタ処理し、所定の周波数帯の成分を抽出する。バンドパスフィルタは、例えば20MHzバンドパスフィルタを用いる。このとき、アベレージング処理を行うことが好ましい。例えば、アベレージング回数は4回とする。次いで、ローパスフィルタにより波形データをフィルタ処理し、波形データから低域周波数のみを抽出する。ローパスフィルタは、例えば70kHzローパスフィルタを用いる。
【0037】
そして、フィルタ処理を行った波形データに対して時間軸方向に沿って移動平均処理を行い(S3)、波形の平滑化を行った後、該波形データを微分処理して微分波形を取得する(S4)。
この微分波形からピーク時間を求め(S5)、このピーク時間から所定のオフセット時間を差し引いて伝播時間を求める(S6)。これは、微分波形にて、最初に到達する下向き波形のピーク位置から、予め把握しておいた発振→受振で発生するオフセット時間を差し引いた時間を電極長さに相当する伝播時間とする。前記オフセット時間は、超音波送受信時に生じる遅延時間などから求められるもので、このオフセット時間をピーク時間から差し引くことで、正確な伝播時間を求めることができる。
【0038】
さらに、超音波診断部22にて、上記のようにして求めた伝播時間と、予め求めておいた電極固有音速とから以下の式により電極長さを算出する(S7)。
(電極長さ[m])={(ピーク時間[s])−(オフセット時間[s])}×(音速[m/s])/2
この算出された電極長さLと、予め求めておいた元の電極長さL
0(
図9(a)参照)とを比較し、電極長さLが元の電極長さL
0より短い場合には、
図9(b)に示すように炉底電極8が損耗8aしているか、
図9(c)に示すように内部欠陥8bが存在するか、何れかの原因により異常があると判定することができる。また、異常診断を複数回行う場合には、比較する元の電極長さL
0として、前回計測された電極長さ用いることが好ましい。
【0039】
かかる第1実施形態によれば、炉底電極8の電極長さの検出に低周波横波超音波を用いているため、超音波の伝播経路が長く且つ内部に微小空隙が存在して材質が粗である黒鉛電極においても精度良く電極長さを求めることができ、正確に電極異常を診断することが可能となる。
また、プラズマ式溶融炉1の炉外から炉底電極8の下端面に探触子11を当てて低周波横波超音波を発振する構成としているため、装置構成を簡単にすることができ、またプラズマ式溶融炉1の運転中、休炉中の何れにおいても電極異常を検出することが可能である。
さらに、本発明によれば、電極異常を早期に把握することができるため、異常が生じた際に迅速な対処が可能となる。
【0040】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態は、低周波横波超音波により電極長さを検出する構成に加えて、低抵抗計により電極の異常原因を特定する構成を備えている。即ち、
図1及び
図2に示した装置構成により低周波横波超音波を用いて電極の損耗又は内部欠陥による異常を検出する超音波診断工程と、
図5に示す装置構成により低抵抗計を用いて電極の異常原因を特定する抵抗診断工程と、を段階的に実施することにより、電極の異常を精度良く判定できるとともに異常原因を特定することを可能とした。超音波診断工程と抵抗診断工程の順番は限定されない。
本第2実施形態は、プラズマ式溶融炉1の休炉中にのみ適用される。尚、第2実施形態において、上記した第1実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
【0041】
図5は、本発明の第2実施形態に係る異常診断装置を備えたプラズマ式溶融炉(底部)の断面図である。同図に示すように、異常診断装置100は、低抵抗計30と、該抵抗計30に接続された測定端子31、32と、低抵抗計30で計測された抵抗値が入力される演算装置20と、を備える。測定端子のうち一方の端子31は、固化したメタル層9に当接され、該メタル層9を介して炉底電極8の上端面に接触させる。これは、電極抵抗値は50〜200μΩ程度であるのに対して、メタル層9の抵抗値は約0.003μΩと極めて小さく無視できる値であるため、メタル層9越しの計測でも精度良く電極抵抗を計測できるためである。他方の測定端子32は、炉底電極8の下端面に接触させる。
【0042】
前記低抵抗計30は、対象物に電流を流し、該対象物の電流を計測しながら内側の電圧を計測して抵抗値を検出する装置である。具体的には、
図6に示す装置が用いられる。
図6は低抵抗計30の等価回路図である。同図に示すように低抵抗計30は、炉底電極8を含む外側回路35と、これに並列に設けられた内側回路36とを有し、外側回路35には電流計301と定電流源302が直列に接続され、内側回路36には電圧計303が接続されている。定電流源302により外側回路36に定電流を流した状態で、電圧計303により炉底電極8の電圧を計測する。炉底電極8には、電極抵抗81が発生する。外側回路35にはケーブル抵抗35a、35dや接触抵抗35b、35cが存在し、内側回路36にはケーブル抵抗36a、36dや接触抵抗36b、36cが存在するが、内側回路36には電流が流れていないため、電圧計303ではこれらの抵抗36a〜dは無視でき、炉底電極8の電極抵抗81に基づく電位差のみを計測することができる。電圧計303により計測される電位差(電圧)と、電流計301により計測される電流値とから電極間の抵抗値が検出できる。このような構成を備えることにより、低抵抗計30では低抵抗の電極抵抗81を精度良く検出できるものである。該低抵抗計30としては、4端子法を用いた装置が好適に用いられる。
【0043】
次いで、第2実施形態に係る電極の異常診断方法の具体的手順を以下に示す。
図7は、本発明の第2実施形態に係る異常診断方法の手順を示すフローチャート(I)である。このフローチャート(I)は、抵抗診断工程を行った後、超音波診断工程を行うものである。
最初に、低抵抗計30の測定端子31、32を炉内のメタル層31(炉底電極8上端面)と、炉底電極8の下端面に接続し、該低抵抗計30により炉底電極8の抵抗値を検出する(S11)。低抵抗計30により検出した抵抗値は、演算装置20のメモリに随時記憶させるようにする。この抵抗値を、前回計測した際の抵抗値と比較し(S12)、同じ値であれば電極に異常がないものと判定する(S13)。計測した抵抗値が前回の抵抗値よりも小さい場合は、炉底電極8が損耗していると判定する(S14)。これは、炉底電極8が損耗して短くなると電極抵抗値が低減するためである。
【0044】
計測した抵抗値が前回の抵抗値よりも大きい場合は、炉底電極8に折損又は亀裂からなる内部欠陥が存在すると判定する(S15)。これは、炉底電極8に内部欠陥が存在すると抵抗値が増大するためである。
さらに、炉底電極8が損耗している場合及び内部欠陥がある場合には、低抵抗計30の測定端子31、32を取り外して、波形計測器10の探触子11を炉底電極8の下端面に配置し、低周波横波超音波を用いて第1実施形態に記載した手順により電極長さを検出する(S16)。
炉底電極8が損耗している場合、検出された電極長さから電極9の損耗量が求められる(S17)。炉底電極8に内部欠陥が存在する場合、検出された電極長さが電極下端面からの欠陥位置となる(S18)。
尚、上記した異常診断装置及び方法において、低抵抗計30による抵抗診断工程のみを行う構成としてもよい。この場合、低周波横波超音波による電極長さ計測(S16)以降の工程を省く。
【0045】
図8は、本発明の第2実施形態に係る別の異常診断方法の手順を示すフローチャート(II)である。このフローチャート(II)は、超音波診断工程を行った後、抵抗診断工程を行うものである。
最初に、波形計測器10の探触子11を炉底電極8の下端面に配置し、低周波横波超音波を用いて第1実施形態に記載した手順により電極長さを検出する(S21)。検出された電極長さは演算装置20のメモリに随時記憶させる。
そして、検出された電極長さを、メモリに記憶された前回の電極長さ又は予め求めておいた元の電極長さと比較し(S22)、検出された電極長さが前回の電極長さ又は元の電極長さと同じ場合には、電極異常なしと判定する(S23)。
【0046】
一方、検出された電極長さが前回の電極長さ又は元の電極長さよりも短い場合は、損耗又は内部欠陥により電極に異常が発生したと判定する(S24)。
そして、炉底電極8から探触子11を取り外し、該炉底電極8に測定端子31、32を設置する。低抵抗計30により炉底電極8の抵抗値を計測し(S25)、計測された抵抗値を、演算装置20のメモリに記憶されている前回の抵抗値と比較し(S26)、計測した抵抗値が前回の抵抗値よりも大きい場合には、電極異常の原因が内部欠陥であると特定し(S27)、計測した抵抗値が前回の抵抗値よりも小さい場合には、電極異常の原因が損耗であると特定する(S28)。電極異常の原因が内部欠陥である場合には、低周波横波超音波により検出された電極長さは、電極底面からの欠陥位置となる。電極異常の原因が損耗である場合には、低周波横波超音波により検出された電極長さから損耗量が求められる。
【0047】
かかる第2実施形態によれば、低周波横波超音波による電極長さの検出と、低抵抗計30による抵抗値の計測を組み合わせて用いることにより、炉底電極8の異常を早期に精度良く検出することが可能であるとともに、その異常の原因を正確に特定することができ、異常の原因に応じて適切な処置を施すことが可能となる。例えば、電極異常が損耗による場合、電極長さに応じて電極8の交換作業を行う。一方、電極異常が内部欠陥による場合は、その欠陥位置に応じて電極8の交換作業を行う。このとき欠陥位置が電極8の下方側(炉外側)にある場合には電極8を交換することが好ましい。
【0048】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態では、低抵抗計30(30a、30b)を備えた異常診断装置100により炉底電極8の冷却不良を検出する構成を備えている。一般に、炉底電極8は、電極に接触配置され該電極を冷却する冷却手段を備えている。しかし、冷却手段による炉底電極8の冷却が不十分であると炉底電極8が水や塩素により酸化する。これにより炉底電極8と冷却手段との間で接触不良が生じ、さらに炉底電極8の温度が上昇してしまい、炉底電極8が損傷してしまう。そこで本第3実施形態では、炉底電極8の冷却不良を早期に検出し、炉底電極8の損傷を未然に防止する構成を備えている。
【0049】
図11は本発明の第3実施形態に係る異常診断装置を備えた溶融炉(底部)の断面図、
図12は
図11の炉底電極部分を示す要部拡大図である。尚、第3実施形態において、上記した第1実施形態及び第2実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
図11に示すように、溶融炉の炉底4には炉底電極8が配設されており、該炉底電極8はクランプ34a、34bで挟み込まれている。これらのクランプ34a、34bと、炉底電極8には夫々電源ケーブル37の端子33が接続され、該電源ケーブル37は低抵抗計30に接続されている。低抵抗計30は
図6と同一の装置である。
【0050】
前記クランプ34a、34bは、電源ケーブル37から炉底電極8に電流を流すためのもので、実際のプラズマ電流流路は、電源ケーブル37、端子33、クランプ34a又は34b、炉底電極8の順となっている。さらに前記クランプ34a、34b内には冷却水38が流れており、該クランプ34a、34bを冷却することにより、これに接触している炉底電極8を冷却するようになっている。炉底電極8は、水蒸気酸化が生じる450℃以上の温度にならないように冷却される必要がある。具体的には、
図12に示すように、低抵抗計30aから延出される一方の端子33a1が一側のクランプ34aに接続され、他方の端子33a2が炉底電極8に接続され、炉底電極8とクランプ34aの間の接触抵抗を計測し、低抵抗計30bから延出される一方の端子33b1が他側のクランプ34bに接続され、他方の端子33b2が炉底電極8に接続され、炉底電極8とクランプ34bの間の接触抵抗を計測し、2つの低抵抗計30a、30bにより炉底電極8の冷却不良を検出するようになっている。
【0051】
炉底電極8の冷却状態と、炉底電極8とクランプ34a、34b間の抵抗値は以下の関係にある。
炉底電極8とクランプ34a、34bの間の接触抵抗が低いと、該炉底電極8とクランプ34a、34bの接触状態が良好であり、クランプ34a、34b内に通流する冷却水38により炉底電極8がよく冷却される。
一方、炉底電極8とクランプ34a、34bの間の接触抵抗が高いと、該炉底電極8とクランプ34a、34bの接触状態が悪く、炉底電極8が冷却され難くなる。
【0052】
また、熱と電気の類似例として、熱流速と電流密度は同様の考え方で扱うことができる。
(1)熱流速の式(フーリエの法則の式)
q=α×ΔT
(q:熱流速[W/m
2]、α:熱伝導率[W/m
2・k]、T:温度[k])
(2)電流密度の式(オームの法則の式)
J=σ×E
(J:電流密度[A/m
2]、σ:抵抗率の逆数(=1/ρ)[1/Ω・m]、E:電場[V/m])
従って、炉底電極8とクランプ34a、34bの接触抵抗値により炉底電極8の冷却状態を判断することが可能である。
【0053】
異常診断装置100が備える演算装置20には、低抵抗計30(30a、30b)にて検出された炉底電極8とクランプ34a、34bの間の接触抵抗値に基づいて、冷却不良を判断する抵抗診断部(図示略)を備えている。該抵抗診断部では、前記接触抵抗値が所定の抵抗値よりも大である場合に、冷却不良が発生したと判断する。
このように第3実施形態によれば、低抵抗計30を設けることにより炉底電極8とクランプ34a、34bの間の接触抵抗値を高精度に測定可能で、この抵抗値に基づいて炉底電極8の冷却不良を早期に検出し、炉底電極8の高温化による酸化を防ぎ、延いては炉底電極8の損傷を未然に防止することが可能となる。
また、上記した構成は、第1実施形態及び第2実施形態と組み合わせて用いることもできる。これにより、炉底電極8の冷却不良による損傷を未然に防止可能であるとともに、異常が発生した場合においても早期に検出可能であり、円滑な電気炉の運転が可能となる。